BanG_Dream! Lover SS   作:本醸醤油味の黒豆

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花園ランド開園


【花園たえ】キミとビビビなプレリュード

 目を閉じる。そこに景色が浮かぶ。

 ──歓声、熱気、余韻。汗をかいた仲間たち。上がる息すらも忘れる程の悦び。手には相棒(ギター)があって、隣のMCをじっと聴く。ああもう終わりなんだ。終わりたくない。そんな未練、寂寥とセンチメンタル。

 

「……これが最後です、か」

 

 目を開ける。その景色はひどくつまらないものだった。

 何も無い。埃が窓の光を浴びてキラキラしているけれど、そこには熱気も歓声もない。汗もかかなければ呼吸もフラット。狭い部屋に独り、いるのは相棒(ギター)だけ。

 ──俺の青春は、ここにはない。もう、どこにも無いんだ。

 

「はぁ……虚しい」

 

 ここにはかつてあったハズの音と笑い声を俺は一度も聞いたことがないまま、大学に入学してからもう三ヶ月、もうすぐ四ヶ月になろうとしていた。

 軽音サークルは数人の幽霊部員しかいない。毎日来るのは……というかそもそも部室にやってくるのが俺だけ。

 

「最後に弾いて、帰ろ」

 

 そして明日からは俺も幽霊部員の仲間入りだ。そんなことを思いながら弦を鳴らす。

 寂しくて、悲しくて、それを無理やり封じ込めて空元気のままアップテンポ。どうせ観客もいないからね。

 

「あれ」

 

 独りよがりで何もかもを投げ捨てるような演奏、そんなことをしてる時に限って、部室のドアが開いて、そこから物凄い美人さんがやってきた。白くてスラっとしていて、黒髪ロングが素敵で、宝石みたいに透き通った指と瞳をしているヒト。誰だろう、サークルの部員さん?

 

「キミ、誰? 不法侵入?」

 

 演奏を止めたところで、背中のギターを下ろしながら宝石みたいな目を細めてきた。ええー、なんで不審者前提なの? おかしくない? 普通に部員かなって考えるのが自然じゃない? 

 

「……ええっと、部員、なんですけど」

「部員? なんの?」

「えっと……軽音の」

 

 そうやって言うと彼女は首をコテンと捻った。なんていうかおかしなヒトなんだなって思うよね。

 なんだな雰囲気というか、とにかく生きてる世界が違うような感じ。

 ──それでもゆっくりと俺の言葉を咀嚼したらしい彼女は、やがて難しい顔で呟いた。

 

「軽音サークル……そんなのあるんだ」

「え、部員じゃないんですか?」

「全然、私サークル入ってないし」

 

 不法侵入はまさかのそっちだったの? 急展開だ。当の本人は何を思ったか、うーんと首を捻ったまま周囲を見渡して、それから俺の方をじっと見た。じいっと見て、見て、何十秒もたっぷり見て、彼女はストンと近くの椅子に座った。

 

「アンコール」

「はぁ?」

「アンコール、もう一曲聴きたい」

「いや、なんで」

「誰かが聴いてた方が嬉しい」

 

 決めつけられた。でも、否定できるような言葉じゃないよね。実際に今はつまらないと感じてたわけだし。あんまりソロは得意じゃないけど、と無駄に前置きをしながら俺はギターを構えなおす。

 人前で演奏するってこんな緊張するもんだっけ。自然と心臓が早鐘を打ちだす。そんな緊張感の中、俺は俺ができる精いっぱいを奏でた。ミスもしたし、聞き苦しい演奏だったと思う。だけど、そのヒトはじいっと静かに聴いてくれたばかりか、終わった後に拍手までしてくれた。

 

「うん、やっぱり楽しそう」

「……そうだね。楽しい」

 

 やっぱり、俺はこうやってギターを誰かに聴かせるのが好きだ。でも、仲間がいなくて狭い部屋にたった一人押し込められて、窮屈な演奏しかできてなかった。

 そんなのは、楽しくなんてない。ただ闇雲に雑音を放つだけの、醜悪な独り善がりだ。

 

