マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

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短パンの少年

冬期休暇も終わり、神秘研究部も来月に差しせまったバレンタインに向け、本格的に忙しくなってきた。

 

ハンミョウから出る液を絞る作業では、部長である私の指示のもと部員たちの安全管理を徹底している。

 

…とはいえ、ほんと気が抜けないのよねぇ。

 

媚薬の原液に混ぜこむハンミョウも微妙な量だし、些細なミスが命取りになりかねないので、毎回ハラハラものである。

 

あぁ、こんな時にコマゴメピペットがあればなぁ。

もう発明されてるはずだし、直司(ナオジ)、送ってくれないかしら。

直司の実家って、表参道のいいところにあって、駒込(こまごめ)にも結構近いのよね。

...まぁ、当時の交通手段から行くと、今ほど手軽に行ける距離でもないのかもしれないわね。

ダメ元覚悟で、今度の手紙の返信の時に聞いてみることにするか。

 

...それにしても、バレンタイン。

2月14日に女の子の方から意中の相手に贈り物をする習慣。

アレって、日本のチョコレート会社の販売戦略だったのよねぇ。

具体的に名前をあげると、モ○ゾフさんの。

 

…なっ、何で、クーヘンでも『乙女の重要イベント』になってるのよっ!

海外じゃ、あくまでも、恋人を大事にする日であって、むしろ男性のほうから女性に花をおくったり、メッセージ入りのラムネを恋人同士で送りあったりする微笑(ほほえ)ましいイベントよ。

..まぁ、もともと日本人の発想で考えられた乙女ゲームだから仕方ないかもしれないけどさぁ…。

日に日に憔悴(しょうすい)していってる部員たちの身にもなってほしいのよ…。

…私、含めてさぁ…。

 

 

…はぁ、ダメだ。 心労(しんろう)マックス来てるね、これは。

プリンちゃんとギムネマちゃんは元気かしら…。

メンドくさいと思ってたけど、今や私の(いや)しだよ..。

 

 

私は現実逃避(げんじつとうひ)がてら、中庭にある温室へと足を運ぶ。

 

ちなみに、『プリン』と『ギムネマ』というのは、私が今、温室で育てているマンドレイク達の名前である。

マリーンの名づけセンスは基本食べものやスイーツ関係のものが多いが、『ギムネマ』とはずいぶん(しぶ)い名前をつけたものである。

 

…今はやりの『タピオカ』ちゃんなんてどうだろうか….。

女子高生っぽくて、おっシャレじゃな~いっ?

 

….だ、ダメだ。 疲れすぎて自分でも頭が正常に働いていないのがわかる…。

..すでにノイローゼ寸前なんだろうか?

は、早く、温室に行かなきゃ…。

わたしのオアシス!

 

 

 

 

ガラス製の扉を開けたとたん、ムッとした熱気が私を包む。

温室効果で部屋の温度が一定に保たれている。

人類が発明した叡知(えいち)の中でもかなり優秀なほうだと思う。

 

「…はぁ。

なんか疲れちゃったなぁ…。」

私はふぅ、と吐息(といき)をつく。

 

 

 

 

 

「…落ち着く心…。」

聞き覚えのある声が温室に反響する。

 

 

 

「え!?」

....この声、もしかして、最○記の人?

 

誰もいないと思ってた私の背筋がビクっと反応し、一瞬にして固くなる。

緊張はすでにMAXに達している。

 

 

 

 

「…ギボウシの花たちが、

君が自分を必要としているって

言ってる…。」

と短パンの美少年が私に向かってさらに声を重ねてくる。

 

ギボウシは、縦に一列に並んだ花を咲かせる。

橋などの欄干(らんかん)にある擬宝珠(ぎぼし)にその形が似ていることからその名がつけられた。

その花言葉は『落ち着き』である。

 

 

 

 

 

カミユ・パァルツグラーフ・フォン・ジルヴァーナー・リューネブルク。

白髪に赤い目をしたアルビノの少年であり、シュトラールの一人。

クーヘン北東の州、トラベオのジルヴァーナー領を治めるリューネベルク伯爵家の次男である。

 

ちなみに名前は、カミュではなく、カミユ。

つづりにすると、同じなんだけどね…。

…カミーユでもないのよ、まぎわらしいけど。

 

