<三人称>
黙雷悟が精神世界から覚醒したのは、悟がナルトと接触し気絶させられてから丸一日時間が過ぎた時だった。
自身が体感していた時間より遥かに現実の時間は進んでいたことに悟は焦っていた。
既に日が沈み始めた時刻。ナルトが火影屋敷から禁術の巻物を盗み出して、ある程度の時間が経ち、マリエでさえもその情報を掴んでいるほど事は進んでいる。
食事もとらず、ろくに休息も挟んでいない悟は、体力的きつさを感じながらも急いで自身の忍び装束に身を包む。
この日、悟は将来のため禁術の書から幾つかの術の情報を得よう考えていた。しかしその機会の唐突さに悟は焦りながら着替えていく。
ガイからもらっていたタイツを黒く染めたものの上に、黒いパーカーに灰色のズボンを身に着ける。軽い竹で作られた手甲、足甲は黒く色が塗られ、赤い紐で連なっている。
標準的な忍びのサンダルを履き、背中には黒い鉄棒をクロスに差した帯を背負う。
そのまま急いで玄関を飛び出ようとしていた悟にマリエが仮面を投げつける。
「流石にこれを忘れちゃダメでしょ!焦りすぎよ悟ちゃん」
呆れた様子でそういうマリエにしまったと苦笑いしながら悟はキャッチした仮面を顔につける。
「ありがとうございますマリエさん!ちょっと出かけてくるので、夕飯には遅れると思います!」
そう言うと悟は八門遁甲で強化した身体能力で外へと駆けていった。
「まったく……忙しい子ね」
ポツリとマリエが呟くと、既にマリエも施設の中から姿を消していた。
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里を駆ける悟は違和感を感じていた。里の雰囲気がおかしいと。
ピリピリした感情が渦巻いているような感覚を肌で感じながら、悟は感知能力を働かせる。
すると、チャクラとも言えない不自然なエネルギーが里中に漂っていることに気が付いた。
(これは……九尾のチャクラ?いや、チャクラと言うよりは九尾の精神エネルギーだけが漂っているのか。これの影響で周りの人はピリピリしているようだけど……)
周りを見渡すとイライラしている様子の大人や、口論している夫婦。ケンカしている子どもたちがチラチラといる。
悟が自身に影響がないのは、あの精神世界にいたもう一人の自分のおかげなのかと、ふと考えていると精神エネルギーがより濃い場所で忍びたちが結集していることに気が付く。
「どのみちろくな奴じゃねーんだ。見つけ次第殺るぞ!!」 「おおおおおおおお!」
その様子を仮面に隠した表情を暗くしながら悟は走りながら見ていた。
(う~わ。原作でも見たことあるシーンだ……。胸糞悪いけど、見た感じ九尾の影響があったから皆、あんなに殺気だっているのか……。漫画で見たシーンより人が多かった気がするけど)
ナルトの精神面が不安定になったせいで漏れ出た九尾のエネルギーはかなりの影響力があるようだと考察しながら、悟は朱い精神エネルギー漂う里を駆け、大元のナルトの居るであろう里外れの森へと駆けていった。
その様子をすれ違いざまに見ていた少女が一人。
「あれは……不審者!?あんなに急いでいったい……何処へ?」
少女は興味のまま、悟のあとを追いかける。
「ハナビ様?今宵はあまり里の雰囲気が良くありません。今日は早めに屋敷に帰り……あれ?ハナビ様?!」
一人残された日向ナツは不意に消えた本家の跡目を探し、白眼を使う。悲しいかな彼女の白眼では既に見えない位置にハナビがいるとも知らずに逆方向へと歩みを進めた。
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森の中、悟は八門遁甲を解除し影のようにこそこそと木の上を移動していた。
(何故か人の気配がこの森の中で多く感じる。この騒動でここにいるのはミズキ先生とイルカ先生、ナルトの三人だけだと思っていたのに……)
悟は原作では居ないはずの気配に注意しつつナルトを探していた。ナルトのチャクラは特別分かりやすいので場所もある程度特定済みである。
ナルトのいる場所まで行くと、ナルトが何やら印の練習をしているのを悟は確認した。
(多重影分身の術を練習しているのか……、練習に集中していて俺には気づいていないな。)
悟は木を降り、ナルトの近くまで気配を消して近づく。悟の忍びとしてしのぶスキルはまだまだ粗削りだが、ナルトはその気配には気が付かなかった。
小物への変化は悟にはできないが、幸い禁術の書は大きいため、悟でも問題なく変化することができる。
(小物に変化するには時空間忍術の適性が必要だけど、俺はその適性が全くないからなあ……。おかげで封入・開封の術ができないから鉄棒も二本とも背負う羽目に……)
