コツン
黙雷悟は頭にぶつかる衝撃に目を覚ます。妙な爽快感と倦怠感の入り混じったかのような感覚を覚えながらも自身が静かな森の中座禅を組んでいることを思い出した。
「…………懐かしい……夢……いやただの夢じゃない。
悟が伸びをしようと体を動かせば違和感が押し寄せる。まるでチャクラを感じていなかった幼少期の、それよりもさらに前、前世の頃を思い出させる動きの鈍さに悟は朧気であった意識を覚醒させていく。ふと視線を落とせば木の実が1つ。それが自身にぶつかり目を覚ましたのは明白であった。
「うぐぐぐっ~~何でこうも瞑想すると体が固まって動きにくくなるのか……前回はえーと
自身の不調を前回の瞑想に照らし合わせて考えた悟は、再度自分が
恐らく誰もが感じたことがある感覚。起きなければいけない時間に目覚ましが鳴らずに、目を覚まして視た時計の針が予定の時間をとっくに過ぎていた
「……っやっっっっっばい……かも……?」
そう呟き冷や汗を垂れ流す悟は、急いでチャクラの感知を
「……おかしい……上手くチャクラが感知できない……それどころか練ることも、出来ないっ!?」
体の不調、チャクラの存在を知覚できない事実に気づき焦る悟。原作知識通りに行くとも限らないこの世界。綱手と大蛇丸との接触に何とか関わろうとしていた悟は焦りに焦る。
「こんなことなら、自来也さんに蝦蟇の一匹や二匹借りて時間になったら起こしてもらえばよかった……っ!」
汗を垂らしながらも短冊街へと引き返すために走り始める悟。しかしチャクラの恩恵を上手く得られない現状、一般人より少し早い程度のスピードしか出ない。
それでも走り続けていると、ふと悟は自身の目の変調に気がつき足を止める。その瞬間視界の隅に、髪の長い男性が通り過ぎるのを目撃する。
「今のは……人なのか……いや、この感覚は以前にも……確か施設で四代目火影を見たときにも似たようなことが……」
その現象に疑問を感じながらも、悟は男性の後をつける。相手は半透明のようで見るからに
「……ん、見失った……っうお!?」
その男性の誰かを心配しているかのような表情を見た瞬間、悟は彼を見失い突然の地響きに体勢を崩す。少し離れた位置から響くその振動に悟は心当たりがあり急いで震源地へと駆けだした。
~~~~~~
「流石の綱手姫も、うちのカブト相手には少々手間取るようね? それとも本調子ではないからかしらぁ?」
脂汗を額ににじませながらも軽口を叩く大蛇丸は、部下のカブトと綱手の戦いを少し離れた位置で観察している。
「うるせーぞ大蛇丸っ!! この眼鏡をのしたら次は貴様だ!!」
「ふふ、僕を侮らない方が良いですよ綱手様。まあ、体術の方はあまり得意ではないので少し小細工をさせていただきますが……」
大蛇丸の調子に、あまり余裕のない感じで叫び返す綱手。その綱手を相手取るカブトは兵糧丸を口に入れ、己のチャクラの増進を図る。
「っ私と同じ、医療忍者か……っ」
「さて、僕の方から行かせてもらいますよ!!」
カブトが印を結び、手にチャクラを纏わせた。その瞬間、煙球が炸裂して煙が辺りに充満する。しかし開けた場所であるためすぐに煙が風で飛び、先ほどまでにいなかった人物が姿を現す。
「……まあ……普通に声かけて現れるよりかはマシかな。不意打ちは流石に出来そうにないしな」
ブツブツと自分の参戦方法に反省している悟の様子に、綱手はあっけに取られる。
「おまっ……自来也の連れの……どうしてここに?」
「どうしてと聞かれたら答えてあげましょう。……貴方が苦しそうに戦っているからですよ」
綱手の問いかけに顔をカブトの方に向けたまま悟は答える。数日前に自分と対峙した時とは雲泥の差がある綱手の余裕の無さ。悟は原作知識からその理由には気がついている。
(確か
「それで、君が綱手様の代わりかい? 『
「……うげぇっ……俺その二つ名とか別に好きじゃないんで名前で呼んでくださいよ、音隠れのカブトさん?」
互いに軽口を叩き、戦闘態勢に入る。しかし悟の方は依然としてチャクラを練れないでいるので珍しく唯一携帯しているクナイを構える。
(僕の素性は割れているか……。黙雷悟……僕の持つ彼のデータでは、雷遁チャクラと八門遁甲を合わせた柔剛拳による徒手空拳が基本の戦闘スタイルのはずだが……)
カブトは少し警戒しながらも、牽制の意味をこめクナイを投擲しながら接近戦を仕掛ける。
無難にクナイをクナイで弾き、接近戦が始まる……が。
カブトの打撃は割とすんなり、悟へと届きダメージを幾たび重ねていく。
「ぐっ!! クッソ、キツイなぁ!!」
「……君、ここまで弱かったかい? ガッカリだなぁ」
力さの差は歴然とばかりにカブトに押される悟。その様子に綱手が叫ぶ。
「何やってる?! お前この前はもう少しマシに動けただろう!?」
「今、調子悪いんで静かにしてもらえますかぁ!!」
「調子とかの問題かな……? 君、うまくチャクラが練れていないようだけど」
何故か戦闘相手のカブトが心配そうな顔をし始めたため、悟は息を大きな声に変え叫び攻勢に出る。
も、すぐに押し返される。
(クッソ、マジでやばいぞ……チャクラが練れないとここまで非力になるとは……普段のチャクラの有難味に気づかされるなぁ!! もうっ!!)
心の中で悪態をつきながらも、何とかカブトに食らいつく悟だが顔面に蹴りを入れられ大きく仰け反る。
「ふふ、その仮面のおかげでダメージは抑えられたかい? それじゃあお子様はどいててくれないかな、君に構ってられるほど暇じゃないん……っ?」
カブトは余裕しゃくしゃくに残身として蹴りを放った脚をゆっくりと降ろす。がその間、仰け反りながらも顔をカブトに向け直した悟の
(あれ、彼の瞳の色は確か……緑色のハズじゃあ、
その瞬間、カブトは衝撃に仰け反る。余りにも予想だにしない意識外からの衝撃にカブトは咄嗟に防御態勢に入る。
「ガっ!? 今何が……っ?!」
「カブト……?」
カブトの一瞬の動揺に、脇の大蛇丸が少しの疑問を抱く。
傍から見れば相変わらずのチャクラによる能力の強化の無い緩慢な悟の打撃。本来なら、それを食らうことなどあり得ないカブトが段々とそれを食らい始めていた。
「一体……何が起きている……?」
肩で息をしながら、呼吸を整えている綱手もその様子に疑問を浮かべる。
「くッどうなって……ッッ!!」
攻撃を食らうカブトも訳が分からず、目の前の攻撃に対処しようとする。しかし、その攻撃と防御のやり取りを繰り返すたびにカブトの防御は正確性を失っていき悟の攻撃を通していく。
(……何で急にカブトの動きが鈍くなって……?)
