目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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所謂劇場版


仮面の忍び、雪に舞う
69:何のための夢


 早朝の施設「蒼い鳥」では大人たちやその手伝いをする者達が忙しく働きまわっている。

 

「……」

 

 その働く大人の一人は無言でキッチンに立ち、朝食の仕込みをしている再不斬その人である。外はまだ暗く、ガスが火を揺らめかせる音だけが聞こえる。ふと再不斬が包丁を手に持ち、その瞬間素早い動きで素振りを行う。

 

「……」

 

 左手では、みそ汁の入った大き目の鍋をお玉でゆっくりと回しながらも右手で包丁を振り回すその異様な光景は普段誰の目にも留まることはないのだが

 

「おや、桃さん手持ち無沙汰ですか?」

 

 そう再不斬に声をかけながら、白が身だしなみを既に整えた状態でキッチンがある食堂に入ってくる。

 

「……白雪か。妙に気配が薄い奴が来るとは思ったが……どうかしたか?」

 

「今日は、早く目が覚めてしまって……マリエさんも今は追いついてない事務仕事をしているようですし、()()()()()も忙しそうだったので様子を見に」

 

 そういう白は食堂の椅子に座り、本を開ける。働く再不斬の影分身たちに本体の場所を聞いて食堂まできたのであろう。

 

 その白の行動に、少しだけ不可解だと再不斬は眉をひそめるが特に口に出していう訳でもなく、静かなガスの音だけが再び静寂を占める。

 

 しばらくすると本に目線を落としたまま、白は口を開く。

 

「……そのおみそ汁……以前マリエさんと訪問した施設で、レシピを教えてもらったやつですよね?」

 

「ん?……ああ、そうだな。ガキどもは好みがバラバラだからな、色々試していはいるんだが……」

 

「……」

 

「……」

 

 やり取りは直ぐに終わり静けさが直ぐに戻ってくる。それでも二人はお互いに気まずいと思う訳でもなく、無言でそれぞれの時間を過ごす。

 

 ふと再不斬が白へと問いかける。

 

「昨日は……悟の奴と出かけてたのか?」

 

「……え? はい、昨日は五代目火影様の就任式があった後そのまま悟君に無理やり連れられてしまって……ハハハッ……」

 

 白の曖昧な返事に再不斬は「そうか」とだけ答え何やら眉間に皺を寄せている。

 

(再不斬さん……急にこんな話題を振ってくるなんてどうしたんだろうか……僕の動向を気にかけるなんて……一昨日の悟君とハナビちゃんのデートをのぞき見してたことで、昨日は悟君に怒られてたなんて……流石に言えないかな)

 

 少しだけ二人の間の空気が微妙なものになり始めていた。

 

「白雪は……アレか……やはり悟の様な奴がその……」

 

 珍しく歯切れ悪くブツブツ呟くように語りかけてくる再不斬に流石の白も、本を読むこと集中できずに再不斬へと声をかける。

 

「……桃さん? どうしたんですか、らしくないですよ?」

 

「ッ……ああ、そうだな……」

 

 白の問いかけにたじろぐ再不斬。何か自分に聞きたいことでもあるのかと、白は自分に思い当たる節がないか考える。すると

 

「白雪は悟の事を……どう思っている?」

 

 再不斬が再度口を開く。恐らくそれが聞きたかった内容であったのか、その言葉の後に小さく再不斬のため息が混ざる。

 

「どう……とは悟君のことでですか……? 今更な問ですね、僕は彼の事をとても大事な親友だと思っていますよ」

 

 ハッキリとその問いに答える白。再不斬はその回答に満足していないのか煮え切らない態度のまま言葉を繋げる。

 

「……男女の関係……的な……そういうのはないのか?」

 

 余りにも恐る恐るで恐怖に慄いているかのように呟く再不斬のその言葉は白の思考を停めさせる。

 

「ハハハッ男じy……えっ……は?」

 

 先ほどとは明らかに種類の違う、重い沈黙が流れる。

 

(……えっ何でそういうことになってるんですか再不斬さん!? 何時!! どうなって!! そう言う風に解釈したんですか!?)

 

 顔は相変わらずの笑顔を浮かべながらも、白は完全にショートした頭の中でぐるぐると思考を巡らせる。

 

 沈黙に気まずさを感じたのか、再不斬が先に口を開いた。

 

「いや、すまなかった……少し興味本位というか……あれだ……一応保護者的な立ち位置にいるからな、俺は。そういうのが心配だっただけで余計なお世話だったな……すまん」

 

 焦って動揺しているのか珍しく口数が増える再不斬に白は咄嗟に言葉を返そうとする。

 

(まさか再不斬さん、僕と悟君の仲がいいからって()()()()()()かもって勘違いしているつてことですか!? ちょっと待ってください! 僕が好きな人は……っ!)

