目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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28:変わらない本質

 次の日の朝、布団で目を覚ました悟は身体を布団から起こして朧気ながらに言葉を発する。

 

「わた……し、じゃなくておれ……?……アガリ、きょうのよていは……あれ、わたしいまどこにいるんだっけ……?」

 

 寝ぼけている様子の悟が窓から差し込む朝日に眼を向けると、そんな彼に声がかかる。

 

「悟ちゃん、おはようっ!! 朝ご飯できてるわよ!!」

 

 ハツラツとして声に活力がみなぎっているマリエが一声だけかけそのまま忙しそうに何処かに行ってしまう。

 

(あれ……施設に帰って来て……違うな……ここは──)

 

 段々と思考が平常時に戻ってきた悟は、ウトウトしながらも用意されていた普段着に身を包むと簡易的な台所とダイニングが合わさった部屋へと向かう。

 

 そこでは小さなちゃぶ台の上に2人分の食事が用意されており、既にマリエが座ってご飯をよそっていた。

 

 そんな光景を目の当たりにした悟は一瞬目がしらが熱くなるのを感じつつも、それをこらえてマリエに声をかける。

 

「おはよう、マリエさん……美味しそうですね」

 

「おはよう、悟ちゃん……まだ眠そうね、フフフ……久しぶりに悟ちゃんにご飯を振舞うから奮発しちゃって……///」

 

 朝食とは思えない量の多さに悟は床に引かれた座布団に腰を下ろしながらマリエに質問をする。

 

「今の木ノ葉でここまで贅沢な食材の量をどうやって集めたんですか……?」

 

「食料の保管庫がほぼ全て吹き飛んだから、期限が切れそうなものから優先して配分されてるのよ。 腐らせてしまうなんて勿体無いじゃない?」

 

「なるほど……」

 

 事情を把握した悟は手を合わせながら、頂きますと呟く。

 

 そうして食事を口に運ぶと

 

「悟ちゃん……?」

 

 マリエが心配する声を出すように、悟は涙を零していた。

 

「っ……ハハハ、久しぶりのマリエさんのご飯に感動しちゃったかな? 覚えてた奴よりも、うんと美味しくって……つい……」

 

 少しお道化て見せる悟に、マリエもまた食事に手を付け涙を零す。

 

「……マリエさん?」

 

「別に変なことじゃないわ。 昨日の夜、寝る前に貴方から聞かされたこれまでの数年間の話はとっても大変だったって想像がつくもの。 こうやって落ち着いて……安心して誰かと食事をとる機会なんて少なかったはず……私も貴方とこうしてご飯を食べることが出来て……安心して涙が出ちゃうわ」

 

 こうしてお互いに笑顔でボロボロと涙を流しながら、二人は多めの朝食を食べきったのであった。

 

 

 

 食事を終え、二人で皿を洗っていると簡易的な家の玄関の戸がノックされる音が聞こえる。

 

「すみません、火影補佐のシズネという者ですが……蒼鳥マリエさんはこちらにいらっしゃいますか?」

 

 その声の主に気がついた悟が手早く手を拭き戸を開けると外に立っていたシズネは露骨に驚いた表情を浮かべて後ずさる。

 

「おわっ……!? あ、そうか悟さんでしたね失礼しました……つい」

 

「ハハハ、天音小鳥って勘違いしました? まあ、前まで警戒対象だった人物の顔が出てきたらびっくりしますよね、分かりますよ」

 

 シズネが申し訳なさそうにブンブンと頭を下げると、悟も困った表情でそれを止めようとする。

 

「それよりも、マリエさんに何か用ですか?」

 

 埒が明かないと悟が話を切り出すと、ハッとしたシズネが慌てて口を開く。

 

「あ、そうでした。 ある程度の人員と食糧庫の設備が仮ですが用意できたので炊き出しも今日で最後にしていただいて構わないという連絡に来ました」

 

「ああ、なるほど」

 

 シズネの話の内容に悟が納得し(やることなすこと、対応が早いな……流石木ノ葉)と関心を示すと、彼の背後からマリエが顔を覗かせて

 

「了解しました~。 それじゃあ渡された食料は今日中に使い切ってもいいんですね?」

 

 と確認を取る。

 

「問題ありません、それでは私は失礼します!!」

 

 シズネがビシッと敬礼してその場を去っていった。

 

 その一瞬で態度の変わったシズネの様子に疑問を持った悟がマリエに振り返り問う。

 

「……何かマリエさんに対して妙な態度じゃなかったですか、シズネさん」

 

 その問いにマリエは恥ずかしそうに答える。

 

「……昔その……叩きのめしたことがあって……」

 

「叩き……のめした……?」

 

(年上のシズネさんを……? なんで……?)

 

 

 気になるからと話を続けていたら埒が明かないことを悟った悟は好奇心をグッと抑えて朝の身支度は終わらせるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

『施設の関係者と話があるから、悟ちゃんは自由にしててね~』

 

 と言われた悟は火影岩の崖の上に来て里を見下ろしていた。

 

 崖上の場所のため吹く風が強く、しかし逆にそれが今の悟には心地よく感じられる。

 

 今の悟の立場が立場なだけに、大人しく過ごそうと人の少ない所を選んで時間を潰すことにしたのだが……

 

(そろそろ……原作だとサスケがキラー・ビーを襲ったの何だので雲の忍びがサスケの情報を求めて木ノ葉に来るはずなんだけど……まだ来た様子はないし……気にしても無駄かな……今は大人しく体力の回復に努めるか……)

 

 そう思い、地べたに寝転がり瞳を閉じた悟。

 

 それから少し時間が経つと人の気配を感じて目を開けた悟は、姿を見られないようにと身近な木々の上に飛び乗って様子を伺う。

 

 すると……

 

「さあ、ここでいいでしょう!! ではゴールの設置をして行きますよォ!!」

 

「ゲジマユの兄ちゃん、ホントにここで良いのかコレっ?」

 

「何で私まで……昨日夜更かししたから寝不足なのに……クァ……あふぅ……」

 

