<蒼鳥マリエ>
悟ちゃんの体の十分な検査は行えなかった。けれど簡易的に逆口寄せの印や、周囲を巻き込む呪印など最低限検査は済ませてあるので里に孤児として登録することは出来た。
悟ちゃんはとても静かな子だったわ。夜泣きも数えるほどしかなく、全く手のかからない子だと、職員の人も珍しがっていた。
同期のみんなは、私が正気に戻ったと喜んでいた。……本当のことは言えないの、ごめんなさい。
私自身、私を本来の蒼鳥マリエと同一視できていない。まさに別人になった気分でもある。
あの日以降、カカシ君とは合ってはいない。彼の方が私に負い目を感じているのか、それとも私が合うのを心のどこかで拒否しているのか。
ガイ君も、同期や元同僚たちも皆私が忍びとして戦えなくなったことを心配している。
……飽くまで地下の彼女が感情を抑えているだけで、恐らく『その場』に立ってしまえば正気ではいられない。
それでも私は、悟ちゃんを見守るために生き抜く意思を抱き続けた。
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悟ちゃんが1歳になり、自分一人で歩き出すようになると様々な場所を自身の足で物色するようになっていった。
私の自室にある悟ちゃんに関する資料を読み漁っている姿を見たときは、正直めまいがした。
……他にも、職員の方や他の子どもたちの会話に聞き耳を立てているようすが目に入る。
あの様子……完全に読み書きを理解しているわよねぇ……。
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2歳になり流暢に喋る悟ちゃんは周囲に対して警戒心が強いのか、目立たないようひっそりとしていた。他の子のように我儘をいわず静かに……それが逆に不自然で目立っているとは本人は思っていないのか。
その目は、すでに恐怖をしっているようにも見えた。
2歳にもなり、個人的に彼を連れ出し祭りの屋台を巡ったりもした。……唯一のおねだりが、狐のお面とは……。
狐にはいい思い出がないので、深く考えないようにしようと思っていた。
正直毎日、その面をつけるのは勘弁してほしいわ……。
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珍しくカカシ君から、飲みの誘いが来た。まあ只の食事会なのだけど。
「こいつ後輩のうちはイタチね」
「……どうも、うちはイタチです」
「はあ……、よろしくねイタチ君……っえ、どういう意図?」
久ぶりに見たカカシ君は随分とやつれていた。あまりいい噂は聞かないけど、私が何か言える立場ではない。
「……ある意味マリエの後輩でもあるでしょ? なんでも弟のことで色々相談があるみたいで……俺じゃあそういう相談は乗れないからよろしく」
「……すみません、蒼鳥さんは2歳ぐらいの子ども相手をしているとのことで……少し相談が……」
感情表現が苦手な子なのか、人と話す機会が少ないのかイタチ君は少しづつ相談内容を話し始めた。
……私も特別人付き合いが得意なわけではない……けどマザーの真似をしてがんばって取り繕っているにすぎない。
それでもやれることはしよう。
真摯に相談に乗り、イタチ君が帰っていったあとカカシ君は私の顔を見つめていた。
「……どうかした? カカシ君」
「……どうも慣れないね」
そういってそくささとカカシ君は帰っていった。
……それは私も感じているわ。
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噂に聞いていた通り、里外にあるマザーの施設が閉鎖状態になったらしい。そこで暮らしていた子どもや施設の人が私の施設に来ることになった。
……久しぶりに見る顔もある。
「あんた……あの蒼鳥さん……?」
すごい警戒した様子でウルシ君が話しかけてくる。
「え~と、その久しぶりウルシ君……」
「……マザーの真似か?」
「……まあ、そんなところ……かな」
「急にマザーもいなくなるし、カブトの奴は俺たちを置いていくし……やなことばかりだ……」
ウルシ君は今10歳ぐらいだっけ? 随分と疲れた様子をしている。少しでもこの施設で安心して過ごしてくれればと思う。
「……俺あんたの代わりに忍びになるよ」
「……え!? それはぁ……あはは、頑張ってね!」
正直施設から忍びを輩出するのには拒否感がある。それでも、ウルシ君はやれることをしたいとお金の掛かるアカデミーではなく、一般公募から忍びを目指すらしい。
