「ねぇ悟、誕生日何が欲しい?」
「……え? ……小鳥……?」
「何呆けて人の名前呼んでんの? ……話聞いてた?」
「っ……えっとごめん……ボーっとしてた」
「最近大学のレポート忙しそうだもんね~……まあ、せっかくの休日に私の部屋でゴロゴロしてんだからもうちょっとボーっとしててもいいよ」
「いや……大丈夫。 あ~それで俺の誕生日の話だっけか……お前はサプライズ的な何かをするつもりはないのな」
「まあね、私そういうの好きじゃないからさ。 サプライズって結局やる側の自己満足じゃない?」
「小鳥さんはかなり偏った偏見をお持ちで……」
「別に他人にするなとは言わないけどさ……何か『喜んで当然』を押し付けてるみたいで嫌いなのよねぇ」
「まぁ……わからんでもないかも。 俺もいつも『もしも』って考えてるタイプだからな尚更なぁ……」
「だからほら、フラッシュモブとかも私は苦手! その後にプロポーズとかはもう最悪も最悪!」
「へぇ~~なら小鳥はどんなプロポーズをご所望で?」
「そりゃねぇ~……って言わせんなバカ!! もう……外でよ、昼頃だし何か食べに行こうよ」
「へいへい……今日は夏って感じの気温であんまり外行くの気が進まないんだけど……まぁ行くか」
「演劇サークルで体力作りとかしてないの? バテてたら演劇どころじゃないぞ、ロミオ」
「誰がロミオじゃい! んで誰目線のご指摘だよそれ」
「そりゃぁもちろん……
悟の彼女様からのご指摘……かな」
~~~~~~
「悟ちゃん、誕生日は何か食べたいものとかあるかしら?」
「……マリエさん?」
「……? どうしたの、ボーとして」
「……いや、何でもないです。 僕はマリエさんの作る料理なら何でも好きですよ」
「ふふふ、嬉しい事言ってくれるわねぇこの子は……なら、腕によりをかけてつくるから期待しててっ!」
「ええ、もちろんです……ところで今日は孤児院の様子が随分静かなようですけど……」
「悟ちゃんやっぱり寝起きでしっかりしてないのね……今日は皆マザーの方の孤児院に遊びに行ってるから、こっちには最低限私と貴方だけで残るって話だったじゃない」
「……ああ、そうでしたね。 それじゃあ今日は随分と暇になりますね……」
「偶には良いんじゃないかしら? いつも二人して忙しそうだからってみんなが作ってくれたお休みなんだから満喫しないと!」
「……ええ……それじゃあ折角ですし、外に出かけませんか?」
「そうね!! 私も悟ちゃんと一緒にピクニックしたいと思って丁度準備してたところなのよ!!!」
「うわ……凄い弁当の品数……何時から準備してたんですか……っ」
「えへへ……ちょっ~~~~~とだけ早起きしただけよ……眉間に皺寄せないでよ悟ちゃん……っ」
「休みだというのにあなたは……全く」
「悟ちゃんに喜んで欲しかっただけなのよ~」
「……次は僕も一緒に作るので、声……かけてください」
「……! そうね!! 悟ちゃんと一緒に料理作るのも次のお休みの予定に入れておきましょう!!」
「ふふふ、マリエさんったら……そんなにはしゃがないでください……ほら、準備して行きましょうか」
「ふふふ、悟ちゃんとこうしてピクニックに行けるなんて……私嬉しいわ……これも
世界が平和だからこそね!!」
~~~~~~
「それで、やっぱりイタチの自己犠牲の精神と完璧だと思うほどの実力持ちなのに奢らずカブトを自分の失敗も踏まえて諭す姿がとてもとてもカッコイイってのがなんだか──」
「……食事中にペラペラ喋りすぎ、行儀悪いぞ」
「っ……つ、つい……ごめんね?」
「全く……NARUTOオタクッぶりは相変わらずだな……」
「えへへ……面目ない……」
「……フフ、俺は別に構わないけど……逆に妬けるなあ……イタチさんに」
「え……?」
「自分の彼女がこうも、別のイケメン相手の話をのろけたらそりゃなぁ……俺も──」
「ちょっ!? ごめんごめん! ね? 機嫌直してよ~~~、ごめん~~~~」