 張り切った様子のロック・リーと、布地を運ぶ猿飛木ノ葉丸と日向ハナビが姿を現した。

 

 そんな三人を目にした悟は(珍しい組み合わせだな……)と思い暫く様子を伺うことにした。

 

 何やら徒競走のゴールのような物を設置し始めている三人は悟に見られているとも気がつかずに設営していく。

 

「ガイ先生とカカシ先生、ライバルであるお二人が速さで勝負するとおっしゃってここを指定しましたっ!! お二人の走る姿はきっと下忍のお二人にも得るものが在るはずですっ!!」

 

「俺はナルト兄ちゃんに修行見て貰いたかったのになぁ……コレ」

 

「私は白さんに稽古を……」

 

 テンション高めのリーとは対照的に、木ノ葉丸とハナビはため息を多めについていた。

 

 しかし

 

「あれ、おかしいですね……上手く地面に固定できませんよぉ?」

 

 リーが首を捻って持ち込んだ鉄棒と睨めっこを始める。

 

「ゲジマユ兄ちゃん、使い方聞いてなかったのかぁコレェ!?」

 

「……呆れた」

 

 下忍二人に呆れられた表情で見られるリー。 流石の本人も申し訳なさそうに年下に頭を下げているその様子に悟は

 

「……はぁ……全く、何やってんだか……」

 

 見ても立ってもいられずに、変化の術を使い前世の自分の姿になって三人に声をかける。

 

「どうかしました?」

 

 不意に声をかけられた三人が驚きながら振り向くと、そこには黒髪癖っ毛で、目元が前髪で殆ど隠れた少し細身の男性が立っていた。

 

「実はここにこの設備を設営したいのですが……面目ないのですが使い方を聞き忘れてしまいまして……」

 

 落ち込んだ表情でそう答えたリーに変化した悟は

 

「ああ、僕はこのタイプのモノなら設置したことありますねぇ……手伝いますよ」

 

 と丁寧に助力を申し出る。

 

 その申し出に嬉しそうにするリーだが下忍2人は

 

「兄ちゃん、木ノ葉の人間か? 見た覚えないぞコレ」

 

「……………………」

 

 不審感を隠さずに悟へと目線を向ける。

 

 悟は(忍び的には有望な嗅覚だな……)と内心思いながらも

 

「僕は各里を回っている劇団員の1人さ、偶々プライベートで来てるだけで……演劇に携わる者としてこういう設備の設営もお手のモノなんだ」

 

 そういって悟はリーの手に持ったパーツをさっと受け取ると手際よく地面に固定していく。

 

 その様子にリーが叫び感動した声を挙げ五月蠅くしたが、木ノ葉丸もその手際の良さに悟の言葉を信じこんだのか興味を持った眼付きでその様子を観察し始める。

 

 終始無言のハナビも混ぜて、ゴールの設営を済ませると悟は

 

「貴方も良ければここで見ていかれたらどうですか?」

 

 とリーからのお誘いを受ける。

 

(あんまり関わるのもなぁ……)

 

 と内心乗り気ではなかった悟だがリーは問答無用で設営終了の合図とみられる発煙筒を焚く。

 

 すると木ノ葉の大門付近で煙が上がる同時にスゴイスピードで賭けだず2つの人影を悟は視界に捉える。

 

「おおおォ、はえーぞコレっ!!」

 

「流石ガイ先生っ!! そしてカカシ先生もお互い劣ることのないスピード、流石ですっ!!」

 

「……」

 

 はしゃぐ男二人に白眼で様子を観察しながら無言のハナビ。 悟はどう反応していいのか分からず、めんどくさくなり無言のままその場を去ろうとするが

 

 ガっと服の裾をハナビに掴まれて引き留められる。

 

「ハハッ……やっぱりハナビなら気づくよな」

 

 観念したような悟の小声のその言葉にハナビは

 

「……っ」

 

 何かを言いたげな表情にはなってはいるが切り出せないでいた。 その煮え切らないハナビらしからぬ態度に悟は疑問符を浮かべる。

 

 そして

 

 ハナビは何も言わずにその場から逃げ出すように姿を消してしまった。

 

 突然のことに呆ける悟、そしてそのことにガイとカカシのかけっこに夢中で気づかないリーと木ノ葉丸。

 

 こちらに注意が向いていないことを確認した悟はその場からハナビを追いかけるように跳躍

 

 

 

 ……しなかった。

 

(……追いかけないのかい?)

 

 あまりにらしくない行動に黙が精神世界から悟へと語りかける。 その問いに悟は

 

(……まあ理由に心当たりはないんだけど……これ以上ハナビと関わってもな……ハナビが俺から離れるなら、それはそれで……()()()()()

 

 気にしていないような素振りで答える。 そんな悟に対して黙は

 

(……そうかい、僕には心当たりがあるんだけどね)

 

 と何気なしに言って見せた。

 

 その言葉に悟は一瞬体を強張らせ硬直し……数秒悩み

 

(教えてくれよ)

 

 とぶっきらぼうに黙へと問いかける。 その悟からの質問に黙はさらりと何ともないような口調で答える。

 

(昨日の夜、君が寝ている間に君の数年間の行動を僕が彼女に教えたのさ……ペインとの戦闘の時に約束してただろ? 早い方が良いと思ってね)

 

(おまっ……何勝手に……イヤ、それよりもっ!! ()()()()()寿()()()()とか尾獣たちのこととかまさか言ってないだろうなっ?!)

 

 黙のカミングアウトに悟は珍しく怒り気味な口調で問いただした。

 

(大丈夫、大丈夫。 ちゃんと君がマリエさんに伝えた内容と()()()()()心配かけるような部分は言わずに伏せたから……でも)

 

(でも? ……なんだよ?)

 

(…………君の性癖はバラしたね、黒髪ロング、ボンキュッボン)

 

(……ッ!?!?!?!?)

