すみません。
「っグッ!!」
悟の強烈な蹴りを腕でブロックしたナルトは数メートル後ずさる。
印を組まないというルールの下での黙雷悟とうずまきナルトの戦いは、悟が優勢で始まっていた。
柔拳と剛拳の組み合わせにナルトは苦戦を強いられ、何度目かの接敵後に掌底を腹に受けナルトは吹き飛ばされる。
ナルトが劣勢に鳴るたびに、周囲に再度集まり始めたギャラリーたちはざわめく。
単純な試合として、気に喰わない悟を打ち負かして欲しくて、英雄の戦う姿を目に焼き付けたくて。
それぞれの思惑を胸にその試合を見るものはナルトを皆応援していた。
ナルトが体勢を立て直して跳ぶように立ち上がると悟が納得いっていない様子で一旦制止させるように手を突き出す。
「待てナルト……何でお前も印を……影分身を使わない? 言っちゃああれだが、忍術を使わないとお前と俺とでは差が──」
「うっせぇぞ、グチグチ言ってないで構えろってばよ」
悟の制止に付き合わないようにナルトが駆けだすと、悟はため息をついて防御の構えを取る。
(ナルトは何のつもりだ……?)
悟が訝しむ中、ナルトは数刻前のとあるやり取りを思い出して歯を噛みしめていた。
~~~~~~
悟が婚約の巻物を賭けた試合を宣言した直ぐあと、ナルトは気を失ったヒナタとシカマルを影分身と共に抱えて移動していた。
ナルトが医療設備やベッドを集めた簡易的な病院として機能させているテントを目指している間に、里の中では既に広まり始めた悟の話題で喧騒が立ち始めていた。
すれ違う人々はナルトに試合に出るように催促したり、日向ヒナタを悟から解放してあげて欲しいと懇願したり……ナルトはそれに何とも言えない感情を抱きつつも期待を裏切らないようにと返事を返していった。
そんな中、ナルトはガイ班の三人と出会う。
「……その様子では……広まっている噂は本当のようだなナルト」
ナルトが背負うヒナタの様子を見たネジは認めたくない現実を直視してしまったかのように顔をしかめる。
ナルトも浮かない表情を作るが
「悟が……どんなつもりでこんなことやらかしてんのかわかんねぇ……けど何か理由が在るはずだってばよ」
何とか悟の奇行を理解しようと態度で示す。
そんなナルトの様子に、リーはナルトの影分身が抱えているシカマルを受け取り
「彼は……昔から僕たちには見えないものを見ていたように感じます……取りあえず今はヒナタさん達をサクラさんのもとへ運びましょう!」
気を失っている2人を心配し先にサクラに診せることを提案した。
リーの行動に促されるように、ガイ班とナルトはサクラの居るテントへと走る。
そんな中テンテンはより表情を暗くして、黙り込んでいた……
~~~~~
ナルトらが医療班らのテントにつくと、サクラが驚いたように声を挙げつつそれでもヒナタとシカマルを簡易的なベッドに寝かせるように指示をする。
横になった2人の様子を診察するサクラにナルトが心配そうに声をかける。
「サクラちゃん……2人とも大丈夫だよな?」
「……うん、目立った外傷もないし内蔵も傷ついてない……本当に最低限の力で気絶させられたみたいね。 ……悟も器用なもんね、流石は暁に居ただけあるわ」
サクラが2人に危険が無いと判断し悟への皮肉を込めた言葉と共にため息を吐く。 そんなサクラの言葉にナルトが表情を暗くすると、ネジは
「……ヒナタ様が無事なら問題ない。 俺はこれから悟を止めに行く……リー、テンテン行くぞ」
班員へと声をかける。 しかしハッキリと返事を返すリーとは対照的に、テンテンは無言で暗い表情を浮かべたままであった。
「テンテンさん……」
テンテンの感情を察したサクラが心配の声を小さく挙げると、おもむろにテンテンは一つの巻物を広げて忍具を一つ取り出して見せる。
煙と共にテンテンが取り出したのは……悟が使用していた尾異夢・叉辺流であった。
「……テンテン、それは──」
「そうなのリー……今朝早い時間に暗部のくノ一の人が私宛にって渡してきて……この忍具を渡してきて……事情も聴けなかったけど……今は何となく意味を理解しちゃって──」
「……なるほどな……奴が……悟がこの騒動をきっかけに何をしようとしているのか……俺も少し理解ができた」
テンテンの言葉とその忍具の存在に、ネジもテンテンが浮かない理由を察して視線を落とすがすぐに向きなおし
「だからと言って何もしないわけには行かない……俺たちは一度悟と戦っている。 奴を知る俺たちが少しでも奴の体力を削れば他の者たちにもチャンスが生まれるはずだ」
そう言ってテンテンの肩に手を置く。
「……テンテン、お前の気持ちもわかる。 だが今は……」
「うん……分かってる。 ごめん、行こうか……バカの所に」
ネジの説得に、小さく涙を浮かべた表情で……無理やり笑顔を浮かべたテンテンはそう言うとその場から走り去っていった。
「……」
何とも言えない空気にリーとネジも、直ぐにテンテンの後を追いその場を後にする。
残されたナルトは一連のやり取りにあまり理解が追いついておらず首を傾げるが
「……つまり悟のヤロ―は、今度こそ本当の意味で里を抜けるつもりかもしれねぇってこった」
意識を取り戻したシカマルのその言葉にナルトは首をシカマルの方へと回し驚愕する。
「どういうことだってばよ!?」
ナルトの質問にシカマルは悟に殴られた腹部をさすりながら上体を起こして喋り始める。
「いつつ……アイツ雷遁チャクラも流し込みやがったな、身体に痺れが残ってやがる……まあそんなことは今はどうでもいいか。 んでナルト、悟の今の状況を鑑みてアイツの狙いは何だと思う?」
「狙い? ……うーん?」
「……長くなってめんどくせーけど俺の予想を教えてやるよ。 まず……前までのアイツが天音小鳥と名乗って暁に居たのは暁を見張るためと考えて良いだろう。 そのために恐らくサスケの里抜けに便乗してあの時にアイツも里を抜けていた。 その理由は里との繋がりがある状態だと潜入が上手くいかない可能性があるからだろうな……綱手様に前に聞いたが悟の奴は自来也様とお前と一緒に言っていた旅の道中で暁と接触していたらしいしその時に脅威と感じたからそんな行動に出たんだろうが……でだ、奴は事前に建前を作ったりするタイプの人間だってことだ」
