マイネリーベのマリーンに転生したけども詰んだかもしんない   作:むぎすけどん

41 / 41
Ende

「民よ!我が客人となれ。」

 

勇壮なシュトラウスの音楽が私たちを包み込む。

 

人類初の聖火ランナーがギリシャから持って来た灯火(ともしび)を今、点火台へと発火させた。

 

 

 

 

 

1936年 8月。

 

いよいよ待ちに待ったベルリンオリンピックが開幕された。

 

スタジアムはまさに興奮のるつぼにある。

 

 

 

 

その中をなぜか私がクーヘン国の旗手(きしゅ)として行進している。

 

...どうして、こうなった?

 

 

 

 

今年サルコウ氏の推薦により、私はフィギュアスケート世界選手権、パリ大会に向けたクーヘン代表強化選手に正式にエントリーされた。

今はシュトラール委員会と並行して、トレーナーとの体幹(たいかん)トレーニングに励む多忙な毎日だ。

 

当時の女子フィギュア界で著名な選手としてノルウェーのソニア・ヘニーがいる。

ロングスカート主流の女子フィギュア界において初めてミニスカートを持ちこんだ改革者で、ルッツジャンプを武器にしていた。

ヨーロッパフィギュア選手権、世界選手権、そしてこの前の過去冬季オリンピック三連覇とことごとくメダルを総ナメにしている、押しも押されぬスター選手である。

 

そのスター選手に現在、私は絶賛(ぜっさん)ライバル視されている。

 

曲がりなりにも、ルッツ、サルコウ、ループ、フリップの多様なシークエンスを()り交ぜながら、ダンスステップで芸術面を上げてくるスタイルの私と彼女は、この前の世界選手権パリ大会に向けたヨーロッパ地区予選でぶつかり、万年チャンピオンの彼女をワンツートップで負かしてしまったのだ。

 

快挙ともいえる新星の私のこの活躍がクーヘンスポーツ界で注目され、夏季ベルリンオリンピックのクーヘン代表団の旗手にとうとう祭り上げられてしまったのだけど...

私、このオリンピックは観戦するだけで、全然出場しないんだけど、本当にいいのかしら?

 

まぁ、クーヘンでは三人の陸上選手しか出ないから見栄(みば)えが悪いというのも、理由に挙げられるのでしょうけど...。

 

人々の送る視線の熱気が凄い。

特に、あのノルウェーのスポーツ団の1人から注がれる私への視線が痛い...。

 

 

 

ソニアさん、そんなにギラギラ(にら)まないで。

私達女子フィギュアスケート界でいえば、あなたは《生ける伝説》みたいな人だから、そんなキツい目で見られてると正直ツラい..。

ナチスとの関与は擁護(ようご)できないけど、私が今このレベルに達しているのも、彼女の歴史的功績のお陰っていうこともあるのよね。

 

 

 

 

...そして貴賓席(きひんせき)でナチス式敬礼をしている

独裁者ヒトラーの存在感、すごいわ。

カリスマ性だけはあるのよね、あの男は。

 

…ん?

な、何かいるーっ!

ヒトラーの後ろにあやしげなフードの人が3人立ってるっ!

...傀儡(かいらい)とはいえども、あからさまだなぁ。

ゲームの中で傀儡(かいらい)との噂がある、とルードヴィッヒも言ってたけど、そりゃあ、噂にもなるわけだ。

めっちゃ、目立ってるし…。

 

オリンピック前ということもあって、ドイツは国際世論の手前、一時的に平和で治安の良い国になっている。

しかし、すでに『悪の元凶』であるヒトラーが傀儡として使い物にならなくなってる現在、その後、前世のナチスほど酷い状態にはならないだろう、と私は予測している。

 

案外、あの三人のクローンは平和裡にドイツをまとめていくのではないだろうか。

反ユダヤ主義とか、過激な汎ゲルマン主義を持っているわけではない。

元になっているルードヴィッヒほど思い込みが強いタイプだと困るが、今のところそのような兆候は見せていない。

ゲームで彼らが行う『悪巧み』は現実の世界ではほとんど影響が出ないレベルだろう。

ホロコーストやアウシュヴィッツのような残虐な事件が今後一切起きないというだけでも私は儲けものだと思っている。

 

 

 

 

