目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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36:過去からの贈り物

 軽重岩の術を使い、空を翔ける蒼鳥マリエ。

 

 彼女は今、悟から託された木遁忍術で生み出された木の種を握り絞め感知の先に居る薬師カブトの元へと急いでいた。

 

(この種を握っていると、不思議と私の感知の範囲が広がって……1つのチャクラの流れを感じ取れる……このチャクラの大元に穢土転生の術者、カブトが……っ)

 

 重い気持ちに鞭を打ち、マリエは一度高度を下げ森の中へと進入する。

 

 空を飛び続ければ何時周囲を敵に囲まれるか分からない、そう警戒して慎重にけれど素早く移動するマリエ。

 

 しかし、突如として呻き声のような音が聞こえたことでマリエは動きを止め一度地面に降りて耳を澄ませる。

 

「っ……何の音……?」

 

 十分に警戒しているマリエに届くその音はまるで人の声のようにも聞こえた。

 

「──さん

 

「……?」

 

マリエさんっ!

 

 それは確かに自分の名を呼ぶものであると確信したマリエはハッとして咄嗟に握り絞めていた木の種を注視する。

 

 すると木の種は小さく震えながら、奇妙にも音を発してマリエの名を呼んでいた。

 

「も、もしかして……悟ちゃん?」

 

 想定してもいない状況だが、その種が他でもない黙雷悟から託されたものであることがマリエに非常識な出来事においても柔軟に対応する冷静さを保たせていた。

 

 そんなマリエの呼びかけに応えるように木の種から僅かに声が返ってくる。

 

チャクラ分けてください……少しでいいのでっ!

 

 木の種からチャクラを分けてくれとの要求がされ、マリエは困惑しつつもその要請に応えることにした。

 

 そうして恐る恐るマリエがチャクラを分け与えると、木の種はもごもごと蠢き形を変え人型の形状を形どる。

 

 そうして木の種が掌に乗る程度の黙雷悟へと姿を変えた。

 

「……中々に奇妙な術ね……ってそれよりどうしたの急に?」

 

 ツッコミどころを無視しない時間を惜しみマリエが本題へと切りこむと、小人状態の悟は神妙な面持ちで己の事情を話し始めた。

 

「これは木分身の術の応用でして……それよりも、実はずっと続けていた俺の本体との通信が突然途切れたみたいです……この先何か起きるか分からないので、木分身体の俺も少しは動ける状態にしておいた方が良いかと思ったんです」

 

「通信が……途切れた?! 悟ちゃんに何かあったの!?」

 

「いえ、俺自身もよくわからないんです……取りあえずあっちにはナルトの影分身もいるし、恐らく少しすれば五影が応援に来ると思うのでマリエさんは引き続きカブトの元へと向かってください」

 

「っ全く……貴方になにかあったと聞いて、そっちに駆けつけられないもどかしさを少しは分かって欲しいわ……」

 

「……ごめんなさい、それでも今はカブトを止めないと穢土転生による被害が──

 

 

 

 

 

 

「待て」

 

 

 

 

 

 

 突如マリエの背後から、静かに……そして鋭く何者かの声がかけられる。 木分身の悟とマリエの感知に引っかからないほどの隠遁術の使い手のその言葉にマリエは内心(しまった)と思いながらも、奇襲を仕掛けてこないことに希望を持ち体を少しも動かさずに声だけを発した。

 

「……攻撃を仕掛けてこないってことは……貴方はマダラの一味ではないのかしら?」

 

 そんなマリエの警戒した言葉に、背後に立つ人物は……

 

「もしかして……蒼鳥マリエさんか?」

 

 警戒心を解いたかのように、そうマリエの名を呼んだ。

 

 その言葉にマリエが振り向くとそこには

 

 

 

 

 うちはサスケが刀を向け、立っていた。

 

 

 

 

「サスケ君っ?!」

 

 マリエが驚いたようにその名を呼べば、サスケはハッと気がついたように刀を腰の鞘に納め軽く会釈をする。

 

「すみません、貴方とは気がつかず……今は戦争が起きているようだから何か情報を得られないかと声を……か……っ!?」

 

 丁寧な口調で話し始めたサスケだが、マリエの肩から顔を覗かせた小さな悟の姿を確認すると一瞬顔を紅く染め

 

