雷はよろめき地面に手を着き項垂れた。
自身が転生したと思っていたこのNARUTOの世界には……不条理で連れてこられただけであったのだ。
そんな事実を肯定するかのように滝の前の水面に立つ黙と、いつの間にか姿を見せていた六道仙人・大筒木ハゴロモはジッとその輪廻眼と万華鏡写輪眼を雷へと向けていた。
そして……ハゴロモの人間道の力によって繋げられた黙と繋がる……胸から伸びる自身らの魂の紐を認知する。
「っ……」
ふらふらと……自分が利用されたという事実を黙の記憶から把握し打ちのめされた雷は、焦点が定まらずにただ床を見つめる。
言葉もない雷の様子に、黙はハゴロモに目線を向け口を開く。
「今、彼はハゴロモ様、貴方を見ることが出来ている……つまり僕たちの繋がりは完璧な物になった……これから
──僕たちの罪を清算しよう」
「っ何を──ウグっ!?」
黙の言葉に反応した雷は、突如床から伸びる白く光る鎖により両手首と両足首を拘束され体を無理やり起き上がらされる。
腕は地面に近い状態に垂れ下げられ、最後に口を鎖が覆い自由を奪われた雷は黙を睨みつける。
「……ッ」
何か言葉を発しようとする雷だが口の拘束から言葉は出ずに、ただ自らを拘束する鎖から逃れようと体を身動ぎさせる。
「無駄だよ、雷。 その鎖はうずまき一族が扱った金剛封鎖……に近いものだと言えば君にもわかるかな?」
拘束した雷に対して、淡々とそう説明した。
唸り声をあげ、鎖を引っ張り拘束から逃れようとする雷に黙は説明を続ける。
「ここは君も知る通り、真実の滝だ。 雲隠れが保有する巨大亀の背にある神聖な場所の1つ。 この滝の先に行けば尾獣との対話を容易にする更なる空間があるが僕の目的にはそこは必要ない……今回、僕と六道仙人であるハゴロモ様とは転生したときに僅かだけど魂を繋げていた。 丁度今の君と僕みたいに……ね」
そう言った黙は自身の胸から雷へと伸びる光の紐を大切そうに見つめ触れるような素振りを見せる。
「~~~ッ」
「真実の滝ではその繋がりを元により明確に互いの魂を近づけることができる。 今こうしてハゴロモ様が目に見える状態でいるって言うことはそういうことだ。 おや、僕の目的が知りたいようだね……雷。 いいよ、教えてあげよう。 僕の目的それは
──君を元の世界に返すことだ」
「……」
黙のその言葉に、理解が追い付いていない雷はもがく動きから力が抜け呆然とする。
「ハハハ、良い呆け具合だね。 そう君を元の世界に返してあげるんだ、元居た世界に……生きたまま」
黙はそのまま六道仙人と目を合わせるとそれを合図の様にし、手を挙げる。
そうすることで再度雷の周りに尾獣たちが姿を現す。
「君も知った通り、世界を越えるには膨大な力と輪廻眼による六道の力が必要なんだ。 そして…………今この場に、その条件は揃っている」
その言葉を合図にハゴロモは輪廻眼の力を使い、流れ落ちる滝に空間の裂け目……〈穴〉を出現させた。
「……僕が何度も転生している通り、六道の力は時を超える可能性を秘めている。 この〈穴〉は僕たちが君の魂を攫ったあの後すぐの時間軸に繋がっている……僕の土遁によって君が死んだあの直後だ」
黙は己と雷を繋ぐ魂の紐を掴み、〈穴〉へと目線を向けた。
「尾獣たちが協力してくれるのは、ハゴロモ様と僕の……僕らが犯した異世界の人間を殺して魂だけを連れて来た罪を清算するためだ。 尾獣たちにとって僕の事はどうでもよくてもハゴロモ様は特別みたいだね、皆それを承知にこうして分体を寄こしてくれた」