攻撃を繰り返す悟自身も自覚していないその現象に唯一カブトのみが自身の不調を自覚し診断していく。
(右から……いや、左か……っクソ。悟君の攻撃がブレて見える……いやそんなものじゃない。幻術でもくらっているかのようなまるで
ヒュン
そんな風切り音が鳴り、悟の呻き声が響く。
カブトの放ったクナイが、悟の左の肩を射抜いたのだ。
「グっ……急に反撃が……ってなんで目を閉じて……?」
「えっ……いや君の幻術じゃないのかい? っ視覚に影響がある幻術にかけられたものと思って音で君の行動を判断したんだけど……」
悟の気の抜けた質問についカブトもクナイを放った体勢のまま目を瞑り首を傾げながら答える。
少しの沈黙の後、不意に悟の後方で物音がした。
「(ってしまった、クナイで血を流したから……)大丈夫ですか!? 綱手さん!」
それは悟の肩口から垂れる血を見てしまい、膝を突き震える綱手の出した物音であった。
「っくう……」
ガタガタと震える綱手を心配する悟だがすぐ目の前までカブトが接近し、打撃を繰り出してくる。
「っ音だけでこんな正確に攻撃できるものなのか……っ」
「喋らない方がキミの為だよ、それで位置や呼吸のリズムが分かってしまうからね」
再度カブトに押され始めた悟。カブトもあまり余裕がないのか当初よりも殺意のこもった攻撃を目を閉じながら繰り出す。それをクナイでそらす悟だが次第に体に生傷が増えていく。
(っ子どもが……ガキが目の前で傷ついて……この私を庇ってくれているというのに……私は何も出来ないのか……っ!?)
その光景を睨むように見つめる綱手は、自分の無力に震える体を抑え込もうと両の手で自分の体を強く抱きしめる。
(せめて……せめて悟の傷だけでも……!)
震える体に意思の鞭を打ち、綱手は自身の親指の先を噛み千切る。その様子を見ていた大蛇丸が叫ぶ。
「っカブト、気を付けなさい
「「!」」
戦闘中のカブトと悟はその言葉に身構えた瞬間、綱手が地面に着いた手から流れる印がボンっと煙を放つ。
ヒュン
煙から舞出た三十センチ前後のそれは悟の左の肩へと飛び乗る。びちゃぁっと音を立てる粘膜、そして
「お久しぶりの口寄せですね、綱手様。此度はこの子の傷を癒せば良いのですね」
随分と可愛らしい声が戦場に響く。
「っ頼むカツユ……」
自身の血と、悟の血を見て気分を悪くしている綱手は辛うじて口寄せしたカツユに悟のサポートを託す。
「小さくとも湿滑林の大ナメクジ、厄介なことに変わりはないわねぇ……カブトさっさと……カブト?」
大蛇丸が戦局の流れを汲み、カブトに行動を促すがカブトは動きを止め硬直したまま動かない。大蛇丸の呼びかけにカブトはゆっくりと口を開く。
「あの、どうやら勝負は着いた……みたいです……大蛇丸様」
そういうカブトの指す指の先では悟がべしゃっと音を立てながら、うつ伏せに地面に沈み込んでいた。
「……どういうことかしら、カツユには傷を癒す能力があるはずなのだけれど……」
「それは僕にもさっぱり……どうやら気絶しているようですが」
「っカツユ!? どうした、何をしている!?」
「えっっえっ……ちゃんと治療してますよ、私~?!」
何故か急に気絶し、倒れ伏した悟を見てその場の全員が動揺を露わにする。
疑問を感じながらも、呼吸のリズム、その強弱でカブトは悟が完全に意識を失くしている状態だと推察する。
(突拍子もない状況だが……念には念を……距離を空けて殺すか)
そうカブトは思いクナイを振りかぶる。
「残念だよ、仮面の後継者……」
カブトの呟きの後、鋭くクナイが投擲され……
悟が顔を上げたことで仮面がクナイを防いだ。
「「「!」」」
「綱手様! 意識戻りました!!」
周囲の驚愕の視線とカツユの無邪気な事実報告を浴びながら、悟は唸りながら立ち上がる。
「全く……急に
1人ブツブツと呟く悟に、綱手は安堵しカブトは苛立ちを募らせる。
「なんなんだキミはぁっ! もう少し緊張感というか、その……こう……雰囲気をさぁ!!」
珍しく変なペースに巻き込まれているカブトに大蛇丸は少し呆れて首を振っている。
そのカブトたちの様子を気にも留めず、悟は1人で呟きを続ける。
「完全に気を失うなんて、これじゃあチャクラを練るための精神エネルギーが
ぶつくさ文句の言う悟はため息をつき、めんどくさそうにクナイを構える。
「この状況は……彼の記憶だと確かあと少しで自来也様が来るのか……なら僕がするべきことはただ一つ……それに奇しくも相手がカブトさんとは……」
戦闘の構えが変わった悟にカブトは頭を混乱させる。依然、悟からチャクラを感じられないながらも、先ほどとは段違いの圧にカブトは牽制の意味を込めてクナイを再度投擲する。
「……!」
そしてその後の光景に大蛇丸は興味を示す。カブトがクナイを投擲するために体を動かしたその瞬間と同時に悟が踏み込むカブトに急接近する。そのままカブトのクナイを最低限の動きで避け、接近に対してカブトが蹴りで応戦しようとするも先出しで悟がその足に蹴りを入れカブトの態勢を崩す。
「っ! 急に動きが……!」
(あの動き……完全にカブトの行動を先読みしているわね……不思議な子……)
一気に押され始めたカブトに目もくれず、大蛇丸は悟の動きを観察する。
拳、蹴り、クナイによる斬撃。カブトの攻撃は全て、悟によって紙一重に、最小限の動きで躱されそれのお返しにと、チャクラで強化されていない普通の打撃をカブトに一撃一撃丁寧に浴びせている。
(まるで、
大蛇丸は少しだけ懐かしむような遠い目をした。そのことにこの場の誰も気がつくことはなく、押されているカブトはたまらず大きく跳躍して大蛇丸の元へと飛び退く。
「はあ、はあ……急にどうなって……それに錯覚が直ってきたと思えば、気がつけば悟君の
只管自分の攻撃を潰され、強くはない打撃を受け続けカブトは肩で息をし始めている。悟の攻撃は決してカブトに重傷を負わせるほどの威力は出てはいない。その奇妙な現状にカブトも綱手も混乱していた。
場をかき乱している当の本人は
(ふむ……久しぶりにまともに組手をしているが……存外動けるなぁ僕。
欠伸をするように仮面に手を当て、空いた手でクナイを回して余裕を見せつけている。その様子に背後の綱手は
(こいつ……私とのケンカで見せた
乾いた笑みを浮かべ悟の背を見守る。しかし綱手が今の彼から感じる雰囲気はカノ千手柱間とは違い……
ボフンっ
不意の煙球の炸裂。先ほど悟が見せたものと同等の演出が突然なされ、煙の中から3人の人物が姿を現す。
「ふん……久しぶりねぇ……自来也」
「おーおー相変わらず目つきワリ―のォお前は。今は目つきどころか、具合もワルそーだがのォ」
大蛇丸の言葉に、姿を現した自来也が気分悪げに軽口を返す。
「……なんでカブトさんが悟とたたかって……?!」
着いてきたナルトは場の様子に混乱しているようだ。