そう言ってシカマルは未だに気を失った状態のヒナタに目を向ける。
「……名家の婚約の破棄っつーのはめんどくせーもんでな、少なくとも悟を引き入れた側の日向の娘であるヒナタは自分から申し出ることはできないだろう。 破棄しちまえばそれはお家の者たちの判断を裏切ることになるからだ……だが逆に悟側も破棄を願い出ればそれはつまり日向の名に泥を塗ることになる……そもそも婚約破棄のための印鑑はよほどのことが無い限り表に取り出されないものだ。 それが今、悟の手にあること自体イレギュラーってやつだ。 こんな条件下で……ヒナタにも日向にも泥を塗らないで悟が婚約を破棄する方法は──」
「自分がどうしようもなく悪い奴だって知らしめる……ってことね」
シカマルの言葉を繋ぐ様に理解をしめしたサクラが呟く。 シカマルもサクラの言葉にうなずくと
「まあ、そんな悪い奴を婚約者に選んだこと自体は言及されるかもしれねぇが、少なくともヒナタも日向も同情の目を向けられて婚約破棄の不名誉さはうやむやになるだろう……そんで汚名を背負った悟も奴にとっては後腐れなく里を去れるって訳だ」
結論とばかりにため息交じりで悟の目指す結果と思われる予想を口にした。
しかしナルトはそんなシカマルの解説に納得の行かない表情を浮かていた。
「何でだ……長門との戦いで悟は里の皆を守るために命をかけて戦ってたんだろ? そうやって守ろうとするぐらい大切な里を何で抜けようと……」
理解が追い付かずに混乱する頭を抱えたナルトの様子にシカマルは同情の目を向けつつ自分の考えを話す。
「思うに……大切だからなんだろうな。 アイツは強い、だからこそ俺ら以上に何かが見えて……何かを背負っちまってんだろ。 だからこそ偽名や変装で己を隠して木ノ葉への悪評を防いでたんだろうが……それでも奴が今回、こんなことを起こしたってことを考えるに……」
シカマルは苦し気な表情で言葉を繋ぐ。
「……木ノ葉に対して何かをするつもりなのかもしれねぇな」
「何かって……何だってばよ?」
シカマルのその言葉にナルトは疑問符を浮かべるが、背後のサクラは察しの付いた表情を浮かべ恐る恐る口を開く。
「木ノ葉も一枚岩じゃない……私たちに
サクラのその言葉が示すことはつまり
「悟の奴は、本格的に里を抜け外部の敵と言う立場になって……木ノ葉に攻撃を仕掛けるつもりなのかもしれねぇ……飽くまでも予想だがな」
悟の意図することは木ノ葉との敵対関係を望むという事であった。 シカマルの言葉にナルトは目を見開き、唇を噛みしめる。
「……アイツだって木ノ葉が好きなはずだろ?! マリエの姉ちゃんや白だって悟のことを大切に思ってんのに……っ!」
理解の出来ない事柄に苛立ちを露わにするナルト。 サクラがそんなナルトに心配そうに目を向けるが、ふとナルトは食いしばっていた力を抜き脱力する。
「ナルト……」
「っわかんねぇけど……多分理由があるんだ。 ムカつくけど俺が知らねぇことなんて世の中幾らでもあって……それで苦しんでる奴もいる。 長門がそうだったみてーに、皆なにか事情があって……そうなっちまうんだろうな……んで悟にはそれが見えてる」
伏し目がちな目を正面へと向けたナルトは決心を固めたかのように立ち上がり、テントを出ようとする。
「ナルト、アンタ……」
サクラがそんなナルトを制止しようとするもシカマルがその伸びかけた手をベッドから掴み止める。
「行かせてやれよ、めんどくせーけど男同士、殴り合いで分かり合える時もあるってもんだ」
柄にもないことをいうシカマルにサクラは
「っ違うわよ、今そのまんま向かっても悟には勝てないかもってことよ」
腕を振り払い、身に着けていた医療用のエプロンを脱ぎ首を鳴らす。
「サクラちゃん?」
視線が鋭くなったサクラにナルトが少しビビった声で名を呼ぶと、サクラは気合を入れるように拳を掌に叩きつけ爽快な音を鳴らす。
「アンタはギリギリまで待ってなさいっ! ちょっとでも悟の奴の体力が減るのを待って……その間に準備を済ませるのよ」
そう言ってやる気を出したサクラは肩を鳴らしながらナルトに近づき、肩を叩くと代わりとばかりにテントの外へと出ていった。
その光景にシカマルは引きつった表情を浮かべた。
「男だけじゃなくて、女にも殴り合いが性分な奴がいたな……さてそう言う訳だナルト。 卑怯でも何でも、悟の奴がどんなつもりなのかは飽くまでも予想に過ぎねー以上勝ちに行かねぇといかねぇ。 ちょっとでも勝つ可能性を上げるために作戦考えるぞ」
指だけでナルトに近くに来るように合図したシカマルに、ナルトはサクラの孕んでいた怒気に少しビビりながらもシカマルと悟の対策を練るのであった。
そうして話し合う2人に気がつかれないようにひっそりと目を覚ましていたヒナタ。
(悟君……)
悟の心中を察したヒナタは、自分の存在が悟の枷になっていたかもしれないという事実に1人心を痛めていた。
~~~~~~
「おらぁ!!」
気合のこもった掛け声と共にナルトが拳を繰り出すも、悟の柔拳の技術が難なくそれをいなしてしまい態勢を崩す。
明らかに勝ち目の見えない攻防に、ナルトの勝ちを信じるギャラリーがざわつき始めていた。
しかし優勢に見えている悟は内心あまり余裕を持ってはいなかった。
(ナルトの奴がわざわざ自分から影分身を縛って戦うなんて……何を考えてやがる? 余りにも不自然な行動だ……実はこっそり影分身を周囲に岩に変化させて配置しているとかあるかもしれない。 腰に下げた巻物と印鑑を不意を突かれて取られたら俺の負けになるし、油断は出来ないな)
飽くまでも負けてやるつもりのない悟は全身にチャクラを巡らせ雷を迸らせる。
雷遁チャクラモードになった悟は日が沈んで暗くなったその場で煌めくように青白く目立つ。
「……行くぞっ!」
クレーターを超速で駆け巡り始めた悟にナルトは落ち着いてその場で腰を落として構える。
次第に翻弄するような悟の動きから、ナルトに対して攻撃が繰り出され始めナルトの防御の上から拳が叩きつけられる。
数度の接触で悟は気がつく。
(ガードが結構的確にされるな。 仙人モードですらないのに、俺の動きに少しずつ慣れて来てるのか……?)