 

「待ってください再不斬さん……! 僕は……っ」

 

 慌てて椅子から立ち上がり口を開く白は途中で言葉を停める。

 

『再不斬さんの事が好きなんです』

 

 そう言うはずの白の口は硬直して動きを止める。不意に本名で呼ばれ、眉をひそめる再不斬だが白の様子に首を捻る。

 

 

 

 白の心の中で様々な感情、思考が渦巻く。

 

 

 

 『元々再不斬さんの人形だった僕が、彼の事を好きだというなんておこがましくないのか?

 

 再不斬さんに取って僕は所詮、保護者として見守るだけの子どもの様な存在。僕のこの気持ちを伝えられてもただの迷惑になるだけなんじゃ……

 

 せっかくの……貴重な、平穏で楽しいこの施設での日々を……時間を、こんな僕の身勝手な感情で台無しになんて……』

 

 

 

 マイナス方面の思考が一瞬で白の感情を染め上げ、一昨日の光景をフラッシュバックさせる。

 

『ごめん、そのハナビの気持ちには多分……いや俺は答えることが出来ない』

 

 悟に告白の言葉を受け入れてもらえなかったハナビのその、悲しみに染まった表情。木陰からその横顔を見ていたときに感じた心を抉るようなズキッとした痛み。

 

 もし再不斬に受け入れて貰えなかったとき、自分はあの時のハナビと同じ様に前向きになれるのだろうか、そのような考えが白の心を染める。

 

 ……

 

「僕は、悟君のことをそういう目で見てなんかいないですよ、僕に……意中の人はいません」

 

 白は笑顔を作り、ゆっくりと再不斬の問いに答えた。

 

「そう……か」

 

 白の答えに再不斬は無感情に相槌を打つ。

 

 再不斬の感情を探ろうとする白だが、直ぐに再不斬が別の話題を出すことで雰囲気が流れてしまった。

 

 その瞬間、何かに気がついたのか再不斬は顔を明後日の方向へ向け呟く。

 

「! ちょうど、悟の奴が任務を受けに出かけたようだな……()……()()()()()()()()

 

「……っ! あの件……話が進んでいたんですね」

 

 再不斬は先ほどとは雰囲気の違う様子で白へと言葉をかけ、それに白もその内容をくみ取る。

 

「ああ、ちょうど昨日話に決着をつけておいた。すでにマリエにも話は通してある」

 

「分かりました……本当は桃さんに稽古をつけて貰えないかと身支度を整えていたんですがね、丁度良かったようです」

 

 そう言い白は席を立ち、食堂から立ち去ろうとする。瞬間、再不斬が投擲した物体を白が受け止める。

 

「おっと……これは?」

 

「なんてことはない簡単な握り飯だ……頑張ってこい……」

 

「……はい!」

 

 年相応の明るい笑顔を飾った白はそのまま、自室へと向かい外出の身支度を整えるのであった。

 

 

「俺も甘くなったもんだな……こんな醜態、カカシの野郎に見られでもしたらにやけ顔が目に浮かぶようでムカつくぜ全く」

 

 

