<三人称>
お互いに体が満足に動かせない中、マリエの独白をただじっと聞き続けていた悟。
彼女の出生から今日まで抱いてきた感情の流れを聞き、彼はじっと考えにふける。
「……これが私、蒼鳥マリエ……そして亡と呼ばれた存在の顛末だ」
全てを話し、満足そうにそう呟いたマリエに悟は語る。
「顛末じゃないです。これからも先、俺たちと一緒に生きていくんでしょ?」
「……そうだな、そうしたいな……」
どこか遠くを見るマリエに、悟は一つの決心をつける。
「実は俺……マリエさんに話しておきたいことがあるんです……」
「……なんだ?」
悟の言葉にマリエは穏やかな顔で返答をする。
「俺……実は異世界人なんですよ」
「………………ん?」
「後、俺の中には未来人であるの黙雷悟の魂が入ってて」
「ちょっちょっと待て……悟ちゃん……何を言っているんだ!?」
悟が摩訶不思議なことを告白し始めたとこに驚き、腰かけていたベッドから立ち上がるマリエ。
「随分前に言ったじゃないですか、『事情をいつか話す』って」
「ええ……ええぇ? ああ、悟ちゃんが色々なことを知っている理由……のことか?」
「そうです……俺は実は別の世界の人間で簡潔ながらこの世界の行く末を知っています」
「へっへえ~……」
「ただ、若干俺が知る内容とこの世界の出来事には違いがあって……例えば白雪は俺の知識では実は男だったりとか……」
「……そ、そうなんだな……」
マリエは若干どころではないぐらいに引いている。
「ただ、この身体はこの世界のモノで、魂だけこっちに来た感じ……なんだと思います。それでこの身体の本当の持ち主は、実は未来から魂をこの身体に移していたらしく」
「…………はぁ……」
「偶にですけど、俺の代わりに体を動かしたりだとか……さっきマリエさんが話していた精神世界に出てきた大人びた俺って言うのは多分そいつ、『黙』のことだと思います。俺にはその記憶がないので」
「じゃあ……私のことをおかあさんって言っていたのは……」
「それだけ『黙』は貴方の事を、マリエさんのことを大事に思っているってことです。もちろん、俺もマリエさんのことは大好……大事に思っています」
「本当に未来から……先の時代からその……黙ちゃんが来てたとして……いったいどんな理由で?」
「俺も詳しく知りませんが、貴方なら言われなくてもなんとなくわかっているでしょう?」
「……私のため……ってことね……。今回の私の暴走を止めるために……『やっとここまでこれた』って言うのそういう意味で……」
少し納得したかのように、考え込むマリエ。息子同然に育てた子どもは、自分を助けるために未来から来たと。もしそれが世迷言だったとしても、その愛の深さにマリエは少し笑顔が漏れる。
「……未来の悟ちゃんが黙ちゃんって言うなら、『貴方』は何て言うのかしら?」
「一応『雷』って呼ばれています」
「……別の世界から来たのなら、貴方自身の名前があるんじゃないのか? わざわざ黙・雷を分けなくても」
「元の世界でも俺の名前は黙雷悟だったんですよ……偶々同じ……」
……そこで悟は黙り込む。マリエは不思議に思うが、絶賛常識外れの知識を植え付けられているので、自身の頭のクールダウンを優先させる。
(……今まで気がつかなかったが、転生したときに『俺』の名前をあの神様がこの身体に付けてくれたと思い込んでいたけど、『黙』がいる以上この身体の名前は『黙雷悟』で確定しているってことじゃないのか? 俺がいようといまいと、黙雷悟という名前になっていた……)
『空きのある世界へ送る』、そもそも神様と思い込んでいる人物とのやり取りで、悟は違和感を覚えていたことを思い出す。その場で考えたかのような設定を小出しする神様に不信感を覚えていたはずだと。
「……俺がこの世界に来たのは……偶々じゃない……?」
「大丈夫? えーと『雷』くん?」