ナルトが次第に悟の攻撃に適応していく様に、悟は中忍試験での戦いを思い出していた。
当時どういう訳か悟からの攻撃に的確にカウンターを返してきたナルトのことを思い、悟は警戒を緩めないでいた。
一方的に見える攻防も次第にナルトが悟の攻撃を捌き始めついには
──ッ
「!?」
頬を掠る感触に驚き思わず悟は歩みを止める。
空に突き出されていたナルトの拳を目にして、悟は一筋の赤い線の出来た顔に笑顔を張り付けた。
(……仙人モードになった経験がナルトの地の力を強化しているのかもな……雷遁チャクラモードもそろそろ通用しないか)
ナルトの成長に喜びを感じる悟は全力で足に溜めた力を解放し、直線の稲妻の如くナルトへと駆けだす。
止めのように悟は渾身の力を籠め、最速の飛び蹴りを放つ。
「飛雷脚っ!!」
周囲にいる人物は眩い悟の姿が線となって高速で移動した瞬間彼を見失い、光の軌跡を追うことしかできずに視線を動かす。
しかし唯一ナルトだけが悟のチャクラの高まりを感じ取りその飛び蹴りを予測していた。
(ネジとの戦いの時にやった跳び蹴り、それが悟の必殺技……!)
ナルトはシカマルとの相談を考慮して既に手を打っていた。
『悟の奴は強い敵や、相手の成長を感じ取ると喜ぶ癖見てぇなもんがあると思う。 実際昔に俺たちが演習で戦った時もそんな雰囲気でチョウジと戦ってたらしい……情けないことに俺はその時の事を直接見てねぇがな。 んなことよりも、つまりは奴が嬉しそうに笑顔を作ってチャクラの練りが濃くなった時、何か決定打を打ってくるはずだ。 天音小鳥と名乗ってた時もそういう傾向が見られたしな、そん時に手痛いカウンターを決められれば文句は無いんだが……』
シカマルが言っていたその言葉を胸にナルトは悟が跳び、姿が見えなくなった瞬間に既に目を閉じ……そして
瞬時に目の周囲に隈を縁取らせた。
既に飛び蹴りの態勢となった悟の高速の蹴りをまるで観察するが如く、ナルトの見開いた目が捉える。
動体視力だけでなくチャクラに対する感知能力もナルトの感覚を後押しをして悟の動きを予測する。
悟の足裏を掠るようにギリギリで躱したナルトの頬に僅かに雷遁が走りそのままナルトは悟の脇をすり抜け、拳を振りかぶった。
「ッッッ!!!」
ナルトの声にならない食いしばった声と共に振り抜かれたその拳は完全に悟の無防備な腹を叩きつけ、地面へと打ち付けた。
周囲の人間は、輝いた悟の姿を見失った次の瞬間にはナルトの足元で音を響かせて地面に埋まる彼を目にすることになる。
何が起きたのか分からないざわめきが拡がるよりも早く、咄嗟に悟が飛び退きナルトに牽制の蹴りを入れるがその脚を掴まれクレーターの外斜面へと叩きつけられる。
パラパラと衝撃に対して砂利が落ちると共に、煙の中に埋まった悟の存在とナルトの優勢にここでやっと周囲の観客たちは歓声を湧き出し始めた。
「っ……はぁ……はぁ……」
仙人モードとなったナルトはそのまま肩で息をしながらも警戒を解かずに構え続け煙の先を見据える。 ナルトは分かっていた、悟がこの程度で倒せる相手ではないことを。
ナルトは警戒したまま手に持った
「……ア―――はっはっはっ!!! イヤぁ……やられたやられた……印を結ばないのは俺を油断させる罠か……既に影分身を何処かで仕込んでて仙術チャクラを多量に練らせていたな? それも俺の感知に引っかからないようにウンと離れた場所……それか誰かに結界忍術か何かで存在を隠してもらっていたのか……しかしまぁ滅茶苦茶に効いたぞ、腹への一撃は……っ」
ガラガラと煙の中から、瓦礫を這い出る悟の音が響く。
ダメージは小さくないハズの悟の元気なその声に、観客たちの歓声は一気に静まりかえり悟の声がより響く。
「しかもその後のやり取りの間に隙をつかれて印鑑を取られちまったよ……後は腰につけた巻物まで取られたら勝負は俺の負けだが……さて」
ブンッと悟の腕が振るわれ多量の土煙がその一振りで一気に吹き飛ぶ。 姿を現した悟の姿と、その気配にナルトは息を呑む。
「……ホント悟ってばよお前……何でもありなんだな……っ!」
呆れたかのような、うんざりするかのような冷や汗を垂らすナルトのその言葉に緑の隈取りが顔に出来た悟が答える。
「俺だって何でも出来るわけじゃないさ……ただ
出来ることは遥かに多いがな」
仙人モードとなった悟とナルト。 相対する2人はその感知能力によって、より互いの力量を把握して先の手を考え合う。
そして
「行くぞ、ナルト。 喧嘩はこっからが本番だっ!!」
「来いってばよ悟っ!! オメェのなに考えてんのわかんねぇ頭ぶっ叩いてやる!!」
