目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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26 :問3・マリサとサトリと天音小鳥とキョウマと……

「あの大蛇丸のアジトまで行ってたんですか……悟さん」

 

 黙の話を聞き続けすっかり話の内容に興味を示すようになったハナビの呆れた様子のその言葉に黙は

 

「……実は今そこは(くら)隠れの里と名乗って小規模ながら隠里として運営を始めているんだ。 君にここに来るようにと伝言を頼んだミノトさんから暗隠れから木ノ葉の復興支援のために何人か向かっているそうだとも教えられたね……」

 

 少しだけ先の話を面白そうに語る。 その内容は到底思い至るはずもないものでありハナビはまたしても呆気に取られるが直ぐに小さく笑って見せる。

 

「ふふふ……突拍子もない話ですが、でも何となくですけど悟さんらしいですよね。 本当に無茶苦茶な人ですけど、自分には厳しく人には優しく……だからこそ皆悟さんを心配して信じてくれる」

 

 そんなハナビの言葉に

 

「……そうだね、()じゃなきゃ()()はなってない」

 

 しみじみとした表情を浮かべ黙も同意を示した。 そしてここに来て初めてハナビは思い至る。

 

(……この黙って人も悟さんを信用している人のひとりなんだ……そうだよね、同じ体を共有しているってことはそれだけ……)

 

 ハナビの暖かい視線に気がついた黙は、一回咳ばらいをして見せ話の続きをし始めるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 軽重岩の術での移動の最中に悟とキョウマは小さな村に立ち寄る。

 

 直接大蛇丸のアジトに向かう前にある程度の準備をするために村の商店で色々と買い出しをする悟。

 

 宿屋で待機していたキョウマは慣れない空の移動に、若干気分を悪くしながらも何やら巻物に一筆したためていた。

 

 そこに悟が戻ってくると、何かをキョウマに向け放り投げ自分は床の座布団に腰かけ購入したパンにかじりつく。

 

「……これは……仮面か?」

 

「ほう、はふがにひょうははんは──」

 

「行儀が悪いぞ」

 

「……むごむぐ……ゴクンッ……流石にキョウマさんが素顔で動き回るのもアレかなって思って……シンプルなやつですけど買っておきました」

 

 キョウマは手渡された黒一色の仮面に目を落とすとそのまま着けて悟に見せる。

 

「どうだ、似合うか?」

 

「……似合うも何もないでしょうに……取りあえず貴方が仮面着けている間は互いに偽名で呼び合いましょう……私は……『サトリ』とでも呼んでください」

 

「天音小鳥じゃないのか? それにサトリって……ひねりが無い、里で使ってたというマリサとかいう偽名も、マリエとお前の名前の頭文字を取っただけだろ? 意味を込めろよ、意味を」

 

「むっ? ひねり何て要らないんですよ、世に知らし示すメインは天音小鳥の方なんでそれ以外の偽名は適当でもバレなきゃいいんです……それじゃあ貴方は『仮面』とでも呼びましょうか」

 

「ひねりが無い所か、そのまんまじゃねぇか……もう少しなあ──」

 

「今後のことで私に決定権をゆだねるといったのは貴方ですよ? 異議は受け付けませ~ん」

 

 腕でバツ印を作ってキョウマの意見を跳ねのけた悟はそのまま自身の手首と足首に、鉄の国で作成した鉄輪をはめ始める。

 

 子供みたいな悟の態度にキョウマは微妙な表情を浮かべるも、その鉄輪の存在に注意が向き質問をする。

 

「で、それは何のための鉄輪だ? わざわざ自身のチャクラを抑えるためにそんなものを装備する理由があまり思い至らないんだが……」

 

「単純に隠密行動するためですよ。 私のチャクラの特徴を知っている人間に正体がばれるのを防ぐ役割です」

 

「って言ってもそんな鉄輪、着けているだけで動きに制限がかかるだけだろう……本当に必要なのか?」

 