「なっ……てめっ……悟、お前も居たのかっ!?」

 

 珍しく動揺した様子で僅かに後ずさる。

 

(何か思わぬ貴重なものが見れたな……素のリアクションが昔のままで、ちょっと嬉しいかも)

 

 サスケの普段見られないような口調とリアクションを確認し得した気分になった悟だが、そこを弄ると話が進まないためグッと堪えてサスケへと声をかける。

 

「よっ! サスケ。 お前がここら辺に居るってことはイタチさんも近くにいるんじゃないのか?」

 

 そんな悟からの言葉に、サスケは眉をひそめた。

 

「兄さんが……近くに? どういう意味だっ」

 

「いや、今回の戦争でカブトが穢土転生っていう術で死者をよみがえらせて使役しているから……イタチさんならその支配を脱して逆にカブトを止めるために動いているかなと」

 

 悟の言葉にサスケは少し考える素振りを見せ、納得した様子で口を開く。

 

「それがお前の知る、()()()()()と言う奴か?」

 

「あ~……まあ、つまりそういうこと」

 

「……悟ちゃん、サスケ君にも正体を明かしてたのね」

 

 悟の事情を知るサスケが納得を示し、マリエは自分が唯一だと思っていた悟の秘密を知る存在だというアイデンティティが消失したことを僅かに残念に感じた。

 

「……にもってことはマリエさんも、悟の事情を知っているんだな?」

 

「如何にも、もちろん最初に教えたのはマリエさんだっ!」

 

「……取りあえず世間話はここまでにしましょう、今はその穢土転生を止めるのが何よりも優先よ。 ……サスケ君、ぜひ貴方の力も借りたいわ」

 

 何時までも足を止めて話し込んではいられないため、マリエは先を行くことを提案しサスケにも助力を頼む。 サスケは……

 

「……いいだろう、少なくとも兄さんが本当に穢土転生とやらをされているのであれば術者のカブトに話を聞くのが最善なのに、変わりはない」

 

 了承を示して、マリエとサスケはカブトの元へと急ぎ駆けだした。

 

 

 

 

「おい、悟」

 

 既にカブトの位置を感知し特定し終えているマリエの先導についていくサスケは小さな悟を肩に乗せ、彼に声をかける。

 

「……俺を出し抜き、ダンゾウへの復讐を果たした気分はどうだ?」

 

 サスケからの追及するような声色の質問に、悟はバツの悪そうにしながらも返答をする。

 

「ああその件は悪かったとは思ってるけど……悪いけど、今この木分身体には黙……もう一人の俺の意識は入ってないからその答えには──」

 

「……()()に聞いている。 お前自身、ダンゾウの所業を知って黙っているたまじゃないだろう?」

 

「……」

 

 サスケの見透かしたかのような問いに、悟は少し考え

 

「正直に言えばスカッとしたし……同時に少し残念にも思った」

 

「……どうしてだ? 常々に言っていた()()()()()()を為しただろう」

 

「いや、まぁ……あの時黙の意志を尊重したけど、当然俺もダンゾウを許せないって思いもあった。 そのことに嘘はないしやったことには少しも後悔はない……けど」

 

「けど……なんだ?」

 

「俺が変えた幾つかの運命の様に……ダンゾウにもヒルゼンさん……三代目と共に歩める可能性があったかもしれないと思うと……な」

 

「……それこそ過去の話だ、お前にも俺にもどうにも出来ない。 可能性の話なんてキリがない」

 

「ああ、分かっているからこそ……思うんだよ、思うだけ……」

 

「……」

 

「サスケの言う通り考えてもキリがない事なんだけどな」

 

 悟の言葉を最後に、僅かな沈黙が二人の間に流れる。

 

 復讐を終えても、亡くしたものが戻ってくるわけではない。 けれどそれを理由に復讐を咎めることは……恐らく誰にも出来ない。

 

 その怨嗟に燃える感覚を知る2人だからこそ、サスケも悟も……「復讐の意味」を自らに問い続けているのだろう。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

──ドゴンッ

 

 

 洞穴の奥、その隠蔽された壁をマリエの岩状手腕が打ち砕きその先の開けた空間を露わにする。

 

 そこには……

 

「僕の結界をも通りぬけ……よくここが分かりましたね」

 

 深く外套のフードを被った薬師カブトが居た。 合間から見えるカブトの姿はまるで蛇のようにも見えるものであった。

 