 

 黙の反省しているフリにしか見えない形だけの手を合わせた謝罪に精神世界の中で悟は黙の胸倉を掴み怒鳴る。

 

(何言ってんのマジでっ!? しんじ……信じられんぞ、お前っ!!! つーかそのことお前に話したことないだろ俺ッ!? 何で知って──)

 

(フッ君と僕は二心同体……心当たりは幾らでもあると思うけど……おやおや、そこまで怒らないでくれよ……ちょっと? 顔が怖いよ)

 

 黙の胸倉を掴む力がギリギリと殺意混じりになりかけ黙も少し汗をかき焦りを見せ始めるが、ふと悟の絞める力が弱まる。

 

(……はぁ……っまあ、いいか……もうそれで嫌われたならそれはそれでいいよ、どうせ──)

 

 悟は諦めたかのような表情で黙の胸倉を解放すると精神世界から注意を現実世界へと戻して再度リーと木ノ葉丸の様子を伺うと

 

 バレないようにすぐさまその場を後にした。

 

 1人精神世界に残された黙はポツリと呟く。

 

 

(そんな程度の事で彼女が君を嫌う訳ないんだろうと……ま、渦中の人間は気がつかないものだね)

 

 

~~~~~~

 

 

 顔岩の崖から離れた悟は行く当ても特にないため、変化の術を別の成人男性の見た目にして解かないまま里の復興を手伝うことにした。

 

 ただ内心では今後の方針を考え、頭を悩ませる。

 

(……暗隠れの皆が近いうちに木ノ葉に復興支援のために来るだろうし……サスケは……どうだろうか、暁……というかオビトにそそのかされているのかどうかわからんけど、雲の連中にも俺は色々ちょっかいかけたしなぁ……)

 

 心ここにあらずだが悟はテキパキと瓦礫の撤去を手伝い荷車を押す。

 

 しかし

 

「あんたぁ……ちょっとええかい?」

 

 ふと悟はお年寄りの女性に声をかけられたことで、意識を現実へと引き戻す。

 

「えっと、はいどうかされましたか?」

 

 呼び止めてきた女性に笑顔で応対した悟。 その女性は申し訳なさそうに口を開く。

 

「申し訳ねぇんだが……オラの家の瓦礫の中に……爺様の形見があってのォ……取り出したいんだが、如何せん──」

 

 オズオズとしたその女性の態度に、悟は女性が言葉を言い切る前に笑顔で答える。

 

「それは大変ですね、俺で良ければ取ってきますよ」

 

「ええんかいの……?」

 

 女性の妙に低い態度が何度も周囲に頼み込んで、後回しにされていたことを物語っていることに気がついた悟はそのまま女性の案内で彼女の家の瓦礫があるとされている場所まで移動する。

 

「あの屋根の色が赤い所が家なんだが……1人じゃ大変じゃろぉ?」

 

「……まあまあ、俺に任せて見ててください」

 

 悟は口元に指を当て「シーっ」と言うと印を結ぶ。

 

 そして

 

「形見ってのはどういった物ですか? 家のどこら辺にあったかもわかると良いんですけど」

 

 何ともなしに悟が女性に問うと

 

「一階の押し入れのなかにあったはずだぁ……小さな木の箱に入れてたが壊れてしまっているかもなぁ」

 

 と返事がありすると悟はそのまま手を合唱の形のまま、少しチャクラを込める……そして

 

──ズンッ

 

 瓦礫の中から、大きな木の根がうねり出て悟と女性の前までその根の先を伸ばすと、根の先が開き木の箱が現れる。

 

「あらまぁ……!」

 

 木の根に驚きつつも、その女性は木の箱を手に取ると涙を流しつつそれを胸に抱えた。

 

 オイオイと嗚咽をもらすその女性の姿に悟は……申し訳なさを感じていた。

 

(神羅天征を俺が防ぎきっていれば……こんな……)

 

 女性が泣いている姿に自己嫌悪を助長された悟だが、静かにその場を去ろうとするとふとその女性が

 

「あんた、本当にありがとうなぁ……アンタもしかして……」

 

 そう言いながら振り返って来たことで動きを止める。

 

「どうかしましたか?」

 

 何を言われるか、少し不安を感じた悟にその女性は口を開いた。

 

 

 

「黙雷悟さんじゃ、ないか?」

 

 

 

「っ!?」

 

 一般人であるはずのその女性から、決して手を抜いていない変化の術を看破され名を尋ねられたことに悟が驚き言葉を詰まらせると続けさまに女性を口を開く。

 

「数年前……まだ爺様が生きてた頃……畑仕事に手を焼いていると、仮面を着けた下忍の忍びが何も言わずに手伝ってくれたと嬉しそうに話しててなぁ……任務でもないのに申し訳ないと爺様が断っても『黙雷悟宛てに任務を指名するように周囲に宣伝してくれたらそれで良い』とだけ言ってそのまま何も受け取らずに姿を消したって聞いただ。 ……多分、お主なんじゃろ?」

 

 殆ど確信しているかのようなその女性の口ぶり。 人から聞いた人物像だけでピンポイントに悟を言い当てたその女性の言葉に悟は戸惑う。

 

 その女性は戸惑う悟に対して深々と頭を下げ

 

「本当に……ありがとうございます」

 

 そう心からの感謝を込めた言葉を悟へと送る。

 

(……っ)

 

 観念したかのような、諦めの表情を浮かべた悟は女性の肩に手を置いて呟く。

 

「こちらこそ……覚えて頂いて光栄です、ありがとうございます」

 

 その呟きに女性が頭を上げると

 

 

 その場には既に悟の姿はなかった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 復興に向けて人通りの多い道の人ごみに紛れて、悟は歩く。

 

 そんな彼に精神世界から黙が語りかける。

 

(不思議なものだね、人との繋がりというモノは……目に見えないハズなのにこうして巡り巡って現実に干渉してくる)

 

(……何が言いたい?)

 

(僕……そして君がやろうとしていること、そしてやって来たこと。 人を傷つけることも少なくはないけど、けれど……逆に誰かの助けになることもある。 それを分かってくれる人は案外何処かにいるものなんだなってことさ)

 

(……)

 

(君は充分よくやっている。 僕からしたら雷……君はとても良い奴だ、自分の好きにしたらいいよ)

 

 励ますかのような黙の言葉に悟は

 

(……ああ)

 

 そう短く返事を返してそのまま人ごみの中へと消えた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 その夜、マリエの元へと戻った悟は同じ部屋で布団を引いて横になっていた。

 

「……」

 

 悟から一緒に寝ようと提案されたマリエは、何かを感じ取っているのか無言のままでいた。

 

 そんなマリエに対して悟は布団を被り、顔を逸らしながらも小さく言葉を呟く。

 

「……もしも、俺が……」

 