「まあ、動きはかなり鈍りますけどそのための()()()……尾異夢・叉辺流です。 チャクラを溜めておけるので、ある程度の融通が利いて──」

 

 悟が尾異夢・叉辺流を構えるとチャクラの刀身が伸びる。 その様子にキョウマが興味を持った眼になると、悟が小さな掛け声をもらしたことで尾異夢・叉辺流の刀身が赤く染まる。

 

「こうしてチャクラコントロール、性質変化のみで幅広い戦闘を可能にします。 便利でしょ?」

 

 尾異夢・叉辺流の刀身に火遁のチャクラが流れていることで、離れているキョウマにも若干の熱が感じられ感嘆の声をもらす。

 

「確かに……便利なもんだ、五遁を扱えるお前なら様々な場面に対応できるだろうな」

 

「でしょ?」

 

 二へへと笑って見せた悟はその刀身の熱で、パンを炙ってみせ短めに生成した風の性質の緑の刀身を使ってパンを切り分けて見せた。

 

「調理に便利!!」

 

「…………それでいいのか?」

 

 自信満々のどや顔の悟に、キョウマは悟が性格に若干の天然を含んでいることを認識して小さなため息をつくのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 そして再度、軽重岩の術での雲の上での移動が始まる。

 

 黒いシンプルな外套に身を包んだ二人はしばらくの移動の途中、何かに気がついたように移動を止めた。

 

「……地上で何か起きているな、関わるのか?」

 

 察した様子のキョウマの様子に、悟はキョウマに向き直ることもせずに地面に向け飛ぶ。

 

「アンタも私の考え方に早く慣れた方がいいよ!! 仮面!!」

 

 先に1人雲の下に行った悟に呆れつつもキョウマもその後を追った。

 

「名前だけじゃなく、態度も変えるとはな……まあ変にかしこまった態度を取られ続けるより、俺的にはいいか」

 

 

 

 そしてキョウマが地上近くに来ることで、その感じた異変の正体を確信する。

 

(焼けた集落……盗賊の類による襲撃かなにかか)

 

 キョウマの見た光景は木と藁で出来たシンプルな家々が燃え逃げ惑う人々。 そして……

 

「暁万歳っ!!!! あぁかつっき、ばあぁんっざぁいい!!!!」

 

 奇妙な言葉を叫びながら、火事の元凶である盗賊らを尾異夢・叉辺流で切りつける悟の姿であった。

 

 迅速に動き、盗賊らを切り伏せ行動不能にしていく悟のその奇妙な行動にキョウマは

 

(……関係者だと思われたくねぇなぁ……)

 

 と思い人に見られないように静かに地上に降り立つと隠密行動で悟の様子を観察するのであった。

 

 

 

 

 数分もしないうちに十数名いた盗賊らは、尾異夢・叉辺流の餌食となり足やら腕を負傷させられ文字通りお縄についた。

 

 悟は盗賊らを襲う中でただひたすらに、暁万歳と唱え続けそこにいた住民たちすら盗賊を撃退したその悟に近づくのを躊躇していた。

 

 消火活動も尾異夢・叉辺流の水遁性質の刀身による薙ぎ払いで終えた悟は住民たちの様子を見るとそのまま何も言わずに駆け出し隠れていたキョウマの元へと行く。

 

「おまたせ、じゃあ行こうか」

 

「もういいのか?」

 

 何かしらお礼でも貰ったほうがいいと暗に言うキョウマに悟は軽重岩の術を発動しながらウインクをしながら答えた。

 

「大変な目にあった人たちに、何かを求めることはしないよ。 それじゃあ出発っ!!」

 

 そしてそのまま、二人は雲の上へと消えた。

 

 

 

 その日から各地で噂が広がり始める。

 

『暁万歳と唱える、謎の少女が突如現れ悪者を成敗する』  

 

 そんな噂が……

 

 

