目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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60:「本当の私」後編

<蒼鳥マリエ>

 

 それなりの旅路をへて、ナニガシと私は火の国へと入る。第一印象は……緑が豊か……それぐらいだったか。

 

「ナニガシ……ここがお前の故郷か?」

 

「ええまあ……何か思うことでも、亡?」

 

「いや、それは私が聞きたいぐらいなのだがまあいい……」

 

 ナニガシの顔の曇りは幾分か晴れている。私は別に岩の国に思い入れはないが、故郷への思いは人それぞれなのだろう。彼女の笑顔が明るければ私もそれでいい。

 

「亡……ここから先はナニガシという名は使わないわ。私のことは『薬師ノノウ』……そう呼んで頂戴」

 

「なるほど、それがお前の本当の名か? まあ、いずれにしても私も名を変えねばなるまいな……」

 

 兵器としてではない、私の名前……、ふむ存外思いつかないものだな。

 

「ナニg……いや、ノノウ。私の名前も考えてくれ」

 

「あら、私が考えても良いの? 貴方我が強そうだからてっきり……」

 

「フンッ別にこだわり何てない。……お前が付けてくれるならそれでいい」

 

 そういうと移動の馬車の中で彼女は楽しそうに私の名前を考えてくれていた。……親が居れば、こんなやりとりも日常だったのか……?

 

「青い鳥……そうね、貴方は『蒼鳥マリエ』。どう? 良い名前じゃない?」

 

「自分で良いと判断するのか……いや別に構わないが、どうしてそういう名前になった? 空を見上げていたが、別に青い鳥なんて飛んでいなかったぞ。ついに幻覚でも……」

 

「ついにとは失礼ね。あなたには青い空に羽ばたく鳥のように自由に生きて欲しいって思ってね、マリエっていうのは貴方性格キツイから少しでも優しそうな名前にしてあげようかなと……」

 

「……ノノウ、お前も大概失礼だ……。まあ、名前はそれでいい、使い続ければいずれ慣れるだろう」

 

「……慣れるだろうって……せっかく考えたんだからもう少し嬉しそうにして欲しいわ~」

 

 ……この時はそういう感情表現をしたことがなかったから、つい強がってしまった。

 

 

 そして

 

 

 

「ここは木ノ葉の里から少し離れているけど、私が昔お世話になってた孤児院なの。今日からあなたもここの一員よマリエ」

 

「ここが……?」

 

 随分とぼろぼろで、森の中に佇むその施設は元々私がいた屋敷に比べれば貧富の差は歴然だった。……まあ、趣があって良いと言えばいいか。

 

「ノノウ! お帰りっ! 貴方が戻ってきてくれるなんて……」

 

「マザーただいま! 手紙に書いた通りなのだけど、この子が……」

 

 年老いた女性がノノウを出迎える。ノノウの表情から見て、大切な存在なのだろう。

 

「蒼鳥マリエだ……です。よろしく頼む……じゃなくて頼みます」

 

 第一印象というのは大事らしい。私の性格はキツイらしいので丁寧な言葉を使いたいが……存外難しかった。……笑うなノノウ。

 

 そうしてしばらく私はこの施設で厄介になることになった。

 

 色々とボロが来ているその施設を私の土遁で直してやったりもした。

 

「小さいのにここまでの……マリエちゃんはすごいのね~」

 

「別に……いや、そこまで……じゃなくて……普通だ……です」

 

 ノノウにマザーと呼ばれていたこの女性はいつも笑顔を絶やさなかった。貧しいだろうに、孤児など抱えて。厄介になっている私が言うのもあれだがお人好しとは彼女のためにある言葉のようだ。

 

 仕方ない……私もやれるだけのことはしよう。

 

 

 その後二年を施設で過ごし、私も少しは彼女らのお人好しが移った頃。

 

 

「マリエ貴方アカデミーに行くってホント!?」

 

「ああ、そうだ。私が木ノ葉の忍びになればそれで稼ぎも得られるだろう。ノノウ、いちいちお前が心配することじゃない」

 

「だけど、それだと貴方また戦いに……」

 

「ふん……気にするな。私にとっては、文字通り呼吸と同じ……容易いことだ。幸い入学金やその他諸々、成績が優秀なら待遇も良いようだ。金の心配ならいらない」

 

「お金の問題じゃ……!」

 

「いや、金の問題だ。マザーの体調も最近すぐれない、誰かがやらねばならぬなら私がやるまでだ。戦時中とはいえ、お前の忍び相手の医療行為で得る金にも限度がある」

 

「……っわかったわ……でも無茶だけはしないでね……絶対!!」

 

「ふふっ、もちろんだ」

 

 無茶をしているのは貴方だろう、ノノウ……最近の貴方は笑えていない。

 

 

~~~~~~

 

 アカデミーの入学式。

 

 ノノウと共にアカデミー前に来ていた私はふと視線を感じて振り返る。

 

「ノノウさんどうも、うちの子がこれからアカデミーでお世話になります。その子はノノウさんの?」

 

「ええ、うちの施設の子なんですけど……。そちらはサクモさんのお子さんですか?」

 

 大人同士で世間話をし始める。つまりは子ども同士でも話をしろということか……。

 

「ああ~……貴様……じゃなくてお前は……その……つ、強いか?」

 

「ナニその話題と話し方……まあ、父さんほどじゃないけど俺もそこそこやれる自信があるよ」

 

 ……なんだろうか、この白髪のガキ……いや同い年か……スカしていて気に食わないな。

 

「そうか、私は蒼鳥マリエ。……お前よりかは強い自信がある」

 

「……俺ははたけカカシ。何となくだけどお前、会話苦手でしょ……」

 

 ノノウとサクモとかいう人の会話は幾分か盛り上がっている。ん? ……変な服装の二人組が……。

 

「あ、初めまして……そちらも子供がアカデミーでご一緒になるんですか? ぜひうちのこと仲良く……」

 

 よくあんな格好の人間に自分から話しかけれるな……。はたけサクモ、穏やかなのに随分と勇気がある。

 

「イヤ、それは無理ですな!」

 

 サクモ……さんの言葉かけを一蹴する濃い人物。失礼な奴だな、サクモさんもモンスターペアレントかと焦っているではないか……そこまで動揺することか?

 

「父さん、今回こいつはアカデミー試験に落ちたの。忍術もろくに使えないようだから当然だね」

 

 変な格好の親はカカシの指摘にガハハっと自分の子が落ちたことを認める……。カカシもどうやらその息子に将来性を無いとふんでいる様だ。まあ、弱い奴が戦場に出れば死ぬ。それだけだ。

 

「良かったな……太眉、下手に受からなくて。弱い奴は大人しくしているのが一番だ」

 

 私も一応、子どもの方に声をかけてやる。慰めてやるのもやぶさかではない。

 

「……まさかだと思うけど、それで励ましてるつもり?」

 

 カカシがいちゃもんを付けてくる。どういう意味だ?

 

「はたけカカシに……蒼鳥マリエだったな! 応援ありがとぉうっ!」

 

「……は?」

 

 ほら見ろ、私の励ましは届いたぞ、なんだその不服そうな顔は。

 

「……なにそのドヤ顔……マリエもこいつもずれてる奴ばかりだな……」

 

 呆れるカカシを無視して、いい加減にアカデミーへと足を向ける。

 

「マリエ! ちょっと待ちなさい!」

 

 まあ、弱いこいつらとの関わり何て持つだけ無駄だ。

 