 1人、静寂の訪れに再不斬はぼそりと呟く。まんざらでもないと笑顔を浮かべて。

 

~~~~~~

 

 日が出る前の木ノ葉の里を駆ける一つの影。

 

「やっとこさの通常の任務、しっかりとこなしていくかぁ」

 

 ぼそりと独り言を呟く仮面の人物、黙雷悟は音もなく屋根の上を掛ける。

 

(思えば、俺も成長したもんだな……なんて。かつてイタチさんの背に乗って忍者スゲーって興奮してた頃が懐かしい……ってこれはもう何回も思ってるな)

 

 干渉に浸りながら、移動を続ける悟は直ぐにも目的の地点、火影屋敷の任務受付場の入り口までたどり着く。

 

(綱手様の就任式が昨日あって、白とテンテンに色々と折檻したのも昨日。一昨日に里に帰って来たばっかだが、通常業務にこうも早く戻れるとは、綱手様も頑張ってるな~)

 

 呑気に受付場の扉の前で物思いにふけっている悟。その背後に近づく影が1つ。

 

 

 

「……相変わらずの早起きごくろうさん、悟さんよ」

 

「……ん? シカマルか!」

 

 気怠そうな声で悟に語りかけたのは、奈良シカマルであった。悟は少し明るい声でその語りかけに答える。

 

 以前演習をこなした仲の二人だが、その出来事からもお互いそれなりに戦術やチームワークについて語らいあう機会があるようで仲は良好であった。

 

 砕けた態度の悟に苦笑いをするシカマル。

 

「おいおい、これでも俺は()()()……お前の上司見てーなもんだぜ?」

 

 シカマルは自身が来ている、中忍が着ける忍者用ベストをトントンと指さす。

 

「へぇー……だから?」

 

「だからって……たく、やっぱしおめぇーはそういうの(上下関係)気にしねーと思ってたぜ」

 

 余りにも興味無さそうな悟の声にシカマルはそうなるとわかってたと言わんばかりに、苦笑いを浮かべる。

 

「中忍ベスト見せびらかそうが、シカマル自体が強くなったわけじゃあるまいし……第一()()()()()って奴に一番しっくりきてないのシカマルだろう?」

 

「ちぃ……からかいがいのない奴だな……そうだよ、めんどくせーぜ全く。俺はこれから数日中忍として学ぶため、幾つかの小隊の補佐に入って任務だってよ」

 

「露骨に嫌そうな顔するなぁwww……まあ、大変そうで何よりだぜ。頑張ってくれよ中忍殿?」

 

「……任務ジャンキーにはこのめんどくささ、伝わりそうもなさそうだぜ……」

 

 お互い任務受付までの時間を談笑して過ごす中、ふと悟が気配を感じ取り意識を向ける。

 

 その瞬間、音もなく姿を現したのは……

 

「いやー最近の若い子は真面目だねぇ。こんな早朝から任務受付場に来てるなんて」

 

「ああ、カカシ先生すか……どうもっす」

 

「おはようございます、カカシさん。調子は良さそうですね」

 

 はたけカカシであった。ニコニコと笑顔を浮かべるカカシだが、上忍としての任務を昨日受けていたのを悟は小耳にはさんでいたので

 

(昨日のうちに任務を終わらせてきたのか……流石カカシさん)

 

 と関心を抱きつつ、軽口を叩く。

 

退()()()()()()()、随分と忙しそうですね!」

 

「っ!……そうだねぇ、もうちょっと休みが欲しいーなんてね……五代目も人使いが荒いよ全く」

 

 オイオイと泣くような仕草をするカカシと、それを見てけたけた笑う悟。その様子に若干引いているシカマル。

 

「……っさてと、冗談はここまで。悟、お前に用事があるのよ」

 

「俺に用事ですか?」

 

 カカシの言葉に疑問符を浮かべる悟。

 

「まあ、詳細は後で伝えるからついて来てくれ。おっとそう言えばシカマル君、中忍昇格おめでと。アスマともども過労仲間が増えそうでオジサン嬉しいぞ!」

 

 じゃっ! と手を掲げ歩き始めたカカシに、それじゃあなと声をかけてその場を去る悟。

 

 残されたシカマルは1人、苦笑いを浮かべていた。

 

「過労仲間ねぇ……親父もこんな感じでめんどくせー忍びの社会通って来たのかもなって思うと……ほんのちょっとだけ見直すぜ」

 

 

~~~~~~

 

 

 カカシに連れられた悟は、火影の執務室の前まで来ていた。

 

「何でわざわざ綱手様の所まで……?」

 

 疑問を口にした悟にカカシは苦笑しながら答える。

 

「どうやら五代目は執務が苦手なようで、三代目の様に任務受付場での采配をしている余裕はないそうだ。だから重要なAランク以上の任務以外は受付場で、それ以外は直接指示を出すことにしたみたいよ」

 

「ははっ……そうですか」

 

 綱手様らしいな、と失礼と思いながらも軽く笑った悟はカカシが開けた執務室の中の光景を目の当たりにする。

 

 眠気で机に突っ伏しそうになり、肩ひじを突き頭を揺らす綱手。床で資料に埋もれてうつ伏せに寝息を立てているシズネ。

 

「……わお」

 

 その様子に大人って大変だと心底思う悟。悟とカカシの来訪に気づき、綱手は隈の刻まれた目をこすりながらも椅子から立ち上がる。

 

「おお、きたか……おまっ……おまえたち」

 

 呂律が回っていない綱手に流石に心配になる悟だが、綱手は椅子に再度腰かけちらばった資料から、目的のモノを拾い上げ読み上げる。

 

「早速だが……えーとだなぁ、今回お前たち第七班と第零班にはとある人物の護衛兼護送をやってもらう」

 

「ああ、そういう……前振りとかないんですね」

 

「悟、あまりお疲れの五代目の話を遮らないの」

 

 ぼそぼそ喋る緊張感のないカカシと悟の呟きに、こめかみをひくひくさせながらも綱手は業務的に読み上げ続ける。

 

「依頼人からの指定はAランク相当。依頼金は相当奮発しているようでな、カカシ、お前の指名入りだ」

 

