47:目立たずに目立つ
<黙雷悟>
例えば未来を知ることが出来るとして、知った当人はどう動くだろうか? 最高最善の結果を目指す? もちろん誰だってそうするに決まっている。
僕だって例外ではない。けれど運命を変えることは一筋縄ではいかない。多分、それを一番体験している僕だからわかることだ。
……
飛び交う悲鳴。倒れる人々。里を崩壊へと導く大蛇。
母親代わりの、いや……僕の大切な母さんは最後には何時だって笑っていた。僕を助けるために。
2度目以降忍びの力をわずかに得たばかりでは運命は変わらなかった、否変えられなかった。
『貴方のことは、ちゃんと私が守って見せる。だから泣かないで悟ちゃん』
……もう後はない、次何てない……。だけど待っててマリエさん。
今の僕なら今の彼なら絶対に……絶対に貴方をちゃんと守って見せるからね。
~~~~~~
……何だかまた不思議な夢を見ていたような……いやこの感覚はもしかして黙の感情……なのか? 昨日のあの場所、マリエさんの前でも感じた、自分のモノではない感情の渦。
頭の中で黙に語りかけても、反応はない。俺が寝起きだからか、寝ぼけているからなのか。そういえば黙とこっちから接触したことってあったっけ?
……あいつもある意味で俺なら……マリエさんについて何か思うことはあるのかもしれない。
そう思って布団から体を起き上がらせると違和感に気づく。
「……んんん?」
同じ布団にヒナタg
思いっきり唇を噛んで冷静さを零さないよう気をつける。大丈夫、記憶はある……。昨夜結局眠れないと口走ってしまった俺に、ナツさんが
「ではお酒を少々飲んでみては如何ですか? こちらで準備いたしますので」
と好意で少量の酒を持ってきてくれた、この世界で飲酒の年齢にとやかく言うのもナンセンスか……? で、それを後からハナビの部屋に来たヒナタが口をつけて……荒れた。
「本当は……本当は……なるとくんと……!! 婚約……したかったっっ……!!」
ヒナタの本心は、言葉にされると実際心に来る……ごめんって。
……正直俺は原作を最後まで読んでないせいで、大人になった
まあだからこそ、ヒナタの恋を応援したって誰にも責められることではないのだろう、運命なんてものは自分で切り開くものだから。
改めて、ヒナタの恋心の応援をすることを決心してヒナタを揺すって起こす。
(確か、今日は班で集まるって言ってたしな)
ついでに隣の布団で寝息を立てているハナビの鼻をつまんで起こす。
……普通に怒られた……
~~~~~~
さてと、ヒナタたちに挨拶を済ませ日向の屋敷から俺は一端施設へと帰る。
そこで身支度を済ませ、仮面を着けた俺は今一度玄関でサンダルを履き口に出す。
「……行ってきます」
やっぱり……僅かな感覚がある。誰かが見送ってくれるような、暖かな感じを……微かすぎてで今まで気づかなかった大切な人の声。
……物理的にはありえないんだろうけど何となく感じてしまうものは仕方ない。
今の俺には無理でも、いつか必ず
~~~~~~
「ほう……思っておったより随分としっかりとした佇まいじゃな」
昨日の夜から引き続き三代目の部屋に再度俺は訪れ話をする。
(もう少し動揺が続くと思っておったが、なるほど確かに幾つかの修羅場をくぐりぬけて来ただけはあるのぉ……)
「……別にまだしっかりと立てるほど、昨日のことを受け入れ切れてはないです……。だからって止まってもいられないんです。……時間は有限ですからね」
「そうか、では昨日の件詳細についてお主に伝えていくとしよう」
「はい、お願いします」
と、言う訳で俺が中忍試験を受けるうえでの注意点などを三代目に聞いた。
・1つ、今期の中忍試験には、各隠里の力を示すために特別枠として『下忍1人』で試験に参加させることが出来る制度の実施がなされた。
・2つ、特別枠の忍びには各試験ごとに追加でルールが課され、困難を極める……らしい。というより本来3人一班でやることを1人でやれってことで、『1人』だから有利になることはしないようだ。
・3つ、特別枠の忍びは各里に事前に知らされる。ただ……
「今期の特別枠……俺だけなんですか……?」
「うむ、一応砂隠れが一度申請を出してきたが風影殿の名で取り消されておる」
「つまり、俺こと黙雷悟は中忍試験に参加する全員に『唯一の特別枠』であることを知られて……いるわけですね……超悪目立ちじゃん……」
後半の愚痴は小声で言った。だが、これは必要なこと……なのだろう。
「うむ、その目。覚悟は出来て居る様じゃな。では第零班黙雷悟よ、三代目火影の名によって改めて命ずる。中忍試験において必ずや結果を残せっ!! それが引いてはお主とマリエのためになるのじゃ……」
「承知致しました三代目……!」
何だか忍びっぽいな。いや、忍びか。
覚悟は決まっている。やりたいことを成すために、俺は力を振るおう……。
~~~~~~
次の日、中忍試験当日。
「僕は貴方が中忍になること、少しも疑わないですよ」
早朝、身支度を整える中、白が声をかけてくる。
「そう……かな? まあ、俺に出来ることをやるまでさ。皆昨日の夜帰ってきて疲れてるだろうし、白雪も今日は桃さんとゆっくりするといいよ」
「ふふふ……そうですね。少し合わない間に貴方はまた随分と成長を……少し嫉妬してしまいますね……。中忍試験の本選、悟君の闘う姿楽しみにしてますね!」
白は気が早いなあ。
っていうかそんなに俺変わったかな? 俺の疑問を放置して再不斬さんとの共同部屋に白は戻っていった。白なりのエールを貰った……のか?