「……冗談だから! そんな大げさに謝らなくてもいいよ……お前がNARUTO好きなのも理解してるから、NARUTOの話をしてる小鳥の顔を見るの……俺は好きだし」
「………………バカ」
「……っちょっと今のはハズイセリフだったかも……」
「……」
「……」
「ねぇこのあと、映画見に行こうよ……」
「っえ、映画……? 今の時期、何か良いのやってたっけか……」
「別に……アンタとデー……デー……デート……行きたいなぁ……なんつって……」
「……! ふふふ、ああ……行こうか」
~~~~~~
「ホント今日はいい天気!! まさにピクニック日和ね!!」
「テンション高いですね……マリエさん」
「悟ちゃんこそっ! こんないい天気なのにどうしてそうも物静かなの? パァっと楽しまないと!!」
「……ほら、僕は元々こういう性格なので……マリエさんが楽しそうにしてくれればそれで十分ですよ」
「む~~~……まぁしょうがないわよね。 人それぞれっていうもの、でも私も悟ちゃんが楽しそうにしてくれていると……私嬉しいわ」
「……。 こう見えても内心は楽しんでいますよ……今は」
「そう? それじゃあ、あの丘の上でシートを広げてお昼ご飯ね!! 腕によりをかけた弁当、期待しててね!!」
「……テンション高いなぁ……マリエさん……ははは」
「ほらほら、早くこっちに来て!!」
「よっこいしょ……実際にこう、日の下でシートを引いて腰を下ろすと……なんだかいい気分になりますね。 平和というものを実感できます」
「でしょ? たまにはこうしてのんびりするのも悪くないのよ。 悟ちゃんはいつもしかめっ面で、もう少し明るくしてくれても──」
「……」
「悟ちゃん?」
「……いえ、そうですね。 少しだけ……少しの間だけ……」
~~~~~~
「で、映画は何見る?」
「自分で見たいって言っておいて何も決めてないのかよ……」
「……しょうがないじゃん、だってぇ~」
「はいはい、一緒に見て考えていこうな。 ほら、ここにパンフレットがあるし何かしら気にいるのがあるかも」
「そうそう、よくわかってる~こうやって彼氏と何見るのかも醍醐味って奴じゃない~?」
「何を偉そうに……。 ……っ」
「ん、どうかした?」
「……なあ、小鳥」
「なあに急に?」
「そういえば小鳥の家に、確かブルーレイあったよな。 NARUTOの映画のやつ」
「うんあるけど……」
「せっかくなら、それが見たいな」
「ええ~~映画館まで来て今更家に行くの? めんどくさない? 今日はここで何か見てそれからでも──」
「頼む」
「……っ何でそんな真剣な顔して……別にいいけど……変な悟」
「……ありがとうな我儘を聞いてくれて」
~~~~~~
「どう、お弁当美味しい? 悟ちゃん鶏肉料理が好きって言ってたものね、私も好きだからうんと用意したの!」
「はい……とてもとても美味しいです」
「ふふ~そうやって言ってもらえると私嬉しいわ~っ!」
「……」
「……? 悟ちゃんどうしたのさっきから……度々どこか遠くを見ている様だけど……」
「マリエさん、楽しかったですよ。 この気持ちに嘘はありません、貴方と始めからこうやって平和に過ごせていたらと思うと……胸が張り裂けそうになる」
「悟ちゃん……?」
「でも、違う。 貴方は本当の僕が望むマリエさんじゃない……ごめんなさい、始めからこんな平和な世界を築けなくて」
「……どうしたの急に……何か私変なことしたかしら?」
「……僕は全て……覚えているんです。 全ての、今まで経験した無限の夢の内容を。 きっとそれは僕が……
うちはマダラの血を引き継いでいるから」
僕のその一言で、世界から色が消えた。
~~~~~~
「ねぇ……やっぱり、家に行くの止めない? 私悟の部屋に行ってみたいな~なんて」
「……」
「……どうしたの悟、顔が怖いよ」
「っ……悪い。 ちょっとだけでいいんだ、小鳥の部屋で確認したいことがある」
「確認って……そんな凄い何かがあるみたいな言い方、変だよ」
「……いや、そうだな。 やっぱりわざわざお前の家に行く必要はないか」
