目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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27:親の心子知らず、子の心も親知らず

<黙雷悟>

 

 

テンテンとの組手からさらに数日後。俺はアカデミーで作成される忍者登録書について、頭を抱えていた。

 

忍者登録書とはまさにそのまま、隠れ里の忍びとしてのプロフィールを示す。

 

自身の大まかな戦法から出身、血統、身長体重年齢etc.自分の情報を出来るだけ残したくない俺にとっては悩みの種だ。

 

特に写真撮影なんて、素顔は晒したくないしなあ。

 

いや待てよ?忍者登録書ってことは……。

 

とかなんとか思いながら作成日当日。

 

火影屋敷の屋上でプロフィール用の写真撮影が行われるが……。

 

「オメエェ、本当にそんな状態で……撮るのか?」

 

撮影係の人が呆れているが、俺はそんなことお構いなしに

 

「大丈夫です。ほら一思いにお願いします!」

 

「さっきは歌舞伎メイク(・・・・・・・)の子のことを叱っておいて……忍者になる奴は変わりもんばっかだな……後悔すんなよ!」

 

パシャっ

 

~~~~~~

 

 

 

という訳で写真撮影を終え、忍者登録書の内容も書き終えた。

 

あとはこれを火影様に提出すれば今日のやることは終了。明日の班決めの説明会まで自由時間だ。

 

という訳でさっそく、木ノ葉隠れの長。火影「猿飛ヒルゼン」その人に書類を手渡す。

 

「……この写真の意図を……取りあえず聞いておくかのぉ?」

 

一目見てプロフィールの、仮面を着けたまま撮った写真について問われる。なので俺もそれについて用意しておいた回答をする。

 

「俺にとって、この仮面(・・・)こそが木ノ葉の忍びとしての顔です。これは冗談とかではありません。俺は大切な人が与えてくれたこの(仮面)を掲げ忍びとなります……!」

 

この内容に噓偽りはなく、事実しかない。俺は真っすぐ火影の目を見つめる。

 

マリエさんから与えられたこの仮面はもはや、素顔よりも知れ渡った黙雷悟の顔だ。これも事実である。

 

少しの沈黙の後、ため息をついた火影が「まあ、良いじゃろう。どこぞの上忍も顔を大半隠しておるしな。素直に写真を撮りたがらないのはある意味忍びとしては正しいのかもしれん」

 

そういい火影認可の判がおりた。……良かった~

 

部屋から退室するとき、ほんの一瞬、火影が何かつぶやいているように感じたが俺にその詳細を知る機会はなかった。

 

 

~~~~~~

 

午後からは特に予定もなく、里をぶらぶらしていた俺が衣装屋の前で暇つぶしに品物を物色していると後ろから声をかけられる。

 

「こんにちわ。悟君、ちょっと今時間良い?」

 

ヒナタか……なんかちょっと照れてる? まあ自分は怒ってるマリエさんがいる施設に帰りづらいから時間を潰してるだけだし「大丈夫」と答えてヒナタの誘いに乗る。

 

「お父様とヒザシさんが、悟君を呼んできて欲しいって……」

 

 

 

 

 

