〈視点:黙雷悟〉
ここしばらく、俺は八門遁甲の第一開門に慣れることと、ヒザシさんに柔拳の型を教えてもらうことに集中していた。
そんなある日、うちは邸でサスケと組手をしていたところにうちはフガクさんから声をかけられた。
「黙雷君、少しいいかい?」
それに俺はサスケの打撃をさばきながら「何ですか?今見ての通り手が離せない状況でして」と返事をして掌底をサスケにお見舞いする。
サスケは防御して後ずさる。体術の動きの確認をする組手であるので、もちろん本気でやってはいない。
「サスケとの組手が終わってからで構わない。俺の部屋はわかるな?そこで待っている」といいフガクさんは庭の縁側から部屋の奥へと姿を消した。
正直、フガクさんは怖いというイメージしかないが改まって何か俺に用事なんてあるのか?
「父さん、悟になんのようかな?父さんに呼ばれてるしそろそろ切り上げる?」とサスケは若干不服そうに提案をしてくれる。
半年近くサスケと一緒に修行の真似事、つまり手裏剣の投げ方とか組手をやったりなどしていると彼の性格がわかってきた。
サスケは嫉妬深い。まあ、まだ子供だからというのもあるが、イタチさんが俺を褒めれば、例えサスケが先に褒められていようと拗ねる。逆に俺がイタチさんをべた褒めしていても意外なことに若干不機嫌になる。
もちろん「兄さんはすごい!」と賛同してくれるが、どこかで自分を見てほしいという独占欲みたいなものがあるのかも。複雑だ。
今もフガクさんが俺に用があるというだけで、少し不機嫌になっている。まあ、テンションが下がるだけで駄々をあまりこねないので、歳のわりに結構大人びているのかもしれない。
その後俺たちは五分ほど組手をして、サスケは台所におやつを取りに行き、俺はフガクさんの下に向かった。
「失礼しまーす……」小声でフガクさんの自室の扉を開く。
フガクさんは袴でお茶を飲んでくつろいでいた。俺の言葉に
「そこに座ってもらって構わない」と座布団をしめす。
俺は恐る恐ると言った様子を隠さずにゆっくりと座布団に腰を下ろす。今のところ怖い以外の感情が浮かばないし……。
俺の様子にフガクさんはふっと笑みをこぼしながら「そう緊張しなくてもいい。別に何か叱ることがあるわけでもない」と言う。
俺は「……はい」と返事をして、正座する。
フガクさんはお茶をすすり、湯飲みを置くと俺に問いかけてきた。
「サスケやイタチと普段から仲良くしてくれて感謝しているよ。二人としばらく一緒にいて何か思うことはあるか?」
俺は質問の意図がわからないので、邪推をせずに素直に答える。
「サスケ君とは忍びの修行を一緒にやっていて、本当に成長が早い子だなあと思っています。イタチさんは、何というか〈忍び〉として完成されているような、凄みを感じています。良くサスケ君と一緒に的確なアドバイスをもらって感謝しています」
べた褒めである。別に息子をおだててどうにかするとかではなく、純粋に今俺が思っていることだ。
俺の言葉を受けフガクさんは「そうか」と一言呟いて何か考えている様子だ。
少しの沈黙のあと「君は〈うちは〉と、しばらく関わらない方が良い」とフガクさんは言う。
……?どういう意味だ?俺は意味が分からず、混乱する。サスケともイタチさんとも別に問題がある関りなんてないし……。なぜそんな拒絶するような。
俺が戸惑う様子に「君はあまり我々に対して偏見がないようだ。それは良いことだが、逆にうちはには君を良く思っていない連中がいる」とフガクさんは先ほどの発言の補足をする。
「……俺が部外者だからってことで、うちはの警備隊長の御家族と公に関わることに快く思っていない方たちがいるんですね……」
うちは一族と里との関係は手放しで良いと言える状況ではない。俺は一部のうちはの者からしたら気分が良い存在ではないようだ。
「……そうだ。君はサスケと同い年の割に考えが回るな。今あまり我々の中で問題要素がある状況は避けたい。君に問題があるわけではないが、居住区に来ることを控えてほしい。」
フガクさんの提案の意図を理解し少し考える。そして俺は一つの提案をする。
「居住区の外でなら、サスケ君やイタチさんと会っても問題ないですか?自分は、このまま二人と会えなくなるなんて嫌です!」
子どもらしく駄々をこねてみた。俺の提案にフガクさんは考える素振りを見せるもすぐに返事をする。