 そんなこんなで移動を続けていた悟とキョウマだが、大蛇丸の北アジトまであと一歩のところで降り立った場所である光景を目の当たりにした。

 

 

 ボロボロに崩壊した集落。 そしてそこにある痕跡で二人は直ぐに気がつく。

 

「忍びの仕業か……」

 

「土遁の形跡がある……土の国が近いし岩隠れの連中の可能性もあるね。 ……どうしてこんなことを」

 

 心底信じられないといった様子で歩き、ぐちゃぐちゃになった地形をあるく悟にキョウマが語る。

 

「残念だが別に珍しいことじゃない……この様子だと岩隠れと他里の忍びの戦闘に巻き込まれたんだろう。 言っておくが俺たち木ノ葉の忍びにだってこういう戦闘を良しとする者は少なくない、敵さえ打倒できればいいとな」

 

 キョウマのその言葉に小さく歯ぎしりの音を響かせた悟は、道端に転がっていたここに住んでいたであろう男性の亡骸を抱えて歩き始める。

 

「……どうするつもりだ?」

 

「……燃やして土に埋める。 野ざらしにしておくよりはっていう……只の私の自己満足」

 

「……俺も手伝おう」

 

 こういう戦闘の跡地には、後から来た敵を始末するためのトラップなども多い。 キョウマからそう教えられた悟は、彼と共に転がる死体を出来る限り集め埋葬を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 警戒しながらの埋葬に思ったよりも手こずった2人は日が落ち始めていることに気がつき、崩壊して家の体を成していない建物に入り腰を下ろす。

 

 ため息をつき疲れた表情をしている悟にキョウマが声をかける。

 

「……疲れたか?」

 

 その言葉に悟は、無理した作り笑いをして答えた。

 

「……流石に……ね?」

 

 壊れた屋根からさす月明りのしたで悟は無言になり、体を横にする。

 

「キョウマさんは……こういうのに慣れてるんですか?」

 

 そっぽを向いた状態でそう語りかけてきた悟にキョウマは

 

「暗殺戦術特殊部隊だったからな……正規部隊よりもさらに、おぞましい人の死には近かったと思う。 だが……慣れてはいないし慣れる必要もないと思う。 ただ……表に出さなくなるだけだ」

 

 感情的にはならずとも少し悲しそうな声色でそう述べた。 「そうですね」と同意を示した悟にキョウマは

 

「見ててやるから、少し寝ろ。 気休めだが気分がマシになる」

 

 そういって建物の外へと出ていった。

 

 1人になった悟は、小さくすすり泣くような音を響かせながらそのまま眠りへとついた。

 

 

 

 

 

「案外脆いもんだな、お前さん」

 

 精神世界で話しかけてきた守鶴に気分が悪そうに悟が答える。

 

「脆かろうと、私は目的を成す……傷を負っても、誰を前にしても……最終的にやることはやるつもり」

 

「へへ、そうかい……」

 

「何? 我愛羅みたいに私の睡眠の邪魔でもするつもり?」

 

「分体の俺様じゃ、てめぇ相手には嫌がらせは意味が無さそうだからなぁ……無駄なことはしねぇよ」

 

「……」

 

「嫌がらせは意味無さそうだから、話かけて寝かせねぇことにした。 そうだなぁ……てめぇが俺様を求めた理由でも聞かせな」

 

 悟はミニサイズの守鶴がどういう意図で自分に話しかけてきたのかを察して不貞腐れたようになりながらも口を開く。

 

「……アンタの本体は未来で、我愛羅の中から抜かれる。 それで人柱力である我愛羅は死ぬんだけどその時に分体でもアンタを我愛羅の中に戻せば、生き長らえさせることが出来るかもって……分裂体の時の私が思いついたんだ。 ……1人に戻った時はアンタが居ることに驚いた感情と、納得している感情が入り乱れて混乱したっけな」

 

 そんな悟の言葉に守鶴は

 

「…………マジかよ」

 