「っ! そうそう何時でも行けるところよりも今はデートの続けでも──」
「小鳥、聞きたいことがあるんだけど」
「もう、さっきからなあに? まあ何でも聞いてくれていいよ」
「大丈夫、小鳥なら即答できる内容だから……」
「……?」
「──NARUTOの次回作ってどんなタイトルだ?」
俺のその一言で、世界から色が消えた。
~~~~~~~
僕が今まで見てきた無限の夢、その内容は……いつも変わらなかった。
世界を力で支配し、僕の思うがままの世界……僕は誰よりも強く僕が世界のルールだった。
けれど、必ず夢の終わりが来てしまうと彼女が現われ問いかけてきた。
『貴方は誰?』……と。
そんな内容を僕は……忘れていなかった。 いや正確には途中で思い出したというだけのことだ。
何度も同じ夢を見ることで……まるで明晰夢のように夢の中で夢だと自覚できるようになり……そして夢の内容を思い出し、忘れなくなった。
けれど今回の夢の内容は違った。
平和で……平和で……ひたすらに平和だ。
誰もが願うほどの平和……普通の人が思い描く、絵に描いたような……
こんな理想、僕にはもう思い描けない。
だからこそ、直ぐに気がついたよ。 マリエさんとの日々、きっとこう言う風に過ごして欲しいと思っている人物の心当たりは僕には1人しかいない。
そう、この夢は……この願いが──
~~~~~~
違和感を感じつつも、小鳥と居ることに安心し……この世界に浸っていた。
本当ならそんな違和感もないのだろうけど、俺は違った。
自分の口から出る言葉の違和感、小鳥との会話の違和感……
そして、映画のパンフレットの数々が俺にこれが現実ではないと……教えてくれた。
──この世界は俺の知る範囲の世界しか構築されていないことに
映画館に置かれたパンフレットの種類は、俺が知っている映画のものしかなかったのだ。
そう気がつくと、段々と頭が冴えていく感覚に背を押され……確認しなければいけないことが分かる。
俺の知らないことを確かめる必要があった。
……そしてそれを教えてくれるのは……一番近くにいた小鳥だ。
もう、俺は覚悟したんだ。 元の世界には戻らないと。
そうすることで忍界を少しでも良くできるならと覚悟した。
小鳥との日々を捨て、彼女と別れを告げた俺に……後悔はない。
けれど、こんな夢を見るのはきっと……この夢が俺のものじゃないからだろう。
黙雷悟が願った世界なのは間違いない……けれど、俺が小鳥と平和に過ごすことを誰よりも願ったのは──
気がつくと目の前に広がる景色に変化が訪れた。
色褪せた世界がボロボロと朽ちていくのと同時に、黄昏時の町が姿を現す。
雰囲気はどこか物悲しく……けれど、何かを予感させる俺の故郷の雰囲気に少し感嘆の息を漏らして……俺は歩き始めた。
ここは俺の精神世界なんだろう、黙の世界が明るい草原のように……この景色が俺の原点なんだ。
そう思い、何かの予感に誘われるように自分の実家へと足を運ぶ。
もう帰ることはない景色を見て回りながら家まで着くと……玄関のドアノブに手を掛ける。
「……よし」
覚悟を決め、玄関の扉を引くと……扉は普通に開いた。 懐かしい我が家の間取り、そのうち誘われるようにして俺は自室の扉の前へと至る。
何かの気配を感じつつも、意を決して扉を開いた。
目の前に広がる光景は、俺は想像していたものよりも……
大学入学を経て、大学近くのアパートに引っ越し……1人暮らしをしていた俺の実家の部屋は確か、綺麗に片付けたはずであった。
高校卒業してからは、小鳥とも会うことがほとんどなく……こっちの部屋に来ることも少なかった。
実際、小鳥と会うようになってからも……過ごしていたのはずっと小鳥の部屋だ。
……目の前に広がる自分の部屋は……多分小学生ぐらいの頃のものだろう、色々なおもちゃが床に転がっており壁には特撮物のポスターが張られた……どこにでもありそうな普通の子供の部屋だった。
無造作に置かれた小型のブラウン管の箱型のテレビには、昔好きで何度も見ていたヒーローの映画が映っており……