「かまわない。そろそろサスケには居住区の外の様子を知ってほしいと思っていたしな。イタチは本人が忙しいせいで予定が合わせづらいと思うが、イタチが良いといえば俺は何も言うまい」
思っていたよりもあっさりとした了承に少しあっけに取られるも、俺の考え方が違っていたことに気づき平静を装う。うちはの居住区に堂々と入りびたるのがダメなんだ……。
同じ里の人間なのに、血が違うから関わるな、と。悲しいな……。
その後俺はサスケに次から、うちは居住区外、よくテンテンちゃんと一緒にいる公開演習場を今後の待ち合わせ場所に指定して別れた。
「というわけで今後はそっちで集合で」
と軽く流す俺に対してサスケは
「……」不安そうに俯く。
不安な内容には予想がついているのでそれに対処を試みる。
「ああ、流石にいきなり一人で知らないところに行くのは緊張するよね。だったらイタチさんと一緒に一回行ってみるといいよ。ね、イタチさん」
とこの場にいないイタチさんへと俺が語りかけると直ぐにシュンッとイタチさんが姿を見せる。フガクさんの部屋に入ったあたりからうっすらと居ることだけはわかっていたのだ。
イタチさんが姿を見せたことで、サスケは嬉しそうにイタチさんに近寄る。そんなサスケの頭を撫でながらイタチさんは「よくわかったな」と言い俺の問いかけに答える。
「もちろん、最初のうちは俺がサスケを送り届けよう。君といることはサスケのためにもなりそうだしな」といってOKを出してくれた。
その日は俺がうちはの居住区にいられる最後の日として若干長めにサスケとイタチさんと修行を行った。
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〈三人称〉
悟は施設に帰ると晩御飯の手伝いを行った。しかし普段よりも若干低いテンションにマリエはいち早く気づく。
「どうしたの悟ちゃん?悩み事?」とマリエが悟に問いかければ悟は
「ちょっと、複雑な悩みが……ありまして」と遠慮しながらだが胸の内を明かす。
内容はうちは居住区での出来事。一族でないからと差別とまでは言わないが、区別され自由に一緒にいられない。こちらが強硬手段を取るわけにもいかない。相手はそれにより反発するだろう。
そんな里内にいくつもある〈血〉による区別が少し気に食わないと悟はため息交じりに相談する。
そんな相談の内容にマリエは少し作業の手を止め考える素振りを見せる。すると妙案だと手をポンと叩きマリエは自分の考えを口に出す。
「悟ちゃん!今日は一緒にお風呂入りましょう!そうしましょう!」
「…………はい?」
悟は盛り付ける予定のみそ汁をお椀よりも随分手前にこぼしながら思考をショートさせた。
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施設共用のお風呂場。時間帯で男女の入浴時間が決められているこの場に深夜の今、悟とマリエは同じ湯舟に浸かっていた。
『どうしてこうなった!どうしてこうなった!!』と内心焦りまくりの悟。
普段マリエは大人びた雰囲気をまとってはいるが年齢はガイやカカシと同じで、つまり悟たちナルト世代のプラス14歳である。本人は語らないが年齢が約18であることはほぼ間違いない。
と悟はつい最近の誕生日で4歳になった自分の年齢と比較し現実逃避を試みるが
「それじゃあ、頭洗ってあげるからこっちに来て~」と湯船から出ながらマリエが悟に呼びかけると「はっはい!」と現実に呼び戻されて緊張で声が上ずった返事をする。
一応悟の中身、魂レベルで言えば20代前半である。
最近母性を感じていた相手の素肌を見て精神年齢を一気に魂レベルに引き上げられた悟は洗い場の椅子に座り、正面の鏡を見ないように目をつぶる。
「どうしたの?そんなに目をつぶって。まだシャンプーつけてないわよ?」とクスクスと笑いながら悟の背後のマリエはシャンプーを泡立てる。
『ここで魂の欲に負けてマリエさんの裸体を見たら俺は地獄に落ちる!』と悟は自分に言い聞かせ目をより一層強くつぶる。
マリエはそんな様子の悟をおかしく思いながらも「どうですか~?痒い所はないですか~?」とシャンプーで悟の頭をこねていく。
「……大丈夫ですぅ……」と悟が必死に返事をするものの、マリエのマッサージに近い手洗いに力が抜けていく。
しばらく大人しく頭を洗われていた悟にマリエはいたずらっ子のように「えい!」と悟の顔面まで泡で覆う。
