目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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0+31:「もしも転生したら現状確認は怠らず」

 黙の記憶を覗いたあの日、あの時から俺は何時しかそういうタイミングを作れるように機会を伺っていた。

 

 俺自身が志村ダンゾウを許せないと思う感情以上に……アイツが抱えている感情の厚みを想像して……いや正直想像もつかなかったのが本音だ。

 

 俺が黙雷悟として、天音小鳥として戦い、行動してきたのは自分の価値観に従ってのこと。 それも全て転生するきっかけとなった少女を助けた時に感じた後悔をもう二度と俺自身が感じないように……俺がしたいことをして……後悔しないように。

 

 だからこそ、黙の提案に俺は何も言わずに協力をした。 それにサスケの代わりにダンゾウを殺せばサスケの罪状も軽くなるはずだ……漫画の最終場面を知らなくても漫画でのサスケがヤバい罪状抱えまくってんのは理解できるし……今はもう人のこと言えない立場だが、()()()()()()()()()()

 

 

 なんせ俺たちの身体はかなりの限界が来ている、黙の最終目標である未来に現れる死んだハズのうちはマダラの打倒のためにはギリギリのラインだとも思う。

 

 

 うちはマダラと千手柱間の力……写輪眼と仙術……強力な力だがその代償はやはり小さくもないようだ。

 

 使えば使うほど、自分が強くなるのを感じるとともに……前世で死んだときに感じた『死にゆく感覚』が色濃く背を伝うのが分かる。

 

 この身体に施された封印術とやらももうほぼ機能していないのだろう。 黙が繰り返した輪廻で力を発現できなかったのもその封印術が機能していたから……それも俺が八門遁甲を使うことで早い時期に無理やり綻びを作って壊してしまったから今の力がある。

 

 明らかに俺たちの力は意図されたもので……制御も試みられている。 黙には悪いけど、俺たちの正体はきっとろくでもないものだと思う。 だけどそんなことは今更気にしないだろう、だって…… 

 

 俺たちには大切な人たちがいる……それだけで十分だと知っているからだ。

 

 …… 

 

 この先出来る限りの命を救うために……この命を燃やすために……未来でマダラが現れるのを待つよりも第四次忍界大戦の時に、確実にマダラを殺す方が良いと思う。

 

 ナルトとサスケによって十尾……カグヤを封印されたマダラは死ぬはずだ……だが何らかの方法で生き残ったのか……それとも三度生き返ったのか……わからない。

 

 けれど、俺の知らないマダラの脅威が……未来を襲う以上何もしないわけには行かない……

 

 必ず……俺たちが…… 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 雷は水の流れる音を聞いて目を覚ます。

 

「ここは……?」

 

 自身の記憶が、志村ダンゾウを蹂躙する黙を支えている時点で途絶えていることに気がついた雷は自分が今何処にいるのか把握しようと辺りを見回す。

 

 正面には滝が流れ、自身はその滝つぼの中州にある円形の草地に横たわっていたことを理解した雷はここがどこだか、直ぐに思い当たる名を口にした。

 

「真実の滝……? 確か原作でナルトが九喇嘛の力を扱うために修行する……」

 

 そう呟いた雷は身体を起こして違和感を覚える。 動作によって生じた違和感とは……自分1人分の物であり、内に黙を感じない……というよりも自身の精神世界に潜れないというイレギュラーであった。

 

 警戒を露わにした雷はふと、滝の中から割って出るように姿を現す人影に気がつき注視する。

 

「……お前は……? ……ッ!?」

 

 その人影とは……自分であった。 滝から現れた黙雷悟の姿をしたその人物は、濡れた髪を乾かすように頭を振るうと…… 

 

 写輪眼を露わにして雷を見つめる。

 

 もう一人の自分の出現に雷は始めこそ動揺を示したが、直ぐに今いる場所の特性を理解し……そこからの発展形を予想する。

 

「……黙か?」

 

 その問いかけに

 

「思っていたよりも目を覚ますのが早かったね……」

 

 黙は仕方がないと言った様子で雷へと声をかけた。

 

「ダンゾウはどうなったんだ? ……あの後ここに寄る予定なんてなかったはずだぞ」

 

 自身の計画との齟齬と状況に、雷は黙に対して警戒の色を見せる。

 

「……さては九喇嘛か……他の尾獣たちの仕業か……?」

 

 黙がブツブツとそう呟く中、雷は薄々感じる得体の知れない存在感を感知し……身構える。

 

 その瞬間、悟の居る中州を取り囲むように滝つぼの水面に9匹のこじんまりとした尾獣たちが姿を現す。

 