~~~~~~

 

 アカデミーでは初歩的な忍術や体術ばかりを学んだ。今更感拭えないが、実力を示せば待遇が良くなるならやらない訳にもいかないだろう。

 

「すごーい! マリエさんって強いんだねぇ!」

 

 ある日組手でカカシを負かしてやると、女子が1人話しかけてくる。

 

「……お前は?」

 

「あ、ごめんね! 私のはらリンっていいます! マリエさんすごいよ、カカシ君もすごい強いのにすごい!」

 

 すごいばかり言うこの女子は私のことを知っているらしい、なら自己紹介は省こう……苦手だからとかじゃない、決して。

 

「別に大したことじゃない……だがスカしたカカシの奴が悔しがる顔が見ものだからな、相手をするのも悪くない」

 

 そういう私に突っかかってくる男子が1人。

 

「けっ!! そうやってスカしやがってのはお前もだろ! てめぇ俺と勝負しろ、勝てば実質カカシに勝ったも当然だ!」

 

 ……うんざりだな……あの変な格好したマイト・ガイとかいう補欠合格の奴と言いこいつ、「うちはオビト」といい弱い奴はなぜこうも突っかかってくるのか……。

 

「なら賭けだ。私が勝てば貴様の昼飯を頂く」

 

「なっ!? 何でだよぉ!」

 

「嫌なら私は組手をしない」

 

「オビトやめときなよ、マリエさん強いよ?」

 

「うっせー! 強い奴から逃げるなんてダッセーことできっか! 良いぜ勝負だマリエ!!」

 

 

~~~~~~

 

 

「ふむ、この鶏肉は美味だ……悪くない」

 

 オビトの弁当をかっさらい頂く私。

 

「うううぅぅぅっぐぞおおおぉぉぉぉ……」

 

 負けてボロボロになったオビトに声をかける奴らはお情けで自分たちの弁当を分けてやっている……。

 

「オビト……私のお昼分けてあげるから……泣かないで……ね?」

 

「オビト、お前がマリエに勝てるわけないだろ、俺でもまだ勝てないのに……たくしょうがない奴だね」

 

「どうしたぁ?! オビトぉ泣いているのか! なら俺の青春のこもった弁当を分けてやろう!!」

 

 ……なんだろうか。別に羨ましいとかそういうのじゃないが……

 

  

 

 

 そこには私に足りないものがあるように見えた。目も眩むほどに、眩い何かが……。

 

 

 

 全く……仕方がない。

 

「まるで私が悪者みたいじゃないか……ほら弁当返してやる」

 

「ううう……グズっ……っておかず全部食ってんじゃねーか!? 白飯だけ残すなよぉ!」

 

 ふふ……面白い奴だ。

 

 

~~~~~~

 

 

 アカデミーで一年も経てば私の実力なら、飛び級で卒業するのも容易かった。

 

「ほお、カカシ。お前も同じタイミングで卒業か。私の評価はカカシと同列か、いささか不服だな」

 

「……相変わらずの嫌味だね。ちょっとは丸くなったと思ったけどお前本当ヤナ奴だな……」

 

 アカデミーで同期達だった奴らは私たちに賛辞を贈る。

 

 三代目の息子や、そいつに惚れている節がある奴。他にもアカデミーに残る奴らは……名残惜しそうにする。

 

 別に今生の別れという訳でもあるまいし……。

 

「マリエさん! ……私たちも直ぐにあなたに追いつくから! 先に頑張っててね!」

 

「マリエ! 勝ち逃げなんて許さないからな、覚えてろよ! 俺も写輪眼さえあれば……」

 

 

 ……フン。下忍など私にとっては通過点にすぎない、別に喜ばしい事でも……。

 

 

 

 施設に帰れば、ノノウが私を出迎える。

 

「卒業おめでとうマリエ! 今日は夕飯豪華にするわね」

 

「別にいらない……祝い事だと思うなら鶏肉料理にしてくれ、それで十分だ」

 

「……何か良いことでもあった? 貴方ちょっと笑顔に」

 

「うるさい、余計なことを言うな」

 

 あいつらとの繋がりは……存外……楽……しいのかもしれない、よくわからないが。

 

 

~~~~~~

 

 

 翌年6歳になった私は既に中忍として活動していた。里も財政が苦しいのかあまり稼ぎは良くなかったが、まあないよりはましだ……。

 

 カカシの奴も私と同じく中忍なっていたようだ。

 

「いちいち私の目の前に来る奴だなカカシ。狙ってやっているのか?」

 

「……さあね。オビトじゃないけど、俺としてもマリエに負けっぱなしなのは嫌だからね。それに何だかお前のことはほっとけない感じもするし、主に危なっかしい感じで」

 

「私はお前より強い、無用な心配だな」

 

「へいへいそうですねっと」

 

「……まあなんだ、気持ちだけは受け取っておいてやろう」

 

 

 

 

 ……なんだその顔は……相変わらずムカつく奴だ……ふふっ。

 

 

~~~~~~

 

 

 さらに一年後事件は起きた。

 

 

「カカシ!!」

 

 雨降る中、慰霊碑の前に佇むカカシ。その目は暗く、光など微塵も宿していなかった。

 

「……探したぞ、こんなところで何をしている」

 

「……マリエ……何の用?」

 

「別に……ようなどない……ただ……お前が心配で……」

 

「ははっ……マリエでも人の心配ができるんだな、意外だよ……」

 

「っ……! カカシ、取りあえず家に来い!」

 

 このまま放っておけば今にこいつは私の視界から消えてしまいそうで不安だった。……いつも勝手に視界に入っていたのに勝手に消えるなんて許さない……!