……嫌だなぁ、マザーも私が忍びをやるといった時に同じ気持ちを抱いていたのかもしれない。
マザーのことは深く考えてはいけないと直感で思う……。知ろうとすれば、私は多分今の私でいられなくなる。だからこそ彼女は私にとって過去の象徴となった。
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私も17になり、悟ちゃんは3歳になった。
最近は公開演習場で筋トレをするのにハマっている様子。ハマっているというよりは強迫観念に近い何かを動力に鍛えているように感じるけど。
公開演習場では、女の子と遊ぶこともあるみたい。……ああ、我が子に異性が近ずくのはなんだかもやもやするわ……世の親たちの気苦労を少し知れた気がする。
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悟ちゃんの様子がおかしい。考えられるのは、精神的負担と身体的負担……その両方かしら。世界に怯え、オーバーワークをしている。施設に対するお手伝いも度が過ぎている。
ああ、私が心配で参ってしまいそうだわぁ……。こちらから接触するのは出来れば避けたかったけど……ガイ君に話を聞いてもらおうかしら。
酔うと確か酷かったわよね……、私も強い方ではないし、酔うと地下の私に影響がありそうなので控えよう……。
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色々あってついカッとなってガイ君を殴ってしまった。岩状手腕を使ったけれど、私が暴走する気配はなかった……。興奮すると口調が『元』に戻ってしまうが……意識してどうにかできるものでもないみたい。
……おかげで悟ちゃんと正面から話し合うことが出来たので結果良ければ……というものかもしれない。
『ハッピーは無理でもよりベターな結果』……少しでも何かを変えようとする彼の姿勢は私としても見習うべきものなのかもしれない。
私が言うのもあれな感じだけど3歳児にしては口調が大人びているわね……本当。
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悟ちゃんは彼が知る機会のないはずの知識を持っていることがあるみたい。……いきなり影分身についての知識を披露し始めたときは、頭を悩まされた。不用意に警戒を招く行為は今後咎めていくことにしましょうか……。
元忍びだと知られてしまったけど、彼の心の余裕が出来たのを感じれて嬉しかった。話し方もフランクになっていった。……ガイ君の荒療治は成功だったみたい。私では無理な手段ね。
悟ちゃんの成長具合は凄まじかった。最初の頃は少し才能があるぐらい、チャクラコントロールが良いぐらいのはずが今では上忍かそれ以上の実力に……。
きっかけは日向の誘拐事件に関わったことだと私は思う。あの夜、リンから貰った仮面を悟ちゃんに渡したのはお守りの面もあった。私が直接戦えば、被害が大きくなる可能性があるから。なのでこっそりと後をつけた……見守ることしかできない私の代わりにどうか彼を守って欲しい。
彼が影分身を駆使し、さらに分身の術、変化の術を組み合わせ雲の忍び頭による誘拐を食い止めたのには驚いた。
しかし、怪我を負った彼は日向ヒアシに連れられ病院に。後を付けていた私はそのまま、病院で悟ちゃんを見守り続けた。
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それ以降八門遁甲へと入門した彼は、その実力を開花させていく。恐らく八門が彼の本質を引き出しているように思える。身体能力、チャクラ量、回復能力。傍から見ても八門の段階が上がるごとに彼はより強さを増していった。
彼には大切なものを失くすような経験をして欲しくはない。一緒にお風呂に入ったときに、彼には私が人生で得た、教訓を伝えた。
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うちはのことで悩む彼を心配しながらも日々を過ごす。前に見たイタチ君は少し見ないうちに大きくなり、随分とカッコよくなっていた。……うちはの人って美形が多いように思うの私の感性の問題かしら……あ、オビトはそうでもなかったような……いや考えるのは止そう……。
アカデミーに入り、うちはの友達の家に行くこともあったから色々あるのだろう。