現状木ノ葉の里の最高戦力同士がぶつかり合った。
~~~~~~
黙雷悟は思う。
(時々、自分じゃない誰かの感情が流れ込んでくる時がある)
それはいつも……戦いの時に感じていた。
(そもそも俺は暴力が好きじゃない、なのに時々感じる戦闘に対する高揚感……)
もう一人の自分である黙の物でもないその感情の根本に悟は心当たりがあった。
(高揚し、相手が強ければ強いほど……俺は自分を見失うかのように戦いを楽しみ始める……間違いなく……うちはマダラの影響なんだろう)
力を振るい振るわれ、対処し対処される。 そのやり取りに最高の満足感を得る。 悟はたびたび感じていたその感覚の正体にある意味の不気味さを感じていた。
(それはつまり黙が……この身体が本当にうちはマダラの血を受け継いでいるとして、俺の言動がその性質に引っ張れているということか? 実際に息子だからとしてそんなこと有り得るか知らないけど、そもそもそのうえで千手の力も持っている以上……俺たちは到底まともじゃないんだろう)
だが
目の前に現れた自分に近い次元の相手との本気の戦いに、満足感を得ているのは間違いではない。
(戦いを通しての腹の奥底の見せあい……嘘も偽りもない純粋な力の見せあいは思っていたよりも楽しく……心地が良い)
同じ仙人モード同士の徒手空拳の攻め合いは、しかし仙人モードの質が上回る悟に戦局が傾く。
空を殴り飛ばす蛙組手も、自然エネルギーを扱える悟には有効打にならず逆に、より仙術チャクラを練り扱える悟の身体能力がナルトの上を行く。
それでも諦めないナルトのその姿に悟は心底心を躍らせていた。
(これがうずまきナルト……これが──
仙人モードの戦いは一周回って派手さの無い物になっていた。
しかし当に周囲の領域を置いていった2人の組手は、誰にも割って入る余地を残さない。
卓越した忍び同士の戦いで悟はナルトの心に触れていた。
諦めずに、前を向き続ける意志。 多くの者がナルトの背に集い始め、これからもそれは拡がり続ける。 漫画を読んでの知識などなくとも、悟はナルトの事を信用していた。
(俺が……俺たちがなにをしようとも、今のナルトなら……世界を良くすることが出来る。 そんな確信を俺に与えてくれる……ナルトがこの先どうするか、漫画の知識などなくても見通せる気がするよ。 だからこそ……っ!!)
ナルトの拳を捌き掴み捻り上げ、出来たすきに肘鉄をくらわして仰け反らせる。
「どうした? ここまでなのかお前の実力は……?」
全力の拳の応酬は、柔拳と剛拳を修めている悟に傾いている。 そうでなくとも千手柱間に匹敵する仙人モードの力はそう容易く打ち破れるものでもなくナルトは苦しそうに汗を拭いながらも……小さく笑みを零していた。
「へっ……へへへ……」
そんなナルトの零れるような笑い声に悟は訝しむ。
「勝てないと悟って自棄にでもなったか?」
ナルトの様子に悟がそう語りかけると、ナルトは透き通ったような青い目を悟へと向け構える。
(既に仙人モードが切れたか……)
「俺ってば嬉しいんだってばよ……」
「……?」
勝負が決したかのように悟が構えを取らずにいるとナルトはフラフラになりながらも悟へと歩み続ける。
「どんなに頑張っても……何考えてんのわかんなくて……背中すら見えなかった悟と……こうしてケンカしてっと……何だか悟の事が分かってくるみたいで……ッ」
「……」
「悟はいつもそうだ……思わせぶりで変なことやキツイ事言ってても……いつも誰かの為に頑張ってる。 俺は……悟にサスケとは違った変な感じを……感じてる」
ナルトはそういうと、脚を止め拳を自分の胸に突き立てる。
「兄弟見てぇって思ったこともあったけど……それよりももっと……近い何かだ」
「……ああ、俺も薄っすらと感じてるよ」
ナルトの言葉に……悟から完全に素の状態の言葉での肯定が出る。
「へへ……まあ、だからこそ……俺は負けらんねぇだってばよ……っ!!」
ニコッと笑顔を浮かべたナルトに悟も小さくフッと笑うと互いに構え合う。
「残念だが
そう言った悟が駆けだし、拳をナルトの顔面目掛け繰り出す。
仙人モードでのその攻撃を既にナルトには防ぐ手段がなく、その瞳が攻撃を捕えられていないことに悟は気がついていた。
(良くやった、ナルト。 お前は成長して、必ずこの忍界を良くしてくれる……今回も婚約の巻物は元々置いていくつもりだったしな……これで心置きなく──)
──パンッ
そんな乾いた音がクレーターに響いた。
──ナルト君ッ……負けないで!!
