目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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所謂過去編


59:「本当の私」中編

<三人称>

 

 屋根が崩れた家屋の二階部分。パラパラと木くずが落ちる中に蠢く人の影。

 

「……っあ? どうなった……?」

 

 目や鼻から血を吹き出し、全身の筋肉もブチぶちに千切れた瀕死の黙雷悟は自身の僅かな感覚を確かめる。

 

 目も霞んでいてよく見えていないが自身が抱きしめている存在は確かに息をし、命を宿している。

 

(良かった……痛てて……よく俺生きてんな……)

 

 安心感から緊張を解く悟だがふと少し前のやり取りを思いだす。

 

(っおい!! 黙!! いるか?! マリエさんは無事だ、いるなら返事を……)

 

 もう一人の自分へと声を投げかける。精神世界には雷1人しかいない。

 

(そんな……お前も、マリエさんと話したいこととか色々あったはずだ!! 未来で出来なかったこと……やっと叶えられるのに……そんな!!!)

 

 声が響く精神世界。ただ草原に木が一本生えたその光景は雷の叫びを木霊させるだけで返事がない。

 

 悔しさか、不甲斐なさか、ただ精神世界で項垂れる雷。

 

 

 

 

(……うるさいよ、雷)

 

 ふと聞こえたその声に顔をあげる。

 

 そこには限りなく薄っすらとした体をしている黙の姿があった。

 

(っ……!!! あんなやり取りしたから心配したぞ、この野郎!!!)

 

(……いやあ、ごめん。どうやら僕はまだ死んではいけないらしい。まあ、やりたいこともまだあるし都合が良いと言えばいいんだけど……)

 

 薄っすらとしている黙は精神世界の中央の木を見つめる。

 

(本当に……仙人っていうのは何考えているのかよくわからないものだ)

 

(……ズビっ……何言ってんのお前?)

 

 黙は「さあ?」と肩をすくめ、若干泣いている雷を見つめる。

 

(君のおかげでマリエさんの暴走は止められた。でもまだ油断しないでね)

 

(そりゃあ、もちろん。マリエさんを処刑したがっている奴は、被害にお構いなくやってくるだろうからな)

 

(そうだ、それに僕ももう表には出ていられない……次に表に出てこれるのは数年を目途に見た方が良さそうだ……)

 

 そういう黙は満足そうな笑顔を浮かべて、雷へと語りかける。

 

(……あとは頼んだよ……悟)

 

(まかせろよ、相棒……!)

 

 雷の言葉に面をくらったかのような表情になる黙は1人呟く。

 

(僕にその資格はない……だからまた何時か……君に真実を話す時が来るのを待とう……)

 

(何か言ったか?)

 

(いや、何でもないそれじゃあお休み……)

 

 そう言った黙は精神世界から姿を消す。

 

 若干、泣いてしまった悟は恥ずかしさに顔を赤らめながらも現実世界へと意識を戻す。

 

 視界が霞むなか、自分たちが突っ込んだ屋根の穴を見る悟が目にしたものは。

 

 

 巨大な蛇の頭だった。

 

 

「っ俺たちを追いかけて……!」

 

 咄嗟に起き上がろうとするも全身はボロボロで立つことすらままならない。

 

「ここまで来て……死ねるものかよ!!」

 

 気力で膝をつき蛇を睨みつける悟だがもはや、僅かばかりのチャクラを練ることする出来ていない。

 

 背後のマリエを守るため、それでも手を広げ蛇の前に立ちふさがる悟。

 

 そして大蛇はその巨大な頭を持って家屋へと突撃する。

 

 

 

 

 瞬間、不意に悟の視界に影が落ちる。

 

 

 

 その後ろ姿はいつも見ていた彼女のモノであった。

 

 

 

 

「……っ塵遁・原界剥離の術」

 

 彼女の放つ光に巨大な蛇が突っ込む。

 

 するとまるで反動も衝撃もなく、蛇は見る見る内に頭から消失する。

 

 彼女の持つ両手から作り出した巨大な立方体のブロックは独特な金属音のようなものを響かせ、蛇を飲み込むように分解していく、そして。

 

 ブロックの消失と合わせ、辺りには静けさが蔓延る。遠くの方では収束しつつある戦闘音が聞こえている。

 

「っマリエさん……?」

 

 あっけに取られた悟が呟くその名に彼女は振り返る。

 

「……すまん。心配を掛けたな……」

 