「カブトさんの額当てを見ればわかるでしょ?」
ナルトに対して悟は気だるげに答える。
自身の背後で血に震える綱手をシズネが寄り添うのを確認した悟は肩に乗るカツユを撫でながら小さく声をかける。
「すみません、カツユ様。僕は……実はナメクジが苦手なので今後は急には近づかないで様子見をしていただけると幸いです」
「あっそうなんですね。最初気絶してしまったのはそういう理由で……驚かせてごめんなさい……」
「いえいえ。僕の方の傷はもういいので一旦帰って頂いて大丈夫ですよ」
「一旦……? 取りあえずわかりました。それでは失礼しますね」
会話を終え煙を立てて消えたカツユを確認した悟は一通りの状況を確認する。
(取りあえず、これで雷の記憶で見た
ちらっと悟はカブトに目線を向ける。カブトが訝しげに悟を見たと同時に悟は先ほどと同じように地面に倒れ伏した。
「っまた気を失ったのか……コイツ」
綱手が震えながらも心配そうに声をかける。その様子に心当たりがあると自来也は綱手に声をかける。
「あ~~、まさかと思うが綱手ぇ……おまえカツユを悟に付けたかのォ?」
「何だ……駄目なのか?」
「……ぬめぬめした生物が苦手らしいからのォ……」
「そうか……それは悪いことをしたな……」
微妙な空気が一瞬流れるが、ナルトが痺れを切らしてカブトに影分身を出して突っ込んでいくことで雰囲気は再度緊張したモノへと戻る。
~~~~~~
「うーん……ナメクジ……嫌ぁ……」
「……まさかこういうハプニングが起きるとは想定外だったかな」
黙雷悟の精神世界。さわやかに風が吹き抜ける草原に唯一生えている木の陰で二人の黙雷悟が腰を落ち着かせている。片方は眠り込んでいるのだが。
「……何となく察していたけどぬめぬめ系が苦手なんてね。罪悪感から雷の前世の記憶は見てなかったけど、何か嫌な思い出でもあるのかな」
唸り悪夢を見ているかの様に顔を歪ませている雷に黙は、仕方ないと苦笑いをしながらも頭を撫でて落ち着かせようとする。
「しかし……雷が瞑想を始めると精神世界の構造がぐちゃぐちゃになって僕と雷の繋がりが不安定になるなんてね。まあ、今回の事もあるし彼も今後瞑想はほとんどしないだろうから気にするだけ無駄か。……久しぶりにカブトさんにも会えて悪い気はしてないし……いやでも初めて戦争前のカブトさんを生で見たけど……普通に人……だったな。いつも何か蛇っぽかったし」
クスクスと笑いながら、その白い髪をなびかせて黙も仰向けに寝そべる。
「さてと僕も疲れたし、またしばらく寝るかな」
しばらくすれば精神世界の草原には2つの小さな寝息が微かに響き始めた。
~~~~~~
「……ぉい……おーい……起きんか悟」
「ううん……ナメクジがぁ……うっぁあぁっ……」
「いい加減に起きんかこのバカ者」
コツンと音が響く。黙雷悟の仮面をデコピンで弾いた自来也はかなり気分が悪そうであった。
「……ううん? あれ、ここは……」
「やっと起きたか……全く呆れた奴だのォ。戦いは終わった、ワシらは一旦街に戻って休息を取るからナルトを抱えてくれぇ」
「あっはい……あれ……何がどうなったんだ……?」
起き抜け意識がもうろうとしている悟は、周りを確認する。
巨大な何かが暴れまわった痕跡などが周囲に見受けられ、シズネがフラフラの綱手に肩を貸し歩いている。その綱手の片手はそこだけ時を進めたかのように皺を深く刻み込んでいた。
「終わったのか……。何で俺気絶してたんだっけか……」
「ボーとしておらんでさっさと動かんかい。ワシもあばらと足の骨がいっちまってるから余裕はない、早く休みたいんだのォ」
「了解です……俺は……そこまで怪我は負ってないか。よし」
立ち上がり悟は気絶しているナルトを背負う。その時自然とチャクラを身体強化に中てていることに悟は気が付く。
(……あれチャクラが使える……一体何だったんだ、本当)
不思議に思いながらも、チャクラが使えるならと悟は影分身を出して自来也に肩を貸す。
こうして一行は短冊街へと戻りしばらく休息を取るのであった……。
~~~~~~
「ハア~生き返るのぉ゛~~」
短冊街に戻り夜、宿にて自来也は横になりながら綱手から掌仙術を施術してもらいながら気の抜けた声を出していた。
「フン、何じじくさい声出してんだ全く……」
「何、昔馴染みがワシの怪我に負い目を感じないように雰囲気を和ませようかとのォ」
「別に私はその程度の事では動揺などせん」
「冷たい奴……ワシの酒に麻酔薬混ぜおった癖にそのことも気にせんとは、胸だけでなく年相応に面の皮も厚くなって痛だだだだだだだっ!!」
「……何やってんだか、オジサンオバサンが……」
軽口を言い綱手の怒りを買っている自来也のその様子を窓の傍の椅子に腰かけた悟が仮面の奥の目を細めながら眺めていた。その正面に同じく腰かけ温泉から出た後で浴衣を着ているシズネは苦笑いを浮かべている。
「たはは……でも、あんなに気楽そうにしている綱手様も久しぶりに見ますね……本当に……良かったです」
「そうなんですか……俺としては三忍全員癖のありすぎる人たちだから何とも言えない感じがありますがね」
「三忍全員に会っているというのは何気にすごい事なんですけど、悟君はそこのところドライそうですね。……それにしてもナルト君大丈夫ですか? 宿に戻ってからずっと眠りっぱなしで」
「ああ、その点は大丈夫ですよ。明日の朝には目を覚ましてますよきっと。それに俺はその……ナルトの体調には詳しいので」
「?……面白いこと言いますね、悟君は」
クスクス笑うシズネに、少し照れながら悟は席を立ち温泉へと向かう支度をする。
(九喇嘛に聞けばそういうナルトについてのことは一発で把握できそうだしなぁ……)
そう思う悟はさっそくとばかりに念話を試みる。
(……という訳なんですが九喇嘛さん?)
(どういう訳だ、全く……ああ、ナルトの奴の体に問題はない。ただの無茶しすぎで疲れとるだけだろう)
その九喇嘛からの返答に安心したのか悟は鼻歌まじりで、宿の温泉へと向かった。
(
~~~~~~~
悟の予想通り、次の日の朝にはナルトも目を覚まし一行は帰り支度を済ませ昼食を取るために飲食店へと入った。
そこでの会話の内容は自然と綱手の今後についてのものになり……
「五代目火影様ぁ!!?? 綱手のバアちゃんがぁ!!??」
ナルトの叫ぶ声に、予想していたかのように悟頭の横を手のひらで押さえていた。
「そんな信じられないことか? 俺としては自来也さんの言っていた通り、綱手さん……あ、今からは綱手
「だってさだってさ、三代目のじいちゃんと比べると何だかなぁって……落ち着きがないって言うかぁ……我儘で賭け事大好きだし、なーんかちゃんと火影出来るのか心配だってばよオレ」
(……三代目を高く評価しとるのは感心だが、ちと言い過ぎだのォ……ワシも概ね同感だがな!!!)