「ほぉ……俺指名……ですか?」

 

「ああ、あと三代目が作った零班という制度はこういう訳ありそうなものにくっ着けると良いと()()()に書いてあったから悟、お前もついでに同行させることにした」

 

「ついでって……ん、助言書?」

 

 なんだそれと言いたげな悟に、綱手は何やら分厚い書物を机から持ち上げひらひらと見せつける。

 

「三代目……あんのじじぃが自分に何かあったとき用に後続に対しての幾つか助言を残した書物があってな、把握するのに滅茶苦茶時間がかかったが……ハアっ……まあ、お陰様で有用そうなお前を扱えるんだ、感謝しないとな」

 

 へっとやけくそ気味に笑う綱手に、その書物の把握が大変だったことを容易に想像できた悟は同情の目を向ける。

 

「さて……任務内容を告げる前に悟、その零班に新しい班員を追加させてもらった。そいつの紹介を先に済ませよう」

 

「へぁ!? 新しい班員!?」

 

 憐れみを向けていた悟が驚くのと同時に悟の背後に気配が現れる。

 

「まあ紹介……はお前たちの関係なら必要ないのかもな」

 

 綱手のその言葉を聞きながら振り返った悟は、仮面の下を驚愕の色で染めた。

 

 

 

 

 

「本日付けで第零班配属となりました。名を……白と申します」

 

 

 

 

 木ノ葉の額当てを、額に身に着けたその人物はその整った顔立ちから繰り出される営業スマイルを悟に向ける。

 

「よろしくお願いしますね? 悟先輩♪」

 

「な……でっ……い……を?!」

 

 言葉にならない疑問の感情を口から漏らす悟に、これは驚いたとカカシが片目をぱちくりさせて綱手に目線を向ける。

 

「お前たちの事情は、大方把握している。三代目が()()()()()()()と交渉をしていたみたいでねぇ。まあ、アレ(鬼人)と違って名はそこまで知れていないようだしその子だけなら忍びとして運用してもまあ……多分問題ないと私が判断した。……ん、なんだぁ? 火影の決定に文句でもあるのか?」

 

 助言書をトントンと指で叩いて説明する綱手に悟は再度目線を白に戻して、事情を話してくれと懇願するように目を向ける。

 

「まあ、何といえばいいのか……僕が施設では大した手伝いが出来ていないことに不安を感じていて、そのことをマリエさんに相談したら……こうなってました、はい」

 

「そこで説明を投げやりにするなよ! それじゃあ何か!? 俺だけ知らされてなかったのか!?」

 

「いえ、ウルシさんにも伝えてないですよ? 一応忍びとして活動するときは僕は『白』ですので、『白雪』としての日常を守るため、顔も君みたいにお面で隠すつもりです」

 

「いや~あの白君が味方になるなんて、心強いな~。ナルト達にもいい刺激になりそうだな~うん!」

 

 まだ早朝にも関わらず、騒がしくなる火影屋敷。その後落ち着きを取り戻した各々は綱手から任務のブリーフィングをしっかりと聞き、任務に取り掛かるための準備を進めることになった。

 

 

~~~~~~

 

 数刻後

 

 木ノ葉の里から離れた位置にあるとある町。そこにある小さな空き地に集まる三人組がいた。

 

「は~あぁ……カカシ先生遅いなぁ」

 

 ピンク色の髪を揺らしながらつまらなそうにそう言う春野サクラはうちはサスケの座る積み重ねてある土管に寄りかかりながら空を見上げる。

 

「いつものことだ……あきらめろ」

 

 サスケももう慣れたと言わんばかりに言葉を吐き俯いていた。

 

 1人地べたに座り込むナルトは空き地から見える()()()()()の看板を見上げて、ブツブツと何か独り言を呟いている。

 

「サスケ君……そういえば怪我の方大丈夫? 何だか一昨日より怪我が増えてるような……」

 

 ナルトの呟きに興味の無いサクラはサスケを気遣う様に声をかける。

 

「ああ……問題ない。アレだ……悟の奴と組手をして少し無茶をしすぎただけだ」

 

「そう? それならいいんだけど……ホントあまり無茶しないでね? 悟の奴とか修行馬鹿だから、加減とか知らなそうだし……」

 

 そんな2人の会話とは別にナルトが呟く。

 

「どこかにいねーかなぁ……()()()みたいなお姫様……あんなお姫様のために闘えるなら忍者も本望だよなぁ」

 

 ナルトの呟きにサスケが鼻で笑い答える。

 

「くだらない……所詮は()()の話だ」

 

()()()()()()()に影響受けすぎよナルト! ガキじゃあるまいし……」

 

 サクラにも呆れられたナルトは「わかってっけどよ~」と項垂れる。

 

 すると

 

 子気味の良い馬の蹄の音が段々と三人の居る場所に近づいていることに気がつく第七班。

 

 そのより音が大きくなった瞬間、空き地の壁を飛び超え白馬がナルト達の前を横切る。

 

 そのまま着地し走りぬける馬の蹄の音が響く中、その馬の背に乗った女性に三人の目が行く。

 

「う、うそ……あれって」

 

「まさか風雲姫かぁ!?」

 

 ナルトとサクラが白馬に跨っていた女性を見た感想を漏らす。彼らが驚きを露わにするのは馬の背に居た女性が先ほど見ていたという映画に出ていた主人公、『風雲姫』と瓜二つの外見をしていたからのようだ。

 

 すると突然白馬が飛び越えた柵が開かれ、音に警戒してその場から離れていたサスケを除いた2人が開いた柵に押しのけられ吹き飛ばされる。

 

「っあれは……」

 

 態勢を整えながらそう呟くサスケ。柵を押し開けなだれ込むように、馬にまたがる甲冑武者が進軍していく。

 

 こけた態勢のサクラナルトは不格好ながらも跳ね起き

 

「「……なろぉおおおおお!!」」

 

 吹き飛ばされたのがしゃくにさわったのか、雄たけびを上げる。2人が立ち上がるとサスケも鼻を鳴らし、同時に第七班は屋根を駆けた。

 

 