「っ!?」
黙雷悟は本気で動揺を示した。
自身の繰り出したナルトの意識を刈り取るはずだった拳は……
悟は自分が勝てるものだと本気で思いこんでいた。 この時点のナルトの限界は仙人モードで終わるはずだと原作の知識があったからだ。
だからこそ……
「一度目は中忍試験とやらで……二度目は仙人の傍の小川で……どちらもさっきのような拳に打ち負かされていたなぁ……」
ナルトの身体から湧き出るそのチャクラは、大きな狐の顔を形作ってそうナルトへと語る。
「三度目の正直などと言った言葉があるが……さて、うずまきナルトよ。 貴様はここで勝ちを諦めるのか?」
試すかのようなその狐の問いにナルトは……
「んな訳ねぇだろ……俺はぜってぇーにっ!!!」
答えの決まっているかのようにその狐の顔は小さく笑みを浮かべると形作ったチャクラはナルトへと向かいその体へと巡り渡る。
チャクラの奔流が悟を吹き飛ばし、周囲を明るく照らした。
太陽のような輝きに思わず悟が手をかざして、ナルトを見る。
全身を巡る太陽のような色のチャクラは不完全ながら、ナルトの全身を覆い明るく発光していた。
「
悟は思わずそう呟く。 原作やアニメで見たその姿は不完全ながらも九尾の……九喇嘛の力を制御したものであった。
時折巡るチャクラが不安定な場所でナルト本来の姿を覗かせるも、その輝きは間違いなく悟の呟いたそれである。
ナルトの身体に走る紋様が悟の知るものとは違い一部欠損しているものの、その姿を得たナルトは真っすぐ悟を見据え足を一歩出して拳を作って信念を込めたその言葉を呟いた。
「……諦めねぇ」
その瞬間、ナルトの身体は消え去り悟が動揺する。 次の瞬間には悟が吹き飛び、地面を抉っていた。
既に周囲の認知の次元を超えた戦闘が始まる。
追い打ちに現れナルトに、悟も本気で拳を繰り出す。
「っ!!」
間違いなく本気のその拳は空を切り、しかし残像のように現れたナルトの蹴りに再び悟が吹き飛ぶ。
空中で態勢を立て直した悟が地面に接地するよりも早く、ナルトがその背後へと回り込み裏拳を繰り出す。
仙人モードの感知能力をフルに使いそれを察知した悟のとっさの腕でのガードをナルトは裏拳をわざと外しその反動で空いた腹部へと回し蹴りを放つ。
「っグうううっ!!??」
予想を超えた衝撃と痛みに悟はうねりながら地面を擦り吹き飛びクレーターに更なるクレーターを作る。
一連のやり取りを周囲の人物は息をする暇もなく見えてはいないが見届けていた。
「!」
ナルトはより多量の自然エネルギーが悟に集まることを感知しその次の瞬間
「八卦・剛掌波!!」
打ち出されたチャクラの気弾に対して、自身の背後から伸ばした尻尾のような腕で弾く。
その間に飛び出した悟の全力の蹴りにナルトはガードを試みるも
「っな!?」
纏うチャクラの衣の一部が足元から消えたタイミングであったため踏ん張りが効かずに吹き飛ばされる。
そんなナルトを尻目に口から垂れる血を拭いながらも悟が大きく笑い始めた。
そして、吹き飛ばされたナルトも起き上がると同時に同じように笑い始め
瞬身の術と見間違う速さで互いに近づくとゼロ距離での殴打の応酬が始まる。
片や完璧に近い仙人モードでの全力。 片や不完全な九尾チャクラモード。
ただ、技術もクソもない身体能力だけでの殴り合いは忍術なしに凄まじいものとなっていた。
「クソがっ!! このアホっ!!!」
「インケンバカっ!! 口足らずっ!!」
途端に始まった次元の違う格闘と、程度の低い罵り合い。
殆どノーガードの戦いに周囲が唖然とする中、しかし
殴り合う両者は笑顔を浮かべていた。
「もっと周りを頼れってばよッ!!」
ナルトの拳が悟の頬を穿つ。
「グッ……俺なりによく考えて行動してんだよっ!!」
悟のアッパーカットがナルトの顎を捕えるが、ナルトはそれを僅かにずらして逸らして再度拳を振りかぶる。
「サスケもお前もっ!! 意外にバカな癖にかしこぶりやがってっ!!」
しかしそのナルトの拳に悟はカウンターの如く拳を合わせてそのナルトの顔を殴り抜ける。
「馬鹿はお前だけだナルトォっ!! 一緒にすんなっこんのッ──」
態勢を崩したナルトに追い打ちを掛けようとした悟に、ナルトが不意に仰け反った頭を振るい頭突きをかます。
「ッヅあぁ!?」
「うっせぇ!! この──」
鼻血をだし仰け反りながらも悟は拳を固め、ナルトの突き出す右手とぶつけ合った。
「「ウスラトンカチ野郎がっ!!」」
叫び、罵り合う2人のその戦いにその様子を見ていたサクラが呆れて唖然として言葉をもらす。
「ガキか……あんの2人は……っ!」
その言葉に答えるようにいつの間にか傍に来ていた日向ヒナタは嬉しそうにな笑顔で涙を零して
「でもとても……楽しそうだね」
そう呟いた。
~~~~~~
精神世界の平原で、黙は呆れていた。
「何をやってるんだろうか……雷は」
しかしその言葉に反応を示すかのように声が精神世界に響き渡る。
「互いに馬鹿を抱えると苦労するもんだなァ、黙よ」
「九喇嘛か……何のようだい?」
顔だけのチャクラ体の姿で黙の前に現れた九喇嘛に黙はジト目のまま目線を向ける。