 

 

 

 

 

 

「マザーっ客だ! 勝手に風呂に入れるぞ!」

 

「あら、マリエ……とカカシ君いらっしゃい……遠慮なんてしなくていいから……ゆっくりしていってね……」

 

 ノノウはマザーと呼ばれるようになっていた。だから私も彼女をマザーと呼ぶようになっていた……人は何時か死ぬ。それが悲しいことだとつい最近私も知った。だからこそカカシの奴を放っては置けなかった。

 

 カカシを風呂に叩き込み、私はマザーの夕飯の支度を手伝う。

 

「サクモさん……自殺したって……」

 

「ああ……彼は尊敬できる人物だった……なのにっ!」

 

「マリエ……」

 

 マザーは私を心配するが、それは私には無用だ。

 

「……私がなってやる……」

 

「えっ?」

 

「私が火影になって、腐った奴らを塵に還してやる……! それでカカシの奴のにやけた笑顔を取り戻す……!」

 

「マリエ……」

 

 外の雨は止んだが……カカシの心に振る雫は止むことはなかった。

 

 

~~~~~~

 

時は経ち12歳。

 

 私は三代目火影直属の暗部に就任した。

 

「はいマリエさん! 私からのプレゼント!」

 

 澄み渡った快晴の中、リンは私に暗部就任祝いを手渡す。……暗部就任を祝うのも変な話だが。

 

「これは……仮面?」

 

 渡されたそれは、白地の仮面。模様も何もない無垢な仮面であった。

 

「ほら! 暗部の人たちって色々なお面付けてるでしょ! だからマリエさんにもお面がいるかなって思って」

 

「言いにくいんだが……暗部の面は里から支給されるんだ……だから」

 

 いやこういうのは無粋と言う奴だな。

 

「いや……ありがとうリン。大切に使わせて貰うよ」

 

「……! えへへ、どういたしまして!」

 

 全くリンはいつも抜けている……だがそれがこいつの良い所でもある。それに、これでいて周りに気を配れるいい奴だ。

 

「……ほらオビトも!」

 

「……おいマリエ! 忍び組手で勝負だ!!」

 

「なんでそうなる……」

 

 

 

 呆れる私はオビトを一蹴する。他愛もない。

 

 

 

「クソぉ! 何で勝てないんだ!」

 

「諦めろ、ガイと言いお前と言い、もう少し実のあることに時間を使え」

 

「ちっ……フン、ほらよ」

 

 尻もちをつくオビトが私に小袋を投げ渡す。

 

「……これは?」

 

「うちは特製レシピの丸薬……俺様に勝ったからくれてやるよ!」

 

「もう、オビトったら素直じゃないんだからぁ……」

 

 リンに抱え起こされているオビトは照れくさそうにしている。

 

「……まあ、貰って無駄になるものじゃないな。……ありがとう」

 

 私をお礼を言うと二人はじっと私の顔を見てくる。

 

 

 

 

 

 

 ……おい、何だその意外だ、みたいな顔は。

 

「お前ってそんな顔できたんだな……」

 

「そんな顔とはなんだ! 貴様、バカにしているのか!!」

 

「ああ、ごめんごめん!! いやあ~あのマリエも笑顔の1つや2つ……ぶふっwww」

 

「オビトっ!! マリエさんに失礼だよぉ!!」

 

「……っ折檻だ! 覚悟しろ貴様ぁ!!」

 

 

 確かカカシの奴は上忍になったようだ。サクモさんと同じ上忍に……あいつ……思いつめてなければいいが……。

 

 

~~~~~~

 

 

「あら~! マリエ!じゃない、貴方こんな雑貨屋にくる娘じゃなかったでしょ? どうかしたの?」

 

「っ……別に……私がどこで何を買おうが自由でしょ、クシナさん」

 

 紅の髪をたなびかせる元気のいい彼女は、カカシたちを率いる波風ミナトの奥さんだ。……私はこの人の相手は苦手だ。

 

「いいじゃない、いいじゃない見せてってばね! 何買ってるの~?」

 

「ええい、寄るな!!」

 

 この人からは逃げるが勝ちだ、さっさと会計を済ませて急ぎ足でその場から離れる。

 

 

 

 

 

「ねえ見せてよ~」

 

「ぜえ……ぜえ……シツコイ……っ」

 

 里を数周したのにこの人は……バテる素振りすら見せない。

 

「あら~可愛いアップリケの小布じゃない! なになに? 誰か意中の男の子でもいるの~? お姉さんに相談してみなさいってばね!」

 

「違う……ただ……何となくだ……」

 

「もう~意地っ張りなんだから~」

 

 何でこうも私に構ってくるのか……私は別にミナト班とは関係ないのに……。

 

 久しぶりに疲れた……任務でもこうはバテないぞ……まったく。

 

 息を整えていると、クシナさんは私の顔をじっと見てくる。

 

「何ですか……人の顔をじっと見て……」

 

「いやぁね? 貴方も随分と良い顔をするようになったって思ったの」

 

「……顔? 別に何も変わりはしませんよ……流石に目上の人への口調は少し変えましたが」

 

「そうね! 前はもっとムッス~ってしてて何時も怒ってる感じだったから、今の方が良い感じよ!」

 

 ……話が微妙にかみ合わんな。私が石に腰かけていると、クシナさんも隣に座ってくる。

 

「貴方のこと……ちょっとだけミナトから聞いていたの。すごい優秀なくノ一がいるって」

 

「まあ、私は優秀ですから……」

 

「ふふっ貴方……火影になりたいんですって?」

 

「……他里から来た人間が言うのはおかしいですか?」

 

「別に? 私も同じ境遇だったから何となく気持ちが分かるかな~って思ってただけ!」

 

「……クシナさんも火影に?」

 

「ええ、昔は目指していたわ……今は、火影になる人を支えるって夢になってるけどね~!」

 

 体をクネクネ動かす彼女の動きの多さは、見ていて疲れる……。

 

「私は貴方のこと応援してるから! 気張りなさいってばね!!」

 

 両腕でグッとガッツポーズをする彼女の笑顔はとても眩しかった。

 

 豪傑な方だな……ふふ。

 