~~~~~

 

 

 甲冑武者たちに追われる白馬に跨る長髪の女性。彼女を思い、第七班は甲冑武者たちを次々と叩き伏せていく。

 

「どりゃー覚悟しろぉ!」

 

 ナルトの影分身に群がられ、甲冑武者たちが次々と拘束されていくなかサスケもサクラも拘束の手を緩めず、見失った白馬の女性の行方を気にする。すると

 

「っ!」

 

 一際素早い影が武者たちを縛り上げるサスケに迫る。

 

 接近してきた曲者に気がつきその手刀を捌き、続いて放たれる拳を受け止めたサスケ。

 

「てめぇ……何者だ」

 

 相手の拳を強く握り動きを制限し、鋭い蹴りを放つサスケだが拳の拘束を解きその曲者は素早く後退する。その外見は仮面を被り、外套を羽織っているものであった。

 

「明らかに素人の動きじゃねえ……ナルト、サクラ! こいつら(甲冑武者)とは格が違うぞ!」

 

 サスケの叫びにナルトもサクラも並び立ちクナイを構える。

 

「なぁサクラちゃん、仮面着けてるってことは……悟じゃないのか?」

 

「バカナルト、よく見なさいよ! 同じ無地の仮面だけどアイツのは目出し穴の形が悟のより細いわ!」

 

 ナルトの疑問にサクラが呆れて怒気を孕ませて答える。

 

「……」

 

 仮面の人物が揺らめくように動き出し、そのスピードが加速し始めた瞬間。

 

「こらこら、何やってんのよお前ら」

 

 頭上から不意に声がかかる。近くの建物の屋根から顔を覗かせるようにし声をかけてきたのはカカシであった。

 

「「カカシ先生!?」」

 

「カカシか……」

 

 第七班がそろえてカカシの名前を呼ぶその瞬間にはカカシは地面に降り立つ、その瞬間にはすでに甲冑武者たちの拘束は解かれていた。

 

 その早業により解放された武者たちの1人、眼鏡をかけた男性に手を貸し立ち上がらせるカカシ。

 

「いや~どうもすみません。うちの子たちが早とちりしたみたいで」

 

「「「?」」」

 

 女性を追いかけていた賊のような存在に対して丁寧に振舞うカカシの様子に第七班が疑問符を浮かべる中、仮面の人物も他の武者たちを立ち上がらせながらクスクスと笑い声を響かせながら話し始める。

 

「そそっかしい様子は変わりありませんね皆さん。彼らは君たちと僕たちの依頼人ですよ?」

 

 ちらっと仮面をずらして覗かせたその顔に第七班の三人は驚きを露わにする。

 

「あああああ!? お前ってば白っ……じゃなくて白雪ぃ……っでいいのか……? てかあれ、なんでお前がこんとこでそんな格好してぇ!?」

 

 あれよあれよと未知の情報が舞い込み混乱するナルトをよそに、説明を求めると言わんばかりの目を向けるサスケらにカカシが苦笑いしながら事情を説明し始める。

 

「白君も……何となくこいつらが事情を分かってないって気づいてたでしょ全く……ま、いいか。お前らに先に映画を見るように言っておいたでしょ? んで、見たと思うけどさっきの逃げてった女性、彼女はその映画の風雲姫を演じる女優の富士風雪絵(ふじかぜゆきえ)さんだ。それで今回こちらの眼鏡をかけた男性の浅間三太夫(あさまさんだゆう)さんの依頼で彼女の護衛をするのが俺たちの任務ってわけよ」

