マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

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お見合い相手

「皆の衆、お嬢様が戻られたぞ!」

 

「おおっ!」

 

「あらあら。」

 

「ありがたや、ありがたや。」

 

 

 

 

私は領民(りょうみん)からはやたら人気がある。

おそらくマリーンの見た目の幼さから可愛がられている(ふし)があるのではないかと思う。

 

私は馬車の窓から彼らに向かって挨拶(あいさつ)をする。

 

「領民の皆さまっ

出迎(でむか)えありがとうございます!」

 

 

 

「おおっ、ご立派になられて....」

感涙(かんるい)にむせび泣くブロッチェンの領民たちが車窓から見える。

 

 

...え、いくらなんでも少し大袈裟(おおげさ)じゃない?

 

 

 

ラビィちゃんは故郷の森の様子をちょっと見てくるからといって、今は『中身』になっている。

 

埋め込みといっても、ずっとヌイグルミのままなわけではない。

自由な着脱(ちゃくだつ)可能になっている。

気が向いた時はまれにこのようにラビィちゃんの中身が出てくることがある。

 

 

...しかし、ラビィちゃんってこう見るとファンタジックすぎる見た目だよね。

ここって、ゲームだけど、現実なのよね?

神聖すぎて、コナン・ドイルも興味を持つわけだよ。

 

 

「ふふっ、お嬢様。

ボクのこと考えてくれてるの?

うっれしーなー。」

 

ラビィちゃんはウフフと笑い、そのまま、森へと遊びに行ってしまった。

 

 

 

 

「...お嬢様。何かすこし雰囲気が変わりましたね。」

 

馬車で迎えに来ていた執事のコーエンにそう言われる。

 

 

 

...ん、そうかしら?

そういえば、領民に対してのマリーンの喋り方ってもうちょっと間延(まの)びした感じだったかもなぁ。

 

 

「...まぁ、私にはそのほうが()のお嬢様らしくて好きですがね。

…あの、その、もうあまり無理をなさらないでくださいね。」

 

なぜかコーエンから心配されてしまった。

 

 

私ってそんなに不安定に見えるんだろうか。

今度からは気をつけなきゃな、と気を引き締める。

 

 

「そういうところです。

お嬢様。

身内の間では、演技などせず、普段どおり楽になさってください。

私どもはいつでも、『()()()()()()』ですから...。」

 

不意に出たコーエンのその言葉にマリーンである私はウルっとしてしまった。

...その言葉を私は今日までどれほど待っていただろうか。

 

 

コーエンは私にハンカチを差し出す。

 

「...さぁ、これで涙を()いてください。

お見合い相手がベルネからもう来られて待っているようですよ。」

 

 

「...ぐすっ。

えっ、もう?」

 

私は、コーエンから渡されたハンカチで顔を整え、わが邸へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「…ま、マリーンさん!」

 

邸の応接間に入ると父の隣には、顔を赤らめた緑髪の美青年がたっている。

 

 

 

 

 

...私のお見合い相手はなんと門番だった。

 

 

 

 

「...えっ、門番さん?」

 

 

 

晴天(せいてん)霹靂(へきれき)』とはまさにこのことをいうのだろう。

 

 

 

門番さんこそ『ユーリウス・リヒテンシュタイン』。

数年前にリヒテンシュタイン公爵家から戸籍を抹消された張本人だったのだ。

門番さんは公爵家から追放されたその後、バルトローメウス校長先生のお世話になりながら、学園の警備の職についていたとのことだ。

 

 

...いやー、しばらく姿を見てないな、と思ってたんだけど、そういうことだったのか。

 

 

 

「なんと!

二人は知り合いであったか。

それはちょうどいい。

あとは若いお2人で...」

 

お父様はニヤニヤと私たちを眺めながら、応接間を去って行く。

 

 

 

 

なるほど、これはかなりの好物件かもしれない。

門番の人柄はお墨付きだ。

そして彼とは気心が知れた仲だ。

 

おまけに相手は公爵家の長男。

 

リヒテンシュタイン家に今の私は特に含むところはない。

我が家を(おとしい)れようとしたのだって、当時当主代行をしていたルードヴィッヒだったという話を聞いている。

 

それに、前にも話したが、リヒテンシュタイン家とわがカーレンベルク公爵家が婚姻(こんいん)によって結びつくことによってクーヘンの政情が大分安定する。

 

 

