<三人称>
中忍試験本選の朝。黙雷悟は日課のように早朝に目を覚ますが、里の雰囲気は随分と日常とは違っている。外は時間の割に騒がしく、人の往来を感じさせる。中忍試験は一種の祭りの側面もある。各国の大名も観戦のために訪れ、里の警備はそれなりに万全となる。それなりに。
「さてと、軽く体を動かしてから会場に向かうとしますか……」
悟は何時ものように装束を身に纏い、施設の玄関を飛び出る。
「……いってらっしゃい、悟ちゃん。さてと、みんなで出かける分、お弁当たくさん用意しないと!」
「マリエさん、僕も手伝いますよ」
「……はあ、ピクニック気分かよ……」
「まあ、たまにはこういうのも良いと思うぜ。桃さんよ! 俺たち男組もやることやろうぜ」
見守る者たちもまた、各自の準備を始めていた。
~~~~~~
第三演習場で、軽く体を動かす悟に近づくものがいた。
「……ふうっと……そろそろ会場に向かうか……ん? ナルトか、お前が早起きとは珍しいな」
「おう、おはよう悟……。いやあ、緊張して眠れなくって……」
「何でお前まで緊張してんだよ……」
「お前までって……悟でも緊張するんだな、意外だぜ!」
「でもってなんだでもって!! ……んで緊張の原因は? わざわざ俺のとこまで来て……どうせ九尾に感知してもらってここに来たんだろ?」
「……この間のこと九尾は根にもってんからなぁ……。あとぉ俺も流石にムカついたってばよ!! 急に殴りやがって!! ってそうじゃなくて……。 我愛羅って奴は相当ヤバいってこと教えておこうと思ってな」
「ふーん、ナルトが俺に忠告ねぇ……」
(そういえば原作ではナルトは病院で我愛羅と接触したんだっけか? そん時に我愛羅の境遇や力に触れて少し不安に思ってるのか……)
「だから悟、気をt」
「それは俺じゃなくて、初戦で戦うサスケに言いに行けよ」
「……サスケの奴、探しても何処にもいねぇから……」
「まあ、我愛羅を何とかするのはどちらかと言えば……」
そこまで言いかけた悟は口を閉じる。じっと目を見てくる悟にナルトは不安を感じる。
「……んだよ。じっと見てきてきめぇぞ悟」
「……フッ何でもない。まあ、やるだけやるさ何事も」
軽口を言い合う悟とナルトの元にさらに来訪者が現われる。
「あっナルト君、悟君おはよう」
「悟さん! おはようございます!!」
訪れたのはヒナタとハナビであった。
「ああ、おはよう。ヒナタ、ハナビ」
「おう! おはようだってばよ、ヒナタ!」
軽く挨拶を済ませる一同。その内ハナビは少しもじもじとした様子でおり、ナルトがそれに気づく。
「……ん? ハナビってばどうしたんだ、ヒナタの陰に隠れて……様子が変だってばよ」
「……ちょっと待って今気持ちを落ち着かせているから……ふうっナルトさんは姉さまとあっちで少し話していてください!」
ビシっと指をさすハナビの勢いに押されナルトとヒナタは少し離れた位置に行く。その様子を苦笑いで見送る悟に、ハナビは話しかける。
「……っ悟さん!!!!」
「お、おうどうした、そんなに大きな声出さなくても聞こえてるぞ……」
「はい、いや、えっとその……」
文字通り草葉の陰に移動したナルトとヒナタは2人を見守る。
「ハナビの奴どうしたんだってばよ……なあ、ヒナタ?」
「……えっとその……大切なこと、かな……見守ってあげよう、ナルト君」
「……? おう」
そういうヒナタの横顔を見るナルトはよく分からない感情により、目をヒナタから慌てて逸らす。
(……たくっ人間てのはめんどくせー生き物だなぁ。言いたいことがあるならサッサと言えばいいものをどいつもこいつも……)
(……よくわからねーけど、多分お前は自分勝手すぎんだよ九尾)
こなれた感じで会話する九尾とナルト。お互いに悟と言う対象を挟んで接触する機会が多いために奇妙な慣れが生じているようだ。
そんなナルト達に見守られ、ハナビは決意を固めて話を切り出す。
「き、今日の本選が、が、が頑張ってくださいぃ!! 応援しています!! そのそれで……そのこれを……」
