一行は、複数の雪の国仕様の雪上車に乗り込み道を行く。雪上車の中で共に待機している零班の2人は暖房の効いている車内で雑談をしていた。
「しっかし……雪の国の技術って凄いな、こんな車まであるなんて……(というかこんなガソリンで動く車まであるなんて、前世の化学力とそう大差ないように感じるなぁ)」
「そうですね、五大国では今はまだ馬車を使うのが基本ですから、こういった乗り物は珍しいですね。桃さんや、マリエさんへの良い土産話になりそうです」
仮面を着けた二人の会話に、運転手が言葉を掛ける。
「忍びのお方、この先の洞窟の前で小便休憩だそうで、一旦止まりますね」
そう言う理由で、車の列は止まり大きな洞窟に入る直前で休憩がとられる。
白は車内に残るため、悟は1人車外へと出る。雪が降る雪山の中、火の国との景色の違いにしんみりしながら悟は、別の車から出てきたナルトや映画スタッフたちとツレションをする。
そんな光景を眺めながら、カカシは三太夫が船で話したこの先のプランを反芻していた。
(この大洞窟の先に三太夫さん達、ドトウに反する雪の民たちの集落がある。洞窟を抜けた先での撮影後に落ち合う手はず、か……10年前、俺一人で小雪さんを連れてひたすら逃げるしかなかった時を思えば、随分と心強い。それに……今の俺には優秀な部下たちがいる)
昔を思いながら、悟に小便を引っ掻け叩かれているナルトを見るカカシは笑みを浮かべていた。
~~~~~~
洞窟の中を行く一行。出口が中々見えないことにナルトが少し不満を述べると、同じ車内にいた三太夫は洞窟についての話を始める。
「かつてはこの洞窟には、鉄道が走っていたのですよ。この長い洞窟も鉄道に乗ればすぐに通り抜けることが出来ました」
「鉄道……?」
「ええ、今はツララが伸び放題で管理もされていませんが10年前までは様々な資源を運ぶために蒸気機関で動く巨大な荷車が在ったと思って貰って構いません」
鉄道という存在に馴染みがない木ノ葉の忍び達は物珍しい三太夫の話に耳を傾ける。
彼らの車より後方にいる悟もまた、車窓から顔を出し地面へ視線を落として鉄道の線路の存在を認識していた。
「地面の氷の下に線路が見える……つまり、鉄道も在ったってことなのか、雪の国は」
「鉄道……ですか? 聞いたことのないの言葉ですね」
「馬のいらない馬車みたいなもんだよ。それが高速で移動して人や物を運ぶんだ」
「へぇ~……つまり僕たちの乗るこの車より規模の大きい物の専用の道だったってことですね。雪の国の技術力の高さがうかがい知れます」
悟と白の会話が途切れるころには、長い洞窟を抜け車列は外へとでる。
予定通り、その少し開けた場所での撮影を開始するべくマキノ監督が声を張り上げる。
「よぉーし!! 撮影を始めるぞぉ!」
が、しかし
「か、監督~雪絵がまた逃げました~~!!」
助監督が車から降りたマキノ監督にそう言いながら走り寄る。
「ナニぃ!?」
驚くその監督の様子を見た悟が、急いで小雪の乗っていた車内に目を通す。そこには撮影用のカツラやマネキンで作られた小雪の『変わり身』が置いてあり頬を引くつかせる。
「あんの女優……忍者かよ」
そう苦言を口にしながら、悟たち忍びは逃げ出した小雪を探すためにその場から散り散りに分かれて捜索を始めた。
~~~~~~
雪が降り積もる林の中を、息を切らしながらも小雪はひたすら走り続ける。何かから逃げるように……
(冗談じゃない……冗談じゃないわよ……っ!!)
深い積雪は小雪の進行を妨げ、体力が落ちた彼女は足をもつれさせ坂を転がり落ちてしまった。
「っあ!?」
数か所体を打ち付けながら、うつ伏せに雪の上に倒れ伏した小雪は辛い現実から目を背けるように、その瞼を閉じる。
『よーく見てごらん、未来が見えてくるから』
『何も見ないよ?』
『大丈夫。そう、春に成ったら見えるさ』
『父上、春ってなに?』
「父上の……嘘つき、この国に春なんてないじゃない……」
昔の父とのやり取りを思い出しながら泣きそうな声でそう呟く小雪。そこに雪を踏みしめる音が近づく。
「見つけましたよ、全く……別に逃げたい気持ちもわかりますけど、それは貴方の本心じゃないですよね?」
仮面を着けた、外套も羽織っていない忍び、黙雷悟は言葉を掛けながら小雪に近づく。
「アンタに何がわかるのよ……」
悟に支えられながら立ち上がる小雪は悟の言葉に疑問を投げかける。そんな小雪が打ち身で動けないことを察した悟はそのまま、小雪を背負い歩みを進める。
「あの時……バーで酒をあおっている貴方の瞳は、昔を懐かしんで……それでいてその頃に戻りたいって感じの表情をしているように……感じました。小雪さん、貴方も本当はこの雪の国が好きで……」
その悟の言葉に背負われた小雪は、肩に置いた手に力を籠めることで意思を示した。
「……。 確かに三太夫さんのやり方は強引でしたけど、貴方も本気でこの国の思い出を捨てられなかったんでしょ? 未練があったから、だからその、思い出の首飾りの水晶を持ち続けているんじゃないんですか?」
雪を踏みしめる音と悟の言葉だけが、雪降る林に吸い込まれていく。
順路を戻るために、先刻車で抜けた洞窟まで戻ってきた悟は、小雪を背負い洞窟の中へと歩みを進める。
「……」
長い間、沈黙を貫く小雪を背に悟は小雪の思いに同調する。
既に戻るすべのない自分の『前世』。自分とは違い、背に乗る人物は帰りたい場所がまだあるのだから。