そのテレビを見るように、俺のベッドには……
「……面白いか?」
そういって俺がハナビの隣に腰かけると、眼が輪廻眼の模様になっているハナビは静かにこちらを向いた。
「……悟さん?」
多分、このハナビは……精神エネルギーか何かなのだろう。
無限月読、この幻術は……恐らく術にかかった対象の精神を深い所で繋げる効果がある。
そして、術にかかった人間が望む夢を見せるために必要な情報を……他者の記憶から選別して取り寄せ……都合の良い世界を見せるのだ。
こうして精神の繋がった人間は、都合の良い夢を見る。 自分の知らない情報も補うことが出来る幻術で……
けれど、俺の場合話が違ったのだろう。
俺の前世の情報は……この忍界で俺しか知りえない。 そして、その夢を構築するには……どう考えても俺一人の記憶じゃ足りなすぎるんだ。
俺は……NARUTOの次回作があることは知っていてもタイトルまでは知らなかった。
その矛盾点を突けば、世界に綻びが生じる。
別に適当に俺がタイトルでも思い着いてでっち上げれるなら幻術は壊れないんだろうが……問題は俺の考えたセンスのタイトルを、小鳥が口にしなければいけなくなるっていうこと。
どうあがいても、俺が見ていた夢は……終着点が決まっていてその道も短かったのだ。
「……この映像機に映る映画に出てくる人たちは……どうしてこんなにも苦しんでいるのに……戦うのでしょうか」
ハナビは不思議そうにそう問いかけてくる。 このハナビは精神体で、俺の精神から……記憶から自分が見る夢を構築しようとしているのだろう。
「……曰く自由のため……らしい。 正義の味方って言われているけど……実際は、何かの自由の為に……苦しくても闘っているんだ」
「正義……のためじゃないんですか?」
「こういう特撮物には珍しいけど、意外に皆自分勝手で……自分の目的の為に闘っていることの方が多いんだよ。 中には本当に正義の為に奮闘してる作品もあるけど……」
俺が早口でそういうとハナビは納得したように、ゆっくりとテレビへと目線を向け呟く。
「……悟さんみたいですね」
そんな少し悲しそうにつぶやいたハナビの言葉に……ハッとさせられた。
俺は……きっと……ずっとこんなヒーローたちのようになることを夢見ていたんだ。
誰かの為に、何かの為に……何の躊躇もなく自分の命を、存在を賭けられるようなそんな……
──主人公に。
けれど、その思いも成長と共に……忘れていった。
そんな思いを再燃させるきっかけになったのは間違いなく、あの幻術の内容だ。
六道仙人がこの世界に来た俺の魂に見せたあの、
確かにアレは噓の内容だったが……あの記憶の中で感じた思いは噓ではなかった。
少女を助けたことを二度と後悔しないように……その思いが俺を突き動かした。
そして……
「ああ……あの時助けられたのハナビじゃなくて、俺だったんだ」
そう呟いた俺の言葉にハナビは首を傾げた。
「あの森での出来事だ。 ……それまでの俺はこの忍界の厳しさに打ちのめされていた。 ヒナタを助けようにも出来ることは時間稼ぎだけで、それも僅かな一瞬。 イタチさんを止めることも出来ず、結局あのときマリエさんが無理して助けに来なかったら俺は根に殺されるか拉致されていた。
……俺が、俺の意志で……ちゃんと『自由』を守れたのは……あの時のハナビが初めてだったんだ」
そういってハナビの頭に手を置く。 するとハナビは成長していた現在の姿から、あの焼けた森での姿に変わる。
「俺自身の根幹にある夢を始めて叶えたのは……あの戦いでの出来事だった。 そう思えば、不謹慎だがハナビには感謝しないとな……」
「……」
「あの時、ハナビを助けられたからこそ……俺は忍びの道を……俺の忍道を貫き通すことが出来た」
「……今もその思いは変わらないんですね」
優しい微笑みを浮かべたハナビからの問いに……俺は迷うことはなかった。
「当然だ、俺に出来ることが誰かの自由に繋がるなら……俺は……全てを賭けて戦う覚悟がある」