余りにもハナビの緊張した様子に悟が苦笑いを浮かべていると、ハナビは後ろに回していた手を差し出す。そこには小袋があり
「これは……中身は丸薬かな?」
「……えっと滋養強壮に効くものを、ちゃんとレシピを見て……ナツさんに手伝ってもらってつく、作りました……。よかったらその……」
ハナビのあまりに緊張している様子に、気の毒に感じた悟は丸薬の入った小袋を受け取り中身を取り出し仮面をずらしてそれを口にする。
「えっあちょっと……!」
「ふむふむ。これ……味付きか珍しいな……? ん、何かちょっと変わった味なんだけど……?」
そう言って丸薬を味わう悟。不思議そうな顔をしている彼の表情を見透かしてハナビは言う。
「あの……私は特別味はつけていないので、市販の丸薬と風味とかはそんなに変わらないはずですが……」
昨日完成させて自分で味見をしているので、とハナビは言葉を付け足す。
「………………なるほど」
そう呟いた悟は丸薬の咀嚼を続ける。覚えのない味の指摘に少し考えこんだハナビはふとある可能性に気づき……
「っ!!! 悟さん、今すぐその丸薬を吐き出してくださいっ!!」
そう言って悟に詰め寄る。
「えっやだ」
ハナビの言葉を即拒否する悟。その2人のやり取りに違和感を覚えたヒナタとナルトは彼らに歩み寄る。
「どうしたのハナビ? そんなに慌てて……」
「どうしたぁ? 食いもんみたいだけど、そんなに美味しくなかったのか?」
「丸薬だよ。……丸薬に上手いも不味いもないと思うんだが……」
「呑気に話している場合じゃないですよ!! 悟さん、その丸薬には……
毒がっ!!
ハナビの叫びを聞き、ヒナタが青ざめる。
「っ悟君!! 何で咀嚼し続けているの!?」
「っマジかぁ!? 悟サッサと吐き出せっ!」
事情を把握した2人も悟に詰め寄るが
「ヤダ」
悟は即答。口の中の丸薬を飲み込み、残りの丸薬を全て口に放り込む。
「っ悟さんっ!!!???」
余りに常軌を逸した行動にハナビが声を裏返させ叫ぶ。ヒナタも口を手で被い、ナルトも汗を垂らしてその光景をただ見ることしかできない。
(……正真正銘のバカだなコイツぁ……)
ナルトの中の九尾も呆れるその行動に、周囲が絶句する中
「……ふうっごちそうさまでした」
全ての丸薬を飲み込んだ悟は両手を合わせ頭を下げる。
「なんで……なんで……」
そう呟くハナビに悟は仮面の下で笑顔を作り答える。
「……毒を食わば皿までってね。せっかくのハナビからのプレゼントだ、無駄にしたくなかったからなぁ」
「そんな言葉……文字通り使う人は普通いないよ! 悟君のバカッ!!」
ヒナタの怒った声にたはは、と悟は頭を掻いてとぼける。そして
そのまま前のめりに倒れこむ。
「グッ……ちょっと……流石にまずかったか……あっ丸薬の味がまずいとかそういう訳じゃ決して……」
「バカですか!! 毒の混ざった丸薬の味のフォローとかしなくていいんですよ!!」
かなり怒っているハナビたちに心配され囲まれる悟。
「ちょっ……どうすんだってばよ! 本選までそんなに時間もないはずだぞぉ!?」
「と、取りあえず病院に連れていかないと!!」
「いえ、姉さまそれでは会場に間に合いません!! 道すがら解毒する方法を……!!」
慌てふためく3人に息も絶え絶えの悟が呟く。
「……施設の俺の部屋の机の……引き出し……解毒……」
「っわかりました!! ナルトさんと姉さまは悟さんを抱えて会場に向かってください!! 私が施設まで解毒薬を取りに行って途中で合流しましょう!!」
「お、おうわかった、了解だってばよ!」
「っハナビお願いね!!」
「はい!!!」
ハナビのハキハキした指示により散開し二手に分かれる。
(こん中だと、ハナビっつうガキが一番冷静で常識がありそうだな……確かナルトぉ、お前より5つ下だったか?)
(今はそんなこと言ってる場合か?! そうだ! 九尾チャクラを貸してくれってばよ、そうしたらもっと早く悟を……)
(嫌だねぇ……)
(なんで?!)