 とその言葉に驚きつつも

 

「だが、そんなこと本当に起きんのかァ? 言っちゃあアレだが、我愛羅の奴は俺様が嫌がらせしててあの強さだぜ? 分裂しているお前にノされたのは気に喰わねぇがその内もっと強くなるだろうよ」

 

 と我愛羅が自分の本体を抜かれる場面になるとは信じられないと口にした。 その様子に悟は

 

「……何だかんだで我愛羅のこと信用してんだね」

 

 と小さく笑って口にした。

 

「ちっげぇーよっ!! 客観的に見てモノ言ってんだ、俺様に舐めたこと言うんじゃねぇぞコラぁ!!??」

 

 守鶴が心外だと怒り、ジタバタするとその動きの愛らしさに悟が笑いその様子に守鶴はさらに機嫌を悪くした。

 

 そんなやり取りの末に、守鶴はゼーゼー息を整えながら投げやりに悟へと語りかける。

 

「まあ、んなことはどうでもいい……それよりも俺様とあのバカ狐の力に親和性を示すたぁてめぇは珍しい存在だなぁ? まあ千手とうちはのチャクラを感じる時点で異常なのはわかりきってることだが……」

 

 そんな守鶴の言葉に悟も興味を示し質問をする。

 

「そういえば、九喇嘛にも千手柱間とうちはマダラのチャクラがどうのこうのって言われてたっけな。 バカ狸は気づけない的なことを言ってたけど、やっぱりわかるもんなんだ……実際どんな感じなの?」

 

「ああ!? 気づくわ!そんなもんっ余裕じゃ!! 何か隠そうとしている術式の反応も分かるがもう4割ぐらいしか機能してねぇからな、てめぇが歪な存在だってのは容易に感じられる……つーか中忍試験だか何だかの時と比べて、チャクラの質が変化しすぎててあん時のガキと同一人物かどうかのほうが最初はわからなかったぜ」

 

「チャクラの質……? そう言えば九喇嘛にもそんなことを言われてた気が……」

 

「つーかあの野郎、しれっと俺様の事バカ狸とかぬかしてやがったのか!? 俺様がいねぇとこで勝手言いやがって!!!!」

 

「……守鶴もさっきバカ狐って言ってたじゃん、お互い様ジャン」

 

「アノ傀儡使いのガキのモノマネ止めろォ!! 俺様は良いだよ俺様はっ!! 九喇嘛の野郎よりは頭がいい自信があんだよっ!!」

 

「……じゃあ、アカデミーで出た問題でも解いてみる? 九喇嘛が出来るかは知らないけど、もし今度会った時に比較できるし」

 

「オウオウ、やってやろうじゃねぇかヨォ!!」

 

 そうして悟と守鶴は忍者アカデミーでの問題を出し、それを解くといった流れになり時間を潰すのであった。

 

 

 

 

 

「ねぇちょっと……難しい問題になると文字通り狸寝入りするのやめてよ、先に進めないじゃん」

 

「ぐ、ぐおー……ぐおー……」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 こうしてキョウマと悟は互いに後退しながら睡眠を取り合い、朝を迎える。

 

 気力を吹き返した悟は家屋の外に出ると、ある1つの気配に気がつく。

 

「……ここに向けて誰か近づいて来てるみたい」

 

「様子はわかるか?」

 

 同じく出発の準備を進め仮面をつけたキョウマのその問いに悟は感知をしつつ答える。

 

「動きも遅いし……チャクラもほとんど感じられない。 一般人みたいです」

 

「逃げていた村の生き残りか?」

 

 立ち上がったキョウマと共に悟はその気配の元へと向かうことにした。

 

 そうして気配の元へと来ると、二人は子どもを抱えた1人の女性を目の当たりにする。

 

 女性はやせ細りやつれた様子でフラフラと歩いていたが2人を見つけると目つきを鋭いモノへと変え叫ぶ。

 

