目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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次回最終回


39:とある輪廻の終わり

「「「火遁・豪火球」」」

 

 

 分裂した黙雷悟とマダラが放った豪火球が闇夜に爆炎を上げ、その戦闘の開始を轟かせる。

 

 仙法、柱間の力を軸に分裂した雷の魂を持った黒髪の悟はその手に大玉・螺旋丸を携え跳躍する。

 

「大振りだな」

 

 その光景にマダラは写輪眼を向け撃ち落そうと印を構えるが

 

「千鳥っ!」

 

 印を構えた瞬間を狙った、マダラの力を軸に分裂した黙の魂を持った白髪の悟がマダラの懐へと飛び込む。

 

 既にマダラの腹部へと届こうとしている雷を伴った突きはしかし、その寸前で手首を掴まれ制止される。

 

 そしてマダラは強引に腕を掴まれた黙を回転の勢いをのせ雷へと投げ飛ばす。

 

 その飛んできた黙の身体を空いた左手で雷が掴むと、黙の身体を重りにして体をうねらせ螺旋丸をマダラの頭上から叩きつける。

 

 マダラは既に螺旋丸の影響の範囲外に佇み、その一連の技の評価を口にする。

 

「うちはサスケと、うずまきナルトの技か……どちらも手首より先に術を発生させる過程で対処も容易い……俺の眼をもってすればの話なのだろうが」

 

 あまりにも悟たちの技に対しての対処に余裕を感じさせるマダラの態度に雷は苦言を漏らす。

 

「今の攻防の流れだけでエドテンマダラより強いのは実感できたぞ……黙、どうする?」

 

「どうするって? 僕らの細胞を取り込み柱間の力を我がものとしているらしいから、分が悪いのは明らかだ。 つまりとにかく攻め続けるしかないよ雷っ!」

 

 マダラの見た目は、ただの黒い衣装に身を包んだ所謂象徴的な赤い鎧を着けていないだけのマダラっと言った感じだがその放つチャクラの圧は途方もないものになっている。

 

 そのうえ先ほどまで穢土転生された歴代火影たちを相手していたにも関わらず、その疲労を一切感じさせない佇まいから分かる再生力とスタミナ。

 

 チャクラの出力、持久力……そしてかつての戦争を戦い抜いたマダラ自身が持つ戦闘技術。 ほぼ全ての面において悟らを凌駕しているのは明らかであった。

 

「分裂の術で力を分散させてどうする? ただでさえ俺とお前とでは天と地との差があるというのに」

 

 煽るかのようなマダラの言葉に雷が印を結びながら言葉を返す。

 

「知らないのか? 世の中には足し算だけじゃなく、掛け算もあるってよっ!!」

 

 その言葉に合わせるように、黙と共に術が放たれる。

 

「「滅風焔(めっぷうほむら)の術!!」」

 

 火遁と風遁を合わせた、コンビ忍術。 その威力は相乗作用により、辺り一帯を焼き尽くす業火と成りマダラを襲う。

 

「フン……威力は悪くないが……それも今の俺を基準にしてしまえば、児戯に等しい」

 

 マダラがそう言うと地面に手を着き、煙を発生させ……その内から大きな団扇を取り出し構える。

 

 それは正に六道仙人の忍具の1つである大団扇であり、それを手にしたマダラのチャクラを込めたひとなぎによる風圧が悟らの火炎を押しとどめ勢いを殺していく。

 

「うちはの頂点に位置する今の俺に、火での攻撃など効くはずが無かろう」

 

 そして二振り目で完全に火炎を打ち消したマダラは悟らに余裕の笑みを見せる。

 

「ふふふ、温い……あまりにも温い」

 

 そんなマダラの態度に雷は冷や汗を浮かべた。

 

「っ……オイオイオイ、こんなの滅茶苦茶だぞ……」

 

「掛け算は僕たちだけじゃなく、向こうも同じってことみたいだね……本当の意味でマダラと柱間の力が1つになるということの恐ろしさが良くわかるよ。 僕たちが分裂の術を出来る回数も……残り一回が精々だろう。 悠長にはしてられないよ」

 

 口ではマダラの脅威を言いながらも、それでも悟らの瞳から闘志が消えることはない。

 

 自分たちが早々に負けてしまえばナルト達が例え無事にカグヤを封印しようともその異世界からの帰還をマダラに妨害される危険がある。

 

 そして……彼らには懸念点がもう1つあった。

 

「お前らの寿命が残り僅かなのは分かっている、だが出し惜しみをしていて俺に届くとでも思っているのか?」

 

 マダラが彼らの懸念点を言い当て指摘する。 その言葉の通り、ここで戦うことを決めた以上……文字通り悟らの全身全霊を持って挑まなければマダラにはその矛先が掠ることもないだろう。

 

 つまり……ナルト達が帰還してからの援護を期待できるだけの時間すら……黙雷悟には残されていないことを彼らは自覚していた。

 

「マダラに施されたうちはの封印術『悟』が既に機能を失っている以上……僕らの持つ力自体が僕らの身体を蝕み続けている……」

 

「それで相手さんはその力の上を行く力を使いこなしているってか? ……はは、燃えるねぇ」

 

 戦況は絶望的だ。 ……それでも勝たなければいけない。

 

 

──勝たなければ、これまでの全てが無駄になってしまう。

 

 

「さて……大人の威厳でも見せてみようか」

 

 そう呟いたマダラが印を結ぶと……地響きが始まった。

 

 

 

 

 

「仙法・木遁真数千手」

 

 

 

 

 

 地割れと共に地中から大木があふれだし、それらが徐々に絡まり形を成していく。

 

 そして完成せしは木造の千手観音。 それもその巨大さは高さだけでかのチャクラの神樹にならぶほどであり、背負う腕の一本一本がその神樹に幹に相当するほどの太さを併せ持っていた。

 

 かつての柱間が行使したそれよりもはるかに巨大なそれが放つ圧は、神を相手にしているかの如き絶望感を煽る。

 

「少々張り切り過ぎたか……? 思ったよりも消耗したが……なに、少しすればこの程度今の俺なら直ぐに回復するだろう。 さて息子よ

 

 

──生き残れるかな?」

 

 

 

 

 雲の上の仏像の額から地上を一望したマダラの腕の軽いひと振りで、その千手観音の腕が地面へ向け無数に降り注ぎ始める。

 

頂上化仏

 

 殴打1つの威力が、かつてのマダラが輪廻眼によって発動した隕石を落とす術である天蓋新星と並ぶことが容易に想像がつく。

 

 そんな中悟らは……

 

 

 

 

仙法木遁・木人の術っ!!

 

威装・須佐能乎っ!!