原作での火影っぷりを知っている悟は素直に綱手が火影になることを受け入れているがナルトは少し渋い顔を見せ、その言葉に自来也もニヤニヤしながら頷いている。
自来也は火影の要請を出しには来たが、昔馴染みである点では綱手が火影としての執務をこなせるかどうか、そこまで信用してはいないようだった。
「……悟ぅお前だ・け・は良い子だねぇ~」
綱手はナルトの言葉を受け、青筋を浮かべながらも自分を評価してくれている悟の頭を撫でる。
(……こっえぇ……)
悟自身手から伝わる力みと圧に生きた心地はしていないが。
「つ……綱手様、何か注文でも……」
シズネも雰囲気を察して話題を逸らそうとするが……。
「それにホントは50代のババぁなのに若く変化してさぁ~、火影が皆に嘘ついてていいのかなぁ」
無情にもナルトは追撃を放つ。
「表へ出なガキィ!!」
「あひィ~~~!!!」
「いでででででっ!!」
声を荒げる綱手に慌てるシズネ。力んだ綱手に頭を鷲掴みにされ悟が痛みに叫ぶ。そんな騒がしい光景に自来也は笑みをこぼして言葉を呟く。
「……まあ、退屈はせんで良さそうだのォ」
~~~~~~
木ノ葉は舞い、新たな風が吹く。木ノ葉の里にて、五代目火影という火の意思を継ぐ新たな風が里に息吹を巻き起こす。彼女の覚悟はこの先多くの人を救うことになるであろう……。
久しぶりに木ノ葉に帰還した悟たち。悟は直ぐに施設へと足を向ける。
「……もういいですか? 俺はさっそく家に帰ろうと思うんですが……」
「おお、お疲れだのォ。まあ、お主がやることは別にもうないからサッサと帰って家族を安心させてやれ」
悟の言葉に、自来也は手を振り返るように促す。本当に悟に対しての用事はないのだろう、ナルトは綱手をサスケやカカシ、リーの元へと早く連れていきたいのか自来也にそのままついて行くようであった。
さっそくと悟は数週間ぶりの木ノ葉の屋根群を駆け、施設へと舞い戻る。
「今回は波の国の時と違って、お土産持ってきてないのが心残りか……」
屋根の間を飛びながらボソッと呟いた悟は「まぁいっか」と開き直るが
「そのお土産とは僕の事ですか?」
不意に後ろから声をかけられ、身体を大きくビクつかせて振り返る。そこにいたのは白であった。
「うええ!? ああ、白雪かビックリした~~~っ何っでわざわざ気配を消してぇ……」
「いやぁ買い出しに出ていたら君を見つけたのでつい……それに僕の隠遁術も大したものでしょう? 表立って修行はしていないですがこれでも再不斬さん色々教えてもらっていますから。それに君が任務でいない間はマリエさんにも施設の庭で稽古をつけて貰ってますしね」
「色々初耳……ていうか屋根の上にいるの見られるのお前は不味いだろ……下を歩こうか」
「ええ、旅の話色々聞かせてください」
ニコニコしている白に(若干テンション高いなぁ白)と思いながらも悟は地面に足を降ろし2人で会話に華を咲かせながら施設へと戻った。
「……あれは……悟さん……?」
後ろに日向の追跡者を引き連れて。
~~~~~~
施設へと戻り、荷物を置きに行った白を見送り連絡板の自分の項を「予定なし」に変えた悟はふとマリエの項を見る。
「外出中……か。向かう予定の場所は木ノ葉病院? うーん、カカシさんの見舞いかな?」
そう呟いた悟の背後に気配が1つ。すでにそれに気がついていた悟は取り合えず振り向き明るく声をかける。
「そんなとこでどうしたハナビ?」
「ぐっ……バレていましたか……お久しぶりです、悟さん」
(流石に白の隠遁に比べれば、まだまだだなぁ)
玄関の引き戸から恥ずかしそうに顔をのぞかせたハナビの挨拶に悟も「おう!」と仮面の奥を笑顔にして応える。
オズオズとしている様子のハナビに悟は頭に?を浮かべる。先刻里に帰って来たばかりなので、自分はまだ何もやらかしてはいないはずだと言い聞かせながら。
「あの、この後予定がなければ……その……お付き合いして頂きたいところが……」
「ん? 別に構わないが……そういえばナツさんは? 一緒にいないなぁとは思ったけど、どこかに行くなら一言……」
「大丈夫です! 先ほど悟さんを見つけたときに用事があると言って先に屋敷に帰ってもらいました」
「そうか、なら構わないが……」
そういい、悟は旅の荷物を置きに自室へと戻り服装を普段着の白いパーカー姿へと変える。
(なんやかんやで、この忍び装束もボロボロになってきたな……)
そう脱いで眺めた服を洗濯籠へと突っ込みながら、悟は帰りの挨拶を済ませたエプロン姿の再不斬に出かける趣旨の声をかける。
「別に構わないが……できれば早めにマリエの奴に顔を見せてやれよ。……お前がいないと毎日『悟ちゃん悟ちゃん』とうるさくてかなわん」
「ハハッ……病院に行っているそうなので機会があればそっちにも顔を出してみますよ、それじゃあ」
再不斬と軽く言葉を交わし、悟はハナビと共に里の中へと向かった。
「ん? 悟君、どこかに出かけたんですか?」
廊下の角からひょこっと頭だけ覗かせた白が1人洗濯籠を持って歩き始めた再不斬に声をかける。
「んあ? ああ、日向のとこの嬢ちゃんと出かけるとよ……っておい白雪……何でお前も出かける準備をしてやがる」
「いえ、少し事が起きそうな予感が……僕も外出しますね! ああ、ウルシさん厨房の火の番お願いしますね、ついでにお昼の仕込みもお願いします!!」
慌てて、目立たない服装に着替えた白は持ち前の身体能力を存分に生かし滑らかな動きで外へ出ていく。出ていきながら大きな声で火の番をウルシへと押し付け、その声に部屋でくつろいでいたウルシは眠りかけていたのか顔をこすりながらも厨房へと足を向ける。
「……最近さぁ……俺の扱い雑になって来てねぇ? なあ桃さん」
「俺が知るかよ。つーか居るならもっと家事手伝えウルシ」
~~~~~~
「いや~これは気になりますねぇ。僕も年頃の女、と言うことなのかな、うん」
悟とハナビの後方で、人ごみに紛れながらも白は2人の様子を観察している。顔は彼女のイメージとは違い随分とにやけているが。するとそこに
「あら? 白雪じゃない!」
テンテンが声をかけてくる。白はドキッとして驚きながらも、口に指を当て悟たちを黙って指さす。
「…………ああ~そう言えば
ウキウキとテンテンも尾行に加わる。
「良いんですけどテンテンさん、恰好が目立つので僕の上着を羽織ってください」
「了解っと……この前の女子会でも思ったけど貴方って意外に
「自分でも驚きですが、まあこの感情の大半はどちらかと言えばハナビさんを心配する面もありますからね……今はどうやらお店を見て回っているようですね……」
「積極的について来てる私も人のこと言えないのかなぁ、あはは」
コソコソと悟たちを突けるくノ一たち。そんな彼女たちの出会いは数日前へとさかのぼる。
~~~~~~
「あらぁ、ハナビちゃんとナツさんじゃない!」
街角でふらりと遭遇するマリエとハナビ。そのまま話し込んでしまい……
「悟ちゃんが暫く帰ってこないと心配で心配で……」
というマリエに悟の話が色々聴きたいとハナビが申し出をし、施設へと招かれることに。
「そういえばあまり話したことなかったわよね~」
とテンテンが施設に白を訪ねてきたところにマリエたちも合流し、女子会が開かれることとなった。
話題の中心は、自ずと彼女たちの共通の人物である悟になる。主に彼との思い出話に花が咲く。
「悟ちゃんが小さい頃は、周りにおどおどして危なっかしい感じがしてたけど最近じゃあたくましくなって……」
「小さい頃は私の方が色々出来てたのに、いつの間にか追い抜かれて今じゃ『
「僕の悟君との出会いは……………………あっ! いっ色々な意味で内緒と……いうことで。強いていうなら彼は色々と抜けている面があるようですね。……僕も人の事言えないか……」
「悟様の第一印象は……はて……悟様とは確か日向の屋敷でお会いしたのが初めてだと思っていましたがそれよりも前にもお会いしたことがある様な……?」
彼女たちは思い思いに悟との過去の話を持ち出す。唯一ハナビだけはそれらを黙って聞いているにとどまっていたが……
「ハナビちゃんは悟ちゃんのことどう思ってるの?」
マリエがハナビへと話を振る。
シンッと一瞬場が静まり返る。テンテンと白、ナツはハナビが幼いながらも悟に恋心を持っているのを知ってはいる。しかしそれはあくまで彼女たちが個人個人で察しているに過ぎない。つまりは
「あら? 急に静かになったわね、どうかしたの?」
天然なマリエは除いて3人は恋バナという甘味に興味が尽きないのである。
モジモジして言葉を探るハナビにマリエはニコニコと言葉をゆったりと待っている。妙な緊張感をもったテンテンと白は
(テンテンさん、僕思ったよりもソワソワしています……!)
(アラ奇遇ね、私も興味深々だわ!)