「っ……貴様ら、あの忍び達の残りかっ!?!? 許せない……っ」

 

「……ママ?」

 

 憎しみのこもったその叫びに、腕に抱かれた子供が小さく呟く。 悟は焦り、それでも両手を挙げ無害なのをアピールする。

 

「事情は分かりませんが、私たちに敵意はありません!! 落ち着いてくださいっ!!」

 

「だまれっ!! アンタたちは何者よォ!?」

 

 警戒心を緩めない女性が狂ったように叫び、悟たちの正体を問う。 どうにか出来ないかと悟が困っているとふと隣にいるキョウマは微動だにしていないことに気がつく。

 

「ボーとしてないで仮面、アンタも手を挙げて彼女を落ち着かせないと……っ」

 

 そう言う悟の言葉に、キョウマは仮面の奥の瞳を鋭いモノに変えて一言発した。

 

 

 

「猿芝居は止せ」

 

 

 低く圧のこもったその一言。 キョウマがそう発した瞬間にその女性は手に抱いていた子どもを投げ捨て、一般人とは思えない跳躍を見せ悟めがけ隠していたクナイを突き刺そうとする。 しかし

 

「甘いな」

 

 悟を庇う様に前に出たキョウマはそのクナイを受け流すように手首で逸らし、弾いて女性の手から落とすとそのまま手を捻り上げ女性を拘束する。

 

「サトリ、子どもを保護してくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 呆気に取られつつも、悟は投げ捨てられうずくまっている子どもの元へと向かう。 その間にキョウマが拘束する手に力を籠めると、女性は煙を上げその姿を忍び装束へと変えた。

 

「ちっ……何故……!?」

 

 女性のその言葉にキョウマは

 

「てめぇらのやり口を良く知ってるもんでねぇ……悪いが容赦はしない」

 

 拘束した女性の首を彼女が持っていたクナイを用いて切りつけ、瞬時に絶命させた。

 

 子供を抱きかかえた悟はその光景に苦虫を嚙み潰したように表情を曇らせる。

 

 そんな悟の様子に気がつき、キョウマは女性の身体を解放し地面へと横たわらせると口を開く。

 

「こいつの装束は岩隠れのもんだが……これは偽装だ」

 

 そういってキョウマは女性から離れるように悟へと近づく。 すると女性の遺体は霧散するように消え去っていった。

 

「これって……っ!?」

 

 思い当たる節のある悟の呟きにキョウマが同意を示して話す。

 

「木ノ葉の根の忍びだろう……恐らく岩隠れに潜入中の1人だ。 その子供を村から攫い、母親の振りをして懐柔し……敵の油断をさそうって方法だ。 遭遇したのが俺たち以外だったら、相手を不意打ちで拘束でもして情報源でも得られただろうが……相手が悪かったな」

 

 そういってバツの悪そうにするキョウマに悟が彼が暗部として得てきた経験の厚さを感じ取り、何とも言えない沈黙が流れる。 しかし

 

「ママぁ……」

 

 悟の腕に抱かれた子供はむなしくも母を呼び続けていた。

 

「その子の本当の母親は既に……俺たちが埋葬した中にいたんだろうな……その子はどうする?」

 

 キョウマの気の毒そうな言葉はその子どもには届いてはおらず、先ほどまで自分を抱えていたはずの母を求めるような言葉を発していた。

 

 しかし

 

「この子……目が……」

 

 悟のその言葉に、キョウマも気がつく。 子どもは濁った瞳を見開き、斜視の状態で空を見ていた。 悟の腕に抱かれつつも、何も事態を把握できていないその子は何度も母を呼ぶ。

 

 悟が表情を曇らせると、キョウマは悟からその子供を奪い取りクナイを構える。

 

「キョウマさんっ!!??」

 

 いきなりの事に驚き叫ぶ悟に、キョウマは目線を子どもに向けたまま語りかける。

 

