マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

32 / 41
新年の幕開け

早く街に行かなくちゃ。

 

今日は大晦日(ジルヴェスター)の日。

ミンナたちと噴水広場で待ち合わせしてるんだった。

 

ちなみに12月31日はここクーヘンでは一般的に『ジルヴェスター』と呼ばれている。

カトリック教の聖人である聖ジルウェステルにちなむものでドイツ語圏ではそう呼ばれることが多い。

 

本場ドイツの大晦日(ジルヴェスター)のバカ騒ぎほどじゃないけれども、ここクーヘンも負けてはいない。

 

「きゃ~!」

 

「わー、街はお祭りムードで一杯ね!」

 

いやー、酒池肉林(しゅちにくりん)とは、よく言ったものだ。

まさか、実際にこの目で目撃することになるとはね…。

 

噴水広場に着いた瞬間、ムワッと、ワインの芳香(ほうこう)が漂ってきた。

この匂いを嗅いだだけでも、私なんかは酔ってしまいそうだ。

 

ここクーヘン王国キルシュ州学園都市の古くからの(なら)わしで、大晦日(ジルヴェスター)には、今年出来たワインを噴水へと流し込む。

それぞれがグラスを持ち込み、ワインをすくいとり、花火を見ながら、新年の訪れをお祝いする風習になっている。

 

…しかし! しかしだ…。

クーヘン王国でも日本と同様、お酒は20歳を過ぎてから、という現実。

な、なんてことだ。 ヘビの生殺しではないか、これでは。

お隣ドイツでは飲酒年齢はとっくに超えてるのに…、

乙女ゲームだからって、こんなところまで、日本の法律に寄せなくたっていいじゃなぁい!

くそー、あと4年後、待ってろーーーーー。

 

私はワインの噴水を横目でにらみながら、ミンナたちとグレープジュースで乾杯する。

 

「プロージット!」

「プロージット!!」

 

…うん、ここで、ガチャーンって、地面に叩きつけたくなってくるのよね。

これは、もう私のサガね…。

 

あの時、若いトゥルナイゼンが『自由惑星同盟最後の年に!』なーんて口走って..

…懐かしいなぁ。神々の黄昏(ラグナロック)作戦。

カイザーが、それから、疾風ウォルフの銀影を窓から見つめながら、失われた赤毛の盟友に思いを馳せるのよねぇ。

 

「…まぁた、ろくでもないことを考えていそうね。」

隣のオーガスタが私の妄想を途中で打ち切る。

 

なにをぉ! 銀英伝を悪く言うなし。

ジーク・カイザー!

ホーフ・カイザーリン!!

銀河帝国に栄光をっ!

 

 

今日のミンナはお気に入りの緑のセーターを着ている。

『童貞殺し』と私は呼んでいるが、ボディラインが綺麗に見えるこのセーターを着ていると、ミンナがまるで女神のようだ。

…しっかし、こうして、見ると、ミンナってやはり大きいっていうか、なんというか…ムムム。

世の中って、時に、不公平よね。

コ○ミのミンナ効果かしら、やっぱり。

…私にも、分けてほしいよぉ。

ぐっすん。

 

 

ちなみにヒロインは今日は私たちと一緒にいない。

前回のクリスマス・パーティーの時もそうだったけど、

いつのまにか、私の頭の中にヒロインの存在が消え失せてしまっていることがあるのよね。

今回、初めて気が付いたんだけど、そういう時ってたいてい、クリスマスパーティーであったり、みんなで新年会行こうよ、って計画しているときで、

後日、あれ、なんで友達で誘おうって言ってたのに、誘ってなかったんだろうって気付くの。

本当、不思議よね。

 

それで、改めて、前世のゲームのことを思い出したんだけど、

たしか、このゲームって、『カリスマフレーム』なるものが存在してたのよね。

条件によってクラスの人気者になったり悪女になったりするらしいんだけど…。

ヒロインって、ほら色んな人に見境(みさかい)なく粉かけてるって聞くし、たしか、悪女認定されるとパーティーに参加できなかった気がするのよね。

なんか新年のフラグもそれでダメだった気がする…。

 

あと、容姿ステータスが一定条件を満たさないと、とき○モでいうところの外井システムが発動して、門番にはじかれちゃうのよね。

ヒロインちゃんも、そろそろ、ダイエットしなきゃねぇ…。

まぁ、私はそのままでも可愛いと思うんだけどね。

アニスにゃんみたいで…。

 

……うえぇぇぇん、アニスちゃーーーーーん、なんで私を置いて天国へ行ってしまったの?

私、とっても、可愛がってたのに…。

 

 

「マリーンちゃん、どうしたの?」

 

急に涙目(なみだめ)になった私をミンナがかがみこんで心配する。

 

「う、うん、大丈夫よ。

ちょっと、昔のことを思い出しただけ。」

 

 

「また、あの子犬のことを思い出したの?