 雷の正面に居る黙は姿を現した尾獣たちの中から雷の背後に立つ九喇嘛へと睨みを聞かせた。

 

「君の仕業かい九喇嘛? 雷にチャクラを分け与え、回復を早めたのは……ッ」

 

 計画を邪魔されたと言わんばかりの苛立ちを珍しく見せる黙のその言葉に九喇嘛は

 

「フンッ……筋を通さねぇのが気に喰わんだけだ……それに雷を目覚めさせたのは()()()の総意だ」

 

 そう言って他の尾獣たちに目線を向けた。

 

 何が起きているの1人蚊帳の外の雷が混乱していると、尾獣たちの中から一匹、八尾の牛鬼が彼に声をかけた。

 

「混乱している様だが、お前はアイツの思う壺になるところだったということだ。 ……ああ、今更俺の自己紹介は要らないだろう?」

 

「牛鬼……?! 何で……まだ会いに行く予定じゃないはずだ……それに思う壺って……どういうことだ黙!?」

 

 雷からの問いかけに、黙は苦虫を嚙み潰したように表情を歪ませ唇ギュッと閉じる。 苛立ちを隠す素振りも見せない黙のその様子に雷が一種の不気味さを感じ始めると、観念したように黙は大きなため息をつきながら天を仰いだ。

 

「…………これも、因果応報って奴……だね。 ()()()()()()()()()()のは、君たち尾獣もお好みではなかったってことか……全くッ」

 

 そう言い黙は、ひどく落ち込んだ様子の表情で雷へと目線を向ける。 状況を飲み込めていない雷だが

 

「……何か事情があるんだな? ……ゆっくりでいいから俺に話して──」

 

 黙の動揺具合に心配して手を差し伸べようとするが

 

──バチンッ

 

 黙はそれを払いのけると、涙を流しながら後ずさる。

 

「ッ黙、お前……」

 

「そうやって君が……君が優しいのがいけないんだ……ッ」

 

 恨めしそうに雷を睨みつけた黙は、震える声のまま独白を始める。

 

「始めはただ利用するつもりだっただけなのに……どうして君は……っ!!!!」

 

 黙の叫びに尾獣たちは一度姿を消しさり、その空間には黙と雷だけになる。

 

「黙……」

 

「……ああ、確かにそうだ。 九喇嘛や彼らの主張の通り君は知る権利がある……雷、君がこの世界に来た真実を……」

 

「真実……? 俺は一度前世で事故で死んでそれから──」

 

「僕は……()()()は君に幻術をかけ、記憶に制限を掛けているんだ……こうなった今、その記憶を解放しよう……そして……僕の所業も知ってくれ……」

 

 気を落とした黙が万華鏡写輪眼を発動し、雷と視線を合わせる。

 

 その瞬間……雷は……黙の言う〈真実)を把握した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 黙雷悟が転生を数え切れないほど繰り返す……そんなあるとき。

 

 彼は幾たびの転生の始め、赤子の自分が蒼鳥マリエに引き取られ意識を覚醒させる僅かの期間……とある人物と必ず接触をしていた。

 

 

 

 

 

──我は安寧秩序を為す者……。名をハゴロモと云う。

 

 

 

 

 お決まりの自己紹介……幾百幾千と聞いたその名乗りに……悟は……無表情で答える。

 

「……まただ……僕は何もできない……中途半端な力だけ付けても……どれだけ実戦経験を積んでも……圧倒的な力の前に……何もできない……」

 

 絶望に苛まれるように……魂の揺蕩う世界で黙は弱音を六道仙人・ハゴロモその人へと漏らす。

 

 すると悟から一筋の細い光がハゴロモへ伸び、それを吸収したハゴロモは顔をしかめる。

 

「なるほど、お前の事情を今一度把握した……と言われるのも数え切れぬほどとなれば辟易するだろうな。 此度も世界はうちはマダラの凶行に沈み……お前は転生を果たした……」

 

 気の毒そうな表情を浮かべた六道仙人に悟は酷く頭を掻きむしり、床面へと頭を押し付け苦悩を現す。

 

「何で……僕なんだ……!? 何回も何回も何回も何回も何回もっ!!!! ……うずまきナルトとうちはサスケは何で僕を必ず転生させる!?!?!? ……もういい加減にしてくれぇ……っ」

 

 何度世界を繰り返しても、自分の力は弱く、人並みの忍びになるのもマダラが襲来する僅か前。 当然そんなペースでは木ノ葉崩しの時点で蒼鳥マリエを救うことなど叶わず、黙は同じ結果を幾たびも重ねていた。

 

 悟の途方もない苛立ちはハゴロモへと向けられる。

 