一気に帰りたくなった。

 

~~~~~~

 

日向の屋敷。もう何度も訪れているここで俺はその当主とその弟と正座をして向き合っていた。

 

(柔拳を教えてもらえるように頼んだ時と状況が似てるなあ)

 

なんて過去に思いをはせていると、ヒアシさんが口を開く。

 

「この度はハナビを……娘の命を救って頂き、誠に感謝いたす。ついてだが謝礼として君に少し相談、というより提案があるのだが聞いてもらえるだろうか?」

 

俺はとりあえず「いえいえ」、とか「はあ」とか相槌を打ちながら話を聞いている。

 

提案なんて何事かと思いヒザシさんに目を向けると申し訳なさそうな目でこちらを見ている。……ヒザシさんの方が感情を表に出してくれる分接しやすい。公的な状態でなければヒアシさんのことも「兄上」ではなく「兄さん」と呼んでいるし、兄に比べフランクな方だ。

 

そんな人の微妙な表情に不安感を持ちながらも「その提案とはなんですか?」と話を進める。まあ、取りあえず冷静さを保つためにナツさんに出された茶を飲む。……美味い。

 

 

「縁談だ。俺の娘のヒナタとの婚約の話を考えて欲しい」

 

「ブフウウゥぅぅッッッ!!……ッ……ッ!ゲホゲホっ!」

 

仮面の目だし穴からry…………何なんだ?! この世界はっ!! 俺にお茶を噴出させる回数のギネス記録でも狙ってんの?!

 

スッと出てきたナツさんから布巾を受け取り、息を整える。取りあえず仮面は外す。日向の前では仮面はあってもなくても同じだし、もう汚したくない。

 

若干睨みを効かせている俺にヒザシさんが苦笑いをしながら意図を話してくる。

 

「君のことだから、しっくりこないかもしれないが日向との縁談(・・・・・・・)とは忍びの世界からしたら妙々たるものなのだ。そしてこちらからの縁談ということは……」

 

「いやいやいやっ! 俺が思ってることはそういうことじゃなくてっ!!」

 

珍しく声を荒げる俺にヒアシさんとヒザシさんが押し黙る。

 

「ヒナタとの縁談?確かに普通に考えたら物凄く嬉しいことかもしれないですが……」

 

あんなに可愛い子との縁談何てひゃっほいと言ってしまいたい気持ちもなくはない。だが……そこに

 

「その話にヒナタの意思はあるんですか? 恐らく、いや絶対ないですよね?」

 

ヒザシさんとヒアシさんが俺から少し目線を逸らす。

 

忍びの世界、まあ12やそこらの歳で縁談があってもおかしくはないのだろう。だがヒナタにそれは余りにも酷だ。彼女が好きなのは……ナルトだ。

 

ずっとそばで見てきた。それこそ9年ぐらいの歳月。彼女がどれだけナルトを思い、努力してきたかを俺は知っている。だからこそ彼女の自由意思を尊重しない話に虫唾が走る。

 

「彼女にだって自由に相手を選ぶ権利ぐらい……「そんなものなどない」っ!!」

 

唐突な声に振り向くと、そこには

 

 

日向ネジがいた。

 

彼の言葉にカチンとくる。珍しく怒りの感情が表に出る。

 

「ああ?! そんなものはないだと? あるに決まってるだろ!」

 

跡目を救われたから、謝礼として血縁者を差し出すなんて馬鹿げている。

 

「あの落ちこぼれの娘に出来ることなど、そういう(・・・・)一族を存続させる……っ!」

 

 

空気を切る音がなる。

 

 

俺が繰り出した、顔を狙った上段横蹴りをバックステップで避けるネジ。

 

「それ以上口を開くな……! 不愉快極まるとはこういうことか……!」

 

「ふん……ゆるぎない事実だ。そしてこれこそが決められた運命だ! 力なき者にもそれなりの利用価値があるだけマシだろう?」

 

鼻で笑い、ヒナタをモノ扱いするこいつに俺の感情が揺さぶられる。

 

「利用価値……だと?」

 

彼にもそれなりの事情があるのは理解しているつもりだが流石に堪忍袋の緒が切れた。

 

俺が一歩、本気で踏み込んで攻撃を放とうとするその瞬間。

 

