マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない 作:むぎすけどん
「え~、
それでは皆さ~ん。
今日はお集りいただき、感謝いたします。
どうぞ、存分にお楽しみください。」
フランシス先生のお父様こと、縦ロール校長、バルトローメーウス・エッシェンバッハ様が、ねっとりとした口調で、クリスマスパーティーの開催を宣言する。
ば、バラ、持ってるよ、この人っ!
何で!?…そして、匂い、
さすが、このゲーム、
現実にこんな人、いないでしょ。
遠目に見ると、フランシス先生がやれやれ、とした表情をしている。
…ちょっと、恥ずかしいよね、こんなお父様。
さすがに同情するわ。
私の渡した特製媚薬『ガルキマセラ』については、後日、フランシス先生から、凄い感謝された。
「マリーンちゃん、あの媚薬、すごいわ!
今まで、あの人、私のこと、見向きもしなかったのに、
急に顔を真っ赤にし出して、本当、可愛かったわぁ。
あともうちょっとのところだったのに。
急に用事ができた、って言って、逃げられちゃったんだけども…
次は、ぜーったいに、逃がさないわよぉ。」
…その人、その後、うちに
門番さんも、ご
これは、もう、先生に確実にロックオンされてるわね。
…それにしても、わっかんないんだよなぁ。
成分上では何も問題ないはずなんだけど。
なんで、薬を盛った目の前の先生の方でなくて、私の部屋へわざわざやってくるのか…?
なにげに私の自信作だったんだけどなぁ。
…まぁ、今後の課題として、考えておくか。
…うん、でも、まぁ、先生の相手が門番だって分かってたら、ますます、『カンタリデス』のほうじゃなくて良かった。
あの人に、私達は、ずいぶんお世話になってるし、すっごい、いい人なんだよね。
今日だって、私に恥をかかせないように、わざわざ自分の上着を貸してくれたくらいだしね。
本当、いい人。
と、そんなことをつらつらと考えてると、
「やあ、どうだ、
楽しんでるか?」
と、金髪の美少年がふいに私に話しかけてきた。
おやおやおや、これは珍しい。
ずいぶんと意外な人物が声をかけてきたものだ。
オルフェレウス・フュルスト・フォン・マルメラーデ・ナーエ・ゲルツ。
侯爵家の嫡男であり、金髪、碧眼、眉目秀麗にして、シュトラールのリーダー的存在。
このゲームにおいて、王道中の王道の正統派王子様キャラといってもいいだろう。
…まぁ、実際は王子ではないんだけどね。
ゲームのパッケージでも一番目立つところにいるのが彼だ。
領地こそエーアトベーレ内にあって、私の家の所領にも近いんだけど、彼との関わりは今までほとんどなかった。
その代わり、彼のお姉さんとは小さい頃からずいぶんと仲良くさせてもらったものだ。
すごく、綺麗なお隣のお姉さんで、マリーンのことをとても可愛がってくれた。
ちょっと、暴走すると、私のことを着せ替え人形状態にしたけれども、ずいぶん面倒見の良い、優しい人だったよね。
…本当、惜しい人を亡くしたよなぁ。
2年前、結婚を目前に控えた、彼の姉、ロベルティーネ・フュルスト・フロイライン・ゲルツは王都を襲った凄惨なテロに巻き込まれ、その命を落とした。
当時の私も、ずいぶんとショックを受けた事件だ。
実の弟、オルフェレウスの心傷はいかばかりのものだっただろうか。
「こうして皆の笑顔を見ていると、今世の中を包む暗い影が幻の様だとは思わんか。」
…ふむ。こいつなりに、世の中の不穏な動きを感じ取っているのだろうか。
第一次世界大戦後のヴェルサイユ体制下の世界は現在、完全に破綻状態にある。
当時、フランスがドイツに要求した賠償金の支払いは1320億金マルクという多大なものだった。
これは、当時のドイツの国家予算の約20年分にも及ぶ非常識きわまりないもので、ドイツ国民の生活を極限まで切り詰めさせ、搾り取り、苦しめるものだった。
さらにフランスは、それだけでは飽き足らず、その後、債務不履行を理由に、ドイツ最大の工業地帯であったルール地方を占領。
当時のドイツの重工業産業の8割を生産していたルール工業地帯をフランスに占拠されたドイツの経済はもはや、たちゆかなくなっていた。
このように強欲さと不均衡さが入り混じったいびつな世界の中で、ナチス労働党をはじめとするファシズムが民衆の支持を得て、台頭していき、やがて、周辺諸国を巻き込みながら軍国化へと走りだしていくのはまさに歴史の必然であったといえるのではないだろうか。
「オルフェレウス。」
「オルフェと呼んでもらって構わない。マリーン嬢。
姉とは生前ずいぶん親しくさせてもらったからな。」
「…では、オルフェ。
あなたには見えていますか?
