マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

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アイザックという男

「プロージット!」

「プロージット!!」

 

その後、私たちは、ヴォルフェンビュッテル家の夕食会に招かれ、

家族一同と乾杯の音頭をとることになった。

 

なんか、こう、(さかずき)を床に叩きつけたい衝動に駆られるなぁ。

帝国フリークの私としては『ジーク・カイザー!』ってな感じで。

…今はやめとこう。

 

クーヘン産のワインは有名だが、未成年の私たちはグレープジュースで代用する。

クーヘンでの飲酒年齢は日本と同じく20歳(はたち)からなのだ。

 

でも、私、元OLなんだけどなー。

お酒が恋しい…。

 

「へー、お嬢さんが、マリーン・カーレンベルクか。」

いけしゃあしゃあと夕食会に混じっているアイザックがマリーンの目の前に座っている。

 

サー・アイザック・キャヴェンディッシュ。

茶色の分け目ヘアーに無精ヒゲを生やしたイケメン中年である。

雰囲気だけはエ○ァでいうところの加地さんにメガネをかけさせた感じだろうか?

実際に見てみると、そんなに似てないけど…。

 

耽美夢想(たんびむそう)マイネリーベ』においては、シュトラール以外の唯一の攻略対象者である。

説明書にも載っていない隠しキャラで、ヒロインは、2年目の夏休みに、オーガスタの別荘で彼と遭遇することになる。

 

正体は言うまでもなく、英国の工作員であるが、もともと、彼は、イギリスの没落貴族の生まれで、この男に愛国心など、ハナからない。

ただ、家族を養い、貴族としての生活を維持するために、『まっとうな仕事でない』情報機関の仕事を選んだ、とヒロインに語っている。

 

ヒロインは彼の正体を秘密にすることをその場で約束する(この時点でマリーンにとっては、噴飯ものだ)。

彼のルートに行くためには、ヒロインは、学園期間中、英国スパイである彼と手紙の文通をして好感度を上げていくことになる。

その中で、ヒロインは彼の気を引くために、アイザックへの手紙に、『涙の跡』をつけたり、『キスマーク ムチュ~』などの小細工を(ろう)しながら、卒業式でのゴールインを目指していく。

 

ヒロインのこのような外国スパイとの密通行為は、マリーンにしてみれば、国への重大な裏切り行為であり、スパイ共謀罪すら成り立つのではないかと思える。

未来のことではあるのだが、前世で、この事実を知っている私は、友人として、エリカにこのような反逆罪を犯させないように、未然に防がなくてはならないだろう。

 

アイザックの家庭事情はマリーンには、わからないわけではない。

特に、私には『没落貴族』というキーワードにピンポイントで共感を覚える。

しかし、この国を守るためには、こんな(やから)を野放しにしていいわけはない。

 

2年後にはルードヴィッヒによって戦争がしかけられ、たとえ、運よく、それを避けることができたとしても、4年後には、ヨーロッパ中を戦火に巻き込む、第二次世界大戦が待っている。

クーヘンの国力、軍事力などの機密事項が、こうもやすやすと外部にもれ、丸裸にされるのはあまりにも危険だ。

 

それも、クーヘン中枢の政治をにぎる、シュトラール自ら、すすんで情報を与え、協力しているのだから、とんでもない話だ。

アイザック・エンドでは、アイザックは、ローゼンシュトルツ学園の卒業パーティーに乱入し、主人公とダンスを踊ることになる。

そして、国の重要人物が集まり、セキュリティが厳しいはずの学園に英国スパイ・アイザックを入れるために手引きをする人物がいる。

前世で見た、『アニメ版マイネリーベ』によると、その人物こそ、シュトラール候補、ティルク・ヴォルフェンビュッテルその人だということだ。

これ以上の犯罪は、マリーンとして見過ごすわけにはいかない。

 

「キレイな手をしてるよね、アンタ。 

(うらや)ましいね。

公爵令嬢だから、今まで、苦労という苦労も経験してこなかったんだろうなぁ。」

とアイザックがのたまう。

 