「……悟ちゃんと私の感知能力を合わせれば、出来ないことじゃないわ。 悟ちゃんが戦場を駆けまわりながらも僅かな貴方のチャクラの痕跡をたどり続けていたからこそ、場所の特定も容易だった……」

 

 そんなマリエの言葉にカブトは、露骨にため息をつく。

 

「黙雷悟か……過去に僕の邪魔をし、弄びコケにしてきやがったなぁ……それにサスケ君もいるようだねぇ。 彼も僕の事を随分と舐めてくれてたなぁ……そして

 

 

 

 

 蒼鳥マリエ、アンタこそ……僕が今もっとも殺してやりたい相手だ……っ」

 

 鋭いカブトの殺気が放たれ、マリエとその隣に並び立ったサスケは警戒心を高める。

 

「ホントに……君たち三人は……っホントに目障りだっ!! それが揃いも揃ってノコノコと僕の目の前に来てくれるとはねぇ……! ある意味で僕は運がいいのかもしれないっ!」

 

「!?」

 

 感情を表だって露わにするカブト。 カブトはその荒れた口調のまま、己の思いを吐露する。

 

「ずっと気にいらなかったんだ……ねぇサスケ君。 君は何故そうも自信を持って立ち振舞えるのかなぁ?! ただ一人のうちは一族の生き残りで……君には何も残っていないハズなのに!!」

 

「……自信があるだの、ないだのなどどうでもいい。 俺は……俺には兄さんがついている、兄さんが信じた己の可能性を……信じるまでだ」

 

 サスケのブレない姿勢の返答にカブトは、己のコンプレックスを刺激され問いただす相手を変える。

 

「っ……黙雷悟っ!! お前は孤児として育てられ、その力から周囲に疎まれダンゾウにも狙われ……たった一人、暁と言う世界の敵の名を名乗ってまで……余りにも利に反している、一体君は何がしたいんだっ!」

 

「どう問われても俺は後悔しないように、今に全力をつくしているだけ……としか言えないな」

 

 サスケと悟に己の持つ疑問をぶつけるカブト。 しかし悟の返答は聞くまでもないと、サスケは鼻で小さく笑いマリエも悟の本質がまるで変わっていないことに心の中で喜ぶ。

 

 何故、何故? 自分を見失っているカブトには……己を確立している3人の存在がとても目障りであった。

 

「蒼鳥マリエ……っ! アンタがかつての施設を潰したんだっ!! なのにノウノウと自分は生き延び、新たな孤児院を経営し……分かっているんだろう?! アンタさえいなければマザーが──」

 

「っカブト!! マリエさんは──」

 

 

 

 

 

 

「いつまでも喚くな、クソガキっ!!」

 

 

 

 

 

 マリエに責めの言葉を浴びせようとしたカブト、それを遮るため悟が口を挟もうとした瞬間洞穴に怒号が轟く。

 

「……貴様に言われなくても、私自身が一番理解している。 だがな

 

 

 

 

 自分を見失って、ただでさえ一番ノノウの意志を穢しているのはお前だろう……()()、カブト」

 

「っ……!」

 

「……確かに私も、過ちばかりを犯してきた。 だが……カブト、貴様の八つ当たりに世界を巻き込むな」

 

「黙れ……」

 

「……気づけ、私たちには──

 

 

「黙れェっ!!」

 

 マリエの言葉を遮るように、カブトのローブの中から無数の大蛇が飛び出し勢いよくサスケとマリエを襲う。

 

 荒れ狂う大蛇の群れが洞窟内を削っていく中、サスケは須佐能乎を発動し蛇を押しのけマリエは軽重岩の術で空中で群れを避ける。

 

「ハハハハハハハっ!! これが僕っ!! 大蛇丸様をも越えた、仙人の……僕の力なんだっ!!」

 

 力を行使することで、カブトは自身の存在を世界に押し付け認知している。 それを証明するように、カブトは次々と術を放つ。

 

「仙法・白激の術!!!」

 

 カブトの口から放たれた赤い龍のようなチャクラ体が、一点に収縮し始める。

 

 そして次の瞬間

 

 

──キュイイイイイン

 

 

 骨が軋むほどの高音と、とてつもない光が洞窟ないを埋め尽くした。

 

 さらに空気振動も加わることで感覚をも麻痺させるその術はカブトを覗いた者の知覚を封じる。

 

 そんな世界の中を角膜を閉じ、体内のほとんどを液化させることで自由に動き回るカブトは須佐能乎で防御を固めているサスケではなく

 

 無防備になっている蒼鳥マリエにターゲットを絞る。

 

(死ねぇ!!)

