<黙雷悟>
初任務を終えてから、俺は忙しい日々を過ごしていた。
零班として他の班と合同で任務にあたることは、頻度として多くはない。理由は俺の分の報酬金が追加でかかったり、そもそも必要とされるほどの任務は下忍の内には多くないからだ。
なので現在俺は、単独で通常の依頼を回している。……高速で。
~~~~~~
「ちょっと、電柱の調子が悪くてなあ、電気を少し流して様子を見たいんだが」
「雷遁」
~~~~~~
「染物を乾燥させるのに使う大型扇風機が壊れてな……」
「風遁!」
~~~~~~
「厨房のガスが壊れて火力が……」
「火遁!!」
~~~~~~
「近所の悪ガキが落書き……」
「水遁!!!」
~~~~~~
「畑の作物……」
「土遁!!!!」
~~~~~~
「はい、終わり……ました……」
任務受付場で依頼達成を示す書類を渡す。
「お、お疲れ様です……大丈夫ですか?」
受付係の眼鏡のお兄さんが疲れているといった俺の様子に心配をする。一人で依頼を行うこと自体、別に忍なら珍しくもないが何しろ俺はペースが早い。
雷遁チャクラモードの練習を兼ねて道中はチャクラモードを切らさず全力で依頼先に出向き、現場につけば器用さをこなして、スピード解決。影分身も有効利用する。
「やる気があるのは感心するが、もう少し落ち着いて……」
「へい! 追加の依頼もう一丁!」
「駄目じゃ駄目じゃ! お主だけでDランク任務が全て消費されてはかなわん! 今日はもう休め、火影命令じゃ!」
テンションが可笑しくなっている俺に三代目が、休暇を取るよう命令を出す……。ケチめ。
~~~~~
休暇を指示された俺は里の中をあてもなく歩く。施設のために出来るだけお金を稼ぎたいのに……。依頼にかこつけて術の練習をしていたので、それなりに術を使うのにも慣れてきた。……五遁を使えることは秘密にしたいので俺は、依頼主には口外しないように言ってある。まあ、強制力はないので多少うわさにはなるかもしれないが明言するつもりはないので、聞かれたらしらばっくれるつもりだ。
まだ、午前中の賑わっている商店街を適当に歩いていると珍しく声をかけられる。
「あ! 悟じゃんやっほー! ちょうどいい所に来たわね!」
テンション高めのテンテンに呼び止められる。……? 脇にはハナビもいるようだ。珍しい組み合わせだな。
「よう、テンテン。それにハナビも。……あれナツさんは?」
ハナビがいるならと、辺りを見渡してもナツさんの姿が見当たらない。
「ああ、ナツさんならあそこ。今女性限定で抽選会をやってるんだけど、それに並んでるのよ。一等はなんと最新の限定高級化粧品! その他豪華な賞品めじろ押しだし、参加賞でも肌に優しいハンドタオルとバスタオルだから是非ハナビちゃんとナツさんもって私が誘ったのよ!」
女の人って最新とか高級とかの枕詞好きだよなあ。俺もコンビニの『限定!! 秋のなんちゃらデザート』とか好きだったけど。
「へ~。人数増やして当たったら分けよう、つうことね。こんなのに付き合わされて大変だなハナビ」
「えっと……私は別に修行の休憩時間だったので。たまにはナツさんにも恩を返したいと思って……」
良い子だな~。なんて仮面の下でのほほんとした表情をしているとテンテンが肩に手を置いてくる。
「えっなに?」
「悟も並んでよ」
「は? 女性限定だって今テンテンが言ったばかり……」
「悟ならいけるって!」
グッとサムズアップするテンテン。
「ふざけんな。誰がそんなことやるか」
「ハナビちゃんのためを思って、おねが~い?」
くっそ、こいつハナビをダシにしやがって……
「わかったよ。人数が欲しいなら、俺の影分身に変化でもさせて並ばせれば……」
「それが抽選場付近には術の使用を封じる結界術があるのよ~」
なんだそれと、感知モードになるとなるほど確かに封印結界の術式が敷かれているようだ。……抽選ごときにと思っていると、奥でのびて気絶している額あてをした男性と気絶させたであろう用心棒が埃を払っている。どんだけガチなんだよ。
「……なら俺が力になれることはないぞ?」
「さっきも言ったけど『悟』ならいけるって!」
こいつ、まさか……
「仮面取って並べってか! 嫌だわ、阿保! こんなしょうもないことで素顔晒せるかっ!」