「上半期の試験の結果が帰ってくる日、その日が事件が起きる時かも知れません」
悟ちゃんの唐突な言葉に眩暈がした。この子、自分がそういう事をハッキリというの怪しいって自覚……あるけど私を信用してくれているのね……嬉しいけど複雑だわ……。
彼曰く『うちは』で何かあるとのこと……一応その日は私も悟ちゃんの後を付けようとは思うけど……
数日の猶予がある、出来ることはしておこう。
ガイ君に余裕があればその日うちはの居住区に顔を出してもらう様にお願いする。
そして
「やーやー、これはこれは。オレを正規部隊に引き戻した一人のマリエじゃなーい。どしたの?」
こちらからカカシ君に接触する。……同期の間で彼を正規部隊に移籍させる嘆願書を出したことに文句を言われるが、仕方ないでしょう……貴方が傷つくのは『私たち』も悲しいから。
「カカシ君にお願いがあってきたの……」
「まったく……久しぶりに会うのが、暗部を辞めさせられた直後なんて……意図してやってるでしょ」
「ごめんなさい……でも本当のことを言えるのは貴方ぐらいだから……カカシ君」
「で、お願いってナニ?」
「一応、ガイくんにも真意は伝えずに同じお願いをしてきたわ」
「ガイにも……? 俺たち二人にするなんてよっぽど……」
「私の暴走を止めて欲しいの」
「……っ!! ……自分が何言ってるかわかってる……よね流石に。断って暴走されたら木ノ葉が滅びかねないからその話は受けるしかないよ、まったく……」
「一応今の私は三分の一程度の力しか出ないから……ガイ君とカカシ君なら大丈夫だと思うわ」
「……九尾の時は三代目が居たから良かったものの……まあ良いよ。で、理由は?」
「……悟ちゃんのことで」
「……ああ、あの子ね……やっぱりなんか変な子なんじゃないの?」
「失礼ね!! 悟ちゃんはとても良い子よ!!」
(ハハッ……すっかり子煩悩になって……まあ、マリエにとっては大切な存在だろうからな)
「話逸らして悪かったよ……それじゃあ詳しく」
そうしてカカシ君に事情を話し、うちは居住区近辺で私の動向を監視してもらうことになった。
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「うん? うーんと、あれ、え? 何? この状況俺が三人も抱えて戻れっていうこと!?」
カカシ君の声に目を覚ます。
「……っ……ああ、私……やっぱり……」
「ああ、良かったマリエ正気に戻ったみたいだね……にしてもこのうちはの状況と言いこの血まみれの悟って子と言い……普通じゃあないね」
崩れた鎧武の中か何とか這い出す。
「……カカシ君は三代目に報告を……私は……っ!」
「無茶したら駄目だ。ガイは八門の反動で気絶しているし、今のうちに取りあえず事情を話してくれ」
私はうちはで起きたことを思い出す。
うちはに入っていった悟ちゃんを追いかけようとしたとき、結界忍術の効果か意識が薄れ付近を徘徊するように幻術をかけられた私は正気に戻ったと同時に悟ちゃんを探しに居住区の中に入っていった。
……狂気の漂うその場の雰囲気が私を介して、地下の彼女へと伝わってしまう。
そして
「せめてこのまま安らかに眠れ……」
暗部……それも『根』と思われる忍びが血塗れの悟ちゃんにクナイを突き刺そうとする場面を目にして、正気が無くなる。
封印術が仕込まれた地下にいようと、『抑えの効かない私』の感情は私へと伝わり暴走へと導く。
無意識に岩状鎧武を発動した私の意識は怒りに飲み込まれた……。
「……という訳で……」
「はあ、嫌な予感は当たるものだね……まあ、この子も息はあるみたいだしサッサとずらかろう……」
そう言ってガイ君を背負ったカカシ君が私をお姫様抱っこの形で抱え上げる。私の上に悟ちゃんを乗せ、ノシノシと移動を始めるカカシ君。
「ねえ、影分身は使わないの?」
「……誰のせいでチャクラがカツカツになってると思ってんのよ……っ。取りあえず、病院行くのは事情が拗れるから。マリエの施設に行くぞ……っ」
「……私……重くないわよね?」
「この状況でそれ聞く!? まっ…………ノーコメントで」
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一度暴走してしまったことで、三代目が施設にお忍びで視察に訪れることになってしまった。
「……すみません、忙しいのに私のせいでこんなご足労おかけして……」