再不斬さんは昨日「任務だけが過酷だと思ってたぜ……」とか呟いて撃沈してたし、起こさないでおこう。子供の相手は大変なのだ、うん。
身支度を整えた俺はマリエさんの自室にの前に向かう。
昨日、マリエさんには会っていない。向こうから避けてきたからなんだけど……恐らく地下のマリエさんとの接触に気がついているようで。三代目も繋がっているって言ってたし。
部屋をノックする。……まあ、返事はない。
俺が残す言葉は決まっている。それに対して返事はいらない。
「……行ってきます!!」
昔貴方は言っていた。元気に遊びに行っている方が私嬉しいわ~って。だからこそ俺は元気でいようと思う。貴方が安心できるように。
俺の心は貴方のおかげでもう、折れない。
施設を飛び出し俺はアカデミーへと向かった。
「……子の成長って本当に早いのね~。……マザーも同じこと思っていたのかな、ねぇマリエ……」
自室の本棚に背を預け座り込んだマリエは呟く。
彼女は自身を案山子だと思っている。壊れた
彼女のその役目も……あと少し
~~~~~~~
<三人称>
数時間後
中忍試験会場、アカデミーの3階では少しの集まりが出来ていた。そこでナルト達第7班は『薬師カブト』と名乗る忍びに忍識カードと呼ばれる紙媒体で、様々な忍びの情報を得ていた。
「そう! リーや我愛羅のような、各国から選りすぐられた下忍のトップエリートたちが此処にいる。……そして今回はさらに特別枠として1人注目株がいる」
カブトはそう得意げに言うとあるカード見せる。
「黙雷悟、仮面を常につけていて顔については情報開示されていないが、つい先日彼の能力に関しては公開されていてね。情報がブラフだとしてもほぼ全ての能力に関して隙のない忍者だ。強いて挙げられる弱点は忍具の扱いがあまり得意でないことぐらいかな」
「……ああ、そいつに関してはよく知っている」
カブトの解説に、サスケは肯定を示す。
実力者たちの情報が開示されることで、臆するナルトの同期達。それでもナルトは宣戦布告を会場全体にし、注目を集める。
その後カブトが音隠れの忍びに襲われたが、会場に試験官たちが現われることで喧騒は収束する。
現れた試験官、森乃イビキにより中忍選抜第一の試験の概要が語られた。
ペーパーテストをやることにショックを受けているナルトを尻目に解説は進む。
・試験は個人で持ち点10から始まる減点方式であること。問題数は10問。1問間違えれば1点減点。
・チーム方式であり、スリーマンセルで30点の持ち点を如何に減らさないかが合否を判断する基準になる。
・無様なカンニングなどの不正行為は持ち点から2点減点される。
・持ち点が0になれば所属する班ごと道ずれ不合格
下忍の間でざわめきが起きる。その中で1人の忍びが手を挙げ質問をする。
「今回の試験には1人で参加している奴がいます! そいつ、木ノ葉の忍びに有利すぎじゃないですか!!」
イビキは質問した下忍を睨みつけ一括する。
「うるせえ! お前らに質問する権利はないんだよ! それについてもちゃんとルールはあるっ! 呑気に茶を飲んでいる『特別枠』!! よく聞けっ!」
急に名指しされた水筒に入れたお茶をストローで飲んでいる悟は、ビックリしてむせ返している。
「当然、特別枠用のルールもある。特別枠には班員がいない、つまり失敗をフォローしてくれる者がいないという状況を想定して……」
一度の減点で失格とする。
そう宣言するイビキに悟は仮面の奥の目を丸くしていた。
周囲の忍びがクスクスと笑い始める。
「特別枠とかで参加するとか調子に乗るから……」
そんな声が聞こえるなか、試験は開始された。
暫くの時間が経ち、うずまきナルトは頭を抱えていた。
(どうしようどうしようどうしよう! このままじゃサクラちゃんとサスケに殺されるーっ!)