 

 蛇のように大口を開け、噛み殺そうと試みるカブト。

 

 

 

 しかし

 

 

 

──ガキンッ

 

「っ!?」

 

 確かにマリエに噛みついたカブトの得た感触はまるで岩にかじりついているようなものであり……次の瞬間

 

「岩分身っ! 下かっ!」

 

 地面から飛び出た手を避けるようにカブトは飛び退く。

 

(……チッ土遁で地面に潜って白激の術の効果から逃れたかっ)

 

 マリエの心中斬首を避けたカブトは、次第に効力を失っていく白激の術を再度発動しようと印を構える。

 

 

 が

 

 

「っ……!?」

 

 サスケの須佐能乎が放った弩の矢が体を穿とうとしたことに気がつき、咄嗟に大きく飛び退き避ける。

 

(っまだ、僕を視認できるほど光も、位置を特定できるほど音も弱まっていないハズ……どうして僕の位置をっ!?)

 

 驚くカブトだが感知をサスケに集中させるとその理由が直ぐに分かった。

 

 サスケの肩に乗る小さな悟が、微かにチャクラを放っていることに。

 

(奴には僕と同じ仙人の力がある……それで僕を感知して、サスケ君に触れ大まかな感覚の共有をしているのかっ)

 

 まるで自分がどういう手段で戦うのかを見透かされているかのような感覚にカブトは陥る。

 

 それはかつて、カブトが相対した黙雷悟……黙との戦いで感じたものでもあった。

 

(何なんだ……っ! どうして、僕がすることを……何故っ……)

 

 自分が自分のことを理解できていないも関わらず、対峙する相手がそれを見透かしてくるという恐怖感がカブトを襲う。

 

 

 やたらめったら蛇や術を放つカブト、しかしそれらは適切に3人に対処されていく。

 

 

 白激の術の効果が切れたことで、サスケと悟は互いに耳打ちし合いカブトの攻略法を練る。

 

「……少なくとも仙人を自称するだけはあるようだな。 だがどの術も既視感がある、所詮は大蛇丸の紛い物か」

 

「それが今のカブトの心の在りどころだからな。 親同然の存在に認知されなくなった衝撃で、我を見失っているんだ……長い間ずっと」

 

「……どうやら音の忍び達の術も使うようだが……摸倣だけではいずれ限界が来る。 己の糧にせずあるがままを振りかざす、目的なき力がこれか……」

 

「どうするサスケ、蛇博士のお前に言うまでもないが今のカブトには蛇の角膜で瞳術による幻術は効かない。 道中説明したようにカブトを殺しても穢土転生は解除されない……」

 

「蛇博士……? フンッまあいい、お前が困るとはこの状況……なるほどな、本来コレを解決するのは兄さんだったわけか」

 

 イタチの存在の大きさ、悟でも対処に困る状況を覆すことが出来る兄にサスケは誰にも気付かれないようにとそんな兄の弟であることの優越感に浸る。

 

 そんな僅かに頬を緩ませるサスケに、悟は(間接的にイタチさんが褒められて喜んでんなコイツ……)と見透かす。 

 

 悠長にそんなやり取りができる程にサスケにはカブトの攻撃を躱しながらも余裕があった。

 

 一方でカブトの連撃にマリエも少し苦戦しながらも対処を行っていた。

 

 サスケや悟のような瞳術がなくとも、彼女の飛び抜けた戦闘センスが仙人モードへと至ったカブトの致命的な攻撃の数々を適切に対処していく。

 

 最小限の動きと、細かな塵遁による相殺。

 

 洞窟の岩を軽くし飛ばして牽制し、重くして壁とする……あらゆる術でカブトの攻撃を無効化していった。

 

「何故だ……何故死なない……っここまでしているのに……っ!」

 

 焦るカブト。 己が出来ることは全てしてきたはずであった。 師である大蛇丸を取り込み、実験体たちの細胞も取り込み……それでも

 