 そこまで呟いた悟言葉に、重ねるようにマリエが口を開いた。

 

()()

 

「っ?」

 

「貴方は優しいわ。 昔から演技が下手で、感情を取り繕うのが苦手で……とても正直だった。 嘘をつくのを嫌がって、それでも誰かの笑顔のために頑張れる。 とてもとても素直でいい子……きっと

 

 

 

 

貴方の御両親は……周囲の人はとても優しい人達だったのね」

 

 

 

 

「……」

 

 悟はマリエの言葉を黙って聞く。

 

「異世界というのは……ちょっと私には測りかねないお話だけど、そこで過ごしていた時間はきっと貴方の中でとても大切なもので……素晴らしいモノでしょう」

 

「……」

 

「そんな貴方はきっと……この忍界での出来事に心をすり減らして……きっとこれからも傷ついていく」

 

「……ッ」

 

「私は貴方に傷ついて欲しくないと思っているわ。 けれど……同時に、貴方を応援している自分も居るの」

 

 そう言ってマリエは悟に顔を向ける。

 

「私は……かつて、様々なものを失い……後悔した。 こんな世界は……無い方が良いと本気で思ったこともある。 だけど……そんな苦しみの先に貴方に出会えた。 人が死に……痛みを感じて……それでも私は生きて、生かされてきた」

 

 マリエに向け悟も顔を向けた。

 

「マリエさん……」

 

「……雷君……そして中にいる黙ちゃん……貴方たちが生かしてきた命、奪ってきた命……全てが今の貴方たちを形作っている。 きっと……1つでもなくして忘れてしまえば今の自分ではなくなるわ。 忘れちゃダメよ、今までのこと……そしてこれからの事を」

 

 まるで餞別のようなマリエからの言葉に悟は

 

「……忘れません」

 

 そう呟き返事をした。

 

(……奪ってきた命……か)

 

 精神世界の黙も、マリエからの言葉に考えるように瞳を伏せる。 そして

 

(……)

 

「……」

 

「……」

 

 無言の時間がその後を繋ぎ……朝を迎えた時には

 

 

 

 

 マリエの隣の布団に、黙雷悟の姿はなかった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 朝を迎えた木ノ葉の里で、何やら騒がしい様子で人がたむろしていた。

 

 2人の人影を囲む群衆は罵るわけでもなく、しかし憎しみや嫌悪の眼をその中心にいる1人へと向けていた。

 

「はいはい、英雄様が通りますよっと」

 

 その対象となっている黙雷悟は普段着かつ素顔のまま、まさに我が物顔で通りを闊歩し周囲を取り囲む群衆を意にもかけていない。

 

 そしてそんな悟が手に持つ縄の先には、手首を縄で拘束され引っ張られている日向ヒナタがいた。

 

「悟君……こんなこと……やめて、このままじゃ悟君が……っ!」

 

 ヒナタは自身がぞんざいな扱いを受けているにも関わらず、その行為によって悟が嫌悪されることを心から心配していた。

 

 そんなヒナタの様子に悟は周囲に聞こえるように舌打ちをして、掌から木遁によって生じた木の縄をヒナタの口にあてがい猿ぐつわをして黙らせる。

 

 そのまま周囲にいるそんな悟の行動を批難する木ノ葉の住民にむけわざとらしく手を振りながら声を大にした。

 

「俺はっ!! 伝説の三忍の自来也を助け、危険な集団であった暁に潜入して情報を集め木ノ葉をペインの術の脅威から救った男だぞっ? ここにいるお前らの命は俺が助けたも同然だし、この女はそもそも俺の婚約者だ。 どう扱おうが俺の勝手だろう? 感謝されど、批難されるいわれはないねぇ!!」

 

 胸を張り自分の功績をねちねちと語った悟は手を振り

 

「分かったらサッサと俺に感謝して、食料でも何でも貢物持ってこいよ。 そしたら英雄様の俺が、これからも木ノ葉の里を守ってやるからよ」

 

 と行って高笑いをする。

 

 そんな悟の行動に集団はざわつき、その騒ぎを聞きつけ彼を敵対視する一部の木ノ葉の忍びが集まってきた。

 

「ふざけんな!」

 

「ヒナタさんを離しなさいよっ!」

 

「裏切者がっ!!」

 

 そんな罵倒が飛び交う中で悟は平然とした表情で巻物を一つ取り出し口を開く。

 

「全部事実だろ? それに信じられないなら見せてやるよ、これが()()()()()()()()()()()だ。 一日前に日向の屋敷があった場所で見つかったこれを、今朝取りに行ったついでにヒナタも貰ってきたってわけだ。 これも全部日向の上役の望んだことなんだよ、俺と言う英雄の血を日向に向かい入れるためのなぁっ!!」

 

 婚約の巻物を見せびらかす悟はヒナタを繋ぐ縄を引っ張り強引にその体を引き寄せ肩を寄せる。

 

「文句があるなら、日向に言うんだな。 ヒナタを先に私物化したのはあいつらで、俺に文句を言うのはお門違いだ……それとも栄誉ある名家だからってお前らは口を閉じるか? なら英雄である俺のやることにも文句言うんじゃねぇぞっ!!」

 

 悟のその物言いに、取り囲んでいた集団は怯み散らばり始める。 しかしそんな散った群衆の中から1人の男が姿を現し、悟の正面へと立ちふさがる。

 

「何……馬鹿なことやってんだ悟。 今からでも遅くねぇ……大人しく騒ぎを収め──」

 

「これはこれは奈良シカマル。 邪魔だからそこどいてくれない? これからヒナタの身体をじっくりと味わおうと思って里の外に行こうと──」

 

 シカマルの制止にふざけた態度で無視しようとして横を通り過ぎた悟の身体がシカマルの影に捕まり硬直する。

 

 互いの横顔が並んだ状態でシカマルは正面を向いたまま悟にしか聞こえない声で呟く。

 

「……暗部のくノ一から、()()()()()を聞いた。 なのにこんなことっ……どんな考えがあってやろうとしてんのかさっぱりだがめんどくせーことになる前に」

 

「ごめん、シカマル」

 

「っ!?」

 

 互いにしか聞こえないやり取りは、悟が影真似の術を強引に解きシカマルの鳩尾に拳を突き立てて終わる。

 

 小さく唸ったシカマルは気を失いそうになりながらも悟の腕を掴むが、悟はそのシカマルの腕を振り払い再度歩き出す。

 

「ほらほら、邪魔するとこうなるぞ? 言っとくけど先に術かけて来たのはシカマルだからなっ!! 正当防衛、俺悪くねぇから」

 

 騒ぎに人が集まり、見知った気配が周囲を取り囲み始めていることに気がついた悟は足を止めめんどくさそうな態度を取る。

 

「はぁ……何? お前ら、俺たちの大人な行為がそんなに気になるの? ……なら仕方ないなぁっ!!」

 

 そういって悟は下品な笑顔でヒナタに歩み寄り、その服に手を掛ける。

 

「サービスだっ!!! ここでおっぱじめてやるから目ん玉かっぽじって見とけよっ!!」

 