「なぁッッ!?!?! マダラは毎回戦争でナルトとサスケに破れたって言われているのに……どうしてこうなるっ!?!?!? アンタが導くと言って……何回僕はこうしてここに来ているっ!?!?!?! 何なんだ何なんだっ!!! 六道仙人何て大層な名前掲げて……実際は何もしてくれないじゃないかぁっ!!!!!」

 

 泣きわめき、頭を打ち付ける悟。 精神世界であるその場では怪我を負うことはなくとも、その行為は痛々しいものであった。

 

 そんな悟に、何も言えないハゴロモ。 すると悟は突然狂ったように笑い始めて

 

「ハハ……ッアハハハハハハ……ああ、僕が弱いのが行けないんだ……弱い弱い弱い……どんなに場所を変えても……抵抗しても逃げてもっ!! マダラは僕を捕え、木ノ葉へと連れ去り……ナルトとサスケは毎回瀕死になって僕を過去へと転生させる……何でそうなる……僕が何かしたのか!? ああ、僕が悪いんだろ? 僕が……アハハハハハハッ!!!!!!!!!」

 

 自嘲に合わせ自らを殴りつけまくる。

 

 既に精神は崩壊し、正気を保てていない黙に六道仙人は思案の後、黙へと語りかける。

 

「……幾たび、ここでのワシとのやり取りの記憶をお主に託し、こうして時を越えた邂逅を果たしてきたが……悟よ、どうやらお主の魂も限界を迎えようとしておる」

 

「……」

 

 ハゴロモは虚ろな目の黙に優しく口調を崩さないで話し続けた。

 

「二度目の転生の時に、魂を糧にする方法を教え……お前は赤子の自分の魂を喰らい歩み続けてきた。 それでももう、お主の魂は限界を迎えている……これ以上魂を取り込んでもお主の魂の器自体が耐えきれぬのだ、精々後一回の人生を全うするのが関の山だろう」

 

 ハゴロモのその言葉に悟は

 

「……もうどうでもいい……世界がどうなろうと……この輪廻から解放されるなら……」

 

 仰向けに倒れた状態で静かに涙を流す。 自身の生を終わらせたい悟の投げやりな姿、しかし

 

「だが……まだお主は諦めておらぬのだろう……?」

 

 そうハゴロモが問いかけると、悟は突如激昂しハゴロモの着物の胸倉を掴み叫ぶ。

 

「ふざけるなよ……当たり前だっ!!!! 本当に諦め切れるなら、とっくに自分で自分の首を掻っ切ってるさっ!!!!!! 何度ここでどんなに転生を後悔しても、苦しんでもっ……いざ瞳を開けてマリエさんを目にしてしまえば……っ僕が……僕が……やるしかないじゃないか……っっっ!!!」

 

 矛盾を孕んだ感情に苛まれる悟。 どれだけ自分の使命を放棄することを望んでも、蒼鳥マリエを救える可能性が僅かにでもあると提示されれば挑まずには……動かずにはいられない……

 

「すまない……お主にこのような責務を押し付けてしまってな……」

 

 悟の境遇を、自身が招いた因果の結果だと悟っているハゴロモは悟に深く頭を下げる。

 

 しかしそんな謝罪などどうでもよいと、悟は何もない心象空間の天を仰いで嘆く。

 

「本当に僕はどうすればいいんだ……諦めることも……進むこともできない……ッ」

 

 助けを求める悟。 そんな痛ましさを感じさせる彼の姿とその苦悩にハゴロモは

 

「……運命を捻じ曲げる方法が……ないわけではない」

 

 と小さく呟くように口にした。

 

「何……?」

 

 その言葉に悟は目線を向け反応する。

 

「運命というモノは……恐ろしく厄介だ。 お主がどれ程足掻こうが、変わる兆しを一向に見せない……運命とは始めから決まっておるのかもしれぬが……」

 

「何が言いたい……っ!」

 

「この世界の運命が既に決められており……変わらないというのであれば……先に世界を変えることで運命も変わるかもしれぬということだ」

 

「世界を……変える?」

 

 そういい、ハゴロモは水遁で水玉を生成する。

 

「これは只の水だ。 この状態ではどうあがいても水と言う名を変えることは出来ぬ……だが」

 

 ハゴロモは風遁で自らの指を切り、血を一滴水玉へと垂らす。

 

「こうすればこの水玉は……もはや純粋な水とは言えまい」

 

 悟はその光景を見てハゴロモの言わんとすることを察して口にする。

 

「……忍界というこの世界に……何か異物を放り込む……?」

 