 何かが足りていなかった。

 

 

 

 

 そんな焦りによって僅かにカブトの攻撃の合間に隙が出来る。

 

 その瞬間、マリエが駆けだした。

 

「っ!?」

 

 そのことに気がついたカブトは、近づいて来るマリエに攻撃を放つ。 しかし、単純な術や、矢……遠距離攻撃はマリエが右腕に纏った岩状手腕で軌道を逸らすように最低限の力で透かされ、大蛇による物量を仕掛けても左手で形成した塵遁を四角形状に留めたまま振るい大蛇の身体に隙間を作り突進する。

 

 勢いづいたマリエがカブトに肉薄した。

 

「歯を食いしばれ、カブトォ!!」

 

「っクソっ!」

 

 マリエが振り上げた右手の拳、しかし単純な身体能力が上のカブトはそれよりも早く手刀を作り彼女の腹を穿とうと突きを繰り出した。

 

 

──その突きは、真横から飛んできた雷を纏った刀が腕を突き刺したことで阻止される。

 

 

(うちはサスケっ!?)

 

 僅かなモーションで草薙の剣を投擲したサスケは、周囲に蔓延る大蛇に向け須佐能乎による攻撃を放つ。 まるでカブト自身はマリエに任せるように。

 

「うおらぁ!!!」

 

 そして振り抜かれた岩拳がカブトを殴りつける。 しかしカブトに素直な攻撃でのダメージは余り効かずに、直ぐに彼は態勢を立て直す。

 

 しかし

 

「まだぁっ!!」

 

 復帰するカブトに合わせるように、左にも纏った岩の拳をマリエは叩きつける。

 

「っづぅ!!」

 

 遥かに身体能力で優る相手に、近距離の格闘戦で後れを取る。 その既視感にカブトは、眩暈がした。

 

(どうして……なんで……)

 

 壊れそうな自我、今の己を否定してくる憎き存在たち……それらを目の前にしてカブトは……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『忍びをやるのも施設のための仕事だからだ。カブトも大きくなったら、何かマザーの役に立ってやるといい』

 

 ……かつて、アンタは……蒼鳥マリエはそう言った。 だから、僕は……マザーのためになることをしようとしたんだ。

 

 孤児院のために、働くために医療忍術も少しづつ覚え……マザーの手助けをして……

 

 施設の仲間達よりも「良くできた」と褒められるのに優越感を感じつつも、逆にそんな仲間に頼ることに少しも嫌悪感はなかった。

 

 貧しくても……充実していた。

 

 けれど

 

 

 蒼鳥マリエが帰ってこなくなるとマザー顔から笑顔が減った。

 

 

『あの歩きの巫女と呼ばれたお前が今や子守とはな……久方ぶりにこうしてみると……少しやつれたかノノウ』

 

 

 そして岩隠れの大規模な作戦を探るために、マザーは再び岩隠れへとスパイとして潜り込んだ。

 

 ……ダンゾウの策略通りに。

 

 

 

 そして、僕も忍びとなった。

 

 

 

 

 

 

『誰……なの?』

 

 

 

 

 

 根の策略でマザーと殺し合うために。

 

 僕は誰なんだ……

 

 マザーから貰った名と、眼鏡をもってしても……マザー自身に気づかれないなんて……

 

 何の……

 

 何で……

 

 何の為に……

 

 

 

 僕はただ、誰かに……見て欲しかった……認めてもらいたいだけなのに

 

 