 そのままヒナタの上着のチャックを引きちぎろうとした瞬間。

 

──ガっ

 

 悟の腕を掴み止めるものが現れた。 その金髪の人物に向け悟は心底軽蔑するかのような目線を向ける。

 

「……興ざめだな。 邪魔しないでくれよ、これは家柄の決まり見たいなもんなんだよもう一人の()()()

 

「……っ悟」

 

 姿を現したのはうずまきナルトであった。 ナルトが手に力を籠め、悟の腕を捻りヒナタの服から手を離させる。

 

「ナルト、お前に俺を邪魔する権利はないぞ」

 

「権利とか、そんな話じゃねぇだろっ!」

 

 そのまま悟を突き飛ばすようにヒナタから遠ざけるナルトに周囲の群衆は湧き上がる。

 

 やれ本物の英雄が来た。 ナルト、お前なら止められる。 そんなクソ野郎ぶっ飛ばせなどなど。

 

 そんな光景の最中、ナルトがヒナタの猿ぐつわを外すとその瞬間何かを言おうとしたヒナタに対して

 

「黙れ」

 

 悟がピストルの形をした指先から雷遁・雷銃による電撃を放ち気絶させる。

 

 一瞬の出来事にナルトがヒナタの名を叫びながら倒れこむその体を受け止めると、静かになった周囲に向け悟が声を大にして叫ぶ。

 

「面白いもんだなっ!? かつてはナルトの事を化け物扱いしてきたてめぇらが、自分の気に喰わない俺をとっちめようと祭り上げる様はホント滑稽だぜっ!!」

 

「悟っ!! ヒナタに何すんだっ!?」

 

「余計な事を言おうとするから黙らせただけだ。 それよりもナルト、どうだ周囲の奴らの醜さは? お前に向けて、化け物を見るかのような視線を送り人として扱ってこなかった連中は今度ははやし立てて英雄様だとよ。 ……本当に都合が良いよなぁ?」

 

 悟のその言葉に、少なからず人々は黙りこみ視線を背ける。

 

「ここに居る連中の殆どが、てめぇを化け狐扱いしてきたのは想像に難くないよな? 中には途中で見直した奴らも居ただろうが、それでもごく少数だ」

 

 悟の言葉にナルトはしゃがんだ体制でヒナタの身体を支えながら黙って聞く。

 

「こんな奴らの言うことなんて聞く必要ない、分かったらさっさと──」

 

「確かにそうかもしんねぇ」

 

 払いのけるような仕草の悟に対してナルトは立ち上がりながら口を開く。

 

「昔っから……()()()()()で見られることは多かった。 俺のことが怖いって奴は沢山いた……だけどそれと同時にイルカ先生や仲間の皆の様に俺をちゃんと見ててくれる奴らがいるから俺は諦めねぇでこれた。 ……悟、お前もわかってんだろ?」

 

「……」

 

「俺を嫌う奴だっていたっておかしくねえし、手のひら返す奴だっているかもだ。 だけど……俺ってばそういう奴らにも……()()()()()()()火影になりてぇんだっ!!」

 

 ナルトは目つきを鋭くして悟に語る。

 

「エロ仙人や長門……信じてくれる皆から見た俺と、俺を嫌だって言うやつの俺。 どっちも同じ俺なんだってばよっ! 悟、だからこそ俺は……お前が、友達が馬鹿しようとしてんなら周りにどういわれようと止める……それだけだ」 

 

 ナルトに睨みつけられた悟は、思わず綻びそうになった口元を咳ばらいと共に手で隠してそっぽを向く。

 

「……そうかそうか。 止めるというのは勝手だが、結局ヒナタと俺は婚約の巻物による契約がなされている。 ここで止めようと意味はないぞ?」

 

「……契約?」

 

 悟の言葉にナルトが疑問符を浮かべると、悟は巻物を掲げて説明を始める。

 

「婚約の義……この巻物に血印を記した男女には特殊な呪印が刻まれる。 その呪印の効果は……呪印の刻まれていない者との性行為を禁ずるものだ」

 

「せい……こうい……?」

 

「(自来也さんと旅してたのに……まさかそういうの教えて貰ってないの!?)……あ~……基本的には夫婦が子どもを作るためにする行為のことだ。 詳しくは……オッホン……こんな往来では言えないが自来也さんにでも聞け。 んで呪印が刻まれた者がそれ以外の者と行為におよぼうとした場合」

 

「……場合……どうなるんだってばよ?」

 

「性器……つまり男なら○ン○ンが腐れ落ちる」

 

「ひえっ……!」

 

 自身の股間を抑える仕草をするナルト、そして若干ざわつく周囲の集団の男性たち。 悟はそんな反応を楽しむように笑顔を見せて巻物を空いた手で指さす。

 

「つまりこの巻物が存在する限り、俺とヒナタは他の人間とそういう行為が出来ないってことだ。 今ここでお前が邪魔してもヒナタには俺しかいないってこと……日向が好きそうなモノだよな」

 

 ケタケタ笑う悟にナルトが複雑そうな顔を見せる。 しかしナルトはヒナタを支える手とは逆の手で悟が持つ巻物を指さす。

 

「……ならそれを壊しちまえば、その呪印も無くなるんじゃねぇのか……?」

 

「残念だが、巻物自体がなくなっても呪印は消えない。 呪印を消したければぁ……」

 

「どうすりゃあいいんだ?」

 

 悟はどこからか大き目な判を取り出して手の中で躍らせて、ナルトに見せつける。

 

「契約破棄の手順として、この日向の印と……契約者片方の同意が必要になる。 本来ならこの判子は日向の屋敷に厳重に保管されているんだが……俺に掛かればちょちょいのちょいよ」

 

「……」

 

「もちろん? 俺は破棄するつもりはないし、この判子を誰かに渡す気もない。 ヒナタみたいないい女をわざわざ何処の馬の骨とも分からない奴らに渡す気もない……だが」

 

 悟は判子をくるくると投げ、キャッチを繰り返しながら煽るように声を高らかにして叫ぶ。

 

「余興を開いてやるっ!! 今から、お前らにチャンスをくれてやろうっ!! 俺は今から巻物に契約破棄の印を刻む、つまりこの判子さえ巻物に押せば晴れてヒナタは呪印の束縛から解放されるという訳だ……上手くいけば俺に変わって日向ヒナタと婚姻契約を結べるチャンスかもなぁ? 今日の日が沈むまで、俺から巻物と判子を奪い取れた奴にその権利をやろうっ!!」

 

 そういって悟は巻物の一か所に血印を押す。 ざわめく集団の様子に目もくれずに悟は説明を続ける。

 

「場所は……ナルト、お前がペインと戦った木ノ葉の外れだ。 あそこなら多少暴れても問題なさそうだし、あの場所で俺は挑戦者を待つとしようか。 ああ、心配しなくても手加減してやるよ……俺は印を結ばないし、逆にお前らは好きに挑んでくると良い……じゃあなっ!!」

 

 一通り言い終えると悟はその場から跳躍し、姿を消した。 ざわめきも悟が去り、悟の口車に乗ったもの達が我先にと駆けだすことで落ち着きを見せ残ったナルトは意識を失っているシカマルとヒナタを影分身と共に背負いその場を後にするのであった。

 

「悟……ッ」

 

 

