近くの小川で吐しゃ物を洗い流した二人は再度演習場で向き合う。
「やはり君は筋がいいようだ。あまり大人として手放しに喜ぶのは難しいがとにかく第一開門を開けることができてなによりだよ。」
ガイは笑顔で習得結果を褒める。悟は丸薬の効果が切れて調子が戻り始めている様子で、ガイの賛辞を受け止めている。
「あー、ガイさん、お願いがあるんですけどいいですか?」
改まった様子で頼みごとをする悟の様子にガイはある程度中身の予想をつけて許可を出す。
「軽々しく使わないと言ったばかりで何ですが、開門した状態で何ができるか試していきたいなーなんて……」
ガイは予想通りの質問内容にあきれつつも、目の前の少年の謎の向上心に少しばかり関心をしめしている。
『丸薬の効果が切れているとはいえ、そうとう体の調子は悪いはずだが良く継続して修行をしようと思う。もう少し成長してから本格的な修行をつけてあげたいが、駄目だといっても彼は勝手に自分でやるだろうしな……仕方がない』
ガイは内心で悟を放っておくことの方が危険だと判断し、
「仕方がないが俺の目がない所で八門遁甲を使うことは俺が良いというまでは許可はしない!それでもいいなら君に付き合おう!」
と告げた。
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まず悟は自発的に開門を試す。先ほどの感覚が残っているため、すんなりと開門を果たすと手足を軽く回し自身の体の調子を確かめる。
身体能力の向上を感じつつも軽く筋肉がきしむ感覚を覚える。
「この状態で全力で動いたら反動がすごそうだなあ……」
ぶつぶつと呟きながら、自身の状態を解明しようと軽く動作を確認しながらバク宙したりしている悟を見ながらガイは少し驚愕していた。
『こうも容易く開門できるようになるとは・・・この子は大した奴だ。』
本来なら、体のリミッターを開放するこの八門遁甲を常人が会得するのは困難を極めるものだ。第一開門を開けることにすら厳しい修行を必要とする忍びは少なくはない。
死に近づいていくこの術は死を体験した者と相性がいいのかもしれない。
そんな自身と八門遁甲との相性の良さをうっすらと感じつつも悟はある程度自身の体調を把握して拳を握りしめる。
「……ではガイさん!行きますね!」
悟はガイの方向に体を向け構えを取る。ガイも左手を背にまわし、右肘から腕を垂直に立てて構え「こい!」と気合をあげる。
相手は上忍でしかも体術のスペシャリストであるため悟は全力で遠慮なく殴りかかる。身長差から跳躍しながらの悟の攻撃は全てガイによっていなされていく。
「セイッ……オリャァア!」かけ声をあげながら悟は右手で殴りかかったり、左手で手刀を繰り出したり、とび蹴りを行ったりする。
ガイはそれらの攻撃全てを完全に受け流している。その様子に悟は忍びと自身との実力差を痛感していた。
『雲の忍びに一発入れて勘違いしそうだったけど、やっぱり忍びと自分では……まだまだ実力差があるなあ、相手がガイさんでなくとも八門遁甲だけじゃ限界がきそうだなあ』
最後に思いっきり助走をつけてガイの胸めがけて拳を繰り出す悟。それをガイは腕をクロスし受け止める。ほんの少しガイが滑り後退したが勢いはとまり、そのまま悟は地面に落ちる。
「ぶっ!!」と声を上げ地面にカエルのように落ちた悟は第一開門を閉じた。途端に反動が体に押し寄せて来る。
「ぐおおお、うおおおお……やばっやばいい~」
八門遁甲の思っていたより大きな反動に身をもだえさせている悟にガイは懐から塗り薬のようなものを取り出し悟の皮膚に塗り付ける。
すーっと清涼感のある塗り薬により、悟に引きおきている筋肉の痙攣などが若干抑えられる。
「あー、あー、これ……これは湿布?湿布だあああぁ……」
薬による効果は早く出て、悟は地面でのたうち回るのを止めることができた。
「自分が使う術である以上こういった反動を抑えるすべを用意していてね。どうだ、だいぶましに感じるだろう?」
ガイに抱き起され演習場のわきにある木陰に運ばれた悟は、八門遁甲の反動の大きさに顔をしかめながらも、息を整えながら一連の動作の振り返りを行った。
「ひと、一通りためして、みて……わかったんですけど八門遁甲はチャクラ穴の門をあけて一時的なチャクラ量の増加を図る術だと体でも理解しましたけど、開門中の忍術の使用は現実的ではないみたいですね……」
悟の実体験から基づく、考察にガイは関心をしめしながら答える。
「そうだ、八門遁甲は自身の限界を引き出している状態だ。チャクラコントロールは当然通常時よりも困難を極める。ゆえにオレなどは莫大なチャクラを身体強化にあてているのだ。」
忍術使用に制限がかかり、実質体術を使わざるおえない状態になる八門遁甲は悟の想定より使いづらいものだと感じられた。今のところ悟の戦闘スタイルと呼べる指針は忍術による奇襲であり、まともな体術の型を知らない今の状態ではあまり有効に扱えないことがわかった。
「……まずは基礎っていうのはなに事も一緒だな~」
悟のつぶやきにガイも同意し
「基礎がしっかりしていなくては八門遁甲は効果的に働かない。君はまだまだ将来が明るい少年だ。焦らず精進を続ければ必ず助けになる!だから、無暗に使うことは何度も言うが厳禁だぞ!」
と注意を交えつつ、少し落ち込んでいる悟を元気づける。
ガイの励ましに悟は笑顔を作り
「……わかりました、今日はありがとうございました!ガイさん。もう体がきついので今日はこの辺でもういいでしょうか……?」
と返事をする。
「そうだな、当初の目的も達したし、今日は解散にしよう。次君に修行がつけれそうな時間が取れたら俺から連絡を取る。それまで八門遁甲は使うなよ?では!!」
と言い残しガイは木の葉を舞い上げながらその場から姿を消した。
連絡を取ると言ってもまた直接来るんだろうと悟は内心苦笑交じりに笑った。
一人残された悟はしばらく木陰でこれからの方針を考える。
『八門遁甲を有効的に使うには、体術を会得するところからだ……。ガイさんは確か〈剛拳〉の使い手で、直接ぶん殴る系の体術を使う。他に自分が知っている体術は日向の〈柔拳〉か……。柔拳は白眼で相手の体に効率的にダメージを与える体術だったか。正直剛拳は、八門遁甲を扱ううえで王道に感じるけど、個人的には反動がキツイと思う。攻撃力に特化しすぎて、反動は体を鍛えて無理やり軽減しているイメージしかわかない。柔拳は白眼が前提だし……。』
ある程度長考を続けた悟は自身の体が施設に帰ることができるぐらいまで回復していることに気づき立ち上がる。
体のホコリを払いながら悟は帰路についた。
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帰り道の途中、人目のつかない裏路地を通りながら悟は周囲に気を配る。周囲に人がいないことを確認すると自身のチャクラの巡りをコントロールし、第一開門を開ける。
ガイの言いつけをさっそく破った悟は、そのままじっと立ち止まったまま動かない。
しばらく立ちすくむ悟は、じっと動かないまま何かを考えている様子だ。
思案の内容は自身の戦闘スタイルの方針であり、八門遁甲を軸にしつつ、絡め手も交える戦闘。スタイルを固めるために今後必要そうなことをあらかた考えまとめた悟は第一開門を閉じ、再び歩き始める。
八門遁甲を使っても、体に負担をかけなければ反動があまりこないことを確認した悟は今度こそ家路についた。