「……キミは」

「ん?」

「キミは、どうして独りぼっちになってまで、ギターを弾くの?」

 

 やがて、彼女はそうやって少しだけ下を見ながらそう問いかけてきた。何かに期待するような問いかけだけど、そんなの決まってる。

 あなたが今、ギターを持ってる理由と同じだから。

 

「好きだから」

「……好き」

「ギターが好き、音楽が好き。別に誰かに強要されたわけでもなくて、ただ好きだから」

 

 理由なんて単純、至ってシンプル。俺が相棒(ギター)に魅せられたってだけ。独りぼっちでも誰かがいても関係ない。そういう意図を込めた言葉に、彼女は宝石みたいな丸い目をゆっくり閉じて、それから開いた。透き通っていて吸い込まれそうな彩をしてる。

 神秘的なエメラルド。エメラルドって、そういえばすごく希少な宝石なんだっけ、なんてどうでもいい知識が頭をよぎった。

 

「私も好き」

「え……っ」

 

 まっすぐそんなことを言われて、俺はドキっと心臓が跳ねるのを自覚した。表情を変えずに、ただまっすぐに。

 そうしてから、続きは特に何も言わずにケースからギターを取り出した。青いギター。きっと彼女の相棒なんだろうなってわかるくらいにその構える姿はしっくりきた。

 

「ふふ、今日はいい音が出せそう」

 

 チューニングをしてアンプに繋ぐ。キレイな指が音楽を奏でる準備をしていく。

 うん、と頷いて弦を弾く。透き通った歌声と、少しだけ寂しそうな静かな、ギターと同じ海の色のような青い音色。このヒトは、何があってここに流れ着いたんだろう。

 ──小さな頃から一緒だったギター。独りでいるのが当たり前だった世界。そんな世界にある日突然、星が落ちてきた。

 うん、伝わる。目を閉じるとまるでギターが、彼女の歌が、自分の物語を奏でてくれてる。そこで静かな音色は一旦の静寂を生み……弾けた。

 今度は高らかに、そして激しく、黄色い音色を周囲に弾ませていく。そこには、彼女の出逢いが込められているようだった。

 赤と、紫と、ピンクと、黄色と。青色だった音に彩りが加えられていく。衝撃と情熱と夢、理性と裏腹、愛らしさと芯の強さ、安定と冒険。ただギターを弾くだけだった彼女の人生は、きっと沢山の色に包まれて、カラフルな星になったんだ。

 ──そしてその星たちは未だ輝き続けてる。そんな優しい締めくくり。

 

「……どう?」

「えっと……曲の、タイトルは?」

「う~ん、なんだろ……私、かな?」

 

 やっぱり、即興だったんだ。ロックでもポップでもあり、尚且つクラシックも嗜んでるだろうその技術に俺は、驚くことしかできなかった。もしかしてプロのヒトかなと思うくらいだ。

 俺だってステージで演奏し、ソロで拍手をもらえるくらいの技量があるって経験もあるし、自信もある。でも、それを彼女はあっさり……しかも、十八番でもない即興の演奏で上回ってきた。すごすぎる。

 

「独りも、つまんなくないけど……誰かと一緒の方がもっと楽しいよ」

 

 少なくとも私はそう思った、と彼女は透き通る目を細めて笑った。わ、笑う顔初めて見たけど、美人だからすごい画になるよね。そんな風に見惚れていると、彼女はどうしたの? と首を傾げてきた。

 

「い、いや……えっと、あ、まだ自己紹介、してなかった……よね」

「……そうだった。キミ、誰?」

 

 いや一番最初に戻るのやめてほしい、と思いながら今度は自己紹介をする。彼女はこれはご丁寧にどうも、なんておどけた……のかどうかわからないくらい真顔を崩さずに頭を下げてきた。

 

「そう、私は花園たえ。一応、ここの二年生だよ」

「うえ、先輩だった……んですか?」

 

 思わず変な声が出た。なんとなーく年上かなとは思ってたけど、まさかフツーに先輩だった。というか先輩なのにここのサークルの存在知らなかったんですか、マジで? 