(この状況はその馬鹿が自業自得で生んだものだ。なんでワシがフォローしないといかんのだ……ったく……)
そういう九尾は一方的に交信を切る。背に悟を乗せたナルトは焦りながらもヒナタの誘導で本選会場まで向かった。
~~~~~~
「すみません! 誰かいませんか!! 悟さんが大変なんです!!!」
施設「蒼い鳥」についたハナビは施設に向かって大きな声をかけるが反応はない。
(もしかして、中の人みんな会場にもういってるの!?)
焦るハナビ思考を駆け巡らせる。玄関の施錠はしっかりとされており、恐らく窓なども同様であるとハナビは考える。まだ木登りの業ができない以上玄関から進むしか今のハナビに手はない。
(……っしょうがない!! 後で怒られても、悟さんが助かるなら!!)
そう思い玄関をぶち抜こうと構え、突進するハナビ。
ガチャ
すんでのところで鍵が開く音を聞き、ハナビは急停止する。
「っすみません!! お邪魔します!! 事情はあ……とで……」
勢いよく扉を開けたハナビは急いでいる主旨を鍵を開けたと思われる人物に叫ぶが該当する人物は、すでに姿形なく、施設の中は人の気配を感じさせない静けさを漂わせていた。
(どうなって……いや今はそんなことよりも!!)
若干の未知の恐怖を感じつつもハナビは、急いで過去に自身が運ばれた悟の自室に向かう。自室の扉にも鍵がかかっていると思いドアノブを捻ると。
「開いてる……っ!」
ハナビは驚きつつも部屋に突入。部屋の隅にある小さな机の唯一の引き出しを開ける。
中には、小さめの煙球や修繕されているがボロボロになっている狐の面、翡翠の髪飾りなどが入っている。その中に小さな液体入りの小瓶を見つけたハナビは咄嗟にそれを掴み部屋を抜け出し、施設を飛び出す。
静けさを取り戻した施設の開けっ放しの扉や玄関。それらはふと風が吹き全て閉じられる。それは何者かの風遁による仕業だがそれに気づくものはすでに誰もいない。
~~~~~~
「これより予選を通過した8名の『本選』試合を始めたいと思います。どうぞ最後まで御覧下さい!」
「……8名なら……2人足りないようですが……」
「……」
火影の開幕の挨拶が済み、会場のボルテージが上がる中風影は参加者の少なさを指摘する。
「なあ、審判さんよぉ」
会場中央に集まる参加者の内シカマルが審判に問いかける。
「ん? なんだ」
「もし時間までに参加者がこねー場合はどうなるんだ?」
「自分の試合までに到着しない場合、不戦敗とする!」
(おいおい……サスケに悟、あいつらめんどーになって逃げる玉じゃねーだろォ……どうしちまったんだ?)
その後審判からの軽いルールの説明が入り……
「じゃあ一回戦……日向ネジ対黙雷悟……いちおうネジを残して残りの奴は会場外の控室まで下がれ!」
ネジと審判のみになるフィールド。会場の上がったボルテージが次第にブーイングへと変わっていく。
「オイ審判、到着しない奴は不戦敗なんだろ?」
腕を組み余裕そうにしているネジがそう囁く。審判はめんどくさそうに舌打ちをして火影へとアイコンタクトを送る。
……火影は残念そうに首を横に振った。
「仕方ない……え~第一回戦は黙雷悟の棄権にy
「ちょっとまったぁぁぁあああああああ!!!!」
どこからか響くその轟音。それに会場の騒音はかき消され、静まり返る。声に心当たりがある人物たちは皆頭を抱える。
「「「この声、ナルトか(ね)……」」」
会場の外から影分身の人梯子により屋根に上ったナルトが跳躍し、会場の真上から影分身ロケットの要領で背負っていた人物をぶん投げる。
「行ってこい馬鹿仮面!!」
そういうナルトが投げた人物は、煙を巻き上げ音を響かせ着地する。
煙が晴れた先で、片膝と片手を突いた黙雷悟が姿を現す。
「……待たせたな」
「フンッ……どうした? 随分と顔色が優れないようだが?」
「いっとけクソ野郎、おかげさまで絶好調だよ」
白眼を発動させたネジと視線をぶつける黙雷悟。
賽は既に投げられている、後は……己の信念を賭すのみである。
「グッべえ……!!」
悟の脇に墜落したナルトは奇声を上げる。
「カッコつけてんだから……ちゃんと隅にはけるか着地決めろよ……」
「誰のせいだと思ってんだ……てばよ……」
ナルトに手を貸し、会場の出入り口へとナルトを誘導する悟。
(……おい、仮面野郎……)
(……? 九尾か、なんのようだ?)