小声で何やら絆を深めていた。
「わ、私は……」
ハナビが口を開くと、言葉を聞き逃さないためにも視線がハナビに集中する。
「悟さんのことす、すっ好き……だと思い……ます……」
ハナビの言葉にその場全員のニコニコ具合が振り切れそうになったとき、マリエが口を開く。
「それでハナビちゃんはどうしたいの?」
(……なにこれ尋問?)とマリエの追い言葉にテンテンが少し息を呑む。マリエの意図が読めないからであろう。テンテンからしたら悟の保護者として何回もあったことはあるのだが、真意がくみ取れない状況だ。
「どうしたい……というのは?」
「そう、好きなのは良いことだと思うわ。だって私だって悟ちゃんのことはとても……とても大好きだもの……。だけど好きだからってだけで何もしなければ良くも悪くも関係性は変わっていくの、嫌でもね。だから私のアドバイスとしてはそうね……」
少しマリエが考える素振りを挟み口を開く。
「『自分に正直にいる』……恥ずかしい事でも、それを表に出さないことはいつか後悔に繋がるかもしれないわ。……相手が何時までも傍にいるとは限らないから」
マリエの言葉に場の空気は重くなる。経験による裏打ちされたかのような言葉にテンテンも白もナツも押し黙る。しかし
「私は……悟さんと……一緒に……いたいです! まだまだこれから沢山の事を悟さんと一緒に過ごして……私はまだまだ子供だけど、これから知ることも悟さんと一緒に……!」
言葉が覚束ないながらも必死にハナビは答える。その様子にマリエは微笑み「そう、頑張ってね~」と優しく語りかけた。
~~~~~~
「あの時のハナビちゃんの必死さを思えば今日何かしらのアクションが起きるのも可能性大ね」
女子会を振り返り尾行中のテンテンが小さく呟く。
「僕もそう考えます。ただ心配ごとが……」
「ああ~……悟の対応よね~……」
女子2人は小さくため息をつく。
「僕の印象では悟君は恋愛とかそういうのに興味が全くないように感じていますので……ハナビさんに失礼な事をしないかと、心配で心配でっ」
白の言葉にテンテンはうんうんと腕を組み頷く。そんな2人の心配などどこ吹く風だと、ハナビは楽しそうに悟の手を引き連れまわす。
「悟の事だから、恋するには若すぎるとかその気持ちは気の迷いだ、なんて失言をしそうなのよね~、ああ心配で胃が痛くなってきたかも」
テンテンは日ごろの彼の印象から最悪のケースを想定して1人勝手に胃を痛める。そうこうするうちにハナビたちは商店街から移動をし始めた。
そして、里でも少し高めの土地にあるベンチが置いてあるような広間までハナビたちは来た。風がそよぐ心地の良い場所だが今は人気はない。
そこのベンチに休憩がてら座り、談笑している悟とハナビにテンテンと白は高鳴る鼓動を抑えながら背後の離れた位置から文字通り影ながら見守っていた。
そして
「あ、あの……悟さん、実は今日は大事な話が……あ、あります!」
「ん? 大事な話?」
ハナビがひときわ大きな声で切りこむ。早口になっているハナビは深呼吸をして息を整える。その様子に悟は少しだけ背筋を伸ばしているのが、テンテン達からも見えた。
そしてハナビは決心し、口を開く。
「私……私はっ! 悟さんのことが……ふう~~~っ…………悟さんのことが大好きです!!! あの、出来れば……これからもずっと私の傍で……一緒に居てください!!!」
ハナビの大きな声に場が静まり返る。後方のテンテンたちからは悟の反応が上手く読み取れない。
(幼馴染だから仮面付けてても大体の雰囲気で悟の感情は読み取れる自信はあるんだけど……)
テンテンは悟の雰囲気に少し違和感を覚えていた。悟は今はハナビの言葉を受けて顎に手を当てる動作をして何やら考えている様子である。
(悟君の返答次第では、嘘をつかなくとも僕の千本を文字通り飲ませることになりそうですね……)
白は白で緊張感に世迷言を考える始末になっている。
2人の予想では悟は上手い事ハナビを傷つけないようにはぐらかすものだと思っている。彼は優しい、考える動作からしてハナビの気持ちを無下にはしないだろうと。
ハナビが緊張からか荒い呼吸をして息を整える中、黙雷悟がゆっくりと口を開き言葉を述べた。
「ありがとう、ハナビ。好きだって言ってもらえるのはとても嬉しいよ、何だかんだ最初は結構嫌われてたと思っていたし」
そういい優しい口調で悟は語る、自分の思いを。
「だけど……ごめん、そのハナビの気持ちには多分……いや俺は答えることが出来ない」
その言葉の内容はテンテンからしたら予想の外のモノであった。5歳年下の少女の言葉に対して悟なら、断るにせよもう少し甘さを含ませた回答をするのだと思い込んでいた。
しかし彼は真面目に、真っ直ぐに。ハナビの言葉に対して黙雷悟は遠慮などせずに言葉を返す。
「そ……それは……あの、姉さまとの婚約があるから……とかそういう」
「それは違う。前にも話したが俺は婚約を破棄するつもりだ、将来的にだが。……俺はあまりそう言う恋愛的なことに明るくないが、ただハナビが真剣なのはとても伝わったよ。だからこそ俺もちゃんと本音でハナビに答えたい」
その悟の様子に白は目を細める。
(本音で……『自分に正直にいる』ということ、ですね。考え方の似方は血など繋がってなくともまさに親子というほかないですね、悟君とマリエさんは)
悟も深呼吸をして、ハナビの覚悟に答えるかのように言葉を並べていく。
「ハナビが俺の事を好きでいてくれるのは嬉しい……だけど、俺にも思い人……がいるんだ」
「……っ! それは……し、白雪さんとか……テンテンさんのこと……ですか?」
泣き声が混じりそうなハナビの声にテンテンも白も胸を締め付けられる。まさか自分が……というまんざらでもないかもしれない妙な期待感を持ちながら。
「いやあいつらはナイ、テンテンは姉みたいなもんだし白雪に関しては確かに美人で見た目は好みなんだがアイツにも意中の人がいるの知ってるし……。あいつらよりもっと……俺にとって特別な人がいるんだよ……まあ、相手が俺のことをどう思っていたかはわからないし、その人にはもう会えないと思うけど……」
ハナビの言葉に即否定し、そのまま悟は懐かしむような声色で語る。悟の返答に後方の2人は少し安心感を得ていた。幼馴染のテンテンだけは語る悟の様子に違和感を覚えていた。
(……悟ってあんなんだったっけ……何か少し大人びて見えるような……)
ハナビは悟の言葉に、何とも言えない表情になりながらも疑問をぶつける。
「もう会えない……その人は私の知ってる人ですか?」
「いや、う~ん……どこまで言って良いのかわからないが……俺以外の人は誰もその人について知らないと思うから、聞いて回るなんて止してくれよ?」
「流石にそこまでデリカシーの無いことはしません……。が、そうですか……悟さんにも……好きな……人が」
「もう会うことも叶わないだろうけど、俺のその人への気持ちが消えない限り……少なくともハナビの気持ちには答えられないんだ、ごめん」
悟は深く頭を下げてハナビに謝る。ハナビの覚悟を気持ちを真剣に理解したうえで、自分がその感情を受け止められないことを謝罪したのだ。
聞く者からしたら酷く曖昧な悟の言葉だが、悟の様子からハナビは噓ではないとわかってしまう。それは同時に、彼が自分1人に振り向くことのない事実を理解することになる。
しかしそれでも
「……グスっ……悟さんの気持ちはわかりました」
「……本当にごめん」
「だけど……私は諦めません」
「…………うん?」
「確かに私は、悟さんとその……恋人的なものになれたらと思い告白をしましたが、まだ私の歳は8つです。そういうことを考えるのは時期早々だとは思っていました。けれど、悟さんが思い人さんへの気持ちを大事にする人で良かったです。私は……」
ハキハキと喋り始めるハナビに目を点にしてぱちぱちさせる悟。
「貴方にとって、その思い人さんを超えるほどの存在になってやろうと思いました。私は、それまで諦めません……っ!」
火のついたかのようなハナビの目にたじろぐ悟。確かに今は悟が自分に振り向くことがないと理解したが、それがこの先もそのままであるとは限らない。
(……私も悟さんへの印象は最初から良かったわけじゃない。……人の評価はその人の行動で変わる、悟さんが私に示してくれたことです!)
