<視点:黙雷悟>
俺は今日からアカデミーに復帰する。あの夜から、少し経ち里も一応の落ち着きを取り戻している。
そんな雰囲気を感じながら俺はアカデミーへの通学路をゆっくりと歩んでいる。天気も良く、久しぶりにほとんど心労を抱えていない日常を感じている俺は鼻歌まじりでアカデミーへと向かう。
……まあ、サスケのことを思うと本当に手放しでハッピー!!っという感じではないが、『幸せそう』という雰囲気を出して行かないと周りにも影響が出る。
一応は俺がうちはの居住区にいたことは秘密である。あまり塞ぎこんでいると、マリエさんも不安にさせるし、数少ない友達にも心配をかけるかもしれない。
そんなことを思いながらアカデミーの教室の扉を開ける。
扉が引かれる音で一部の生徒がこちらを見る。
反応は三者三様。
「えっ!?……」「誰……?」「なんだあいつ?」
と引き気味な者が大半であったが。
原因は俺の容姿にある。
顔は、かつてマリエさんに頂いた白い無地の忍仮面をつけている。狐の面は流石にボロボロになってつけていける状態にないので、自室で保管している、大事な誕生日プレゼントだし。
これだけでも雰囲気は異様だ。自分で言うのもなんだけど。
そして服装。半袖半ズボンで動きやすい服装をしてはいるが、そこから出ている腕や足は包帯でぐるぐる巻き。
……客観的に見れば不審者だ。忍びとしては珍しくないかもしれないが、「普段着」と「子ども」という要素が異質さを醸し出しているコーディネートだ。
今朝、施設を出る時も「ほ、本当にその格好で行くの?悟ちゃん……私心配だわ~……」とマリエさんが心配するほどだ。
まあ、切り傷のあとがまだ完全には消えてないし、サスケの発散先になった結果のあざも全身くまなくある。包帯は必要だと判断した。
痛み自体はほとんどないが、公に見せれるような体ではない。……サスケがアザとか見て負い目を感じてほしくないけどこの包帯姿でも変わりないかもなあ。サスケの受けた痛みに比べればかなりマシだと思っているが。
まあ、そんな姿をしているため俺のことを黙雷悟だと理解できる生徒はいなかったようだ。
俺は自分の席までまっすぐ進み、座る。この時点で俺が誰なのか周囲は理解できたようだ。
「……おっす!サトル!おはよう!」
元気にナルトが挨拶をしてくれた。……席に着くまで、挨拶しようかおずおずしていたことには触れないでおこう。
「ああ、おはよう、ナルト。……サスケはまだ来てないか?」
挨拶ついでに聞きたいことを聞く。
「あ?サスケの奴は昨日から来てるってばよ。ずーっとムスーとしてて機嫌が悪かったな」
サスケは一応アカデミーには来るようになったようだ。少し安心した。
「それよりサトル大丈夫か?包帯とか怪我とか、お面とか」
「ん?ああ、大丈夫大丈夫。施設の手伝いで屋根に上ってるときにうっかり落ちちゃってさ。その時に狐の面も壊れちゃって……」
事前にマリエさんと口裏を合わせておいた俺が休んでいた理由を話す。俺が顔を出さなくて心配したテンテンにも、あらかじめ言い訳はしてある。
そんな雑談をしているうち、教室の扉が開きサスケが入ってくる。一部の女な子たちが黄色い声を上げているから、目を向けなくても誰が来たかすぐわかるが。
そんなサスケは俺を見つけるとまっすぐこちらに来る。
「……悟、悪かったな。そのいろいろと」
と照れながらいうサスケに
「おう」と短く返事をする。
「おうおう、サスケちゃんよー!昨日から元気がないようだけど大丈夫かー?今日の組手の授業、ギッタンバッコンにしてやるからな!覚えてろってばよ!」
と俺とサスケの間に割り込みながらナルトがサスケに挑発する。
「はんっ。お前なんて眼中にねえよ、ウスラトンカチ」
とサスケはバカにするような表情でナルトを煽る。……少し嬉しそうに見えなくもない。
もう少ししんみりした空気が続くかと思ったが、ナルトとサスケの関係は変わらないなあ。