そう考えながら、自身の影分身を禁術の書へと変化をさせて、悟は本物とそれをすり替えることに成功した。
(ナルトすまんな……。いったんこれは俺が預かるよ)
いったんナルトから距離を取るため悟は、書を腰に背負いその場を後にした。
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ナルトから距離を置き、身を隠せそうな藪の中で悟は書を置く。
早速書を拝見しようと思った悟だが、ふと原作でのある知識を思い出す。
(……
そう思い、ため息をついた悟は変化の術を使う。悟が変化したものは……。
長い黒髪に健康的な張りのある体系。濡れたワイシャツのようなものを一枚だけ羽織り、普通見えてはいけない局部が上下ギリギリ隠れているような、そう所謂『美女』である。
悟が変化した美女は顔を赤らめながらその一枚だけのシャツをゆっくりとゆっくりと脱ぐような仕草を行う。体はフルフルと震え、顔の紅潮もより鮮やかのモノとなる。
そしてその局部が露わになる瞬間。悟は変化を解いた。
元の姿に戻った悟は自身の行動の恥ずかしさに仮面の下を赤くしていた。傍から見たらただの狂行である。
(
空を見上げて悟は思う。
(意味はないかもしれないけど一応な。一応。俺のお色気が通じるかはわからないけど。)
そうしてようやくと言った感じに悟は恥ずかしさに紅潮する顔を抑えながら、封印の書を開封した。
最初に書かれている多重影分身の術は使う気がないため、飛ばして読み始める悟。
(飛雷神の術……これは時空間忍術苦手な俺には論外だな。穢土転生……使う気はないけど一応やり方だけでも覚えておくか。互乗起爆札……うわっえっぐ……。)
目ぼしい術を自身の持つ巻物にそのやり方などを書き写しながら、悟は封印の書を読み進める。
(影分身の
書を読みふけっていた悟の元に大きな爆音が届く。
そして地面を伝い弱い地鳴りが起きる。
(なんだ?こんな爆発が起きるような戦闘に漫画でなってたか?……何だか嫌な予感がするな……)
違和感を覚えた悟は封印の書をたたみ、戦闘が起きているであろう場所まで移動を始めた。
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爆発音の現場まで悟が駆けつけると、その状況に愕然とした。
(な、なんだこれ……!?)
辺りの木々は爆発により引火したのであろう。ちりぢりと燃え、煙が辺りを包んでいる。
地面には負傷したイルカと、それを庇う様に囲う数人のナルト。そして彼らを木々の上で見下ろす……
「おい、おいどうしたあ?さっきまでの威勢はどうしたよ!化け狐!!俺をぶっ飛ばすんじゃなかったのかあ?!」
ミズキと複数人の忍び。
正にナルトの絶体絶命のピンチといった状況であった。
(何でミズキが優勢で、しかも敵っぽい忍びが複数いるんだ!?)
自身の原作知識との解離に混乱する悟の元にイルカの声が届く。
「お、お前らあぁ……何でミズキなんかと一緒に……こんな事を!」
イルカの怒り震える問いにミズキの隣の忍びが笑いながら答える。
「ミズキさんが誘ってくれたのさ!バカな奴らを騙して、利用して!そうして他の里に封印の書の情報を売り込んでやろうてなあ!」
また別の忍びが興奮した様子で答える。
「俺たちは芽が出ない下忍や中忍の集まりだが、ミズキさんが目をつけてこの作戦に誘ってくださったんだ。これで俺たちも強くなれる!金も手に入る!」
そして満足そうにミズキが答える。
「まあ、こんな感じだあ、イルカ。俺を慕い着いてきてくれる
ミズキの様子にナルトが吠える。
「うるせえ!!!イルカ先生をバカにすんじゃあねえってばよ!」
ナルトが印を結び影分身を生み出し、影分身が影分身を投げ、複数人の木の上の忍びに向かって突進する。
しかしそれらの分身たちは手裏剣やクナイ、火遁などの攻撃で全て迎撃されてしまった。
「くそお!」
ナルトが悔しさに言葉を吐く。それを面白そうに見下ろしたミズキが口を開く。
「最初数千人か数百人かの多重影分身の術を使ってきたときはヒヤッとしたが、たかがアカデミー生のそれも落ちこぼれの分身だ。
高笑いをするミズキ。
その様子を影から観察している悟は自身がどう動くべきか、迷っていた。
(ここで戦うのは、まずいか。俺一人ならともかくスタミナ切れかけて肩で息をしているナルトに、負傷しているイルカ先生を守りながらは……。二人を抱えて逃げるのも手だがこいつらを野放しにするのも……。それに実力を隠してこいつらを撃退はまず無理だろう。そうするとイルカ先生に俺の実力がばれてしまうし……。それに封印の書を手渡すわけには行かないし、どうする?!)