「さすれば……蝶の羽ばたきが遠く離れた土地で竜巻を起こすように、予想も出来ない影響力が世界を変えることだろう……しかし……ッ」

 

 ハゴロモはその先の言葉を言い淀む。

 

 忍界と言う水玉に、血と言う不純物を招く。 そうなれば血が水を染め、水という存在自体を変える。 ならば

 

「その〈血〉は、どうやって……この忍界に取り込むんですか?」

 

 変化の兆しに冷静さを若干取り戻した悟の問い、ハゴロモはその問いに対して

 

「……」

 

 その答えを言いたくないのか、表情を暗くする。 

 

(わざわざこの方法を口にするということは、不可能なことではないはずだ……それでも……その手段を取りたくないという事なのか……)

 

 その様子に悟はハゴロモの心中を察っした。 しかし

 

「何だっていい……状況を……この輪廻を変えられるなら何だっていいっ!! ……ハゴロモ様、策があるならやるべきだ……っ! 僕たちにしかそれは出来ないっ!!!」

 

 悟は必死の形相でハゴロモにすがり付くように、彼の肩に手を置いて揺さぶる。

 

「……方法は一つ。 他の平行世界の1つから魂を呼びつけること」

 

 重たい口を開いたハゴロモのその言葉に、悟はいまいち理解が及ばないが

 

「ならさっそくそれをしましょうっ!」

 

 その方法が何であれ、状況が変わるのであればやらない理由が彼にはなかった。 だが

 

 

「この方法には問題が幾つかある……」

 

 

 ハゴロモは悟をたしなめる様に彼の手を掴み、降ろさせる。

 

「何ですか、問題って……もったいつけてないで全部説明してくださいよっ!!」

 

 何でもいい……何でもいい……ただそういう思考に囚われた悟はハゴロモを急かす。

 

 口にしてしまった以上それは自分の落ち度であり仕方がないと諦めを見せたハゴロモは重い口を動かし始めた。

 

「ワシの輪廻眼が持つ〈道〉の力を最大限に有効活用することで、平行世界から魂を呼び寄せ……変革を望むことは不可能なことではないが……問題とは2つある。 1つは〈それ〉を行うには莫大な力、エネルギーが必要な事……そして2つ目は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハゴロモ様のその策の為に、僕は新たに転生した世界で……()()()()()()()

 

 ただ息をして……命を保つサイクルのみを維持する。

 

 まるで植物のような僕だったが……それでもマリエさんは、そんな僕を大切に育ててくれた。

 

 会話もしない、動きもしない……ただ与えられ点滴から栄養を享受し続け……目も開けることなく一生を過ごした。

 

 こんな状態でも、僕は生き続けることが出来た。

 

 それはマリエさんから、ウルシさん……他にも少数だが僕を生かすだけのために人が動いてくれたからだ。

 

 木ノ葉崩しでマリエさんが死んだ後も、マリエさんの意志を引き継ぐためにカカシさんが僕を生かし続けた。

 

 放棄され死んでも可笑しくない僕の存在はそうして、運命をなぞるように逃れられない最後を迎える……転生と言う、最後を。

 

(荒廃…………崩壊した木ノ葉の里……辺りを見渡しても、動く命はない。僕の体も左半身がすでに無く、身体の感覚ももう消えている。

 

 それでも、消えない笑顔の「太陽」が、赤い目の「月」が僕を生かす。そして……繋ぐ。これでいったい何度目だろうか……。

 

 恐らく……次が最後の……最後のチャンスだ。

 

 もう、時間が残されていない僕では……この運命(・・)を変えられないかもしれない……。

 

 ならば……

 

 お願いです、ハゴロモ様。希望を連れてきて欲しいんです……)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 新たに過去への転生を果たした悟は、ハゴロモに彼の記憶の残滓を渡す。

 

 有無も言わさずハゴロモに記憶を継承させ……文字通り一生分蓄えた悟自身の魂の精神エネルギーと、彼が今まで取り込んできた()()()()()()()()()()()取り込んだ魂を差し出した。

 

「やりましょう……ハゴロモ様……これで世界を変えるっ!!」

 

 その()()に縋るしかない悟は懇願し、神に願うように掌を組み合わせ頭を下げる。

 

 一生を無為に過ごし力を蓄える。 それが如何に過酷で、狂っていることか……ハゴロモはそれを理解し、悟の願いを聞き入れる。

 

「……お主の覚悟、しかと受け取った……ではゆくぞ……」

 

 差し出された精神エネルギーと魂の塊を抱え得るように掲げ、ハゴロモはその輪廻眼を見開く。

 

 

 

 

 

