<三人称>
アカデミーの卒業試験。それはある程度の筆記、分身の術といった基礎忍術ができれば良い非常にシンプルなものである。
必要な年齢に達したアカデミー生たちに受験資格が発生し、一年を通して一度でも合格できたものが晴れて下忍への門戸を叩くことができる。
しかしそのよう試験でも受からないものがいても仕方がないことで……
「くっそ~次の試験落ちたら流石にまずいってばよ……」
金髪の少年は唸る。自身がいまだに試験に合格できていないことに焦っている様だ。
演習場で黙雷悟に教えをこいながらもうまくいかないうずまきナルトは焦っていた。
「こんなんじゃあ、火影になるのも……」
落ち込み始めたナルトの頭に悟はチョップを入れる。
「こらこら、お前が夢をあきらめてどうする!ほら、落ち込んでる暇あったら練習!」
悟の激励になんとかモチベーションを取り戻すもこの日、ナルトが分身の術を成功させることはなかった。
(なんだろうか、ここ最近ナルトから変なチャクラを感じるような……)
黙雷悟は最近ナルトから違和感を得ていることに一抹の不安を抱えていた。
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別日
黙雷悟が里で施設の食材を買いに出歩いていると、大人たちがざわざわと騒いでいる様子を確認する。
野次馬に近づいていくと怒号が聞こえた。
「こらあーーーー!!ナルト!先代の火影様たちの顔岩に落書き何て!!なんてことをしている!!」
「へっへーん。こんな卑劣な悪戯、お前たちにはできないだろ!だが俺にはできる!」
どこかで見たことのある光景に細目で呆れている悟。とりあえずその場は無視し、悟は施設へと戻っていった。
悟が施設に戻ると、既に昼食の準備が進んでおり悟の食材待ちであった。
「どうした、少し遅かったな」
施設で別の作業をしていた悟が問いかける。
「ああ、ナルトがちょっとな。顔岩に落書きしてて……」
そういうと食材を持っていた悟はボフンと煙だけを残して消える。
浮いた食材を入れたカバンをキャッチした悟は影分身の情報を受け取り、納得した。
「ついにこの時期が来たか……」
「あら~この時期てどの時期?悟ちゃんがタイミングについての話をするときっていいこと起きないのよね~」
「……後ろに気配消して近づかないでくださいよ。マリエさん……」
独り言に反応してきたマリエにジト目で文句を言う悟。
しかし「私がいるのに気づいていたくせに~」と飄々とマリエはその場を後にした。
ふうっと一息ついた悟は食材を台所へと運び、自身の影分身たちに残りの調理を任せて外へと出かけていった。
「ほら~お昼出来たから庭で遊んでるやつ、戻ってこい~」
「手え洗えよ~」
「ほらほら並べ~」
悟の影分身たちが施設の子どもたちに昼食を振舞う様子を目にしながらマリエはため息をつく
「誰に似たのか、私のやることがなくなっちゃうじゃない~」
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「くそ~イルカ先生め」
ブツブツと文句を言いながら顔岩に書かれた落書きを消しているナルト。
イルカも教師としての責務か
「仕方がない、俺も手伝ってやる」
と言いイルカが手伝いはじめていた。
その時ナルトの悪戯に言及しながら悟が現れる。
「一応、水性の絵の具で落書きしたのか……」
「悟!手伝ってくれってばよ~」
「おお、悟か。いつもナルトの悪戯の後始末に付き合ってもらって悪いなあ」
イルカに「いつものことですから」と言い悟は顔岩の壁面に垂直に立つ。
その様子にイルカが関心を示し、ナルトは今だにチャクラによる壁面歩行ができないため、あまり面白く思わないのかふくれっ面をしている。
ある程度目測をつけ、悟は印を結び術を行使する。
「水遁・水あられ」
手を前に構えた悟の掌から水の塊が無数に射出され、顔岩に水を被せる。
水遁で浮いた絵の具をイルカとナルトがブラシで落としていく。