悟の思案を遮るように、ミズキの元に新たに現れた忍びがミズキに声をかける。
「ミズキさん!森でこんなガキを見つけました!どうしましょうか!」
「あん?おお、こいつは……」
「日向のガキじゃねえか!」
その声に悟は驚愕し目を向ける。
その目線の先では、日向ハナビが顔を殴られたのであろう。頬を青くし、ぐったりとした様子で忍びに抱えられていた。意識はあるようだが、恐怖で体が硬直している様だ。
その様子を確認した悟の思考は止まった。
「いいぞ!そのガキは売れる!それになあ……オイ!ガキにクナイをあてがえ!」
ミズキの指示でハナビを抱えた忍びはクナイをハナビの喉元に向ける。
「イルカあ!このガキの命が惜しければ!その封印の書を大人しく渡せ!お人好しのお前なら快く聞き入れてくれるよなあ!!」
これ以上面白いことがないというほど、上機嫌に表情を歪めるミズキにイルカは怒りで震えていた。
「ふざけたまねを!ミズキぃ!!」
ナルトも怒りに吠える。
「てめえ卑怯だぞ!!」
それらの咆哮などどこ吹く風かミズキには何の影響も与えない。ミズキが手で合図を送ると、ハナビに当てられたクナイが皮膚に食い込み血が流れる。恐怖と痛みで涙を流すハナビの様子にナルトやイルカが封印の書を手放そうとしたとき。
ハナビを拘束する忍びの上空で緑の閃光が走る。
上空から落下してきた緑の閃光は体を捻り勢いをつけ両手に持つ鉄棒でハナビを拘束している忍びの両腕を砕く。拘束を解かれたハナビを抱えた緑の閃光は砕かれた腕を認知する前の忍びの顔面にドロップキックを決め、反動でナルトとイルカの元へと降り立つ。
一連の流れにその場の誰も反応することができず、打撃を受けた忍びが地面に落ちる音と叫び声で周囲が事の流れに気づき始める。
八門遁甲・第四傷門を開放し、緑のオーラに包まれた黙雷悟の存在に周囲がどよめく。
「さ、悟か……?悟なのか!?」
ナルトが少し嬉しそうに問う。
「ああ、そうだ……。悪かったなナルト出てくるのが遅れて……」
普段の悟とは声の雰囲気が違い、あからさまに怒りを抑えているという悟の様子にナルトが少し怯む。
「ごちゃごちゃ考えるのはなしだ……。俺が全部ぶっ飛ばして、全部守ってやる。イルカ先生もナルトもハナビも!だから……!」
緑のオーラがより荒れ狂う様子が傍から見てもわかり、ミズキたちは怯んでいる。
ナルトはそんな悟に怯みながらも悟に近づき、そして
「バカ野郎!!」
頭頂部に拳骨を振り落とす。
「痛い!」と安直な感想を言う悟に、ナルトが叫ぶ。
「そうやって!一人で抱え込むなってばよ!俺は悟から見てそんなに弱いのか!?守らなきゃいけねえほどなのか!?確かに今はそうかもしれねえけど!だけど!!」
「俺たち友達だろ……?もっと頼ってくれってばよ……」
悲痛なナルトの様子に悟は目を見開き、八門遁甲を閉じる。
ナルトが感じていた悟への劣等感。しかしナルトが悟に対して本当に感じていた感情は。
周りを支えるという使命感に帯びた悟に対等に見てもらえていないという悲しみであった。
周囲に気を配り、まるで保護者かのように振舞う悟との関係性の歪さにナルトは違和感を持っていた。
黙雷悟は周囲を信頼していない。傍から見れば悟はそう見えていたのだ。
悟本人の意図とは違っても、周囲を守ろうとする気持ちが早っていた悟はそのように振舞っていた。
その事実をナルトは悟に突きつけた。
そして悟は……
「……ああ、そうか。そうだよな一人で突っ走って、施設のことも何でも一人でやろうとして、成長しているようで、精神面は全然だなあ、俺」
自嘲染みた笑いを響かせて仮面に手を当ててそう呟いた。
(原作を知っているから、俺がどうにかしないとって焦りすぎてたんだ。うちはと日向の件で少し天狗になってたか?俺一人で運命を変えられたと?お笑いものだな。誰かの手助け無しだったらとっくに死んでたくせに……)
「はああぁ……よし!!」
大きく深呼吸をした悟は
「ふん!!」ナルトの顔面を殴りつける。
「いってええええ!何すんだってばよぉ!悟……」
「これで
「……!おう!!そう来なくっちゃなあ!悟!」
そっぽを向きながら拳を向ける悟に満面の笑みのナルトが拳を合わせる。
その瞬間飛来するクナイを悟が鉄棒で弾く。
「少し待たせすぎましたかミズキ先生?焦ってもいいことないですよ?俺が言うのもなんだけど」
煽るように鉄棒の先をミズキに向けて悟が挑発する。
「はん!アカデミーでも落ちこぼれに、平均点以下の目立たないクズの二人に何ができる?この状況分かってんのか?」
木の上に並ぶ忍びたちが威圧するようにチャクラを高める。
しかしその様子を鼻で笑い悟とナルトが並び立つ。
「何ができるって?そんなの決まってるってばよ……!」
「「てめえらをぶっ飛ばせる!!」」