マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない 作:むぎすけどん
「わわっ、きゃっ!」
ミンナが私に抱きつく。
ここは学園都市のスケート場。
バレンタインデーも目前に
気晴らしにカーニバル最終日の催し物を冷やかしに行こうかとも思ったが、人混みが苦手なオーガスタの件がある。
こういった苦手意識は無理をさせずに少しずつハードルの低いものから慣れさせていったほうがいい、と私は思う。
だって、オーガスタとこれからも色んな所に行きたいじゃん?
無理をさせず、ちょっとずつ..,ね。
オーガスタに私たちと過ごした楽しい記憶をドンドン植え付けよう!
そんな作戦を今から考えている。
当のオーガスタは、今日は晴れ晴れとした表情をしていて、私はちょっとホッとしている。
またこの前みたいなひと
しかし、『スケートのひもむすぶまもはやりつつ』、なんて、昔の人もよく言ったものだ。
まさか、結んだ後にこのような
「ま、マリーンちゃん、離さないで...。
ああっ、もうっ!!」
私はスケートが苦手なミンナの両手を握りながら、一緒に
さっきからミンナが転ぼうとするたびに、私に
その時にあたる、あの二つの
たまりませんな。
ムフフフ...役得。役得。
「...マリーン、あなた、
とオーガスタが呆れたように私たちのほうを見る。
…あ、そうか、マリーンって、ゲームでは、
私って小さい頃北海道の
小学校の校庭にも冬場には普通にスケートリンクが張られてたり、家の近所にも「柳町スケート場」っていう、オリンピックの選手も訪れちゃうくらい有名なスケート場があって、学校が終わるたびに滑りに行ってたの。
教室にも通ってたけど、ほとんど、
ようっし、久しぶりだし、ちょっと本気出してみようか。
私はミンナにちょっと待ってもらい、自由にスケートリンクを駆け巡る。
靴があまりフィギュア向きに作られてないので、なかなかコツがいるが、マリーンの若い身体の影響なのか、すこぶる調子がいい。
クルクルと時折ステップを混ぜながらも、外周を回りこむ。
ダッチロールというやつだ。
氷をすべる事自体は昔の人もやってたんだけど、円を描くような優雅なすべりはオランダで始まったのよね。
うん、今、人少ないし、ちょっとやってみようか。
後ろ向きに滑りながら、左足インサイドエッジで踏み切る。
踏み切り時と着氷時に足がハの形になるのがこのジャンプの特徴だ。
おっ、いつもフワッとしか飛べなかったのに、今回はキッチリ決まったな。
マリーンの身体能力、すげー。
ふふん、四回転飛んだ安藤美姫ほどじゃないけど、我ながらなかなか上手く飛べたほうじゃないかしら。
目を丸くしてこちらを見ているミンナとオーガスタに自慢げに視線を向ける。
そんなドヤ顔を
見ると、チョビ
なんだなんだ、またナンパかな?
最近多いのよねぇ。
あの喫茶店のボーイに、なんか妙に目をつけられて、
仕事そっちのけで電話番号とか聞かれるんだけど、
門番さんが必ず追い払ってくれるのよね。
本当、助かるわ。
いい人よね。
「いやぁ、お嬢さん。
スケート、上手だねぇ。」
「ありがとうございます。」
「今のはね、私が考えたジャンプなんだよ。
まさか、こんな若い子が素敵に飛んでくれるとはね。
思わず、拍手してしまったよ。
「…ええっ!!!もしかしてサルコウさんですか!!?」
ウルリッヒ・サルコウ。
1908年のロンドンオリンピックの金メダリスト(当時は夏季に行われた)。
世界フィギュアスケート選手権での10回にわたる優勝。
スウェーデンの英雄で、フィギュアスケート界において、その名を知らない人はいないほどのレジェンドといっていい人物である。
先ほど、私が飛んだ、『サルコウジャンプ』はその名がしめすとおり、もともとこの人が考え、大会で成功させたものである。
「ほほう、私の名前を知ってるのだね。
こんな若いお嬢ちゃんにまで知られているなんて、
私もずいぶん偉くなったもんだ。
うん、いかにも、私が、サルコウだ。
よろしく頼むよ。
お嬢さんの名前は?」
「私は、マリーン・フロイライン・カーレンベルクと申します。」
私は
「あなたが、カーレンベルク公爵様の!