 ()()()によって魂と精神エネルギーを純粋な〈力〉と変え己へと取り込み、()()()を発動させ心象空間に〈穴〉を開ける。

 

 異世界と繋がる修羅道の力が開けた穴に悟は飛びこんだ。

 

 その〈穴〉は()()の力により、ある世界を引き寄せていた。

 

 〈穴〉に入った黙雷悟と共鳴しうる魂が存在する世界を…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……緊張するなぁ……もしも小鳥が来なかったらどうしよう……いやメールでちゃんとOK貰ったし来ないなんてこと……うへぇ何でこんな緊張してんだ俺ぇ……」

 

 大学生の黙雷悟は誰も居ない公園の中でうろうろと歩き回り弱音を吐いていた。 幼馴染の天音小鳥とNARUTOの漫画を彼女の家で読むためにいつも待ち合わせ場所にしていたその公園でいつも通り先についた悟は、いつもとは違い緊張に冷や汗を垂らしている。

 

 それは彼が、NARUTOの漫画を読み終えることで昔から好意を寄せていた彼女との繋がりが再び切れるのを恐れ彼女との関係を進めるためにデートに誘ったためである。

 

 天然パーマの黒髪を弄りながら、もしもが起きてしまうことを恐れ悟は気が気でなかった。

 

 待ち合わせ時間までまだ30分近くあるが悟は手に持った小さい包装紙に包まれたプレゼントを握り、頭の中でこの後のシチュエーションを思い描いていた。

 

 すると

 

 

 

 

 

 空間に〈穴〉が開き、水色の光のような物が現れる。

 

「ほぁッ!?!?!?!?!?」

 

 突如の奇々怪々な出来事に奇声を発した悟は一目散に背を向け逃げ出す。

 

 しかし水色の光は一直線に悟の背へと突き進むと、その背から悟の中へと侵入を果たす。

 

「螟ァ莠コ縺励¥縺励m縺」�√€€縺雁燕縺ョ鬲ゅr蟇�%縺帙▲��シ�」

 

 その瞬間悟の頭の中に、理解できない言葉のような音が爆音で響く。

 

「ッグっがぁああああっ!?!?!?!? あ、あたまがぁ……」

 

 突然の出来事に悟は頭を抱え倒れこむ。 手に持っていたプレゼントは地面へと落ち、頭に響く爆音と体を這いまわる得体の知れない感覚が悟の精神を削る。

 

 しかし次の瞬間

 

 悟の身体は何事もなかったかのように立ち上がる。

 

 先ほどまでのもがき苦しむような素振りはなく、立ち上がった悟……しかし

 

(なんだよこれぇっ!?!?!?! 身体が勝手に動いてぇ……っ!?!?!?!)

 

 それは決して悟自身の意志ではなく、別の何かによる動作であった。

 

 すると悟の身体は、酷くゆっくりとだが両腕を前に出し手が動き出す。

 

 その動作に最初こそその意味を理解できていなかった悟だが……繰り返されるその動きに彼は心当たりがあった。

 

(この動きまるで……N()A()R()U()T()O()()()()()()()()()()──)

 

 悟がそのことに気がついた瞬間

 

 

 

「蝨滄=蝨滓オ∝イゥ蠑セ」

 

 

 

 頭に響く声が何かを唱えた。 

 

 その直後上を向いた悟の口から、異物が空へと噴出する。

 

 その異物が空高く舞い上がると、自由落下を始め…… 

 

(何だあれ……まるで巨大な岩──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重いものが地面に落ち肉と骨がつぶれる音が、静かな公園に響いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 天音小鳥はその日、早めに家を出ていた。

 

 思いを密かに寄せていたその人とのいつもと同じ待ち合わせも、今回だけは意味が違う。

 

 髪もキレイにセットし、衣服も気合が入ったもので揃えていた。

 

 しかし鼻歌まじりで公園と向かう道中

 

──ズンッ

 

 耳に届いた明らかな異音とともに地面を伝う振動に足を取られ、転びかける。

 

「おっと!? え、何……今の……?」

 

 異音は直ぐ近くまで来ていた公園から聞こえたように感じた小鳥は、直感か背を伝う悪寒に押されるように駆けだした。

 

 公園へと足を踏み入れると小鳥の視界に

 

 

 

 巨大な岩が否応なしに入ってきた。

 

 

 

「なにこれ……えっ? こんな岩今までなかった……よね?」

 

 イレギュラーな出来事に、思わず思っていることを口にした天音は公園の中央に姿を現した謎の岩に向かって歩み寄る。

 

(隕石? にしては岩の大きさに対してあまり地面が抉れている様子はないし……そういえば悟は……ってまだ待ち合わせまで早いし流石に──)