ヒナタが俺に抱き着き制止させる。

 

「大丈夫だから! 悟くん! 私のことは良いから落ち着いて!」

 

「良くねえよっ!ヒナタの気持ちを無視したこの一連の事も、この野郎も!! 一発ぶん殴らないと気が済まない! 蹴りでもいいぞ!」

 

一触即発の雰囲気。ネジは白眼を発動し俺も八門を……

 

ネジ、下がれ。二度は言わない……!

 

大きく響くヒザシさんの怒号が鳴る。

 

それに怯んだネジは「ふんっ」と鼻を鳴らし、面白くないといった表情を浮かべこの場から去っていった。

 

 

 

俺も一度座り一応深呼吸して落ち着こうとする。……すう……はあ……すう……あっ駄目だわ。

 

「やっぱあいつぶん殴って……!」「駄目、駄目だから、ほら悟君落ち着いて! 深呼吸して、ほら!」

 

立ち上がろうとする俺を抑えるヒナタ。そこに……

 

「黙雷さん! 落ち着いてください!」とハナビまで参戦してくる。

 

流石にこうも抑えられると暴れるわけにもいかない……。

 

俺は内心を抑えるように努めるが表情は怒りの形相のまま、ヒアシさん達に向きなおす。

 

「はい……冷静になりましたぁ。お見苦しい所をお見せしましたぁ……!」

 

そう口に出す俺だが傍から見て(そんなことは決してない……)という突っ込みを個々人の心のなかで受ける。俺には知りえないことだが。

 

「……君の気分を害して済まない。だが我々の事情もおもんばかって欲しい」

 

ヒアシさんが謝罪と説明をしようとするが、頭に血が上っている俺は先手を打つ。

 

 

 

「……いいでしょう。その縁談受けます」

 

 

 

 

 

 

 

周囲が呆気にとられる。さっきまでの俺の言動と矛盾した答えをいきなり突きつけたので当然とも言える。

 

言葉の意味を理解しヒナタは顔を赤らめ、なぜかハナビは絶望的な表情を浮かべる。

 

ヒアシさんとヒザシさんも動きがフリーズしている。なんやかんやで俺が断ると思っていたのだろうが知ったことかっ!

 

「ほら、ヒアシさん……いえお義父さん(・・・・・・)。早く手続き、済ませましょうか?」

 

完全に思考が止まっているヒアシさんをしり目に、何とか正気を保っているヒザシさんを動かし、その日のうちに書類作成などの手続きを行っていく。

 

そして

 

「この巻物に指印をお互い推せば、婚約がなされるが……」

 

説明途中にバンッと音が鳴る勢いで指印を押す。俺の躊躇のなさに、顔がひくついているヒザシさん。

 

「ほら、ヒナタもここに」

 

俺がヒナタにも促す。ヒナタは「えっ……あぅ……うぅっ……」と顔を紅潮させて目を回している。ヒアシさんも白い目の白目を向いて硬直したまま。……ハナビはうつ伏せで畳に伏せたまま微動だにしていない。

 

「さあ!」と俺が再度促すとヒナタも破れかぶれと言った様子で「ううううううう~~~~!!」と唸りながら指印を押す。

 

「よし、それじゃあお義父さん。俺はヒナタさん(・・・・・)を俺の家での夕飯に誘いますのでっ! そうだ、ハナビさん(・・・・・)、妹さんも一緒に行きましょう!」

 

そういって俺は仮面を着け、目を回しているヒナタと微動だにしないハナビを両脇に抱える。

 

「それじゃあっ御機嫌よう!」と言って八門を開放。二人をさらう様にその場を後にした。

 

さっきまでのカオスな空間から一転、静けさだけが日向の屋敷に流れる。

 

「……彼なら体よく断るか話を延期させると踏んでいましたが、まさか……? ちょっと兄上? 兄上ご無事ですか!? ……兄さんってば…………!」

 

白目を向いたままののヒアシを揺するヒザシの声だけが木霊した。

 

その一部始終を見ていたナツさんはヒザシさんの「悟君なら大事になることはしないと思うが、念のため様子を見てきてくれ」と指示を受け、一応俺のあとをつけてきた。

 

