マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

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デート回

「で? マリーンちゃんは門番さんと一夜をともにしたってこと?

きゃーーーーー!!」

 

今、私たちはクリスマス用に装飾(そうしょく)された大通りのイルミネーションを見に来ている。

ミンナは私の横で「媚薬(びやく)事件」の顛末(てんまつ)を聞きながら、さっきから大興奮し切りである。

 

「まったく、マリーン。 

あなたには、警戒心というものがないの?

相手が奥手(おくて)の門番だから、手を出せなかったのでしょうけれども…

...『男は狼』なのよ。」

 

オーガスタは逆にもの(すご)く、不機嫌そうな顔をしている。

 

 

はい、それはもう反省してます。

メレディスからはあの後すぐに大目玉をもらったし、

「旦那様に報告させてもらいます!」と言われた時は、

それはもう血が凍るかと思ったわよ。

門番さんの身がすごく危険になるような気がしたので、それは必死に阻止しました。

 

 

 

門番自身からも、

 

「マリーンさん。自分で言うのも何なんですが、こう、ホイホイ簡単に男性を部屋に入れてしまう、というのは…。

今度からは絶対に、絶対にっ!やめてくださいね。…自分以外の男を部屋に入れるのは。

...と、とにかく、何があってからでは遅いんですからね。」

と怒られてしまった。

 

…うーん、私、彼からはもっと感謝されてもいいはずよね?

窮状(きゅうじょう)を救ったわけだし?

…解せぬわ。

 

「…ふぅ…マリーンのそのおおらかな性格は死んでも治らなさそうね。

…まったく。目が離せないんだから…。」

とオーガスタは隣でブツブツ言っている。

 

ここに来る前から、オーガスタの機嫌は悪かった。

もともと、彼女は人()みが苦手で、「秋休みにカーニバルを見に行こう」、という私の申し出にも難色を示していた。

今回、ミンナがどうしても行こうよ、お願いっ!って、上目(づか)いで頼んできたので、さすがのオーガスタも断れなかったようだ。

 

学園都市のメインストリートを埋め尽くすクリスマスのイルミネーションは幻想的でとても綺麗だ。

私にとっては、前世の職場近くにあった、丸の内の○菱地所のライトアップの思い出がよみがえってくるようだ。

ミンナも先ほどから恍惚(こうこつ)な表情をして、街の色どりに(はな)()えている。

うーん、眼福、眼福。

 

 

 

さて、クーヘン国において、クリスマスはどちらかというと宗教的側面が強い行事になっている。

ここらへんは、『恋人たちのイベント』として俗物(ぞくぶつ)化して定着した日本とは多少(おもむき)きが異なるものになっている。

 

元来、クーヘン国では土着の精霊(せいれい)信仰を持っていて、キリスト教とはまったく異質の原始宗教(げんししゅうきょう)が民間で信じられてきた。

しかし、6-9世紀ごろ、イスラム教との対立の激化の中で、旧ローマ帝国の宣教師らが、次々とクーヘン国に流入するようになる。

クーヘン国内において、一般に、死後の世界などの死生観(しせいかん)が生まれたのはこの頃からだったといわれている。

こうして、土着の精霊信仰とキリスト教が混ざり合った結果、クーヘン固有の新たな宗教が誕生した。

現在、『クーヘン聖教』とよばれているものである。

日本の宗教でたとえると、『神仏習合(しんぶつしゅうごう)』のようなものだろうか。

 

そのため、クーヘン聖教において、イエス・キリストは信仰上、とても重要な聖人として考えられている。

この辺は、キリストを24人目の預言者として定義しているイスラム教に通じるものがあるだろう。

ローゼンシュトルツ学園でも12月24日には、生徒全員参加でイブ礼拝をとりおこない、そこで聖人キリストの誕生日を祝福することになっている。

 

 

 

 

「は~、退屈だわ…。」

オーガスタが不満を私たちにぶつける。

 

電力風車の改良に総力をかけて取り組んでいるファイゲ州出身のオーガスタにとって、クリスマスのイルミネーションは『電気の無駄』にしか思えてならないのだろう。

それは、わかる。

 

…しかし、そんな言い方をしなくてもいいんじゃないだろうか?