……黙雷悟はここ数年で全ての性質のチャクラを行使できる才能を開花させていた。
当初適性は雷と土だけだと思っていた悟だが、サスケとの修行中にサスケの提案で火遁を試してみることに。
「いや~俺の性質って雷と土だからな~」
とできないと高をくくって教えられた火遁・炎弾の印を結ぶ。
通常、適正のない性質の術を行使するにはそれなりの年月をかけた修行を要する。
しかし口にチャクラが集中するの感じた悟が、仮面をいそいで上に上げると、炎弾が発射され川に着弾。水しぶきをあげる。
サスケと術を行使した悟自身も目を丸くして硬直していた。
そんな出来事があったため、急いで悟は施設のマリエの部屋に向かいマリエにチャクラ紙を貸してもらえないか相談しに行った。
「どうしたの悟ちゃん?そんなにすぐは性質は増えないわよ~」
とそんなことありえないといった態度のマリエだが、悟のことを疑ってはいないので素直にチャクラ紙を手渡す。
悟が火遁を使ったときの感覚を思い出しながらチャクラ紙にチャクラを込めると、紙は見事に炎を上げて燃えカスとなった。
「「……」」
意外な事実に驚く、悟とマリエ。その後試しにと風、水の性質も簡易的な術の印を学び使ってみると、問題なく使用できた。
チャクラ紙でも反応を確認した悟は驚き、気分を高揚させた。
「いいじゃん!いいじゃん!俺の才能が開花している!」と。
ただそうことは上手くいかない。
術を練習し続けることで粗も目立って現れる。
問題点は2つ。
「あれ、連続して別の属性の術を使おうとすると上手く発動できない……」
「簡易的な術は使えるけど、それまででやっぱり実用的な術使うにはかなり時間を割いて修行しないとダメか……」
そう、使い分けが難しく、単純に術を使う素養があっても行使する才能が平凡であったのだ。
そんな自身の欠点を思い出しながら、顔岩の汚れを水遁で落とし終えた悟はため息をつく。……普通の忍びからしたら破格の才能であることに間違いはないが悟の成そうとしていることを鑑みると少々心もとないのである。
そしてそれを羨む少年がここにも一人。
「……」
「はあ、やっと終わったか、どうだ悟、ナルト。この後一楽で飯でも……」
「イルカ先生が奢ってくださるなら」
「おういいぞ!悟は良くいろいろと手伝ってくれるからなあ。アカデミーでの成績は平凡なのに、お前はよくやってくれてるよ。」
明るい笑顔を見せるイルカは「服の汚れを落として一楽に集合な!」と言ってドロンッと煙を巻いて消える。
「よし、俺たちもいったん帰って……」
「なあ、悟」
少し俯いた様子のナルトが悟に問いかける。ナルトのゴーグルが夕日を反射し、表情を隠している。
あたりに不穏な雰囲気とチャクラが漂うのを悟は感じた。
「ん、どうかしたか?」
と何でもないような風に悟が答えるが
「俺ってば本当に……本当に火影になれるのかな」
という弱気なナルトに少し驚く。
「おいおい、どうした。ナルトらしくもない」
「ッ!」
と励ますように悟が肩に手を置くがナルトはそれを払いのける。
「そうやっていっつも何でもないようなカッコうしてっけど!!俺ってば悟にできることは何にもできなくて!!チャクラもうまく扱えなくて!!悟みたいに簡単にたくさん術出来るわけでも、体術が上手くできるわけでもない!!俺ってば……俺ってば……」
ナルトは悟に劣等感を抱いていた。原作ではいなかった身近な比較対象に対して。
その存在はナルトの「できないこと」を明瞭にしてしまっていた。
ナルトの反応に驚き、思考が止まっていた悟だがすぐにそれを察した。けれど自分が何かできるわけでもないことも察したため何も言えない。
(……あまりに近くで接しすぎていたかもしれない……)
悟は自分の気持ちに影が差すのを感じた。なぜか、暗い感情が溢れてくるのを抑えられないと悟は困惑する。これ以上気分を下げるのも悪循環を呼ぶと思い、とりあえずお互い家に帰るように提案をしようとする。
「……そう思うなら、こんな悪戯なんてしてる暇ないんじゃないのか」
(?俺は何を言って……)