「久しぶりですね、マリーン殿。」

行進を終えた私を待っていたのは懐かしい直司の顔だった。

 

彼の奮闘にも関わらず、二・二六事件は結局防げなかった。

あの事件は歴史の必然性というやつなのだったのだろう。

 

その代わり、石月家ではこの事件を最大限に利用し、天皇が朝敵と定めた陸軍の不祥事に対し、綱紀粛正を訴えた。

この動きは世論を動かし、現在、軍部の影響力は事件前に比べ、かなり弱まっているという。

つまり、このクーデター事件が起きたことによって、史実とは真逆の現象が起きてしまったことになる。

確かに日本はあの時、陸軍側の不手際を徹底的に責めればこんな未来もありえたかも知れなかったのだ。

二・二六事件の直後、軍部に対する国民の不信感は高かった。

史実でも、斎藤隆夫代議士は軍の責任を追及する演説をし、反響も大きかったという。

しかし、やがて、組織の力に負け、議会の除名処分を受けることになる。

今回の場合、石月伯爵家の華族を中心とした貴族院のメンバーが初動から組織化されていたのが大きかったといえる。

 

日本の歴史は今、確実に変わりつつある。

資源問題は未だ続いているが、石油の豊富なクーヘン国との貿易が今後も続いてゆけば、ABCD包囲網を潜り抜けられるだろう。

クーヘンの貿易船は経済封鎖対象にはなり得ないからだ。

この流れで盧溝橋事件も起きずに、日中戦争も起きなければ、幻に終わるはずの私の札幌オリンピック出場も叶うかもしれない。

ただ、ここら辺はちょっと私の楽観視が入ってはいるけれどもね...。

…だって、ここまで来たら、オリンピック出たいじゃんさー!

 

 

芳子(よしこ)、こっちへ来てご挨拶(あいさつ)なさい。

こちらがマリーン殿だ。」

直司が日本語で妹に呼びかける。

 

短髪の顔が整った女の子だ。

洋装なところは今流行りのモダンガールを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 

「ぐ、グーテンターク、イッヒハイセ…

ココンニチハ...、ワタシのナマエハ、ヨシコ、トモウシマス。

...ヨロシクオネガイシマ~ス。」

 

芳子(よしこ)さんね。

片言のドイツ語で一生懸命話そうとする大和撫子(やまとなでしこ)って何か可愛いわね。

 

 

「あ、日本語でいいわよ、芳子さん。

よろしくね。」

 

「えーーー!

嘘ー。

何で(しゃべ)れるの?」

 

芳子さんは心底驚いている様子だった。

...だって、元母国語だもんね。

 

ミンナも私が隣で急に流暢(りゅうちょう)な異国語を話したもんだから、目を皿のように丸くしている。

 

近くの直司もズッコケてる。

あ、そういえば、コイツともなぜかドイツ語で話してたんだっけ。

 

「ま、マリーン殿。

日本語を習得しておられたとは...。

…なぜそれを早く言ってくれない。」

 

直司はちょっとむくれてしまった。

 

 

ごめん、ごめん。

だって、いつも、ドイツ語で話しかけられるもんだから...。

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、今日、お友達も一緒にいらっしゃるって言ってたけど…。」

私は芳子さんの後ろの方を見る。

 

「そう。ボーイフレンドなの。」

すました顔で芳子さんが後ろに立っている白い海軍服を着た子を紹介する。

とても、キラキラした美少年…のように見える。

 

「やあ、僕は伊集院(いじゅういん)(けい)というんだ。

よろしく頼むよ。」

 

伊集院って…まさか。

 

 

 

 

「…伊集院さん、あなた、女の子でしょ?」

 

「な、なにを馬鹿(ばか)な事を言ってるんだ。 

…ちょ、ど、どこを触ってるんだ」

 

(けい)は顔を真っ赤にさせて、身体(からだ)をまさぐる私を見ている。

..うん、うん。ちゃんとあるじゃん。 

サラシ巻いてるけど、こんなに(ふく)らんでる。

...フムフム、しかし、これは私よりも大きいと見た。

しゃいせっ! 神様はなんでこんなにも不公平なんだろう。

…私は天を仰ぎ見る。

 

芳子さんはビックリした顔で私の奇行を見ている。

ミンナは両手で顔を(おお)いながらもしっかり私たちの様子を観察している。

オーガスタはそんな私たちを見てすっかり呆れ顔だ。

もはやこの顔は私たちの中で彼女のお家芸になっている。

 

「わ、わかった。

ぼ、ぼくは、いや、..私はこう見えても女の子です。

家の方針で成人するまで男装(だんそう)するように言われているんです。」

 

「え------っ!