(俺は……何としてもこの人の……この国を取り戻したい、ってそう思ってしまう。それは俺自身と小雪さんを重ねて……)
「どうして……? どうしてアンタは私に付きまとうのよ?」
ふと口を開く小雪に悟は、自分の世界から引き戻され返答をする。
「そう依頼された忍びだから……と言っても味気ないですね。……ただそう、夢を諦めるのは辛いことです。だから俺は、夢を諦めようと、目を背けようとする貴方が気になってしまうのかもしれないですね」
「そんなのアンタに関係ないじゃない……」
「関係はないかもしれないですが、俺が只ほっとけないだけですよ。一度夢が潰えた俺だから、誰かの夢を守ろうともがきたいだけ……それだけです」
「アンタ…………別に私は戻っても、カメラの前で演技をするだけ。 ……他の事はなにもしないわ」
「……別にそれでいいんですよ。
洞窟を歩く悟は、奇妙な音を耳にして足を止める。その音は悟に既視感を覚えさせ、音の鳴る後方を向いた悟はまた別の異変に気がつく。
氷の下の線路がチャクラが流れることで、氷を溶かし表面へと表れていた。
嫌な予感をひしひしと感じた悟は、同じく疑問符を浮かべていた小雪を背負い直し、突然勢いよく走り始める。
「わっ……ちょっと!!?? 急に何よ!?」
「ハッ……ハッ……ッ! いや多分これっ!!」
急に走り始めた悟に、背を叩き文句を言う小雪。悟は走りながら後方を見る。
後方の緩やかな曲がり角を、明るいライトが照らし出し何か轟音を鳴らすものが近づいてきているのが嫌でもわかる影が映る。
そしてその特徴的な、汽笛の音が鳴り響き……
「汽車ぁ!?」
小雪が背の上で後ろを振り向きながらそう叫ぶ。
「だぁぁぁあああ、うっそだろおおお!?!?!?」
全速力で迫りくるその汽車に対して、横に逃げる幅のないことを確認した悟は只管に足の回転を速める。
汽車は洞窟内のツララや壁面の氷を砕きながら、スピードをさらに上げていく。
その汽車のスピードは凄まじく、段々と悟たちをひき殺さんと迫る。
「追いつかれるわっ!!」
小雪の悲観にくれたその諦めの言葉に悟は反発する。
「そんな、こと、ないっ!!」
「無理よ!! こんなの!!」
「無理じゃないっ!! 舌噛むんで黙っててっ!!」
前世でも体験したことのない蒸気機関車の目の前を走り続けるという、危機的状況に滑る氷面をチャクラで吸着させつつ、焦りながらも足の回転をさらに速くする悟。
すぐ後方で轟音を鳴らす汽車を一瞬睨みつけた悟は、走りながらも無理矢理背の小雪を体の前で抱えるように抱き直す。
「きゃっ!?」
「小雪さんすみません、ちょっとの間我慢してください!! 第四・傷門……開!!」
傷門を開いた悟は一気にスピードを上げ、汽車との距離を少しづつ離し洞窟を走り抜ける。
洞窟を抜けた先で脇道に逸れた悟たちを、後方から迫ってきた汽車は追い抜きその全貌を明らかにした。
「ふう……生きた心地がしない……何だよアレ……って小雪さん大丈夫ですか!?」
「……おっぷ……は、吐きそう……かも」
八門のスピードに酔った小雪を降ろし、背を撫でる悟は通り過ぎた汽車の後方が全て同じ形状で、何か機械染みた仕掛けを思わせる外見であることに仮面の下の眉をひそめる。
すると
「久しぶりだなぁ、小雪」
拡声器を使用したような男性の声が、汽車からその場に広がり辺りを囲む山々に反響する。悟は先ほどまでこの場に居た映画のスタッフたちが姿を消していることに気がつきながらもその汽車へと注意を向ける。
その響く声に聞き覚えがある小雪は目を見開き、その名を憎らし気に口にする。
「風花……ドトウ……っ!」
先頭の汽車の上に、雪忍の狼牙ナダレを引き連れ姿を現したその男、風花ドトウは拡声器使い嬉しそうに言葉を繋げる。
「10年ぶりかぁ……さぁあ、もっと顔を良く見せておくれ」
風花早雪の弟、風花ドトウは兄の娘である小雪に対して叔父としての言葉を投げかける。しかしその言葉は先ほどまで彼女らをひき殺そうとしていた者の言葉と思えば、悟は小雪とドトウの間に割りこんで立ち、その邪悪な笑みを浮かべるドトウに睨みを効かせる。
その瞬間、雪山のほうから音を響かせ数多の丸太が滑り落ちてきた。
ドトウやナダレ、悟がそれに気がつけば、その丸太群は列車の車列にぶつかり小さくはない被害を与える。
丸太が滑り落ちてきた元には、鎧を着こんだ幾多の者たちが居た。
「あれは……!?」
悟の呟きに答えるように、その者らの中から名乗りを上げる男が1人。
「皆の者!! 我らが小雪姫様が見ておられる!! 勝利の女神は我らにありじゃあ!!」
その男、三太夫の言葉に雄たけびを上げる群勢が次々と姿を現す。
「……三太夫」
「三太夫さんが言ってた、雪の民たちか……?」
その様子を見ていた小雪は呟き、悟はそのもの達の存在を確認したのちにすぐさま嫌な予感を感じ取る。
「風花ドトウ、この日が来るのをどれほど待ったことか……この浅間三太夫以下50名、亡きご主君風花早雪様の仇、責任の恨み今こそ晴らしてくれよぅぞぉ!!」
その様子を眺めるドトウは余裕を見せながら呟く。
「まだこんな連中が残っていたのか」
「申し訳ございません。直ぐに片付けて参ります」
ナダレが動き出そうとするのを制止しドトウは笑みを浮かべる。
「ああいった連中には完全な絶望というものを味合わせなければならない……!」
ドトウの手の合図を遠目から確認した悟は、嫌な予感が現実になると確信し素早く印を構える。
(小雪さんから離れるわけには行かない……ならっ!)