そういうところはちっとも変っていないのね、マリーン。

もう、いい加減、忘れなさい。」

 

うぅ、だって、だってさぁ。

マリーンのことを最初に理解してくれた一番の友達だったのよ。

忘れようにも、忘れられないの。

 

最初にヒロインちゃんの顔見たとき、マリーン、ちょっとビックリしちゃったのよ。

..もしかして、あの子の生まれ変わりなんじゃないかって。

 

だからさぁ、ヒロインのこと、なんか他人事には思えないのよねぇ。

アニスちゃんのことだからついつい自分が何とかしなくちゃって思っちゃうのよねぇ。

エリカ・クラウスっていう人とアニスちゃんとはまったくの別物だってわかってはいるんだけど…。

 

 

 

「…まったく、門番じゃないけど、あなたって、本当にお人好しね。

あの子が今学園で孤立してるのだって、自業自得(じごうじとく)なのよ。」

 

そうは言ってもなぁ。

 

 

 

「友人として、はっきり忠告しておくわ。

エリカ・クラウスにはこれ以上近づかないことね。」

オーガスタが断固(だんこ)として言い切る。

 

…お、おぅ。

それにしても、ヒロインちゃん、オーガスタにずいぶん嫌われちゃったよね。

やっぱ、最初の電話被害が大きかったもんな。

 

 

 

 

 

あと、もうすぐで、今年が終わる。

 

今考えると、激動の一年だったなぁ。

まさか、自分が前世では21世紀の人間で、

私が今住んでるこの世界が、『ゲームでやったことのある世界』だとは思わなかったよね。

まさに驚天動地、空想科学小説の世界だよ。

 

…カーレンベルク公爵家が2年後に没落の憂き目に合うことが判明するし、

なんとかその原因であるクーヘン内乱を阻止しようと、首謀者ルードヴィッヒの右腕である直司(ナオジ)を日本へ帰したり、オルフェレウスに働きかけたり、色々してるけど、

…私、うまくやってるかな?

来年は少しでも没落フラグを減らしたいな。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、12時ちょうどに、

恋の願い事をすると叶うっていう

おまじない、やってみない?」

 

…私はちょっと遠慮しとこうかな。

正直、今の私は人生がかかってて、恋愛って気分にはなれない…。

 

「そんな子供みたいなこと言って。

所詮(しょせん)迷信よ。

でもゲームとしては

楽しめるわね。」

とオーガスタ。

 

…おっ、これは、いつもの「ドライな私、カッコいい」を演じてますな。

長年の付き合いから、どうしてもわかっちゃうのよね。

オーガスタの通常運行(つうじょううんこう)ってやつですか。

 

ふっふっふっ、こちとら、ブラウンシュヴァイクの息子さんにご執心(しゅうしん)だって調(しら)べはついてるんですからねっ!

どうだっ、紫クチビルっ。

 

「…んー、ごほんっ、」

オーガスタが咳払(せきばら)いをしながらこちらを(にら)んでくる。

 

ちっ、気付かれたか。

 

 

 

「じゃあ、

やってみましょう!」

とミンナが私たちに微笑(ほほえ)みかける。

 

か、可愛い…。

恋する乙女ってわけですか…。

ルードヴィッヒめぇ。

 

 

 

「あ!

カウントダウンが始まる。」

 

 

 

 

 

 

…..3,2,1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Frohes neues Jahr(新しき良き年を)!」

 

パーンっ!

と花火がはじける。

 

 

 

 

 

1936年がはじまった。

 

今年はベルリン・オリンピックも開催される。

直司の手紙に書いてあったけど、

妹がどうしてもそれでここに来たいのだと駄々(だだ)をこねて困っているらしい。

直司もちゃんとお兄ちゃんしてるのね、ってちょっとほほえましくなったわ。

妹ちゃんの期待にこたえて、頑張ってチケット取らないとな。

 

ベルリン・オリンピックといえば、宣伝相(せんでんしょう)ゲッペルスの独壇場(どくだんじょう)よね。

歴史上、初めて、聖火リレーが行われたオリンピックで、後の大戦時の侵攻作戦の時に、その時調査されたルートをそのまま使われちゃったりして。

はじめて、テレビカメラの入った中継が行われたのもこのオリンピックだったけ。

リーフェンシュタール女史の記録映画『オリンピア』はベネチア映画祭で金賞まで取ったほどなのよねー。

 

 

...うーん。

私は、ナチスのことは嫌いなんだけど、ちょっとこのオリンピックは妹さんと一緒に見に行きたいかな。

今だったらIOCの圧力とボイコット運動の影響で去年制定された悪名高いニュルンベルク法も軟化してるわけだし、比較的、安全な国よね。

チケット、…手に入れたいよねぇ…。

 

そんなことをつらつら考えてると、

 

「みんな、

誰との恋の願い事を

したのかしら」

とミンナが可愛(かわい)らしく聞いてくる。

 

「あっ、マリーンちゃんは言わなくてもいいのよ。

わかってるから。 ウフフフフ…」

 

...うん?

えっ、どゆこと?

 

 

()め事がいいんじゃない?」

オーガスタが冷淡(れいたん)に言う。

 

「…私にも聞いたりしないで頂戴ね。」

 

ふふふ、顔真っ赤にしちゃって。

ツンデレさんなんだから。

あなたの気持ち、ちゃんとエドヴァルトにも伝わるといいね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。