「おわっぷ!」と悟は驚きに体をのけぞらせると柔らかい感触が頭に伝わる。
全神経をその柔らかさについ、集中させた悟は見てはいけない、しかし見たいという感情のせめぎあいによる発生した感情の小宇宙の爆発により、自身の感知能力を覚醒させ自覚する。
……感知したところで白眼のように姿が見えるわけではないが。
覚醒した悟の感知能力は、チャクラの揺らぎを見せる。そして目を閉じているため、聴覚や触覚はより鋭敏になる。つまりある程度空間把握を可能にした。
悟との接触で少し声を上げたり、その後シャワーで悟の頭を洗い流すマリエの手の感触による感情の揺らぎを悟は鋭敏になった感覚で堪能した。
『……良い』悟は本心でそう思う。
それでも目を頑なに開けないあたり悟の最後の意地は固かった。
その後悟はお互いの背を洗いあうなどのやべえイベントも何とか、覚醒した感知能力による空間把握で目を開けずに乗り切った。――天国と地獄は両立しうるんだな。と悟は思った。
流石にそんな悟の様子にマリエも『あれ?もしかして悟ちゃん、シャンプーが目に入るのが怖いんじゃなくて、私の裸を見るのを避けてくれているんじゃ……』とませてるなあこの子は、という感じの暖かい視線になる。
お互いに洗い終えた状態で湯船に再び浸かる。
お互い日頃に疲れることばかりしているため、ふうっとため息をつく二人。
流石にマリエが視界に入っていないためを目を開けた悟にマリエが語りかける。
「実はねえ……私、昔は孤児院にいたの。悟ちゃんと同じで血のつながった親はいないの」
突然のカミングアウトにマリエの方を向きかける悟。寸前で自制したが。
続けてマリエは語り続ける。
「そこの院長は眼鏡をかけたとても優しい人だった。私もその人みたいになりたくてがんばったわ……。でもその孤児院は今実質……。まあ、いろいろあって、私は戦争孤児だったけど、今現在は自分の居場所を見つけたわ」
マリエの話に悟は黙って真剣に聞いていた。
「私には血の繋がっている人はいない。だから血の繋がりというのはよくわからないけど……」
「悟ちゃんが知っているガイ君をはじめ、無口な天才君や、うちはのお馬鹿さん、色んなひとと絆を持てたことに〈血〉は関係ないと自信を持って言えるわ」
「悟ちゃんが迷うことはあるかもしれないけど、最終的に〈血〉ではなく〈個人〉を見てさえいれば上手くいくわ、絶対」
マリエの語りに悟は自身の悩みに決着をつける。
『うちはから一族以外の部外者だと嫌悪されても、サスケやイタチさん、フガクさんが俺自身を嫌っているわけではないんだ。ここで俺が不貞腐れても不幸しか生まない。』
言葉ではわかっていても感情が制御できなかった悟だが、マリエの励ましで感情においても、相手の続柄だけで判断しないという感覚を身に着ける。
ここでふと悟は疑問に思う。
『なぜマリエさんは孤児院の院長をしているのか?』
普段特に気にしたことがなかったが、悟は生活の節々で違和感を得ていた。
マイト・ガイと同世代。上忍並みと思われる実力。それらの情報からマリエが今現在
〈忍者〉でないことを不思議に感じる悟。
『よくよく考えたら、日向の誘拐事件の時もマリエさんの性格なら意地でもついてきて、俺を守ろうとするはずだ。実力がないわけでもないし。あえて俺を見守る姿勢を貫いた意味があるのか?』
自分がいた孤児院の院長に憧れたのなら、忍びとしてのスキルは必要ないはずと悟は考え自身が抱いた数々の疑問を口から出しかける。
「マリエさんは何で……」ふと悟の視界にマリエが映る。
その体は……酷く傷ついていた。尋常ではない数の傷跡を目にした悟は一瞬息をのみ思考を止める。
悟がまばたきをするとマリエの体に見えていた傷は消えていた。
一瞬の出来事に混乱する悟は言葉を出せずにいた。
『なんだ!?今のマリエさんの体の傷跡は……。それに傷が一瞬で消えた?そんなわけ……』
思考にふける悟にマリエは声をかける。
「さ、さすがにあまり凝視されると私恥ずかしいわ~」
「へ?」
悟はマリエの言葉で正気に戻る。すなわち自分が見つめているものを正しく認識することになる。
そこで悟は自身の混乱具合を制御できなくなる。
鼻血を出してふらりと湯船に沈む悟に慌てて近づくマリエ。
意識を手放す寸前。悟は『深く考えるのはよそう……』とマリエの過去について考えるのあきらめた。