 

 

 

 雷の召喚する木人に、完成体須佐能乎の鎧を纏わせ迎撃の意志を見せる。 そして

 

 

「仙法土遁・国崩の断剣っ!」

 

 

 地面に手を着いた木人の目の前に、その木人の背丈と同一の高さを持つ幅広の岩の剣が姿を現した。

 

 その剣を手にし、両手で握り腰深く構える木人。 見上げるは空を覆いつくす千手観音の拳。

 

「行けると思うか? ……て聞くのも野暮だな、黙」

 

「ああ……行くよっ!!」

 

 そして木人は完成体須佐能乎の羽を広げ、空へと舞う。

 

 まさに通常の人間と完成体須佐能乎とのサイズ差のよう差が今、マダラと彼らにはある。

 

 かなりの遠巻きで見れば悟らの木人・須佐能乎が小人に見える感覚を狂わせるその光景。 そして木人が振りかぶった岩剣が木の拳に衝突したことで周囲に爆音を響かせた。

 

「ん……?」

 

 上空に立つマダラは術の感触に違和感を覚え疑問に息を漏らす。 一撃でも十分に悟らを葬り去れると思っていた、その拳が

 

 

 

 真っ二つ裂かれていく感覚に。

 

 

 

「「ハアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!」」

 

 

 

 金属すら優に凌駕するであろうマダラの千手観音の拳を、断面を摩擦による熱で明るく照らしながら切り裂く悟たちの雄たけびが響き轟く。

 

 ……彼らの木人が持つ岩剣は雷遁を纏っていたのだ。

 

 襲い掛かる巨大な拳をその都度その岩剣で切り裂き、進む道を文字通り切り開きながら飛翔する悟ら。

 

「……土遁に流れやすい雷遁を流して巨大な岩の剣を高速振動させその切れ味を増幅させたか……しかし本来土遁の効力は雷遁で失られる。 その属性のバランスを2人に分かれたことで取っているのなら……なるほどあえて2人に分かれたことは意味のあることだと言えるな」

 

 悟らの所業を冷静に分析し純粋に感心するマダラ。

 

 しかし

 

「だが、これならどうだ?」

 

 マダラが気まぐれの様に動かした指先に添うように頂上化仏の拳が一つ一つ拡散するような広がる動きを見せる。

 

「っ!?」

 

 自身らを直接狙っていた拳の群は目の前から失せたが、その直後悟らはすぐにマダラの狙っている意図を見抜く。

 

「360度……全方位から取り囲むように拳を叩きつけて僕らを圧殺するつもりかっ!!」

 

 異様な形に伸びた千手観音の手が悟らを既に包囲している。

 

 そして

 

「潰れろ」

 

 マダラの呟く小さな号令と共に、その拳が急速に悟らの木人を襲った。

 

 

 

──ドンッ

 

 

 

 地上よりはるか上で生じた拳による繭。 その生じたさいの衝撃が空気を伝わり、地上の木々を大きく揺らす。

 

 遠くに見える森から衝撃によって驚いた鳥たちが飛び去る光景を千手観音の上からチラリと眺めるマダラ。

 

「……流石に死んだか……?」

 

 期待外れと思いそう呟いた後、小さなため息を漏らす。

 

 その次の瞬間……マダラの眼前を大きな物体が通り過ぎた。

 

「奴らの岩の剣……か? 苦し紛れに俺に向かって投擲したのだろうが……狙いは外れたよう──」

 

「飛雷脚っ!!!」

 

 

 完全に油断していたマダラに下方向からの悟の雷を纏った飛び蹴りが腹部へと炸裂した。

 

「っ……」

 

 小さく呻くマダラだが、吹き飛ぶこともなく衝撃に耐えた彼は自身の腹を抉っている足を掴むと宙に向け投げ飛ばす。

 

 軽重岩の術で宙で態勢を立て直した悟がマダラへと向き直った。

 

 自身に蹴りを入れたことに僅かに感心したマダラは小さく拍手をして悟を褒める。

 

「クックック……なるほど、拳を切り裂く岩剣を投げ僅かに道を作り……さらに1人に戻り木人に己も投げ飛ばさせたか。 中々に突拍子もない発想だが……この俺に一撃入れられたのだ。 素直に褒めてやろう」

 

「……クっ」

 

 あまりにも余裕なマダラの様子。 分裂の術から1人に戻った悟は厳しい表情を浮かべつつもそこから更に上へと飛び、落下をし始めていた巨大な岩剣の柄を掴む。

 

「ならこれでも喰らいやがれっ!!!」

 

 そう叫びながら悟は術を土遁・超加重岩の術で岩剣を何十倍にも重くし、千手観音の脳天へと振るう。

 

──ドッ!!!!

 

 その衝撃力の大きさに岩剣は耐えきれず崩壊……しかしその一撃は千手観音を真っ二つに裂き、その巨大さも相まって強烈な地響きと共に地面へと沈む。

 

 

 

 当然、尋常ではない土煙と砂塵によって周囲は視界を失うが……真っ二つに裂けた千手観音の足元の地面に青いオーラを纏う()()がいることを悟は地上に降り立ちながらも確認出来ていた。

 

 

「あれだけの質量と……威力を以てしても…………っ」

 

 苦悶の表情を浮かべ……悟は……風が攫う土煙の先の光景を睨みつける。

 

 そこに立つは須佐能乎の鎧を纏ったマダラ。 彼は軽く肩を叩いて土埃を払い、悟へとその万華鏡写輪眼を向ける。

 

「今のも中々の威力だったと褒めてやる。 この俺から幾度も感心を引き出せるだけ五影などよりもお前は強いのだ誇ると良い……始めて防御を試させてもらったぞ」

 

 面白い玩具で遊ぶような笑みを浮かべるマダラ。 彼の纏っている須佐能乎の鎧はチャクラが揺らめくこともなく、青黒く月光を反射していた。

 

「須佐能乎をより固く凝縮させ己に纏う……これこそが本当の意味での完全な須佐能乎と言っても良い……俺から引きはがすことも、須佐能乎の内から狙うといった小細工も通用せん」

 

 マダラの周囲に漂うチャクラの圧は真数千手を扱っていた時よりも濃く、悟に絶望感を押し付ける。

 

「っ須佐能乎ォっ!!!」

 

 万華鏡写輪眼を使い、自身も完成体須佐能乎を顕現させその巨大な二刀の太刀でマダラを切り伏せようとする悟。

 

 しかし

 

──ギンッ……!

 

 鈍く鋭い音が響くとともに悟の須佐能乎の太刀は2つとも斬撃を当てたマダラを支点にして折れてしまう。

 

「ッ……!!」

 

 軽く両腕を上げ手甲で悟の斬撃を防いで見せたマダラはかぜがそよいだかの如く表情に変化を見せない。

 

「オオオオオオォっ!!!」

 

 なりふり構わず須佐能乎の拳を叩きつける悟。 しかし数度放てば逆に悟の須佐能乎の拳にヒビが入り手の先から崩壊していく。

 

 余りにも大きな力の差……悟の心に影が入ると同時にマダラの瞬間移動の如く素早い跳躍とそれに合わせた只の拳が須佐能乎の外殻を泡の如く弾けさせ……

 

 その衝撃で悟は地面へと叩きつけられた。

 

 まともに受け身も取れず地面を転がり……うつ伏せのまま辛うじて上げた顔から望む視界は自身の須佐能乎の崩壊を背にこちらへとゆっくりと歩み寄るマダラを写す。

 

「っグ……はぁ……はぁっ……!」

 

 呻きながらも力の入らない体に鞭打ちなんとか立ち上がる悟。 僅か先に立たずむマダラはそんな悟に対して……憐れむような眼を見せた。

 

「……何故抗う? もはや火を見るよりも明らかな力の差だ。 ……何故立ち上がる? 誰がお前に俺と戦うことを望んでいるというのだ、ここで例えお前が俺を打倒しようとも……寿命でお前は確実に死ぬというのに。 ……何故だ?」

 

 マダラは何とか息を整える悟に向け言葉を連ねる。

 

「……先にも言ったが今の俺の目的は、世界を完全に崩壊させることだ。 この地上……いや星というべきか……全てを完全に滅ぼすことで……誰もが不幸に成りえない世界を実現する」