「……ふむ、まあ良い。うちはの件についてはワシらの対応力不足でもあった……。悔やまれることだが、『根』が関わってることも鑑みて後の対応をしっかりせねばなるまい」
三代目と共に、私の自室の隠し扉を開け封印の術式を確認する。
「少し封印が緩んでいるようじゃな……。クシナほどのものではないが、ワシの術式を重ねておこう。ついでにお主以外がこの扉を潜ったさいにワシにわかるようにしておこうかのう」
そう言って三代目は封印式を締め直してくださった。
「……本来なら私みたいのは里に置いておかない方が」
「バカを言う出ない……お主は里のために、仲間のために良く頑張った……それで良い。今や里内の孤児院でも有力なこの施設のオーナーとしても名をはせておる。今後も期待しておるぞ」
三代目はそのまま、私が用意した茶と菓子をつまみ施設を後にした。
悟ちゃんは八門遁甲の扱いについてガイ君に指導を受けに行っている……。ガイ君の教えを破っていたらしいから、多分叱られるのは目に見えているわね……。
私もこのあとに、アカデミーに悟ちゃんについての連絡を入れないと行けないし……その後カカシ君に暴走の件のお詫びしないと行けないから忙しくなりそうね。
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時は経ち、悟ちゃんは12歳になった。私は26……歳を取ったものだ……。
アカデミーをいよいよ卒業しようという悟ちゃん。私の時とは時代が違うので、こう……じっくりとアカデミーにいるというのもわからない感覚だわ。
まあ、彼なら問題なく卒業できるはず。昔の私ほどではないが彼も歳の割には規格外である。
そんなある日。
「あら、悟ちゃんおかえ……どうしたの!?」
「いえ……何でもないです。ちょっと調子が悪いので、荒れ地の方に行ってます……では」
「ちょっと……行っちゃった……。どうしたのかしら、あの様子ただ事じゃないけど……」
明らかに調子が悪い悟ちゃんが帰って直ぐに人の寄り付かない場所へと出ていき、少し心配する私。
後をつけようとも考えたけど……彼にも彼なりの事情があるのかもしれない……。
よし、夜食でつまめるものでも買って悟ちゃんの相談事にでも乗ってあげましょうか!
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夜食を買った帰りに、バッタリと『うずまきナルト』君と出会った。
話は悟ちゃんから少し聞いていたけど……
「姉ちゃん……俺ってば悟に用が……」
「気にしない気にしない! ナルト君も暗い顔してるくらいだったらほら、ちょっとお菓子食べってていいから」
施設に彼を招き相談に乗ることにした。……クシナさんとのやり取り思い出す、お節介を焼きたい気持ちも今ならわかる……かも。
「……悟ってば姉ちゃんみたいな人と一緒に居られるなんて……少し羨ましいってばよ」
「あら~お世辞が上手ね~、ジュースもつけてあげるわ!」
「そんなつもりで言ってないってばよ! なんつーか、俺ってば大人の人から嫌われているって感じするから、優しそうな姉ちゃんがいて良いなって思っただけで……」
彼、うずまきナルトは人柱力である。その事実はトップシークレットであり九尾が彼の中にいるということは知られてはいけないことのはず……。
なのに、この里には『うずまきナルトは化け狐の生まれ変わり』などの噂が蔓延している。
……恐らく誰かが意図して流した噂だろう。彼に対して闇を植え付けようとする策略か何かか……。
「姉ちゃん?」
「あら、ごめんなさい、考えこんじゃって……悟ちゃんは最近は無理して何でも一人でやろうとするのよね~」
「ああ! それわかるってばよ! あいつすごい強いし、何でもできるけど……だからって全部背負いこもうとしてるの見てんのは……なんか嫌だ」
悟ちゃんの気持ちもわからなくはない。力があるのならそれを行使して何が悪いと考えるのも、昔の私が通った道だ。……失くしてから仲間たちの大切さに気付くのが遅れた私みたいにはなって欲しくはない。
……幸い、オビトに似た感じのするナルト君は悟ちゃんのことをしっかりと見ていてくれる。彼に託すのも悪くはないのかもしれない。
「悟ちゃんは今、人の少ない荒れ地の方に行ってるみたいよ。ナルト君、君が良ければ様子を見て来てくれないかしら?」
「……わかった! ちょっち行ってくるってばよ、姉ちゃん菓子ごちそうさま!」
「お粗末様……頑張ってね~」