 

 カカシの説明に、未だ納得のいかない様子のサクラが疑問を口にする。

 

「えっとじゃあ、この如何にも悪役みたいな甲冑の人たちは?」

 

「映画のスタント兼用心棒の皆さんですよ」

 

 仮面の奥から朗らかな声を響かせながらサクラの疑問に答える白。

 

「まぎわらしい恰好を……それで何でお前が此処にいる」

 

 その白の存在に疑問をぶつけるサスケに、カカシが答える。

 

「綱手様の命令という形で白君は零班の所属になったわけで……つまりは今回第零班との共同任務ってことでもあるから~」

 

「あ、ついでに言えば忍びの僕は『白』と呼んでくださいね。七班の皆さん?」

 

 白の補足に乾いた笑いを浮かべるサクラ。

 

「零班か……つまり……」

 

 サスケのその呟きにカカシが「ご明察」とニコッとして答えた。

 

 

~~~~~~

 

 

 小川で白馬が水を飲み、傍らで座り込んで休憩する女性が1人。

 

 長髪の黒髪を垂らし、その蒼い瞳を伏せながら暗い表情を地面に向けるその女性はため息を大きくつく。

 

 うつむく彼女にふと影がかかる。

 

「お怪我はありませんか、風雲姫?」

 

 急にそう語りかけられたその女性は目を見開き、声の方に振り向く。

 

 その方向には、膝を突き頭を垂れる仮面の忍びの姿があった。如何にも芝居がかった声色と仕草が目に付く。

 

「……なーんて、芝居はかじった程なんですがね。プロの目から見て今のは何点でしょうか?」

 

 その仮面の人物、黙雷悟はタハハとお道化て、その女性富士風雪絵に声をかける。

 

「……」

 

 少しの沈黙の後、雪絵は黙って立ち上がり白馬に跨り颯爽と駆けだす。

 

 しばらく馬が駆けたのち、雪絵が後ろを振り返るもその目線の先には誰もいない。

 

 「……ふん」と鼻をは鳴らした雪絵が目線を前に向けると、馬の進行方向に突然人影が現れる。咄嗟に手綱を引き馬を停める雪絵だが、その衝撃で馬の背から振り落とされた。

 

 地面との衝突の衝撃を覚悟し目を瞑る雪絵だが、瞬間誰かに抱きかかえられ痛みが体を襲うことはなかった。

 

「ハハハ、忍を舐めないでください。撒いた……とでも思いました?」

 

「あなた……っ」

 

 地面との衝突を抱きかかえ回避したのは仮面の人物である悟であり、さきほど馬の前に現れたのも悟であった。影分身を解いた悟は雪絵をゆっくりと立たせる。

 

「もう、あまり無茶しないでください。私はあなたの護衛としてぇ……え~……っ話してる最中に走って逃げる奴がいるかよ……全く」

 

 悟が語りかけるころには既にその場から走り出して逃げ出そうとする雪絵に対して、ため息をつく悟。するとその先で雪絵が子どもたちに囲まれ始めていた。

 

「ちょっとあなた達……どいてっ……!」

 

 どうやら雪絵は子どもたちにサインをせがまれ行き先を塞がれている様子であった。悟は(流石女優……前世と同じで人気な職業なのかな?)なんて思いながらゆっくりと歩みを進める。

 

 すると

 

「いい加減にして!!!」

 

 雪絵の声が轟く。流石女優というべき通りの良い声が、子どもたちや周囲で見守っていた一般人たちのガヤを消し去り辺りを一瞬静寂が占める。

 

「サインなんて……下らない、ゴミに成り下がる何の役にも立たないものなんて欲しがって……バカみたい……っ!」

 

 そう捨て台詞の様に吐いた雪絵は子どもたちを押しのけその場から走り去る。

 

「……」

 

 その様子に周囲の人間は反感を示していた。ただ一人悟だけは、少しだけ憐れむような眼で彼女を見つめ、その場から姿を消した。

 

 

~~~~~~

 

 

 一方映画の撮影所に集まった、第七班と白と関係者たち。

 

 

「海外ロケ……()()()でやるんですね!」

 

 映画の内容について知れたことか、はたまたお気に入りのミッチーとかいう俳優に会えたことでか1人鼻息を荒くしたサクラが雪の国の名を口にする。

 

「そっ! 俺は昔その国での任務に就いたことがあるんだが……そこはかとなく白君とも因縁がありそうな国での任務だね」

 