「……親を亡くし、眼も見えない。 身寄りもない以上この子に未来は……それどころか明日もない、ここで終わらせてやるのがせめてもの救いになるだろう」

 

「ッ……」

 

 反論が出来ない悟は悲痛な表情で地面に視線を落とす。 キョウマは悟の優しさに共感はしつつも、この事態は仕方が無いことだと割り切り一呼吸の後に

 

「痛みはないようにする……」

 

 クナイを振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 

 しかしそのクナイは子どもに刺さることはなく、代わりにその刃を悟が握りしめ止めていた。

 

「……悟」

 

 キョウマがどういうつもりだと名を口にすると、悟は涙を流しつつも口を開いた……震えた声のまま。

 

「駄目です……例えそれが最善だったとしても……俺には見過ごせません……っ!!」

 

「だが、どうする? わざわざこの子のために里親でも探すか……? 目が見えない、衰弱しているっこんな子供を好んで引き取る者を探すのは……時間の無駄だっ!!」

 

 口調が強くなったキョウマのその言葉に、悟は

 

「……それでも、貴方にこんなことはさせません……だって

 

 

 

 

手が震えてますよ……キョウマさん」

 

「ッ……!?」

 

 悟の刺激に驚いたようにクナイから手を離したキョウマは驚き自身の手を見つめ……震えを確認する。

 

「……ッ」

 

「最善手だからといって……それをやる必要はないんです。 時には甘えた選択肢だって取ったっていいじゃないですか……」

 

「だが……どうすることが出来る? 少なくとも今は根無し草の俺たちが子どもの面倒を見続けることは出来ないぞ……っ!」

 

 現実的な観点で見れば、キョウマが正しいのは悟も理解している。 しかし悟はキョウマにも木ノ葉丸という息子がいる以上、子どもを殺すことに何の抵抗もないとは思ってもいない。 ただ行動を決行することが出来るだけで、心は傷ついてしまう。

 

 悟は手を放しクナイを地面に落とすと、適当な野草を千切り口に当てる。

 

「──♪」

 

「ッ……おま──ッ」

 

 『魔幻・草笛の音』その術によりキョウマとその腕に抱かれた子供は意識を落とす。 そんな2人を抱えた悟は無言で先ほどまでいた村の跡地へと引き返すのであった。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 キョウマが目を覚ますと、何やら会話をする声が聞こえる。

 

「サ~ト~リ、私の名前はサトリっ!」

 

「サ……ト……リ?」

 

「そうそう、良く言えましたっ!!」

 

 先ほどの子ども相手に名前を教え込んでいる悟の様子にキョウマは納得のいかない表情を浮かべながら声をかける。

 

「で……どうするつもりだ?」

 

 幻術を不意にかけられたことで機嫌の悪くなっているキョウマに悟は子どもから距離を取り小声で話しかける。

 

「この子、どうやら先ほどまでのやり取りは記憶していないみたいです。 投げ捨てられた衝撃で意識と記憶がおぼろげになってたようで……なのでこの子には私たちはお母さんに頼まれて預かることになった人間だと幻術で刷り込んでおきました」

 

「……連れて行くのか?」

 

「はい……まあ、色々考えが無いわけではないですので……責任を持って連れて行きます」

 

 悟の決意を固めた表情に、キョウマは頭をかきつつ

 

「……了解した。 お前の意見に従うって言ったからな……たくっ……」

 

 そう言って悟の意見に同意した。 不満があるように見えるが、しかし悟は彼が若干ながら安心している様子にも気がつきつつも視線をその子どもへと向けた。

 

「さて、君の名前を聞かせてくれるかな~?」

 

 あやすかのような声に子どもは気がつきつつも、首を傾げる。

 

「……?」

 

「あれ……?」

 

「まさかだが……名前を覚えていないのか?」

 

 キョウマのその言葉に悟はハッとし、子どももゆっくりと頷く。

 

「「……」」

 

 早速気まずい雰囲気になった悟とキョウマだが

 