~~~~~~

<三人称>

 

この忍界では契約はかなり重要視されている。

 

婚約もまたこの世界では大きな力を持ち結婚とほぼ同義である。

 

契約巻物に自らの血で指印を押す行為はお互いをお互いに契約で縛るものであり、その契約を破ればそれなりの罰が下される。

 

この契約を解除するにはお互いの同意の元巻物を破棄しなければならない。

 

そんな契約をヒナタと結んだ悟は、施設へと彼女とその妹のハナビを連れ込んでいた。

 

「おか……!?」

 

先の事件のことで怒っているマリエが悟の帰宅を感じ取り、一応の出迎えをするがその光景は両脇に日向の御息女たちを抱えているというものだった。

 

(!?!?!?!?!)

 

流石のマリエも混乱した。そのまま悟は「ただいま」と不貞腐れた声で言い施設の中に踏み込んでいった。

 

「なっなにがなんだか……わからないわ~?」

 

マリエの抱く当然の感想が施設の中。悟を目撃した他の職員や子どもたちにもその後伝染した。

 

 

悟の部屋。そこは布団が引かれて引き出しが一つついた小さな机があるだけの簡素な場所であった。

 

そこにヒナタとハナビを放り込み、鍵を閉める悟。

 

状況が状況なために鍵を閉められた瞬間、ヒナタは「うひぃ!?」と声にならない声を上げる。

 

悟がいつも使っているだろう布団の上にヒナタとハナビがいる。その状況に鍵を閉めた悟がゆっくりと振り返り……

 

「土遁・防音壁土(ぼうおんへきど)」の術を行使。部屋の壁と床が黒い土で覆われ防音処理が施される。

 

窓も塞がれたことで月明りが消え天井からつるされた灯りだけが部屋を照らす。

 

あまりの徹底っぶりに自分とハナビの運命を悟り、ヒナタは目を閉じる。

 

(ああ、初めてはナルト君が良かったなあ……)と後悔の念を抱きながらヒナタは覚悟を決めていた。

 

そして、悟がヒナタの肩に手を置き……

 

 

 

 

 

 

 

「悟ちゃん!!!! そういうのは少し早いと私思うわ!!!!」

「悟様!! 婚約したのはヒナタ様ですよ!? ハナビ様にまで手を出そうなんて何て鬼畜なっ!!!」

 

マリエの持つマスターキーで開かれた扉から女性が二名、苦言を呈してきた。

 

「……」

 

無言で真顔の悟が二人を認識すると、ため息をつく。

 

「何か……勘違いしてません?」

 

