〈黙雷悟〉
修行を開始して6日目の朝。ここ数日、やる気満々のナルトに釣られて俺本体もチャクラの続く限りナルトの修行に付き合っていた。
本体の俺がつきっきりで修行を見てアドバイスを都度していたおかげで、今朝やっとのことでナルトも木の頂点まで足だけで登ることが出来る様になった。
原作よりも彼らが成長していることは嬉しく思うが……。いつかのミズキが起こした事件、あれは原作よりも遥かに危険なものになっていた。あの時は俺が居たから何とかナルトを助けることが出来た。だが、今の俺は戦うこと自体ができるのか、正直わからない。
敵を殺す覚悟……か。あの時から「もう1人」の俺は語りかけてこない。アイツがどういう存在なのかも気になるが、俺に覚悟が無いことで周囲を危険に晒す可能性の方が今は問題だ。
なんてことを修行に疲れ地面で仰向けに寝ているナルトを木を背にして座りながら見て、考えていた。……敵だから殺す? 任務の障害になるから殺す? 里に危険を及ぼすから殺す? 多分そういう『区切り』を自分の中に設けることが必要なんだと思うが……。何を殺して、何を殺さないのか。俺はどういう立場で決断するべきなのか。
………………
…………
……
(……うん?)
ふと気がつけば、どうやら疲れから寝てしまっていたらしく目を覚ますと目の前で誰かが会話をしているようだった。とりあえず寝たふりを続けて会話を聞くことにしよう。
「……それは誰かのためですか? それとも自分のためですか?」
「……は?」
「君には大切な人がいますか?…………人は大切な何かを守りたいと思った時に本当に
「……うん! それは俺もよくわかってるってばよ」
「君は強くなる……また、どこかで会いましょう」
「うん!」
……うっかりしていた。いや正確には覚えていなかったというべきだけど。白とナルトの会話を聞き、自分たちがあまりにも無防備だったことを後悔した。白からしたら俺たちが再不斬と敵対するものだと分かっていたはずなのに……なぜ殺さなかった?
いや、自分は、俺はわかってるはずだ。白は……誰かを殺せないことを。殺せないぐらい優しいやつだということを。漫画ではサスケも殺せたのに殺さなかった。今も、俺たちを殺さなかった。そしてナルトに……大切なことを伝えた。
彼が良い奴だから、それを知っていたから俺は……。どんどん根深くなる思考からナルトが声をかけてくれることで一端抜け出すことが出来た。
「お~い、悟ってば。こんなとこで寝てっと風邪ひくってばよ」
ペシペシと頭を叩いてくるナルトの手を掴み、言葉で返す。
「もう起きた、寝てたのはお互い様だろ」
「そういえばさっきな! サクラちゃんよりも美人な姉ちゃんがいてな!」
「はいはい、今日はいったん帰って休憩な。話は帰りながら聞くから」
そうして俺はナルトが美人と薬草摘みをした自慢話を聞きながらタズナさんの家へと戻った。……ナルトは白が女だと勘違いしたままだ。原作だと何時男だと気づいていたっけ? もう漫画を読んでいたのも十数年前なんだよなぁ……おぼろげで細かい所は覚えていられないな。
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タズナさんの家に戻りナルトは朝食をがつがつと食べていた。そこで俺は自身の修行の進捗を確認するため、改めて一人で森の中へと戻る。
初めに慈善行為をする男、に変化して町の子どもたちに教わった草笛の出来について。ここ毎日とはいかないが数日練習したおかげか、ついには遠くまで響く音色を奏でることが出来るようになった。これで「魔幻・草笛の音」を安定して使うことが出来る。音を聞いた者の認知をいじくれる術だ、かなり便利だがこれ単体では余程リラックスしていて気を抜いている相手にしか幻術をかけられない。警戒状態の相手を油断させる方法、そこは要検討だな。
続いて、掌仙術。医療忍術の基礎である、傷んだ組織の修繕をここ毎日自分で捕まえた魚の鮮度を保つようにすることで練習を重ねた。正直重症には焼け石に水状態だが、多少の応急処置程度にはなるだろう。Dランクの任務で稼いだ金で買った応急処置キットもあるからよっぽどの大怪我でなければなんとかなる……はず。正直自信はない。
最後に、チャクラコントロールを……というより雷遁チャクラモードについて。ここ数日、ひたすら使い続けて並行で別の雷遁の術も修行したおかげで随分と扱いに慣れはしたが……まだ俺が望むまでの状態にはなっていない。それでも下忍と言う立場からしたら過ぎた力だろうけど。
……あとは心の問題か。明日の修行はやめておこうかな。明後日来るはずの再不斬たちに備えて英気を養おう。
俺はどうすればいいんだろう。マリエさんに泣きつきたいくらい正直参ってるし、何だったら逃げ出したい思いもないことはない。昔、3歳くらいの時に目標としていた、「一人で生きる」にはもう十分な力を持っている。