「……大丈夫です……って俺は君つけなんですね」
「話が本当ならつまり、黙ちゃんの方は『おかあさん』と言ってくれたからな……お前はどうだ?」
ニヤニヤとそう言うマリエに、悟はベッドから体を起こし、ジト目になる。
「別にちゃんつけして欲しいわけでもないからいいですよ……そんなの……」
「あらそう? はあ、私悲しいわ~雷くんがグレちゃって……」
「っどういう意味ですか?! もう、俺もちゃんと……母さん……みたいに思ってますよ! じゃなきゃここまで来てないです!」
照れている悟にマリエはそっとハグをする。悟は驚き、手をこわばらせる。
「……何となくわかっているさ、なんせ大切な息子
「っ……あのマリエさんさっきから口調が凄いごちゃごちゃと入れ替わっていますけど……」
照れて露骨に話題を逸らす悟にマリエはクククと笑いハグをやめる。
「私の分裂の術の影響だろうな。長年分かれていた『私たち』が一緒になったことで人格も一つに戻り、十数年分の経験の擦り合わせで混乱しているんだ……こればっかりはどうしようもないわね」
すごい違和感を覚える悟だが、しょうがないのだろうと苦笑いをする。
「さて、俺はなんとか体を動かせるようになってきました。……これから三代目の所に向かいます」
「そうか……わかった、お前のことだ。何かあるのだと納得して見送ろう……」
そう言い悟がベッドから立ち上がると、2人の人物が姿を現す。
「無事か!! 小僧!!」
「大丈夫ですか!? マリエさん!!」
慌てた様子の再不斬と白である。2人は、何とか生きているマリエと悟の様子に安堵する。
「ったく……心配かけやがって……ぶっ飛んでいって離れたから探すのに苦労したぜ。ってマリエ、その顔は……」
再不斬がマリエの顔を見て、少し驚く。半分は病的までにやつれているのにもう半分は健康的な張りをしているからだろう。白も驚きを露わにする。
「……たはは……2人にも後で事情は話しておかないといけないみたいね……取りあえず今は避難しましょう? 里での戦いもほとんど終わっている様だからな……」
口調の異変にも、気付く2人だがそれどころではないとマリエたちを抱えようとする。しかし
「あっ白雪面返して、俺は行くところがあるから」
そういって白のつける無地の面を催促する悟に、白は素直に面を外し返す。
「ったく君は……そんなボロボロな状態でもまだ何かするつもりですか? 呆れて何も言えませんよ……」
「ははは……すまん……どうしても行かないといけないんだ……それじゃあマリエさんをよろしく、2人とも。後で病院で合流しよう」
そういう悟はチャクラもほとんど練れず、筋肉もズタズタに裂けた状態にも関わらず屋根伝いに本選会場の方角へと向かっていった。
~~~~~~
悟が四紫炎陣の張られた屋根に近づくと、術が解除され大蛇丸たちが撤退していく姿を確認する。
「っ……三代目!」
体を引きずりながらも悟は三代目の元へ行くと数人の暗部が大蛇丸たちを追い、一人三代目の元に残っている様子が見える。
「三代目は……!」
血塗れの悟に暗部の忍びが気がつくと、首を横に振る。しかし悟を手招きして近くに呼び寄せる。
「三代目はもう助からないっ……禁術の類か何かで生命力が僅かもないのだろう。……君を呼んでいる、近くに来てあげてくれ」
暗部の忍びがそう言い三代目の上半身を抱え、悟はその傍に崩れるように座り込む。
「っ……三代目すみません……! 俺がもっと……」
「…………気にす、るでない……お主が……来たということは……マリエは……」
「はい、無事です……マリエさんは里の誰も傷つけてなんかいません」
「ほほぅ……それは……何よりじゃ……ようやったのう……悟」
既に目も見えていないであろう三代目が虚空に挙げる手を悟はしっかりと握る。