そうだったの!?」

芳子さんは驚いて景の顔を覗きこむ。

 

 

そうそう友達とかにも話さないんだよね。

とき○モの中でも伊集院家の男装は謎の風習だよ。

2の妹ですら知らないんだもんなー

…そのメイちゃんは男装すらしてないわけだから、一体どういう基準になっているのやら..。

 

 

 

 

 

 

今日は女子水泳の観戦の日。

ベルリン・オリンピックで、私はこれが一番楽しみだった。

 

前畑秀子。

和歌山県生まれのこの天才女性スイマーは前大会のロサンゼルスで200m平泳ぎに参加し、惜しくも日本女性初の金を逃した。

優勝したオーストラリアのクレア・デニスとの差はわずか0.1秒。

一時期は引退も考えた彼女だったが、全国からの励ましの手紙に支えられ、一念発起。

再び、4年後のオリンピックに向かって努力し続けることになる。

そして、今日、日本中の期待を背負い、この場を迎えている。

 

対するはマルタ・ゲネンゲル。

ヨーロッパチャンピオンにして、ヒトラーが期待をかけるホープだ。

地元ドイツが一丸となって応援する中、完全、アウェイの前畑嬢!

さぁ、どうする前畑嬢。

歴史に名を残す名勝負が今始まろうとしている…。

 

「もう、放送終了予定時間ですが、スイッチを切らないでください。」

私は河西アナさながらに実況を始める。

そんな私を何が始まったんだとミンナたちは驚きながら見つめている。

 

「ただ今ピストルが鳴ります。

飛び込みました、一斉に飛び込みました。

これが我が前畑とゲネンゲルの競泳でございます。」

「….さぁ、ゲネンゲルと前畑嬢の接戦となりました、他はだいぶおくれました。

前畑嬢、ひとかきリード、わずかにひとかきリード、前畑ガンバレ!ガンバレ!前畑ガンバレ前畑ガンバレ前畑ガンバレ!

あと25、あと25、前畑リード、ゲネンゲルも出ております、がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!あと5m、4m 3m 2m あっ、勝った!勝った!勝った!前畑勝った!前畑嬢、日章旗を掲げました。」

 

私の迫真の実況も相まって、芳子(よしこ)(けい)の日本人2人はきゃいきゃいと大絶叫している。

なにせ、日本人女子初の金メダルである。

喜ばないほうがおかしいだろう。

私も大興奮である。

 

「マリーンちゃんってずいぶん日本びいきなのね。

….別にいいけど。」

ゲネンゲルを応援していたミンナが私のとなりですっかりふてくされてる。

こ、これはまたレアな表情だ。

そんな顔もとっても可愛いよ、ミンナ。

大好き。

 

 

「しかし、すごい実況だったわ…。

一瞬、息が止まるかと思ったわよ。」

 

「...殺人的よね。」

 

河西三省(かさいさんせい)のこの時のラジオ放送は全日本国民を熱狂の渦に巻き込んだ。

当時、心臓発作で運ばれる人もいたといわれるほどだ。

のちにレコード化までされることになる。

 

 

「ねえ、ナオジ様とはどうするつもりなの?」

興奮さめやまぬ私にオーガスタが聞く。

となりでミンナもウンウンうなづいている。

 

 

 

 

「私と夫婦(めおと)になってください。

マリーン・ヘアツォーギン・フロイライン・カーレンベルク殿。」

 

昨日、私は直司から正式なプロポーズを受けた。

 

「カーレンベルク公爵にはすでに話を通してあります。

私の母上も父上も賛成しています。

妹もあなたのことを一目見て気に入ったようです。

日本帝国の輝かしい未来のためにもあなたのその見識の高さ、素晴らしい予知の能力は今後とも必要になってくるでしょう。

私の隣で妻としてその英知をどうか授けてください。

シュトラールのこともあるでしょう。

スケートのこともあるでしょう。

リヒテンシュタイン家との話もあるんでしょうが...