いやはや道理で…。
実に優雅で気品のあふれた
急に手をすり合わせ、へつらいの表情を見せる。
私が名前を言うと、多くの人が見せる反応がこれだ。
国の内情を知るクーヘン貴族であれば、さらにそこに加えて
彼らはバカな私にはわからない、とでも思っているのだろう。
もうすっかり慣れてしまったことだ。
ちっとも気にならない。
「…いや、しかし、その若さでそれだけ
うむ。ヒトラー嫌いが、今回は幸いしたな。
ちょっと、サボって、ここまで羽根をのばしに来たんだが
まさか、こんな島国で、このような素敵な
...どうです。わたしのもとでオリンピックを目指しませんか?
今、ドイツで開かれている大会は無理でも、
あなたの実力をもってすれば、次のサッポロ大会には必ず間に合うはずだ。
こんな政情の不安な地域にいるより、私のいるストックホルムの整った環境でトレーニングするほうがよっぽどいい。
どうです?
なんなら、スウェーデンの帰化申請までやってもいい。
そしたらわがスウェーデンのメダルは確定だ!
やっほーいっ!
君の公爵としての身分は保証しよう。
それは約束する。
もし良ければ、私から今度、カーレンベルク公爵様に話をするとしよう。
うん、そうしよう。
そうと決まったら…」
どえええ!
めっちゃ、凄い勢いで話が進んでるんですけど...
ちょっ、ストップ、はると、しゅとっぺん!
…うん、しかし、なるほど、スウェーデン亡命は一つの有効策かもしれない。
もともとヴァイキングとして有名なノルマン人が興した王国であったスウェーデンは、17世紀の国王、グスタフ・アドルフによって大国へと急速に発展を遂げた。
三十年戦争の結果、ウェストファリア条約によって、一時期はバルト海全域を支配する強豪国になる。
しかし、その後、18世紀、ロシアとの北方戦争に敗れ、19世紀にはフィンランドを失い、その領土は一気に縮小する。
それからは、東方の大国ロシアの脅威に脅えながらも、第一次世界大戦、第二次世界大戦中も中立に貫き、比較的、安定した国だったはずだ。
オリンピックを目指しながら、大好きなフィギュアスケートに打ち込みながら平和な日々を過ごす。
しかも、次の冬期オリンピックの開催地は私の前世でいうところの
スウェーデン代表のオリンピック選手として堂々と故郷に
まさに私にとって理想の生活ではないだろうか?
目指せ、真央ちゃん!
トリプルアクセルを習得して、世界を
しかし、ハッと私は思う。
…残された家族はどうなるだろうか。
私は父の顔、メレディスの顔、それと私を大切に思ってくれてる使用人たちの顔を次々と思い浮かべる。
私がいなくなったことで、ルードヴィッヒの戦争を止められなかったら、彼らは確実に没落へと突き進むことになる。
…ミンナは、どうなるだろうか?
彼女の笑顔を
…オーガスタも最初はいけ好かないやつだと思ってたけど、今や私にとって、かけがえのない親友だ。
前世を知ったからには、もはや、ヴォルフェンビュッテル家とユーリヒ家の没落を阻止することは私の責務になっている、といえるだろう。
「大変、自分には、もったいない話だとは思うのですが...」
私はサルコウ氏に丁重にお断りを入れる。
「...そうか、そうだろうな。
公爵家の娘ともなると、色々しがらみもあって、大変かもしれないな。
...しかし、私はあきらめませんぞ。
国際スケート連盟会長として、あなたの才能をこんなところで腐らすのは見ていられないのです!」
何やら思いつめた表情でチョビ髭の男は去っていった。
気が抜けた私にミンナが飛びついてくる
「マリーンちゃん、すごーーーーい!
スケートの会長さんからスカウトされるなんて。
...でも、マリーンちゃんが遠くへ行かなくて本当にホントに良かったァ……。」
ミンナはウルっとした表情で私にしがみつく。
「...やっぱり、ダンスよりスピードよ。」
オーガスタもホッとした表情で私を見つめる。
どうやら彼女なりに、かなりヤキモキしていたようだ。
うん、私、あなた達を置いてどこにも行かないよ。