「しょうもなくないわよ! 女にとって重要な事なの! お願いお願いお願い~!」
「駄々こねるな! 付き合ってられんわ!」
そういって会話を切った俺は雷遁チャクラモードを使い本気でその場から逃げ出した。
「あっちょ……もう!! 悟のケチ! べ~~~だっ!」
「テンテンさん、しょうがないですよ。大人しく並びましょう?」
……全く。
~~~~~~
<日向ハナビ>
黙雷さんに誘いを断られたテンテンさんが地団太を踏んでいると、抽選のガラガラを引き終えたナツさんがこちらに来る。
「……参加賞でした……残念です。」
「そう落ち込まないでナツさん。私とテンテンさんも今から並ぶから、きっと何かあたるはずです」
落ち込むナツさんを私が励ましていると、テンテンさんが唸って黙雷さんの愚痴を言う。
「悟の薄情者め~。たくっしょうがない……。そういえば二人とも日向の白眼で抽選機の中身とか見れないの?」
「私が試しましたが駄目でしたね。ほんと、残念です」
白眼さえ遮る結界忍術……すごいなあ。
なんて思いながらテンテンさんと最後尾に並ぶ。列は長いので待ち時間が長そう。
「へんっ! 悟の奴に声かけるために列抜けなきゃもっと前だったのに……」
テンテンさんは相変わらず。でも黙雷さんとの間にあった気の抜ける空気感? に少し憧れる私もいた。黙雷さんは私のことを子ども扱いしかしてくれない……。
なんて思って、テンテンさんの黙雷さんに対する悪口を五分ほど聞いていると私たちの後ろに息を切らした女性の人が走って並ぶ。
「はあ、はあ、すみません。抽選の列はこ……ここで合ってますか?」
黒い目の少し長い白髪を束ねた、薄い化粧をしている女性が私たちに声をかけてくる。一瞬私たちの顔を見て言い淀んだけど、そんなに急いできたのかな?
「はい、ここで合ってます」
「あら、そうですか。良かったどうもありがとう!」
女の人は多分テンテンさんと同じくらいの年齢だけど、落ち着いた雰囲気もあってラフな格好だけど綺麗な人だった。その人は私の言葉に笑顔でお礼を言う。……なんだろう何かこの人の笑顔に既視感があるような?
「聞いてるハナビちゃん? あいつは昔っから顔を隠してばかりで私が素顔見たのももう何年も前で……!」
「えっあっはい、聞いています」
テンテンさんに話しかけられその感覚を手放す私。その後はずっとお話しっぱなしのテンテンさんの愚痴を聞きながら列が進むのを待っていました。
そして……
「くっそー! 参加賞だったああああああ」
「私は4等の髪飾りでした……」
テンテンさんは参加賞、私は4等のヒスイがあしらわれた髪飾りという結果でした。化粧品は夢でしたね。私はまだ化粧品使わないのでそこまで落ち込みませんが、ナツさんにプレゼントしたかったな……。
そう思ってテンテンさんとナツさんがグチグチと文句を言っていると後ろで鐘がなる。
「一等~~! 限定化粧品です! おめでとうございま~す!」
周囲にどよめきが走ります。テンテンさんも悔しそうです。一等を当てたのは私たちの後ろに並んでいた白髪のお姉さんでした。
「まさか……本当に当たるなんて……」
お姉さんも驚いていますね。テンテンさんはもう少し遅くならべば……と後悔しています。
「そういう運命だったんですよ。諦めましょう? テンテンさん」
私がそういってその場から離れようとすると
「あなた、ちょっと良いかしら?」
白髪のお姉さんが声をかけてきました。
「私実は化粧品には興味がないの。ほら薄化粧でしょ? だからお願いといってはあれなんだけど……良ければ貴方のその髪飾りと交換してもらえないかしら?」
「良いんですか?」
「ええ、貴方は列を教えてくれたし、親切にしてくれたから是非お願いしたいわ!」
テンテンさんがすごい食いついていますが交換対象が私の髪飾りなので一応口を出してはいません。私は交換を了承してお姉さんと景品の交換をしました。それをナツさんに渡すと泣いて喜んでくれました。テンテンさんが羨ましそうに見ているのでナツさんは苦笑いをしながら「あとで屋敷についたら分けますので……」と言っていました。
お姉さんは別れ際に
「あなたの親切が運命を変えたのよ。プレゼント出来て良かったわね」
と笑顔で言い残し去っていきました。
やっぱりあの人の笑顔どこかで見たような……?