彼がペーパーテストを自力で乗り越えることなど到底不可能なことは彼を知る人物なら想像に難くない。そんな彼はふと前方の方にいる黙雷悟の様子を気に掛ける。
(そういえば、悟の奴大丈夫か……? 変なルールもあるしあいつ勉強出来たっけ?)
そのナルトの視線の先ではあからさまに挙動不審な悟がいた。
(……ああ、あいつも俺と同じで駄目ッぽそうだってばよwww)
自分もピンチであるのにさらに焦っている人間がいると少しだけ冷静になれる。そんな謎の余裕をかましたナルトに意外な人物が声かける。
(てめー、まだ気がついてねぇのか)
(っ!? 誰だってばよ!!)
ナルトが頭に響く声に驚き顔を机に伏せる。隣のヒナタが少し心配するが、ナルトは驚きで声を上げないようにしていた。
すると瞬間、ナルトの意識は自身の精神世界へと落ちる。
「ここは……?」
地下水路の様な風景の中前方の檻の中では、巨大な狐が苛立っているのか、巨大な前足を地面にゴツゴツとぶつけている。
「まさかお前が……九尾……っ!?」
「おい、小僧ってめぇあの仮面野郎に遅れを取りすぎていて見てて余りにも哀れで不愉快だ……っ!」
「あ? 急に何言ってんだってばよこいつ……」
「あの仮面野郎はワシが嫌いなチャクラの感じを2つも持っておって気に食わん……そして見ていると余りにも神経を逆なでにしてきて尾が立つ!」
九尾はいらいらを抑える様子がなく、吠えて辺りの水面がバシャバシャと音を立てている。
突拍子のない邂逅にナルトは呆けている。
「ナルトォ! 今回は特別だ、目を覚まさしてやる。狐扱いの貴様が化かされるのは何だか無性に腹が立って仕方がない。目が覚めたらあの仮面野郎の邪魔をしろぉっ!! いいなぁ?!」
そういう九尾は一方的に話をきりナルトを精神世界から追い出す。
うつ伏せだったナルトが顔を上げるとそこには
会場の前方、試験官のイビキの横の椅子で足を組みふんぞり返って座っている黙雷悟がいた。
一瞬何が起きているのか、判断に困ったナルトはふと気づく。
(この部屋……何か良い匂いがしてるってばよ? あと遠くの方で笛の音のような……)
それらが何を示すのか、理解できなかったナルトだが場の異様さだけには気がついた。
ふんぞり返った悟は緊張感のないだらけた姿勢で何やら資料を見ている。周囲の中忍の試験官たちはそんな悟に目もくれず、別の受験者たちに目を光らせている。
ふと呆けているナルトは悟と目が合う。
「……へ~まさかナルトが俺の幻術を解くなんて、意外だな。一部の奴にはかかってないのは分かっていたけど。なあ、砂漠の我愛羅?」
そういって悟は我愛羅に向けて、目を細め手を振る。仮面の下では笑顔を作っているのか、ナルトにはわからない。
「……面白い奴だ……。お前のことは覚えておこう。後でじっくりと殺してやる」
我愛羅と呼ばれた少年は不気味な笑みで悟に一瞥する。悟は手を振るのをやめ苦笑いをする。
「何かよくわからねーけど。悟、お前が何かしてるのか!?」
喋っても問題ないのを確認したナルトは悟に問いかける。
「YES!! 俺は諜報分野にはまだ明るくないからな。幻術のごり押しで突破させてもらおうと思って、事前に色々仕込んでおいたんだ。どうだ? 今ならカンニングし放題だぞ?」
仰々しい態度で悟は、試験官の1人の前に立ち視界を塞ぐように手を振りアピールをする。試験官が反応することはない。
「……いや、それはやらねぇ……。俺ってば俺の実力で、悟を超えてぇーって思ってるんだ。だからこんな試験、実力でどーにかしてやるってばよぉ!」
ナルトは悟の誘いを断り、試験プリントに目を向ける。すると
(あいつの邪魔をしろといっただろぉ? ナルトォ)
ナルトに九尾が語りかけてくる。
(うっせ!! こんなしょうもないことで悟に勝ったって意味ねーんだってばよ! ちょっとは黙ってろ、化け狐!)