ミンナはこのイルミネーションを私たちと見に行くのをとても楽しみにしていた。

しかし、こういった人の感情には特に敏感な子だ。

今や、さっきまでのウットリとした表情とはうってかわって、オーガスタの機嫌を損ねていないか、顔色をうかがって、オロオロしている。

 

 

 

…はー、言いたくないんだけど、仕方ないかなぁ。

オーガスタもサバサバ系を卒業して、最近すいぶん丸くなったと思ってたんだけどなぁ。

 

 

 

 

「いい加減にしなよ、オーガスタ。」

私は強い口調でオーガスタに言い放つ。

 

普段、あまり見せない私の様子にオーガスタはびっくりしたように私の方を見ている。

 

 

 

 

「たしかに、イルミネーションって、『ただ光っている』だけよね。

それは、あなたにとって、とーーーーっても、つまらないことなのかもしれない。

…でもね。

こうやって、3人で、同じ時間を共有して、バカなことを笑い合いながら、くっちゃべっている。 それだけで、とても貴重な時間に思えてこない?

ここにいる人たち全員そう。

本当はね、イルミネーションだって、花火だって、花見だって、綺麗とか面白いかなんてどうでもいいの。

気の合う友達と仲良く楽しい時間を過ごしたい。

そういった人たちがここに集まってるの。

『電気の無駄』とあなたは思っているかもしれないけれど、クーヘン中からこの『電気の無駄』を見に、友達や家族を連れて学園都市に集まってきているの。

その経済効果、ちょっとでも、考えたことある?

そして、オーガスタ、あなた、ミンナがどれほど、このイルミネーションに私たちと行くことを楽しみにしていたか、わかっているの?

..今のミンナの顔、あなたに見えてる?」

 

ハッとオーガスタがミンナの今にも泣き出しそうな顔に気付く。

オーガスタは今になってようやく、自分の不用意(ふようい)な態度と発言に後悔をしたようだった。

 

「ご、..ごめんなさい。

マリーン、ミンナ。

..私、恥ずかしいわ。

マリーンに言われるまでぜんぜん気付かなかった…。

…今まで、退屈で何が楽しいのかわからないと思っていたのだけれど、

こういった情緒(じょうちょ)もたまにはいいものね。」

柔らかく微笑(ほほえ)むオーガスタ。

 

うん、こんなふうに自分の間違いに気づいたら、すぐに軌道(きどう)修正して素直に反省できるところ。

私は好きよ、オーガスタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直した、私たち3人はその足で映画館へと入った。

今は『光と影』という名前の実験映画をやっているらしい。

 

 

 

 

 

…うーん、ちょっと失敗したかなぁ。

こういうものこそ、活動の講釈(こうしゃく)師が必要だと思うのだがなぁ。

 

実験映画といえば、サルバドール・ダリの『アンダルシアの犬』という短編映画が有名だ。

目をカミソリで切り取る最初のシーンが衝撃的だった人もいるだろう。

シュールレアリスムの不条理な世界観が体現されていて、映像の時系列もバラバラでストーリーもあってないようなものである。

『アンダルシアの犬』は、まだ20分か、そこらの映像だから視聴に耐えられたものの、それを2時間ぶっ続けで見せられることを想像してほしい。

まー、拷問といっていいだろう。

 

「…始めにあのシーンが来るとは思わなかったわ。」

とオーガスタの(げん)

 

うん、最初のシーンは本当に衝撃よね。

『アンダルシアの犬』ではカミソリに目ん玉だったけど、こちらは首実検(くびじっけん)そのまんまだもんなぁ。

それを考えると、どちらかというと三島由紀夫の『憂国』に雰囲気は近いのかしら。

 

「ラストは良かったわー」

とミンナ。

 

この子、どんなくだらないものにも、良いところを必死で見つけようと頑張るのよねぇ。

本当、天使みたいな、いい子。

 

 

あー、いい加減、ノワールとか見たいわ~。

…まだなのかしら?

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