俺が覚悟の言葉を言うと……次第に周りの光景に変化が訪れていく。
夕日が差し込んでいたはずの窓や部屋の天井が、水に沈めたミニチュアの模型の様に崩れ浮き上がっていく。 それと同時に俺の身体がふわりと浮き上がる。
そんな俺に……ベッドに腰かけたままのハナビは輪廻眼模様の眼で目線を向け……涙を浮かべていた。
「もう……行くんですね」
「ああ、何となくだけど……〈外〉で何かが起きて居るこが分かるんだ。 そういう予感がする以上……目を覚まさないとな」
笑顔を浮かべてそういう俺にハナビは……笑顔を振り絞って……最後に声をかけてくれた。
「ずっと……貴方を待ってます」
その言葉を聞くと同時に……俺の身体は急上昇していく。 夕焼けの空へと飛ばされたと思えば……次第に空の色が明るくなり、晴天の中へと身を投じていた。
そんな空を落ちているのか、飛んでいるのか分からない状態になっていると……ふと気配を感じた。
すると……目の前に、白髪で色白の……良く知る人物が俺と同じような体勢でそこにいた。
「おや、黒髪天パでそこそこの身長の君は……もしかして黙雷悟って名前じゃないかな?」
俺に気がついたそいつの小芝居めいた言葉に
「そちらこそ、身長で言えばかなり低い方だろ……黙雷悟殿?」
皮肉を込めて返答する。
「いや、僕は最終的にその君の姿よりも身長は伸びるはずだからね。 ……ってそんなことよりも、目を覚ますのかい?」
何か言い訳をしようとした黙だが、ふと俺に確認を取ってくる。 ……言いたいことは分からなくはないが……俺の返答は決まっている。
「俺は……俺のしたいことをする。 ……何度も言ってるだろ?」
そんな言葉に黙は呆れたようにやれやれとジェスチャーをして俺の瞳の奥を見つめる。
「だろうね。 元の世界に帰ることを拒否する君には、今更すぎる質問だったようだ……っおっと?」
ふとそんなことを言う黙の視線がブレると……いつの間にか、空を浮いている俺と黙の2人を囲むように……尾獣たちが小型の姿で現れていた。
「九喇嘛……それに他の皆もっ!」
「よう、悟……意識を取り戻さないからどうなるかと思ったが……随分と外の世界ではことが進んだようだな」
九喇嘛のやれやれといった様子に……俺は少し安心した感覚を覚えた。
すると九喇嘛が俺と黙に目掛け指を向ける。
「貴様らの身体が限界を迎えつつあるのは自覚しているだろう? ……ワシたちのチャクラを全て生命エネルギーにしてそれを今から補ってやる」
「……そんなことをすれば分体とは言え君たちの存在は消えることになるけどいいのかい?」
「今更そんな野暮なことは聞くんじゃねぇっ! 黙、例え記憶を引き継げなくても俺たちはてめぇらのことを忘れねぇよ」
ケッと笑顔を浮かべた九喇嘛は握りこぶしを黙へと向けた。
「……君たちの本体に僕たちと過ごした記憶が行かないけど……そういうのが野暮ってことだね。 まあ、ある意味貴重な二度目の君からの好意だ……喜んで受けよう」
そう言い黙は九喇嘛と拳を合わせる。 すると尾獣らの身体が段々と透け始めた。
彼らも、天音小鳥と名乗った数年の付き合いで……良き仲間だった。 内から俺たちの事を見ていたからこそ……こうして最後に力を貸してくれるのだろう。
守鶴 又旅 磯撫 孫悟空 穆王 さ、犀犬 重明 牛鬼 そして九喇嘛……
皆としっかりと目線を合わせると……彼らの姿は光の粒子となって……精神世界の空へと溶け込んでいった。
すると……俺と黙の身体の浮き上がる感覚が早くなったのを自覚する。
「目を覚ますのも、もうすぐってことか」
俺のその言葉に黙は
「ねぇ……雷」
ふと声をかけてきた。
「どうした、黙」
「……何も言わなくても、外で何かが起きているのか分かっているはずだ。 多分、これが最後の戦いになる」
「……ああ、わかってるさ」
俺が笑顔を浮かべ、サムズアップを見せると……黙は安心したように……俺の真似をしてくれた。
~~~~~~
──ドンッ!!!