~~~~~~

 

 

 30分もかからないうちに、ペイン天道が地爆天星を行ったクレーターとなった跡地では激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 ……と言っても

 

「遅い遅いっ!」

 

「っ!?」

 

 並の忍びでは悟の相手には成らず、撃ちだされる忍術も忍具も全て躱され瓦礫まみれのその土地を更に削るのみで手傷を負わせることはなかった。

 

 下忍、中忍、上忍……はたまた腕に覚えのある一般人までもが悟に挑むも、体術のみで全員気絶させられクレーターの外へと投げ飛ばされる。

 

 正々堂々と1人で挑むもの、なりふり構わず小隊で挑むもの……しかし皆全て、悟の体術の前に沈んでいった。

 

「なっ!?」

 

 踏み台にされた忍びが驚きの声を挙げるうちに、後方から迫る予定の仲間は蹴り飛ばされ意識を失う。

 

 普段着かつ忍びとしての装備を何一つつけていない悟に……かすり傷を負わせるものはなにも居なかった。

 

 来ている上着のパーカーをなびかせ着地した悟は残された小隊最後の忍びへと向き直る。

 

「あとはお前ひとりだな……ほらかかってこい」

 

 彼らを制しているのはただの体術。 柔拳と剛拳を交えたその技術は数年の経験を経て並の忍術をも凌駕するものになっていた。

 

「っ火遁・豪火球っ!!」

 

 苦し紛れの火遁が悟を狙うがしかし、悟は柔拳の攻撃をいなす要領でその火球を真上へと弾き、手のひらを上に向け残った忍びへと手招きをする。

 

 上空で爆発した豪火球を合図に、忍びが駆けだすも

 

「──っ!」

 

 駆けだすその一歩に合わせ、より早く大きく踏み込んだ悟の掌底によって顔面を打ちぬかれ意識を失う。

 

 1つの集団を降した悟は掌を叩きながら、周囲の待機しているもの達へと声をかける。

 

「はいはい、さっさと気絶した奴運んでくれたまえよっ!! んで次に俺の相手をしたい奴はかかってこーい」

 

 息も切らさず、声を平静に……ただひたすらに悟は向かってくる忍び達を相手にした。

 

  

 

 

 そして一時間が経った頃、1人のくノ一が悟の前へと降り立つ。

 

 その姿を見た悟は楽しそうな笑顔を浮かべ、構えを取る。

 

「そろそろ骨の在る奴を相手したいと思ってたんだよなぁ……ほら、かかってこい……サクラっ!」

 

「……この大バカっ……一発ぶん殴ってやるわよっ!」

 

 目の前に現れた春野サクラに向け悟は足元に転がる小石を蹴り飛ばして牽制する。

 

 サクラがそれを手で弾くと同時に踏み込んできた悟と腕をぶつけ合い、拮抗する。

 

 瞬間、悟とサクラが踏ん張る地面が陥没する。

 