その言葉を証明するように、尾獣たちの分体からチャクラがハゴロモへと送られ彼らは姿を順に消していく。
そうすることで〈穴〉は黄金の輝きを放ち始めた。
「繋がったぞ、黙よ……準備は良いな」
ハゴロモのその言葉に黙は
「はい、では行ってきます……」
と返事して、穴へと一歩一歩歩み始める。 鎖の拘束で身動きが取れない雷は、掴まれた魂の紐が〈穴〉に触れれば自らもそこに吸い込まれることを予知する。 黙が歩みを続ける中、ふと
「────」
雷の耳元で、小さく九喇嘛が囁いた。
「ああああああああああっ!!!!」
突如雷を拘束していた鎖が膂力により砕け散り、口を拘束していた鎖もまた噛み砕く。 その異常事態に驚いたハゴロモと黙、次の瞬間に雷は
元の前世……いわゆる本来の自分の姿、二十代の黒髪天然パーマの姿を取り戻し自らの胸から伸びる魂の紐を掴み思いっきり引き寄せる。
「っなッ……!?!?!?」
穴に向かっていた黙は、その紐に引っ張られ強烈な力によって宙を舞い……雷の元へと引き寄せられる。
大きく息を吸い込んだ雷は拳を固く握り
「ふざけんなっ!」
その一言と共に黙の頬を殴りつけ、拳を振りぬく。
強烈な一撃に黙が滝つぼを跳ね、滝へと突っ込んだ。
……
滝の流れる環境音が響く中、再度雷は紐を強く引っ張る。
そうすることで黙が滝から飛び出して雷の下で跪く。
「っ金剛封鎖の拘束を無理やり……っ!?」
ゲホゲホとせき込む黙、そんな黙の胸倉を掴み雷が怒鳴りつける。
「てめぇ……黙ッ!! 何勝手に話を進めてやがる……俺が納得してそこをはいそうですかと、通るとでも思ってんのかっ?!」
「おい……まさか──」
黙は雷の言葉の先を予測し、顔を青ざめさせる。
「俺はッッッ──」
「何を言うとしてる雷っ!?」
「元の世界に戻る気なんてないっ!!!!」
胸倉を掴まれたまま、そう宣言された黙は目を泳がせ今までに見せたこともない動揺を見せ始めていた。
「オイオイオイ、君……雷っ!! 何馬鹿なことを言っているんだっ!! 滅多なことを言うもんじゃないぞ、このまま行けば君は元の世界に戻れるんだ!? 抵抗するなっ!! 大人しく僕の言うことを──」
口早にそう言う黙を黙らせるかの如く、雷は黙へと頭突きを入れ手を放す。
「ッヅ!?」
「馬鹿なことを言ってんのはお前だ黙……」
怒りの滲んだ雷のその言葉、黙は素早く態勢を立て直して雷へと戦闘の構えを取る。
「馬鹿は君だろうっ!! あれか!? 元の世界に戻った後のことを気にしているんだろ!? 大丈夫だ、僕の身体でイザナギの力を使い〈穴〉を経由して魂の繋がった状態の君が岩に押しつぶされたという現実を幻にするっ!!! そうすれば君はもう一度、元の世界で平和を──」
矢継ぎ早にそう叫ぶように、たしなめる様に、確認するように黙は雷に言葉を投げつける。
……その姿はまるで雷からの何かを恐れるように。
「黙、お前は何か勘違いをしている」
「やめろ……やめてくれっ……」
「俺は」
「やめろっ!! それ以上言うなァ!! そんな言葉聞きたくなんかないっ!!!!」
「お前を恨んで何かいない」
その言葉を聞いた黙は絶望を顔に浮かべ膝から崩れ落ちる。
「ましてや、この世界を見捨てて1人ノコノコと元の世界に帰るつもりもない」
覚悟の決まっている雷のその言葉に、ハゴロモまた驚愕の表情を浮かべ小さく唸る。
「黙。 お前はずっと罪の意識に苛まれて来たんだろ……?」