 

「……っはぁ……はぁ……っ」

 

「血による差別も……能力による力の差も……運による貧富も……弱者も強者も……そして愛も憎しみも……全てを平等にするなど不可能だ。 無限月読を以てしても……それを行使する存在がいる以上、真に永遠などということは有り得ない。 ならばもう……平等に全てを無に帰すのが正しい事だと思わないか……息子よ」

 

 まるで諭すかのようなマダラの物言いに悟はよろめき自身の左肩を手で抑えながらも聞き入る。

 

「……当然お前も最後には平等に殺すことにはなるが、実は言うと俺はお前に情が沸いている。 このうちはマダラとあろうものがここまでの力を得るに至った要因であるお前に素直な感謝を抱いているのだ。 ……息子よ、世界が完全に壊れる僅かな間だけでも良い……父である俺と共に道を歩む気はないか?」

 

 

 

「はっ……?」

 

 

 

 マダラの口から飛び出た突拍子もない言葉。 あまりにもなその内容に悟の口から思わず驚きの声が漏れた。

 

 しかしマダラは右手を差し出し……悟へと向ける。

 

「これ以上、お前が俺と戦って何になる? これ以上苦しんでまで俺たちが戦う理由などないだろう、息子よ。 俺の手を取れ……」

 

 マダラの表情に……嘘は感じられなかった。 先ほどまでの戦いは彼の言葉通り……躾同然のものだったのだ。

 

 マダラは本気で悟に同情している。 僅かな寿命に鞭打ち戦う悟の姿に悲痛さを感じているのだ。

 

 彼の本気のその感情に悟は……

 

 

 

「……僕は……あなたを只悪戯に力を振りまく存在だと誤解していたようだ」

 

 

 

「!」

 

 よろめきながらも……マダラへと一歩歩み寄る。 悟からの言葉に、マダラの眉が僅かに上がる。

 

「……俺のこの理想を分かってくれるか」

 

 親と子の利害の一致。 それを感じたマダラが差し出した右手に力を籠める。 

 

「ああ、良く……分かったよ……父さん」

 

 そして悟もマダラの差し出した右手に……力強く右手を出し熱い握手を交わす。

 

 親子の熱い握手から、悟が寄りかかる様にマダラへと体を預け……抱擁をする。

 

 悟に自身の理想が受け入れられたことにマダラが満足気に悟の背を叩くと……

 

 

 

「貴様が信念のある自己中心的なクソ野郎だってことがなぁ!!!」

 

 

 

「なっ!?」

 

 瞬間悟は驚門・雷神モードになりマダラの腕を捻り上げ、背負い投げで思いっきり地面へと叩きつける。

 

 マダラは叩きつけられた衝撃で数度地面を跳ね地面に亀裂を入れながらも素早く態勢を立て直す。

 

「貴様ぁ……っ!」

 

 期待を裏切られたショックか、マダラが呻くと悟は仙人モードの隈取りを発現させながら叫ぶ。

 

「何が父と歩む気がないか、だとッ!? ふざけるなよっ!! アンタはそういう感情を抱きながらも……世界を壊すことに躊躇が無いっ!! 僕たちが知りえない他の誰かが抱くはずのその感情を無視して壊そうとするくせに……自分だけが気持ちよく終わろうとするクズだっ!!!」

 

 そう叫びながら放つ全力の状態になった悟の拳はマダラのガードを貫き、よろめかせる。

 

「平等という大義名分と……っ!! 己の理想に酔って……っ!!! 他者の人生を何とも思わないクズ野郎っ!!!!」

 

 一言一言に、全力の拳を乗せマダラを殴りつける悟。 その威力は一撃ごとにさらに増し、マダラの態勢を崩していく。

 

 

 

 

「……かつての僕と同じだっ!! 虫唾が走るっ!!!!!」

 

 

 

  

 型も何もないなりふり構わない拳をマダラに叩きつけ大きく仰け反らせる。 穢土転生されたマダラを大きく突き放した、驚門雷神仙人モード……その状態の拳を受けたマダラは……

 

「……少しばかり甘く見ていたようだが、それでもこの父には届かない。 ガッカリだ息子よ……道の始めにこの手にかけるのが、俺の理想を現実に導いた存在だとはな」

 

 小さなため息と共に……戦闘態勢へと入る。

 

 瞬間……マダラと悟の腕がぶつかり合い、拮抗する。 常人の感覚など当に逸脱した超人同士の肉弾戦は周囲の地形を無造作に変えていく。

 

 拳の衝突が、蹴りの風圧が……周囲を荒く削っていった。

 

 

~~~~~~

 

 

「そうだ、世界を救う。 その大義名分を元に……僕はかつて君をこの世界に連れて来た」

 

 黙の精神世界の木の前で……黙と雷は向き合う。

 

「……」

 

 黙の独白を、雷は黙って聞く。

 

「何度でも繰り返す世界の崩壊とマダラの狂気を受け……僕は君の人生を台無しにしてしまった。 いや君だけじゃない……君と共に歩むはずだった幾つもの人の感情すらないがしろにしたんだ」

 

「……」

 

「そして君を元の世界に戻すことで……己の罪からすらも目を逸らそうとした。 けれど、君はそれを受け入れてはくれなかったね」

 

 悲しそうに笑う黙に……雷が言葉を掛ける。

 

「……黙、俺はお前を見捨てることなんて出来ない。

 

 この忍界の厳しさを……生きていく辛さを俺はこの世界の黙雷悟として生きて実感した。

 

 全ての命を救うことなんて不可能だし理想にすぎないこともわかっている。

 

 でも……俺は同じ黙雷悟としてお前の感じてきた感情に共感したんだ。

 

 確かにお前が俺にしたことは……到底許されることじゃないかもしれない。 でも俺は……俺がお前の立場だったら……そう思うと、不思議と怒りは湧いてこなかったよ」

 

 雷のその言葉に黙は涙を流して……首を振る。

 

「ははは……君は本当にお人好しが過ぎるよ。 ……世界を確実に救うだけなら……今からでもこの場から逃げ出して六道仙人に協力を頼んでもう一度過去に転生するなりして……僕が自殺すればマダラの計画は破綻するだろう」

 

「……」

 

「でも、そうすれば……マリエさんだけでなく君が助けたはずのこの世界の人間を……見殺しにすることになる。 そんなことは君が……いや今や僕も許容できない」

 

 黙のその言葉の意味することを……雷は既に理解し覚悟をしていた。

 

 

 

「もう引き返せないよ」

 

 冷たく……覚悟の籠った黙の言葉に雷は

 

 

 

「ああ」

 

 熱く、信念を込めて返事をする。

 

 2人の魂は今、最高潮の共鳴を見せ……その姿が重なった。

 

 

~~~~~~~

 

うおああああっ!!

 

「っ……力が増しているのか……?」

 

 

 悟の強烈な打撃の猛襲はその命を燃やすかの如く、激しく高まりマダラのいなしを退けその体に傷をつけていく。

 

 

絶対に……お前を……ここでぇっ!!

 

「っ!?」

 

 

 大きく振りかぶった悟の拳が叩きつけるように振るわれマダラはそれを己に纏った須佐能乎の両手の手甲で受け止めようとするが

 

ぶっ倒すっ!!!!

