<三人称>
精神世界での黙との作戦会議と情報共有をひと段落終えた雷は精神を現実世界に戻し、一息つく。
「今頃会場では、シカマルとテマリが戦ってるはずだが……」
(確かに僕の記憶でも彼の試合は少し長引くはずだね、こちらとしても休息が取れてありがたいよ)
「……なあ、お前が言っていることは本当なのか? いや、まあ俺の存在よりは世界目線でアブノーマルじゃないのかもしれないけど……」
(僕が
「ふ~ん……じゃあこの身体には異世界人である俺と未来人の黙の魂が入ってるってことになるのか……一気にファンタジー感出てきた……」
(難しく考える必要はないよ、君がこの世界を記した本の記録に沿って活動するように、僕も自身の記憶を頼りに動いている人間てだけさ)
黙からの衝撃的な情報を聞き、雷は何とも言えない気持ちになる。
「……ちゃんと原作最後まで読み込めば、タイムスリップする術とか載ってたのか……?」
(さあ? その本とやらが最後、どこまでの時代を記していたかは僕は知らないし……僕自身は詳しく方法を知らないからね、ある道具を解析した結果どうのこうの……おや、人が来たみたいだ)
控室の部屋がノックされ、悟は返事をする。そして開けられた扉の先にはハナビとテンテンがいた。
「お、ハナビとテンテンか。どう……したぁあ!?」
不意にテンテンが長杖を出し殴りかかってきたことに驚き、悟は長杖を掴みながら驚きの声を上げる。
「アンタ!! ハナビちゃんの丸薬に毒入れられたのに気づいてたのに態々全部飲み込んだって……バッカじゃないのぉ?!」
「ああ事情を聴いたのね、いやちょっと捨てるのも忍びないし」
「作った方は責任感じるのよバカたれ!!」
「ごもっともです!! 指摘されて気づいて結構反省してます!! ごめんなさい!!」
ぎゃーぎゃー杖を押し合い言い合う2人にハナビはそっと語りかける。
「テンテンさん、もう大丈夫です。すみません、ここまで付き添ってもらって……」
ハナビの声に「……ったく……」と一端杖を巻物にしまったテンテンは気持ちを落ち着かせる。
「あの……テンテンさん、悟さんと少し話がしたいので外で待っててもらっていいですか?」
「?……ええいいわよ。悟! 反省しなさいよ!!」
そういうテンテンは控室から出ていく。扉の外で待機していることはわかるが聞き耳は経てないであろうことは、幼馴染の悟にはわかる。
「どうした? 態々テンテンを外に出して……いや心配かけたことは本当、反省してるから……」
「……悟さんどうして……どうして毒に苦しむ演技何てしてたんですか?」
「うっ!? …………サア、ナンのコトカワカラナイナ~」
(……君、不意を突かれた時の演技だとボロがですぎだよ……)
(……うっせいやい!!)
思ってもみなかった質問に焦る悟に、ハナビは淡々と言葉を繋ぐ。
「……気づいたのは解毒薬を持って、姉さまとナルトさんと合流した時です。悟さんは事前の準備をしっかりするタイプだと伺っています。なので解毒薬を自前で用意しているのには納得しましたが……おかしいんですよ」
「……ナニが?」
全力でとぼける悟。
「それを携帯していないことです。姉さまもナルトさんも焦っていてそこまで考え付かなかったようですが、ふと私は気がつきました。なので皆さんと合流するために発動していた白眼で悟さんの腰の用具入れを透視させてもらいました……わざわざ手持ちの解毒薬を飲まないなんて……毒にかかったふりをしているのか、そもそも毒なんてなかったのか……どちらかしか思いつきません」
仮面の下、悟は顔を引きつらせる。腰のバックパックを隠す動作をついしてしまうが、ハナビが白眼が発動しその行動は無に帰す。
「今もそこにありますよね、解毒薬」
「…………っ」
(……君は九尾を探偵と評していたけど、ハナビちゃんにこそふさわしかったようだね。まさに探偵だ)
(他人事だと思って……!)