 

~~~~~~

 

 

 今の生活は悪くない。戦争も過熱しているが、私の周りには私を見てくれる人たちがいた。亡だった頃では想像もできないほど、多くの同期、同僚、そして里の人々と繋がりを持てた。

 

 別に全てが好調だとは言わない。この木ノ葉も、サクモさんを追い詰める闇の部分はあるし、カカシもあれ以来全く笑っていない。マザーも激化する戦争を心配して、医療行為に専念している。施設に帰ることは少なくなったが、たまに顔を見せるとマザーは喜んでくれた。ノノウの笑顔を見ると私も嬉しくなる。

 

 だからこそ、カカシにも笑顔になって欲しい……そう思っていた

 

 

 

 

 

 

 

のに

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 知らせが届く。

 

「オビトが戦死した……だと?」

 

 神那毘橋へと赴く彼らミナト班を、私は任務の合間を縫ってクシナさんと見送りをした。その時もあいつは、相変わらずバカで……それでいて笑顔で……笑顔で……

 

 

 もう……あの顔を見れないのか?

 

 

「そんな……なんでっ……なん……でっ……」

 

 私が力なく項垂れるのをそばにいたクシナさんはひたすら背中をさすってくれていた。彼女も苦しいはずなのにだ。

 

 子供ができたら、オビトみたいな明るく元気に育って欲しいって言うぐらいに……あいつのことを気に入っていた。

 

 岩隠れ……私の故郷の人間共と戦い……っ

 

 

 

 

 

 

「気をしっかりもてマリエ」

 

「っすみません、三代目」

 

 三代目の護衛についているときにも、私の頭は常に冷静さを欠いていた。

 

「……どうした、何かあるならワシに話して見ろ」

 

 三代目がそう優しく語りかけてくれ、私の心の声が漏れ出る。

 

「同期が……仲間が死にました……神那毘橋で……私は、誰かを殺すことなんて造作もないことだと……っ思っていたのに……オビトが死んで……こんなにも辛いと思うなんて……」

 

「……」

 

 三代目はじっと私を見つめる。

 

「私が今までしてきたことは……こんなにも辛い思いを誰かに……強いることだと思うと……急に怖くなってしまい……っ」

 

 命なんて拍手で散る花びらのごとく、儚くどうでもいいものだと思っていた。その価値観は岩隠れにいた頃から成長せず、大切な仲間を失って初めて現実を突きつけられ気づく。

 

「ふむ……お主の考えもわかる……だがそうも言ってはおれんのも自覚している。だから苦しい……そうじゃな?」

 

「……はい」

 

「……心の問題とはこれ、やっかい。ワシでも未だに悩みの種だ……。だがそれに気づけたことは何も悪い事だけではあるまい」

 

「……?」

 

「守る大切さも、同時に身に染みたはずだ。……我々の行いは醜いものだ、決して正しいとは言えん。だが結果がどうであれ、その間に持つ志だけはしっかりと見据えておかなければ……我々忍びは人ではなくなる……それは忘れるでないぞ」

 

「はい……承知……しました」

 

「では、お主についでに教えておこう。……未来を担う新しき火影についてな……その護衛役、しっかりと務めるのだ」

 

 

~~~~~~

 

 

 時代は進む。戦争が終戦を迎え、新時代を切り開く四代目火影波風ミナトの護衛として私も新たな歩みを進めた。

 

 ミナトさん……いや、火影様は強い。私が勝てないと悟る人間はそう多くないが、間違いなく彼には勝てない。だからこそ安心して、この里を任せられるというものだ。

 

 考えは少し、柔らかすぎるように感じるが……あのクシナさんがいるのだ。皆が支え合い、平和へと向かっている。

 

 

 

「あら、マリエおかえりなさい。随分と久しぶりね?」

 

「ただいま、マザー。ちょっとだけ休暇が貰えたから、帰ってきた」

 

 久しぶりにあうマザーは少しやつれたか? 戦争の残り火が生む孤児たちを助けるため彼女は日々奮闘している。私も必要最低限の分を残し、残りの稼ぎを施設に送っているが人数も増え厳しいようだ。

 

 

「? 初めて見る奴がいるな」

 

「あらカブトのこと? つい最近施設に来たのよ」

 

「へぇ……おいカブト」

 

「えっ……?」

 

 私がカブトという名の少年に声をかけると、ビクッと体を跳ね上げさせこちらを振り向く。

 

「……なんだそんなにも驚かなくてもいいだろ」

 

「マリエは声のかけ方が粗暴なのよ。ごめんなさいね、カブト。この人は蒼鳥マリエ、この施設での所謂先輩よ」

 

「……っうん……始めまして」

 

 随分と内気な奴だ……それも仕方ないのだろう。私はカブトの肩に腕をかけ話しかける。

 

「慣れない環境は辛いだろうな。だが安心しろ、マザーはお人好しだ。十分に甘えろ」

 

「っひぃ……」

 

「ちょっマリエ、貴方色々雑よ!」

 

「カブトって名前もマザーからもらったものだろ? 私とお揃いだな。精々大切にすると良い」

 

「……あら、良く分かったわね私が名前つけたって」

 

「……お前は昔から何かと雑だったからな。……人のことは言えんぞ」

 

 元忍びの癖して、マザーは色々と雑なところが目立つ。……主に家事。

 

 まあ、今日は後輩の為にも私が家事を頑張ろうか。

 

「マリエ、貴方失礼な事考えていない……? そいえば最近貴方の名前を良く聞くわね、もちろん『雑だ』という方面でね」

 

「……私も最近は『国落とし』なぞと呼ばれて、名をはせてしまって忙しいなあ。実際にやっていないことを二つ名にされても困るのだが……」

 

「貴方のあの岩の巨人は目立つのよ……」

 

 仕方あるまい。塵遁は使う訳には行かないのだ。ゴリ押すなら土遁に限る。

 

 さて新入りに挨拶もすましたことだ、とっとと家事でも…。

 

「……おいカブト、お前目が悪いのか?」

 

 肩を組む距離で狼狽えているカブトを観察すると、目線が定まっているようには見えない。離れた位置にいるマザーを目を凝らして見ているようだ、助けを求めるような視線で。

 

「……ちょっと借りるぞ」

 

「わっちょ、マリエ?!」

 

 マザーのつける眼鏡をかっさらいカブトにかけてやる。

 

「どうだ、これで見えるだろう?」

 

「えっと……はい……」

 

 私の読みは当たったらしい。

 

「あら、ならカブトはその眼鏡をかけてて頂戴」

 

「え、いいんですか……?」

 

「マザーなら問題ない、チャクラを弄れば多少の融通ぐらいきくだろう。こと戦闘をするわけでもあるまいし」

 

 カブトはそういっている私の腰元を見ている。

 

「あの……マリエさん、は忍び……なんですか?」

 

 ああ、話の流れと腰にぶら下げているリンから貰った仮面を見て気になったのか。

 

「そうだ、聞きたいことでもあるのか?」

 

「えっと……怖くないんですか?」

 

「はははっ忍びをやるのがか? そうだな、全然……」

 

 怖くない……と以前までは思っていた。だが今は……。

 

「マリエ? 大丈夫?」

 

 固まってしまった私にマザーが心配して声をかけてくる。いかんな……最近調子が良くない……。

 

「いや、何でもない。忍びをやるのも施設のための仕事だからだ。カブトも大きくなったら、何かマザーの役に立ってやるといい」

 

「……はい!」

 

 取りあえず年上として当たり障りのないことを言って誤魔化し、私は施設の様子を見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 ……ガタが来ているな。

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 あくる日、リンが主催で同期を集めた食事会が開かれた。……始めは行く気はなかったが、火影様の命令なら仕方ない。カカシの奴は相変わらず、笑顔を見せない。……いや、私も元気はあまりでなかったので人のことは言えないか。会場まで、カカシを煽って競争をしたがあいつは最近鈍っている様だ。スピードで私に負けていては話にならないだろう。

 

 アスマの悪戯で、ガイが酒を飲み手が付けられなくなった。かなり悪酔いするたちなのだろう、店の外に引きずり出すと手をクイっとして挑発してきたのでボコボコにしてやった。……なに、ガイなら問題ないタフだからな。私に何度も勝負を挑んでくるぐらいだし。

 

 

 リンとカカシが気の毒そうな顔で止めに来るまでしごいてやった。……ガイが泣いている? いつもの男泣きと言う奴ではないのか?