「世界をより良くする」目標は……漠然としている。何となくじゃ駄目だ。この世界で、かつて多くの人が平和を目指してきたはずだ。それでも争いはなくなっていない。だからこそ
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翌日7日目の昼頃、俺はカカシ班から離れ単独行動をしていた。カカシ班は橋での水面歩行の行の修行を最後まで行うようだ。と言ってもサクラとサスケはもう走れるぐらいまでにチャクラコントロールを高めている様だ。もっぱらの目的はナルトの水面歩行の行の修行を見ることなんだろう。
俺はカカシさんに許可を取り改めて、町の散策に出ていた。仮面は外して腰布の額当てもポーチにしまいタズナさんの家に置いてきた。今は一般人として町の様子を伺う。この勇気の消えた町で、色々な人の話を聞いて回った。
ガトーに身内を連れ去られた者。事業を潰された者。不当な値段での商談などなど。多くの理不尽を聞いた。タズナさんの橋を疎ましく思う人もいれば、逆に希望だという人もいる。
……橋の完成まであと少しだ。少なくともこの「希望」を絶やすことだけはしないようにしなければ。
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散策を終えた俺は町はずれの山奥へと来ていた。何でかというと、町で聞いた情報の中にあった「山奥の秘湯」を目指しているからだ。湯の国・湯隠れの温泉に引けを取らないほどの名湯「だった」らしい。何でも湧き出る源泉を呑めばたちまち不老長寿云々……なんてことを懐かしむように町の人は語っていた。
均されたであろう跡が見える土の道を辿るが、それは途中で消える。町からかなり離れているのにも関わらず、道の途切れた場所に看板が立てかけてある。
「この先ガトーカンパニーの所有地につき無断での立ち入りを禁ずる、ねえ……。こんな辺境にある人々の娯楽まで奪うなんてガトーは心底嫌な奴だな」
少し募った怒りを看板に蹴りでぶつける。木っ端みじんにしてスッキリした。どうせ、看板の劣化具合から見て管理なんてしていないのだろう。それでもそんな建前の看板だけで町の人たちは怯えて温泉に行けなくなっていたのだ。……ムカつくなぁ。
その看板があった場所からさらに歩くと、木造の小屋が見える。随分とボロボロだ。やはり管理などされていないようだ。脱衣所として簡易的に設置された小屋に入ると埃が舞う。これから風呂に入るのに出てまだ汚れるのは嫌だな。
「軽く掃除でもするかな。影分身っと」
…………
……
荒れた小屋を片付け、脱衣所として最低限使えるようにした。服が埃まみれになったが、しょうがない。外で軽く叩いて埃を落とす。ふと空を見上げれば満天の星空が目に入る。
脱衣所で脱衣して、湯船へと向かう。向かうと言っても引き戸は壊れているので、無理やり開け閉めするしかないのでギシギシとうるさく風情がない。本来なら温泉の周りにも竹柵があったようだが、バラバラになってもはや壁何て何もなかった。実際、遠目から見て小屋と温泉がセットで視界に入っていたしな。
「わざわざ小屋で服脱がなくても良かったかもなあ。まあでも性分だししかたない。野外ですっぽんぽんになるのは気が引けるからなあ」
誰が聞くわけでもない独り言を呟きながら、温泉へと浸かる。
「ばあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ~~~。染みる~~~♪」
マヌケな声を響かせて湯に体を沈める。少し熱いが我慢できないほどの温度ではない。ガチ天然温泉に近いのにこの心温まる感じは、前世で家族で行った旅行で入った銭湯を思い出す。
…………
ちょっと昔を思い出して、しんみりしてしまった。そうなんだよなあ、俺って一度死んでるんだよなあ……。
夜空を見上げて、星を数える。元の世界とは多分、見てる空も違うんだろう。良く「離れていても空は繋がっている」なんてドラマとかで言ってたけど、俺の状況だとガチで違う空見上げてるんだよなあ。
少し寂しさを覚え、前世での思い出をひとつひとつ思い出しながらしんみりとしていると、ふと気配を感じる。
それも脱衣所の小屋の中からだ。
ってうかつにもほどがあるだろう、俺!! しんみりして警戒を怠りすぎて物音を聞くまで気がつかないなんて。とりあえず落ち着き小屋から一番離れた位置へと移動する。気配を消せば湯気で俺のことが見えないはz
「……あれ、服がある……。誰かいるのかな」
脱衣所からそう声が聞こえた……そうだった。ご丁寧に服を脱衣所に置いていました。俺がいることがばれました。 バカっ! 俺! 全然落ち着けてないっ!