衝撃音と共に、繭のような木造物から雷光が天に向かい飛び出る。
そして光が収まり空中で体を地面に向け着地できるように整えた悟の眼にはとある光景が映った。
「うちは……マダラ」
再びの衝撃音と共に悟が着地すると……夜の闇に……その朱い瞳の閃光が揺らいでいた。
その手には四肢が砕け塵となった柱間の首を持ち、足元には扉間や波風ミナトが身体の大半を塵にしつつも唸り、蠢いていた。
「……ほう、無限月読を自力で解くとはな……いや有り得ん話ではない。 なぜなら
全てを見透かしているかのように、影たちを蹂躙していたマダラは手にしていた柱間を投げ捨てると歓迎するかのように悟に向け手を開く。
「少々準備運動には飽きて来ていてな……この力……試すには貴様が最適だと思うのだが──」
マダラのその言葉を遮るように……突如として悟の背後から、影が2つ飛び出る。
「忍法・手裏剣影分身っ!!」
「風遁・真空波っ!!」
放たれた無数の手裏剣と、その手裏剣すべてに纏わされた真空の刃がマダラを襲う。
その無数の術に襲われたマダラは動く素振りも見せずに、舞い上がった土煙の中へと姿を消した。
姿を現した2つの影は悟の前へと降り立つと彼へと振り返る。
「三代目……とダンゾウっ!?」
1人は三代目火影猿飛ヒルゼン、そしてもう1人は……穢土転生体の志村ダンゾウであった。
「まさか目を覚ますとはな悟よ……して、状況は良くないのは見ての通りだ」
「……奴は今の術でくたばる存在じゃない俺が時間を稼ぐ間に……黙雷悟に事情を説明しておけ、ヒルゼン」
ダンゾウは悟に目線を向けることなく、土煙の中へと突撃していく。
そんな姿に呆気に取られつつも、悟はヒルゼンに問う。
「あのうちはマダラは一体……ナルト達は?」
「うむ……あのマダラは……よくわからぬ。 無限月読によって皆が幻術に堕ち……樹海降誕の術で術に掛けられた者が拘束された中……お主の包まれた繭だけを背負い、移動する者が居たのだ、ワシはそれを偶然見つけた」
「……それは有り得ないはずです。 だって無限月読が発動して、直ぐにマダラは……カグヤにっ!」
「……ああ、それはマダラの下半身から現れた六道仙人によって我々も教えられた」
「……じゃあ、今あそこにいたマダラは一体……っ!」
「分からぬ、分かるのは奴が貴様の血肉を喰らっていたということのみ。 口元を血で汚しお前の繭を運ぶあやつを見つけ、穢土転生体である我らが挑んだものの……まるで歯が立たぬ。 それもあやつは未だに加速的に強さを増していっておる」
「……っまるで黙が体験した未来での光景みたいだ」
「悟よ、お主の助言で……この戦争で失われるはずであった多くの命は救われたはずだ。 大蛇丸が新たにゼツを拾い穢土転生したダンゾウと共にワシらも粉骨砕身の思いで奮闘した……しかし……」
ヒルゼンの言わんとすることは……悟に伝わっていた。
その瞬間、ダンゾウの頭だけが土煙の向こうから見せつけるように2人の間に転がってくる。
穢土転生とはいえ再生にはかなりの時間がかかるであろうそのダメージを……ものの一瞬でマダラはダンゾウに食らわせていた。
喋ることも出来なくなったダンゾウの頭を悟が持ちあげる。
「三代目……いや、ヒルゼンさん。 影たちとダンゾウを……六道仙人の元へと連れて行ってください」
「何を言っておる悟よ!? ワシらで力を合わせるのだっ! そうすればあのマダラでさえもどうにか──」
そんなヒルゼンの言葉を遮るように悟はダンゾウの頭をヒルゼンに渡し、すれ違い様に彼の肩に手を置いた。
「ナルトやサスケ達を呼び戻すには……貴方たちが欠けてはいけないんです。 マダラがこれほどまでの力量差がある貴方たちを封印しないのは気まぐれにすぎないと思う……行ってください」
そう言葉を残した悟は土煙の奥へと跳躍していった。
そんな悟を追いかけようと、振り向くヒルゼンであったが……土煙の晴れた先に既にマダラと悟の姿はなかった。
「……何が歴代最強の火影だ……ワシは……アヤツの為に……この魂をかけることも出来んのか……」
火影という立場にあった彼らの中に……無力感が漂う中……ヒルゼンはバラバラになった火影たちの身体を集め背負い……マダラの下半身の傍にいる六道仙人の元へと急いだ。
~~~~~~~
──シュッ