 

 

 何はともあれ、彼ら仲間が居れば私もそれでいいと思えるようになってきた。……恥ずかしくて誰にも言えないが。カカシも私たちが一緒にいさえすれば……いずれ。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 なぜだ?

 

 

 

 なんで……

 

 

 

 どうして?

 

 

 

 視点が定まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 最近、木ノ葉の忍びが失踪する事件が起きていた。平和の波がゆっくりと来ている中での不穏な空気。

 

 火影様は別件で里から、離れていた。そんな私に舞い込む情報。

 

 

「のはらリンが霧隠れにさらわれた」

 

 カカシとリンは別の班との任務により、別行動を取っていた。だからって何でリンが……!

 

 

 情報を聞きつけたカカシと私は里を飛び出していた。

 

 

 カカシとは別行動で、雷雨が降る森の中ひたすらに彼女の痕跡を探した。

 

 情報を持って帰ってきた忍びの証言を聞き私たちは、霧隠れの隠れ家を見つけリンを助け出す。

 

 ただ敵の数は多く、カカシとリンを逃がすために私は殿を務める。その時の私は湧き出る怒りを抑えられなかった……。

 

「土遁・岩状鎧武!!」

 

 土遁で形成した巨人で隠れ家周辺を更地にする。

 

 

 ひたすらに潰して潰して潰して…………潰して。

 

 

 気がつけば私は意識を失くしていた。

 

 

 雨が降る中、岩状鎧武で踏み鳴らされた土地で意識を取り戻す。

 

 

「……っ頭が割れそうだ……!」

 

 

 頭の中で何か、自分とは別の意思が蠢くような感覚を覚えながらも当初の目的を思い出す。

 

 

「っリン……カカシ……!」

 

 

 感知能力を働かせ何とか2人を探す。大丈夫だ……カカシがついている、万が一もあるはずがない……。

 

 

 あるはずないんだ……お願いだ……。

 

 

 私の勘違いで……調子が悪いだけだ……そうだそうに決まっている……。

 

 

 感知できるチャクラが1つだけなんて……っ

 

 

 嘘だ嘘だ嘘だっ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の海が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで横たわるカカシとリン。

 

 

 

 多くの霧隠の忍びの死体が辺りに転がっていた。

 

 

 呼吸が定まらない、リンに近ずくにつれ手が足が、身体全体が震える。

 

 

 リンの居る血だまりに膝を突き、彼女を見ると左胸には穴が開いている。

 

  

 ……なんで……?

 

 

 彼女は死んでいる?

 

 

 なぜ私は、こんなにも……苦しんでいる?

 

 

 なぜだ、なぜだなぜだ!!!!

 

 

 心があるからなのか?

 

 

 皆に……出会わなければ……マザーと……ノノウと岩隠れを出なければ……こんな痛みを知らずに平気でいられたのか?

 

 

 繋がりがあるから……?

 

 

 頭の中のもう一つの意思が小さくはっきりと呟く

 

 

『こんな世界は間違っている』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、木ノ葉の里にいた。どうやらカカシと、リンを抱えて戻っていたらしい。流石私だな。

 

 

「どうした? ガイ、なぜ泣いている?」

 

 

 いつも通り挑んで来ないのか?

 

 

「アスマ、何時も見たいに調子に乗らないのか?」

 

 

 何やかんや、悪戯好きな奴だ。

 

 

「紅、そんなに泣いたら折角の美人がもったいない」

 

 

 同期でも抜群に綺麗な奴だ、私に化粧を勧めてくれた。

 

 

 ……? みんなどうして私をそんなにも気の毒そうな顔で見るんだ?

 

 

 私は元気だ。何も問題ない。何も問題ない。何も問題ない。

 

 

 体はどこも傷ついていない。そう、あいつらに比べれば平気だ。オビトは半身岩に潰されたらし、い、リンは胸をつら……ぬ……?

 

 

 

 違う、そんな世界はない

 

 

 

 ……アハハハハハハハハハハっ!

 

 

 ああ大好き、皆大好きだ!!

 

 

 だからせめて大好きなみんなが死んでしまうその前に私の手で

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を塵に

 

 

 

 

 

 

 

「マリエ!!!」

 

 誰かが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 息苦しい……?

 

 

 何かが顔を覆っている。視界が効かない。身体も自由に動かせない……。

 

 

 誰かの話声が聞こえる。

 

 

 ……記憶があいまいだ……頭が痛い……何も思い出したくない……

 

 

 

「……声は聞こえるか?」

 

 

 

 聞いたことのない男の声が語りかけてくる。

 

 

「……っあ……?」

 

 

 返事をしようとも体が上手く動かない。口が半開きで、舌も垂れ涎が顔を覆う布に吸われる。

 

 

「色々と薬を使わせてもらったが、意識があるなら問題ない」

 

 

「うあ……?」

 

 

「貴様は、はたけカカシ、のはらリンを回収したのちに単独で霧隠れへの報復を決行した……その記憶はあるか?」

 

 

「…………っぅあ?」

 

 

「ふむ……既に壊れているか……情報を聞き出せるかと思ったが……」

 

 

 この男は……何者だ? ここはどこだ? 私は……?

 

 

「単独で誘き寄せる事には成功したが、これでは血継淘汰の情報は引き出せないな……仕方あるまい実験素体として使うしかあるまいか」

 

 

 私は……私は……私はっ

 

 

「っ……お、まえは、だれ……だ……なに、を?」

 

「ほう、その状態で……発作を起こして正気を失くしたと報告ではあったが……今は壊れている部分を認識できていないだけか、都合が良い」

 

「……なに……をしっ、てい、る」

 

「色々だ。貴様が岩隠れで亡という名で兵器として運用されていたこと。血継淘汰には他者に伝授する方法(・・・・・・・・・)があること」

 

「……しら、ない……」

 

「いや知っているはずだ。貴様は先代土影の血縁者で、淘汰の秘伝を受けていたはずだそうだな……

 

 

 

 

 

 

 

そうノノウの報告にあった」

 

 

 

「っあ……?」

 

「貴様はノノウに売られたのだ、哀れだな『国落とし』よ」

 

 こいつは何を言っている……? マザーがノノウが……

 

 

 ナニガシが私を…………?