 

 その勢いを殺し切ることは出来ずに、手甲にヒビを入れられ大きく吹き飛ばされる。

 

「っここまで俺に差し迫るとは……流石は『黙雷悟』と言ったところか……っ! だが」

 

 地面に数度叩きつけられつつも直ぐに態勢を整えたマダラは叫ぶ。

 

「貴様が命を削ろうとも……それも残り僅かだっ!!」

 

 しかし、知ったことかと万華鏡の朱い眼光を滾らせ悟も叫び返す。

 

「アンタを消すのには……十分だっ!!」

 

 そして悟は印を構える。

 

 

 

「影分身の術っ!!」

 

 

 

 万華鏡写輪眼を使い、驚門雷神仙人モードとなった悟の数体の影分身がマダラを狙う。

 

 

「「「うおおおおっ!!」」」

 

 

「フン、その状態で忍術を使うとは驚異的なチャクラコントロールだが……チャクラ量を見れば明らかに奥にいる1人が本体なのは明白。 わざわざ陽動に隙を作る容赦など……俺はせん」

 

 そう言ってのけたマダラは須佐能乎の太刀を掌に生じさせると、その一太刀を戦闘の悟へと振りぬく。

 

 

 その瞬間、先頭の悟の右肩から先が一瞬で分かたれ煙を上げ姿を消す。

 

 その後一瞬で体術を仕掛けようとひっきりなしに飛びかかってくる悟の影分身をマダラは太刀で一太刀一太刀消し去っていく。

 

 余りにも鋭い斬撃は当然の如く飛び、奥にいる悟の脇を取りすぎ様に鎌鼬を起こし悟の頬に傷をつけ血を流させる。

 

(やはり、チャクラを溜める目的での陽動……俺には不意打ちは通用しないと悟っている以上正面から来るか)

 

 生半可な攻撃ではマダラには通じないと悟は思っているのか、彼の掌には高圧縮されたチャクラの塊が高速で乱回転している様が見受けられる。

 

()達がマダラ、アンタに勝る強みはチャクラコントロールだっ!! その体を消し飛ばしてやるっ!!」

 

 黙と雷の魂が共鳴しているのか、彼らの声は二重に聞こえていた。 極まったチャクラコントロールによって、その膨大なチャクラをビー玉ほどの大きさの螺旋丸へと形態変化させ……悟は駆けだした。

 

 

超・超圧縮・螺旋丸っ!!!

 

 

 限界まで圧縮された螺旋丸を携え悟は雷の軌跡を残して駆ける。 当然マダラもその攻撃を避け

 

──ようとはしなかった。

 

喰らえェ!!

 

 

 悟の振りかざした腕からその螺旋丸はマダラの上半身を捕え……

 

 一瞬周囲を閃光の如く照らした後、地形を丸く切れにえぐり取るような青白い爆発を伴い爆音を響かせた。

 

 その威力の高さに悟自身の右手の掌も焦げ付き、黒く変色してしまったが確実にその一撃を入れたことに歓喜の声を挙げつつも吹き飛ぶ。

 

 吹き飛びつつも素早く態勢を立て直し、爆炎の先にいるマダラを凝視した悟は……

 

 

 顔を引きつらせた。

 

 

「フハハハハハっ!! 死ぬかと思ったぞ、こ奴めっ!!! ……だが、生憎だが今や俺は柱間の全盛期を越える再生力を身に着けているようだな……半身が吹き飛ぶ程度では……もはや死ねないらしい」

 

 確かに左半身を大きくえぐられたようなシルエットのマダラは、狂気の笑い声とともにその失った半身を内から生じる肉が埋め……爆炎の晴れた先に健康的な半身を覗かせていた。

 

 消し飛ばしたはずの半身をものの一瞬で再生して見せたマダラの様子に悟は……

 

やっぱり……もう……

 

 肩を落として、項垂れる。

 

 

 渾身の一撃を当てたにも関わらず、マダラは健在っぷりをアピールするかの如く消え去った半身の服に合わせるように残っていた衣服も破り去る。

 

 余裕を見せるマダラは、その一瞬後

 

 

 悟を蹴り飛ばす。

 

「ッヅゥ!?」

 

「さて、俺の再生力は試させてもらった……ではそろそろこちらからも攻めさせてもらおうか」

 

 

 今まで手を抜いていたのか如く繰り出されるマダラからの打撃。 須佐能乎の堅牢な鎧を纏ったマダラの拳や蹴りは、悟の認識スピードを越え幾多も打撃を浴びせる。

 

 

 さらに

 

 

 吹き飛ばされ距離が空いたことで悟が咄嗟に印を構えるも……ある光景を目にして、印を結ぶのをやめてしまう。

 

 悟の目に映ったもの……それは

 

「貴様との戦いはやはり俺自身をより高みへと成長させてくれる……先ほどの攻撃を受けたことで……さらなら力が覚醒したようだ」

 

 闇に光る薄紫の眼光。 マダラの両目は輪廻眼へと変化していた。

 

「柱間と俺の細胞の融合は当然っ!! 輪廻眼の開眼へと繋がる予想出来ていた……感謝するぞ息子よ。 もはや誰も俺を止めることなど出来ん」

 

 輪廻眼を携えた以上、マダラには通常の忍術は封術吸印で無効化されてしまう。 木遁などの物質を伴った術では、マダラの須佐能乎の硬さを突破できない。

 

「さて息子よ。 もはや貴様が取れる足掻きも残り1つだろう、遠慮せずに使うがいい」

 

 全てを見透かしたかのようなマダラの言葉に、俯きながらも悟はなんとか立ち上がり……サムズアップをして見せる。

 

 

 そして

 

 

「ごめん……皆……ハナビ……やっぱりもう……これしか……方法が思いつかなかった」

 

 

 懺悔するかのようにそう呟き……サムズアップした親指自身の左胸に深く突き立てる。

 

 その瞬間悟の身体から沸き上がっていた青いオーラはなりを潜め、代わりとばかりに段々と朱い血潮のオーラが彼の身体を渦巻き取り囲み始める。

 

 その様子を見ているマダラは軽く首を鳴らして笑みを浮かべる。

 

「やはり、八門遁甲を使う貴様が()()()()に至っていないはずがないっ!! さあ見せてみろっ!! そして散るがいい、紅葉の如くっ!!」

 

 マダラの言葉を受け悟の身体を取り巻く朱いオーラは激しく燃える火の如く揺らめき、身に纏っていたボロボロの暁の衣を宙へと舞わせる。

 

 

 

 

「第八・死門開…………

 

 

 

 

──八門遁甲の陣……ッ」

 

 

 

 悟が静かにその術の名を呟いた瞬間

 

 マダラと悟は今一度、正面からぶつかり拳を叩きつけ合う。 その衝撃は周囲の地形にヒビを入れその壮絶さを物語る。

 

「っ……っ!?」

 

「死門を開けば俺を越え、殺せるとでも思ったかァ?! もはや八門遁甲の陣ですら俺を抜き去ることは出来んっ!! 精々踊れェっ!!!」

 

 死門を開いたことで荒れ狂う莫大なチャクラと引き換えに仙人モードも雷神モードも写輪眼も使えなくなった悟は、確かに先ほどよりも数段階上の力を発揮している。

 

 しかしそれでもマダラを相手にやっと肩を並べる程度にしか至っていなかった。

 

「だが流石に気を抜けば俺もやられかねん。 もはや手を抜くことはせんぞっ!!」

 

 そう言うマダラの言葉通り、先ほどとは段違いの拳と太刀の応酬が繰り広げられる。

 