 このヒト普段何考えて生きてるんだろう、たぶんギターを弾くことばっかりだ。

 

「それじゃあ、私はもう行くね」

「行く? 帰らないといけない用事があるんですか?」

 

 少し焦った口調になって、俺は慌てて立ち上がった。もう少し話していたい。花園先輩のギターを聴いて、このヒトに演奏を聴いていてほしい。そんな感情のままの問いかけに、彼女は両手を頭の上にあげてみせた。

 

「ウサギたちが待ってるから」

「う、さぎ?」

「そう、見る? いっぱいいるんだ、ほら」

 

 近づいてきてスマホを見せると、彼女とその彼女に抱えられているウサギ、オッドアイのウサギと、その周囲に沢山のウサギがいた。大家族ですね、と笑うとふふ、と自慢げに微笑む先輩は非常にかわいかった。

 

「そうだ、キミも来てよ」

「……きて?」

「そう、私の家」

「はい!?」

 

 そう言われて、強引に腕を引かれる。慌ててギターを纏めて有無を言わせない先輩について行くことにした。というかやっぱり拒否権ないし。

 ──いや、違うな。拒否権なくても強引に手を払えばよかったんだ。でも、払わなかった。俺は、このヒトと一緒にいたいって思ったんだ。

 

「好きです」

「うん、だと思った」

 

 ああ、ストンと腑に落ちた。最後にしようと思ってた日に現れた彼女は、俺の言葉にまた笑った。ちょっと勘違いしている気がするけど。

 ウサギでも、ギターでもなくて、俺はこの先輩という人間に惹かれたんだ。これは、何て言うんだろうか。

 

「前奏曲」

「え?」

「まるでプレリュードだ」

 

 プレリュード……そうだ。これは始まりなんだ。

 無くなったと思ったら、新しい青春が転がり込んできた。花園先輩は、俺にとっての流星だ。先輩がかつて出会った星と同じ、衝撃の出会いだった。

 

「シビれた。ビビビってきたからキミとは、仲良くなれそう」

 

 ビビビって、俺もきました。手を引かれて、俺はこれからの未来に明るいものを見た気がした。

 だから、俺が手を握り返してみると、意外なことに先輩は驚いたような表情をした。

 

「え?」

「仲良くなりましょう、俺、ギターも教わりたいし、先輩の家にも行ってみたいです! 俺、もっともっと上手くなりたい、上手くなって、先輩をもっとシビれさせたいです!」

「……うん、期待してる」

 

 頬を少し染めて、今までにないくらいの微笑みを向けた先輩。その瞳は何を期待してくれてるのかな。透き通ったエメラルドは、まだ俺になんの明晰さを与えてはくれないけど。

 このヒトの独特のテンポが好きだ。その瞳が好きだ。そのキレイな指が好きだ。花園たえ先輩が……俺は。

 

「キミは、あれだ……変態だね」

「変態……」

「うん、真っ赤なランダムスター、って感じ」

「……えっと?」

 

 今度はまた違った、即興か何かのオリジナルのメロディーを口ずさみ始める。なに、なにか俺変態発言したっけ? 

 そう思ったけど、先輩は物凄く機嫌がいい。発言がどうであれ、不快ではなかったようで。とりあえず、自分が特殊な人間だと彼女に認識されたっぽい。ううん、俺は変形ギターみたいなおかしいヤツなのか。

 沈んでいたらまた笑われて、その度にもっともっと、彼女のことを知りたいと思えた。いつか、このヒトの言葉の全ての意味がわかるような男になれたら、いいな、なんてね。

 

 




花園ランド閉園

花園語はやや難解ですがここでは敢えてその難解という気持ちを味わってほしいがために主人公くんの一人称にして説明を省きました。一体おたえが何を考えて何をどう発言しているのか、考えてみてあげてください。作者が喜んで執筆速度が上がります。
補足するとこの花園は性格破綻者ではなく真人間です。ちょっと常識とかいろいろ抜けてるだけ。

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