 

 

「……霧隠れの連中がコソコソ動き回るのを、幾つか素材を提供してやって引かせていたらまさかその素材で尾獣を送りつけてくるとはな……上手くいけば尾獣が手に入ったものを、本当に余計なことをしてくれたな、はたけカカシもお前も」

 

 男のため息が聞こえる。

 

「所詮は、ヒルゼンの手の内のモノ……ということか。仲間だの、火の意思だのとのたまい闇に触れる覚悟すらない」

 

 頭の中で何かが蠢く……

 

「……っううう! ぁうっああ!」

 

「潮時か……おい、眠らせろ。後はこいつの血肉で実験を……」

 

「っ! 報告します、四代目火影がこの場所をかぎつけたようです」

 

「まさかこうも動きが早いとは……さては予見していたな、ミナトめ。どうやらヒルゼンの系列にしては頭がキレるらしい。仕方があるまい、ここは廃棄だ撤収する」

 

「良いのですか、せっかくこの娘を捕らえたのに……」

 

「問題あるまい。最低限のサンプルは幾つか取ってある、後はどうとでもなろう。なに……こ奴をヒルゼンの元へ贈るのも一興というものだ、ふふふ……」

 

 カツカツ歩く音が響いた後に、男は気配を消す。

 

 頭が冴えてくると、段々と正気が削れていく。現実を認識すると痛みが増していく。

 

「っああああああ! うわあああっ!!」

 

 思い出すな思い出すなっ!!

 

「っマリエ! 無事かい?!」

 

 聞き馴染んだ声が私の名を呼んだ瞬間、意識が途絶えた。

 

 

~~~~~~

 

 

 気がついた私の意識は朦朧としていた。目を開けているはずなのに、視界の情報を頭が処理しない。私は……椅子に座っている……?

 

「三代目……まさかこのような事態になるとは……」

 

「……マリエが、カカシを連れて来たときには様子が変だと目撃情報があった。支離滅裂な言動の後に、『霧隠れを塵に還す』と言い残して里を出たと……。その後奇襲に会い『根』に囚われてしもうたか……」

 

 だれだっけ……この2人は……?

 

「……実際、この時期に他里へ報復行為に出るのは問題があるとは思います。しかし、マリエがこんな仕打ちを受けるいわれはないはずです……!」

 

「あやつの考えを甘く見ていたのか、ワシらが甘いのか……。いずれにしてもマリエをどうにかせねばなるまい……、定期的に発作を起こしているようだが何か抑える手立ては……」

 

「僕に……考えがあります。里内にある建物に、クシナの封印術を施した一室を用意して彼女をそこに住まわせるのです。ただマリエの意識の全般を深層に押し込める術のため、到底1人で生きていくことは……」

 

「……保護者には……頼れんか……名前を出した瞬間、発作を起こす。マリエの様子を見に来た時は手が付けられなくなる寸前だったと聞いておる」

 

「ええ、何かしら情報を刷り込まれた可能性があります。……早速僕はクシナと準備を進めます」

 

「あいわかった……。建物はワシが確保しよう、カモフラージュの手立てはこちらで手配する」

 

「ありがとうございます、三代目。では」

 

 

 男の気配が1つ消え、隅にいたもう1人の男が喋り始める。

 

 

「三代目、マリエはどうなるんですか?」

 

 カカシ……?

 

「……聞いていたとおりだ。何とか生かしてやることは出来るが到底まともな状態では過ごせんじゃろうて……。何とか出来るのは……マリエの友であるカカシ、お前かその仲間たち。あるいは……また別の何かかもしれぬ」

 

 カカシが私の前に来る。

 

「……仲間の為なら、俺は何だってします……オビトが残した目を持つ以上、俺には……この先を見続ける責任がある」

 

「……お、び……と?」

 

「……今日はお休みだマリエ。俺の……目を見てくれ」

 

 綺麗な朱い目が見えたら、だんだんと眠くなってきた……。

 

 

 

~~~~~~

 

「ここがマリエの家となる場所ですか?」

 

 朦朧とした意識の中、多分車いすに乗せられ建物の中に連れていかれる。

 

「そうじゃ、孤児院として運営しておる。この施設の者にマリエの世話を頼もうと思ってな」

 

「洗面所に集まると流石に狭いってばね……早く行きましょうミナト」

 

「例の準備は出来ておるのか?」

 

「ええ、そうですね彼女に必要な場所はすでに……」

 

 綺麗な赤髪の女性が車いすを押してくれている様だ。優しい声の人が扉を開けて移動する。

 

「その場所に押しとどめて、マリエの症状は改善できるのかのう?」

 

「いえ、マリエの心の傷をどうにかできるのは特別な存在が必要でしょう、彼女の心を動かすような特別な何かが」

 

「……悔しいけど私たちでは力不足ってことね」

 

 少ししてある部屋の中に移動する。

 

「ここの奥に僕とクシナが封印術を施した地下室があります。この先に彼女を連れていけば意識を抑えある程度の理性を取り戻させることが可能かと……」

 

「だが……そう長くは理性は保てない……そうだな?」

 

「そうだってばね。あくまでたき火の炎を小さくするだけ……種火まで消すことは、彼女の人格を完全に殺すことになってしまうので……一時的な処置に過ぎません……」

 

「理論上、彼女の意識をこの部屋に留め、身体だけ外に出すことが出来れば人としての活動は可能……だと思います。あくまで理論上ですが」

 

「そうか、すまんがミナトこの先を案内してくれ」

 

「はい、クシナはここで待ってて」

 

「わかったわ」

 

 男の人が2人、扉を開け下の方へと向かっていく。

 

「どうして、若い子たちばかり……こんなつらい目に合ってしまうの……私が替わってあげられたら……」

 

 女の人は、悲しそうにそう呟く。変な気配だ……女の人のお腹の中からも何を感じる。

 

「あ、か……ちゃん?」

 

「っマリエ! ……そうよ、私とミナトの子どもがいるの……貴方も笑顔にできるくらい元気な子になって欲しいってばね」

 

 お腹をさするその様子は……絶対に壊してはいけない、そんな光景のはずだ……。

 