影分身を出来るだけ出し、それらを列車に襲い掛かろうとする三太夫らとの間に割り込ませる悟。
ドトウの合図を受け、列車の数ある車両の機械仕掛けが全て開きその瞬間
その機械からはまるで雨のように数千もののクナイが射出され始め、三太夫ら雪の民に襲い掛かる。
機械仕掛けのクナイ射出装置や、雪忍が手回しで動かすガトリング砲のように手裏剣を放つ機械らの猛攻が三太夫らに迫る中
悟の影分身らが、一斉に術を発動する。
「「「「「土遁・土流壁」」」」」
雪の下から勢いよく湧き出る土の壁に、それらの忍具が弾かれる。
「悟殿!?」
三太夫が驚きを露わにした様子に土壁がクナイを弾く音にかき消されないよう、悟は振り向かずに声を張り上げる。
「何やっているんですか三太夫さん!? 相手の戦力を計る前にこんな場当たり的なことして、アンタバカ!!」
「す、すみませぬ……」
悟の影分身の一人の怒号に怯む三太夫。しかし彼らを容赦なく叩き伏せるため、再度のドトウの合図で射出されるクナイが起爆札が着いたものに変わり
幾多もの爆発が土の壁を砕き始た。
「しまっ……っ!!」
その爆発は土流壁を優に飲み込み、悟の影分身諸共、三太夫らを爆発の海へと沈める。
「クッククククっ……アッハッハッハぁ!!!」
その蹂躙される光景を高笑いで眺めるドトウ。
爆炎に包まれたその光景を小雪と、本体の悟はただ眺めることしかできずにいた。
忍具の雨が止んで、爆炎による煙が寒風により晴れた頃には地面へと倒れ伏す雪の民たちが転がっていた。
しかしそれでも、彼らの中にはまばらに息をする者たちがおり、血を流しながらもその中から三太夫は立ち上がる。
「フフッ……やれ」
壁となった悟の影分身は全て消え失せ、それでも立ち上がった三太夫1人へとドトウの指示で最後のクナイの波が無情にも発射された。
「三太……っ!」」
小雪が名を呼ぶ声が届くその前にクナイが三太夫へと迫り……
キンッ
金属音が響く。
三太夫の目の前には白がクナイを両手で構えて姿を現しており、クナイを弾き落としたのを物語っていた。白の背に立つ三太夫はそのまま力尽きたかのように膝から崩れ落ちる。
その瞬間、再度追い打ちのクナイを放とうとする車列が爆発を起こす。
「何!?」
ナダレの驚きの声。その爆発は雪に隠れ忍んだサスケが放った起爆札付きクナイが引き起こしたものであった。
車列に乗る雪忍たちはいつの間にか現れたナルトの影分身らの海に手を煩わされ、動きが鈍っているうちに雪山の上方で別の爆発が起きる。
その爆発はサクラが起こしたものであった。爆破で生じた雪崩が汽車らを飲み込むことを予見して、急発進をする汽車はその先の線路を乗せた橋が爆発を起こし崩れ去ることで谷へと落下していく。
先頭のドトウやナダレを乗せた汽車だけが何を逃れ線路の先へと走り去り、他の車列が一瞬でスクラップとなったその光景を最後に現場には一瞬の静けさが訪れた。
その静けさを幾人もの呻き声が占め出したころに悟と小雪は、雪の民たちの元へと走り寄っていた。
脅威が去ったことを確認できた、隠れ忍んでいた映画スタッフたちはまだ息のある雪の民たちの治療と避難に走る。
「三太夫さん!!」
悟は急ぎ、三太夫に駆け寄り掌仙術による治療を試みる。
(かなりの傷だ……っ!)
ヒューヒューッと息をする三太夫に、小雪も歩み寄って近くに座り込む。
「白、他の人の避難を頼む!」
「ええ、わかりました」
悟の言葉を受け白はそのまま、映画スタッフたちと共にまだ息のある雪の民らを林に隠していた雪上車へと運び始める。
必死に治療を続ける悟に小雪は語り始める。
「これが……これが諦めなかった結果よ。ドトウに逆らわなければこんな目には……っ!」
必死に、自分に言い聞かせるようにそう呟く小雪に悟は、
「確かに感情に煽られての突撃なんてバカだっ! だけど、それが夢を諦める理由にはなりません!」
そう三太夫の傷から目をそらさずに答える。
「誰だって夢のためにもがき苦しむ、こうやって命をかけることが正しいとも言いませんけど、それでもそれほどまでに三太夫さんは明日の平和を夢見ていたんだ!!」
その悟の声に反応するかのように三太夫が目を覚ます。
「ひ、姫様……申し訳ぇ……ありません。こんなことに巻き込んで……ゴホッ……しまって」
その様子に小雪は三太夫の目を黙って見つめる。
「ここにいる者たちは……姫様が生きておられるから……諦めず……に居られました……姫様……どうか、ご自分を信じて……くだされ」
「なによ……それ……勝手なことを言わないで……」
「どうか姫様……泣か……ない……で」
そう消え入る声量の言葉を最後に三太夫は意識を失くす。
三太夫の手を強く握る小雪。
「小雪さん……大丈夫です、三太夫さんは何とか一命を取り留めています」
「ホント……馬鹿よ、三太夫。目薬は……貴方が持っているじゃない。私一人じゃ……泣けないわよ」
悟の言葉を聞きつつも、小雪は三太夫の腰にぶら下がっていた、脇差しと目薬入れを手に取り自分の胸に押し付ける。
「もう終わりにしましょう、悟」
「……何をですか?」
「もう……火の国に帰りましょう、これ以上此処にいても命を無駄にするだけよ」
そういって立ち上がる雪絵。
「……貴方が帰るのは火の国じゃない。ここ、雪の国でしょ!」
背を向ける雪絵に悟は言葉を投げかける。
「貴方なら変えられるはずだ! この国を!!」
「無茶言わないでそんな事……!!」
この場から逃げ去ろうとする小雪の手を走り寄る掴む悟。
その瞬間
飛行船が列車が落ちた谷底から姿を突然現す。
「なっ!?」
悟はそんな光景に驚き声を上げる。
その飛行船の機体は先ほど、逃げ去ったドトウらを乗せた列車のものであり、それを気球で浮かせているのであった。