 

~~~~~

 

──ガっ

 

 マリエの連撃を、カブトは仙人による回復能力と瞬発力で強引に抑え込もうと彼女の岩の手を正面から受け止める。

 

「クッ……」

 

 正面からではカブトの膂力に敵わないことを悟っているマリエが岩の外殻を囮に距離を離すと……カブトは印を結ぶ。

 

「……マリエ、アンタに……面白いものを見せてやる」

 

 地面に手をついたカブトは叫んだ。

 

 

 

「アンタの罪をっ!!!!!」

 

 

 

 そうして現れる2つの棺桶……大小の棺桶はゆっくりとその蓋が開き……

 

 

「っ!?」

 

 

 その中身にマリエが動きを止める。

 

「どうしたっ!?」

 

「マリエさんっ!?」

 

 サスケが動揺したように見えるマリエの動きに不信感を覚えるも、周囲の大蛇の妨害にあい棺桶の中身が見えない位置にいた。

 

 棺桶の中身を見たマリエは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リン……マザー……」

 

 

 

 

 

 

 

 そう小さく呟いた。

 

「ただアンタ一人の為にわざわざ用意したんだよ……ハハハ……蒼鳥マリエ、アンタの事は調べ尽くしているっ!! この女の死でアンタは壊れ始め……マザーに売られたとダンゾウに偽の情報を掴まされたことで、己を殺したっ!!

 

 ハハッそんなアンタに、僕を責める権利何て──

 

 

 

 

「塵遁・限界剥離の術」

 

 

 

 

 

──キュイン

 

 一瞬の甲高い音ののち、白い光と共に2つの棺桶は消え去りカブトの頭部に生えていた角が一部欠ける。

 

 

 

 僅かな静寂の後、カブトは何が起きたのか理解し……その瞬間。

 

 正面にはマリエが立っていた。

 

「っ!?」

 

 次の瞬間にはマリエが風遁を纏った手刀を横なぎに放ち、カブトの眼を切り裂く。

 

 その痛みにカブトが仰け反るとマリエは素早く彼の背に回り込み羽交い絞めにして土遁で身体を覆いカブトの身体を岩に埋め込ませ拘束する。

 

 当然カブトは抵抗しようと四肢に力を籠める、しかし

 

 その四肢の腱をさらなら風遁の刃が襲いその膂力を失わさせる。

 

(……っまさか!?)

 

 予備の動作もない一連の動き、カブトはその流れが

 

 

 マリエの分裂の術によるものであったと感ずく。

 

 

 予め、洞穴の外のはるか先に待機していたマリエの分裂体に戦闘が始まったタイミングで塵遁を溜めさせる。

 

 カブトの感知が、洞窟のなかのサスケやマリエに集中したことでカブトの感知範囲外になったそこから……先ほどのマリエの限界剥離の術は放たれたのだ。

 

 

 そして生じたすきに、中にいたマリエがカブトを拘束。 その間に分裂して外に居たマリエが塵遁で空いた直線を駆け、もがこうとしたカブトの抵抗力を奪ったのであった。

 

 

 そして……

 

「サスケ君、眼球が回復する今がチャンスよっ!!」

 

 先の岩状手腕の殴打でカブトの回復力を測っていたことで、角膜の先、その瞳が潰されても再生することを確信しその角膜が生じない隙を作ったのであった。

 

「やめ──

 

 

 

「万華鏡写輪眼っ!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

「余りにも強引すぎる……」

 

 力が抜け項垂れるカブトを前にしたサスケの肩で、悟はそう呟く。

 

 薬師ノノウと野原リン。 本当に彼女らの穢土転生体が棺桶の中にあったのなら、マリエが動揺を見せないのは事情を知る悟には考えられない。 当然カブトも同じ考えであったために、的が外れ致命的な隙が生じた訳だが……

 

 サスケの背後で、塵が集まり穢土転生体が再生しようとしている所でマリエは封印術を施し……塵が人の形になることはなかった。 そんなマリエの様子を悟が見つめていたがサスケから声がかかる。

 

 

「悟、カブトにはお前が言った兄さんが使うはずだった『イザナミ』とかいう術のようなループにハマったかのように錯覚する幻術をかけた。 己を認めた時に解術される条件も同じくな……本当にこれで良かったのか?」

 

「ああ、これでカブトは己を……本当の自分を見つめ直せるはずだ」

 

「……殺しはしないのか?」

 

「穢土転生を解術させても、殺すつもりは俺にはない。 ……コイツもダンゾウの被害者の1人だ。 ここに居る俺たちと同じ……な。 皆、それぞれが罪を犯して……それでも生きてる……カブトだけ仲間外れにしたら可哀想だろ?」

 

