やさぐれ少年はエンジェルシスターの夢を見ない 作:ああああああああああああ
突然だが、妹が突然自分よりも年上になっていたらどう思う?
ふざけているわけではない。実際問題、今俺の目の前には妹である牧之原翔子と同じ名前を名乗っている高校生の少女がニコニコしながら俺の目の前に立っている。黒髪のロングヘアーで、左右をそれぞれ少し編み込んでおり、高校の制服に身を包んでいる彼女は、確かに妹の数年後の姿ですっと言われても納得できなくはない容姿だ。しかし、明らかのおかしいだろ。今の俺は、中学三年生。妹は、小学四年生だ。明らかにおかしい。
「で?お姉さんは誰なわけ?」
「兄さんに、お姉さん呼びされるのは、新鮮でいいですね!癖になりそうです」
悪戯っぽく微笑む彼女に、少し心臓が高鳴った。
「知らない人に、兄さん呼びされるのはゾッとするな」
「わぁ~、やさぐれている兄さんも可愛いですね~」
・・・話が通じない・・・
「ウザイ」
「むっ、駄目ですよ。兄さん。女子高生にうざい、ださい、空気読めないは3大禁句です!」
小さな少年をたしなめるかのように、優しく叱りつける少女は、やはり妹とは似ても似つかない。確かに、優しげな雰囲気も、容姿も、声色も、何もかもが妹に似ているが・・・やはり、現実的とは言い難い。
「・・・仮にお姉さんが俺の妹、牧之原翔子だとして何で高校生なの?」
「それはですね~、私か未来から来たからです!」
「・・・ハァ~・・・続けて」
「おや?否定したりしないんですね?」
「たかだか、14年しか生きてない子供の想定内で、世界は回っていないのは良く分かってるから。世界は理不尽で、無意味で、優しくない・・・。何より、俺は無力で無価値だから・・・だから、俺の知らないことが、あっても驚かないよ」
そう、世界は理不尽だ。生まれたその時から、少女に呪いを背負わせるぐらいには。
世界は優しくない。少女や、周りの懸命な努力をあざ笑うかのような不条理を叩きつけるくらい。
俺は無力だ。自分を慕ってくれる可愛い妹が、泣いているのに何もしてあげることができないくらいには。無価値で、無意味で、虚しい、ちっぽけな人間だ。
思わず悔しさで、目頭が熱くなる。視界が歪んでいき、声が漏れそうになる。だけど、俺が泣くのは嘘だ。翔子は、もっと泣きたいはずだ。周りに迷惑を・・・心配をかけないために、気丈に笑顔を振りまいて不安と闘っているあの子の方が泣きたいはずだ。
無理やり、涙を押し込めようと顔を上げた瞬間、ふわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐった。暖かい、優しいぬくもりが伝わってきてようやく俺は、抱き着かれているのだと悟った。
「兄さんは、無力なんかじゃないですよ。私は、いつも兄さんに助けられてきました。不安に駆られて、押しつぶされそうな時、海に連れてきてくれたのは兄さんです。私の弱めを聞いてくれたのも、優しい言葉をかけてくれたのも兄さんです。何がっても、変わらず接してくれたのは兄さんですよ」
「・・・でもッ!そんなことじゃ何も変わらないッ!・・・翔子の病気が治ることはない」
「それでも、私は兄さんの優しさに救われました」
「・・・・・・・・・・・・信じられないけど、納得はする」
そう言って、俺は抱き着かれている腕を、優しくほどき
「確かに、お前は牧之原翔子だ」
「・・・納得してくれるのは、そっちですか・・・」
ひどく寂しげな声が、小波にさらわれる。
「それで?未来から来た俺の妹は、過去に何をしに来たのかな?」
「それはですね・・・」
「ハァ~、懐かしい夢を見た」
「あ?起きましたか?兄さん」
重すぎる瞼を開けて、視線を横に向けた。案の定、そこには翔子がいた。
「ああ、起きた。起こしてくれてありがとう。朝から、天使のようにかわいい妹に起こしてもらえる俺は幸せだ~だから、部屋に戻って用意をしてきなよ」
体が重い。意識は起きているはずなのに体がついていかない。全身の細胞が睡眠を求めてストライキを起こしているようだ。
「ここで目を離したら、兄さんは二度寝してしまいそうなので却下です!」
「・・・睡眠は何にも勝るんだ。細胞が、ストライキを起こしてるんだ。細胞にも、有給休暇を与えるべきだろ?」
枕に顔をうずめながら、眠い頭で考えついたくだらない言い訳を並べていく。
「いいから、起・き・て・よッ」
翔子は力いっぱい、俺の枕を引き抜く。
「ハァ~、起きる。起きるよ」
体を起こし、あくびをする。体を、ぐぐーっっと伸ばしベットから降りる。
「じゃあ、私は先にご飯食べてますから」
「お~」
翔子が出て行ったのを確認して、寝間着を脱ぐ。桜は散りは終わり、新学期が始まり少しした春の朝。窓から見える、景色は爽快だが、俺の気分は曇天だ。
「ハァ~、マジで朝だるい・・・」
朝早くに、人間が起きるというその行為自体もう何か間違ってる気がする。だって、そうだろう?体は休みたがっているのに、無理をさせて起きているのだ。体に良くないだろう。学校は、午後からになるべきだと思う。
そんなバカなことを考えながら、制服にそでを通す。
「さて、朝食済ませていくとするか。峰ヶ原高校へ」