機体から姿を見せたミゾレがチャクラの鎧内臓の左腕の機械のアームを小雪目掛けて射出する。
「んなことさせるかよォ!」
小雪の手を引き、悟が前に出てアームを蹴り返す。直後チャクラの鎧につけられた翼で飛行船の周りを飛ぶフブキが特殊な球を括り付けたクナイを投擲する。
「あれは……!!」
遠巻きにそれ見ていたカカシが、即座に影分身を数体だし現場に残るスタッフたちや三太夫ら雪の民を抱えて飛び退く。
フブキのクナイが雪面に刺さると、そこから氷の茨が瞬時に生えわたり、近くに寄せていた雪上車を氷の棘が貫き破壊する。
火遁チャクラモードで氷の棘を砕き、退ける悟だが急に奇妙な悪寒を感じ取る。そして避難を済ませていた白の方へと振り返る。
その悪寒は雪の国に入った時にも感じた違和感を強烈にしたものであり、白もまたそれを感じ取り仮面の下で冷や汗を流す。
そんな2人の目線があった瞬間
「貴様ら木ノ葉の忍びも存外良くやるようだ……ならば出し惜しみなく、貴様らに我ら雪の国の最終兵器を見せてやろう」
ドトウの拡声器を通した声が響いく。その言葉に続き上空を暗い雪雲が覆い吹雪が吹き荒れ始める。
「クッ……何が……っ!?」
吹雪の中小雪を背の方に隠し、腕で視界を保とうとする悟は得体の知れないチャクラの塊が上空から接近するのを感じ取る。
そして、吹雪が止むのと同時に『それ』が姿を現す。
そこには札が幾重にも張られた巨大な鉱石が上空に浮かんでいた。
それを取り囲むように、人間の胴体がスッポリと収まるような機械仕掛けのリングが6つ、鉱石の周囲を回転している。
「なんだ……あれはっ!?」
サスケが物体を見た疑問を口にした瞬間、鉱石から目に見える程の莫大なチャクラがあふれだし、リングが地面の四方に別れ設置される。
鉱石からあふれるチャクラが、6つのリングに吸われるように動きを見せ形を成していく。
やがてチャクラは半透明ながら巨大な獣の姿を形作っていることがわかるほど、その存在を確かなものとした。
「あ……ああ……っ」
そのチャクラ量と、巨大な獣の姿に恐怖を感じ取り身動きが取れなくなるサクラ。
6つのリングの内4つはその獣の四肢を縛る腕輪となり、残りの2つは首輪となる。獣は
その獣の顕現した姿に誇らしげなドトウの声が響く。
「お見せしよう諸君。これこそが我が雪の国が持つ忍び五大国の尾獣にも匹敵する戦力、究極の兵器。その名は
人工尾獣・双頭狼
「WOOOOOOoooooo!!!!!」
雪羅と呼ばれたそのチャクラの獣の咆哮を合図に、周囲を再度猛烈な吹雪が覆う。
そして雪羅の2つの口がチャクラを溜め始め……
「全員逃げろォ!!」
咄嗟のカカシのその言葉の直後、辺りを破壊するチャクラ弾が雪羅から連続で射出され始める。
……そのまま爆炎と、衝撃が辺りを埋め尽くした。
雪羅がチャクラ弾を打ち終わり煙が晴れれば、辺りの雪ははじけ飛び、抉られた山の表面が露わとなった。
地形を変えるかのような怒涛の攻撃に木ノ葉の小隊は多大なダメージを受けていた。
「はぁ……はあ……っさ、サスケ君……?」
「くっ……無事か、サクラ……っ」
震えて足が動かなかったサクラを抱えて岩陰に逃れたサスケだが、2人とも爆発に吹き飛ばされ怪我を負ってしまった。
ナルトはカカシが庇ったが、2人とも爆発の余波で壁に叩きつけられ小さくはないダメージを負った。
唯一近くの小雪を庇おうとした悟と白は直接はチャクラ弾に狙われずに済んだものの
「生きてるか……っ白」
「ええ……なんとか……っ」
2人で展開していた土遁と氷遁のドームは衝撃を受けきれずに、ボロボロに朽ち果てていた。守られていた小雪もその衝撃の強さに意識がもうろうとしている。
2人が一瞬気を抜いたその瞬間、巨体に似合わない雪羅の巨大な前足による高速のフックに吹き飛ばされた悟は壁面へと叩きつけられた。
「……っガ!?」
その悟の叫びに遅れて反応した白が目の前に瞬時に移動してきた雪羅に印を結び対処を試みるも
「ッ!! 氷遁……!?」
しかし印を結んだ瞬間に白は、膝を着く。
「こ、これは……あの化け物に僕のチャクラが……吸われて……!?」
白は力を抜かれたかのように崩れ落ちる。白の練り上げたチャクラは雪羅へと目に見える形で吸収されていく。
その様子を空から眺めていたフブキがドトウへと進言する。
「あの仮面のくノ一は『雪一族』のようですドトウ様。氷遁への適応力が高いため、雪羅への贄として適切かと」
「そうか、では殺さずに小雪諸共回収するとしよう」
身動きの取れなくなった白に鎧の翼を折りたたみ近づくフブキは、近くで動きを止めている雪羅を見て味方ながらもその圧迫感に冷や汗を流す。
「ほら行くわよ、お嬢ちゃん、小雪姫」
フブキが身動きの取れない2人を抱え、飛びたとうとした瞬間
「逃がすかぁあっ!!」
悟の放つ飛雷脚がフブキを襲う。咄嗟にチャクラの鎧で衝撃を受け止めるも、フブキは態勢を崩し白を地面へと取りこぼす。
「小雪さんも離せっ!!」
雪羅から受けた一撃で、仮面を落としてしまい血で濡れた素顔を晒しながらも悟は鬼気迫る勢いで蹴り飛ばしたフブキへと近づく。
「っこのガキっ!!」
フブキの生じたチャクラの鎧の障壁を、手に風のチャクラを纏わせることで掴みかかり強引に引き裂こうとする悟。
そのまま障壁が破れんとした瞬間悟がふとチャクラの圧を感じ、咄嗟に視線を横に振れば
再度チャクラ弾を発射する雪羅の姿が目に映った。
爆発音と耳鳴りが、悟の知覚する世界を染め上げた。
強い衝撃が体を襲い、意識を黒に落としそうになる悟だが
存外に体へのダメージは弱いのかすんでのところで意識を保てていた。
(…………っ白?)