(同じ黙雷悟だけど僕は悪くないからね、他人事さ)
根拠を述べるハナビの白眼の威圧感に押される悟。
「ありますよね?」
「……っイヤぁ無いヨ?」
「ありますよね?」
「…………っ」
「あ・り・ま・す・よ・ね?」
「……はいアリマス……ゴメンナサイ……」
圧に押し負け、悟はやっとのことで認める。見苦しい。
「……理由を教えてもらえますか?」
「それはぁ……い、言えない……かなぁ?」
「…………わかりました」
「おっえっ?!」
理由についても問い詰められると思っていた悟はハナビの追及の浅さに驚く。
「……何も理由なく悟さんはそんな事しないとは思います。何か事情があると思いますのでそこまでは聞きません……しかし」
「しかし?」
「次、似たようなことがあれば、問答無用で痛みを伴う点穴を、出来る限り突かせてもらいます」
「ひえっ……気を付けます……」
騙されたハナビが抱いた怒りの大きさを改めて痛感した悟は深く反省をする。
「……本当に心配したんですから……」
「うん、ごめん……」
(ハナビには本当に申し訳ないことをしたな……)
しゅんと反省している悟の様子を確認したハナビは控室の扉を開けテンテンを呼び込む。
「すみません、テンテンさん。お待たせしました」
「いいのよ~。ってあら……まあ……随分と絞られたようねぇ悟」
「はい……反省してます……」
「ならいいわ。ハナビちゃんの保護者たちはネジの控室に行っているみたいだし、ハナビちゃん一人にするわけには行かなかったからついてきたけど面白いもの見れて良かったわ!」
項垂れている悟の頭をペシペシと叩くテンテン。
「まあ、一回戦勝ち上がりおめでとう。こっちの意味もあって来たんだから」
「……ありがとう……」
一通り悟の頭を叩いたテンテンは満足そうな笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、私たちは観戦場に戻るから……アンタも頃合い見て来なさいよ?」
「それでは悟さん、失礼しました」
「うん、色々とありがとう。2人とも」
そういう2人を見送り悟は控室に1人になる。
(さてと……僕たちも行くかな。成すべきことなすために、やりたいことをやるために。先ずは)
(……ああ、先ずは)
マリエさんの安全の確保だ。
2人の黙雷悟は行動を開始する。そのために先ずは控室を出て、観戦場へと移動する。
(黙、お前の話ではマリエさんは木ノ葉崩しの影響で暴走してしまい、木ノ葉の人間を手にかける……。そしてその責任を問われて死刑……になるんだな?)
(ああ、マリエさんが暴走する詳しい原因は僕も今までわからなかったけど今回君のおかげで知ることが出来た。彼女の不安定な精神が木ノ葉崩しで揺さぶられて崩れてしまうのが原因だったんだ。先ずはマリエさんの所在を確認しよう)
(その後マリエさんの安全を確保し、三代目と大蛇丸の戦いに加勢して大蛇丸を早めに撃退出来れば三代目が自由に動ける。そうすれば木ノ葉崩しの被害はかなり抑えられるはずだ!)
2人のプランをすり合わせる中、観戦場まで移動した悟はチャクラ感知を行い、良く知るマリエ、再不斬、白、ウルシのチャクラを探る。
(あれ……白と再不斬とウルシさんだけしかいない?)
一抹の不安を感じながらも施設の関係者の元へと駆けつける悟。
「おや? 悟君。一回戦お疲れ様です、とてもいい勝負でした……どうかしましたか、そんなにも急いだ様子で」
「ん、どうした悟?」
白とウルシは悟に気づき声をかけてくる。
「っマリエさんは? 観戦場に見当たらないけど……」
「ああ、マリエさんなら忘れ物を取りに行くと一端施設に戻っていますよ」
白の回答に焦る悟。
(おい、どうする黙!)