「この戦争で少なくない人が死んだはずだ、お前がどれほどそれを軽減したのかは知らないが……その責任は消えはしない」

 

「ああだからこそ、一生をかけて償うしかないな。 カブトならそれが出来る、少なくとも俺が知る数少ないもっと先の未来の情報だ」

 

「フン……勝手にしろ」

 

 そうしてサスケは幻術に堕ちているカブトに、質問を1つする。

 

「……兄さん、うちはイタチはどうしてここに居ない。 穢土転生していないのか?」

 

 その質問に

 

「……イタチは……穢土転生……出来なかった」

 

 そうカブトは答えた。 何故穢土転生を出来なかったのか、詳しい条件を知らないサスケは疑問に感じたが

 

「未練がないから……じゃないか?」

 

 悟がそうサスケに告げた。

 

「未練?」

 

「昔、穢土転生について書かれた巻物を呼んだことがあるんだが……穢土転生は浄土にある魂が持つ未練を繋がりとして穢土……現世に口寄せする原理らしい。 浄土に魂がない者か未練がない者だけが穢土転生されない。 ……まあ、この忍界に生きて未練がないなんて人間はそうそういないだろうが……つまり……」

 

「……」

 

 悟はその後の言葉を口にはしなかった。 サスケも、イタチが穢土転生されなかった理由を理解し……瞳を閉じて小さく笑顔を作った。

 

 

 

「……よし、穢土転生を解除させる」

 

 そうしてサスケがカブトに穢土転生の解除の印を結ばせる中、小さな悟は封印術が発動し布にくるまれた2つの物体を前にへたり込んでいるマリエの元へと向かう。

 

 彼が近づくと、ポツリとマリエは言葉をこぼす。

 

「……『あなたには青い空に羽ばたく鳥のように自由に生きて欲しい』……そして取りあえず性格がキツイからと優しく聞こえるような響き……私の名の由来はそうであった。 ノノウと言う名も、彼女のマザーから貰い……そしてノノウがかつて捨てたものだ。 岩隠れでナニガシを名乗るにあたって、過去の名は邪魔でしかないからな」

 

「……」

 

「だが、彼女も私も……貰った名を誇りに思い……人生を生きた。 それは嘘偽りのない事実で……何事にも代えがたい己自身の記憶だ。 カブトも……いずれそのことに気がつくだろうな」

 

「ええ……そうですね、俺もそう思います」

 

()()()……貴方の名前の由来を……聞かせてくれないか?」

 

 悟に背を向けたままのマリエのその言葉に悟は……

 

「俺の世界で苗字である()()は……人に様々なこと、山火事から火などを学ばせた雷が音のないさま……つまり雷の音が聞こえないほどより遠くの恵みを得ようとした者にかつて授けられたものであり……()は、心配性の両親が『今その時がどうしようもないと悟っても、必ず苗字の由来のようにどこかにある恵みを見つけられるように』と苗字と意味を合わせて名付けてくれました」

 

 懐かしむようなその声色でしみじみとそう語った。

 

「あえて名の方にネガティブな意味があるのか……少し、何というか……」

 

「変わった両親ですよね、まあ本当に心配性でしたから……あまりポジティブな名前にするのが逆に気が引けたのかもしれないです。 でも、俺は気に入ってますよ。 俺自身本来心配性なので、色々なことに気を取られて気づけないことも少なくはないです……それでも、黙雷悟の名前に籠められたよう……俺は()()()()

 

 そう硬い決意を抱く悟の様子に……マリエは……この先の出来事を悟る。

 

 彼が何を思い、何をしようとしているのか。 そしてその結果、どうなってしまうのか。

 

 悟自身が覚悟しているその様子にマリエは

 

「過去を縛りとして見ず、己の糧にする……リンもノノウも、未来に希望を託してきたもの達全てが私たちにそう望んでいるはずだ。 それを貴方も忘れないでね、悟ちゃん」

 

 そう言って、いつものようにマリエは優しい笑顔で悟に振り向いた。

 

「はい、勿論ですっ!」

 

 

 そして

 

 

 穢土転生は解術された。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 穢土転生が解かれたことで、戦地に影響が出ることは明白であった。 しかし

 

「……悟ちゃんの本体はまだ目を覚まさないの?」

 

 マリエの心配に小さな悟は首を傾げる。

 

「はい、まだみたいで……俺の再生能力ならそれなりに時間がたった今、起きてもおかしくないのになぁ……?」

 