 自慢の怪力を悟に正面から受け止められサクラは舌打ちをした。

 

「何でっ……そんな平気そうに受け止められるのよっ……!」

 

 普段のサクラの馬力なら悟の身体を浮かせ地面へと叩き伏せるのも容易なのだが、実際にはそうならず互いに押し合いが続く。

 

 これでもかと力を籠めるサクラに対して……悟はまだまだ余裕を感じさせる表情を浮かべていた。

 

「何でと聞かれたら答えてやろう……幻術とチャクラコントロールの応用だ」

 

 そういって悟は拮抗した押し合いを一歩引いて解くと、その間合いから拳をサクラの顔面に向け振りかぶる。

 

 サクラは顔の前で腕をクロスしてガードしようとするが、それを見越した悟は拳をフェイントに使い、本命の回し蹴りでサクラのガードの漏れている腹を蹴り飛ばして吹き飛ばす。

 

 腹を蹴られ吹き飛ばされるも、両足で踏ん張りを効かせたサクラは地面に2つの轍を刻みこんで勢いを止める。

 

「サクラ、お前の怪力は綱手さん仕込みのチャクラコントロールによる金剛力だ。 実現させるには繊細なチャクラコントロールとタイミングが重要……それをこう……指の動きだけでかける幻術の予備動作と、身体が触れた瞬間にチャクラを流しむことによる妨害で崩しているんだ。 威力だけなら、仙人モードのナルトと同等だろうが繊細過ぎる上に瞬発的な力しか出せないことが仇となってるってわけ」

 

 講釈を垂れ述べる悟にサクラは腹の痛みをグっと我慢して駆けだす。

 

「ご忠告どうもっ!!」

 

 手裏剣を投擲しながらのサクラの接近に、悟も手裏剣の軌道を読み避ける動作をしながら駆けだす。

 

 避けた動きの分、悟が一歩で遅れるとサクラの拳が放たれ悟の眼前へと迫る。

 

 それを掌で防いだように見えた瞬間、打撃音が3発重なるように連続で鳴る。

 

「っ……あぶねぇ」

 

 防御をした悟の両掌が小さな煙を上げており、悟は思わず後ずさる。

 

 その悟の様子にサクラは口角を上げていた。

 

「ふふ……これを初見で防がれちゃうなんて……アンタってホント滅茶苦茶ね」

 

 呆れるように、しかし笑顔でそう述べたサクラに悟は

 

「妨害されるのを見越して、金剛力を発するチャクラの波を複数回に分けたのか……っ! 威力は下がるが、一度の拳の接触でチャクラによる圧力が数回発生する……こちらもチャクラを流して相殺しなければやばかった……っ!」

 

 同じく心底楽しそうな笑顔を浮かべて、サクラの手の内を解説する。

 

「どう? 前よりも強くなってるでしょ?」

 

「ああ、こっちもちょっと熱くなれそうだ……っ!」

 

「……これでもちょっとなのね、しゃんなろ~……まあいいわっ!! ねぇ悟、アンタがやろうとしていることは……殆どわかってるつもり。 多分同期の皆も、一部の忍びの仲間たちも……もうアンタの三文芝居じゃ騙されない……でも──」

 

「分かってるなら……黙って戦え、サクラ」

 

「っ……ええ、お望みとあればやってあげるわよっ!!」

 

 戦いを要求する悟にサクラも応じ、互いに接近戦にもつれ込む。 互いに拳打を打ち合う殴り合いに発展するが、戦いの行く末は既に見え透いていた。

 

 サクラの扱う金剛力は実際に筋力自体を強化するものではなく、あくまで拳による衝撃をチャクラによって倍増させているものである。 威力は抜群ではあるがそれは同時に単純なチャクラコントロールによる身体強化とは違い、動作自体の速さには殆ど影響が出ない。

 

 遅く重い。 そんな攻撃を前に悟は、極まったチャクラコントロールによる身体強化でスピード重視の拳打を繰り出し続ける。

 

 身体強化は視力も強化するため、単純な打ち合いにもつれ込んだこの展開。 サクラの拳は一度も掠ることなく悟の連打を喰らいダメージを蓄積させる。

 

「っ……クソォ!!」

 

 叫ぶサクラの大振りの拳に、悟は

 

「お前はよくやってるよ、サクラ」

 

 そう呟きながらアッパーカットをカウンターで置く。 サクラの顎を捉えた悟の拳は、捩じりが加えられ掠るような軌道でサクラの頭を揺らした。

 

「──っァ……」

 

 意識を失いながらもすがるようにサクラは手を伸ばし指先が悟の頬に触れた瞬間、倒れこむその体を悟が支え決着がついた。

 

「フッ…………触れられたか」

 

 そんな言葉を呟いた悟は、クレーター外周で待機している忍びの元にサクラを抱えたまま跳躍しその身柄を託す。

 

「サクラならすぐ起きると思うから、俺に負けた奴らの治療でもしてもらおうかな」

 

 そう言って悟は再度クレーターの中心へと跳び、更なる戦いを求めていった。

 