燃えるハナビの熱意に
「お、お手柔らかにお願いします……」
悟はただ手加減を所望するしかなかった。
2人の雰囲気が和らいだところで、ふと腹の音が鳴る。ハッとハナビが顔を赤らめお腹を押さえると、悟は小さく笑いベンチから立ち上がる。
「ふふ、色々緊張して疲れたから腹も減ったんだろうな。昼はどうする?」
微笑ましさに仮面の下でニコニコしているであろう悟に、ハナビは俯きながらも
「……屋敷でナツさんがお昼を用意してくれているはずなので、今日はもう帰ります……」
そう小声で返事をした。「そうか」と悟が返事をするとハナビに背を向け、その場に屈む。ハナビが疑問符を浮かべると
「いつかの時みたいに背負って日向の屋敷まで送ってやるよ。俺の速さなら、五分もかからん」
「っいやでも、悟さんにあまり迷惑をかけるのも……。私の思いを聞いて頂けただけで……」
「……遠慮はなしだ。問答無用っ!」
悟は残像を残すほどのスピードでハナビを抱える。
「わっ!? ちょっと悟さん!?」
「大丈夫、大丈夫。人には見られないように配慮するから」
妙にテンションの高い悟の様子にテンテンは
(……まあ、誰かに好きって言ってもらえるのって……理由もなく嬉しくなるモノよね。昔は全てに怯えてるみたいな目をしてたのに……)
そう納得する。テンテンの悟に向ける眼差しは、手のかかる弟の幸せを願う姉の様なもの。
その視線が冷たい目をした悟の視線と合わさり、テンテンの肝が冷える。
「ひえっ!!??……もしかしてぇ……」
「どうしました、テンテンさん?」
驚きヒュッと喉を鳴らしたテンテンに白が話しかけると、ドンっと衝撃波が走る。
白がその方向に目を向けると、悟がハナビを抱えたまま跳躍したようで姿を消していた。
「ああ、流石にもう追うのは無理そうですね」
そう言ってにこやかに隠れていた茂みから体を伸ばしながら出た白にテンテンが呟く。
「……かも」
「ん? テンテンさん何か言いました?」
「多分尾行してたの……最初っからバレてたかも……」
「…………えっ?」
青ざめた顔のテンテンは幼馴染の冷めた目線に、次に会った時にどのような報復が行われるのかを想像しながら白と慄きながら帰路を共にした。
~~~~~~
着地音と何かが地面をこする音が、静かな昼下りの日向の屋敷に響く。
「……この音は……悟君だろうか」
「父上……そんなことまでわかるのですか……って思えば日向の屋敷でこんな音を響かせるのは奴ぐらいか……」
「はっはっはっ! 確かにそうだな、だがもしもがある。確認しておこうか」
稽古場で座禅を組み、お互いに瞑想をしていたネジとヒザシはその音に反応し、一応庭に繋がる戸を開けてみる。
その瞬間には何かが跳躍する音がして庭にいたのはハナビ1人であった。
「ハナビ様、お帰りなさい。ちょうどお昼頃ですね」
ヒザシの優しい口調の言葉に、ハナビは目を回したように呆けながらも
「た、ただいま戻りました……」
何とか返事する。
ネジは白眼を使い、悟の存在を視認しようとするが
「……速すぎるな。奴は全力ではないのに、捉えられるかも怪しい……相変わらずのでたらめさだ」
補足しきれずに舌打ちをする。そんなネジにヒザシは
「ネジよ、白眼に頼りすぎるのも良くないぞ? 時には私のように音や振動など、別の感覚で……」
「ええ、理屈はわかっていても俺ではまだ父上の様には行きません……。ハナビ様、ナツが帰りを待っていました、顔を出してあげてください」
ヒザシの言いたいことは理解しているつもりのネジはその難題さにため息をつきながらも、ふらふらと足の覚束ないハナビをナツの元へと優しくエスコートをしてあげた。
~~~~~~
(隠遁が優れてても、いくら白でも俺のチャクラ感知には引っかかるんだよなぁ。ハナビと一緒に居る時は万が一があるから周囲を警戒するようにはしてたけど、全くあいつらは……)
木ノ葉の里を駆ける悟は、病院へと進行方向を取る。
(ええと確か、マリエさんは病院に行ってるらしいしな。まあ、もし先に施設に帰ってるならカカシさんとかの顔見て俺もさっさと帰るだけか)
今後の予定を組みながら、悟は木ノ葉病院の前へと降り立つ。
「……俺って結構この病院と縁があるよなぁ」
そう呟きながら、悟は病院の中へと入り受付を済ませる。
幼少期から怪我を含め数度運び込まれ、木ノ葉崩しの時においても病院を中心に動いていた悟。妙に縁深くすでに見慣れた廊下を通り、悟は受付で聞いたカカシの病室の扉に手をかける。
「こんにちは~カカシさん調子どうですか~」
「……ああ、悟か。お久だね」
「っ悟ちゃん!?」
扉を開ければ、少し顔色を悪くしたカカシはベッドで身体を起こし小説に目を通していた様子であった。そのベッドの脇で椅子に座り、同じく何かの本を読んでいたらしい眼鏡をかけたマリエは驚き声を上げ、ドタバタと悟にすがるように飛びかかる。
「ちょっ……マリエさん、ここ病院なので静かに……」
「ああ~~~~~~~悟ちゃん~~~~無事で私嬉しいわ~~~~!」
腰辺りに抱き着き、号泣し始めるマリエに戸惑う悟。その様子を苦笑いで見守るカカシは小説を置き悟に助け舟を出す。
「悟が自来也様とナルトとともに綱手様を連れてきてくれたんでしょ? ありがとね」
「ええ、まあ……ほらマリエさん立って…………俺はあまり活躍してませんよ。ナルトが大きく成長したんで今度成果でも見てあげてください」
何とか泣きべそをかいているマリエを立たせた悟。
「カカシさん身体の方はどうですか? うちはイタチに幻術かけられて寝込んで調子でないですか?」
「いや、まあ身体の方は良いけど。流石にメンタルがやられたね今回は……」
しばらく腰を下ろして雑談を続ける2人だが悟が何かに気がついたように立ち上がり病室を出ようとする。
「それじゃあ、俺はこれで。ゆっくり休息取ってくださいねカカシさん」
「ん? ああ、綱手様の話だとコキ使う気満々でちょっとげんなりしてるよ。悟はこれからどうする?」
「ちょっとサスケの方の様子も見ておきたくて、それでは」
「ちょっ悟ちゃん!? 私のことスルーしすぎじゃあないかしらっ!?」
カカシに挨拶をすませた悟はマリエに静かにするよう指を口に添えるジェスチャーをしてカカシの病室を後にした。
「ううううっ……悟ちゃんが冷たい……」
「そういう年頃なんでしょ、落ちこみすぎよマリエ。言っとくけど俺この後すぐに家に帰るから泣くなら外いって泣いてね、迷惑なの」
「同期も冷たい……ううぅっ」