今、あなたのいるシュトラール委員会。
次世代の国家を作るその本丸とも言うべきはずのところに
今、あなたが言っている、後ろ暗い影がまさに包みこもうとしていることに。
…あなたの身近に今まさに起こっていることに、
あなたは、気が付いていますか?」
オルフェレウスは嘆息をつく。
「…ルーイのことを言っているのか。
アレも少々過激なところがあって、なにかを企んでいるように見えるが、
彼なりに国を思ってのことだ。
私とは思想こそ異なっているものの、目指す理想は同じ仲間だ。
マリーン嬢が気にするようなことは何もない。」
…やはりだ。
正直、がっかりした。
こいつには本質が見えていない。
今、一番身近にある危機にすら気が付いていないのだ。
それで、「世の中を包む影」とは。
笑わせてくれる。
「オルフェ、あなたはロベルティーネ様の悲劇をまた繰り返したいのですか。」
オルフェレウスは今度は私の顔をまじまじと見る。
「どういうことだ、マリーン。
こととしだいによっては…。」
オルフェレウスは剣の柄に手をかける。
『宝剣ドゥレンダール』だ。
代々王家に伝わるもので、陛下から直接賜ったものだという。
今、彼が抜刀して、私を傷つけたとしても、シュトラールであれば、お咎めなしにできるはずだ。
私がシュトラールに対し無礼千万にも不敬行為を行ってきたので、やむなく斬ってしまった、と証言するだけでよい。
事実、私はそれに近い発言を行っていると自覚している。
…でも、私は賭けたい。
ゲーム本編で、彼はルードヴィッヒを
シュトラール内での発言権も実家の地位の割に高いし、国王からの信任も厚い。
ちょうどいい。
ミンナもルードヴィッヒを覗きに行くと言っていたし、
オーガスタもコソコソとブラウンシュヴァイク子爵の息子を眺めに行っているようだ。
二人のいない今、未来のことを話してもいいだろう。
「あなたがたった今、『仲間』だとおっしゃった、ルードヴィッヒ・ヘアツォーク・フォン・モーン・ナーエ・リヒテンシュタインは、近い将来、ドイツ軍を引き入れ、クーヘンに潜ませ、反旗をひるがえし、クーデターを起こそうと画策しています。
もし、それが実現すれば、国は戦乱に荒れ、多くの
あなたは、ロベルティーネ様の悲劇、いやそれ以上の惨劇をこの国に招くことになっても、…それでもいいのですか?」
「…そ、そんな、ばかな。」
さすがのオルフェレウスもあまりのことに
「信じるも信じないのもあなた次第。
しかし、現実から目を背けてはいけません。
私は、この4か月、カーレベルク家の情報網を使い、ルードヴィッヒを探らせていました。
彼は、現在、『学術研究』と詐称し、カーレン国内のドイツ系貴族や軍事企業のお偉方と密会を繰り返しています。
話の内容から察するに、目的はカーレン内部の軍隊を秘密裏に掌握するためだと思われます。
また秋期休暇の間、彼は、ナチスの高官と会っています。
これらは、調べればすぐにわかる事です。」
この報告を受けたとき、私はやっぱりね、と思った。
カロッサ博士の陰謀など、彼の野望実現のための都合のよい口実に過ぎなかった。
入学して間もないこんな時期から、彼は国への反逆のために動いていたのだ。
「…う、うそだ。」
まだ言うか。
「早々に科学研究部に調査を入れることを私はおすすめします。
おそらく、ルードヴィッヒはあそこを隠れ蓑に反乱軍を組織するはずです。
本当にあなたがシュトラールとして、国を思うならば。
お姉様の悲劇を、国全体に引き起こしてはならないと本気で願うならば。
…止められるはずです。
ルードヴィッヒの馬鹿げた陰謀を止めてください。
ブロッチェンの領民を守るものとして、クーヘン国民としてお願いします。
私たちのクーヘンを戦火に巻き込まないでください。」
私はオルフェレウスに頭を下げる。
領民や国民の命に比べたら、私の頭なんて安いものだ。
さぁ、どう出るか。
「...エドと相談してみる。
マリーン嬢、ご忠言、感謝する。」
...やれやれ、この期に及んで、お友達と相談か。
先が思いやられるなぁ。
しかし、これで、一歩前進かな。
こう見えて、オルフェレウスのシュトラール内での発言力は高い。
彼をもし味方に引き入れられたとしたら、今回のクリスマス会での収穫は大きいだろう。
...それにしても、他に何か忘れてる気もするのよね。
まー、私のことだし、どうせ、大したことないでしょー。