「ナルトもあっちの悟も……存外に馬鹿で阿呆だ。 思って居ることを普通に口には出せずに、こうやってがむしゃらに発散するしか能のない……な」
そんな九喇嘛の言葉に
「……僕のあずかり知らないことだね。 僕にはそんな相手は居たことないしね」
と呆れた様子で返事を返した。
その黙の様子にケッと言って見せた九喇嘛は黙へと問いかける。
「黙よ、貴様。 雷……アイツに何か隠しているのだろう?」
「へぇ……君が察するとはね?」
「意外でも何でもない、この悟の身体の中に守鶴とタコ野郎以外の尾獣のチャクラがあれば嫌でも疑り深くはなる」
その九喇嘛の言葉に黙はバレたと言わんばかりの仕草で首をすくめると、九喇嘛に向けて手を差し向ける。
「なら話が早い、九喇嘛。 君にも力を貸してもらいたい……また以前の様に分体を寄こして欲しいんだ」
そんな黙の行動に九喇嘛は少しの沈黙の後に
「……取りあえず話を聞かせろ」
そう言って黙に催促した。
~~~~~~
(昔から……始めて会った時から悟は俺の憧れの1人だった)
ナルトは殴り合いの最中、過去を想起していた。
(数の多さも……相手の強さも関係ない……いつだって悟は、自分のやりたいことを貫き通してきた……それがコイツの忍道だから……っ)
悟の仙人モードも、ナルトの九尾チャクラモードも限界が近いのか互いの拳のスピードが落ちてくる。
顔を、拳を血塗れにしながらもそれでも2人は拳を握る。
(俺ってば……昔から悟のそんな強さが羨ましかった……でも気づいたんだ……悟も本当は、そんなに強くわねぇんだって)
互いの拳が互いの顔面を同時に叩き、よろめき距離が離れる。
2人は息を荒くし片膝を突きながらもその眼は相手の眼を捉え続けていた。
(それでも悟がこんなにも強ぇのは……誰かの思いを背負って……それに答えようとしてっからだっ!)
「はぁ……はぁ……悟ッ……お前に聞きたいことがあんだっ!!」
よろめきながらも立ち上がるナルトのその言葉に
「……ッはぁ……何だっ!!」
悟も態勢を直しながら聞きなおす。
ナルトは息を整えて、静かに言葉を呟いた。
「俺たち……友達だよな?」
笑顔を作ったそのナルトの問いに
悟は……
「……じゃないならわざわざこんなことしねぇよ」
ぶっきらぼうにそういって腰を低く落とす。
悟の右足に仙術チャクラによって強化された雷が纏わり、明らかに大技の前触れを感じさせる。
それと同時にナルトも、右手にチャクラの奔流を発生させそれを球体に形作る。
印を結ばぬ互いの全力。
「「行くぞっ!!」」
2人は同時に駆け出し、互いの技を繰り出した。
「仙法・飛雷脚っ!」「螺旋丸っ!!!」
技のぶつかり合いは巨大なクレーターの中心で起きたにもかかわらずその余波で、外で見守る者たちを吹き飛ばしそうになるほど強烈であった。
腹のそこからのぶつかり合い、2人の叫びと技の衝突が爆音となり遠くまで響き渡る。
通常の螺旋丸であれど尾獣チャクラを元にした今のナルトのそれはより高密度で高圧縮、高回転を持って悟の蹴りを受け止める。
(俺の本気の仙人モードの蹴りが……ッ)
あまりの威力に悟が驚きを露わにするも
「負けるのは趣味じゃないんでなっ……!」
そう言って持てるチャクラを足へと集中し、螺旋の軌道を形作る。
悟の後方へと流れるように螺旋状の稲妻が迸ると、勢いの増した悟の蹴りにナルトの踏ん張る足が僅かに押される。
「っ負けてたまるかってばよォっ!!」
負けじとより一層のふんばりを効かしたナルトが一歩踏み出し螺旋丸を押し出す。
その瞬間
──互いの技の限界が来た。
破裂音を響かせ、ナルトと悟は技の衝突の生み出した衝撃で吹き飛びクレーターの斜面へとぶつかり埋まりこむ。
壮絶なせめぎ合いが終わり、静寂が場を支配すると直ぐに瓦礫をかき分けて這い出る音が2つ聞こえる。
九尾チャクラモードが消えたナルトが、仙人モードが途切れた悟が、互いに瓦礫を這い出した後にすぐに駆け出し互いに拳を作る。
そして
悟が何かに気がついたかのように歩みを止めた。
「ッ……?!」
ナルトがその悟の戦意を失くした様子に驚き、何事かと立ち止まると悟はナルトの左手を右手で指さして左手で自身の顔を覆う。
そのジェスチャーの意味に気がつかなかったナルトが疑問符を浮かべながらも自身の左手に視線を向けると……
その手にはガッシリと婚約の巻物が握られていた。
それが示すことはつまり……
「ナルトの勝ちだ……」
誰かのその呟きと共に、一瞬遅れて歓声が沸き上がる。
──ワァーーーーっ!!!
「……っええ!?」
自身が巻物を持っていることに一番驚愕を示したナルトが何だコレとは言わんばかりにまじまじと巻物を見ていると、悟が大きなため息をつきながら地面へと寝ころび……
地面に対して拳を叩きつけた。
「~~~~~っクッソォ!」
滅茶苦茶に悔しがる悟の様子にナルトがビクッと体を跳ねさせるも、何が起きているか気づいていない様子でいると彼の頭の中で声が響く。
(……悟と単純な力の競い合いでは埒が明かない……それどころか互いに大きな傷を負いかねん……今回は勝利の条件が在ったのだ、それさえ満たせば……お前の勝ちだ、ナルト)
九喇嘛のその語りかけにナルトは
(九喇嘛がやったのか……?)