意識が朦朧としている悟だが、彼を庇い魔境水晶を盾にしてひたすら雪羅のチャクラ弾に耐える白の姿を響く衝撃に揺れる視界で認識する。
彼女の仮面は砕け落ちており盾にしている魔境水晶にもひびが入る。そんな白が限界を迎えるその一瞬。
(守られっぱなしは……趣味じゃない……っ!)
「土遁・岩状鎧武!!」
自分を庇う白を、岩の鎧を身に纏いながら悟は庇い返す。
そこから数度の爆発音が響き、悟の纏う岩は弾け飛ぶ。
最後の爆発を生身で受けた悟は抱き庇う白ごと大きく吹き飛ばされた。
爆発の木霊が止むころに、か弱い声が悟へと投げかけられる。
「そんな……さ……悟……くん……悟君、無事、です……か?」
朦朧とし耳鳴りが響く中に白の言葉を受け意識を直ぐに取り戻す悟。
(まだ……俺生きてのか……っ)
悟は遠目で、フブキと小雪ごと機械のアームで掴んだミゾレが飛行船に引き上げているのを確認する。フブキは悟たちごとチャクラ弾に巻き込まれていたがチャクラの鎧のおかげで小雪と共に爆発の影響の少ない場所まで吹き飛び無事であったようだ。それでも満身創痍なため、ミゾレが引き上げた彼女らを直ぐに飛行船の内部へと連れ行く。そのまま飛行船はその場から高度を上げて離れ行った。
悟の目の前では止めと言わんばかりに黒々としたチャクラの球を両の口で形成する雪羅の姿が目に映る。その黒い球体を見た悟は
(これは、尾獣玉……か?)とその技の名を思う。悟の視界に隅に、ふと雪羅の巨大な体の後方で印を結んでいるナルトの姿が悟の視界に入る。
必死にチャクラを練り上げようとするナルトだが、旨く行っていない様子でその顔を険しくしている。
(クソォ!! なんで、なんで上手く九喇嘛のチャクラを練れねぇーんだ!? このままじゃ、悟たちが……)
自身の奥の手である九喇嘛のチャクラを練り上げようとするもそれが出来ずにいるナルトは九喇嘛へと声を荒げる。
(おいっ!!! 何で力貸してくれねぇーんだ九喇嘛ぁ!?)
(い……無理……さ……ち……つ……てに……ろ!)
しかし返ってきたのは不明慮な九喇嘛の声であり、それに苛立ちを覚えたナルトは、舌打ちをしながらも術を行使しようとする。
「こうなったらガマオヤビンに来てもらうしか……っ!」
地面へと叩きつけた手のひらから、印が広がる。しかしボフンと小さな煙が上がっただけでそこには何も現れなかった。
「っ……なんで……なんでっ!!??」
焦るナルトの身体が不意に、カカシに抱き上げられる。
それはカカシの影分身であり、本体のカカシが抱き上げられたことに驚きを露わにするナルトへと声をかける。
「ナルト、蝦蟇たちをこんな雪山に呼ぶのは難しい。今は逃げるしかない……状況が落ち着くまで隠れてろ。大丈夫だ、悟たちは任せろ!」
ナルトを抱えたカカシの影分身が雪羅から離れるように跳躍したと同時にカカシは覚悟を決めた表情で左眼の写輪眼を表に出し駆けだす。
悟はその光景を目にしながら立ち上がり、白を背中へと庇う。白も小さくはない怪我を負い今は動くこともままならない。
血塗れになり、纏う装束も殆ど形を成さない状態にありながら悟は脱臼で動かなくなっていた左腕の痛みを無視し、出来るだけ右手にチャクラを集中させる。
(こんな所で死ねない……っ……白も死なせない……っ!!)