優しく諭すかのような雷の声掛けに黙は、須佐能乎を顕現させその大きな骨の手で雷を拘束しようとする。 しかし
雷は腕の一振りでその須佐能乎の腕を破壊する。
「!?」
精神体、魂の力比べになる真実の滝の空間。 雷は溢れんばかりの精神力と、チャクラを振るい黙の拘束を無効化する。
涙を流しながら何度も須佐能乎を仕向ける黙、しかし雷はそれを悉く砕く。
「……まさか……九喇嘛たち自ら……雷へと力を貸しているのか?」
ハゴロモはその光景の裏を察した。 雷は今、全ての尾獣たちの分体から力を分け与えられているのだと……
涙を浮かべ、子どもの癇癪の様に雷を連れて行こうとする黙だが雷はそれを退け言葉を交わそうとする。
「俺には想像もつかない、こうして魂を繋げても記憶を共有しようとも……お互いの全てを理解できるわけじゃない……それでも俺はお前が優しい奴だって知っている」
「ふざけるなよっ!! わがまま言ってないで大人しく──」
「本当に……お前は演技が下手だな、黙」
近接での殴り合いも、圧倒的な力の差によって雷が上を制して蹴り飛ばしあしらわれるように距離を開けられ黙は歯が立たない。
「ックソォっ!!! 何なんだ君は!?!?!? 僕を恨めよっ!! 罵詈雑言を浴びせてみろっ!!! もっと痛めつけてこいよっ!!!! 何でっ!? 何で僕なんかを恨んでないって……そんなぁ……ッ僕を……許すなよォ……っ!」
泣き崩れる黙に対して雷は複雑な表情を浮かべ、黙へと歩み寄る。
「……確かに……俺の、この世界での始まりは噓だらけだった……転生したわけでもないし、事故で死んだわけでもない。 俺の抱いた正義感も、砂場に居た女の子を助けたこと自体を後悔する必要も本当はない、噓の記憶だ……でもな……黙
この世界で過ごした時間も……経験も……それは噓なんかじゃないんだ」
「黙れェ……僕は身勝手で君を殺したんだぞ!? 君が愛する女の子と引き裂くようにッ……!! こんな残酷な世界のことなんて知る必要もなかったんだっ!!! 君は……お前は……どうして元の世界に戻ろうとしないっ!?!?!」
感情をむき出しにした黙のその拳を、雷は掌で受け止め黙の腕を引き寄せ……
抱きとめた。
「黙、お前は1人でよく頑張った。 世界の運命を変えるために、途方もない時間を1人で過ごしてきた。 でももう、いいんだ。 お前はもう、1人じゃない……
俺がいる。 俺たちは2人で1人の黙雷悟なんだ」
ギュッと……信頼を寄せるように、優しく、力強く雷は黙の身体を抱きしめる。
「っああ……あああ……ッ」
その抱擁に黙は抵抗する力も無くし、只々泣き崩れる。 わんわんと子どもように泣き始めた黙に対して雷はその抱擁を強く……力強く続ける。
「うあぁあああっ! なn……何で……何でぇ……」
「何でもクソもないさ……俺は俺のしたいことをする……この世界の残りたいから残る、それだけだ」
そんな雷の様子に、ハゴロモも口を挟まずにはいられなくなった。
「本当に良いのか……黙雷悟よ。 お主は元の世界に戻り、安寧と秩序を享受することができるのだぞ?」
ハゴロモのその言葉に雷は黙を抱きしめたまま、目線をハゴロモへと向ける。