~~~~~~
<黙雷悟>
俺が施設の自室から出ると何やら外が騒がしい。なんだ? 俺は今精神的に疲れてるのに……。
玄関まで行き扉を開けると
「悟少年っ! 修行しよう!」
緑タイツ姿の激眉おじさんがいた。
「ガイさん、お久しぶりです。良いんですか? 今は自分の所の班の人たちを見てるんじゃってさっきまでテンテンが商店街にいたか……。今日はオフなんですね」
「そうっ! たまには班員たちにも休息をってねえ! それで俺が暇を持て余したから、久しぶりに悟少年と熱い拳の語らいをしたいと思い爆ぜ参じた!」
久しぶりにあうと熱量がすごいなあ。気分転換に良いと思い俺はガイさんの誘いに乗って一緒に修行することにした。ちらりと施設の連絡板を見るとこの時間帯では珍しくマリエさんは外出していた。俺は連絡板に「黙雷悟、外出」と書きガイさんについていった。
「こういうときってカカシさんと勝負してるんじゃないんでしたっけ?」
「それがカカシの奴も任務がない癖に家にいなかったのだ! 最近Dランクの任務を誰かがハイペースでこなしているおかげか今日みたいなオフの日ができてしまっているようだ!」
「へ~そうなんですか……。まあ、ガイさんと修行できるなら悪い事じゃないですね」
「そうだなあ! 悟少年の成長ぶりが楽しみだ!」
~~~~~~
<三人称>
とある演習場。里の中心からかなり外れ、豊富な岩場や木々が生い茂るこの場で二人の人物が、お互いに術を行使し修練を重ねていた。
「「土遁・土流雪崩の術」」
二人が行使する土遁による土の津波がぶつかり合うが、術の威力はどうやら片方の人物の方が上らしく土の津波が片方の忍びを飲み込む。
「さて……」
風を切る音と共に、土流に飲み込まれたはずの忍びがもう片方の人物の背後から拳を繰り出すが
「甘い!」
その拳を受け止めた人物はカウンターで岩石で包まれた拳で相手を吹き飛ばす。受け止めた忍びは、大きく後ずさり衝撃を受けた腕の痛みを逃がすかのように振る。
「痛てて。やっぱり、俺よりブランクあるのにやるじゃないマリエ」
「お前が手を抜いてくれているからな、カカシ」
片方の忍びは、はたけカカシ、もう片方の人物は普段着にエプロン姿の蒼鳥マリエである。
「……やっぱりその格好どうにかなんないの? 演習にエプロン姿は流石にねぇ?」
「悪いが私の忍び装束は破棄したからな。唯一残したあの
(……その口調でも悟のことはちゃん付けなのね)
「まあ、俺から誘ったわけだしこれ以上格好についてとやかく言わないけど、良くOKしてくれたね。何か理由でもあるの?」
「……前の組手の約束が果たせなかったからだ。あとはそうだな。カカシ、お前が珍しくやる気になっているのが理由か……何かあったのか?」
「まあ、優秀な子どもたちを教えるのに鈍った状態の俺だと色んな意味で失礼かなってね!」
カカシが言葉を言い終えると同時に、高速でマリエに接近する。
「ふん、お前がやる気なら良いことだ!」
接近にカウンターを合わせるように蹴りを放つマリエ。カカシは蹴りを躱し、拳打を繰り出すがマリエそれを捌き、お互いに攻撃をはじき合う。
「マリエ、
「正直……わからない。だが、カカシお前も知っているだろう? 私のことはっ!」
マリエの回し蹴りを受け止めカカシが吹き飛ぶ。
「……やっぱり精神的なものはどうしようもないのかね。お互い」
「ふっ……そうだな。お互い壊れ物同士、何とかやっていこう。ただ突っ立ているだけの案山子にならないようにな!」
再度お互いの距離が縮まり、拳同士がぶつかる瞬間。突如大きな衝撃波が二人を襲う。
「何!?」
「カカシ、危ない!」
マリエがカカシを抱え、衝撃波が二人を吹き飛ばす。怪我を負うほどではないが、二人はゴロゴロと地面を転がる。
少ししてパラパラと、木々に飛んだ小石などが落ちる音が鳴りやむと衝撃波が発生させた煙の中から声が響く。
「ガイさん!! 熱くなりすぎですよっ! 俺たちの演習場から随分と距離離れちゃってますって!」
「いや~! 悟少年が第五杜門まで自力で開けるようになってて驚いたっ! 俺もつい熱が入ってしまって……」
八門を第五まで開放し、互いに緑のオーラを纏ったガイと悟が煙の中から姿を現す。八門を解放したもの同士の組手がヒートアップし、マリエとカカシの居る演習場まで突っ込んでしまったようだ。そのことに悟が言及するが、ガイは全く気にしていない様子だ。
「ってほらぁ! 誰か吹き飛ばしちゃってますって! すみません、大丈夫ですか!」