~~~~~~
その後うちはサスケの病室の前で悟は中の様子を伺っていた。
(既にナルトが中にいる……)
彼が心配そうに中の様子を伺っているのは原作ではこの後、ナルトとサスケが病院の屋上で一騎打ちをするからである。
場がエスカレートした場合、止めに入るつもりでいる悟なのだが
(……思ったより静かだな)
中からは予想に反してサスケの怒号やナルトの挑発と言った荒々しい語気の音は聞こえてこなかった。
そして、病室の扉が開き
「……悟こんな所で何してんだってばよ?」
「あら、悟。こんにちは」
いたって平静なサクラとナルトが出てくる。悟は咄嗟に返事をする。
「お、おうこんにちは。いや、別にサスケの見舞いに来ただけだが……」
「そうか? なら入れよ。俺はこのあとサクラちゃんと一緒に修行でも~っ!」
「……いかんわっ! 私は私でやりたい修行があるからあんた一人で行ってきなさいよ」
「え~~サクラちゃんのイケず~~」
そう言い合いながらナルトとサクラは病院を後にした。開けられたままの病室の扉から声が通る。
「どうした……見舞いに来たんじゃないのか?」
サスケのその声に悟は恐る恐る、病室に入る。そこには窓の外を眺めながらサクラが剥いたであろうリンゴを爪楊枝で刺して食べているサスケの姿があった。
「ちょ、調子はどうだ?」
悟の固い問いかけにサスケはちらっと悟を見て平静に答える。
「……良いわけねーだろ。お前は
「ああ、イタチさんとのね……だから俺はもうちょっと荒れてるもんかと思ったけど……」
「内心穏やかじゃねえけど……感情に流されて力を振り回しても、気分が良くなるわけじゃないからな……」
そういうサスケは悟の顔をジッと見つめる。
「……なに?」
「いや、お前ことだからもう忘れて……いやそもそも気にしていねーってことだろうな」
「……なにが?」
「何でもない。ただ、内心穏やかじゃないのは事実だ。成長を続けるナルトや……イタチとの戦いで俺はこのままじゃ駄目だと……思い始めてきた」
そういうサスケは皿の上のリンゴを全て食べて、ベッドから降りる。
「おい、身体の方は……」
心配そうにする悟にサスケは一言ハッキリと告げる。
「俺と戦え悟」
~~~~~~
第3演習場
ちょうど三時ごろの時間、忍び装束を身にまとったサスケと悟は向き合う。
「……手加減はするな、悟お前の全力で来い」
「病み上がりみたいなもんなのに何無茶言って……」
「俺は……真実が知りたい……そのためには『力』が必要だ。……その『力』が何であろうと構わない。そして今の俺の実力を、俺自身が思い知りたい、それだけだ」
スっと対立の印を結ぶサスケは真剣な目をしている。その目に悟は
(原作みたいにサスケには闇の道に走って欲しくないと……思っていたんだが、どうにも
フッと笑う悟。その様子にサスケは眉をひそめる。
「良いぜ、受けて立つ。出し惜しみはナシだ」
悟も対立の印を結び、風がなびく。
風が運ぶ木の葉が小川に落ちた瞬間に互いが同時に動く。
「火遁・豪火……」
「遅い!!!」
印を結ぶサスケに悟は正門・雷神モードで接近し蹴り飛ばす。写輪眼を発動したサスケは辛うじて手を割り込ませてガードをするも吹き飛ばされ小川に突っ込む。
水しぶきが辺りを濡らす中、手裏剣が数枚悟に飛来する。どれも高速かつ軌道が不規則であるが
全ての手裏剣を悟はデコピンで生じた圧で弾き飛ばす。
続いて態勢を立て直したサスケが、火遁・鳳仙花の術で牽制を企てるも先に悟の豪火球がそれらを飲み込みサスケに迫る。
「ちぃっ!」
咄嗟に避けたサスケに悟は高速で接近し、掌底でサスケの腹部狙い吹き飛ばす。
勢いよく吹き飛んだサスケが気に叩きつけられ、項垂れる。悟は戦闘態勢を解くが
「……ま、まだだっ……」
木を支えにサスケは立ち上がる。
「あまり無理は……」
「俺はっ! 弱いままではいられないっ! ナルトも、お前も……サクラも先を見据えている、俺だけが立ち止まるわけには……っ」
サスケの咆哮に悟は再び構えを取る。己の運命にもがくサスケに悟の心中は変化を見せ始めていた。
(俺は……サスケのことを……)
バチッと鋭く雷鳴が響く。悟の纏う緑の雷光がより輝きを増した。第四傷門状態で雷神モードに入ったことで悟自身に負荷がかかっている様だが、それでも腰を低くし悟は構える。
「……なら、強くなれよサスケ。ほら俺の一撃で何か見えるものがあるだろう……いくぞっ!!」
サスケに目掛け、フェイントの入り混じった稲妻のような動きで接近する悟。
(っ集中しろ……俺の眼なら……写輪眼なら見切れるはずだ……!)
「飛雷脚!!」
悟の雷を纏った上段蹴りがサスケの顔面に迫り……
サスケの後方の木の幹だけを吹き飛ばす。
「っ!? 避け……ガっ!?」
驚き隙を作った悟がサスケからの蹴りで距離を取らされる。悟がサスケをよく観察すれば、その目に宿る勾玉模様が3つに増えているのがわかる。
「……見切れた、悟の動きを……」
静かにそう呟くサスケに、悟は仮面の下で笑顔を作る。
「調子が出てきたかサスケ?」
「ふん、お陰様でな……つーか今の避けれなかったら首が吹き飛んでただろ……」
「……避けると信じてたっ!!」
(コイツ、避けたことに驚きを隠してなかったくせに……)
クスッと笑ったサスケはよく眼を凝らして悟を観察する。見るのはそのチャクラの流れである。
(雷神モードとか言ったか。今の俺なら、そのチャクラ流れを見切れる。そして……)
千鳥の構えを取るサスケに、悟も応戦するために柔拳を構える。
「千鳥か……なら」
悟はチャクラを目に集中させて、雷眼モードへと移る。洞察力を上げ千鳥に対してカウンターを狙うつもりだ。
しかしその変化もチャクラを見る写輪眼を持つサスケには筒抜けであり
「悟、お前は良い観察対象だな……見ているだけで強くなる道をイメージできる」
「?」
千鳥の雷光がサスケの左手から全身へと巡り……
「おいおい、まさか……」
「これが
一瞬の間を置き、サスケの高速移動での接近を悟が許してしまう。
(千鳥の、ただ直線の高速接近じゃ……ないっ!)
雷眼モードの悟は何とか接近してきたサスケの蹴りを手で受け止めるも、その受け止められた足を軸にサスケがもう片方の足で蹴りを放ち、悟を蹴り飛ばす。
「ヅッ!! はっや……」
「休ませるかよ!」
サスケの連撃に、悟が押され始める。
(雷眼モードでないと、今のサスケの動きを見切れないが……体が速度に追いつけないっ!)