 

 岩に近づきその地面との境界線に目を向けると小鳥の視界に〈色〉が映る。

 

 

 

──滴るような朱

 

 

 

 小鳥はその色を見て、硬直する。 理解しようとしてもそれが何か、本能が拒否反応を起こし思考が止まる。

 

 それでも

 

 硬直した体は一歩一歩、岩の反対側へと足を進める。

 

「はぁ……はぁ……ッ……はぁっ……ッッッ」

 

 呼吸をするのもぎこちなく、しかし小鳥は歩み……そして

 

 

 

 

 

──半身が潰れた黙雷悟を目にした。

 

 

 

 

 

「っぁ……ああ……ああああああっっっ……」

 

 それを理解した小鳥は動揺で上手く動かない体をのたうち回しながらも、血だまりの中へと踏み込み悟の岩から飛び出ている半身へと寄り添う。

 

「嫌だ、そんな……なんでっ!!??」

 

 理解の出来ない場面、出来事。 小鳥の悲痛な叫びが公園に響く。

 

「こんな、こんなのって……っ」

 

 震え目の前の現実に理解が及ばない小鳥は涙を流し、悟の左手を掴み揺する。

 

「ねえ、嫌だよ……せっかく自分の気持ちに正直になれそうだったのにこんなのってっ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁ!!!」

 

 青ずっぱい自分の気持ちに、認めるの恥ずかしいその感情に、素直になりそれを打ち明けるつもりであったその相手は今…… 

 

 楽しかった

 

 嬉しかった

 

 ありがとう

 

 ……そんな些細な、けれど勇気のいるそのことを言うはずだった小鳥は涙を零し手を強く強く握る。

 

 

 

 

 

サ──ラ

 

 ふとそんな彼女に、音が届く。

 

 か弱く今にも消えそうなその音は

 

 

 

サヨ……ナラッ

 

 

 

 決別を意味する言葉であった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 身体から分離し、浄土へと向かうはずの()()()()()()の力で穢土に留まる。

 

 空間に空いた〈穴〉は()()()の力を帯びることでその魂を呼び込み吸い込む。

 

 また〈畜生道〉の力によって、黙雷悟の身体に入っていたもう一つの魂は〈穴〉へと呼び寄せられ、こうして2つの魂は〈穴〉を通り抜けた。

 

「一度死んだ魂は身体に定着することもないが……()()の法であればそれも可能だ……人の体を成すことができるであろう」

 

 ハゴロモのその呟きに合わせ、2人の人物が心象空間に姿を現す。

 

 それと同時に〈穴〉は完全に塞がれ消えた。

 

 転がるように飛び出た2人の人物は、片方は受け身を取りもう片方はそのまま床を転がった。

 

「成功だ……っ!!!!!」

 

 受け身を取った……黙雷悟は歓喜に打ち震えるようにしてガッツポーズをする。

 

「これで全部……全部……上手くいくはずだ……っ!!!!」

 

 しかし

 

 

──ガっ

 

 

 喜びを露わにしていた黙雷悟は殴り飛ばされ、倒れたすきに馬乗りをされ数発顔面を殴られる。

 

「縺オ縺悶¢繧九↑縺オ縺悶¢繧九↑縺ォ繧偵@縺溘※繧√∞縺��縺悶¢繧九↑」

 

 激昂し悟を殴りつけるその人物……黙雷悟は相手を問い詰めるような言葉を叫びながら必死の形相で悟の首を絞める。

 

「異世界におけるもっとも魂の同調する者を殺し……その魂招くこの所業……罪は深い……」

 

 ハゴロモが手を出そうとしたその瞬間

 

 首を絞めていた悟は気を失ったかのように脱力し倒れこむ。

 

 そんな彼の身体を無造作にどけた悟は立ち上がり、ハゴロモに万華鏡写輪眼を向けた。

 

「彼を強力な催眠導入状態にした……この状況ならコイツを利用するのも造作もないはずだ……ハゴロモ様」

 

 何かを促すようにハゴロモに視線で催促する悟。 

 

「万華鏡を使ったのか……っ!? 今のお主の状態で無理をすれば、下手をすれば消滅することに……ッ」

 

「そんなことはどうでもいい……コイツにさっさと術を……っ!!」

 

 なりふり構っていられないと、ハゴロモに行動を促す悟のその言葉にハゴロモは気圧されうつ伏せに倒れ気を失った悟の頭に手を置く。

 

 ハゴロモは輪廻眼・人間道の力を使い彼から、魂に刻まれた情報を青いオーラのような物で抜き出し

 

「お主も……来い」

 