 

~~~~~~

 

施設「蒼い鳥」の応接室。

 

かつてガイとマリエがひと悶着起こしたこの場は、現在先ほどの悟の自室のように防音壁土による処理が行われ、鍵も閉められている。

 

そこの机には、マリエお手製の夕飯が並べられ、悟、マリエ、ヒナタ、ハナビ、ナツが席についていた。

 

悟の自室ではこの人数は入りきらないので、全員が精神を落ち着かせてから移動してきた。

 

もぐもぐと白米を咀嚼し、飲み込んでから悟は訳を説明する。

 

「俺だって考えなしってわけじゃないですよ。確かに頭に血が昇ってたけど考えがあってあえて婚約の儀をしたんです」

 

説明を続けながら、悟は茶を飲む。……茶を飲む時に謎のフェイントを入れている様子に、周囲は不思議がる。

 

「つまりは今回の縁談を断っても、第二第三の婚約者候補が連れられてきてそのうち問答無用でヒナタが婚約させられるかもしれない。それを防ぐために俺が婚約者になり、しかるときにお互い同意の元、婚約を破棄しようというのが俺の作戦だったんですよ」

 

それを聞きヒナタが心底ほっとしたように息を吐く。ハナビの目にもハイライトが戻る。

 

「でっそれを当人と妹のハナビに説明するために情報が漏れないよう注意して俺の自室に連れてきたんです。それを……」

 

悟は大人二人をジト目で見る。

 

婚約の儀をしたが結婚する気がないなど知られれば、日向のお家からしたら面目丸つぶれも良い所である。なのでそこを配慮して当人たち以外にはこの意図を知らせずにいようとした悟の思惑はマリエの管理者権限(マスターキー)によって潰されてしまった。

 

結果的に日向の分家のナツにも事情が知られてしまい、悟は今までマリエには見せたことのない睨みを効かせてため息をつく。

 

そのため息が自分に向けられたものだと感付きマリエは表情を不服そうにする。

 

「でも、そういうことなら事情を説明してくれたら~……」

 

「そうは言ってもマリエさん。最近怒ってて俺の話聞いてくれませんよね?」

 

「そ、それは悟ちゃんが悪いんでしょ! 心配かけるようなことばかりして!」

 

「それとこれとは話が別でしょう! それに鍵かけた自室に即突っ込んでくるとかプライバシーを考えてくださいよ!」

 

珍しくお互いに語気を強めて言いあいを始める悟とマリエ。

 

「あ、あの~、私はヒナタ様とハナビ様の幸せを願っていますので口外はしないと誓います。なのでお二人もケンカはせずに……」

 

ケンカをおっぱじめようとする二人を仲裁するようにナツが割って話す。

 

「ほら! ナツさんも言わないって言ってるじゃない! 大丈夫よ!」

 

「結果論でしょそれは! マリエさんが普段から用心深くしろって言ってるくせに、自分が行き当たりばったりなの誤魔化さないでくださいよ!」

 

(あっこれ収拾つかないな)とナツは察し、出された夕飯をさっさと食べてしまおうとヒナタとハナビに提案する。

 

ヒナタもハナビも、段々と口喧嘩がエスカレートするこの場を早く離れるため食を進める。幸い味は良いので、喉をすんなり通るのは幸いか。

 

(あっこの味付け……悟君の料理と似てる。やっぱりこのマリエさんっていう女の人が悟君に料理教えてたんだぁ……)

 

とヒナタは一気に色々なことが起こりすぎて気疲れがピークに達してきているので現実逃避をし始める。

 

すると

 

バンッと机が音を鳴らすような感じで叩く動作を寸止めしたマリエが立ち上がる。 ……実際に机を叩いてはいない。

 

「こうなったら……庭に出ろバカ者! 婚約の儀なんて大切なことを保護者の私に相談もせずに決めやがって! 根性とかもろもろ叩きなおしてやるっ!」

 

同じく音は鳴らさず叩く動作だけして悟も立ち上がる。

 

「いいですよ受けて立ちますよっ! いつまでも俺がマリエさんに敵わないと思ったら大間違いですよ! 子ども扱いも大概にしてください!」

 

 

 

 

 

……妙な間をおいて二人はいそいそと座り、黙々と残りの夕飯を食べ終える。

 

二人同時に食べ終わると、食器をまとめ、お互い影分身を出して食堂まで運ばせる。

 

そしてマリエは「すぐに終わらせるから、3人ともゆっくり食べてて大丈夫よ~」といい部屋を出る。

 

その後悟が「明日、アカデミーで班決めの説明会あるけどヒナタはどうする? 今日は泊まってく?」とヒナタに問う。

 

それにナツが「今日の所は色々と事情が混線しているのでお屋敷に帰らない方が良いかと、ヒナタ様。ハナビ様はどうされますか?」と話を続ける。

 

「姉様が泊まるなら私も泊まる!」

 

「迷惑じゃないかな……大丈夫? 悟君?」

 

「部屋ならそれなりあるから大丈夫。客室があるし、そこでなら十分寝れるよ」

 

「ではヒナタ様、ハナビ様、私はお着替えを屋敷に取りに行きますね」

 

ある程度今夜の予定を取り決めてから、悟は部屋を後にした。

 

残された3人は、肉じゃがや焼き魚などのごく普通の家庭ででるような夕飯に舌鼓をうつ。

 

「姉様、あのマリエって人は黙雷さんのお母さんなの?」

 

「多分違うと……思う。あの人はこの施設の責任者の方って悟君は言ってたから。あと時々組手をしてるって言ってたから元忍者の人じゃないかな?」

 

「確かに、私も先ほど悟様の自室に踏み入るさいの彼女の身のこなしを見ましたが、一般人とは到底思えないほど無駄がありませんでした」

 

2、3分ぐらいの間、日向の3人が雑談を交えながら夕飯を食べていると応接室の扉が開く。

 

 

 

 

「ごめんなさいね~。お見苦しい所を見せちゃって~」

 