あきらめたことを後悔することが数年後訪れるとも知らずに。
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〈視点:マリエ〉
湯船でのぼせて意識を無くした悟ちゃんを介抱する私は悟ちゃんに服を着せ、自室に運び込む。
流石に湯船に浸かって話し込んじゃったのはまずいと反省しながら、悟ちゃんを膝枕で寝かせて団扇で扇ぐ。
……少し昔話をしたせいで、感情的になっちゃってるなあ。私。
ガイ君やカカシ君、野原さんたちとほんの少しだけ一緒にいた日々を懐かしむように遠い目をしていた私は、膝の上で悟ちゃんの頭が動く感触で意識を戻す。
「……ぶあ?あ……ここは?」呆けている悟ちゃんに私は笑みをこぼしながら
「悟ちゃん、のぼせちゃったみたいね~。あまり無理して湯船に浸かってちゃだめよ?きつくなったら私に言えばよかったのに~」と声をかける。
「え……あ、すっすみません……」と悟ちゃんはしどろもどろにこたえてくれる。
何だか態度がよそよそしい……。悟ちゃんの言葉が丁寧になるときは何か隠し事をしている傾向にあると私は気づいているが、今回はあまり言及しないでおくことにした。
あまり深入りして嫌われたくないし……。
とりあえず気持ちを切り替えて私は「悟ちゃん、実はこの前の悟ちゃんの誕生日の時、渡していなかったプレゼントがあるのよ~」と悟ちゃんを起き上がらせ、自分は自室の机の引き出しから紙を一枚取り出す。
悟ちゃんはこの紙が何かは分かっていない様子。不思議そうにしている顔はとてもかわいいわ~。
私は自分が持つ紙にチャクラを流し込む。すると紙はボロボロと崩れていく。
その様子を見ていた悟ちゃんは一瞬目を見開くけど、とくに言葉を発しずにいる。
……多分反応を見る限り、チャクラ紙についても知識だけは知ってたんだろうな~この子は……。
妙な知識の豊富さについては前に隠すように教えたので、その教えのように知らないふりをしている悟ちゃんに私は説明する。
「これはチャクラ紙といって、チャクラが持つ性質を増幅させてわかりやすく教えてくれる便利な紙なの。悟ちゃんは強くなりたいみたいだし、特別に使わせてあげるわ~」
そう言い私は新しいチャクラ紙を取り出して悟ちゃんに手渡す。そこそこ価値が高いものだけど、今の私には不要なものだし、悟ちゃんのために役立てたいと思ってたので、誕生日の機会に使わせてあげようと考えていた。
悟ちゃんは緑色の目でこちらに了承を求めてきたので「ぐっとやっちゃって~」とゴーサインを出す。
悟ちゃんがチャクラ紙に流したチャクラはすぐに紙に変化を促す。
チャクラ紙はシワシワになり、クシャっと縮こまってからボロボロと崩れ落ちる。
「これは……雷と土?」と悟ちゃんは口に出す。
……私はまだどんな紙の変化がどの性質に当てはまるか教えてないのだけど……この子は。
少しあきれながらも、優秀な悟ちゃんの頭を撫でながら説明を加える。
「そうね~。雷と土であっているわ。燃えたら火、切れたら風、濡れたら水。まだ教えていなのによくわかったわね~」と少し言葉の最後の方の口調を強くして。
悟ちゃんはすぐに自分の失敗に気づいて、しまったって顔をする。……この子、お面被ってなかったら感情が表情に出すぎていて心配になるわね……。
まあ、重要なのはそこじゃないのでそこまでにして「土は私と同じ性質ね~。それなら幾つか術を教えてあげられるかも。雷は知り合いに使い手の人がいるけど、今は少し大変な時期みたいだから、術を覚えるのはあきらめてね~」と話をすすめる。
その言葉を聞いているのいないのか、悟ちゃんはぶつぶつと自分の世界でなにやら考え事中みたい。
……向上心の塊みたいなこの子は多分、進んで窮地に飛び込んでいく。
だからその時、力不足で死んでしまわないように私は出来る限りのサポートしてあげたい。
だって、私では直接は助けてあげられないから……。
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〈三人称〉
悟は、着実に力をつけていく。体術は日向の柔拳を。忍術は雷と土。扱う武器は棍棒。
切り札に八門遁甲。これらの能力を磨きをかけ続けること早2年。
悟は忍者学校、アカデミーに通う年になっていた。
そして不可避の〈負けイベント〉も着実に近づいていた……。