(ちぃ……面白くねぇ……)
(暇ならお前も問題考えてくれってばよ! 俺の体に住んでんだからそれぐらい……)
(……自然現象に人間が勝手に名を付けたことなんてワシが知るわけないないだろう!)
(……なんだ九尾つっても賢くねーんだな、俺とおんなじだってばよ)
(あぁ?! 貴様と一緒にするなぁ!! ……どれ問題とやらを見せてm………………ワシは寝るっ!)
(えっちょ九尾!?)
一方的に念話を切った九尾のナルトは呆れながらも試験に取り組むことにした。そんなナルトの態度に少し疑問符を浮かべる悟。そして時は経ち……
「よし! これから第10問目を出題する……」
イビキはそう宣言する。なんやかんやで結局一問も解けていないナルトは班員を思い、身構える。
第10問目はまず、受ける受けないの選択を迫られた。もし受けなければ、班まるごと道連れ失格。もし受けて問題が不正解となれば、今後永久に中忍試験の受験資格を剝奪されるというものであった。
「受けないものは手を挙げろ、番号確認後ここから出てもらう」
イビキのその言葉の後に幾つかの下忍たちは今年中忍になることを諦め始める。次があるからと。
そしてその中でもうずまきナルトも手を挙げ……
机へと叩きつけた。
「なめんじゃね-! 俺は逃げねーぞ!! 受けてやる!! もし一生下忍になったって……意地でも火影になってやるから別にいいってばよ!!! 怖くなんかねーぞ!!」
そう宣言したナルトは鼻息を荒げる。ナルトを知る同期達はその様子に安堵し、決意を固める。そうでなくともナルトの決意は会場の不安を一蹴した。
(おお、生で見るとカッコイイ)
そんな中悟は呑気に幻術を解いていた。もう必要がないからであろう。
ナルトの宣言を聞きイビキは再度問いかける。
「もう一度訊く。人生を賭けた選択だ。やめるなら今だぞ」「まっすぐ自分の言葉は曲げねえ……それが俺の……忍道だ!」
ナルトの言葉を受けたイビキは笑みを浮かべ、言葉を告げる。
「良い決意だ……では、ここに残った全員に……第一の試験合格を申し渡す!!」
突然の合格発表に騒然とする会場。それを諫めるようにイビキはこの試験の目的を解説する。情報が如何に大事であるか。そして敵に掴まされた情報は危険であること。そして10問目で見たことは、忍びとしての心構え、いざという時に自らの運命を賭せない薄い決意の者に中忍になる資格はない、ということ。
イビキは受験者に向け賛辞の言葉を送り
「君たちの健闘を祈る!!」
そう告げた次の瞬間、教室に乱入者が舞い込む。
(いい話だ……俺がそこまで大層な忍びになるかは正直わからないけども。もしもなれたらイビキさんの言葉でもパクって演説でもしてみるかな)
乱入者を気にも留めず、悟は呑気に構える。原作で知っている展開を眺めたのち、悟は試験用紙をイビキに提出した。
「ほう、問題なく全問正解か……しかしどういうつもりかはわからないが、なぜ俺だけ途中で幻術を解いた?」
イビキは試験の途中から悟に解術されていた。その真意を悟に問う。
「まあ、何といいますか……目立つことが目的なのであえて……ね」
「パフォーマンスか面白い、それで俺が減点を告げていたらどうする?」
「なら、それよりも早く貴方を無理やり気絶させたまでですよ……。言うなら目撃者を消せば見られていないのと同じ……そうじゃないですか?」
そう言って悟は先ほどの乱入者第2試験官「みたらしアンコ」に試験会場を誘導された受験者たちの後を追った。
「ククク、いうじゃないか。なるほどあれが特別枠……将来が楽しみだな」
イビキは1人試験会場のプリントを回収する。
(片や特別枠で満点、片や落ちこぼれとの噂だがまさか……白紙で通過する者もいるとは、うずまきナルト……面白い奴だ)
イビキは笑顔で受験者たちの健闘を祈った。