マリエが何食わぬ顔で応接室に入る。

 

(あれ?)と3人が思う。先ほどのやり取りで庭で組手でも行うものだと思っていたのに、すぐにマリエが戻ってきて虚を突かれる。

 

「あの、悟君はどうしました?」とヒナタがマリエに問う。

 

「……」にっこりと笑顔を浮かべたマリエは数秒沈黙を置き

 

 

 

「庭に埋めてきたわ~」

 

 

 

と何食わぬ顔で言った。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

施設の庭。小さな子供たちが遊ぶためのスペースの中心。そこに黙雷悟はいた。

 

時間が時間だけに、子どもたちは寝静まり職員の人たちも自室にいる。

 

昼の騒がしさとは打って変わって静けさ漂うこの場で足音が響く。

 

「悟君、大丈夫?」

 

ヒナタは若干引き気味に、そして心配そうに悟に問いかける。

 

ヒナタに気がついた悟は「見た目は悪いけど大丈夫」と簡素に答える。

 

あははっ……とヒナタは笑い、悟の様子を見る。

 

首から下が地面から埋まり、周囲の土と地中が土遁で硬く固められているようで悟は自力で抜け出せないでいた。

 

白眼でその様子を確認したヒナタはどうにか掘り起こせないかと、クナイで地面を掘り返そうとするが。

 

「すごい固い……」土遁で固められた土は予想以上に硬くどうすることも出来なかった。

 

「大丈夫、時限式だからそのうち解けるよ。それより、今日はごめんねヒナタ」

 

悟は地面に埋まりながらヒナタに謝罪をする。仮面がないため、白眼を使わずとも少し落ち込んだ様子なのが見てわかる。

 

「どうして悟君があやまるの?」とヒナタは不思議がる。

 

それに対して悟は「確かに、地面に埋められて落ち着いて考えてみると色々と焦って行動しすぎてたことに気が付いて……。ヒナタに巻物の指印を押させる時も強要したみたいに……」と段々声のトーンを落としながら説明をする。

 

悟は、ヒアシが、ヒナタの父親が子供の自由意思にお構いなく謝礼として婚約の話を持ち出してきたときにどうしようもない憤りを感じていた。そしてそれをネジに煽られ、冷静さを欠いた。

 

しかし親としてのヒアシについて、悟はなにも事情を知らない。ただ自分の感情論を振りまいただけだと落ち込んでいたのだ。

 

 

「確かに、悟君に指印を押すよう言われたときは少し怖かったけど……」

 

ヒナタが悟の目の前でしゃがみ、笑顔を見せる。

 

「私のために怒ってくれてるって分かってたから……大丈夫。それに……」

 

「それに?」

 

そこまで言ったヒナタは顔を少し赤らめ、恥ずかしそうに答える。

 

「えっと……その……ごめんね。この先は言わないでおきたいの……」

 

(知らない人ならいざ知らず、相手が悟君なら……悪い気がしないなんて……)

 

ヒナタの様子に悟は不思議に思うが、あえて追及はしないでおこうと思った。

 

すると、土遁が解除されたのか悟がゾンビのように地面から這い出して来る。

 

「やっと、解けたか……それでヒナタとハナビはどうする?その様子だと風呂はもうすましたみたいだし、客室にでも案内しようか?」

 

ナツが屋敷から調達してきた服装に代わっているヒナタを見ながらそう提案する悟にヒナタは

 

「えっとその、迷惑じゃないなら出来れば悟君の部屋にお邪魔したいかなぁ……ハナビと一緒に」

 

「自分で言うのもあれだけどあそこ窮屈だけどいいの?まあ、二人が良いって言うならいいんだけど……」

 

そういって悟は土を払いながらヒナタをつれ移動する。

 

途中応接室でナツとトランプで遊んでいたハナビと合流する。

 

「それでは悟様、私はこれで失礼します。……手を出さないでくださいね」

 

後半悟にしか聞こえないようにささやいたナツさんは屋敷へと戻っていった。

 

(12、13の歳でそうそうそんなこと……いや、この世界ではあり得るのか……)

 

ワールドギャップを感じつつ悟は自室へと二人を連れ移動する。途中来客用の布団を抱えた影分身と合流し、自室に布団を敷く。

 

「やっぱ、狭いなあ……うん」

 

三人分の布団を敷いてしまえばもうほとんど足の置き場のない自室に改めて狭さを実感する悟。

 

 

悟はそのまま、風呂場へと向かい二人は悟の自室を見学していた。

 

見学するほど物がなく、小さな机の引き出しにボロボロの狐のお面が大切に仕舞われていただけだった。

 

(これって悟君が昔付けてた……大切なものなんだね)

 

部屋主が返ってくるまで。ヒナタとハナビは悟についての話で盛り上がっていた。

 

~~~~~~

 

その夜はハナビを挟んで、それぞれ布団に入り、3人でたわいのない会話をする。

 

(姉様とこうして話すのも久しぶりかも……)

 

ハナビは正式な跡目として厳しい毎日を送っている。そのため今この時、彼女はとても幸福な感情に包まれながら静かに眠りについた。

 

そしてすぐに二人も眠気に落ちそうになる。そこでふと

 

「こうしてると……まるで……本当の夫婦みた……ぃ……すう……すう……」

 

ヒナタが眠りにおちながらポロっと感情を吐露する。

 

その後は静かに寝息だけが悟の自室に鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや、そんなことポロっと言われたら意識して眠れねえよ!!!!!)

 

 

悟が就寝できたのはその2時間後、深夜も深い時だったが。

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