「……俺は、俺なりにコイツの事を理解しているつもりです。 本当のコイツはきっと……とても優しい奴なんですよ。 ただ自分に愛を注いでくれたマリエさんのために、何とかしようと……1人抗い続けていた。 今、俺が忍びとしての才覚を発揮できているのも、黙の積み重ねてきた結果なんです。 チャクラコントロールも、戦闘技術も、忍術も……全て黙が途方もない年月で積み重ねてきた結晶だ。 俺はそれを魂の繋がりから取り出して使っているに過ぎない。 応用を効かせ、新たな力を扱えるのも黙が足掻いてきた基礎があるからなんだ。 確かに始めは、俺のことを道具の様に扱っていたとは思いますよ、でも……コイツはいつも大切な時には俺の考えを尊重してくれたし……自己犠牲をする覚悟も持っている」
そうして雷は……己の歩んできた忍道を振り返る。
「イタチさんを止めようとしたあの夜……黙は俺と一緒になってイタチさんの幻術に抗ってくれた。 九喇嘛のチャクラに悪影響を受けそうになった時も助けてくれたし……俺が波の国で人殺しを躊躇していた時に変わってくれようともした。 中忍試験でヒナタとネジとの戦いに熱くなる心も持っていた。 マリエさんを助けるために2人で岩状鎧武に挑んだ時もそうだ、こいつは自分が消えるかもしれないと分かっていても全力で戦った」
「ああ、知っているとも……その時、魂の繋がりをもって、昇天しかかっていた黙に現世に留まれるよう力を僅かだが与えのはワシだ……そして」
「その時に……俺を元の世界に戻す方法を教えたんでしょう?」
「……気がついていたか」
ハゴロモは再度雷からの指摘に驚きを露わにした。
「少なくとも、黙も最初は俺を元の世界に戻す気なんてなかったはずだ。 なのに……こうして尾獣たちの力を集められるよう工作して場所を用意して……自分は片目を失うイザナギを使ってまで俺を帰そうとするのは、途中で心変わりしたからだと思ったんですよ。 俺と言う存在を、連れて来てしまった罪の意識に長い間苛まれて……」
雷は未だに己の胸の中で泣きじゃくる黙に目線を向ける。
「それでもこいつは、一緒になって……そう……一緒に闘い続けてくれた。 雪の国でもそうだったな……熱くなっていた俺をたしなめてくれた。 マリエさんを助けてからは……黙は俺の為に闘ってくれてたんだ」
雷はそのままハゴロモへと目線を向ける。
「世界を……マリエさんを助けるためなら、ここまでのリスクを冒す必要が無い。 それでも……他人なんて信頼することが無意味に感じる程の輪廻の果ての今、こいつは俺を帰そうとした……下手な演技までしてね……まあ、本当は罪の意識に苛まれて俺が眠っている間に全てを終わらせたかっただろうけど……九喇嘛たちに見透かされて、こうなっちまったって訳だ」
そうして雷は立ち上がり、己の覚悟をハゴロモへと伝える。
「……確かに、元の世界には俺を必要としてくれる小鳥がいる……けれど俺はあの時、小鳥との別れを覚悟した。 アイツが俺を想い続けて傷つかないようにって。
その覚悟は……記憶を取り戻した以上、もう揺るがない。
……
……俺はこの世界で……ハゴロモ、アンタが望んだ安寧と秩序を取り戻して見せる。
もしもじゃない……絶対にだ」
覚悟の揺るがぬ雷の言葉にハゴロモは……
深く頭を下げた。
「すまない……お主を巻き込むようなことをし……ましてや世界の命運を背負わせる役目まで負わせ……だがそれでも、ワシは……お主と言う存在に頼らざるを得ない。 ワシを許してくれとは言わぬ、ただ……」
「任せてくださいよ……アンタも長い間、世界を想い、見るだけしかできなかった悔しさに苛まれていたはずだ。 この滅びの輪廻はナルトやサスケ……そして俺たちが立ち切って見せます」
ハゴロモからの言葉を受けた雷は、いつの間にか泣きつかれて眠ってしまっていた黙をその場に寝かせる。