「自分だけが苦労している」と思っているアイザックならではの発言だ。

しかも、そんな奔放(ほんぽう)な発言が自分のチョイ悪でワイルドな魅力になっていると思い込んでいるところがあるようだ。

ティルクともどもニヤニヤと顔を合わせて笑っている。

今まで、シュトラールの友人という立場から、誰も彼に何も言えなかったのだろう。

 

しかし、世の中には、たとえ、思っていても、口に出してはいけないことがあるのだ。

ましては、私はこの家の客人。

ちょうどよかった。

非礼には非礼で返すのみ。

 

私はヴィルとアイコンタクトをかわす。

 

「きゃ~~!!」

私は前につんのめったふりをしながら、

グレープジュースの杯をアイザックめがけて盛大にぶっかける。

 

「お、おい!貴様、何するんだ」

 

「ごめんなさぁい!

私って、ホントにドジですぅ!」

…うぅ、久しぶりにこの演技するな。

 

「たいへ~~~ん!アイザック、風邪ひいちゃうわ。

マリーン、困っちゃう。」

 

「僕が脱がそう。」

すかさず、隣にいたヴィルヘルムが強引にアイザックのシャツを脱がせにかかる。

 

うん、このために隣に座ってもらったのよね。

私じゃ非力だし、殿方を脱がせるのはやっぱり外聞(がいぶん)が悪いでしょ?

 

 

「や、やめろ」

一瞬の判断が遅れたアイザックの裸の上半身が衆目(しゅうもく)にさらされる。

 

 

「え!?」

「こ..これは。」

 

アイザックの肩には、刺青(タトゥー)が彫られていた。

そこには、英語で『我祖国に捧ぐ』と書かれている。

 

 

「ちょっと、失礼。」

呆然とするアイザックから、私は、アイザックの胸にかけられていた、銀色のペンダントのようなものをやすやすと奪い取る。

 

これは、いわゆる、認識票。

通称、『ドッグタグ』と呼ばれるもので、主に軍隊において、その構成員を識別するために使われている。

 

この時点で、彼が「売れない作家」というのは大嘘で、どこかの国の軍属の人間だということが明らかになった。

 

ゲーム上のアイテムだけあって、史実のイギリス軍の認識票(円形・プラスチック)ではなく、材質も形も現在のアメリカ軍に近いものではあったが、識別番号の位置はすぐにわかった。

 

「MI6…023。イギリス諜報局のものですね。」

 

MI6は、当時こそ、知る人は少なかったが、

現代では、知らない人のほうが少ないのではないだろうか。

かの有名な007の所属する諜報機関の名称である。

この頃は、戦争省情報部(DMI)が細分化されて新設されたばかりの頃だったはずだ。

ちなみにMI1は暗号解読、MI2は中東、ソ連、MI3は東欧諸国、MI4は地図作成、MI5は防諜を担当していた。

 

「…どういうことか、説明してもらえますか?

ヴォルフェンビュッテン子爵。」

静かに私が言い放つ。

 

「ヒ、ヒイィィ…!」

ヴォルフェンビュッテン子爵はあまりのことに気が動転している。

 

当然だろう。

知らなかったとはいえ、外国人スパイを逗留し、寝食を与え、保護していたのだ。

国家反逆罪として取られても仕方がないだろう。

 

ティルクがこちらを(にら)んでくる。

やれやれ、自分の状況がまだ呑み込めてないようだ。

 

「このことは、私から、お父様に報告させてもらいます。

…ティルク。 あなたのシュトラール任命はおそらくなかったものとされるでしょうね。」

 

とたん、ティルクの顔が蒼白になった。

 

今頃、自分のしでかしたことに、気付くとは…。

結局、自分のことだけなんだよなぁ、この人。

将来のシュトラールがこんなやつじゃなくて、本当に良かったわ。

 

結局、私のとりなしで、ヴォルフェンビュッテル家の取り(つぶ)しはなし、

ティルクのシュトラール内定は取り消しの上、現在行っている補佐の役職も懲戒解雇。

アイザックは捕縛の上、英国政府へ引き渡しという運びとなった。

 

なんかさー、休暇中なのに、私、手紙書いたり、書類作ったりして、あまり休めてないよね。

そもそも、これって、私の仕事?…中間管理職になった気分なんだけど。

 

…うん、明日こそ、気を取り直して、ミンナ達と遊びに行くんだー!

おー!!

 

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