サスケが優勢に傾き始めているのはその写輪眼と、
(なるほどな……千鳥の濃く練られた雷遁チャクラを纏うことで、出力が普通の雷遁チャクラモードより高いのか……だが)
サスケの攻撃に幾分かダメージを受けながらも悟は次第にサスケの対応を見せ始めている。
速さで上を行かれる分を、悟は予測で攻撃を捌き続け……
バチンっ……
サスケの纏う雷光が消え失せたタイミングで悟がサスケに組み伏して、地面に拘束する。
「……随分と良い術だけど……燃費が悪そうだな」
「っクソ……!」
完全に拘束されたサスケは身動きを封じられる。そして
サスケの顔面の真横に、悟の少しずれた仮面から見える口から放たれた水遁・天泣による水の針が突き刺さる。
「これはわざと外した。俺の勝ちだ、サスケ」
「……チっ……」
拘束を解いた悟は和解の印の形でサスケの手を引き起き上がらせる。
「俺のチャクラの流れを参考に、チャクラモードまで行きついたのは流石だ。だが俺の状態を写輪眼で見切れても、自分のことまでは気が回らなかったな」
ふらっとしていて立っているのもやっとなサスケに悟は、組手の感想を伝える。
「ただでさえチャクラ消費の激しい千鳥のチャクラを応用して、身体活性をするのは……写輪眼と相性がいいとはいえ、きついものがあるだろ?」
「ああ……そうみたいだ……っ一瞬でもお前に近づけた高揚感で自分を見失ってたようだ……」
「まあ、結局は『慣れ』だな! もう少しチャクラコントロールを磨いて燃費を抑えられるようにすれば、実戦でも使えそうだ」
「ああ……」
疲労からか返答も曖昧になっているサスケの様子に苦笑いの悟は肩を貸し、演習場の丸太を背にして座らせる。
「どうする? 家まで送ろうか?」
「いや……いい、しばらくここで休憩してから自分で戻る。お前も……長旅の帰りだろう……悪かったな付き合わせて」
「良いさ、これぐらい。それじゃあ、俺は施設に帰るよ。お前も、修行やるならキリのいい所で帰れよ? あまりチャクラ不足の状態は身体に良くないから……」
「……お節介な奴だな……ほら、もういけ」
サスケがもうろうとしながらも手で払いのける仕草をするので悟は、苦笑いを仮面で隠し手を振りながら姿を消した。
「……クッソ……」
1人座り込んだサスケは悔しさに涙を流した。
~~~~~~
その後、日は落ち夜も更ける。久しぶりに施設で、住民たちと団欒のときを過ごした悟は狭い自室の布団の上で満足感を噛みしめていた。
すると自室の扉がノックされる。
「ん? どーぞ」
取りあえず返事をした悟に、扉が開かれるとそこにはマリエが立っていた。
「悟ちゃん、ちょっとついてきて……」
静かにそう言うマリエに悟は疑問を覚えながらも、上着を羽織り自室を出ていった。
マリエについて行き悟はマリエの自室へと招かれる。
「どうしたんですか……こんな夜更けに……っえ?」
悟は疑問を口にすると同時に部屋の光景に驚く。マリエの自室の隠された地下への道が開いていたのである。
「ずっと考えてたことがあるの、私」
手招きをしながらそのまま地下に降りていくマリエに、悟は少し緊張しながらもついて行く。マリエはつらつらと言葉を探りながら話し続ける。
「私が、私自身と向き合えて……こうして今1人のマリエとして生きているのは貴方のおかげで……それに対して何か私なりの感謝をね……したいと思って」
石造りの階段を降りていく2人。あれからコマめに出入りがあったのか、蝋燭が壁に掛けられ灯りは充分にあった。
「感謝なんて……俺は、マリエさんに生きていて欲しくて……ただそれだけなんで……」
むず痒さを言葉に表しながらも悟は仮面のない自身の顔を緩める。
「まあ、そうね。悟ちゃんは自分のしたいことをした……なら私がしたいことも、悟ちゃんなら受け入れてくれると思って……用意していたの」
かつてマリエの本体が閉じ込められていた牢があった場所に机が置かれており、その引き出しをマリエが開ける。
「はいこれ」
マリエが開けた引き出しから取り出したものを悟に軽く放る。悟がそれをキャッチするとその受け止めた小瓶を蝋燭の光にあて眺める。
「これは……血……ですか?」
「そう、それは私の血だ。……血継淘汰……塵遁を得るための鍵でもある」
雰囲気を変えたマリエの言葉に悟は驚きを露わにする。
「塵遁を得る……? それって」
「前にも話したが私は塵遁の開発者の血縁者だ。そしてその伝授の方法を口伝されている。方法としては単純だ、塵遁継承者の遺伝子……まあ簡単に言えば血を摂取すればいい」
小瓶を眺める悟は不安そうにするが、マリエは淡々と解説をし始める。
「……手順としては、割と簡単なんですね」
「まあ、“方法”だけだがな。条件が2つある。1つは継承者が火・土・風のチャクラ性質を持つこと」
「……もうひとつの条件とは?」
「チャクラコントロールに優れていること。まあ、この2つさえ満たしていれば素体の準備は良い、あとは……」
「あとは?」
「体がその遺伝子を受け入れるかどうか、ということだ。他の血継のモノとは幾分か条件は違うが、塵遁がそれでも血継の名を冠しているのにはそういう所以がある」
用意された2つの木の椅子に2人は腰かける。
「……塵遁開発者、二代目土影・
「確かに血継限界は強力なのは分かりますけど、それを出来るようにっていうのは現実的ではないと……」
「そうだ。そこで無は己の体を血継の力に耐えられるよう血継限界を持つ者の血肉を集め幾つも植え付けていったという」
「……(グロっ……)」
「その結果、無の身体は後天的に血継を得た。血肉を取り込む以外にも禅を組み、断食をして体を極限状態にしていたとか逸話はいくつかあるが……それらにどこまでの影響力があったかは知らん」
「それなら、他の血継限界でも同じように他人に受け継がれる話があっても可笑しくはなさそうですが……」
「言ってしまえば、無が特別であったというだけの話だ。血継の器となり、自身の血肉すらもその形に染め上げられるという……な」
「……他人にチャクラを分け与えるには、チャクラの質をその人に合った状態にしないと出来ない……っていう医療忍術の基礎みたいに、無さんは血継の血に後天的に染まれる体質だったと……」
「そんなものだ。つまり、無の血は血継に淘汰されずにその力を得……その血は他者の血を淘汰し侵食する」
「無さんの血を受け入れられれば、淘汰の力を得られると……」
「素質がなければ、血が汚染され……まあ、最悪死ぬ。塵遁を得た三代目土影・オオノキはその素質があったという訳で、無論血縁者だろうと無の血を受け入れられるとは限らないが……私はそれが出来たというだけの話だ」
オオノキの名を口にしたマリエは普段の穏やかな彼女が見せることは決してない、苦虫を嚙み潰したような顔を見せ悟は苦笑いを浮かべる。
「つまり塵遁継承者の血は無の血に一部染まっている。私の血にもその
「ちょっ……いきなり血を飲むのは……それに俺がその適性があるかどうかなんて……」
「大丈夫だ小瓶程度では殆ど影響は出ないはずだ、それに継続的に摂取することで身体を慣れさせていくという訳であってだな飲めばすぐに塵遁が使えるようになるわけでもない」
「……そういうものなんですねぇ」
「過去の記録では、血の摂取後数回塵遁を使用できたが再度血を摂取するまで使えなくなる術者もいたそうだ……その者は最終的には死んだが。完全に塵遁を得るには長い目で見る必要がある。わかったらホラ、さっさと飲め」
マリエの催促に悟は渋々小瓶の栓を抜き、血の匂いを嗅ぐ。
「血だ……うん、血だなぁ……」
悟がちらっとマリエを見れば腕組みをして顎で飲むように催促をしてくる。
少しの沈黙を置き、悟は(感謝は建前で、俺のことが心配で力を付けさせるのが目的なんだろうなぁ……)とマリエが自分を心配する思いを組み意を決した。
「う、うえぇ……っ(泣」
「……幾つか小瓶を渡しておく。血の鮮度の関係で数は少ないが、一日一回食前に飲むようにな」
(普通の修行の方が俺には性にあってるぅ……)
その夜前世の倫理観的に血を飲むという辛い行為に、悟は涙目を浮かべた。
~~~~~~
「何かを得るには何かを捨てなければならない」
深夜の第三演習場で声が響く。悟との組手の後、疲れからそのまま眠ってしまったサスケはとある4人の忍びに襲撃され……
「ハッキリしよーぜ。大蛇丸様の元に来るのか、来ねーのか」
選択を迫られていた。
「……俺は……俺は……っ!」
ボロボロにされながらも食いつくサスケに二頭の忍びは告げる。
「今は身体の調子が悪そうだからなぁ……このまま里を抜けても、都合が悪そうだ。……一週間考える時間をやるよ。まあ、木ノ葉にこのことを流されても面倒かもだが……」
今の『お前』には何もできねーからな、問題はないか
その言葉を最後に、4人の忍びは姿を消した。
1人無力感に打ちひしがれるサスケは、土を掴み拳を地面に叩きつけた。
鈍い音が夜の静寂に、小さく波紋を残して、消えた。
次回おまけ回、の予定