(いや、これは都合がいいかもしれない僕に変わって雷!)
(りょ、了解!)
悟が少し黙り込んでいる間白は不思議そうしている。
「白雪、お願いがあります。桃さんと一緒に施設に向かってください」
「突然……どうしてですか?」
悟の急な要請に不思議がる白。悟は白へと耳打ちする。
「恐らく、近いうちに里全体で戦闘がおきます。マリエさんが心配なので2人でマリエさんを施設に留めていてください」
「それは……本当ですか? にわかに信じられませんが、それなら早いうちに皆を避難させた方が……」
「大丈夫、この会場には手練れがいます。それに木ノ葉の暗部も。子供たちとウルシさんは下手に動かずここにいた方が安全です。白と再不斬はここにいては戦闘する可能性が出て、木ノ葉に素性が知られる危険性があります。なのでマリエさんと共に施設で隠れていて欲しいんです」
「……なるほど……わかりました。サスケ君の対戦が見られないのは残念ですが、君がそういうなら従いましょう」
そういって白が再不斬の元へ向かう背を見る悟にウルシが話しかける。
「おいおい、俺を無視すんなよ悟。白雪に耳打ちなんて、ちょっと羨ましいことしやがってwww」
冗談を言うウルシが悟の目を見ると、懐かしさと悲しみを抱いた瞳が一瞬見える。しかし瞬きの間にいつもの悟の目に戻ることで違和感はすぐに消え去る。
「……いや、ちょっとマリエさん一人じゃ探し物いつまで経っても見つけられそうになくて心配になったので、白雪と桃さんに手伝いをお願いしたんですよ」
「ああ、たまにそう言うことあるよなマリエ。お前の次の試合まで探し物してそうなの普通にありえそうで怖いぜ」
マリエを出汁に笑いあう、悟とウルシ。悟は同期と話してくると言いその場を後にした。
(なあ、黙……そういえばあんたって実年齢いくつなんだ? 何歳の時にタイムスリップを……)
(30歳前後だったかな、確か)
(……年上かよ……)
(……言っておくけど敬語になんてしなくていいからね? よし、取りあえずこれで最低限のマリエさんの安全は確保できた)
(了解って……これで最低限なのか? あの2人がいればかなり安全だと思うが……)
(僕だって色々試してきたのに一度もマリエさんを助けれていないんだよ、最悪を想定して動かないと。地下にいるマリエさんと表にいるマリエさんが近ければ守りやすいはずだ、後は……)
(三代目か)
(本当なら僕たちがマリエさんの傍にいるのがベストなんだけど、君は一応里も守りたいだろうからね。少し僕は休憩しているから、今はナルト君たちに謝ってきておいで)
(……了解)
2人の交信は黙が黙ることで終わる。
黙と会話しながらナルト達を探していたので、悟はすぐに彼らの元へとたどり着く。
「あ~……2人とも……今朝はごめん……お手数をおかけしました」
「悟! お前ホントバカだってばよ! 俺よりバカだ馬鹿」
「悟君……ハナビもすごく心配してたんだから……変に格好つけなくていいんだよ?」
「ぐっ……2人の言う通りです……反省しています」
悟は2人と一緒に席に着いて観戦しようと椅子に手をかけた瞬間。
「まいった……ギブアップ!」
戦っていたシカマルが降参を宣言する。
「っ?! はあ~~~!? あいつ何やってんだってばよぉ!! せっかくのチャンスだったってのにぃ~~~! ……俺、説教してくる!!」
「な、ナルト君!?」
「あ~……行っちまった……あいつ自分がもう中忍試験の関係者じゃないの、分かってないだろ……」
シカマルの戦いが終わりを告げたということは、悟の
「あれ、悟君座らないの?」
「……サクラとかにも挨拶してこようかなって思ってな。ヒナタもナルトと2人っきりのほうが……って後ろにシノがいたか、気づかんかったすまん」