 もう一人の悟に近くに来るように指示する。 素直に従った悟は倒れている悟と同じ手順で青いオーラを引っ張り出された。

 

「今から2人の記憶を混ぜ合わせ、再度元に戻す。 ……しかしこの方法ではこちらの人間が悟、お主の記憶も見ることが出来るようになってしまうが──」

 

「万華鏡の瞳力で、コイツの記憶に蓋をする。 術の使用者である貴方の存在を正しく認知させなければそれが出来るはずだ……言語や感覚、経験以外の都合の悪い記憶は封じて必要に応じて引き出せるようにします」

 

「……了解した」

 

 ハゴロモは2人のオーラを混ぜ合わせるようにして繋ぐ。

 

「なるほど……偶然か必然かこちらも同じ名、黙雷悟を冠するか……聞こえておらぬだろうが、無理難題だろうともお主が運命を変える……いや、捻じ曲げる最後の望みだ。 そして……悟よ……心せよ、次はないぞ?」

 

 人間道の力で記憶を読み取ったハゴロモは混ぜ合わせたオーラを再び2人の中へと戻す。 しかし繋がったオーラは切れることなく……透明になり繋がり続けていた。

 

「……ああ、すごい……これは……忍界の出来事……についての書物なのか……っ?」

 

 もう一人の悟の記憶を得た悟は、彼の記憶にあるNARUTOの漫画についての知識を探っていた。

 

「異世界の出来事を感知し、書き起こす特殊な者がいるようだな……この世界との繋がりが濃いが故にこのような予言書が描かれているのであろう。 この知識は武器となるが過信してはならぬ、既に〈血〉は混じり世界は形を変え始めているハズなのだからな」

 

 ハゴロモの忠告に悟は

 

「もちろんです……ただ彼の記憶を全て覗ける訳でもない……時間も力も、僕には足りない。 要所要所を見極めて情報を引き出します……さて後は」

 

 悟はもう一人の自分とも言える存在を抱える。

 

「ちょっとした小芝居をしましょう」

 

 そう言って移動しようとするも、急にその場に崩れ落ちてしまう。

 

「っ……クソっ……」

 

「世界を渡り、万華鏡まで使ってはお主の魂が耐えきれぬのだろう……しばらくは精神の奥に潜み休息するしかあるまい」

 

「そんなことしている暇は……っ!」

 

「この者に暗示をかけ、お主の代わりとなる様仕向ける役はワシがやろう。 お主が覚醒ししだい、力を合わせて運命をネジ曲げるのだ」

 

「力を……合わせ……る……ッ?」

 

 意識が保てなくなった悟はそのまま倒れ伏す。 そんな悟たちに近づいたハゴロモはふわりと2人を浮かせ

 

「さて……罪の続きはワシが引き受けるとしよう、まずは悟、お主の精神世界へと浮上するとしようか」

 

 そう呟いて心象空間から悟たちと共に姿を消した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 ハッと誰かの声が聞こえたと思い、俺が目を覚ますと一面きれいな青空で、見渡す限りの草原『しかない』空間にぽつんと立っていた。……何故に?

 

 周りをキョロキョロと見渡しても、特別何もなく……あれ?さっきまで俺は何してたんだっけ? というか俺は誰?

 

 何て混乱していると背後から急に声をかけられる。

 

「ハイ!気分はどうだいぃ? 黙雷ぃ。 頑張れる? 悟ぅ」

 

 微妙にラップを気取っているのか人の名前で馬鹿みたいな話し方をする角が生えた青白い顔のおっさんがいつの間にか背後に胡坐で浮いていた。

 

「どわ!? あんた何もん……というか黙雷悟(もくらいさとる)……なんで俺の名前を知ってるんだ。 さては変質者か!?」

 

「……ふむ、記憶が混乱しているようだな、どれ」

 

 俺の罵倒を気にせず、急に厳格な喋りになった変人が、俺に向かって手をかざす。

 

「何す、うぐっ……」

 

 頭が割れそうだ……、というか体全体が正に割れているような……

 

 そこで意識が飛んだ俺は、次に目を覚ました時不思議なことに事情をある程度把握できていた。

 

 

~~~~~~

 

 

 気を失った悟を前にしてハゴロモは1人呟く。

 

「万華鏡の暗示を使い、新たな記憶を刷り込む……自分は正義感のある人間だと思い込ませることでこ奴は善なる行いをする……はずだ。 しかし人の魂とは記憶だけにあらず……上手くいくとも限らない。 

 

 しかしなんとも……業の深い事……ワシも神がいるのであれば、地獄行きも生ぬるい者に成ってしまったな」

 

 

 

~~~~~~

 

 