「……あああああああああああああっ!!!」
雄たけびを上げ、右手を雪羅へと突き上げる悟。そんなか弱い必死の抵抗に対して雪羅はただ無情にその尾獣玉を放った。
しかしその尾獣玉が炸裂することはなかった。
襲い来る衝撃に目を瞑っていた白だがその異変にすぐに気がつき目を開ければ
眼前の雪羅は身体を形成するチャクラを薄れさせ、本体と思われる鉱石を露出させ空へと上昇して視えなくなった。
見上げた視界の外で何かの崩れ落ちるような音が聞こえた方に白が意識を向ければ、カカシが地面へと倒れ伏していた。
「……っ一体……ハぁっ……何が……っ?」
混乱する白。
しかしすぐに悟の右手が白の左肩を掴むことで、意識がはっきりとする。
「ゴほッ……は、白! 術は使えるか……?」
「悟君……何を言って……?」
鬼気迫る様子の悟は、すでに遠くまで離れている飛行船を指さす。
「このままじゃ小雪さんを連れ去られちまう。あの飛行船に乗り込むにはお前の協力がいるんだ。頼む!!」
「君は何を言って……っ! こんな状況で……っ」
「四の五の言ってる暇は無いんだ!!」
体に雷を纏う悟。既に死に体でありながらも、その体は赤黒く染まり八門を解放している様が見て取れる。
(先の瞬間まで死ぬであろう状況であったのに……直ぐに切り替えて次の手を打つ。正直狂人の域に入っている……それでも彼の純粋な思いがあるからこそ……)
必死な悟の様子に白は、ため息を吐き叫ぶ。
「……君が死んだら、僕は後悔しますからね悟君!!」
「ああ……
悟の真剣な表情を見て白は残りのチャクラと体力を振り絞り立ち上がる。
悟の指示で、白は持てるチャクラを使い遥か遠くに見える飛行船目掛けて氷の道を伸ばす。
悟は地面に落ちていた三太夫の脇差しを手に取り鞘を口にくわえてそれを右手で抜刀する。
(後は頼んだ)
そんな眼差しを白へと向けた悟は洞窟の中へと全速力で駆ける。
その数秒後
洞窟内の地面の表面へと露出していた鉄道のレールを滑り止めと言わんばかりに踏み抜きまくり、高速に加速した悟が洞窟内から衝撃と共に現れ
瞬間、白の形成した氷の道を弾丸のごとく滑り上がり黙雷悟は空目掛けて砲弾のごとく空へ飛びあがった。
…………
その後静けさを取り戻したその場に、怪我を負いながらも戻ってきた映画スタッフやサスケやナルト、サクラに白とカカシは保護され、一同は満身創痍になりながらも態勢を整えるため雪の民たちの集落へと向かった。
意識を失い簡易的な荷車で担がれているカカシの傍に寄り添いながら白は、疲労からくる意識の混濁に落ちていく。
(悟君……どうか死なないで……必ず助けに……いき……ます)
~~~~~~
一方空へと飛び出した悟は、はるか先の飛行船目掛け大砲で打ち出された球のごとく迫る。
雪羅の攻撃で受けた傷やダメージに意識を奪われそうになりながらもその移動の負荷に八門で強化している身体で耐え、悟は風遁チャクラを練り上げチャクラモードへと移る。
(飛べるわけじゃないけど、ちょっとでも推進力を……!)
後方へ風を吹き出しながら、飛行船へとさらに迫る悟。降りしきる雪が体にぶつかるたびに痛みが生じるも不都合な感覚に対して無理やり無視を決め込む。
ゆうに十数秒、空中で移動を続ける悟はしかし目前の飛行船にギリギリ届かない可能性を感じ汗を流す。
(あとちょっとなんだ、落ちてたまるか!!)
風遁チャクラモードをやめ、悟は右手に逆手で持った脇差しに雷遁チャクラを流し込み……
飛行船の鋼鉄の機体下側に深々と突き刺して無理やり機体へと張り付いた。
(痛っっっだ……あ゛あ゛~右肩も死にそうかも……っ!)
高速移動からそのまま機体へと張り付く負荷を一身に受けた右半身に痛みを覚えながらも、機体に刺さった脇差しを起点に次第に膝や肘をチャクラで吸着させて姿勢を整える。
(高っか……当然落ちたら死……イヤ今の俺ならどうにかできそうかも)
下の光景に前世の価値観で一瞬恐怖を感じながらも、今世の自分の能力の高さに冷静になる悟。
そのままチャクラによる吸着で機体をよじ登り、後方の扉から中へと潜入を果たした。
~~~~~~
「……綺麗になったな小雪」
飛行船内では、意識を取り戻した小雪に対してドトウが優しい声色で声をかける。
顔を逸らしている小雪は、その言葉に反応示さずにいる。
「……六角水晶はちゃんと持っているのか?」
声色に期待の色が見えるように喋るドトウ。
「ええ……」
「フフッ結構……」
小雪の返答に満足感を笑みで示す。優越感か、既に目的を達成した思っているのかその口から、嬉々として六角水晶について語られ始めた。
「あれこそが風花家を結ぶ唯一の絆……だからな。 ……そして秘宝を開ける鍵となる」
「秘宝……?」
「ワシがお前の父からこの国を
「六角水晶はその鍵……ってこと」
「そうだ、風花の秘宝さえ手に入れば、その資金で人工尾獣やチャクラの鎧をより完璧なモノへとすることが出来る。忍び五大国なぞ、優に凌駕するほどの
満足そうに己の野望を語るドトウ。
「そんな事させるわけないだろうがよ」
そこに声が響く。その声の主に心当たりがある小雪は振り返る。
「悟!! アンタ……」
血塗れであり、既に身に纏う装束もボロボロに朽ち果て、上半身も顔も晒したその忍びは脇差しの切っ先をドトウへと向ける。
「貴様、あの状況でどうやってここまで……っ!?」
「フン、忍者なめんなよ!」
雷を纏い、ドトウへと切りかかる悟だが間に現れたナダレがクナイでその斬撃を受け止める。