 真っ赤なオーラに包まれた悟の拳と青黒いマダラの須佐能乎の手甲がぶつかり合うたびに天変地異の如く、空気を揺らし痺れさえ大地を揺らす。

 

 互いの一撃一撃が尾獣たちの尾獣玉に匹敵する威力を併せ持ち、それを撃ちあうことで命を削り合う。

 

 しかしその体術の応酬は遥かに悟が不利であった。

 

 再生能力差が顕著であり、徐々に悟が押され始める。

 

 だが

 

「っ朝孔雀(あさくじゃく)っ!!」

 

 拳をわざと捻り空気との摩擦を生じさせ、火炎を纏った悟の連打がマダラの攻撃を押し返す。

 

 その瞬間僅かに生じたマダラの隙を突き、悟は両手を合わせたアッパーカットでマダラを上空へと吹き飛ばす。

 

昼虎(ひるどら)ァっ!!」

 

 そのアッパーカットによって生じた虎の形を模した衝撃波がマダラの須佐能乎の鎧にヒビを入れ

 

 

 驚異的な身体能力となっている悟は衝撃波に押され身動きが取れないマダラの上へと跳躍で回り込み、渾身の背面からの体当たりである鉄山靠でマダラを地面へと打ち下ろす。

 

夕亀(ゆうき)っ!!」

 

 

 昼虎の衝撃波の中を、貫くように叩き落とされたマダラの鎧は既に剥げている。 そして空を蹴り悟は両足を揃えた飛び蹴りを地面につく瞬間のマダラへと繰り出す。

 

夜龍(やりゅう)っ!!!」

 

 

 その渾身の悟の蹴りに空気が振動する。

 

 しかし

 

 

「流石の猛攻だが……防がせてもらったぞ」

 

 

 地面にヒビを入れ立つマダラの輪廻眼の眼光の先で悟の蹴りはマダラの顔先ギリギリの所、宙で止まっていた。

 

「っ!?」

 

 驚きを露わにする悟が突如見えない何かによって吹き飛ばされ地面を抉り滑る。

 

「俺の輪廻眼には固有の瞳術がある……『輪墓・辺獄』、これにより俺は見えざる世界に……()()もの分身を召喚し使役することが出来る。 大人気なく本気を出して悪いが……もはやお前に勝ち目はない」

 

 見えない輪墓の世界に現れたマダラと同等の力を持つ分身によって、悟の飛び蹴りは受け止められ反撃を受けてしまっていた。

 

 マダラも流石に余裕はなくなってきているのか顔から笑みは消えている。 それでも自身の勝ちは揺らぐことはないと思う尊大な態度は変わらなかった。

 

 土煙を巻き上げ、地面に転がる悟にマダラは目線を向ける。

 

「最後の攻撃は悪くはなかった。 再生力を持ち合わせていなければ数度は死んでいただろう。 だが、もはやこれまでだ

 

 

 

──諦めろ」

 

 マダラの宣告を受け、悟は立ち上がれないでいた。

 

 八門遁甲の陣による副作用による痛みか、それとも残り僅かな寿命が尽きかけているのか。

 

 呻き声すらも聞こえないその様子にマダラは静かに太刀を顕現させ振りかぶる。

 

「貴様は良くやった。 この俺を除けば忍界最強の忍びは間違いなくお前だ、誇れ。 そして安心しろ、直ぐに全ての命がお前の後を追うことになるだろう……そして最後にはこの俺も……」

 

 僅かに感傷に浸ったマダラは、それでも揺らぎなくその太刀を振るい止めとばかりに飛ぶ斬撃を悟に向け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()は諦めない」

 

 しかしその言葉が聞こえた瞬間、マダラが放った斬撃を何かが弾き消し飛ばす。

 

「何……?」

 

 あり得ないと疑問を口からこぼしたマダラの視界には……朱い光が映っていた。

 

 先ほどまでの八門遁甲の陣による血潮の朱いオーラとは別の、ハッキリとした朱い透明な衣のような光。

 

 夜の闇を太陽の如く照らすそれは、光が収まりを見せることで姿を明確にする。

 

 そこに立つ悟は先ほどまでとは別次元の様相を呈していた。

 

 

 マダラの青黒い須佐能乎を纏った姿と対を為すような、只管濃く明るい朱い外套のようなチャクラを身に纏って悟は瞳を閉じて立っていた。

 

 纏う外套には、仙人の証である隈取りと同等の黒い線が走り雲の模様を縁取る。

 

 明らかに異様なその光景、自分の知りえない何かが起きていることにマダラは僅かな危機感を覚え輪墓の分身を一体悟へとけしかける。

 

 

 しかし、悟へと殴りかかったマダラの常人には見えぬはずの分身体は……彼に近づいたとたんに消え去る。

 

「っ!? 一体何が……ッ」

 

 想定を超えた現象にマダラがそう呟くと……静かに悟が口を開く。

 

「貴様と同じだ、うちはマダラ。 死門を開けたことで……俺たち……いや黙雷悟の内に秘めた封印術は完全に消え去り、枷が外れ今この僅かな間だけお前と同列の力を発揮できるようになった……そして生命エネルギーが僅かな黙雷悟の身体ではマイト・ガイと同じ八門遁甲の陣では彼にすら及ばないことは明白だ。 だからこそ……全てをコントロール下に置き……2つの魂による完全な共鳴が必要だった。 ……魂の共鳴は核融合の如く、新たなチャクラを生み出す」

 

 その言葉の最中に、マダラが更なる分身体を悟に向かわせようと己の身体から分離しようとした瞬間。

 

 その分身体のみを射抜く、目にも止まらぬ悟の拳打による衝撃波が繰り出され分身体のみを一瞬で消滅させる。

 

「ッ……」

 

「全ては賭けだ。 黙雷悟も貴様と同じ遺伝子を持っている……ならば、死へと向かう最中で……覚醒する可能性は少なくないはずだ」

 

 悟の揺らめく髪は朱く染まり、その顔には隈取りが生じ……ゆっくりと開けられた瞼の先には薄紫の瞳があった。

 

「……これで運命が変わる」

 

 そう悟が呟いた瞬間、マダラと悟の距離感が一瞬で零となる。

 

「っ──」

 

 マダラは反応が遅れたにも関わらず、咄嗟に腕をクロスにすることで未確認の攻撃を辛うじて防ぎそのまま大きく地面に後を残して滑り下がる。

 

「こんな力を得る術が……存在するなど──っ!?」

 

 この瞬間の二人の力に差は殆どなかった。

 

 互いに輪廻眼を有し、片や六道仙人の力を……インドラとアシュラのチャクラを完璧に近い形で取り込んだマダラ。 そして八門遁甲の陣のさらに先の領域へと踏み込んだ悟。

 

 その力のぶつかり合いははるか離れた位置にいる六道仙人らにも容易に感じられるものであった。

 

「この異様に重い圧は……チャクラの気配だとでも言うのか……」

 

 六道仙人の下でナルト達をカグヤの異空間から口寄せする準備をしている最中の扉間は、全身に感じるチャクラの重圧に思わず呆けたようにその言葉を呟いた。

 

「俺とマダラの力が混ざり合うとここまでのものとなるとはな……正直俺が生身でも介入することは不可能ぞ」

 

 悟とマダラの力の気配に柱間も息を呑む。 この力の一片でもこちらに向けられれば、もはやひとたまりもないだろう。

 

 そんな気配の下六道仙人、ハゴロモは浮かない表情を浮かべてた。

 

 その様子に気がついたヒルゼンはハゴロモに問う。

 