「つまりは俺は死んだのか……」

 

 目を覚ました俺はそうつぶやいた。

 

「Yes,you死んじゃった、不安的中しちゃった、でも幼女助かった。OK?」

 

 目の前の胡散臭いおっさんは謎のテンションで俺のつぶやきに答えてくれた。

 

 そう、ついさっきまで俺、黙雷悟(もくらいさとる)は普通の公園にいた。 今いる草原「しか」ない異様な空間には断じて居なかった。

 

 その公園では「女の子」が一人で砂場で遊んでた。友達と遊ぶため待ち合わせ場所にしたその公園にいた俺は最近読んでいた漫画「NARUTO」の影響もあり

 

(もし俺が忍術使えるなら、何使おうかなあ。術と言えるかわからないけど仙人モードは便利そうだよなあ)

 

 と空想にふけっていた。

 

(現実で仙人モードになれたら、超すごそう。例えばトラックとかダンプカーが突っ込んできても片手で止めたりとか……)

 

 そしてふと視界に入った「女の子」を見て

 

(もしもトラック突っ込んで来たら助けてあげなきゃな!ニンニン♪)

 

 なんてふざけてヒーロー的な、ありえもしれない空想にふけっていたのだ。

 

 そしたら突っ込んできた。俺の空想の下らなさに対する漫才の突っ込みとかではなくトラックが。

 

 公園の木々をなぎ倒し俺の近く、「女の子」が遊んでいる砂場まで真っ直ぐ直進。

 

 その時、俺は根が心配性なためか、冗談でも想定していたおかげなのか定かではないが咄嗟に動くことができた。

 

 

 

 そして俺は女の子を突き飛ばし……

 

 

 

「こういうあらましかぁ……マジかよ……」

 

 おぼろげな記憶を頼りに事態を把握した俺は、目の前の不審者に問いかける。

 

「……確かに俺は死んだん……だな。 なああんた、つまりここは死後の世界なのか?」

 

「Ye「普通に喋ってもらえません?」……そうだ、お主は今魂だけの存在となりこの場にとどまっている」

 

 普通に喋れるんじゃねえか……

 

「へえ~魂だけって、うっおぉ?! 手がねえ!? よく見たら体全体が見えねえ! 違和感すっご……はえ~すげ~……」

 

「中々個性的なりあくしょんだな。まあそれはどうでもよいか……時間がないのでなさっそく本題に入るぞ」

 

「本題?」

 

「そう確かにお主は死んだが、こうして魂だけは……そうじゃの、善行によりうんたらかんたらで救われておる」

 

「……雑じゃないですか? もしかして今設定とか考えt」

 

 不審に思う俺の言葉を遮るようにおっさんはまくしたてる。

 

「しかし、しかしなあ。 時間が立てばたゆたう魂は消滅してしまう。 なんと儚いことかぁ……なのでな、お主の魂を別次元へと送り新たな肉体に入れることで魂の消滅を防ごうとワシは思案しておるのだ」

 

 変な演技を挟んだ設定の小出しをジト目で(体がないのでジト目は出来ないが)聞いていた俺は、おっさんについて疑問に思ったことを言う。

 

「魂を別次元にって……転生? 何? 貴方そんな胡散臭いなりで神さまなの?」

 

 俺の失礼な発言に今度はおっさんがジト目になる。 ……失言だったか?

 

 

「……悠長にしておる時間はないぞ?あと1分でお主は消滅する」

 

 

 …………へ?

 

「なので空きのある世界に問答無用で捻じ込む。思案といったがどちらかと言えば強制だ。ではまた会おう少年」

 

 

 

 まくしたてる様に別れの挨拶までを言い切ったおっさんこと恐らく神様?が俺に向かって先ほどのように手を向ける。

 

 すると俺の視界は万華鏡のような変化を見せ暗転した……

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 意識を飛ばした悟の魂に触れ、ハゴロモはその魂に形を与える。

 

「さてお主にはあちらの悟と同等の姿を魂に与えよう、元の魂の姿では()()()()という思い込みが薄れてしまうかもしれぬからな……後は」

 

 悟と同じ魂の姿を模ったその魂は既に一歳ほどの姿に成っていた。 白い髪に緑の眼、少し不健康そうな白い肌。

 

「そろそろワシも限界か……」

 

 現世に干渉する力が薄れてきたことを察したハゴロモは最後に呟く。

 

「この厳しい忍界を生き抜くために……最後にワシからの暗示を1つ授けるとする……黙雷悟よ、お主の気質に合わせ語りかけよう…… 

 

 

──もしも転生したら現状確認を怠らず

 

 

生きよ」

 

 

 

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