 彼女の様子は歪であった。ボロボロになったエプロンを付けている普段着は肌を露出させている。そこから覗く半身はやせ細り、その片手、片足の爪の伸びようから体が示す時間の流れの歪さを感じ取る。顔や髪も半身部分がやつれているその様は正に、二つのモノをくっつけたかのようであった。

 

 

「……あんまりジッと見ないでくれ。今の姿は流石に……恥ずかしい……」

 

 

 照れて顔を赤くし、腕で隠すマリエを見る悟は涙をブワッと噴出させる。

 

「ちょっ……! 泣くな、男だろ!」

 

「だっでぇ……だっでぇ!!」

 

「ええい、仕方ない奴だ……お互いチャクラもほとんど練れないほどボロボロになっているのに……仕方ないそこのベッドで休息をとろうか」

 

 そういうマリエはフラフラとしながらも悟を抱え、半壊しているベッドに寝かせる。

 

「ふふ、昔を思い出すな……悟、お前をベッドに寝かせるのも本当に懐かしい……あんな小さかった奴が……ここま、で……グズっ」

 

 ベッドに腰かけたマリエは顔を悟から背ける。

 

「……っそんな物心あるかないかの時のことなんて引き合いに出さないでください……恥ずかしい」

 

「ふふ、そうだな。お前は本当に、よく頑張ったよ。お疲れ様……」

 

 微笑みを浮かべ涙を目に溜めるマリエは、ボロボロになっている悟の頭を撫でる。

 

「……流石に今回のことと言い、お前には私の全てを話さなければいけないようだな……」

 

「そんな……無理しなくても……」

 

「いや、お前には聞いて欲しいんだ。蒼鳥マリエという……忍びの話を」 

 

 お互いに体が満足に動かない中、蒼鳥マリエは語り始める。自身の全てを。

 

 

 

 

~~~~~~~~

<蒼鳥マリエ>

 

 

 蒼鳥マリエ3歳

 

 

 私は自我が芽生えた頃には既に戦いの最中にいた。私の本当の生まれは土の国にある岩隠れの里。私はある人物の血縁としてその力を振るっていた。

 

(なき)様……此度の戦いも良きものでした。またのご活躍を……」

 

「わかっている……」

 

 風遁、土遁、火遁の三つの性質を合わせる血継淘汰、それを使える私は固定砲台としての扱いを受けていた。血縁者は既にこの世になく、しかし別にその時はそのことに何も感じていなかった。

 

 戦いも私には日常そのものであり、術を使えば、正面にあるもの全てが塵となる。手を叩けば音が鳴るのと同じくらい、私にとっては戦いで敵を消すことは当たり前の日常となっていたのだ。

 

 従者のような忍びは私を持ち上げるように褒めたたえるが、その目に宿る恐怖は私を化け物として見ているのがよくわかった。

 

 塵遁を開発した先代土影の残した教えにより、血縁の私は「塵遁」を上手く扱えた。現土影、両天秤のオオノキよりも強く、正確に。

 

 影をも越えるその力を恐れ、人々は私を孤立させた。それでも一人だけ、唯一私に優しく話しかけてくれる忍びがいた。

 

「あら、亡また泣きそう顔ね。せっかくの可愛い顔が台無しよ?」

 

 名を『ナニガシ』と言ったそのくノ一は私に親身になってくれていた。

 

「……私に可愛さなど不要だ。戦いの糧にならない。それに泣きそうな顔などしていない」

 

「まだ3歳なのに、相変わらず硬いわね……。貴方が笑顔になってくれたら私も嬉しいんだけど……」

 

「……お前の笑顔になど興味はない。私はただ……強さだけを求められている存在だ」

 

 いつも強く彼女を否定する私は、心の中でそのやり取りを楽しんでいた。

 

 

 しかしある日……

 

 

「ナニガシがどこかのスパイの可能性があると上層部に情報が入った……これ以上奴を里においておけば……」

 

「しかし奴の存在は替えがきかない。無暗に動かせば……奴が亡様に近づいているのも我らの戦力を削るために……」

 

 ナニガシにスパイの容疑がかけられた。彼女は相当優秀な忍びだ。長期間、岩隠れに滞在していたことで彼女が本当にスパイかどうか皆が信じられていないほど。

 

 それでも私は……

 

 

「ナニガシ、貴様木ノ葉の諜報員だろう?」

 

 普段通り笑顔で語りかけてくる彼女に事実を突きつける。私は感知タイプでもある。

 

 彼女が情報をやり取りしている現場を気づかれずに押さえられるほどに優秀なのだ。まだ誰もナニガシが木ノ葉の者だと気づかぬうちにその情報を得、彼女に暴露する。

 

 瞬間、真顔になった彼女に押し倒され首元にチャクラメスがあてがわれる。

 

「……どうした? 私を殺さないのか?」

 

 彼女が腕を引けば、私は死ぬ。この空虚で無に等しい人生も……それで終わるのだ。けれど彼女は腕を震わせだけで、行為におよばない。

 

「……亡……抵抗しないの?」

 

「……してもいいが、すれば貴様は塵になるぞ?」

 

 そういい腕を構えチャクラを練る。その私の動作に対して、ナニガシは一切動じずに私に目を見る。

 

「おい、ナニガシ。本当にこのままだと……」

 

 両手の先のチャクラは収束を始め、独特な音を響かせ始める。

 

「私……もう疲れちゃったの……」

 

「何を言っている……?」

 

 彼女の目には涙が溜まっていた。

 

「こんな……誰かを害するだけの私は……生きていちゃいけないって……最近そんな考えばかりが頭を埋め尽くしているの……」

 

 彼女の言うその言葉に嘘偽りがないのは直ぐにわかる。子供ながらに、噓と賛辞に囲まれた私だからこそわかる彼女の真意。

 

「……お前はそんなんじゃないだろう! 私にいつも語りかけてくれていたお前は優しい、私が保証しよう」

 

「……ふふふっ3歳児に励まされるなんて、忍びとしても大人としても失格ね……」

 

 私は術の行使を止める。それと同時に彼女もチャクラメスを納め、力なく項垂れる。

 

「貴方に優しくしていたのも、私のただのエゴ。誰かを殺す情報を扱い続ける自分の心を保つために、ただそれだけで貴方に同情を示していたにすぎないの」

 

「……それでいいだろう……自分のことを守れるのは自分だけだ。お前が悔いる必要はない。ただ死にゆくものが弱かった、それだけだ」

 

 私の物言いに彼女は力なく笑う。普段の彼女はもっと綺麗に……美しく笑っていたのに。ただその笑顔を見たいがために私はとある提案をする。

 

 

 