「……別に気にしていない。なぜなら俺は対戦相手が棄権してしまい、時間を持て余しこうして班員のヒナタの元に来てみたは良いものの、意中の人物と居るヒナタの邪魔をすることは出来ないので気配を消していたからだ。決して俺の陰が薄いとかそう言うことを気にしているわけではない。なので」
「なげぇーよ……。つーかシノお前、ヒナタがナルト好きなの知ってたのか?」
「あ、あれ?! 私そんな……し、シノ君! 確かにナルト君のことはその、と、友達として好きなだけで……決して婚約者の悟君のことが嫌いという訳じゃなくて……その」
「別に、俺は何も言うまい。悟の気の利かせ方といいヒナタの態度と言い、何か事情があるのは直ぐに察せられる。ヒナタ、焦って意味のないフォローをすると逆にわだかまりができることもある。気をつけるといい」
(……シノっていい奴だよな……)
悟のシノに対する評価が上がったところで、悟は「それじゃあ」と言いその場を後にする。ヒナタには同期に挨拶に行くと言っていたが、悟が移動した位置は、三代目の所在を確認できる位置だ。
客席では、遅れてうちはサスケが現われたことにどよめきが走っている。
(そろそろか……緊張してきたかも……)
現れたサスケに目を向ける悟は、サスケと一瞬目が合う。
(サスケのお手並みでも見て、緊張をほぐしておくか……)
軽く手を振った悟は気を落ち着かせるために、観戦に集中することにした。
~~~~~~
同時刻
施設「蒼い鳥」
「違和感を感じて来てみれば……っ
自身の名前を口にするマリエは驚愕している。内側から開けられる構造ではないはずの、地下へと続く道。それは開かれており、マリエの自室の椅子で腰かけているのは……
「……静か……だけど……五月蠅い……人の悪意……ねえ、
もう一人の自分。外に出てはいけないはずのやせ細った姿で足を抱え椅子に座るその人物。
(一度
「……私たちの願いはただ悟ちゃんを見守ることのはずだ!! お前が結界の外に出れば、私たちは……っ!!」
普段通りエプロンを身に着けている方のマリエは突然、頭を押さえてうずくまる。
「っつう……今す……ぐっ!! 地下に戻れ!! マリエェ!!」
(ううっ……不味い……同じマリエ同士……結界が反応しないせいで三代目も異変には気づけない……! クシナさんの封印術の仕込まれた空間からどうやって……)
「醜い……この世界は……残酷で……どうしようもないほどに……こんな世界……偽物なの……偽物……」
「っ思いだっ……せ……私たちは悟ちゃんを………みま……もるため……っ」
やせ細ったマリエは上を見つめ呟き続ける。頭を押さえるマリエは必死にもう一人の自分に語りかける。
「……っ気を持て……あの時の覚悟を忘れるなっ! 何のために、2人になったのか……」
「偽物……偽物……偽物……オビトも……リンも……みんながいない……みんながいない……みんながいない……みんながいない……みんながつらいこんな世界」
壊した方が良い
誰かが傷つく前に
絶望する前に
夢を諦める前に
こんな世界は偽物だ
己のために
欲望のために
力のために
悪戯に他者を傷つける世界なんて
「っ思い出せ! マリエ!! カカシに言っただろ!! あの子が……生きていくのを見届ける……そのために私たちは分かれた! これ以上……ガイやアスマ……紅……仲間を傷つけないために! 力を抑えるために!!」
「……思い出すのは貴方よ、マリエ」
虚ろに上を向くマリエは不意にはっきりとした口調になり視線を落とす。お互いに目が合い、お互いの感情が同調していく。
「私たちの本当の名前は
「ちっ違……う! その名は捨てた!! マザーがくれた名が……マリエが私だっ!!」
椅子から降り、目をほぼゼロ距離まで近づけるマリエ。
「さあ、もう考えるのはやめよう? 一つになって……世界を……塵へと還すのよ」