下は赤い短パンにガーターベルトでまとめあげ絶対領域をかもしているのに、上はガッチリとした赤い軍服調の服で固め、橙色のマントまでギッチリまとっている。

温室では暑そうな恰好に見えるが、当の本人はすずしそうな顔で花に水をやっている。

 

『短パン効果』よね、きっと。

上でたまりにたまってしまった熱を下の短パンに向かってきっと出してるのよ。

...て、今の私って、相当に疲れてるのね…。

 

 

 

「きっと疲れた心を

この花が(いや)してくれるよ、マリーン。」

 

「…え、私の名前を知ってるの?」

 

伯爵家のあるトラベオは私の家の領地があるエーレントベーレの少し北にいったところに位置している。オーガスタのいるファイゲにも近い。

それでも、カミユとは今まで面識はなかったはずだ。

 

 

 

 

「…知ってるよ。

ルーイから君の話をよく聞く。

裏でコソコソと動き回っているんだってね。

…エドも憤慨(ふんがい)していたなぁ。

オルフェをそそのかした性悪(しょうわる)女だって。」

 

 

 

 

あー、結局、オルフェレウスはお友達のエドヴァルドくんに説得されちゃったってわけ。

あの日以来、シュトラール方面に何の動きもないから、どうしたのかなぁ。って、ちょっと気になってはいたんだけど…。

 

何というか…、本人の意思が弱いというか、考えが足りないというか…。

おおかた、お友達のエドヴァルドくんが繰り広げる抽象的な人物論に(けむ)を巻かれた形だったんだろうけど…。

ちょっと調べればルードヴィッヒの陰謀の証拠なんて簡単につかめるだろうになぁ。

…私、ヒントまで出したよね?

...本当、失望させてくれるよね…。

 

 

 

 

 

 

「しかし、びっくりしたよ。

きみが来るとき、急に花たちがうれしそうにソワソワしだしたんだ。

一体、誰が来るのかと思ってたんだけど…

…マリーン、どうやら、きみはここの植物たちにとても愛されてるようだね。」

 

 

 

カミユには特殊な能力があって、花たちとも会話ができる、と聞いたことがある。

そんな能力、私にもあったらいいのにねー。

あの子たちのご機嫌(きげん)取るのって、けっこう大変なのよ。

意思疎通(いしそつう)できるとすっごい楽なんだけどなぁ。

まぁ、でも手間のかかる子たちほどカワイイっていうからね。

最近では温室で過ごすのが私の楽しみになっていた。

 

 

 

 

「…花は正直だからね…。

今まで、きみのことを近寄(ちかよ)りがたい人だと思っていたけど…。

ずいぶん綺麗な心を持っているようだ...。

…今日、ここへは?」

 

私は、自慢の子たちをカミユに紹介する。

 

 

 

 

 

「…マンドレイク。

しかも、ずいぶん希少種だね。

たしか、それって、相当な魔力がなければ育たないはずなんだけど…。

…もしかして、君にはぼくと同じ能力(ちから)を持っているの?」

 

 

カミユの持つメインの能力は『未来予知』である。

アルビノ持ちの虚弱体質の上、このような特殊な能力を持っていたので、小さい頃から伯爵から屋敷の外へ出ることを禁じられていたらしい。

この学園に入学するにあたっては熱心な家庭教師による説得が伯爵の心を動かし、実現したものと私は聞いている。

 

 

…うーん、でもその病弱な身体でシュトラールって、果たして勤まるもんなだろうか。

一応、この学園のシュトラール候補はこの学園都市全体の市政を任されているはずなんだけど。

やっぱり、噂に聞く通り、シュトラール補佐が書類とか政務(せいむ)のほとんどをやっていて、シュトラールたちはただ会議に出てハンコ押すだけといったことなんだろうか。

いわゆる、お飾り役職ってやつね。

そうでなければ、市政の運営を片手間(かたてま)にドイツ首脳陣と交渉を繰り返し、反乱軍を組織するなんて芸当、ルードヴィッヒにできるだろうか?

