マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない 作:むぎすけどん
「えー、ですから、皆さんも良くご存じのように...」
どことなく、オネェっぽい校長先生がねっとりした口調で、広いホールのステージで全校生徒に向かって喋っている。
「うふふっ、縦ロールの校長って、なかなかいないわよね~」とラビィちゃんと一緒に感心していると、突然、頭の芯が、ぐるんぐるんと揺さぶられる感覚に襲われた。
「
生まれてこの方、16年、公爵令嬢やってるけれども、こんな経験ははじめてだ。
全身をうねるような竜巻がかけぬけてゆく。
ラビィちゃんも「どうしたの?」と心配そうな顔で私を見ている。
ぐわんぐわんと両手足が震える。
それに合わせてラビィちゃんもぶるぶる震えていた。
しばらくして、奇妙な感覚が収まり、完全に開放された時、私はここが前世で私の知っている乙女ゲームの世界だということに気が付いた。
「え!これって『
おもわず叫びそうになったが、今日は名門「ローゼンシュトルツ高等学園」の厳粛な入学式。
『あれ、今、わたし、
確か、私は社会人2年目のしがないIT会社のOLだったはずだ。
ふと、手元に持っているウサギのぬいぐるみを見つける。
私はこれをさっきまで「ラヴィちゃん」と呼んでいた。
背筋に大粒の汗が流れ、顔が真っ青になる。
「いやあぁぁぁ!」(心の中で叫んでます)
『よりによって、マリーン!!? 私ってば、悪役令嬢に転生したってこと!?』
絶望が私を襲った。
私は史上最悪の悪役令嬢に転生してしまったのだ。
マリーン・フロイライン・カーレンベルグ。
いわずもがな、乙女ゲーム歴史界に
ヒロインと攻略対象キャラのデートをことごとく邪魔し、エンディング直前で攻略対象キャラに
それだけなら、まだしも、ゲームの続編では、親が、国の内乱時に暗躍し、ヒロインの告発によってそれが発覚した後は、一家ともども財産没収され没落に処せられるのだ(ヒドイ)。
1ゲーマーの視点からいえば、今まで彼女に煮え湯を飲ませれていた分、「ざまぁ」なのだが、本人に転生してしまった身からすればたまらない。
没落エンドを阻止しなければ、待っている先は不幸である。
財産がゼロになり、路頭に迷った元貴族令嬢に待ち受ける運命はみじめなものだろう。
正直、攻略対象者と結ばれようがしなかろうが、どうでもいい。
一家の悲劇を防ぐためにどうしたらいいか、そればかりを考えていた。
そう一人であれよこれよと考えている最中にも、校長先生の話は続いている。
ゲーム本編でもヒロインが言ってたけど、本当に長いあいさつである。
「王は国民の象徴であり、実際の国の運営は、各地から集められた優秀な5人のシュトラールで行っていますが....」
ゲームプレイ時には何とも思わなかったが、なんていびつな政治形態なのだろうか、とマリーンは思う。
『シュトラール』たちは「家柄が良く」、「成績優秀」であり、「美しい男子」の中からクーヘン聖教の僧によって特別に選出される。それらのものがいずれ国政のすべての運営を担っていくことになるのだ。
女からちやほやされ、恵まれた環境で育ったお坊ちゃまたちが国の全権を握っている状態。
当然、シュトラールらの独善的な考えにより国の決定がなされていくことになる。
このゲームの続編では、武器の横流しなどに対する犯罪が『ヒロインの証言』のみに
よりスピーディに裁かれ、王に次ぐ公爵家の者でさえ、一夜にして、全財産を失った。
これはこの特殊な政治体制が可能にしているともいえる。
証拠不十分であろうとも、シュトラールがシロといえばシロ、クロといえばクロということである。
シュトラールであれば、将来の国のトップであり、絶対的権力者であるから、誰も逆らえない。
この学園であれば、なおさら彼らがルールである。
彼らの感情を害したり、逆らえば、一族もろとも社会的制裁にあう。
特に今年は例年と異なり、シュトラール最大数である5人が同学年で選出された。
これは危険だ。
5人のうち誰が何の引き金になるかわからない。
学園で彼らと共同生活を送ることになる生徒たちは今、戦々恐々としている。
入学式の前に、シュトラールを見た女子生徒らが黄色い声援を送っているのを見た。
憧れや恋愛感情もあるのかもしれないが、中には彼らの機嫌を損ねないようにと防衛行為として行っている者も一定数いるのではないかと思う。
実際、マリーンの記憶を見れば、シュトラールに対し『不敬行為』を行ったとされる一族が処罰されて離散する事件が数年に何回かは起こっていた。
これはゲームをやってた頃の知識ではわからなかったことだ。
私と私の家族はこの学園で生き残れるのだろうか。
ゲーム内では生き残った。
シュトラールに対し、
しかし、前世の記憶が戻った今、果たしてゲーム内でマリーンがしてきた綱渡り行為が再現できるか疑問だ。
それに
続編の冒頭ではマリーンは攻略対象の誰ともくっついていないルートのため、その可能性はけっこう濃厚だと思う。
今の学園は独裁国家にいるよりもよっぽど恐ろしい状況なのではないだろうか。
「独裁、....ね。」
乙女ゲームの世界といえども、1935年のヨーロッパにあるクーヘンという架空の島国が舞台である。
状況は多少違えども前世の世界で起こった歴史をある程度忠実になぞっている。
例えば、現在、隣国とされるドイツではすでに労働者党が国の中枢を乗っ取り、ヒトラーによる独裁制がまさに始まっている。
しかし、それでも、国民の選挙によって選出され、民主的なワイマール憲法が下地に残ってのことだから、この国よりずいぶんマシな気がする。
いっそ、ドイツに亡命するか、ナチスと繋がっているとされる攻略対象者のルードヴィッヒと手を組んだ方が私にはいいのかもしれない。
あぁ、でも、それもダメか! やつだって結局はシュトラールには違いない。今の時点でナチスと繋がっているのだって、いずれはナチスを
ドイツ亡命だって実は安全ではない。今の時勢、ユダヤ人でなくても、優生保護法に引っかかったり、ことによってはアウシュヴィッツに連行されることもあるかもしれない。ましては、属国に近いクーヘン国からの亡命者には差別があり、本国ドイツ人のような優遇を受けることは期待できないだろう。公爵家の令嬢であっても不安だ。
それに、日本のように空襲で焼け野原にならないまでも、数年後には第二次世界大戦がはじまってしまう。
そして、ドイツは敗戦国家となる。
亡命する国には適さないだろう。
さて、どうしたものか...
そう、つらつらと思考の渦に飲まれているうちに、入学式は終わり、隣の女子生徒に肩を叩かれていた。
「ちょっと、あなた、失礼でないの?さっきから、私が挨拶しているのに、無視して!」
「ああ、ごめんなさい。校長の話、長かったし、ちょっとボーとしてて。」
「ふふっ、いいのよ。可愛いウサギちゃんを持ってるわね。貴方のこと、式の間、気になっていたのよ。私はヴェルヘミーネよ。よろしくね」
「ああ、大財閥ユーリヒ家の、って、え!」
私は固まった。
金髪の美少女のその子こそ私の取り巻きになり、私とともに没落の運命をたどるかもしれないヴェルヘミーネ・ユーリヒその人だったのだ。