えーと、まず相手の予測だ。声の感じからして、女性だと思われる。殺気なども感じないし、穏やかな雰囲気だから荒事には発展しなさそう……いやこれ、入ってこられたら普通に困るな。
どうしようか……どうしよう……あああああああ。
「えーとすみません。誰かいますか?」
……小屋の扉越しに声をかけられる。どうしよう、真っ裸で逃げるわけにも行かないし。幸い忍具一式は置いてきたから、忍者だとはバレていないようだが。返事を返さないわけにもいかない。
「っ……あ~はい。入ってま~す……」
俺のマヌケな声が響き、少し沈黙が流れる。あれ? 脱衣所で脱衣する気配が……。
ギシッと引き戸が動く。
「っと、立て付けが悪いんですね。すみません、あとから失礼しますね」
姿を見るわけにはいかないと視線を横に向ける。前にもこんなことがあった気が……。
相手はそのまま温泉に浸かったようで波が伝わる。湯気越しにシルエットも何となく見えた。ってなんで入ってきた、アイアム男だよ!!!!????
っと学習しろ黙雷悟。俺は男だけど、声はどちらかと言えば女よりだ、つまり。
(女だと勘違いされた……のか? こんなんばっかだなオイっ!!)
ふうっと相手の一息つく声が聞こえて少し焦る。艶めかしい。じゃなくて。少し冷静になれ。こんな辺境、しかもガトーの土地に来るなんてまず普通の人間じゃない。そしてそれは俺も同じだ。相手は何で警戒もせずに……。
突然夜風がびゅうっと吹く。すると温泉の湯気が飛び、湯船から顔を出す俺と相手の目線が不意に交わる。
(……白?!)
相手の顔を認識して、驚愕する俺。同じ湯船に浸かる相手は昨日ナルトと薬草を摘んでいたあの「白」だったのだ。
混乱もするし、びっくりもしたが顔には出さない。今は仮面を着けていないのだ。表情から何かを悟られるわけには……
「あの~僕の顔を見つめてどうかしましたか?」
……表情は変えなかったけど目線を切ってなかった。
「えっと、その~随分と綺麗な方だなあ~なんて、えへへ」
照れた笑みを浮かべて、そう切り返す。本心だ。じゃなくて噓をつくときは本当のことも混ぜるとよいのは常識だ。……つまり、見惚れるぐらい白の顔は美しかった。昨日ちらっと見ただけではわからないほど綺麗だった。……これで男か……何かいけない気持ちがこみ上げてきそうで別の意味で怖い。
「ふふふ、ありがとうございます。貴方も整った顔立ちですね。……貴方はどういった経緯でこちらに?」
混乱と油断でごちゃまぜの俺に不意に白が探りを入れてくる。当たり前の行動だ。相手がまじめに来てくれたことと、男相手だということで若干気持ちを持ち直す俺。
「私は、この木ノ葉隠れの孤児院の者です。今は休暇を頂いて、こうやって温泉を巡っているんです。ふもとの町で秘湯があると聞いたのでつい、入ってはいけない場所と聞いていたのですが……」
にこっと笑顔で答える。この世界では十数歳で職に就くことは珍しくない。俺は施設の職員というロールを演じることにした。
「そうですか……。ちなみに僕は霧隠れの忍びです」
「えっ!?」
さらっと白は自分が忍者であると明かした。素でびっくりした。いや白は正確には忍びではなかったはずだが……そこは突っ込まないでおこう。
「びっくりさせてすみません。ですが安心してください。何かしようという訳ではないです。ただ、少し気を緩めたかったのでここに来ただけですから貴方には危害を加えませんよ」
白はふふふ、と笑って話を流す。
「はっはは……、そうですか。驚きましたよ……」
「一応貴方があまりにも無警戒だったので、釘を刺しておこうと思いましたので。一人でこんな辺境に来ては危ないですよ」
「っ……すみません」
白は俺の心配をしてくれているようだ。まあ、確かに不用心にもほどがある。反省しよう。
「そういえば、え~と忍者さんはどうしてこちらに? 霧隠れの方がわざわざ波の国なんて」
「僕のことは
ははは、そりゃそうだ。
「私は……悟っていいます。自分は一人で観光を兼ねて旅をしていますが、白雪さんはお一人でこちらに?」
「いえ、上司と共に来ています。明日ぐらいに少し“事”が起きるのでリラックスしたくてここに来たんですよ。まさか先客がいるとは思いませんでしたが」
