マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

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ヴィルヘルムの理由

「ヴィルが部屋に閉じこもってるだって!?」

オーガスタが驚きながら、夫人にたずねる。

 

ヴィルはたしかに引っ込み思案なところがあったが、照れながらも、私にきちんと挨拶するし、引き()もりというタイプではないはずだ。

 

「そうなの。

あなたがローゼンシュトルツに行ってから、一週間ぐらい経った頃のことだったかしら。

急に部屋から出てこなくなって...

...ひょっとして、お姉さんがいないから、あの子寂しくなったんじゃないかしら。

ねぇ、オーガスタ、あなたから話してくれない?

私が聞いても、あの子、何も話してくれないのっ。

うううぅ…」

 

夫人が嗚咽(おえつ)を漏らす。

いつの時代も、母親の涙には何かウルッとしてしまうものがある。

 

「とにかく行ってみよう。マリーンも、来て。」

オーガスタがちょっと強引に私の手をとって、ホールの階段をのぼる。

…私も行こうと思ってたから別にいいけどさ。

 

ふと、階段上の右奥の部屋に明かりがついているのに、私は気付いた。

「ねぇ、オーガスタ。あの部屋って使われてなかったんじゃないの?」

 

「ああ、アイザックだろう。

お兄様の友人だよ。

...そういえば、マリーンは会ったことがなかったか。」

 

あの男がこの家にいるのか!

とんでもない話だ。

マリーンは怒りに身体を震わせた。

 

ヴィルヘルムの部屋の前につくと、

「この先、許可なきものの立ち入りを禁じる」

と子供らしい字で札に書いてある。

 

思わず、私はクスリと笑うが、オーガスタに睨まれてしまった。

 

シーマせんっしたっ!

だってさぁ、ちょっと可愛いじゃん、こういうの。

 

札に構わず、オーガスタはゴンゴンゴンとドアを叩く。

 

ちょっ!そんなに強くやらなくても...

 

「ヴィルヘルム! 私よ。

姉さんが帰って来たのよ。

早くここを開けなさい。」

 

おおっ、ド直球だ。

引き篭もりの弟に対して容赦ねー。

さすが姐さん、センシティブさのカケラねーわ。

そこに痺れる、憧れるゥ!!

 

「放っといてくれよ、姉さん。」

と中からくぐもった声が聞こえる。

やはり、反抗期か?

 

「開けなさい!

ヴィルヘルム・ヴォルヘンビッテル!!

マリーンも来てるのよ!!」

 

「えっ?マリーンが!?」

 

その途端、ドアがちょっと開いて、何か中の人と目があったな、と思うと、

私の手が掴まれ、身体ごと強引に中の部屋へと引き込まれる。

「えっ!ちょっ!!」

ガチャンと扉が再び閉まる。

 

私は予想外のことに対応できず、顔からビターンと床に倒れてこんでしまった。

 

…うん、こういうところ、姉弟でソックリだよ。

 

「うっ、ごめん。」

ヴィルヘルムが心配そうに私を覗き込む。

 

「まさか、マリーンが来てるとは思わなかったんだ。」

 

え、扉の前のお姉さん、放置ですか?

実の弟にガン無視されるの辛いだろうなー。

さすがに可哀想…。

 

ゴンゴンゴンっと激しくドアが打ち付けられる中、ヴィルはチッと舌打ちをする。

「姉さんには理解できないよ、うちの状況は。

マリーン、君なら気がついたんじゃないだろうか。

階段の右奥の部屋のこと」

 

あっ。

 

私も察してしまった。

ヴィルは知ってしまったのか。

あの男の素性を。

 

「英国のスパイが、自分の家に潜んでいて、

クーヘン国を()ぎまわっているっていったら、

流石にいい気はしないものね。」

 

ヴィルは目を丸くしていた。

 

「マリーンはそんなことまでわかるのか...ハハッ、やっぱり(かな)わないな。

僕なんか、つい最近気付いたばかりなんだ。

兄さんが、昔から懇意(こんい)に付き合っていた作家気取りの胡散臭い男が、

まさか、英国の工作員だったとは...

兄さんは国を売り渡すつもりなのか!?」

 

そうよねー、やっぱり、そう思うよね。

私もこれはマズいと思うのよね。

というか、マリーンとしては許せない。

 

将来、国の運営を一手に引き受け、絶対的権力を握るシュトラールが、

あまつさえ、外国のスパイと仲良くし、諜報活動に協力しているという現実。

 

はあぁ、何で、シュトラールって、こうロクでもないやつばかりが選ばれるのかしら。

やっぱり、顔で選んでるのが一番イケナイんだと思うのよね。

 

シュトラールの選任を与えるドルイド僧って巫女が担当してるんだけど、

昔から自分の好きな顔のタイプで選んでるだけじゃないか、って噂が絶えないのよね。

そう考えると、今の、政治形態のイビツさを招いているのは、所詮、女なのかもしれないわ。

 

そんなわけで、私はヴィルと、アイザックをこの家から追い出す方策を話しあった。

...といっても、おそらくは、何のヒネリもない、真っ向勝負になると思うんだけどね。

 

そして、ヴィルは、私がいるなら、と部屋から出てきてくれた。

オーガスタには「どんな魔法を使ったんだ。」と驚かれ、夫人からは、すごく感謝された。

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