マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない 作:むぎすけどん
「マリーン!お前っ!!」
昼下がりの女子教室。
紫色の髪をしたボロボロの恰好の青年が突如乱入し、場が一時騒然となる。
彼がここに怒鳴り込むのは二回目か。
元シュトラールとはいえ、国家転覆の反逆罪を計画した張本人が数ある包囲網をすり抜けてここまでやってくるということは、学園にかなりのセキュリティ上の欠陥があるのではないだろうか。
クーヘンの憲兵らにしても、一度、エセ英国スパイを取り逃がした前科がある。
『新シュトラール候補』として、学園都市を安全な町にしていくのも私の務めだろう。
「ルードヴィッヒ?…一体どうやってきたんですか。」
「どうやってもこうもないっ! なぜ、お前はいつも我の『革命』を邪魔するんだっ!!」
「『革命』…?
ルードヴィッヒ、あなたは支配される側なのですか?」
「そんなわけなかろう。
私はシュトラールだ。
我の『革命』によってこの国は、合理的に独裁制へと移行し、新しく生まれ変わるはずだったのだ。」
「では、やはり厳密に『革命』とは呼べませんね。
革命とはRevolving、つまり反転すること。
今まで、被支配者側だったものが既存の支配階級を打ち倒し、全く新しい政治体制に移行させることです。
貴方の場合、支配者側のシュトラールとしての権力を持ちながら武力でもって現政権のトップを入れ替えようとしました。これは『権力闘争』であり、『クーデター』と呼びます。
また卒業式の日に合わせてドイツ軍をパラシュート作戦で降下させ、クーヘン国民の生活を脅かそうと計画しました。これを一般に人は『テロ行為』と呼びます。」
「て、テロだとっ!」
ルードヴィッヒは目を引ん剝くようにして私を睨む。
無論、私の今、ここで言っている『革命』とは狭義の意味での定義だ。
古来で中国で使われた『易姓革命』は単に王朝が交代する意味で使われてたし、
エネルギー革命や産業革命など、物事が短いスパンで変革するときにもこの言葉が良く使われる。
しかし、元シュトラールであるルードヴィッヒが軍を持って国の主要機関を制圧し、人々の生活を脅かすことを私はどうしても『革命』などと呼べないのだ。
それは私にとって、国を乗っ取ろうとするクーデターであり、テロ行為なのだ。
決して内部から何かを変革しようとする動きではない。
ましては今回は外部からのドイツ軍を使い、クーヘン国を蹂躙しようという考えだった。
外患誘致の売国行為といっていい。
革命なんていう大層な言葉は間違っても使いたくない。
「私はあなたの売国テロ行為を未然に防いだのですから、問題ないでしょう。」
「…ば、売国だと…、この我を…。
..し、しかし、今のドイツにはカロッサによる『優生計画』が進んでいる。
たとえ、人々に売国奴呼ばわりされようと、
我はその恐るべき計画を阻止せんとばかりに『シャッハブレット・ブレーメ・ゲノッセ(黒百合の同士)』を組織しようと…」
「…そのカロッサの計画について、私も調べたのですが…、
どこにそこに戦争の理由があるというのです?」
「…えっ!?」
ルードヴィッヒは絶句している
カロッサの『優生計画』というのは平たく言うと優れた遺伝子の持つ人間だけを集めて、世界を支配しようという考えである。
実際のナチス・ドイツ政権もゲルマン民族を優秀な種と位置づけ、ほとんど似たような考えを持っていた。
いや、歴史的に見て、ヒトラー支配下のナチスドイツは、もっと悪辣非道なことを平気でやっていたといえるだろう。
ユダヤ人のジェノサイドは当然として、同胞のドイツ人に対しても優性裁判を行い、劣悪種と判断されたものは、強制労働の末、殺害。女性に対しては強制的な不妊手術を施していた。
さらには、世界帝国を作り、ヨーロッパ諸国をその傘下におさめようと、暗躍した。
これが第二次世界大戦が起こるきっかけになる。
カロッサ博士が企む優生計画なんて、周辺諸国に与える影響は、全然問題にならない程度だろう。
似たようなことは結局、後世でナチスが行うことになる。
逆に、ルードヴィッヒの5人のクローンが支配することによって、歴史上起こったユダヤ人撲滅や、アウシュヴィッツなどの、悲劇的な出来事を避けられるかもしれない。
メーヴェ..じゃなかった、ヤクト・ヒルシュケーファにしたって、ララァスンのメビウスのようにニュータイプ人間(超能力者)にしか十分に扱えない。
候補としては、カミユだが、彼さえ抑えれば、ヤクトなんちゃらで世界征服など、夢のまた夢だろう。
もしかして、超能力者がたくさんいる、クーヘンで幾人か、拉致されるかもしれないが、これこそ外交問題で解決するべきだ。
前世での、北朝鮮と日本のようなものだ。
国際問題に発展するので、そう簡単に拉致なんてできないはずだ。伯爵令息のカミユなんてもってのほかだろう。
もし超能力者に対し、非人道的な生体実験が行われている、と憤慨するのであれば、国際連盟なり、国際社会で訴えればいい。
クーヘンで内乱を起こそうなんて考えにはとても賛同できない。
やはり、ルードヴィッヒはシュトラールでの統治では満足できずに、多くの国民を犠牲に自分だけの独裁政権を作りたかったように思われる。
本当は自分の野望を達成したかっただけだろうに。
ドイツ軍まで投入してクーヘン国民を戦争に巻き込む必要はあったのだろうか?
前世での情報を省きながらも『カロッサ問題を戦争の理由に使う』問題点を次々と指摘する。
論破され打ちひしがれた表情のルードヴィッヒに私はさらに追い打ちをかける。
「『革命』といえば、今私がやっていることはあなたがやりたかった革命行為といえるでしょうね。」
私は売国テロ野郎の陰謀をつまびやかにした功績とその優秀さを買われて、今回、女性として初めてのシュトラール候補生に選ばれた。
男尊女卑のクーヘン政界において、これは画期的なことといえるだろう。
ルードヴィッヒと親戚関係にあるリヒャルト三世は当然反対したが、現使長、シュトラール候補生3人の連名、さらに海の向こうの石月伯爵の推薦が重なり、渋々ながらも特例に認めざるおえなくなった。
...今の使長たちと私、今まであんまり関わりがなかったんだけど。
それほど、ティルクを排除した私に感謝してるということなのだろうか..。
しかし、私には願ってもないチャンスだ。
わがカーレンベルク家もこれで復興する。
できれば、今のようないびつなシュトラール独裁制を改め、議会民主制、国民皆選挙にまで持っていきたい。
今まで被支配層だった女性の私が政治体制を内側から民主的なものに変えていく。
これこそ、本来あるべき『革命』の形なのではないだろうか。
私は、今度こそ、ルードヴィッヒを憲兵に突き出し、学園から追放した。
ヒロインと同じく彼は裁判を受け、やがて投獄されることになると思う。
国家反逆の罪は重い。
おそらくは終身に近い年数になるのではないかと思う。
ふー、しかし、まさかまたルードヴィッヒが教室に来るとはねー。
これ以上のトラブルはごめんだよ。