ナルト君を見送る。その背は正に昔のオビトを見ているようだった。
~~~~~~
でだ……
「……しろぉ!!」
気絶した悟ちゃんを抱えたナルト君がばつの悪そうな顔で戻ってきて、そのまま帰っていって大体丸一日。
眠り込んでいた悟ちゃんが変な叫びを挙げながら起き上がる。
悟ちゃんが眠っている間にナルト君が封印の書を持ちだしたことは、里中に噂として広まっていた。
……私も、懐かしい感覚を覚えている。かつて九尾と接触した私の流れ込んできた悪意の塊。それに似たものを。
ナルト君の調子が良くないのかもしれない。九尾の精神エネルギーの影響は計り知れない。
悟ちゃんが、夕飯には遅れると言い施設を飛び出たのを確認して私は悟ちゃんの後をつける。
十中八九ナルト君の元に向かうのだろう、最悪を想定して私もついていくことにした。
何ができるわけでもないけれど。
~~~~~~
途中、里中に漂う九尾の精神エネルギーの影響でふらつき悟ちゃんを見失うが森の中で何とか彼を見つける。
なんか……艶めかしいボンキュッボンの黒髪の女性に変化して顔を赤らめている場面を見てしまった……。
…………あ~~~~~え~~~~~何やってんだ……アイツ……。
ゴホンッ……森の中は少し騒がしい。外で待機して、人を直ぐに呼べるように準備しておこうかしら。
~~~~~~
見るからに大怪我。大やけどを負った彼を後からつけ、日向の屋敷にまで来た私。
ッ悠長に別れの挨拶をしている様子にイライラさせられ、道に出た彼を問答無用で抱え病院へと向かった。
そんな状態にも関わらず、万々歳などという彼に、珍しく苛立ち叱る。
……精神的にとても疲れたわ。
~~~~~~
後日。
ある日悟ちゃんが日向のご息女たちを抱えて施設に帰ってきた。
…………っ!?
「おか……!?」
「……ただいま」
かなり機嫌を悪くしている悟ちゃんはそのまま自室へと向かう。
何が何だかわからない状況に混乱していると、日向のメイドさんが施設に上がり込んでくる。
焦っている様子の彼女から事情を聴く。
「……はあ!? 婚約ぅぅう!?」
「はい、ヒナタ様と婚約の義をなされた悟様はそのままハナビ様も抱えご自宅のこの場に……」
「……ハッあの子ったら!! 自室でナニするつもりよ!!!」
嫌な予感がして、マスターキーを持ち悟ちゃんの自室へと駆けこむ。
そういうのは……もう少し大人になってから……私の目の届かないところでやって欲しいわ!!!!!
~~~~~
また後日。
それから長い間続いた、悟ちゃんとのケンカも彼が私に花を贈ってくれたことでわだかまりは解けた。
あの時の悟ちゃん、本当に可愛かったわ~。
なんて思いで、日々を過ごしていると
『黙雷悟:任務により長期外出』
施設の連絡板を見て絶句する私。
慌てる私にウルシ君は保護者なら手土産の1つや2つ期待して待てと言う。
私のにとって悟ちゃんは精神安定剤みたいな役割でもあって……地下の私の気分を抑える意味もある。
つまり大好き。
なのに何時かえってくるかもわからない、長期任務に出るなんて……。
私、耐えられるかしら……。
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一ヵ月近く悟ちゃんと会わずに施設の仕事に専念する私に、連絡が届く。
「新規契約者推薦状?」
三代目からの推薦何て……何事かしら。
最近、地下の私からの『悟ちゃんはどうした!?』という催促が強くなってきて、精神的に参ってきている……。
こんな状態で上手く面接とかできる気がしない……早く帰ってきて……悟ちゃん……私、寂しいわぉ……。
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波の国から帰ってきた悟ちゃんからの手土産は、鬼頭桃乃太郎さんと鬼頭白雪さんの二人だった。
……立ち振る舞いからして、只の一般人ではないのは容易にわかるけど、悟ちゃんの意思を尊重しあまり詮索はしないでおく。
彼らは良く働いてくれており、私も大助かりだ。
桃さんは無愛想だけど子ども相手には真摯な態度で好感が持てる。白雪ちゃんの方も、とても綺麗な子で人当たりがとても良い。
白雪ちゃんをお使いに出すと、出先で何かしらのサービスやおまけを貰ってきてくれるので節約になり、とてもありがたいわ……。
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桃さんと白雪ちゃんと共に、孤児院関係の催し物に出ることになった。と言っても里外にある孤児院に視察に行くとかそんなものである。