しかも今回向こうはかなり()り気だ。

どうやら門番は以前から私に好意を持っていたらしい。

政略うんぬん抜きに考えても、この話は前向きに考えてもよいのではないだろうか。

 

 

 

積もる話と軽い顔合わせを終え、元門番ことユーリウスは所領(しょりょう)ビルネへと戻る。

 

門番であったころのノンビリした彼に比べ、今の彼は随分と忙しそうに見える。

 

領主であるリヒテンシュタイン公爵は数年前から原因不明の体調不良にあり、万全の状態ではない。

今はユーリウスが領土経営を代行しているという話だ。

 

領主代行であったルードヴィッヒがかなり雑な運営をしていたため、以前の状態に戻すのにかなり手間取っているらしい。

 

とはいえ、ビルネって油田がたくさんあって、クーヘンきっての一大工業地帯なわけだから、門番が下手こかなければ、すぐに黒字回復するのではないだろうか。

 

...うん、それ、考えるとリヒテンシュタイン家とつながるのは政略的に見てかなり美味(おい)しいよね。

お父様は何も言わないけれど。

 

門番の人柄だったら私もやぶさかではないんだよなぁ。

 

 

 

「お前の将来のことだ。

...ゆっくり考えなさい。」

 

とお父様は私に声をかける。

 

入学前とはえらい違いだ。

 

 

 

その夜、私とお父様は手紙のやりとりだけでは書ききれなかったことを含めて、色々と話し合った。

 

お父様は、私の最も近い身内であり、家族なので、入学式の日に前世の記憶が私に(よみがえ)ったことについても包み隠さず全て話した。

 

 

私の話を聞いて、最初こそ驚いていたふうに見えたお父様だったが、

「...そうか、やっぱりな。」

と妙に納得してしまっている。

 

 

 

…アレ、こんなもん?

もっとこうほら修羅場(しゅらば)とかがあるのかな、とか想像していたんだけど…。

まぁ、前世のOLの記憶が戻っただけでマリーンが消えたわけでは全然ないんだけどね。

口調とかちょっと変わっているからてっきり変に思われるんじゃないかなぁ、と思ってたんだよなぁ…。

 

 

 

「マリーン今までお前につらくあたってすまなかったな。」

 

突然、お父様が訥々(とつとつ)としゃべりだす。

 

 

「お前が女として生まれたことで、カーレンベルク家の地位が落ちてしまったと考えていたことは正直あったと思う...。

だが、一番は、お前が女であったことで

もしかしてあの『最悪の運命』がついにやってきたのかと内心不安だったのだよ。」

 

そしてお父様は語る。

 

先代前からカーレンベルク家に言い伝えられてきた『恐るべき予言』を。

 

我が家がありもしない罪をでっち上げられ、財産を失い、没落し、一家が離散してしまう、というもの。

 

先代のカーレンベルク家が予言した内容は警告として数代へと伝えられ続けていた。

「黄泉の国より蘇りし女が乗り切る」

しかし、それは数百分の1の運命の可能性しかない。

 

 

 

「そのお前がしているバラのコサージュ。

それは妖精との契約で得られたものだが、

非常時に特別な力を持つ。

それは、平行世界へと飛び立つというものだ。

カーレンベルク家が没落して何度も悲惨な運命を繰り返したお前はそのコサージュを使い、記憶を失いながらも何度も同じ人生をやり直したのだろう。

もしかして、今のお前は同じ運命を何度も繰り返した末に黄泉の記憶を奇跡的に思い出し、ここにたどり着いたのかもしれない。」

 

お父様の言葉にラビィちゃんがうなづいている。

いつのまに帰ってきたんだろうか。

 

 

「ボクは妖精だからね。

記憶を共有していて、どのマリーンも知っているけれども、今のお嬢様のようにはうまくはいかなかったようだね。

最後は泣きながらそのコサージュを作動させてたなぁ。

マリーン、良かったね。

今までのマリーンの中で一番幸せそうなお嬢様を見れてボク本当に嬉しい。」

 

ラビィちゃんは涙ながらに言う。

 

 

私ももらい泣きをしてしまう。

 

 

この世界は数多あるこのゲームの世界の中での唯一のバグなのかもしれない。

数あるゲームのエンディングの中で悲運と失意を繰り返してきたマリーンがある日ついに黄泉から蘇った前世の私の記憶と結びついた奇跡。

それが、今の私だ。

 

これからの私の未来、大切にしていかなければならない。

これは何百人もいる私の涙から作られた今の私。

絶対に(おろそ)かにはできない大切な命なのだから。

 

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