 カカシは昔を懐かしむかのように顎に手を当てながら白に語りかける。

 

「……どうでしょうか。地名としては前から知ってはいましたが、僕の……『雪一族』と何かしら縁があるのかどうかは良くは知りません。母は何も語っていなかったので……」

 

「あそこの雪忍は君と同じ氷遁を使っていたが……まあ、そんな昔話は今はいいか」

 

 そう言うとカカシは此度の任務地についての情報をまとめる。

 

 映画撮影のために雪の国へと海外ロケへと向かうスタッフたちと女優、富士風雪絵を護衛・護送を任務とすること。

 

 雪の国はかつては貧しくとも科学技術に長けていたが、その化学力の向上に陶酔したかつての殿様が散財を繰り貸したことで国自体の運営が疎かになっているとか。

 

 歳を召した映画の監督である白髪にサングラスをかけた男性、マキノは呟く。

 

「どんな場所……状況だろうと、カメラさえ向けりゃあ、雪絵は女優としての演技を完ぺきにこなす。そんな女優としての誇りを持ったあいつが、こんなにも逃げ回るっつーことは何かしら深い理由があるのかねぇ……まあ、ワシは役者の私生活などには興味はありゃせんがな」

 

 その言葉を受け、今回の依頼人兼雪絵のマネージャーの浅間三太夫は額に汗を浮かべながらも無言でその場に佇んでいた。

 

 

~~~~~~

 

 時は経ち夜、闇が深くなる時刻。

 

 町の隅っこにあるこじゃれたバーで雪絵は酒を飲み独り愚痴を吐いていた。流れるムードのいい曲や店の雰囲気にそぐわずべろんべろんに酔っている雪絵。

 

「冗談じゃない……誰が雪の国なんかに……」

 

 そう言いながら首から下げた水晶の飾りを懐かしむのか、憎しみを持っているかのような複雑な表情で眺める彼女。

 

「撮影があるんでしょう? 酒を飲み過ぎて大丈夫ですか?」

 

 気配もなく、ふっと現れ話しかけてくる悟に目を見開き少しだけ驚きを示す雪絵だが直ぐに顔は「不機嫌だ、不愉快だ」という感情に染まる。

 

「うるっさいわね~……アンタマネージャーでもないくせにシツコイのよ……」

 

「……まあ確かに、私はマネージャーでもないしシツコイとも思いますけど……一応護衛なのでね……それとは関係なしに役者としてあれはどうかと思いますよ? 昼頃の対応」

 

「……はあ? 何? 私にケチつけるの?」

 

「ええつけます、ケチ」

 

 じっと目線を合わせた両者の間に沈黙が流れる。

 

「……俺の知っている俳優や役者ってのはもっと、夢を……皆に希望を与える職業なんです。貴方だって風雲姫を演じているとき、そうやって見てくれている人たちのこt

 

「アッハッハッハ!! ……夢ぇ? ……希望? バッカみたい……女優なんて人を薄っぺらい言葉で騙す最っ低な人間がする最っ低な仕事に夢見てんじゃないわよ……結局は脚本家の書いた嘘ばっかりの線路の上をなぞるだけの……ただの傀儡よ、くだらない」

 

「……相当酔っていますね、貴方」

 

「ふん……そういえばアンタ芝居をちょっとカジッたって言ってたけど……てんで駄目ね。あんな短い演技でボロが出るくらいしか演技について知らないからそんなバカげたことを……」

 

 その言葉を受けた悟の仮面の奥の目がバーの明かりで揺らいだ瞬間。

 

 バーの扉が勢いよく開く音が響いた。

 

「雪絵様~~!」

 

 マネージャーの三太夫が雪絵の名を呼びながら、姿を現す。

 

 一瞬三太夫に目を向ける雪絵だが、知ったことかと構わず酒をのみ続ける。

 

 三太夫は息を切らしながらも口を開く。

 

「ゆ、雪の国行の船がもうじき出港します……! さあ、急ぎませんと」

 

「もう、いいの」

 

「……え?」

 

 三太夫と雪絵の2人のやり取りを見ていた悟は、第七班と白も続いて来ていたことに気がつきアイコンタクトで挨拶を済ませる。

 

「風雲姫は降りるわ……」

 

 その雪絵の言葉に、三太夫とサクラ、ナルトの3人が驚きを露わにする。

 

「そんなぁ!?」「何を言っているのですか、雪絵様!?」「何言ってんだ姉ちゃん!?」

 

 酔いにふらつき、浮ついた仕草でおちょこ片手に雪絵は語る。

 

「いいじゃないの、良くあることよぉ。ほら、続編で主演俳優が変わったり監督が変わったr

 

「だまらっしゃい!!!」

 

 突然の三太夫の叱咤にナルトが、条件反射で背筋を伸ばす。普段からの悪戯で叱られているための反射なのだろう。

 

「雪絵様意外に、風雲姫を演じられる俳優などおりませぬっ!」

 

 雪絵は、目線を三太夫から逸らす。その雪絵の様子を悟は無言で見守っている。

 

「……もう……いいじゃない……何もかも……」

 

 消え入りそうな雪絵の言葉。

 

「仕方ないですねぇ……」

 

 真面目な雰囲気のカカシの言葉に、不穏な空気を感じ取った雪絵が振り向くと……

 

 カカシの左目が朱くグルリと回転する様子を見てしまい、雪絵は意識を手放した。

 

「……催眠眼ですか、強引ですねカカシさん」

 

「仕方ないだろう。俺たちの任務は、()()()()()()()

 

 意識を失くし倒れる雪絵を支えた悟は、何とも言えない目をして雪絵を背負う。

 

「どうしたんですか悟君。君らしいと言えばそうですが、感情をそんなに表に出して」

 

「君らしいってなぁ……白。仮面付けてるのに俺ってそんなに分かりやすい?」

 

 白の言葉を受け、周囲に質問を投げかける悟。三太夫とナルトを除いた全員が頷く。

 

「仮面着けてようがなかろうが、昔からお前は分かりやすい性格だ」

 

 サスケの言葉にガックシと頭を垂れる悟。

 

「ほらほら、おしゃべりしてないでさっさと移動するぞお前ら。船が出港する」

 

 カカシが柏手で合図し、移動を促す。

 

 三太夫がすみませんと頭を下げながら、一行はそのバーを後にした。

 

 

 そのバーでの様子を見ていた身なりの悪そうな男は、一行が姿を消したのちに闇へと溶けていった。

 

 