「あのマダラと同等の力を悟が発揮する方法など……八門遁甲の陣を除いてありはしないとワシは思いますが……仙人様のご様子では、悟がしている無茶はそれだけではないのですな?」

 

 ヒルゼンからの何かを知っている様子のハゴロモは問いかけに重い口を開いた。

 

「うむ……恐らく八門遁甲の陣の使用だけではここまでの、環境を覆いつくすほどのチャクラを生み出すことは不可能であろう……恐らく悟たちは……互いに尾獣と人柱力のような深い繋がりを持ち……共鳴をもって新たなるチャクラを生み出している……」

 

 ハゴロモの言葉にミナトが口を開く。

 

「ハゴロモ様、魂の繋がりや共鳴が……新たな力を生み出すことがあるんですか?」

 

「お主も陰の九喇嘛と繋がりを持ち、恐らく体感しているはずだ。 チャクラとは繋ぐ力である……自然と繋がり、空間と繋がり、肉体と繋がり忍術はその効果を発揮させる。 そして魂はそれぞれが固有の唯一無二の精神エネルギーもち、それはチャクラによって繋がることで力を増すのだ」

 

 ハゴロモは悟が戦っている方角に目を向け……その瞳を伏せる。

 

 遠くに居てもわかる、拳と拳が、蹴りと蹴りがぶつかるその戦闘の激しさと密度。 

 

「かつて悟にも長すぎる輪廻の短い邂逅の合間に伝えたことがある。 八門遁甲の陣のが身体エネルギーを限界を超え増幅させるものであるならば……その反対に精神エネルギーを増幅させる術があるとな。 その名も……

 

 

 

重粒子(バリオン)モード」

 

 

「バリオン……モード……」

 

 ミナトはその形態が……八門遁甲の陣と並ぶとハゴロモが称したことでそのリスクを推し量る。 

 

 現に、穢土転生体とはいえ歴代火影達相手に余裕を見せていたマダラの本気と互角の戦いをする術なのだ……誰もがその術の存在の危うさを説明される前に気がついていた。

 

「もはやあやつでさえ……悟自身でさえ……己が生き残ることは考えにないのだろう……」

 

 力なくそう微かに呟いたハゴロモの様子。 それは己の不甲斐なさか、それとも悟たちを忍界の運命に巻き込んでしまったことへの罪悪感か……ハゴロモの胸中は晴れることはなかった。

 

 

 互いに輪廻眼を持ち、超越した身体能力を持つ悟とマダラはもはや忍術を使う素振りも見せずに体術で互いの命を削り合っていた。

 

(……この俺に匹敵する……いや越えんとするこの力。 そして俺の動きを鈍らせるこの周囲に漂う重い粒子のようなチャクラ……ここまでの力を、そう長い事発揮するなど──)

 

 必死に悟の攻撃を凌ぐマダラは、悟の先が長くないことを察知してなるべく防御に専念していた。 すると

 

「……ゴホッ!?」

 

 一瞬、悟が血を吐き動きを鈍らせる。 マダラがその隙を突いて一瞬で生成した太刀で突くも、直ぐに勢いを吹き返した悟は太刀を裏拳で砕き再度マダラへと肉薄する。

 

「その状態、長く続けることなど不可能なのだろうっ!!」

 

 マダラは勝機を見出し、嬉々として悟への攻めへと転じる。

 

 

「──ゴほッ!!??」

 

 

 その瞬間、先ほどの悟を真似るかのように……マダラも口から血を垂れ流し吹きだした。

 

 己の身体に生じた違和感と不調。 柱間の力すらも完全に手中に収めたはずの自分の身体の、不調にマダラは今まで気づいていなかったことに気がついてしまう。

 

(……奴との格闘戦でついた傷が……再生していな──)

 

 その思考を刈り取るような悟の掌底がマダラの顔面を穿ち吹き飛ばす。

 

 肩で息をし苦しそうに見える悟は、呼吸を整えながら口を開いた。

 

「当然だ……忘れたのか? アンタ自身、その肉体も魂も……うちはマダラの僅かな分裂体であるという事実は変わりない。 ()達と同じで……普通より寿命は長くないってことだ。

 

 いくら生命エネルギーに富んだ柱間の細胞を取り込んでも……根本的なそれは短い。 今の ()の力はチャクラで繋がった……そのお前の寿命を削り……蝕むことが出来るんだ」

 

「な、なんだと……?」

 

 周囲に漂う粒子のような悟のチャクラは、拳打に練り込まれ打ち込まれるチャクラは……マダラの寿命すらも削っていた。

 

 その事実に気がついたマダラは一気に焦りを見せる。 悟を倒した後にも……世界を完全に無に帰すためには少しは時間を要するかもしれない。

 

 その僅かな時間さえ……目の前の敵に奪い去ろうとされているのだ。

 

 ……焦りからマダラが印を結んだ瞬間、悟の瞳に鋭い光が宿る。

 

 極まった領域での臆したマダラの印を結ぶという行動は……只の隙でしかなかった。

 

 その瞬間、悟の肉体から4体の……()()()()()()()()()()()

 

「輪墓・辺獄だと!?!?」

 

「当然だ、()()()だからな」

 

 マダラは驚愕しつつも、自身の残りの輪墓の分身体を対処に出す。 そのまま自身は結んだ印の術を発動しようとするが……

 

 地面に手を着いたマダラの近辺で何かが変わることはなかった。

 

 不発……その瞬間、悟は朱い光をに見纏い上空へと飛び去っていく。

 

「っ……口寄せによる時空間移動が不発しただと……!? それにあいつは一体……何を考えている……」

 

 マダラは残された悟の輪墓の分身体を己の分身体と共に駆逐していくが……逃走用の術の失敗と、逆に空へと昇っていく悟の意図を読み取れずにいた。

 

 

 

──闇夜を縦に裂くよう、朱い流星が空へと昇る。

 

 

 どんな飛翔体よりも早く、速く……それは雲を越え、星と宇宙との狭間へとたどり着いた。

 

 輝いていた朱い光が一度収まり……その狭間は闇の様に暗闇を抱く。

 

 

 

(そろそろ夜明けが……〈暁〉が近い……)

 

 

 

 動きを止め宙に漂い瞳を閉じていた悟は視線を地平線の先へと向ける。

 

 そこには後数分後には地表を照らす……太陽が光を伸ばし始めていた。

 

 その光を浴びた悟は……今一度、より明るく濃い朱い光を身に纏い

 

 地表に向け加速を始めた。

 

 

 地表では数の有利によって、マダラが何とか悟の輪墓の分身体を消し去るもより一層重いチャクラの重圧がのしかかることで

 

 己の危機を悟った。

 

 その肌に感じる重圧にマダラは冷や汗を垂らし……悟の動きの意図を汲みとった。

 

「なるほど……奴の振りまくチャクラの粒子が、時空間への繋がりを断ち……そして己の限界の速さによって俺に回避する選択肢を取らせないといったところか……」

 

 そう、悟の狙いは柱間の再生力を持つマダラを消し飛ばすほどの一撃。 時空間忍術に全く適性の無い悟のチャクラが周囲を漂うことで口寄せの類を防ぎ……そして空からの一撃はは速く、早い。 下手に回避の行動を取れば、無防備なその行動の隙をついて必滅の一撃が繰り出されることは明白であった。

 

「同じ眼を……いや、今や死門によって動体視力は奴の方が上だろう……躱すことも不可能か……であれば」

 