と確認を取る。 そのナルトの微妙に納得の行っていない様子に九喇嘛は
(チャクラで模った腕でチョチョイとな……ワシが手を出したことが不満か? そもそも端から向こうは
九喇嘛は一呼吸置いてナルトへと言葉を投げかける。
(お前の勝ちだ、ナルト)
九喇嘛からの言葉にナルトが放心していると
一通り悔しがった悟が跳ね起き、ナルトを指さす。
「ナルト、取りあえずっ!! お前の勝ちってことにしてやるよっ!! ……その巻物の俺の血印の上に重ねるように日向の印を押せ……そうすれば契約を破棄できる」
負け惜しみ染みた態度で婚約の破棄の方法を説明する。
悔しさが抜けないのか、怒った様子のその悟のジェスチャーと促しにナルトがたじろぎながらも言われるがまま、日向の印を巻物へと押す。
その瞬間、巻物に記されていた悟とヒナタの契約記がじわじわと薄まりそのまま消え去ってしまった。
その後悟が自身の腹を撫で確認するような動作をした後、チラッとクレーターの外周に訪れていたヒナタへと視線を向ける。
ナルトの勝利に熱狂しヒナタに気がつかないギャラリーの中から、ヒナタは悟の視線に気がつき目が合う。
ヒナタは気がついた、その悟の視線が……祝福するような幸せを願うような優しい目をしていたことを。
次の瞬間には悟はナルトへと向き直り、言葉を続ける。
「よし、それでナルト。 お前がその巻物に名前と血印を──」
悟が契約の方法を解説しようとした瞬間
──ビリ
ナルトは力任せにその巻物を破き始めた。
その行動に周囲の言葉が鳴りを潜め、巻物を破き去る音だけが空間を占める。
次の瞬間
「何やってんだバカやろーーーっ!?!?」
どこからかシカマルの心底信じられないと言った心からの罵倒が響き渡る。
巻物を破き切って満足したような表情を浮かべていたナルトはその罵倒にビビり思わず体をビクつかせた。
次の瞬間にはシカマルを皮切りにし、その場に訪れていた同期の面々からナルトに向けての罵倒の嵐が巻き起こる。
主な理由はナルトが破り去った巻物は日向という名家の正式な書類の類であり、個々人がそれを破り去ることは国の公文書を破り去ることと同義であるからだ。
突然のナルトの行動に、罵倒の嵐が跳び始め周囲のギャラリーも唖然として言葉を失う。
仲間からの突然の罵倒にオロオロしながら涙目を浮かべるナルトに悟が笑いながら近づき肩に手を置く。
「あっはっはっは何で巻物破ってんだよ!!!」
「だ、だってこの巻物があんだからヒナタの奴が変な契約だなんだかをさせられるんだろ!? 俺ってばヒナタの奴を自由にしてやりたいと思ったからこんな巻物無い方が良いと思って……っ!」
必死に自分の意図を説明するナルトに悟は涙を浮かべながら笑い、肩をバシバシと叩く。
「いーひっひっひ お前はそういう奴だよな、ナルト ホント……期待を面白く裏切ってくれるよ」
「ちょっ……痛てぇてば……叩くんじゃねぇよ悟っ!!」
ナルトが悟の手を振り払うと、笑いながらも涙を拭った悟は突如印を結び宙へと浮かび上がる。
その瞬間、ナルトを途轍もない力が襲いその体を向き直させられた。
「アンタっ!! 一族の婚約の巻物破き捨てるなんてどういうつもりよバカナルトっ!!!」
「さ、サクラちゃぁんっ!? 俺ってば悟に勝ったし、そんで──」
「ホントてめぇ……常識ねぇのかよホント……」
サクラやシカマル、キバやシノ、チョウジやいの、テンテンとリー、ネジと行った面々に囲まれサクラに襟を絞め挙げられるナルト。
ワイワイしているそんな面々に向け、オッホンと注目を集めるように宙に浮いている悟がせき込む。
「あーちょっとイイかな? 俺から話があんだけど……」
何故か律儀に確認を取る悟に、その場の全員が一応視線を向ける。
「あー……お、俺様の目的も阻止されたし、ヒナタと言う婚約者も取られたッ!! こ、こりゃぁもう里にいる理由もないなぁ!!」
物凄くぎこちなくそう言い放った悟に、ナルトを除いた面々は気の毒そうな視線を向ける。
悟が里抜けを意図していることは同期やテンテンらは薄々気づいていたためナルトの奇行でその流れを断たれた悟はぎこちないながらも言葉を続ける。
「悟アンタ……本当に里を抜けるつもり?」
何とかテンテンがシリアスな感じでそう悟へと問いかけることで場の雰囲気が丁度良く重くなり悟も真面目な表情を作れた。
「ああ、俺が木ノ葉に居る理由はもうない。 俺は……俺のしたいようにさせてもらおうっ!! 新たな『暁』を名乗り、俺は……自由に生きるっ!!」
そういって更に高度を上げた悟は日が沈んだ夜の空に浮かび高らかに叫ぶ。
「俺の名は黙雷悟っ!! 今から俺は木ノ葉の抜け忍だっ!! ……じゃあそういうことで」
宣言を終えた悟は、軽く手を掲げて別れのジェスチャーをするとそそくさとその場から飛びあがり夜空の雲の中へと姿消した。
抜け忍を宣言することは真面目に里にとって犯罪者扱いをする理由になるほど重たいものになるのだが……
一行はナルトの奇行にインパクトを持ってかれていたことで、悟の抜け忍宣言に驚愕することなくさらりとそれを流してしまった。
再度問い詰められ始めたナルトとそれを囲む集団。
その傍で空を眺めたヒナタは
(悟君……ありがとう……そして気をつけて……)
悟の安否を思い、祈りを込めて手のひらを握るのであった。
~~~~~~