「む? これは悪いことをしたなあ。いや~ほんとすみ……ま……せ……」
吹き飛ばした人物らを見て悟が謝罪をし、それに続いてガイも謝るがその光景を見て言葉を失う。
「っ! カカシ……流石にその手はどかせ。流石に私でも恥ずかしい……」
「……え? あ!? ごめんごめん! ワザとじゃないから、決して!」
仰向けのマリエに馬乗りになるような体勢のカカシが、その手をついマリエの
「おい、カカシィ」
ドスの効いたガイの声が轟く。
「ん……ってガイ!? なんでここに!? って悟も!?」
八門を開いた状態の二人は目が笑っていない。
「おいカカシ、いい加減手を……」
マリエが、二人に気を取られているカカシに抗議をする。
「何してんですか? カカシさん? 人の保護者に……?」
「いや、これは……お前たちのせいだって……オレ悪くないから! ホント!」
「問答無用! カカシぃ! うらy……ゴホンっ! 女性を押し倒しあまつさえ~っ! ゆるされんぞぉ!!」
「ガイさん! どさくさに紛れて何言ってんだあんた! 心の声漏れてますよ!!」
「話を聞いてって二人とも! 事故! 事故だから!」
ワイワイと言いあう男性陣。その様子にマリエが声を張り上げる。
「いつまでこの体勢でいるつもりだ! いい加減、胸から手をどかせカカシ! このバカ者がぁあ!!」
マリエの蹴りがカカシを吹き飛ばす。
「うごおぉ!」
吹き飛ばされるカカシ。そのまま起き上がろうとするカカシをガイが高速で回り込みがっちり羽交い絞めにして動きを封じる。
「って痛ってぇ! ガイ! キツイキツイ! その状態で拘束するのは本気でまずいって!」
「五月蠅い! このむっつりマスクマンめぇぃ! うらy……許さんぞぉ! やれぇい、悟少年!」
「カカシさん、観念してください……ね?」
悟はカカシの忍び用のサンダルを脱がせ素足の状態にする。
「え!? え!? 悟何するつもりよ!?」
「実は今、医療忍術も覚えるために人体の構造について勉強しているんですよね俺。その一環で例えばそう、足裏のツボの位置とかも知っててですね……。ふふっ」
手をゴキゴキッ鳴らして仮面の奥のハイライトの消えた緑の瞳を覗かせる悟にカカシは恐怖する。
「まさか……今八門解放してるでしょ! っ駄目だって洒落になってないって! 助けてマリエぇ!」
珍しく余裕のない様子のカカシがマリエに助けを求める。八門を解放しているガイの拘束を解くすべはない。そのカカシにマリエは笑顔で
サムズアップを裏返す。
「思いっきりやっちゃって♪ 悟ちゃん」 「了解!」
カカシの顔が絶望で染まる。
「ああああああああぁぁぁぁ……」
森に悲鳴が木霊した。
~~~~~~
黄昏時、施設の前まで帰ってきたマリエと悟。
「まさか……カカシさんがあんな変態だったとは……まあ、あんな小説どうどうと読んでる時点でわかりきったことだったかな?」
「あらら~悟ちゃんも意地悪ね。それに二人とも八門解放した組手なんて無茶するわね~」
「そうですか? まあ、マリエさんもナイスキックでした! あそこでカカシさんと組手してたなんて知りませんでしたよ」
雑談をしながら、玄関の前まで来たときに悟は何かにふと気がつきポーチに手を入れる。
「そういえば、偶々こんなものを手に入れまして、どうですかマリエさん? 使います?」
照れている悟はヒスイの髪飾りを取り出す。
「あら~! 随分と高級そうなものね!」
悟から受け取った髪飾りをかざして見るマリエ。ヒスイが夕日を反射して煌びやかに光る。目を細めてそれを見るマリエだが、しばらくして髪飾りを悟に返す。
「……気に入りませんでした?」
「そういう訳じゃないけど……そうねぇ。私はあまり、着飾るのは好きじゃないし……それに」
悟の目を見てマリエが答える。
「こういう良いものは将来、悟ちゃんのプロポーズの相手のために取っておいた方がいいかなって思ってね~」
「なっ!?」
楽しそうにからかうマリエと、仮面の下の顔をさらに赤くする悟。
……平和な時が過ぎていった。
~~~~~~
カカシの自宅。散々な目にあったカカシが風呂からあがると自分の体調の変化に気がつく。
「体のコリがほぐれている。……悟の足つぼ、効いたのね……」
黙雷悟は前世では演劇に関わっていたという設定です。
なので化粧が出来たり、女の人っぽい声を出せたりしていました。
転生してからはより中性的かつ女性寄りの特徴がある顔つき、声になったので本気で寄せれば誰も女性だと疑わない感じになります。
なんでそんなこと解説してるかって? なんででしょう?