 

 マダラは手を空で朱く輝き己に向け飛翔する悟に向け掌をかざし、4体の輪墓の分身体を差し向ける。

 

 

 それぞれが完成体須佐能乎を展開して、悟に向け突撃する。

 

「向かい打つしかあるまい」

 

 

………………

…………

……

 

 

 それは朱い流れ星。

 

 閉じられた運命を開く、新たな兆しの暁。

 

 数百の世界を経た先の……たった一度だけ落ちる希望の雷。

 

 

 一度の衝撃波ではその落下の速度を緩めることはなく、二度三度の輝きと衝撃で遠くにいる地表の観測者から辛うじてその鈍りを感じ取れる程度。

 

 

 

 四度目の衝撃を経て、雷は縦へと回る。

 

 

 

 最後の衝撃に備え、向かい打たんと同じ空へと飛び立ってきているその仇敵……その敵を穿つための渾身の踵落としが放たれた。

 

「「八門遁甲の陣・六道暁ノ天雷っ!」」

 

 その踵落としは、構えられていた完成体須佐能乎の二刀の大太刀を優に砕きそのままその頭上から股先までを一直線に光の如く貫く。

 

 悟と共に青黒い須佐能乎を纏ったマダラが、完成体須佐能乎の身体から飛び出し地表に向けグングンと落ちていく。

 

 

「ウオオオオオオオっ!!!!」

 

「ヌオオオオオっ!!!」

 

 

 渾身の力を振り絞る2人。 その叫び声は互いに譲る気など微塵もないことを物語り、片や確実に殺すため、片や確実に死なないため……世界に轟く。

 

 

 マダラが直接持っていた顕現された太刀もヒビが入り砕け散る……そして悟の踵がマダラのクロスする両腕に接触した瞬間。

 

 

 

 その流れ星は地面へと衝突した。

 

 

 

──類を見ない衝撃と共に、地面が大きく陥没する。

 

 

 

 音も振動も……まるで星そのものが揺れていると錯覚させるほどであり、その中心に位置する部分は段を経て陥没を続ける。

 

 命の叫びが木霊し、吠える。 もはや並大抵の隕石の落下をも越えるクレーターの形成に携わる2人は……互いに血を流していた。

 

 悟の蹴りが段々とマダラの手甲を砕き、その肉に到達し、そして骨へと至る。

 

 あと僅か、あと少し

 

 そんな中

 

 

 

 朱い光は急速に光を失っていく。

 

 

 

「クックククク……貴様の負けだ、黙雷悟ゥっ!!!!」

 

 その一撃によってマダラの右腕が砕かれ、左腕へとその矛先が到達した瞬間。 マダラは勝ちを確信して叫ぶ。

 

 腕にかかる負荷も、漂うチャクラも……全てが急速にその色と力を失っていくその様子は

 

 

──悟の限界を示していた。

 

 

 まだ左腕という余力を残した状態のマダラは、己の全チャクラを以て悟を押し返していく。

 

「俺の勝ちだっ!! 貴様の足掻きもここまでだっ!! もはや貴様の攻撃は俺の命には届かんッ!! 精々……残りの力で俺の寿命を削って見せると良いっ!!! だがな……その報復に貴様の近しい者から順に葬り去ってやろうっ!! 例え世界を滅することが出来なくともっ!! この俺に泥をつけた貴様の尊厳全てを踏みにじってっ!! お前を信じた愚か者共に、絶望を送ってやろうっ!!!!!」

 

 心からの歓喜を表すように、血反吐を吐きながら悟への思いを叫ぶマダラ。

 

 その醜態は既に、かつてのうちはマダラからは遠く離れたものと成っていた。

 

 

 次第に力が弱まる悟。 もはや手段など残されていないであろう彼の悔しがっていると思われるその表情をマダラが覗いた瞬間

 

 先ほどまでのどこか神秘めいていた悟の表情は……従来の笑顔を浮かべていた。

 

 目や鼻や口から血を流しつつも、その明るい笑顔。 そして彼がいつの間にか手にしていたクナイ。

 

 もはや己も限界に達し輪廻眼が解除され黒目に戻ったマダラはその光景に、理解をしめすことなど出来なかった。

 

 まるでその瞬間、時間の流れが遅くなるような感覚に襲われマダラは思わず言葉を漏らす。

 

「何を考えている……今更クナイ一つで何が出来るというのだ……っ!」

 

 マダラの問いかけに、悟は飛びきり馬鹿にしたような笑顔を浮かべ

 

「……へっ! 忍びは裏の裏を読めって知らないのか?」

 

 そう言い放ち、おもむろにそのクナイを己の腹部へと突き立てた。

 

 その瞬間、マダラの眼前の悟は

 

──煙となって消え失せてしまった。

 

 

 

 

 悟が居なくなったことで、大きく腕を空振り態勢を崩すマダラ。

 

 まるで()()()のように消え失せた悟の存在に、マダラは完全に呆然とし呆ける。

 

 八門遁甲の陣まで使った先ほどまでの悟が、分身であった可能性など考慮していなかったマダラが精神的に虚を突かれたその瞬間。

 

 

 

──マダラの背後、クレーターとなった瓦礫の一部が煙をあげる。

 

 

 ボフンッと音を立てたその気配に、マダラが振り向けば──

 

 クレーターの斜面を沿うように黙雷悟がマダラ目掛け飛び込んできていた。

 

「何……だとっ!?!?」

 

 変化の術で岩に隠れていたであろう悟。 彼の完全な不意を突くその行動は、マダラでさえその戦闘思考の流れを止める。

 

 

 悟の右手には、黒い球体のような物が携えられており……その螺旋丸のような忍術が放つプレッシャーは先ほどの悟が放っていたそれと同等のものであった。

 

 

 しかし

 

 

 ここまで来てマダラは、なおもその思考を完全に放棄することはなかった。

 

 完全な不意を突かれ、もはや悟の攻撃を避ける力も残されてはいない。 しかしマダラには彼に蓄積された経験と言う名の知識の結晶があり、それは彼を突き動かす。

 

(まだだっ!! 先ほどまでのアイツは影分身なのだと無理やりにも納得すればいい。 だとすれば、今の奴が放とうとしている術も影分身を解除したことによるチャクラの還元によるものっ!! 八門遁甲の陣とあの特殊な状態のチャクラを引き継いでいる以上、奴本体もあの一撃を最後に……身体が還元に耐えきれずに崩壊するはずだ。 あの術がどれ程強力なのかは写輪眼を発動できなくとも、肌に感じるチャクラで察せられる。 もはや、完全に避けることは不可能だが……)

 

 マダラは何とか体のダメージを無視して飛び込んでくる悟へと体を向ける。

 

 右腕は先の攻撃で砕かれ使い物にならないが、左腕はまだ動く。

 

 悟の攻撃は、ほぼ落下に合わせた螺旋丸のようなものでありマダラに取って軌道を読むこと自体は容易であった。

 

(死に行く奴に下手に本体を狙ったカウンターをする必要などない……っ! 直撃さえしなければ、俺の身体全てが吹き飛ぶことなどないっ!! 例え余波で半身が吹き飛ぼうととも……死にさえしなければ、時間さえかければ、俺の再生力で幾らでも回復して見せるっ!!)