「リラックス、ですか……。忍者のお仕事はその~大変ですよね~? え~と……」
「そうですね。僕は忍びとしてまだまだ自分は未熟だとは思っていますが、けれどそれも仕事ですから」
にこっと微笑む白。
(…………)
「仕事……でも嫌になりませんか? その、命のやり取りって」
俺は思ったことを素直に聞いた。少し不自然だが気になってしまったのだ、白の心の内が。
「……僕は未熟で確かに誰かの命を奪うことに抵抗がないとは言えませんが、それでも僕はやります。だって……
それが僕の
白は真剣な表情になる。
「抵抗があるのにしたいこと、ですか?」
「ええ、僕は“忍び”であること。さっき言った上司の役に立ちたいと思う気持ちがあるからこそ、頑張れるんです。……たとえそれが一方的な感情だとしても、僕がしたいことなんです。それをわざわざ自分が制限する必要なんてないじゃないですか」
自分がしたいこと……を制限しない、か。俺は……。
「悟さんは何か悩みでもありますか? 良ければ聞きますよ、一期一会といいますし」
「……そうですね、大丈夫です。忍びの白雪さん相手にする相談何て恐れ多いですよwww ……そう、私は大丈夫です」
「僕は孤児院での仕事も立派だと思いますけどね。さてと……僕はそろそろ上がりますね。そういえばここの湯の源泉は飲めば体調が良くなるそうですよ。僕の目的の一つでもあるんですけどね」
「へ~そうなんですか、なら私も汲んでいきましょうかね。ちょっとした手土産に」
二人して同時に温泉から立ち上がる。
はあ~、色々緊張したけどなんとかやり過ごせそうで良かった。
「……えっ!?」
白が驚愕の声を上げる。
「ん? どうかしましたか、しら……ゆ……き…………さ……」
立ち上がり、俺の方を見て目を見開く白。そして俺の視界にも白が映る。
「…………上があって、下がない」
俺の口から無感情に言葉が漏れる。
「…………上が平ぺったくて、下に付いてる」
白も言葉を漏らす。
同時に二人して静かに湯船に浸かりなおす。
重い沈黙が流れる。
何がとは言わないがナニがない。そして恐らく白の方は「ナニがあって」驚いている……のか。
「悟さんって」「白雪さんって」
「男だったんですか」「女性なんですか」
~~~~~~
<三人称>
夜、静けさの中夕食を取り終えたカカシは夜風にあたっていた。途中イナリとナルトがひと悶着あったが、カカシは家を飛び出ていったイナリにナルトのことを伝えることで「強さ」について語りナルトの胸中をイナリへと話した。その後イナリが家に戻った後、カカシは一人夜の海を眺めていた。
「あいつはもう、泣き飽きている。ねえ」
それは確かにナルトのことであるが、同時にカカシ自身のことでもあるのかもしれない。ナルトがイナリを放っておけないように、カカシ自身もタズナ達を見捨てることが出来ないのだ。
「悟のこと甘いって思ってたけど。人のこと言えないかな~ってそういえば。悟の奴、夕食にも顔出さないで何やってんだろうかねェ」
「……何やってるというかナニがなかったというか」
ボソッとカカシは不意に後ろから声をかけられ、少し驚いて振り向く。そこにはいつも通り仮面を被った悟がいた。心なしかテンションが低いようだが。
「どしたのよ? 休息のために自由行動許可したのにそんなに疲れた雰囲気だしちゃって。って何この瓶」
悟は無言で水の入った瓶をカカシに手渡す。
「え~と、説明してよ悟」
「体にいい温泉です……。飲むといいらしいです……それじゃあ、俺はもう寝ます……」
ふら~と悟はタズナの家の方へと消える。
「変なの……まあとりあえず、飲むか……」
静けさに波が響く。微かな水を飲む音をかき消すように。
~~~~~~
「どうした白。遅かったな、何かあったか」
ぼ~とした様子の白がアジトに戻ってきたため、念のため声をかける再不斬。
「……ナニはありました」
「あ? 何か言ったか?」
「いえなんでもありません再不斬さん。体に効く飲泉できる水です。こちらを飲んで明日に備えましょう」
少し不審に思う再不斬だが、深く追求するのもめんどくさくなりそうだと感じ放っておくことにしたのであった。
白女体化。「化」というよりこの世界では元から女性だったという設定。