「……もうお前は1人じゃないんだ、黙。 …………さて九喇嘛に皆、力を貸してくれてありがとう」
そう囁いた雷に応えるように、尾獣たちの分体が再び姿を現した。
「ケッ感謝される覚えはないな……ワシらもただ、てめぇと同じく自分の心に従ったまでだ……」
九喇嘛の素直ではない態度に、雷は小さく笑みを浮かべる。
(九喇嘛はきっと、黙の罪の意識もどうにかしてあげたいと思ったから俺に力を貸したんだろう……他の尾獣たちに事情を話して)
尾獣たちを見回す雷。 しかしふと自身の目を塞ぐように両手で目を覆う。
「……ッ」
「オイ、悟?」
九喇嘛の呼びかけに雷は
「油断した……っ!! 犀犬が視界に入りそうだった……あぶねぇ……ッッ」
心底肝が冷えたといった様子で荒れた呼吸をしていた。
「やっぱり俺のことぉ、見んのは駄目なのかァ?」
犀犬の独特な声が聞こえ、ねちょねちょと動く気配に
「ひィッ!!?? ホントゴメンっ!! 力貸してもらってるけど、マジでダメなんだよォっ!!」
心底怯えた雷は瞳を閉じたまま情けない声を出して、ものすごい後ずさりを見せる。
その雷の様子に犀犬はシュンと落ち込み
「じゃあ、俺たち精神の世界の底にいるからなぁ……いつでも呼んでくれよォ」
そう言いながらその場から姿を消した。
他の尾獣たちもやれやれと言った様子で順々に姿を消していく。
そして最後に
「おい雷」
「何……?」
未だに怯えている雷へと九喇嘛が声をかける。
「…………ッァ…………てめぇが……何だ……残って……そのぉ…………一応少しだけ……ほんのちょっぴりだけ……悪くねぇ気分だ…………そんだけだ」
言葉を詰まらせながらも九喇嘛はそう言い残して姿を消した。
「……」
思わぬ言葉に、眼を覆っていた掌を退け呆気に取られた表情を浮かべた雷は既に姿を消した九喇嘛に対して
「俺も、九喇嘛たちに会えてよかったよ」
笑顔を見せて呟いた。
九喇嘛の悪態が聞こえた気がした雷が苦笑いを浮かべると、ふと彼の視界に〈穴〉が入る。
「……一応の確認なんですが、ハゴロモ……様」
「何だ?」
「あの〈穴〉って今は、俺が死んだ直後に繋がっているんですよね?」
「ああ、その通りだ。 開けるのに随分と力を使ったが……無用であれば開けっ放しにするのも世界に毒だ……今すぐに──
「あのぉ──」
「サヨナラ……? はぁ? ふざけないでよ……勝手話を終わらせないでよっ!? アンタが……勝手に諦めても私はっ……」
血だまりの中、黙雷悟の遺体の傍で慟哭する小鳥。
右半身を岩に潰された悟の身体に寄り添う彼女は悟の手を握り続けている。
「ひっぐ……私は……私はァ……」
現実を受け入れられない小鳥は涙を流した。 その涙が地面へと吸い込まれた瞬間。
悟の左目が開き
朱い眼光を彼女へと見せた。
そしてそのまま小鳥は意識を失い……その場で倒れ伏した。
~~~~~~
小鳥が目を覚ますとそこは……見慣れた夕暮れの景色、自分と悟が住んでいた街並みを目にする。
「あれ……私……」
ふと意識を覚醒させた小鳥は不思議な感覚を覚えながらも……何かに導かれるように、歩みを進めた。
静かで人の気配の無い夕暮れの街に……奇妙に安心感を感じつつも小鳥はとある家の前まで来る。
「悟の……家……そう言えば……小学生以来……来てなかったかも」
そう言いつつ、小鳥はその家の玄関を開け中へと入る。
小鳥の記憶の通りの内装に、昔を懐かしみつつ彼女は二階にある悟の部屋へと足を向ける。
自分でも何故そうしているのか、今何が起きているのかも曖昧な彼女は……悟の部屋の扉を開けた。