 そう呟く悟を尻目に、サスケは洞穴の外へ出ようとカブトの前から離れる。

 

「サスケどこ行くつもりだ?」

 

「……ここでやることはもう何もない。 戦地とやらに向かい、世界を見定めにいく」

 

 サスケのその言葉に悟は

 

「ちょっと待て……確かに穢土転生を解除しても戦争は終わらないけど……お前はここに居るべきだ」

 

 足早に去ろうとするサスケを引き留める。 その様子に、サスケは小さくため息をし

 

「……ならそうさせてもらう」

 

 そう言って手ごろな岩に腰を下ろした。 素直なサスケに悟が安堵のため息をつくが

 

「戦争は終わらないの……? 悟ちゃん」

 

 先ほどの悟の言葉に、マリエは危機感をあらわにする。

 

「ええ、マダラも穢土転生の縛りを自分で解けるのでアイツだけ現世に残るハズですので……まあ影たちとナルトが封印してくれてれば、あとは仮面の男だけで話はそれで終わりなんですが……」

 

「っ……そんな状況、私貴方の身体が心配すぎていても立っても居られないっ!! 私は戻るからね、悟ちゃんっ!! 良いわよね?!」

 

 焦りを見せ始めたマリエは軽重岩の術で浮き上がる。 すると

 

 

「マリエさん……それと悟」

 

 静かに座っていたサスケから、二人に声がかかる。

 

「?」

 

 2人が同時に反応し、視線をサスケに向けるとサスケは少しそっぽを向いたまま

 

「兄さんからの伝言がある……2人に『感謝している』だそうだ」

 

 そう呟いた。

 

 その言葉に

 

「……ええ、私もイタチ君と会えてよかったわ……」

 

「……俺こそ、イタチさんには恩しかないよ」

 

 思い思いの言葉を残し……マリエは飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、そのこと鉄の国の時に言ってくれなかったんだ?」

 

 何気なく、小さな悟はそうサスケに語りかけた。

 

「っ……今の流れでお前はマリエさんについて行かないのかよ……」

 

「イヤ、俺はサスケについて行くことにしたよ。 この身体じゃやれることが限られているから……()()()()()()()を確かめに行くことの方が大事だと思った……で、何で鉄の国で──」

 

「しつけぇな……あん時はお前が暴れまわったせいでそれどころじゃなかったからだッ。 おかげで組んでいた小隊の仲間ともはぐれる結果になっちまって──」

 

 その瞬間、洞窟の天井が崩れ人影が二人分降りてくる。

 

「見ーつけた!」

 

 その二人の姿に、サスケと悟は口をそろえてその名を呼んだ。

 

「「水月と重吾か」」

 

 着地した水月はニコニコした笑顔を浮かべてサスケに語りかける。

 

「いやぁー探したよサスケ、会談の時に僕たちを置いてサッサと君だけが駆けだしたせいで捕まった僕らを助けに来ない薄情者のサスケェ!! ──てうわ、何コイツカブト?! キモ、腹から蛇みたいなうんk──」

 

「サト……ではなく、悟だったな。 俺も体を分け与えれば小さくなることもあるが、そこまでにはならないな」

 

 水月の言葉を遮り、悟を見つけた重吾はサスケの傍にいた彼を掌に乗せる。

 

「重吾、元気そうでなによりだよ。 で、あっちが水月か……こう、生で見ると五月蠅いな」

 

「何そいつ、小生意気なチビっていうかミジンコっ!! 見て五月蠅いとか矛盾してるだろってか初対面で失礼だっ!!」

 

「うるさいぞ水月」

 

 サスケの指摘に水月が怯む。 しかし水月は外套の素手から巻物を取り出すと

 

「いいのかなぁサスケェ? 大蛇丸のアジトで見つけたこの巻物に書かれたとびきりの情報……教えてあげないこともないのにそんな態度で──」

 

 煽るかのようにこれ見よがしに振る水月──だが

 

「よこせ」

 

 サスケの雷遁で強化された身体機能による移動になす術もなく、巻物を取り上げられる。

 

「あ゛~~~っ!!」

 

 叫ぶ水月に、うるさくて敵わないと重吾は悟の指示のもとに近くにいるはずのみたらしアンコの身柄の安全を確かめに行く。

 

 返せ返せと巻物を取り返そうとする水月から、雷を迸らせ巻物を読みながら背走で逃げるサスケ。

 

 

 コントのようなやり取りの後……一行はアンコの身体に刻まれた呪印と、カブトの細胞と重吾の力を使い大蛇丸を復活させ……

 

 

 

 

 

 木ノ葉隠れの里へと向かった。 

 

 

 

 

 

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