何て会話をしているとイルカ先生が教卓を叩いて注目を集め、ホームルームが始まる。
今日もアカデミーでの一日が始まる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
昼食、アカデミーでは昼食は弁当を持参する。
時間はあるのでお金に余裕がある子は外食に行ったりもしているようだ。
俺はアカデミー近くの木陰にあるベンチでいつも昼食をすましている。
基本自作の弁当だが、たまにマリエさんが作ってくれる時もある。
弁当の風呂敷を広げいざ、おかずに手を付けようとしたとき不意に後ろの林から気配を感じた。
開けた口の手前まで運んだ卵焼きを制止し、後ろに振り返ると
「……じゅるり」
ナルトが涎を垂らして木に半身を隠していた。
苦笑いしながら俺が手招きするとナルトは嬉しそうに俺の隣に座り、自身の弁当を広げる。
「ははは、ナルト、おむすびだけとはちょっと質素じゃないか?」
「っむむむ。わかってるてばよ~。だけどな。サトルがカップ麺は駄目だっていうからこれでも頑張って作ってきてはいるんだぞ~」
ナルトの形が不ぞろいなおむすびを一つ頂き、口へと運ぶ。
「……塩つけすぎだぞ」と俺が評価すると
「だーー!?俺の弁当勝手にくうなよー!」とナルトが抗議する。
まあ、もらうだけで済ませるつもりはないので、幾つか俺の弁当箱からおかずをナルトの弁当箱へ箸で投げ入れる。
「おお!?いいのかサトル!頂きまーす!」
とナルトは俺のおかずと自作のおむすびをほおばり始める。
俺の弁当のおかずが目当てで最近はナルトが良く昼食についてくる。
こんなやり取りをしていると少し離れたところでまたもやこちらの様子を伺う気配を察知する。
そちらに目線を向けると、黒髪を揺らしながらさっと影が身を潜めるのが見えた。
……いやまあ、誰なのかは一目瞭然なのだが。俺がいない原作を思うと、彼女はかなりの時間、草葉の陰からこうしていたのだと思うと少し可哀想に思えてきた。
「ナルトぉ、他にもおかず欲しくないかぁ?」
と俺がわざとらしく、意地悪下に聞くと
「えっまじ!?もっとくれんの!」
とすぐに食いつく。
そして俺が箸でヒナタが隠れている辺りをちょいちょいと示す。
ナルトが不思議そうにそちらに目線を向けると、ヒナタを見つけたようで
「おーヒナターそんなところで何してるんだってばよー。昼飯の時間なくなっぞー」
と大きな声で呼ぶ。
呼ばれたヒナタがびくりと体を跳ねさせて持っていた弁当箱を落としそうになったところで、後ろから影分身の俺がその弁当を支える。
「……せっかくナルトのために幾つかおかずを用意したんでしょ?気をつけなくちゃ」
「あ、あ、ありがとう……悟くん……」
とへなへなと座り込むヒナタ。
直後再度ナルトに呼ばれてヒナタが跳ね起きたので、影分身の俺はヒナタと一緒に本体とナルトのもとへと向かった。
合流して影分身と拳を合わせ、術を解除する。ヒナタを見つけた時点で、念のため仕込んでおいてよかった。と影分身の見た景色を確認しながら思う。
「ナ、ナルト君、悟くん、一緒にお昼、いいかな?」
とヒナタが照れて顔を真っ赤にしながら言うと
「もちろんいいってばよ!弁当交換しようぜ!」
とナルトが笑顔で言う。
「おむすびオンリーの奴が良くいうよ……。まあ、俺もヒナタのおかずには興味があるんだけどね~」
と俺が軽口を挟む。
なんて会話を弾ませながら各自の弁当箱のおかずをサイクルする。
((……ヒナタの弁当箱でけえ……))
と俺もナルトも思いながら口には出さず、ナルトはおかずを口に運ぶ。
「うまい!うまいぞヒナタ!」
「う、うん……それはね、給仕さんに教えてもらって私が作ったの♪」
「ああ、本当、おいしいね。量もたくさんあるし、元々ナルトにあげるつもりだった?」
俺もおかずを食べ、冷やかしながら感想を言う。
「私、いつもこれぐらい食べてるよ?」
とヒナタがキョトンと答える。
重箱3段を……?ヒナタって大食いキャラだったっけ?