「よっ!!」
その部屋の中では……悟が待っていた。
彼を認識した途端、小鳥は駆け出し……
「ふざけんなっ!!」
「グへぇっ!?」
子気味の良い音を響かせ悟の顔面を殴りつけた。
「アンタ……自分が助からないって悟って、サヨナラなんて言ったんでしょ!? ふざけないでよねっ!? 私の気持ちも少しは考えて──」
まくし立てる小鳥。
「ごめん……ただ、俺なりに小鳥のこと考えてな……」
悟は言い訳しようとするも、再度沸点が上昇した小鳥のボディブローを受け床に沈み込む……
「うぐぉ……ナイスパンチ……」
「……っはぁ……なにこれ……夢なの?」
一通りのやり取りの後、我に返った小鳥がそう呟くと悟は
「まあ、そんなもんだよ。 俺から小鳥に送る……最後の夢だ」
そう言って立ち上がり小鳥の前に立つ。
「……そう……やっぱり……アンタは……ッ」
悟の死を認識し始めた小鳥が涙を流そうとしていると、ふと悟は声を大にして叫ぶ。
「俺は今、転生してNARUTOの世界で戦っているんだっ!!」
「…………はぁ……ッ?」
突拍子もないその言葉に、思わず呆気に取られた小鳥。 そんな彼女に悟は追い打ちをかけるように話を続ける。
「今NARUTOの世界は、未来が不安定の状態になっている。 漫画で見た展開とは違った運命をたどって、滅びへと向かっているんだっ!! 俺は死んだ後、その世界に転生して十数年の時を過ごして……仲間たちの力を借りて、こうして時を越えてお前に語りかけているんだ」
「………………」
何を言っているんだお前は……という表情の小鳥。 そんな小鳥に悟は
「小鳥、よく聞いてくれ……俺は、お前がっ!!
好き
「……なにそれ」
悟のその言葉に、小鳥はぶっきらぼうに答えた。
「小学生低学年の時の、遠足で……お前が…おえぇッ……ナメ、蛞蝓を口に入れてしまった俺の傍で寄り添ってくれたあの時から……俺はお前を好きになった」
「……思い出して嗚咽を出してんの?」
「未だに克服できてないんだよ……ってそんなことよりもっ! 聞いてくれ、俺はその世界で多くの人と出会って繋がりを作った。 俺には色んな大切な人がいて……皆を守れる力がある。 だから小鳥……もう、こっちには帰ってこれない」
「……本当だとしてもバカじゃないの……? アンタが……悟が何出来るっていうの?」
「世界を救える」
ハッキリと、ゆるぎないその視線。 黄昏時を思わせる暗い山吹色に輝く悟の瞳は確かな意志を小鳥へと伝える。
「……」
黙り込んだ小鳥。 自分の言うべきことは言ったとばかりに口を閉じた悟に対して小鳥は大きなため息をつく。
「…………はぁ~……俺は俺の道を行く。 お前は俺を忘れてお前の道を行け……そう言いたいんだ」
悟の意志を感じた小鳥のその言葉に……悟はうなずく。
「ホントバッカじゃないの? サヨナラの一言でそんなこと分かる訳ないじゃない……」
「あの時は余裕がなかったんだよ……」
「そう……なら
絶対に忘れてあげない」
「なっ!?」
「この先、別の誰かを好きになって……子どもを産んで……幸せな家庭を築いて……おばあちゃんになって……天寿を全うしても、アンタを忘れない。 黙雷悟っていう底抜けの馬鹿が居たってことは……はぁ……そっちはそっちで好きにしたらいいじゃない。 世界でも何でも救ってきなさい……そして、そっちで幸せになってよ」
「小鳥……」