…返事は今すぐでなくてもいいんです。

どうか、私との話も考えてください。」

 

直司は誠実な男だ。

人柄も、悪くないと思う。

ちょっと騙されやすかったり、思い込みの激しいところはあるが、それぐらいの欠点は何とも思わない。

私の前世に多かったように、女を騙して、泣かせる男よりよっぽどマシだ。

 

それに日本だ。

私にも馴染みのある国だし、元日本人としてその食文化は捨てがたい。

 

戦乱の影が見え隠れしている日本に行くのは少しリスクのある話かもしれないが、私の前世の知識を使えば、先の二・二六事件のように、ちょっとは事態を好転できるかもしれない。

 

…しかし、今の私はクーヘンを捨てられない。

シュトラールとなった現在であればなおさらだ。

ミンナやオーガスタとも離れたくない。

 

「一応考えてはみるけれども...おそらく彼との縁談を受けることはないと思う。」

 

直司とは今後とも良い友人でいたい。

 

 

「良かったっ!マリーンちゃん、私たちを置いて日本に行っちゃうんじゃないかって、心配してたの。」

ミンナが私にむしゃぶりついた。

フワっと柔らかな触感が私を包み込む。

 

「フフフ...すると、私の弟にもチャンスがあるわけね。ならば、私は晴れてあなたの『お姉様』に!  グフフ...」

オーガスタが不穏に笑う。

 

…あ、あれ、オーガスタ、キャラ違う...。

 

 

 

何はともあれ、私たち3人は2週間にわたるベルリンオリンピックの日程を満喫するのだった。

 

 

 

最近になって私は思うのだ。

ここはゲームの世界だけど、

同時に現実だ。

 

一見、ゲームの設定に見えてもこの世界なりの理由で動いている。

 

例えば、

「カリスマフレーム」。

私はヒロインが『悪女認定』されたから、ヒロインを誘わなかったと考えていた。

でも、オーガスタから後で話を聞くと、あの時ヒロインと私の接触を極度に警戒していた彼女は、会話にヒロインの名前が出ないように私たちを誘導していたらしい。

ヒロインの電話にしたってそうだ。前世の記憶を改めて思い出してみるが、ゲームではフランシス先生は確か誕生日と好感度を教えるだけで、とき○モの好雄のように電話番号自体は教えなかったはずだ。ゲームの私達はおそらく出会った先のカフェで電話番号交換でもしていたんだろう。今回はそこに異分子(いぶんし)である私が入った。情報管理に厳しい現代人の私は初対面の人間に電話番号を決して渡さない。爆弾処理のために困ったヒロインは、生徒名簿の持つフランシス先生に泣きついたというわけだ。ルードヴィッヒがヒロインからの電話を受けなかったわけは、当時、反乱計画を企てていたルードヴィッヒが生徒名簿に虚偽の連絡先を教えていたからだろう。ゲームでは、ルードヴィッヒがヒロインの能力を認め、招集した科学研究室で初めて本来の連絡先を教えることになっていたのだろう。

タロットやコ○ミコマンドにしても『プラシーボ効果』というやつだろう。

マリーンの私はもともと地頭がいいほうだし、授業や勉強でもそれなりに努力してきたつもりだ。

 

この世界はゲームの中であるけれども、私にとっては現実だ。

ゲームと現実を混合したヒロインの間違いを犯すわけにはいかない。

 

数あるゲーム世界の中で、この世界は数百分の1の可能性で起こった奇跡のバグだ。

将来のことについてもすぐには結論を出さずにじっくりと考えていきたい。

目下、シュトラール活動とスケートのことで頭がいっぱいだ。

使長として、国を民主的に改革していくのもいいし、フィギュアスケーターとして世界を股にかけ活躍していくのもいいだろう。

数百人のマリーンの涙に報いるためにも、これからも懸命に頑張りながらも、ミンナ達、家族をはじめ私を思ってくれてる人達と楽しく生きていこうと思う。

 

 

これからマイネリーベをプレイする人に伝えたい。

ちょっとぐらいウザったらしくて、

悪役っぽくみえても、

私はその中で必死にもがきながら生きている。

 

そして、いつか、あなたにも、私が主役の物語(バグ)に出会えるといいな。

 




これで最終回となります。
ご拝読ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。