~~~~~~

 

 雪の国某所。

 

「斥候から情報が入りました」

 

「……その情報は確かか?」

 

「はい、女優富士風雪絵が風花小雪(かざはなこゆき)であることに間違いはないようです」

 

 大柄の男性と、白い装束を纏った3人の忍びが会話を交わす。

 

「この10年……探りを入れ、探し続けた成果が出ましたね」

 

「……小娘1人、楽勝だぜ」

 

 その忍びの内、女性の忍びは成果を喜び、大柄な忍びは此度の行く末を軽んじる。

 

 長身の忍びは続けて口を開く。

 

「小雪には、あのはたけかかしが護衛についているそうだ」

 

「……因縁の対決ね」

 

 女性の忍びの言葉に長身の忍びは小さく余裕の笑みを浮かべた。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

ちちうえ~?

 

 

 どこなの~

 

 

 

 小雪か……こっちに来て御覧……そこで何が見える?

 

 

 

父上と私……

 

 

もっとほら、よーく見てごらん、未来が……み……え……て……

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

 

「ちち……う……ううん?」

 

 

 目を開けて揺れる視界に戸惑いながら、雪絵は身体を起こす。

 

 

「っ……うえ……はあっ……はあぁ……っ」

 

 頭痛を抑えるため眉間をつまむ雪絵の起き上がる仕草の音に気がついたのか、部屋の外から三太夫の声が聞こえた。

 

「お目覚めですか雪絵様?」

 

「三太夫……おみず……頭がくらくらする……」

 

 雪絵がそう呟くとすっと視界の隅から水の入ったコップが差し出される。

 

「ありが……うわああっ!?」

 

 コップを差し出したのは、細い目出し穴がある仮面を着けた人物であった。その唐突なビジュアルの不気味さに雪絵は大きく驚き、転げまわるように部屋の出口まで移動してその扉を開けた。

 

「三太夫!!! 変な奴が……って…………何なのよこれ!!!!!」

 

 扉を開けた雪絵が見た景色は……見渡す限りに大海原であった。

 

「雪絵様、落ち着いて……」

 

 扉の脇に他っていた三太夫が、雪絵に声をかけるが落ち込む雪絵は視線を落とす。それでも自分の身体が感じる揺れに雪絵は現実を思い知らされる。

 

『自分が船の上にいる』という現実を。

 

 その船は大きな木造のモノであり、広い甲板では映画のスタッフ達が忙しそうに駆け回っている様子が見られる。

 

 ちらりと、離れた位置で談笑している第七班と悟の存在を確認した雪絵が背後の部屋の中に目を向ければ

 

「2日酔いではあまり激しく動かない方が身のためですよ。はい、お水です」

 

 仮面の人物・白が、先ほどと同じように水を差しだしていた。

 

「はは……ハアっ」

 

 大海原の波の音が雪絵の乾いた笑いとため息をかき消した。

 

 

 

 

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