「小僧、良くもその傷で生きていられるものだな……正直気味が悪い」
「まあ生憎、頑丈さなら世界一の自信があるんでね!!」
雷遁による身体活性で、素早く切りつける悟だがナダレはその攻撃を容易くさばききる。無理やり動いては見せているものの悟は既に瀕死の状態であり、手練れのナダレに取ってはその動きを捌き切るのは容易であった。
悟の脇差しの斬撃をクナイで逸らすナダレは力の差に余裕を感じ始めた瞬間。
悟の振るう斬撃が一瞬、雷を纏い攻撃を捌こうとしているナダレのクナイを横から切り裂く。
「その首貰ったっ!」
悟の斬撃がその振りのままナダレの首に迫ったその時、ドトウの声が響く。
「動くな、動けば小雪を殺すぞ?」
「クッァ…………グっ?!」
動きを止め、その声に悟が視線を向ければドトウが小雪を片腕で締め上げ、空いた手でクナイを突きつけていた。
「ってめぇ!? ガ……っ!!」
気を取られた悟は、ナダレの打撃を受け態勢を崩し、周囲に潜んでいた雪忍らの装備したチャクラの鎧の籠手から発射された剛糸に縛り上げられる。
「クソ……この小僧死に体の癖に侮れない、それに恐ろしいほどまでの生命力にチャクラ……例の装置を使いましょうドトウ様」
ナダレの進言に
「そうだな、テスターとしては申し分ないだろう。
そう答えるドトウ。
ナダレは手のひら大の機械を取り出し、悟へと近づく。
「……クっ!?」
その瞬間、悟が口から放った「水遁・天泣」の針をナダレは咄嗟に腕で受ける。
「目を狙ったんだが……外したか……」
「このガキが……っ!」
腕から血を垂らすナダレは悟の顔面を殴り大人しくさせ、悟の腹部へと無理やりその機械を押し当てる。
すると機械から飛び出た触手のような配線が、悟の腹部へと突き刺さり電撃を巻き起こす。
「っっっぐああああああ!?」
食い込んだ配線と機械から出る電撃に悟は悶え苦しみ叫ぶ。
その様子をドトウの腕から解放された小雪は見る。
「何よ……アレっ……」
「チャクラの制御装置だよ。装着された者のチャクラを吸い上げ、それに比例した装置自身を守る障壁と電撃を生成する。その為に破壊することも取り除くことも出来ぬ……絶対にな」
自信ありげに語るドトウの説明の後に、悟はついに意識を失いその場に倒れこむ。
「これでこいつはもうチャクラの使えない、ただのガキだ」
満足そうにナダレは悟を乱暴に抱え上げその場から運び出した。
「さあ、小雪。六角水晶を渡せ」
連れ去られる悟を、流し見た小雪は胸元に下げた首飾りを無言で取り出す。
「おお……これぞ……っん? ……これは……?」
それを受け取ったドトウは歓喜を示すも直ぐに顔色を曇らせる。そのまま小雪を睨みつけ、その首を鷲掴みにする。
「くっ!?」
「ふざけるな!! こんな偽物で私を騙せるとでも思ったのかぁ!!」
「そ、そんな……はず……っ!?」
戸惑いを見せる小雪だが、直ぐに心当たりを思い出す。
朧気ながらも船内でカカシが首飾りに触れていた記憶を。
「はたけカカシが……一度その水晶に触れて……っ!」
「なるほど、はたけカカシか……」
納得したドトウは小雪を突き飛ばしながら、偽物の六角水晶を砕く。
「ならば、待てばいい。奴らは必ずワシらの前に現れる……必ずな……フフフッ……はっはっはっはっはぁ!!」
~~~~~~
『嫌だ、そんな……なんでっ!!??』
(真っ暗の視界……誰かの、悲痛な叫びが聞こえる……)
『こんな、こんなのって……っ』
(女性の震える声が聞こえる……それに身体の感覚がない……俺は……どうなって……?)
『ねえ、嫌だよ……せっかく自分の気持ちに正直になれそうだったのにこんなのってっ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁ!!!』
(直ぐ耳元で聞こえるそんなとても辛そうな、女性の声……俺は……
楽しかった
嬉しかった
ありがとう
……違う、自分本位では駄目だ。俺のことなんて、
お願いだ、言葉を口にさしてくれ……せめて俺の
(目を……さ……)
「……れの……ゆ」
(目を覚ま……)
「俺の……ゆめ……は……」
(いい加減目を覚まさんか、悟!!)
「うおああ、ごめんなさいぃぃ!?!? ぃ……ってあれ……っ?」
驚きに体をビクつかせた衝撃でガチャと鎖の擦れる音と共に悟は目を覚ました。
「……痛つつ……ここは……?」
自分が両手と両足を鎖に繋がれて吊られていることを自覚した悟は自分が今牢の中にいることに気がつく。
(……さっきまで夢でも見てたか……? 良く思い出せん……)
「……てかっうわ、寒…………ズボンしか履かせてくれてないのか」
自分が上半身裸で下半身には粗末なズボンをはいているだけの状態であることを認識し、悟は無意識に体を温めようとチャクラを練る。
しかし、その瞬間電流が悟を襲る。
「っぐあああ!? …………なんだクソ、この機械……腹に食い込んでっ」
目線を下に向ければ、皮膚に食い込むその機械からはチャクラの鎧に似た障壁が形成されていた。食い込んでいる部分からは血が滴っていたのか、身体を伝う乾いた黒い線が下へと数本伸びていた。
苦痛に耐えながらも何とか牢から見られる範囲から情報を集める悟。
(辺の壁には氷がびっしり……どっかの施設の地下かな……目の前に見える別の牢は、鎖につながれた氷漬けの骸骨がいる牢と空き牢のみ……うーん、ヤバいな、うん)
左肩の関節が外れたままであることも確認し、どうにかできないものかと思案する悟。
(オイ、いい加減こっちに意識を向けんかぁ!!)