「俺だって出来ないことなんていくらでもあるさ……それでも何とかしたいって思って、頑張って生きて来たんだ」
(待て、俺が言いたいのは……そんなことじゃ)
「死にそうな目にあっても、頑張ってきてたんだ!それを……そんな簡単みたいな感じで……!」
自身の思惑と違った言葉を話す自分に、困惑する悟。
これ以上話を続けるのはまずいと思い口を閉じ、深呼吸をする。
ナルトは目に涙を溜めて唇を噛んでいる。
自身の失言に後悔しながらもこの場を後にしたい衝動に駆られ
「……もういい。俺は一楽にいかないから。イルカ先生に言っておいてくれ」
そう言ってその場から跳躍して姿を消した。
残されたナルトは涙を零しながら「畜生……」と呟き、ゆっくりと一楽へと歩みを進めた。
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<うずまきナルト>
悟とケンカした後、俺が一楽に行くとイルカ先生が待っててくれた。
俺が悟は来ないと言うと、どうしてと言われて
「俺が悪いってばよ……。悟が頑張ってるって知ってるのに……。悟がいろんなことできるのうらやましく思って、それで……」
イルカ先生に叱られると思った俺が俯いたまま泣いていると
「バカたれ、そう思うことはおかしい事じゃない。誰だって羨ましく思うことはあるさ。それで将来火影になるうずまきナルトはこのままで良いと思っているのか?」
って言いながら頭を撫でてくれた。
俺は……俺は……
「良くないってばよ……。このまま悟とケンカして仲悪いままなんて嫌だ!俺ってば謝ってくるってばよ!」
俺は悟の家に行こうとする。けど
「まあ、待て。とりあえず腹ごしらえして、気持ちを落ち着かせてからだ。焦っても良いことはないぞ!」
そう言ってイルカ先生が一楽でラーメンを注文し始めた。
俺もイルカ先生の言う通りに席につく。
その後イルカ先生の額あてとか貸してもらったりして、いろいろ元気を分けてもらったってばよ……。本当、イルカ先生っていい人だな。
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腹ごしらえをしてイルカ先生と別れた後俺は、悟の家に向かった。
詳しい場所は聞いてなかったけど、大体の位置はわかるから何とかなるはず……。
しばらくそれらしい場所を探したけど、やっぱりぜんっぜんっわかんないてばよ。
悟は俺が風邪ひいた時、看病しに来てくれたのに……。
少し前のことを思い出すと、俺が悟を傷つけるようなことを言ったことを後悔する気持ちが大きくなる。
「悟……ごめん」
「あら~悟ちゃんのお友達?」
俺がびっくりして振り返ると美人なねえちゃんがいた。
「えっとそうだけど、あんたってば悟の……知り合い?」
「そうね~保護者みたいなものね~。悟ちゃんなら今外出してるから施設にはいないわよ~」
施設?そういえば悟の家って孤児院って所だっけか?よくわからないけど今はいないのか……。
「ありがとうってばよ。それじゃあ俺、帰るから悟に「あら~悟ちゃんに用があるならうちに上がってって~。ちょうど夜食買ってきたところなの。一緒につまみながら待ってましょ~」
「え!?ちょっと待ってくれってばよ!行くって俺言ってないっ……」
俺の話なんて聞いてないのか、このお姉さん。見かけ以上の力でグイグイと俺を引っ張っていったってばよ……。
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<黙雷悟>
おかしい、おかしい、おかしい。
自分の感情を制御できない。あんなことをナルトに言うつもりなんて全くなかったのに。
それどころか、自分のチャクラのコントロールすら覚束なくなっている。
不安定な状態の俺は、夕飯時すぎに、木の葉の荒れ地。人が寄り付かない場所に来ていた。
俺はチャクラコントロールが売りだったのにそれが上手くできない。
試しに岩に火遁・炎弾を放てば想定以上の爆発が起きる。明らかにおかしい!