そんな僅かな音が聞こえたと思えば、戦争で傷ついた戦地のど真ん中に2つの人影が姿を現す。
「ここまで来れば、近くに樹海降誕の繭もなく……貴様も気兼ねなく戦えるだろう……
軽口と高めのテンションでそういうマダラに悟は問う。
「……アンタは何者だ。 うちはマダラは……今はカグヤの依り代となっているはずだ。 それに六道仙人もアンタの下半身を元に現世に姿を現している……お前は一体──」
悟の問いに、食い気味にマダラは答える。
「俺は俺だ。 うちはマダラ……それ以上でもそれ以外でもない……だが、強いて言うなら……かつてマダラから分かたれた一部……とでも言おうか」
「かつて……分かたれた?」
「ふむ、折角全てを無に帰すのだ冥土の土産に貴様には俺の全てを話してやっても良い……
──我が息子よ」
「っ!?」
その瞬間マダラの万華鏡写輪眼を通して……彼の記憶が悟へとなだれ込んでいった。
~~~~~~~
始まりはそう……岩隠れが木ノ葉隠れの里との同盟締結をするための話し合いに来たあの時……オオノキの小僧と土影を俺が叩きのめしたあの時だ。
『クソ……』
オオノキを気絶させ、土影を絞め挙げた俺は奴を写輪眼によって幻術へと落とす。
『敗者は敗者らしく……何か有益な情報でも差し出すんだな』
俺はその写輪眼によって……血継淘汰の秘密を土影から得ることが出来た。
『血肉を喰らい……それが馴染むことで得られる力か……ふむ』
俺は物は試しと、土影の腕を切りつけ……そこから血を啜った。
そして……その後……
黙雷悟よ、貴様も良く知っているだろう……塵遁の術の1つ……分裂の術を。
そう俺はかつてのうちはマダラが僅かに得た塵遁の力で生み出した……分裂体だ。
しかし……塵遁の力は、適応しようとも定期的に血を摂取し続けなければ……その効力を失う。
僅かな塵遁の力で……最低限のリソースしか割かれずに生み出された俺は……
『……つまらん術だ。 元に戻すだけの塵遁の力も残らんとはな……さっさと俺の前から失せろ』
そう本体にその場から追い出され……彷徨うこととなった。
力も、チャクラも持った本体は数か月もすれば……俺を生み出すのに使った力を取りもどすことが出来るが……俺は違う。
『うちはマダラ』というの素質を持ちつつも……器も……中身もない俺は……半端な忍びにすら劣る存在であったのだ。
屈辱と憤怒に……俺は侵食された。
だからこそ、本体の俺とは違う別の道を進む決意を抱くことになる。
足りないのであれば……補えばいいのだと。
当時、扉間がクローンの技術を研究していたことは……元々俺の耳にも入っていた。 俺はそれを利用しようと考えたのだ。
俺はマダラでありつつも、そのチャクラは希薄で幸いにも感知に引っかかることもない。
扉間が柱間に呼び出され、研究の是非を問われている隙を突き……俺はその技術を盗み出した。
俺の遺伝子と……柱間の遺伝子を掛け合わせた存在。 その存在であれば……俺に力を取り戻させることが出来ると確信していた。
本体の俺も……どうやら柱間の細胞を己の身体に植え付けたようだが……所詮は他人の物、完全に溶け合い融合することはない。
だからこそ、俺は柱間と俺の
だが問題が発生した。 俺と柱間の遺伝子を掛け合わせた存在は……普通には生誕することはなかったのだ。
そしてその問題が短い期間で直ぐには解決しないことも……俺には理解できた。
であれば、躊躇などない。 この眼に宿る写輪眼は瞳力は弱まりこそすれど、その力に偽りなどなかった。
その催眠眼の力で……適当な木ノ葉の忍びを捕まえ、俺自身を殺させた後に……さらに用意しておいた贄を使い俺を穢土転生させたのだ。
印を結べば、直ぐに術者から俺は解放され……無限チャクラと不老不死が約束された。
本来であれば、俺がこうも扉間の術に頼るなどといったことをするはずもないが……俺にはそんなプライドなど既になかった。
魂さえ穢土にあれば、こだわらなければ生き返る手段を用意する方法も幾らでもある。 何より……万華鏡写輪眼で読めるうちはの石碑に刻まれた六道の術の内、輪廻転生の術の存在が俺を後押しした。
生み出したクローンは俺と柱間……千手とうちはの力を持つのだ。 輪廻眼を開眼する可能性もあるはずだったからな。
そして穢土転生体になった俺は只管研究を続けた。