…なんだか、2年目のシュトラール活動がすごく不安になってくるわね…。

 

 

 

…しかし、これは、私にとって、好機なのかもしれない。

ルードヴィッヒはカミユに甘いところがある。

彼の反乱にしたって、カロッサ博士のカミユをはじめとする超能力者たちを酷使する人体化学兵器、メーヴェ…じゃなかった…ヤクト・ヒルシュケーファに反発したことに端を発している。

だからといって、クーヘンの市民たちを巻き込んで、戦争をおっぱじめようぜ、なんて考えは、到底理解できるものではないんだけどね。

 

 

 

 

 

「…みんなに内緒にしてくれますか。

同じ能力を持つ者として、その危険性はわかるでしょう。」

 

私は人差し指を口元に置く。

 

 

カミユは一瞬おどろいた顔を私に見せた。

 

 

「…やっぱり、そう言うと思ったよ。

僕と同じだもん。

嬉しいなー。

今までそういう人いなかったから…。

これは僕たちの秘密だね、マリーン。」

 

無邪気に笑うカミユ。

 

…ふぅ。

仲間意識もあるんだろうけど、こういう子って、一度(ふところ)に入ったら、とたん友好的になるものなのかもしれない。

 

 

 

 

「…でもね、マリーン。

きみはルーイと敵対するつもりなのか。」

 

次の瞬間、カミユは厳しい表情になる。

 

カミユにとって、ルードヴィッヒは古くからの友人である。

リヒテンシュタイン家とリューネブルク家は遠縁にあたり、幼い頃、ルードヴィッヒはリューネブルク家を訪問したことがある。

その時に病弱の自分を構い、一緒に遊んでくれた優しい友人としてのルードヴィッヒの記憶がカミユの中で強く残っている。

こういう幼い頃の()()みは、案外強かったりするのだ。

 

そういえば、ゲーム上でもエドヴァルドと直司がルードヴィッヒの陰謀についてカミユに相談した時も、カミユはルードヴィッヒの人間性を説いて、彼を弁護していたように思う。

エドヴァルド対策を怠ってしまった間違いの轍をここでまた踏むわけにはいかない。

 

 

 

「そのルードヴィッヒが、あなたの故郷、トラベオを焦土(しょうど)の地とし、クーヘン国中を蹂躙(じゅうりん)するであろう戦乱の世を作ろうと、画策しているとしたら、どうしますか?」

 

私はゲームに出てくる『焦土化した故郷を目の前に呆然とたたずんでいるカミユ』の一枚絵のCGスチルを頭の中で思い浮かべる。

 

 

 

 

カミユは目を見開いた。

 

「…ま、まさか。

ルーイがそんな…。

信じられない…。

…うん、でも、きみは嘘はついてない。

それはわかってるんだけど..。」

 

カミユは嗚咽(おえつ)を漏らしている。

信じていた旧友の国への裏切り行為にショックを受けているのだろう。

 

私も少しやり過ぎた。

彼の能力を利用し、悲惨な映像を見せてしまった。

私にとっても、封印したい過去だ。

未来永劫、『過去』にしなければならない光景なのだ。

 

トラベオ焦土化作戦は私のお父様も関係している。

その戦端はたしかにルードヴィッヒによって開かれたものだが、

トラベオに武器を運び込んだのは、父、マンフレート・カーレンベルクではないかと推測できる。

その証拠となるものがII(ツヴァイ)のヒロインがビルネの街で耳にした私とお父様の会話の一部であり、そのヒロインの証言がもとになり、わがカーレンベルク家は全財産を奪われ没落する。

身びいきもいいところだと思うが、現時点で、あの温厚なお父様が平気でトラベオを焦土化する作戦に参加するような人間にはマリーンにはどうしても思えない。

しかし、その可能性は否定できないと思う。

もし、私が最悪、ルードヴィッヒを止められずに、戦争を起こされた場合、今度は私は全責任をもってお父様を止めなければならないだろう。

没落フラグうんぬんもあるが、なにより、マリーンが許せないのだ。

あの凄惨なトラベオの光景をこの現実の世界によみがえらせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

カミユはしばらくの間、私の前ですすり泣いていたが、

やがて、

 

「…わかった。

ルーイには僕から話してみることにするよ。」

 

と決意した表情で私に言った。

 

 

 

 

 

...これは、いい方向に進んだのではないだろうか。

 

平和を愛するカミユならば、もしかしたら、と私は思っていた。

彼にはちょっとした読心能力(テレパス)があったようだが、私の『予知能力』の根源(こんげん)が何かまではわからなかったようだ。

 

途中で気がついて本当に良かった。

 

あとはエドヴァルドさえどうにかすれば、私の王手、ということになる。

 

ルードヴィッヒ、見てろよー。

あなたの陰謀、阻止してみせるわ。

 

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