施設にはウルシ君と悟ちゃんが残るため、安心して私たちは外に出れる。
そして視察先で、白雪ちゃんと夜の街を出歩いているときに感じてしまった。
「……っ!!」
動揺。……感覚が告げる。もっとも知られてはいけないはずの彼に……『私たち』の事情が知られてしまったという感覚。
あまりのことに膝を着いた私を、白雪さんは心配してくれる。
「どうしましたマリエさん、大丈夫ですか!?」
「……っええ、ちょっと立ち眩みがしただけよ……少し座らせてもらっていいかしら……」
そういう私に肩を貸して白雪さんは、ベンチに座らせてくれる。
どうして……どうやって……。あの地下への道に何で気づいたのか……私には何もわからない。
ただ、地下の私の「悟ちゃんに会えて嬉しい」という麻薬めいた幸福感だけが強烈に私の頭を支配する。
……里外で分裂体である私との繋がりも薄れているにもかかわらず、強烈な感情が押し寄せる。
それほどまでに、『彼女』の意識が覚醒している
恐らく三代目が悟ちゃんに対応してくれるはず……大事にはならないはずだけど気が気でない……。
~~~~~~
中忍試験本選。悟ちゃんの戦いを見終えた私は、僅かに感じる感覚に冷や汗を流す。
「ごめんなさい、ちょっと私施設に忘れものしたみたい。取りに帰るから悟ちゃんが来たらよろしく言っておいてね」
そう皆に伝えた私は施設へと急いだ。
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『彼女』の意識は完全に覚醒していた。九尾から影響を受けたときに悪意を感知する力を身に着けていたようだ。殺意や悪意が里中に蔓延るのがわかる。
私は飽くまで分体……本体の『彼女』の力には敵わない……。
再び1つに戻る私たちの意識は只、この世界への復讐心で満たされていた。
おかしいな……悟ちゃんが生きるこの世界……を見守り……た……
……あの子が傷つく前に全てを塵へと還そう、この偽物の世界を。
「塵遁・限界剥離の術」
鎧武を使い術を構えたその瞬間、雷光が視えた。
希望の光、暗い精神の底に沈んだ私を呼ぶ声。
『お願いだ、生きておかあさん』
悟ちゃんでもあり、そうでもない誰かの声。
気がつくと私は岩隠れの屋敷にいた。
「ここは……?」
「やっとここまでこれたよ……おかあさん」
声に振り向くと、そこには背の大きくなった悟ちゃんらしき人物がいた。
「あなたは……私は……っ」
「ここはマリエさんの精神世界だね。自身の心の住処ともいえる場所だ」
「私の……心……こんな場所……いい思い出何て……」
そうだ、こんな忌まわしき場所なんて……っ!
「いいや……精神世界が『ここ』であるのには理由はあるはずだよ。ほら、ゆっくり思い出してごらん」
ここでの……思い出……
『貴方が笑顔になってくれたら私も嬉しいんだけど……』
ナニガシ……?
「マリエさん、貴方自身の思いを忘れないでください。世界は確かに残酷で……醜い……噓に塗れています! だけど
僕が貴方に頂いた笑顔は……心の揺らめきは決して偽物なんかじゃないんです!
そしてそれは貴方も同じはず」
リンやオビト……皆と一緒に過ごした日々。
そして施設で過ごした悟ちゃんとの12年間……。
「それらを噓だと言って否定してしまうなんて悲しいじゃないですか……まだまだ、これからも生きて見守っててください! 僕たちと一緒に生きてください!」
切実な悟ちゃんの叫びは私の心に響く。
リンを失ったと気がついたあの瞬間、世界を偽物だと思い込み、夢の世界に逃げた私。
だけど、カカシ君やガイ君、皆は私に現実という未来を見せ続けてくれた。
自己完結で終わる夢ではない、皆がいる世界……。
悟ちゃんが……これからも成長していく世界に……私も……いたい。
「ああ……本当にカカシや皆は私よりも強かったんだ……。繋がりという未来を創る力に溢れていたんだな……」
「マリエさん……さあ……」
悟ちゃんの差し出す手を私は取る。
12年前にした……未来を見届ける覚悟を今一度。
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気がつけば悟ちゃんの背が見えた。ボロボロになりながらも大蛇に立ちはだかる彼。
……さあ、今こそ忌まわしき過去ではなく未知なる未来の為に力を振るう時だ。
「塵遁・限界剥離の術」