「これが私の夢の出来事でも構わない。 本能でアンタを失った痛みを忘れようとしているだけかもしれない。 だとしても、アンタと一緒に過ごした時間は……私にとってかけがえのないもの。 例え……この恋心が届かなくても……アンタは私の大切な幼馴染よ」
「っ……」
覚悟を決めていたはずの悟だが、小鳥からの言葉に……僅かに瞳に涙を浮かべる。
「……フフ、こんなことで泣いてたらNARUTOの世界でやっていけないわよ?」
「……これで最後だ」
「あっ今のイタチのセリフでしょ?! そう言えばそっちで十数年過ごしたならイタチとも直接会えたの!?!?」
「……一応、小さい頃に背に乗せて貰ったことが……」
「は!? 恨めしいっ!!! 私の推し相手になんてことを……何か、アンタが死んだことざまあみろって感じて来たかも」
「おい、ふざけんなっ!! こっちはこっちで必死だったんだぞ!?」
「こっちもアンタが死んだらおばさんやおじさんが大変な事忘れてない? 私も目の前で血だらけのアンタを見て……トラウマに成っちゃうかも」
「っ父さん母さんには確かに悪いけども……と、とりあえず俺の死に際の凄惨さはお前の記憶を弄って緩和させとくから」
「なにそれ……しれっと怖い事言うわね」
「こう見えてもうちは一族の力引き継いでるから、現に今も写輪眼の力でこうして小鳥と会話しているわけだし」
「アンタまるで……転生物の主人公みたいね」
そしてその後、互いの世界のついて……話し合った2人。
主にNARUTOの世界での体験を語り終えた悟は、ふと立ち上がり
「さて……そろそろ限界だ」
そう呟いた。
「……そう、アンタ私を心配してこうして来てくれてるんでしょ? ……聞いた限りだとスゴイ修羅場をくぐりぬけて来たみたいだけど……心配性のアンタがホントに忍びとしてやっていけるの?」
最後にと小鳥がそう心配するように問いかける。
「忍びってのは耐え忍ぶ者って自来也が作中で言ってたけど、悟。 アンタは大丈夫?」
その確かめるような言葉に悟は僅かな沈黙の後……口を開いた。
「俺は耐え忍ぶ気なんてない。 ただよりbetterな、幸せな光景を見ていたいんだ。 だからこそ俺が目指すのは……
例え異世界から来た存在で……世界に誤解され正しく認知されなくても、世界の為に……いや皆の為に闘える……そんな影のような……
〈忍ぶ忍者〉だ」
悟は自身を持ってそう答えた。 その言葉を聞いた小鳥は小さくため息をついて
「じゃあ、行ってきなさいバカっ!! アンタの忍道……貫き通しなさいよ?」
悟に向け、拳を向ける。 そして悟もその小鳥の拳を合わせ
「ああ、行ってくる……っ!!」
そう言った直後。
天音小鳥は意識を失った。
~~~~~~~
真実の滝の前で、悟は佇む。
「これで良かったのか?」
ハゴロモのその問いかけに悟は静かに……確かに答えた
「はい」
「そうか……」
僅かに安堵の表情を浮かべたハゴロモは身体を薄れさせる。
「そろそろ時間だな、黙雷悟よ。 お主はもはや、只の人にはあらず。
立派な……忍びだ。
例えどのような結果に成ろうとも……ワシはお主と会えたことを、誉として忘れぬ。
さらばだ」
別れの言葉をいうハゴロモに、悟は
「ナルトとサスケをよろしく頼みます……六道仙人」
そう呟いて頭を下げた。
1人真実の滝の前に残された悟は
「さてと……」
真実の滝とは現実で目を閉じている間に心の中へと至る神聖な場所である。
現実で目を開けた悟は
滝の中から飛び出てくる、鮫肌と一体化した鬼鮫と目が合った。
「きもっ!!!????」
「天音小鳥!? アナタ以前は良くも私の食料をっ!!」