~~~~~~

 

「……っこれが無様の血縁者の力……大したものじゃぜ……皆の者、この場から離れろ!!」

 

 

「「塵遁・原界剥離の術!!」」

 

 

 里で暴れる私に三代目土影・オオノキは術を放つ。塵遁は同じ塵遁でしか相殺できない。だからこそ、私が暴れれば奴が出向いてくるのも想定内だ。

 

 塵遁の扱いは私の方が上。より密度の高い塵遁がオオノキに迫る。

 

「っ土影様ぁ!!」

 

 群衆が影の心配をする。このまま押せば奴を殺すのも容易い……だが

 

 塵遁で競り合う私に、人影が迫り首を切り裂く。力なく倒れる私を抱えたその人物は

 

「っナニガシ!! 貴様! 亡様を手にかけるとは……!」

 

 がなる取り巻共に、ナニガシは一喝する。

 

「このままではオオノキ様の命が危なかった! ただ見ていたお前らと一緒にするな!」

 

 ナニガシの行為と発言は問題として取り上げられる。

 

 影への忠誠心は示した。しかし、影が負けると判断し間に割って入ったことは侮辱に値するらしい。それに私を手にかけたことも一応重罪らしくナニガシにはそれを理由にある任務を申し付けられる。

 

 木ノ葉の里への長期潜入任務。

 

 重要な情報を得られるまで、国への帰還を禁じたその任務は優秀なナニガシを飼い殺すのにちょうどいいモノだった。

 

 本当にスパイならこれ以上情報を与えずに済み、仲間ならなにか情報を得られる。

 

 そんな彼女が土の国を出るさいに、平服に身を包んだ私は彼女を路の陰で待ち伏せる。

 

「……本当に無事だったんですね亡。殺してしまったのではないかと心配しました」

 

「まあ、実質半分死んだが問題ない。私の分裂の術も役に立つものだな」

 

 分裂の術……無が使ったとされる己を分割するその術は塵遁にカテゴライズされる。自身を分子レベルで分かち2つに増やすのだ、まさに塵遁の応用と言ったところ。オオノキはそこまで塵遁を得る(・・)ことは出来なかったようだが、血縁の私には問題なく使える。

 

 分裂の片方を犠牲に、私は地中へと避難したのだ。分裂体は最低限の機能のみを割り振った血と肉で出来た人形みたいなもの、私の力はかなり弱まるが長い目でみればいづれ元に戻る。死体を調べても私が死んだという情報しか得られないだろう。

 

 そうして私はナニガシと共に岩の国を出た。

 

 ナニガシと私は……笑っていた。

 

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