そしてすぐ近くの森に、悟はひっそりと降り立つ。
先ほどの場所からそう離れていない位置のそこで悟は辺りを見回す。
すると
「待っていました、悟君」
そう声をかけられ悟は声のする方へと体をゆっくりと向ける。
その視線の先には、仮面をつけた白が暗部のくノ一・ミノトを拘束し立っていた。
その様子に悟は冷や汗を垂らす。
「おっと……まさかミノトさんとの待ち合わせ場所に白がいるとは……」
「これでも僕は優秀な方の忍びですからね……君が里抜けを企てる場合協力者と落ち合って荷物の受け取りをすると思っていました。 現に君は時空間忍術を扱えない、そんな君の必要とするものを運ぶ係がこの方だったというわけですね」
白の淡々とした物言いに、悟は僅かに警戒の素振りを見せつつも
「悪いけどその人を放してくれないか、白。 別に白たちにデメリットになるようなことはしないと誓うから」
そうフランクな感じで白へと頼み込む。 その様子に白は笑い声を仮面からこぼし
「別に放しても構いませんよ? でも既に抜け忍である君の言うことを素直に聞くのもしゃくですねぇ……♪」
悟を前に、僅かに楽しんでいるかのようにそういうと視線を悟の後ろへと向ける。
そうすると悟の背後から足音が聞こえ……悟が振り返ると
悟の荷物を抱えた日向ハナビが立っていた。
「っハナビ……?」
悟の漏らす言葉に、小南から譲り受けた暁の衣を畳みその上にポーチを乗せて持つハナビは決心を固めたように瞳を真っ直ぐと悟へと向ける。
「この暗部の方を放して欲しければ、ちゃんとハナビと向き合ってください」
背後に聞こえる白の言葉と共に、ハナビは口を開いた。
「悟さん……どうしても……里を出ていくんですか?」
震えるハナビの声に、悟はいたたまれなくなりつつも
「ああ、俺は里を抜ける必要がある」
確かな信念を持ってそう答えた。 悟の返答を聞きハナビは唇をきゅっと噛みしめる。
「……っ」
泣き出しそうなハナビの表情。 それがただ悟が里を抜けることに向けてのだけの感情ではないことに、悟が気づく。
そんな悟の察した表情にお構いなくハナビは口を開いた。
「なら……約束をしてください」
「約束……?」
ハナビはついには涙を零しながらも、何とか自身の思いを口にする。
「絶対に……帰っ……いや……死なないでください……っ!! 何があっても絶対に……絶対にっ!!」
何やら言葉を選んだ様子のハナビに悟は違和感を僅かに覚えつつも、その言葉もハナビの本心であると理解できるため少し屈んでハナビの目線に高さを合わせ頭に手を乗せる。
そして悟はあやすようにハナビの頭を撫でながら
「……約束……ああ、約束しよう。 絶対に生きて帰ってくるよ、何が起きようとも何をしようとも……最後には必ず」
まるで自身にも言い聞かせるようにそう呟やいた。 そして
瞬時にハナビから荷物を奪いさると、悟は軽岩の術で再び空へと舞い上がる。
「っ!?」
「悟くん!?」
ハナビが驚き白も声を挙げる。 そして悟が宙で暁の衣を羽織ると白へと向けて告げる。
「白……ていうかミノトさん、2人ともグルだなっ! どういうつもりかは知らないけどっ!!」
そういうと悟は視線をハナビへと一度向け、そのまま空の彼方へと飛び去っていった。
悟の素早い動きに対応出来なかった白は小さくため息をつくとすぐさまミノトを拘束していた手を放す。
「……バレてしまいましたか」
「そうですね、僕は結構うまく演技できてたつもりなんですが……悔しいですね、ハハハ」
軽い雰囲気で談笑し始めた白とミノト。 するとハナビが硬直している様子に白が気がつく。
「あのアンポンタンの悟君が危険な事をしようとしているのは充分にわかりました。 ハナビ、彼の真意……くみ取れ……ハナビ? どうしました?」
あまりにも動きと反応のないハナビの様子に白がハナビを顔を覗き込む。
ハナビは額を両手で押さえたまま、赤面させ体を硬直させていた。
その様子におやおやと白は仮面のしたをニヤニヤさせ顎に手を置く。
ミノトは(若いというのも良いものですね……)と思いつつも野暮なことは言わずにいた。
そして三人はその場から撤収し始めたのであった。
(良く彼女らが結託しているとわかったね?)
上空、雲の上を飛び星空を見ていた悟に黙がそう語りかける。
(白が幾ら優秀でも、隠密に長けたミノトさんを捉えるには色々と急すぎるからな……最初は違和感を覚えたけど、ハナビと話をさせる場面を作るための演出だったわけだろう)
悟の解説に、なるほどと納得を示した黙。 すると
(逆に俺も聞くが黙、お前本当にハナビに話した内容はあれだけだったのか?)
(君の性癖のことかい?)
(グッ……ああ、そうだ。 ハナビの様子が明らかにおかしい……何か俺たちのことを知っているような様子にも見えたんだが……)
(気のせいだよ、彼女も大好きな君が里から抜けることに心を痛めていたんだろう。 様子がおかしくなるのも仕方のない事さ)
(…………そうか。 つーか話は変わるけど九喇嘛の件は……)
(ああ、彼なら無事分体を分けてくれたよ。 これで残るは一尾守鶴、彼ら尾獣の力を借りれば……
(ああ……そうだな)
自らのこれからの目的を再確認した悟は決意を新たに空を翔けていった。
(黙よ……貴様)
(何だい九喇嘛)
(雷はお前の思い通りにはならんぞ)
(……)