 

~~~~~~

 

 戦いの最中、精神世界でその様子を見ていた黙は表情を変えずに呟く。

 

(この身体の潜在能力……うちはマダラと千手柱間のチャクラ。 そして僕の戦闘経験による雷への感覚的なフィードバック……既に並の……いや五影クラスでも対等に戦える僕らに敵う忍びはこの忍界に多くはない……)

 

 黙は悟が相手をする3人の様子に目を向ける。

 

(日向ネジに、ロック・リー……そしてテンテン。 一度は戦った彼らも、体術のみとはいえ鉄輪による制限のない雷には敵わないだろう……なのに──

 

 

 

何故か楽しそうに見えるのは……僕の見間違いだろうか)

 

 

 現実世界では、日向ネジとリーによる体術の猛攻を捌く悟は楽しそうに笑顔を浮かべていた。

 

「っ……流石に八門かチャクラモードなしだと、きついかなぁ!!」

 

 それでも的確に二人からの拳をいなした悟は正面から戦うのを諦め、距離を取る。

 

 その瞬間、眼前にクナイが迫る。

 

「っ!」

 

 悟の後退を読んだテンテンのクナイによる投擲を片手でキャッチした悟はすぐさま身をよじる。

 

 その瞬間、悟が交わした空間に()()()()()()()()()()()()

 

 クナイに刻まれたマーカーに飛雷神で飛んできたテンテンが振りかざした()()()()()()()は空を切り地面を裂く。

 

 3人からの猛攻に悟は大きく跳躍して距離を取った。

 

 距離が空いたことで、ネジとリーとテンテンは一度集まり話し合う。

 

「……流石に一筋縄では行かないか」

 

「僕達相手に……ここまでとは。 以前天音小鳥として戦った時よりもうんと強いのが分かります……っ!」

 

「……」

 

 1人浮かない顔のテンテンの様子にネジが気がついた。

 

「テンテン、奴のこの蛮行……その意味は分かっているはずだ。 奴は……しがらみを解き……恐らくそのまま里を去るつもりだ」

 

 そう言ってテンテンの持つ尾異夢・叉辺流へと目を向ける。

 

「……それを受け取ったんだ。 奴が……悟がお前を気にかけ……そして信頼している期待に応えるのが、俺たちに出来る最善だ」

 

 そういうネジは目線を悟へと向ける。

 

 リーもまたテンテンの肩を叩くと片手を前に伸ばして構えを取る。

 

「悟君、僕たちは今から本気で行きますっ!! 手加減なんてしていると死にますよォっ!!」

 

「そういうことだ、ここからは容赦しない」

 

 リーとネジの言葉に悟は顔を笑顔にして返事をする。

 

「……じゃあ、叩きのめしてやる……この眼でなっ!」

 

 朱い光を放つ悟の両目、そして全身から青い雷光が迸る。

 

 悟の写輪眼の存在にどよめきが起きるが、ネジらは八門を併用していないただのチャクラモードに、自身らが舐められていると感じ不服そうな表情を作る。

 

 そのことに気がついた悟は申し訳なさそうな笑顔で

 

「八門はちょっと使うの控えようかなって思ってて……健康に悪いし」

 

 と行って軽くその場でぴょんぴょんと跳ね始める。

 

「健康に……悪いっ!?」

 

 悟の言葉に驚愕するリーにネジが呆れた様子で

 

「……まあ、普通良いとは思わないだろう。 俺たちが使っていて体に負担をかけているのは体感しているからな」

 

 そうツッコミを入れる。 その言葉の後に

 

「悟、アンタが八門使わないならリーは置いておいて、私とネジは使わないわよっ!!」

 

 とテンテンが調子を取り戻したかのように声を張り上げた。

 

 その言葉に悟は

 

「別に使っても良いぞっ!! ……使っても勝てないだろうけどな」

 

 煽るような表情で答えた。

 

 そんなやり取りにテンテンは顔を綻ばせて呟く。

 

「あ~あ……ホント負けず嫌いね……アンタも……私も」

 

 観念したようにテンテンは右手に尾異夢・叉辺流、左手にクナイを構える。

 

 準備が整ったとばかりに、互いの間に張り詰めた空気が流れ悟の跳ねる音だけが響く。

 

 

 

 

 周囲で観戦している誰かの唾を飲み込む音が聞こえた瞬間

 

 

 

 

 青い雷光はクレーターを駆け巡った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 戦いに明け暮れ、日も沈み始め……挑戦者が途切れ始めた頃悟は暇そうに地面を見ていた。

 

(テンテン達との戦いの後から露骨に相手が減ったな……取りあえず、あの後はキバとシノを相手して……サイが挑んできたのは意外だったな、まだダンゾウの手の内のはずだけど……)

 

 悟は周囲を見渡す。 人も減り、観戦者もまばらとなりしかし悟の行動に不満がある者が鋭いを視線を向け続けていた。

 

(……白やそれこそガイさんとかも来るかもしれないとは思ったけど……白はそもそも目立てないし、ガイさんも何となくだけど来ないだろうな。 カカシさんも一応の火影候補として下手な動きはできないだろうし……いのとチョウジはいるけど周囲で見ているだけでサクラと一緒に負けた奴の手当てをしてくれてる……シカマルを午前中に気絶させちゃったから猪鹿蝶で来れないのか……)

 

 悪いことをしたなと思いながらも悟は瞳を閉じて、この先の事を案じる。

 

(……予定としてはもう、住人として木ノ葉に足を踏み入れることもないだろう。 今回の騒ぎを期に、俺は天音小鳥としてでなく黙雷悟としても追われる身になる。 そもそも正式(?)に抜け忍になるつもりだからな。 一部今回俺のやろうとしてること見透かしている奴らがいるけど……()()()()()も考えれば俺は本格的に木ノ葉の敵になるわけだ)

 

 後ろ指を刺される道に、しかし悟は既に迷いなく決心は揺らがない。

 

(悪名汚名、何でもござれだ。 俺は俺のやりたいことをやる……だからこそ)

 

 

 

──ザッ

 

 

 

 静けさに響く足音と共に、少なくなっていた観戦者が再び増え始め歓声が上がる。 その光景に鼻を鳴らした悟は、眼を開けクレーターの中心から上を見上げる。

 

 沈む夕日を背に立つ人物に向け悟は口を開く。

 

「随分と遅かったな……俺が体力減らすのでも待ってたか?」

 

 軽口にその人物は答える。

 

「……俺は直ぐにこようとしたけど……皆との時間を作ってやれってシカマルに言われて待ってただけだってばよ」

 

 そのうずまきナルトの言葉に悟は軽く笑い始める。

 

「クックック……シカマルらしいな。 皆本筋が分からなくても俺がやろうとしていることは理解してくれてるわけだ……それじゃあ最後に、立つ鳥跡を濁さずと行こうか」

 

 ナルトを見上げた悟は手招きをした。

 

 

 

 

 

 

「勝負だうずまきナルトっ!」

 

「悟……行くってばよォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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