 その後、暗い場所に連れられ私は眠りについた。

 

~~~~~

 

 定期的に友達が施設に遊びに来てくれる。記憶があいまいだけど、とてもたのしい。

 

「マリエはいくつになった?」

 

「うーん? 14歳……?」

 

「そうだぞぉ! 俺たちは同い年だ! そして俺はカカシと同じくらい強いマイトガイ!!」

 

「へ~ガイつよいんだね~」

 

 私がそう褒めると緑色の男の子はとても嬉しそうに笑顔を見せてくれる。この子はいつも目が隠れている子と一緒に来てくれる。

 

「そうですともぉ!! 皆を守れるぐらいに俺は強くなるって決めましたからぁ!」

 

「ガイ、うるさいよ。喋り方もなんか変だし……」

 

「ヘンとなんだぁカカシぃ。女性をいたわるために紳士的な会話をだなぁ」

 

「はいはい、それじゃあ俺は今日はここまでね。この後暗部の任務があるから、ガイもあまり騒がしくしないでよ?」

 

「了解だぁ! カカシぃ気をつけてなぁ!!」

 

 目が隠れている子は、そういってどこかに行ってしまった。何時も辛そうな顔をしているので、笑顔になって欲しいな。

 

「今日はどうしますかぁ! マリエさん! 外の空気でも吸いに行きません? 俺が車椅子押しますよぉ!」

 

「うん! お月様みたいなぁ」

 

「っ……その時間までの外出は良いのかなぁ……まあ、良いか。マリエさん! 行きましょう!!」

 

 緑の子は私の車いすを押して外に飛び出す。色々な場所に連れていってくれて楽しかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時がたてば思い出す。忌まわしき感情、世界への憎しみが。

 

「っしまったか、すみませんマリエさん! もう少しで施設ですので」

 

「っ……ううううう……」

 

 綺麗な満月を見ていたら急に、嫌な思い出がフラッシュバックした。あの血だまりで見上げた満月を。

 

 ガイが慌てて車いすを押して施設へと戻る、その時。

 

 

 

 

 

 里に負の感情が蔓延る。

 

 里中に轟く唸る獣の鳴き声と咆哮。

 

 

 その時感じた感覚は、あの霧隠れのアジトでリンを見つけたときにも感じたものだった。

 

 世界への憎しみと絶望……。

 

 

 

「っなんだぁ! あの大きな化け狐はぁ!?」

 

 ガイは狼狽え、車椅子から私を抱え狐から距離を取る。

 

 途中避難誘導に従い、森の中に避難した私たち。

 

「どうするっマリエさんを施設に戻さないといけないが、今里ではあの狐が暴れている……無理に戻すわけにも……」

 

「あ、たまが、いたいよぉ……」

 

 負の感情が、私の心を刺激し記憶を呼び覚ます。

 

「っガイ!! それにマリエも!?」

 

「カカシぃ!どうしてここに!?」

 

「……若い奴らは戦線に出るなと……それよりもナイスだガイ。マリエを連れて避難をするとは、ありがとう」

 

「ああ、だがこのままだとマリエの発作が……」

 

「仕方ない、写輪眼で一度眠らせて……」

 

 2人の会話の中、私の感知が働く。ああ、そんな駄目だ!! 

 

 

 

「っ!! マリエさん!?」「マリエ!?」

 

 

 

 ガイを押しのけ、私は走る。

 

 

「っ土遁岩状鎧武!!」

 

 

 感情が負に呑まれようとも、あの化け物をこれ以上野放しにはできない!

 

 

 

 不意に覚醒した意識は、ただ「里を守る」ためだけに思考を働かせる。

 

 

 

 

 九尾が口から放つ砲撃を空へと打ち上げる。

 

 

「私なら……少しでも止められる!」

 

 

 鎧武を操り、九尾を殴り飛ばす。

 

 

 遠くでは今にも消え入りそうな、クシナさんの気配がする。里の中ではいくつもの命が散っている。

 

 

 っ絶対に守らないといけない……!!

 

 

「あああああああ!!」

 

 

 起き上がる九尾の尾が鎧武を貫き、削る。その威力は凄まじく再生が追い付かない。ほとんどのチャクラを使い、それでもなんとか九尾に組み付き、里の外れの森へと押し込む。

 

 

「マリエ!! どうしてここに!」

 

 ミナトさんが鎧武の肩に現れる。

 

「今……私は何ができますか!!」

 

 声を響かせるとミナトさんは焦りながらも、指示を出す。

 

「九尾を組み伏せてくれ! ッ口寄せ!」

 

 巨大なガマが九尾の上から現れ、私と一緒に押さえつける。もがき、口にチャクラを溜める九尾。その口を鎧武の手で押さえつけ閉じさせる。

 

 暴れる九尾の力は凄まじく、ガマと合わせても数秒とはもたない。

 

 瞬間に、九尾は消え去る。ミナトさんが飛雷神で九尾ごと飛んだのだろう。

 

 もう後は私に出来ること……何も……。

 

 不意に頭痛が起きる。……感覚で分かった、九尾の怒りの感情が私の中へと流れ込むのが。

 

 術を解き、その場に崩れ落ちる私。

 

 

 鎧武でチャクラをほとんど使ったが、それでも残るチャクラが世界への憎しみに染まる。

 

 

「マリエ!」

 

 

 カカシとガイ、三代目が視界に入るが理性は既に保てない。

 

 

 私の意思は既になく、再び鎧武の駆動音が鳴り響いた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 九尾事件から、数日。里の雰囲気は酷く暗い。

 

 四代目火影とその妻は死に、里にも甚大な被害を及ぼしたからだ。

 

 もう少し私が早く、駆けつけられていたら?

 

 そんな考えも、無事だった施設の封印部屋に入れば霧がかかり、覚えていられなくなる。

 

 あの夜、殆どのチャクラを使い切ったことで精神エネルギーの乱れが幾分か良くなりわずかに理性が戻ってきている。

 

 そんな後数日で自分のことも忘れそうな私は、雨降る中カカシと共に里の外に出ていた。

 

 

 

「……どうして皆いなくなるんだろうな、カカシ」

 

「さあね、俺も……どうせならいなくなりたい気分だよ」

 

 2人で傘もささずに雨に濡れ、外を徘徊する。

 

 信頼できる人は次々に亡くなり、残ったマザーにさえ、会えば私は発作を起こしてしまう。頭ではマザーが私を売る訳ないとわかっていても、心が否定してしまうのだ。

 

 そうして私はもうすぐ記憶を思い出せなくなり、無垢な状態へと還る。

 

「……なあ、私たちは何がいけなかったんだろうか……何か選択肢を間違えたのか?」

 

「……さあね」

 

 カカシも限界をとっくに越えているはずだ。なのに、正気でいられるのは……いや私たちは既に壊れている。カカシもオビトの託された意思にすがり付いて立って見せているだけなのだろう。

 

「今後私たちは生きている意味はあるのか? もういっそのこと……」

 

 死んでしまいたい。

 

「そうだね……俺もそう思うよ……だけど何かしないと、リンやオビト達に顔向けできない」

 