「じゃあ、私たちが名前をつけてあげようっ!!」

 

 悟がそう切り出すと、子どもは僅かながらに顔を綻ばせる。

 

「それじゃあ──」

 

「待てっ!! お前のセンスは当てにならないっ!! 俺が決めるっ!!」

 

 悟の言葉を遮ったキョウマ。 そんなキョウマの発言に異議を出そうとガヤガヤ文句を言う悟だが、キョウマはそんな悟を無視して考え腕を組む。

 

 そして

 

「よし決めた、お前は俺たちの……いやサトリには任せられないから俺の子どもとしてこれから育てる……つまり俺の子どもだから

 

 

 

 

 

 

()()()()だっ!!!」

 

 

 自信満々にそう宣言したキョウマ。 口をポカーンと開けた悟は

 

「………………良いっ!!」

 

 そう呟いた。

 

「だろう?! っお前とは違って俺の子どもだという意味をちゃんと込めて考えたんだ、良いに決まっているっ!!」

 

 ワヤワヤ盛り上がる悟とキョウマ。 そんな2人の雰囲気にその子供キョウコは笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りを悟の精神世界から見ていた守鶴は内心

 

「ケッ……似た者同士だな……」

 

 と思っていたが悟に余計なことを言うと後が怖いため、黙っていることにしたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

  

 そしてキョウコを連れて、悟たちは移動を再開させた。

 

 大蛇丸の北アジトが近い事とキョウコの負担も考え雲の上の移動を止め、地道に歩くことを選択した2人は道中キョウコとの会話を続けていた。

 

 しかしそれで分かったことは……何もなかった。

 

 両親や村での生活のこと、そう言った記憶はキョウコからは抜け落ちており困った表情を浮かべるキョウマだが悟は明るい声でキョウコに語りかける。

 

「なら新しいことを覚えればいいさ、私の名前は~?」

 

「サトリっ!」

 

「そうそうっキョウコは物覚えがいいね! キョウコをおんぶしているのはキョウマって名前のおじさんだよ~?」

 

「っ誰がおじ──っ! いや、おじさんか……それでもいいが俺の名前を呼ばれるのは困るな……」

 

「こまるの?」

 

「っ……仕方ない、俺のことは『かめん』と呼んでくれ、わかるか?」

 

「キョウマはかめん……?」

 

「そうだ、そうだっ!! 木ノ葉丸より覚えがイイんじゃないかっ!?」

 

「……オイ、それ木ノ葉丸が聞いたら泣くよ親父殿」

 

 なんやかんやで3人は和気あいあいと和やかに雰囲気で道中を行った。 悟もキョウマも……この世界が辛いものだと知っているからこそ、優しい選択を取ったことに心が癒されていたのだ。

 

 そして……

 

 岩肌が山のように突起している地形へと入りこむと悟が懐かしい光景を見るような眼で感嘆の声をもらす。

 

「漫画で見たのととても似た地形だ……」

 

「何だって?」

 

「いや何でもないよ……それより仮面、そろそろアジトが近いと思うからここらへんで待機しててくれない?」

 

 悟の言葉にキョウマは心配そうに声をかける。

 

「良いのか? お前1人で何て……」

 

「逆にキョウコをあそこには連れて行けないから……仮面に見ていて欲しいのよ。 別に戦闘面では、私一人いればいいつもりだし何よりも……

 

 

 

 

此処に来たのは私の修行の為でもあるんだから」

 

 そう言って悟は軽重岩の術でその場から飛び去ってしまった。

 

 残されたキョウマとキョウコ。 仕方ないと呟いたキョウマは開封の術で巻物から野宿セットを取り出すと取りあえずキョウコと昼飯を済ませることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、大蛇丸の北アジトの最上階の牢の隅にて1人の男がブツブツと呟いていた。

 

「そうだ……次に扉を開けた奴が男なら……いや女……女なら……ぶっ殺す……キヒヒッ」

 

 

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