下手に人を殺せば、目立ち後を追われるのは目に見えていた。 穢土転生体とはいえ、俺の弱まった力では忍びを相手にすることなど到底かなわない……細胞のサンプルを静かに人知れずかき集め……
俺は忍界に忍び続けたのだ。
そうして数十年の時が経ち……とある存在と偶然、巡り合うこととなる。
とある集落の名もない小僧が俺の光明となった。
当時俺は素性と肌を隠し……放浪する医者を名乗って各地を転々としていた。
扉間の研究を経て俺も人体に関する知識が多かったかことも幸いし、細胞を集めるのに医者は適していた。
そんな中……パッチテストで一切の反応を示さない小僧を見つけた。
名もないその小僧に『シン』と名を与え俺はそいつから細胞を集めるために……その集落に根付いた。
誤算が会ったとすれば、十分な細胞を集める前に……その集落が忍びの襲撃に合い『シン』を連れ去られたことだろう。
手元に残されたのは僅かな細胞。
その細胞で作れる『胚』は恐らく1人分が精々であった。
失敗できない実験を前に、俺は細心の注意を払い実験へと望んだ。
最悪どれだけ時間が経とうと生まれた存在が俺と柱間の力を持ち生き延びれさえすればいい。
俺はうちはに伝わる封印術『
そして……お前が生まれたのだ。
音の無い雷というものは存在しない、どれだけ離れ音が無いように錯覚しようとも……その事実は変わらない。
つまり黙する雷は『有り得ない存在』という意味がある……まさにお前の名に相応しいと思わないか?
黙雷……悟……お前を成長させるために俺にはうってつけの場所があった。
木の葉が暮れの里がそうだ。 九尾の襲撃の後、里の警戒は高まりつつも……その内容は疎かになっていることを俺は見逃さなかった。
赤子まで成長したお前を……里に送りつけても、封印術を見抜けるものなどおらず、碌に時間もかける余裕が無いことも予見できた。
だからこそ、あの雨の日悲しみの感情に堕ちていた子どもにお前を見つけさせれば……甘い木ノ葉に根付かせることが容易であると思い、それは成功した。
そして俺は貴様を見守り続けた。
ただ只管に影に忍び……お前の成長をな。
そして、今日……突如として運命が俺へと味方したのだっ!!
~~~~~~
「……」
黙って話を聞いていた悟は、テンションが高くなっていくマダラから視線を逸らさずに警戒をし続けていた。
「力を解放し続ける貴様の情報を各地で得ると共に……野垂れ字ぬことを恐れていたが、この戦争の最中に気を失ったことを利用して……医療忍者と身分を偽りお前の体を確保した。 その瞬間に……俺は蘇ることが出来たのだっ!!!!」
これ以上可笑しなことはないと、腹を抱えて狂気的に笑うマダラ。
「まさか、本体の……いや
そういって掌をグッパーと握って開いて感覚を確かめるマダラ。 悟は……
「無限月読にかからないのも……アンタがマダラの分裂体だからってことか。 そしてそんなアンタのクローンである俺も……かかりが浅い」
ことの流れを把握し呟く。
「その通りだろう。 そして俺の本体……いや、今では奴が分裂体であったとも言っても過言ではない。 奴は既に死んだも同然、この俺こそが真なるうちはマダラとして……目的を果たさせてもらおう」
「目的……だと?」
「無限月読も所詮は幻術……いくら夢見ようとも……何時か終わりが来ることも明白だ。 呪いも……凄惨な戦争も……怨嗟の積もりも全てを解決するのは夢を見ることではない……
──全てが終われば良いのだ」
「っ……!」
「愛も……憎しみも……復讐も……全て生まれる前に、消し去ってしまえば良い……そんな俺の夢の果てを、この俺に祝福を与えてくれたお前に見せてやろうと思ったのだが……フっ……息子よ」
小さく笑ったマダラの目の前にはいつの間にか……2人の黙雷悟が居た。
片や白髪で万華鏡写輪眼を携え……片や黒髪で仙人の証である隈取りを携えている。
「因果なものだな、分裂の術をお前も使うとは……しかしその様子……俺に盾突くつもりなのは明白か」
「「当然だ、クソ野郎っ!! てめぇをぶっ倒して……全てを終わらせるっ!!」」
溢れる悟たちからのチャクラを肌に感じたマダラは……ほくそ笑む。
「良いだろうかかってくるがいい……聞き分けのない子供に必要な躾をくれてやる」
今……黙雷悟の最後の戦いの火蓋が
──切られた。