「……大切な者を守る時……真の忍びの力は表れるの……のだと、ワシは信じていたが、どうやら間違って……ゴホッ……はおらなんだようだ。悟よ、火影としてお主を誇りに……思うっ」
悟は手に力を籠める。……どうあがいても、目の前の人物は死ぬ。だからこそせめてその意思を受け継ぐ思いで耳を傾ける。
「そして、今から言うことは……ただの……火影ではない、ジジィの世迷言だ……っゴホッ!!」
声を出すのもやっとの三代目の口元に悟は耳を近づける。
「――さ――を――よ――」
三代目の言葉に悟は目を見開く。
「お主の……力なら……それも……1つの……道……」
三代目の呟きは既に音を出さなくなる。
(火影としては……満足に皆を導けんかったが……悟よ……そして里の皆よ。ただ一人の人として……皆に出会えたこと……生涯の誉れであった……)
辛うじて三代目は目を開け悟を見る。仮面の奥のその瞳を見て改めて感じる。
(初代様に……先にお会いしたからか……本当によく似た目をしておるのう、悟よ……)
「「――三代目っ!」」
暗部と悟の呼ぶ声も聞こえない。満足そうに微笑みを浮かべた三代目火影猿飛ヒルゼンは
ここに亡くなった。
「っ……!」
悟は涙を流した。火影として働く彼を、里を見守る年長者としての彼を。そしてマリエや自分の為にも、心配を続けてくれていた彼を思い。
思い出されるのは、依頼をせびりに行った時の三代目の苦笑い。
本来感情を表に出さないはずの隣に居る暗部の忍びすら嗚咽を漏らしている。
それほどまでに慕われている彼の優しさに触れ、悟の心に一つの選択肢が芽生えた。
~~~~~~
……二日後
第三演習場
「こんな日に何やってんの……悟」
早朝雨の降る中、はたけカカシは黒い喪服を身にまとい慰霊碑の元へと1人来ていた。
そこで演習場で1人、術の修行をしている黙雷悟にカカシは声をかける。
「見ての通りです……っツ!」
全身包帯まみれの上に上下に適当な服を着た悟は、痛みにうずくまる。
「……無茶をするな。そんなに焦ったところで……」
「別に……無茶じゃないですよ……オーバーワークがいけないことは良く知っていますただ……」
悟はカカシの目を見据える。
「ちょっと自分を戒めたくなったので」
その言葉にカカシは息を漏らす。
「……実はなんだが……俺もそんな気分だ。……ちょっとだけ付き合ってあげるよ」
「……ふふっそんな感じ、してました」
雨の中ずぶ濡れになりながら、2人の忍びは組手を始める。
「随分とボロボロだけど、体動かして大丈夫なの?」
「いえ……流石に過去一番でつらいですけど……同時に、調子の良さ……みたいなものも感じていて」
悟の感じるそれは恐らく、自身の限界を超えた八門による術の発動が、かつて忍猫に言われた『封印術』の綻びを示していると推測する。
同時に黙の行使した写輪眼は悟に未知なる感覚を呼び覚まさせていた。
(……この身体の持つ力は……計り知れないし普通じゃない。黙に聞こうにも、しばらくは外に出てこれないようだし……)
更なる力の予感に、悟はじっとなどしていられず自身の目の前で息絶えた三代目に誓い、ただ守るために強くなろうとしている。自身がそれを望むゆえに。
「そういえば、マリエについてなんだけど……」
「ああ、一応は大丈夫です。事件のあと厄介事がおきましたけど……里の皆が助けてくれましたから」
そういう悟は嬉しそうに笑う。
「そう、それは良かった。ガイも心配してたし俺も同期として、マリエのことは気にしてるから……この後施設に様子見に言ってもいいかな?」
「俺に聞かなくても良いって言いますよ。マリエさん、あれから精神的には余裕があるみたいなんで」
雨の中、2人は組手を続けた。
影で見守る人物には気がつかず。
「黙雷悟……以前会った時と比べ仙人としての素質の高まりが異常だのう……仙郷でもないのにこうも短時間で……。これは少し、ワシが見てやる必要がありそうだな」