マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない 作:むぎすけどん
ヴェルヘルミーネ・ユーリヒ。
この国有数の財閥、ユーリヒ家のご令嬢である。
前世がよみがえる前のマリーンの記憶でも彼女の名前は、社交界の常識として知っていた。
…、というか、彼女は、どちらかというと、悪い意味で目立っていた。
親が一代で財を築いた、いわゆる『成金』の一家であるため、経済界での影響以上に、伝統を重んじるクーヘン社交界の中では、一族は軽視されていて、その美貌と社交性にも関わらず、パーティーの中では孤立している状態であった。
…にも関わらず、彼女は、クーヘン王国で行われる、ほとんど全ての社交イベントに姿を現した。
当然、この国の貴族たちの中では口さがない嘲笑と噂話の対象となり、つまはずきにされていた。
思えば、彼女は財閥の商売上のネックであった貴族とのつながりを求め、一家の一人娘として必死に行動していたのだろう。
記憶が戻る前のマリーンはもちろん彼女と話したことがない。
「え、っと、なんか、固まっちゃった?…ごめんね、大財閥家だからって、気にすることないんだけどな….。」
ふと、気が付くと、金髪美少女が困ったように眉をハの形にして、立ちすくんでいた。
こんな超絶美少女を困らせては、女がすたるってもんだ。
「あ、ごめんなさい。私、マリーン。マリーン・カーレンベルクと申します。以後、よろしくお願いしますね。」
華麗に貴族式のカーテシーを行う。
「!カーレンベルク!!公爵様!?」
超絶美少女は目を白黒させ、今度は顔を蒼白にする。
まぁ、そうなるよね。私、箱入りワガママ娘だし、デビュタントとか、最低限の催しだけで、クーヘン社交界にはほとんど出入りしてない。
というか、親が極力、出さないようにしていた。
社交界の新入りなら、私の顔は知らなくても当然よね。
でもって、リヒテンシュタイン家をのぞけば、国王の次席の公爵の家系にいるわけだから。財閥の娘といえども私は雲の上の存在。
新進気鋭の財閥にとって、私たち一家は、喉から手が出るほど、関係をつなぎたいところ。
そんな相手に無礼にもフランクに話しかけてしまったのだから、恐縮するのも当然だろう。
ヴェルヘルミーネはすっかり涙目だ。
「あのぅ、ユーリヒ嬢。ここは学園なんだし、同じ校舎で学ぶ同士、身分の差は考えないようにしましょう。原則、ローゼンシュトルツでは貴族も平民の差もない決まりになっています。」
まぁ、実際には明確に存在するし、シュトラール候補生の権力は絶対ではあるんだけどね。
私たち友達の間ではフランクで行きたい。
ゲームの中でもそうだったみたいだし。
「うっ、ぐすん。
マリーンちゃん天使過ぎ...。
...こんな私だけど、友達になってくれないかな。」
期待するようにヴェルヘルミーネは私を見つめる。
「私、あまり同世代の友人いないの。
平民からは財閥令嬢と遠巻きにされるし、
貴族からは、やれ成り上がり財閥だとバカにされるし、…
学園に入って、本当の友達ができるまでっ、て、ずっと辛かったの..」
すんすん、とヴェルヘルミーネが言葉を詰まらせた。
あぁ、すごくわかる。
立場は違うけれど、前世、私もボッチだった。
友達って、なれって言われて、なるもんじゃないけど、
ただでさえ、美少女の涙には破壊力がある。
私は一も二もなく了承した。
「よかった。マリーンちゃん。わたしのことはミンナって呼んでね。」
え!『ミンナ』?
私は少し疑問に思う。
『ヴェルヘルミーネ』がなんで『ミンナ』になるの?
ゲーム上の知識では知ってても、あだ名の付け方としては、少々無理があるような気がする。
普通、『ヴェル』ちゃん、とかではないだろうか。
うーん、この国の名前の略しかたって、そういうものだろうか….
…ハっ! そうか。このあだ名はチートだ。
『ミンナ ナカヨシ』
周囲の好感度を一気に上昇させるコ○ミの裏技の一つである。
そうかー、そうきたか、道理で乙女ゲーのライバルキャラにしては、ハイスペックな容姿だと思ったわ。
「じゃあ、私は『こなみまん』で。」
「へっ…?『こなみまん』って何?」
ミンナは一瞬、
私の口から出たのが、よほど意外な言葉だったのだろう。
次の瞬間、
「ぶくくっ!」
と令嬢らしからぬ吹き出し方をした
「ぶふっふっ! なにそれ、マリーンちゃんとぜんぜん関係ない名前じゃない。どこから来たのっ、ぶくくっ、その『こなみまん』て!? ぶふふっ、もうやめて…マリーンちゃんの口から、こなみまんって、こなみまんてっ!
マ、ふふっ、マリーンちゃんはマリーンちゃんのままでいいんじゃないかな、くすくす。」
『こなみまん』という言葉の破壊力なのか、
さっきまで、この世の終わりとでも言うような泣き顔を見せていた美少女が、今度はこらえきれないように、口をおさえて、笑い続けていた。
ちっ!
全ステータスUPはダメだったか。
考えてみれば、同じコ○ミだし、ゲームのシステムは酷似しているものの、『好きとか嫌いとか』言う例のゲームのやつとは無関係なのかもしれない。
そんなことも混同してたのか、私は。
そ、それでも、諦めるもんか!
転生者として、楽してチートしたいじゃん?
私は上下屈伸を繰り返したり、腕を左右に振ったりした。
いわゆる「コ○ミコマンド」の動きを、自分なりに体で表現してやろうと思ったのである。
これで、わたしも無敵チートになるっ!
しかし、はたから見ると、どう考えても挙動不審者のソレである。
「ふふっ、マリーンちゃんって、噂と違って、面白い人なのね、うふっふっ」
そんな私の様子にツボがはまりだしたのか、ミンナは再び笑い出した。
….解せぬ。