俺は少し驚愕しながらも箸を進めた。
楽しい昼食になった。
「そういえばサトルってばお面付けたままどうやってメシ食ってんだ?」
「それは私も気になってた……」
「ひ・み・つ」
相手が目線を逸らしたすきに、八門遁甲を発動させて、仮面を上げて物を口に運んで咀嚼する。
バカみたいだが、これがいい修行になる。
……マリエさんの前でやって「行儀が悪い!!」と言われ拳骨くらったので施設ではちゃんと仮面はずして食事してますがね……はい。
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昼食も終えて、午後の組手の授業が始まる。
組手の授業はかなり重要視されているらしく、回数が多い。
戦い方や戦術、道具の使い方をある程度予習してから、約束組手で動作を確認する。
忍びの基本的な戦闘である体術面は疎かにするわけにはいかないんだろう。
今日も鎖鎌の使い方を指導され、模造品で組手形式で無手の相手に使ってみたりもした。
俺はこの手の忍具を扱うのが苦手なようで、それはテンテンからもお墨付きだ。
『悟くん、棍棒以外使わないでね。こっちが怖い』ってね!
なんて思い出して落ち込んでいると、案の定、手を滑らせナルトに鎌をぶつける始末だ。抗議の声が飛んでくるが、手を合わせ頭を下げることしか俺にはできない。
後半の自由組手の時間が始まる。
好きな形式、人数で組手をしても良い時間だ。何となく小学校でのプールの授業を思い出す。
……まあ、俺は目立つのが嫌なので木の陰で休憩しているフリをしている。八門遁甲を開けて自分に負荷をかけてはいるが。
八門遁甲に慣れていくため、開けたり閉じたりを繰り返す。八門遁甲をこのように扱うあたり、俺自身の体はかなりの才能を秘めている様だが、いかんせん魂、『黙雷悟』自体が戦闘に慣れていない。前世が前世なだけに、根本的に戦いが得意ではないんだろうなと自己分析をする。
だからこそ、いざって時のために力押しを出来るよう八門遁甲を極めているのだ。
そうやって俺が自分の世界に浸っていると、目の前に影が落ちる。不思議に思い目線を上げると、『油女シノ』が立っていた。
俺が不思議そうに首を傾げると、「少しいいか」とシノが声をかけてきた。
「別に……いいけど?」と俺が返事をするとシノが語り始めた。
「俺は油女一族の油女シノだ。実は黙雷悟、お前に頼みがある。この俺と組手をしてもらいたい、なぜなら……俺は体術が得意でない。この先、自身の得意な分野が生かせない場合があるかもしれない、そんな時あらかじめ別の手段を用意しておくことは良いことだ、だから……」
「わざわざ俺と組手する必要はなくないか?」
長々と話そうとするシノの会話に割り込んで俺が問う。まあ、心意気は素晴らしいが俺とじゃなくても……
「……なぜなら実力が近いもの同士の方が良い訓練になると俺は考えている」
「ああ……なるほど、納得」
俺は傍から見たら平均よりちょっと下のアカデミー生だ。特に実践形式の授業は露骨に失敗ばかりしてる。体術も真面目にやらず、如何に組手相手を気持ちよく勝たせるか、みたいな演技の練習をしているぐらいだ。
……負けるふりをするたびサスケが抗議の目線を飛ばしてくるのが最近の悩みだが。
「まあ、理由には納得した。OK。組手、やろうか」
と俺は返事をし、立ち上がり木陰から移動する。
「とりあえず、軽く流しで組手して問題点とかを指摘しあう感じでいいか?」
と俺が提案すると
「それでかまわない。それではよろしくたのむ」とシノは対立の印を組む。
俺もそれに答え印を組み、組手が始まった。
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「はあ、はあ、はあ……」
「まあ、これぐらいかなあ」
軽く組手を行い、一息つく。シノはかなり息が上がっている。ひたすら攻めさせていたから消耗が激しいようだ。
「じゃあ、俺から改善点を挙げていくと……」
姿勢や体重移動、攻撃するタイミング、優柔不断な牽制など良くない点を一通り教えた。
まあ、基礎はガイさんとヒザシさんに教えてもらっていたからシノの問題点を見つけることができた。
「……」
シノは生き絶え絶えの状態で俺の言葉に耳だけ傾けて聞いている。……俺の評価は聞けなさそうだと少し苦笑交じりにシノを起き上がらせると、イルカ先生の声が聞こえた。
集合の合図に生徒たちが集まり、俺もシノに肩を貸し向かう。
シノは小さな声で「……感謝する……」とだけ言ってぐったりしている。
こんな平和そうな日常がずっと続けばと思いながらも、俺はそうはいかないことを知っている。
だからこそ、こんなのしばらくぶりの日常を噛みしめ、強くならないければならない。
そして幾つかの季節がめぐり、俺は12歳の誕生日を迎えた。
ちょっと急だけど、幼少期編終了。次回登場人物のプロフィールをまとめてみたい。