ただ、全く心当たりがないとは言わない。恐らくは……。
そう思っていると、気配を感じ振り返ると……ナルトがいた。俺のざわつきが強くなる。
「ッ……ナルトか……どうし……た。こんな場所で」
「大丈夫か!?悟、明らかに様子が変だってばよ!」
ああ、分かっている。分かってるけど……。これ以上ナルトに近づくのはまずい……。
「今日は、もう俺は帰るからナルトもさっさと家に……」
「そうやって!一人で抱え込むなっばよ!!マリエさんから聞いたぞ!悟は何でもかんでも一人で背負って自分で何とかしようって無理をするって!!」
余計なことを……。っ駄目だ、思考が引きずり込まれる。
「俺も、俺も悟のために何かしたいんだってばよ!頼ってくれよ!」
ナルトの咆哮に俺の意識が少し正常に戻る。……もう四の五の言ってられない。
「そうか……なっなら頼みがある。ナルト……!」
「なんだ!?」
「俺をぶん殴って……!気絶させてくれ!」
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<三人称>
黙雷悟が気が付くと見知らぬ場所にいた。
さっきまで感じていた憎悪の感情は今は感じていない。
辺りを見渡せば、水路に配管、見るからに下水道のような場所であると悟は気が付く。
「ここは……何となく状況が飲み込めてきたぞ……」
水路を伝って、奥に進むと広い空間に出る。
その先には大きな門のようなものがある。悟はそれを確認すると、さっきまで起きていた感情が制御できない現象の予測を、確信へと変える。
「ああっやっぱり……。何となくそうじゃないかと思ってたけど、まさか当たってるなんてな。」
そう悟が呟くと、門の奥の暗闇から声が轟く。
「貴様……随分とワシのチャクラに感応しているようだな……」
低くうねる様な呟きのごとく響く声は、悟の恐怖心を煽る。
「理由は知らないけど……っお陰様で結構つらいよ。
門の奥の存在が、薄っすらと姿を現す。前足を組み、そこに気怠そうに頭を乗せ、伏目で悟を観察する狐。
普通の狐と違うのは、放つプレッシャーとその巨大さであろうか。
「ナルトの小僧が随分と感情を荒らしているおかげで、ワシのチャクラをほんのわずか外に出せたが。まさか少量でここまで影響を受ける奴がいるとはな……」
九尾は意外や意外と言った様子で語るが、悟を観察する鋭い目は一切ぶれない。
「……ほう貴様……ジジイと同じ……いや、似た匂いを漂わせているな。相性で言えば、ナルトよりも貴様の中の方が居心地が良さそうだな……。どうだ?この封印を解いてくれるなら、貴様にワシの力の一端を分けてやることも考えてやる」
「残念ながら、尾獣を飼う余裕は俺にはないんでね……っ。チャクラもらすのをやめてもらってもいいかな?気が狂いそうになるんでね。」
悟は九尾の負の感情の影響を強く受けているようで、精神世界のこの場でも余裕がなくなってきていた。
その様子に九尾は満足そうに呟く。
「クックックッ。ここで貴様が暴走すれば、運よくワシの封印が弱まるかもしれん。俄然、貴様にチャクラを分けてやる気が出てきたぞ!」
そういうと水面を伝わり、赤いチャクラが悟の周囲を取り囲む。
(……ああ、まずいな)
冷や汗が止まらない悟はどうにか抵抗できないか、思案するが何も思いつかない。
チャクラが悟に触れる寸前。赤いチャクラが悟の後方へと流れていく。
「なにぃ!?」
九尾の驚きの声に、悟が後ろを振りけるとそこには
『悪いけど、九尾。今の君の力は
黙雷悟がいた。瓜二つ、全く同じ姿形、声も同じ。その姿に悟が驚愕して声も出せないでいると、九尾が面白くないと吠える。
「ふんっ貴様、随分とめんどくさい存在のようだな。影響を与えられない以上貴様らに用はない!!ワシの前から消えろぉ!!」
九尾の咆哮に悟が吹き飛ばされ、周りの景色が遠のいていった。
ドンッと悟が衝撃で意識を取り戻すと、自分の精神世界。草原の中に尻もちをついて座っていた。
「……何が何だか……ははは」
そう呟くと悟の後ろから声が聞こえる。
『今はまだ、僕と君との繋がりが強くないから、これ以上の干渉は出来ないけど尾獣からのチャクラによる影響は僕が引き受けるよ。だから安心して』
「いやいや!あんた誰だ!俺と同じ、というかこの精神世界にいるってどういう……!」
そういって悟が振り返るとそこには誰もいなかった。
そして声だけが響く。
『君にはやることがあるはずだよ。さあ、起きて時間がない』
「説明を!」
「しろぉ!!」
そういって悟は布団から体を起こす。
そう、気が付くと自室の布団に寝ていた悟は目を覚まし、起き上がった状態にある。
混乱している悟が思考停止していると、声を聞きつけたマリエが声をかける。
「悟ちゃん!やっと起きたのね!大変よ、ナルト君が……」
起き抜けの悟に飛び込む情報。
禁術を記した巻物をうずまきナルトが盗み出したことを知らされた黙雷悟は焦る。
(何か禁術を知りたいと思ってこの機会を待っていたのに!出遅れた!)
急いで忍び装束に着替えた悟が八門で強化した状態で施設を嵐のように出ていく。黄昏時ぽつんと残されたマリエが呟く。
「まったく……忙しい子ね」