 ああ、カカシ。お前は強い。本当の意味で、私にはない強さを持っている。

 

 ……カカシの重荷になるのは嫌だなぁ。生きてても、死んでもカカシに、皆に迷惑をかけてしまう。

 

 ……どうにか道はないだろうか……?

 

 不意に声が聞こえた気がした。雨音にかき消されそうなほど、小さく弱い。

 

「……カカシ聞こえるか?」

 

「……ああ」

 

 2人でその音の出所まで行くと、辺りに人の気配はなくぽつんとバスケットが置かれていた。

 

 中には……赤子が入れられていた。雨に濡れ衰弱している。

 

 

「あああ……っどうして……どうして、この子は……まだ何もしていないはずなのに……どうしてこんな……」

 

 涙が止まらない。赤子を抱き寄せ私は震える。

 

「……マリエ、分かっているとは思うけどこの状況は不自然だ。今里は混乱している、十分な検査が出来ない現状その子は里に連れていけない……」

 

「私は……! いままで多くの命を奪ってきた……だから辛い思いをしても仕方ないと、心のどこかで諦められるのに……世界の醜さはどうしてこんな赤子まで」

 

 手の中の命の炎は段々とその鼓動を弱めていく。

 

「……マリエ、見なかったことにしよう。さあ、その子を置くんだ……」

 

「いやだ……」

 

「マリエ……」

 

「もう嫌だ……もう沢山だ……これ以上繋がりを失う気持ちを味わうのは……だけど……それ以上に皆に貰った、『本当の私』を見失いたくない……」

 

 

「……」

 

 

「誰かを殺すだけの兵器じゃない……みんなと楽しくバカして、騒いで、食事をして……笑顔でいる……そんな人として私を作ってくれたみんなの思いを……道を……結果が残酷だからって……死んで零にはできない……!」

 

 

 赤子をバスケットに戻し、それを抱える。

 

 

「……どうするつもりだ?」

 

 カカシは警戒の目をする。

 

「……この子は……私が育てる……」

 

 カカシは私の胸倉を掴み、怒鳴る。

 

「っ我儘をいうな!! 自分のことすら見失って暴走するお前が!! 人の面倒なんて……見切れる……わけ……っ」

 

 カカシは泣いてくれている。

 

「……方法はある」

 

「……何?」

 

「私には……血継淘汰……塵遁がある。物質を分解する塵遁は……私自身を分かつことが出来る。その分裂体は同じ『自分』で、だからこそ意識の部分的共有も可能だ……」

 

「マリエ、何を……?」

 

「……最低限の意識を持たせた分裂体を外に、私の記憶や意識、感情など憎しみに侵され抑えが必要な部分をクシナさんが残したあの地下に封印する」

 

「おい、本当にそれが可能だとして……地下にいるお前はどうなる……!?」

 

「所謂本体は地下だ。外で活動する私のために、必要な情報を意識下で共有し、湧き出る狂気は封印術で抑え込む。そうすれば……『蒼鳥マリエ』はもう一度だけ人に戻れる」

 

「答えになっていない! 俺の」

 

「お前なら分かるだろ? カカシ」

 

「……っ!」

 

 例え地下で一人ぼっちになろうが……

 

「私の……我儘を聞いてくれ」

 

 皆との繋がりがあれば……あの地下でなら最後の一線は超えないでいられるはずだ。

 

「……その子がもし、何かの陰謀に利用されていたとしたらどうする?」

 

「その時は……責任を持って私と一緒に……消えてなくなるだけさ。痛みもなく、一瞬で」

 

「…………はあ、わかった」

 

 そう言うとカカシは、私に背を向け歩き出す。

 

「……一応三代目には報告する。それで、封印の件は三代目と俺だけの秘密にしよう。ガイとかが納得するとは思えない」

 

「ありがとう……カカシ」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 里内の施設の一室、地下へと繋がるそこは本棚によりカモフラージュをする。

 

「本当に良いのか、マリエ?」

 

「はい、ありがとうございます三代目。私の我儘を聞いてくださり……」

 

「マリエ準備はいいか……っ?」

 

「うん……そうだカカシ……最後に一つだけ……私と出会ってくれてありがとう」

 

「っ!! くっ……お前、卑怯だよ……っグス……」

 

「大丈夫、何も怖くない……この先どれだけ時が過ぎても、私はみんなと過ごした思い出を糧にして行ける……外の私も、ある意味で私だ。私とは意思を別つもう1人の私」

 

 分裂の術に印はない。ただ、風遁、土遁、火遁の三つのチャクラを合わせた反応を体に澄み渡らせるだけだ、分かちたいものを意識して。

 

「外の私には土遁の性質だけ残す。……下手に塵遁を使われても困るからな、最低限の力だけだ」

 

 チャクラを混ぜ、塵遁を発現させる。

 

「……じゃあ、サヨナラ……カカシ」

 

 そして私自身の意識はそこで分かたれた。

 

 

 暴れる、魂の比重の重い私は三代目とカカシに拘束され地下へと封じられた。

 

 

 そして……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「今日からこの施設の院長として働きます! 蒼鳥マリエです! よろしくお願いします!」

 

 

 私は施設のオーナーとなった。元々私を世話していた人たちには「病気」だと説明していたので、それが治ったと説明した。納得したかは微妙だけど、私の様子から大丈夫と判断してくれたみたい。

 

 この施設の職員は元々2人いた。もちろん人では足りていない、なので

 

「影分身!」

 

 私は残された力で、人手不足を解消した。

 

 そうして、少しして病院に預けられていたあの子が施設に引き取られる。

 

「あら~可愛いわね~この子は何てお名前なんですか?」

 

 職員の方が赤ちゃんを覗き込み表情であやしてあげている。

 

「この子、名前は決まっているんです。捨てられていた時に名前が書かれた紙が一緒に合って……」

 

 

 

 黙雷悟

 

 

 

「悟ちゃん、これからどうぞよろしくね! 貴方が元気に育ってくれると私、嬉しいわ」

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

 

 暗い地下室は、まるで母のお腹の中みたいで安心できる。

 

 

 クシナさんの愛情が詰まった地下室。

 

 

 意識は混濁して、狂気も判断できない夢うつつ。

 

 

 世界は醜く、嘘ばかりだ……でもそんなのどうでもいいと頭は考えるのを止める。

 

 

 だけど少しだけ、僅かに外の私からの情報が流れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、この子は笑顔にしてあげたいなぁ

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

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