 

 マダラは、悟の様子にも目が行っていた。

 

 その眼から、口からは血が垂れている。 間違いなく、この一撃が最後なのだとマダラは確信する。

 

 

 そして

 

 

 マダラの左腕が、その掌が……眼前へと迫る悟の黒い忍術を支える右手首を捉え……

 

 

 

 

 

──空を切った。

 

 

 

 

 

「ハッ?」

 

 悟の手首を引き、術を地面に激突させ空振りさせるマダラの作戦は……その右手が、()()()()()()()()無に帰す。

 

 

 再度虚を突かれたマダラは、飛び込んできた悟に押し倒され馬乗りにされる。

 

 そして

 

「本命はこっちだ」

 

 悟の振りかざした左手には

 

 

 

 

『八卦・鉄鋸輪虞(てっきょりんぐ)

 

 が携えられていた。

 

 

 瞬間振り下ろされた悟の左手はマダラの腹部を裂き、その腕をマダラの体内へと侵入させる。

 

「っグォっ!? っ……今更体を貫いた程度で、この俺が──」

 

 もはや身体が消し飛ぶこともないと思ったマダラの言葉は……

 

 途中で寸断された。

 

 

 

「封印秘術…………黙雷(もくらい)

 

 

 

「ッ~~~~っ!?」

 

 

 途端、マダラの全身を激しい電流が襲いその動きを完全に縛る。 声すら上げる余地もなく、呼吸すら出来ないマダラが口を麻痺させ大きく開けた状態で……辛うじて動く眼球は……悟の右肩から先が既に無く、肩口から血を垂れ流している様子を写した。

 

 そして悟は、仰向けになったマダラの上で力なく前のめりに倒れ

 

 

 

 

 父に抱き着くような形でその意識を失った……

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 心地の良い風が吹く草原。

 

 黙の精神世界には、黙と本来の姿をした雷の姿があった。

 

 

 草原の中心に、その葉を青く茂らせた木の下で……その幹に寄りそうに2人は並んで座っていた。

 

 ふと周囲に目を向ければ、その陽気な空間とは一線を画すように……空間に黒い穴が点々と広がっていっている。

 

 異様なその光景を視界に納めつつも……2人の悟は落ち着いていた。

 

「これで……全部終わったんだ。 ……本当にありがとう、雷」

 

「ああ、お疲れ様……黙」

 

 感傷に浸るように、互いに労いの言葉を掛け合う。

 

 すると……

 

 

 

 黒い空間の裂け目から……上半身だけのマダラの精神体が乗り込んできた。

 

 もはや何をすることも出来ないそのマダラの来訪に2人は驚くこともなく立ち上がる。

 

「……何故だ……何が……」

 

 自分の状態を把握できていないのか、マダラはブツブツと疑問を口にしていた。

 

 そんな彼の精神体に近づいた2人は彼に声をかける。

 

「確かに……父さん、貴方は僕たちよりも上位の存在だったかもしれない。 力も経験も……戦闘技術も。 けれどね、逆に僕たちだけにしかないものだって幾らでもあるんだ」

 

「アンタを()()()()()()()に……本体と影分身は既に入れ替わっていた。 まあ、全力でほぼ全てを割り振った影分身だが……そいつにこれで傷をつけておいたんだよ」

 

 そう言って雷は……現実で使っていたクナイを精神世界で再現して召喚しマダラに見せつける。

 

「このクナイには()()()()を記してある。 影分身の制限の解除……封印の書に記された、二代目火影の術の一つをな……」

 

「どれだけ影分身が傷ついても……もう一度そのクナイで傷をつけるまで解除されることがなくなる印さ。 そして勿論、ほぼすべてのチャクラを使った影分身だから……本体と同等の力と可能性を秘めていた。 追い詰められれば、覚醒もするし……傷もつく。 そして……僕たち本体は陽動の影分身に紛れることで完全に貴方の感知の、意識の外へと逃れ手ごろな岩に変化することが出来た。 戦闘が激しかったおかげで違和感なく岩に変化できたよ」

 

「ま、右肩バッサリとやられた状態で岩に変化して忍ぶのは……かなりきつかったけどな。 おかげで、忍びの神と同等のアンタを騙せたんだ……やる価値はあった」

 

「そして最後、僕たちは貴方に深く接近しさえすれば良かった。 封印秘術・黙雷(もくらい)は……僕らが生み出した、僕らだけの術だ。 自分の身体を触媒に、貴方の身体に術式を刻み込んだ。 体内のチャクラを強制的に電流へと変換し……そして自然エネルギーを際限なく集め続ける術だ。 それを互いの身体に刻んだんだ、幾ら柱間細胞に完全に馴染んでいる僕ら親子でも……いずれ許容量を超える。 この使い方なら封印術の制御はもう必要ない……」

 

「そして輪廻眼……写輪眼すら使えなくなったアンタ相手でも油断は出来ない。 だからこそ、最後の隙を作る為に影分身から還元された莫大なチャクラを使って()()()()で右腕を再現して見せたのさ。 ……世界一贅沢な分身の術だと思わないか?」

 

 クックックと笑って見せた雷の様子に黙は少し呆れた様子を見せた。

 

 もはや封印術を止める術もなく、現実世界ではマダラと悟の身体は自然エネルギーの超過によって樹木へと変貌してしまうだろう。

 

 そんな結末を前に……マダラは小さく笑って見せた。

 

「フフ…………子ども騙しに……してやられるとはな」

 

 気の抜けたような表情を浮かべるマダラに、黙はしゃがみ込んで顔を近づけ声をかける。

 

「……貴方は……貴方の魂は既に限界に近かった。 例え穢土転生体とはいえ……無限のチャクラを得るには何か代償が必要なはず。 きっとそれは……『魂』だったんだ。 肉体よりも寿命の長い魂を糧に……穢土転生体はチャクラを得ていた。 つまり、マダラの分裂体で長く穢土転生体で居た貴方の魂の寿命は……既に尽きかけている」

 

「……何故それを……」

 

「今の貴方よりも、幽鬼のように狂った貴方を知っているからさ。 ……未来、輪廻転生で生身の身体を得ても黙雷悟()を見つけられなかった貴方は、自分が木の葉に僕を預けたことさえも忘れ……亡霊の様に漂い……そしてただ血の繋がりだけを感じて、僕の元に来ていたんだろうね。 でもそんな数百と繰り返された悲劇も終わりさ」

 

 黙はそういうと……マダラの身体を抱え……強く抱きしめた。

 

「もう終わりにしよう。 貴方も……黙雷悟ももうじきに終わりを迎えるんだ、全ての運命が……元へと戻る」

 

「…………」

 

「さよなら……父さん」

 

 黙の言葉を最後に、マダラはその姿を霧のように鈍らせ……黙の精神世界から姿を消した。

 

 その霧を最後まで見つめ、空を見上げた黙の頬を一筋の涙が伝っていた。

 

「……さて、マダラと俺たちの身体が完全に樹木になるまで……もう少し時間があるな……どうする?」

 

 少し間を開けて黙へと語りかけた雷。 黙は涙を拭いながら……笑顔を雷へと向けた。

 

「もう……運命も、使命も……何もないんだ。 最後くらい素直に()()と楽しく話していたいな」

 

「おうっ!! もちろんだ、話したいことも……聞きたいことも沢山あるんだ」

 

 そう言って……2人は互いに歩み寄る。

 

「ありがとう、黙雷悟。 君のおかげで……僕の輪廻は終わりを迎えた」

 

「ありがとう、黙雷悟。 お前のおかげで俺は、誰かの役に立てた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして互いに握手をして2人は──

 

 

 

 

 

 


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