マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

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耽美って何ソレ美味しいの?

「わー、すごーい!」

「…壮観だわ」

 

今、私たちは(いにしえ)から風光明媚(ふうこうめいび)の観光スポットで知られる、ファイゲ北部の丘陵(きゅうりょう)地帯に来ている。

 

少し見晴らしの良い場所から見える、風車(ぐん)が私たちを圧倒する。

 

学園都市にも、確かに風車はあるが、主に粉ひきなどの農業目的に使用されているものだ。

どちらかというと、中世から見られるような、牧歌的なものに形は近い。

 

しかし、ファイゲの風車群は、この当時では珍しい、風力発電に利用されるものだ。

なんと、クーヘン国内で使用される電力の半分を供給している、という。

 

風車・・といえば、まず最初にオランダが思い浮かぶかもしれないが、1930年代、風車で知られるオランダでさえも、風力発電の技術は発展していなかった。

風力発電の最初の発案はデンマークのラクールだが、電力供給の大きい交流発電を行う火力発電が行われるようになってからは、デンマークでの風力発電は下火になっていた。

大型風車の開発の最先端はむしろ、東の共産大国、ソヴィエト連邦にあり、1931年にヤルタ沖に建設されたWIME D-30は、1時間あたり100kw近くの電力を供給した。

 

ファイゲの電力風車はソ連製のものに改良を加え、ファイゲの景観に合うようなスマートな造りになっている。

そのため、ファイゲの風車地帯は新たな観光スポットになりつつあり、さらには近年では各国の電力担当の大臣らがわざわざモデルケースとして、この地に視察に来るほどなのだという。

 

、といったよう説明を先ほどからヴィルヘルムから聞かされてるんだけど、

 

….この子、本当に11歳なのかしら?

賢いなーとは思ってたけど、ソ連製がどうとか、調速装置がどうとか、電気分解の効率性とか生き生きと語りだしちゃった時はさすがにどうかと思ったわよ。

いるのよねー、普段、おとなしいのに自分の興味のあることになると急に早口にしゃべりだす子。

さすがのミンナも引いてたなー。

でも、この知識量だったら、今からでもローゼンシュトルツに入学できちゃうんじゃないかしら?

この子が入れば、少なくとも科学研究部はまともになりそうよね。

 

ちなみに、オーガスタは今日、私たちと同行していない。

今回の出来事は、兄を尊敬していたオーガスタにとってかなりショッキングだったようで、「考えたいことがあるので、しばらく一人にしてくれ」と断られてしまった。

 

ティルクは先日、ヴォルフェンビュッテル家と絶縁状態になった。

スパイ幇助(ほうじょ)の国家反逆を犯しているので、ヴォルフェンビュッテル家としては関係を断つのは仕方ないとはいえ、マリーンには少し冷たい対応にも思える。

これまでの反応から(かんが)みるに、今まで、子爵にとって、息子に対し腹に()えかねる事が貯まりに貯まっていたのだろう。

 

出ていくとき、

「覚えてろ、マリーン。

お前のことは必ず消してやる」

と捨てゼリフを吐いていた。

自分のしでかしたことに反省の色すら見せていないことに少しイラっとする。

正直、もう二度と関わりたくない。

 

 

午後からは漁港近くの魚市場(フィッシュマルクト)へと向かった。

いやー、私、ファイゲで何が楽しみだったか、って、実はこれなのよねー。

前世思い出してから、和食が恋しくて、恋しくて…

 

え、嘘!? クーヘンって、和食、食べれる場所ないんちゃうの? ワー、ショック!

それなら自分で作るしかないっ! と一大決心をして今に至るわけ。

 

和食といえば、魚料理。

マイ氷室(ひむろ)ボックスも持ってきたし、私、張り切っちゃうよ!

 

「わー、マリーンちゃん、すごーい。

なんか、本格的。」

とミンナが目を丸くして、私の氷室ボックスを見ている。

 

ふふん、もっと褒めてくれてもいいのよ?

公爵家の財力、まだまだ、こんなもんじゃなっくてよ、オホホホホホっ!

 

有言実行(ゆうげんじっこう)

公爵家の財力をここぞとばかりに使い、

魚貝類を氷室ボックスにたんまりと詰め込んだ私はホクホク顔でヴォルフェンビュッテル家に帰っていった。

 

オーガスタを元気づけるには、まずは胃袋から。

今日は今までの滞在のお礼に私の手料理を振る舞うことにした。

さぁ、ミンナと一緒に台所で、れっつ、くっきん♪

 

「私、調味料、取りに行ってくるわね。」

 

「うん、わかった。…マリーンちゃんって、すごいのね。

料理まで作れるなんて…」

ミンナは私の(あざ)やかな手並みでさばかれた鮭の切り身を見て、目を見張っている。

 

ふふふん..、まっかせなさいっ!

これでも私、一人暮らし長いのよー。

元OLをなめちゃあかんぜよ。

 

 

日本の調味料やお米は、日本に発つ前の直司に分けてもらった。

そのお礼に親子丼とお味噌汁とかをサッと作ったら、感激してたなぁ。

 

「…まさか、玉ひでの親子煮を、こんなところで食べれるとは…。

それに、この味噌汁。

2番だしを取ってるではないか。

まさに日本の味!」

 

…お、おう。 直司がなんかグルメ漫画の食レポ状態に!

 

「うむ、家庭的なうえに、日本の文化にも造詣(ぞうけい)が深い。

これなら、母上を説得できるかもしれんな。」

と何やらつぶやいていたが、聞かなかったことにしよう。

 

いやね、私だって、直司にあんなことされて、さすがに鈍感(どんかん)ってわけでもないし、

帰国の日まで、直司から猛アプローチされてたのはわかってるんだけど、この時期に日本に嫁入りはなぁ。

誠実そうな人だし、太平洋戦争が回避されれば、亡命先として考えるんだけどなぁ。

 

 

そんなことを、考えながら、お味噌などが保管されてる納屋(なや)にたどり着く。

 

 

 

「...ん? 納屋に人影が。

誰かしら?」

 

警戒しながら、納屋へと足を進める。

 

 

 

ガチャッ、

ギー、

バタンッ

 

「え!!

ドアが閉ってしまった。」

 

 

真っ暗で何も見えない。

ドアを何度、ひねっても、開く様子はない。

 

この状況…何か嫌な予感がする。

ゲームの中でこれに似たイベントが思い当たった。

 

二年目の夏、オーガスタの別荘で…

 

ここは本邸なので場所は厳密には違うのだけれど、

ヒロインは今の私と同じように納屋に閉じこめられて、そして…

 

 

 

「あっ、火事っ!?」

いつのまにか、納屋のあちこちに火の手があがり始めていた。

 

 

どうしよう出られない。

 

荷物になるからと、ラビィちゃんも置いてきた。

 

 

絶体絶命だ。

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

ドンドンドン!!

と外側から激しくドアを叩く音が納屋中に鳴り響いたのだった。

 


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