一瞬の怒号の後に、悟は精神世界へと引きずり込まれる。
精神世界の草原に降り立つ悟。精神世界なので怪我はなく普段の姿の悟だが、怒号の声の正体に驚きながら後方を見る、そこには……
「全く……意識を失くしやがって……それにワシが何度も呼びかけてやっているのに、呑気に無視するとはいい度胸だなぁ?! ああん?!?!」
怒り心頭の九喇嘛がいた。しかし
「九喇嘛……なのか? お前……何というか」
「あぁん? 何だ?」
「随分と可愛いな!!!」
「……はぁっ!?」
悟の声色の高い叫びに九喇嘛は目を丸くする。
なんと九喇嘛の身体のサイズがぬいぐるみサイズになりちんまりとしていた。その様子に興奮した悟は九喇嘛に抱き着き抱え上げる。
「もっふもふやんけ!! もっふもふやんけぇ!!」
「ええい、うっとおしい!! こんなことしとる場合か!!」
顔を擦りつけてくる悟にミニサイズ九喇嘛のパンチが炸裂、吹き飛ばされ悟は表情を崩れた笑みから、パッと真剣なものへと変える。
「ハッ!? ……俺は正気に戻った、すまん」
「てっめぇ……この状況で緊迫感とかねえのかよ、全く」
崩れた毛並みを体を震わせ整える九喇嘛の様子に、「うぐっ……」と再度我を忘れそうになる悟だが何とか踏みとどまり真面目に話を切り出す。
「……あれだ、えーと九喇嘛が言ってた尾獣に似た存在ってのは……あの人工尾獣ってやつがそうだな?」
「ああ、間違いない……だがあそこまで
「胸糞……? どういうことだ?」
「まあ、その内お前も気付くだろうが……それよりも厄介なのは、アレを制御しているカラクリだろう」
「ああ、動きから何となくだけど人工尾獣が何かしらの手段で操作されているのは疑ってたけど……そのカラクリが何の問題なんだ?」
「言ってしまえば、尾獣……やそれに連なる魂だけの存在を縛る……何といえばいいか、そう……波が出ていたのだ」
(波? ……電波的なものか?)
「それのせいで、あの雪羅とかいうのがいる間、ワシが表にでることが出来なんだ!!」
悔しそうに唸る九喇嘛の様子に苦笑交じりに悟は言葉を口にする。
「なるほどな、焦ってて気づかなったけどあの場面で九喇嘛が口出ししてこないのも可笑しいよな、そんなことになってたのか」
「フン……せっかくこのワシが力を貸してやろうと思って
「えっ力は貸してくれないんじゃ?」
「っグ…………まあ、そんなことはどうでもいい!!」
悟の横やりにキバをむき出しにする九喇嘛。(デフォルメされてると可愛い)と悟は思いながらも、精神世界に居る以上九喇嘛に悟られると話が拗れそうなので、気を落ち着かせる。
「貴様、今の状況分かっているな?」
「まあ、ピンチだな」
現実世界に視点を変えれば、腹に食い込んだ機械が自分のチャクラを制御しているのがアリアリとわかりため息をつく。
「お前がど・う・し・て・も、というならワシのチャクラを貸してやろう……と言いたいところだが、この場所にもそのワシらの動きを制限する波のようなものがある。あの狼野郎がいる時ほど強力ではないがな」
「つまりチャクラは貸せないと……実質1人でどうにかしないとか……いやまあ、九喇嘛が居てくれるだけ寂しくないし心強いけど」
試案を重ねる悟は現実世界での異変に気がつく。複数人の足音に気がついた悟は意識を失くしているフリをしてその様子を伺うことにした。
カチャカチャ……
悟の牢の正面の牢の鍵が開く音の後に、誰かがその中に入れられる気配がした。
その人物を連れて来た雪忍らが、居なくなったのを薄眼で確認する悟。安全を確認してからその牢屋に入れられた人物へと声をかける。
「随分と暗い表情ですね、小雪さん」
「……アンタもイイざまね。諦めなかった結果、そんなボロボロになって……」
座り込み死んだ目をした小雪がそこにはいた。
悟の有様に気の毒そうな目線を向ける小雪に悟は
「ボロボロでも、まだ死んでないんでねっ……何とでもして見せますよ」
もがく悟の様子に小雪はぼそりと呟く
「諦めないで未来を信じれば……きっと春が来る……」
「……?」
「父が言っていた言葉よ。皆がその言葉のようにもがいて、足搔いて……結果傷ついて倒れた。フフッアンタこそまさにいい例ね、そんな怪我でよく生きてるわね、ホント……」
悟を鼻で笑い小雪は顔を膝と腕にうずめる。
「そんな父も死んで、わたしはこの国から逃げ出して……信じることを辞めた……」
「……」
「嘘をつき続ける人生が続いて……そんな私には嘘をつく女優ぐらいしか、なれるものが」
「……女優ぐらいって何ですか……っ?!」
悟の言葉に小雪は目線を悟へと向ける。
「貴方は女優を卑下してるつもりかもしれないですがねぇ……貴方の演技を見てたら、それが本心じゃないって素人の俺にでも直ぐにわかりますよ!!」
悟は小雪の言葉を否定しながらチャクラを練り始める。しかし当然のごとく悟を装置が出す電流が襲う。
「そんなこと……私は本当に……」
「あのバーで酔いつぶれてた時もっ……! そして今でも、貴方は……アンタは自分で吐いた言葉に自分で傷ついている!!」
バチバチと体に走る電撃の痛みにもがきながら、悟は腕や足を拘束している鎖を引きちぎらんと力を籠める。
「無駄よ……そんなことしても貴方が傷つくだけでっ」
「体が傷ついても関係ないっ! 俺は……俺は、自分の行動に後悔したくないんだっ!! そんで、アンタが自分自身を信じられていないのを見るのも……心底嫌なんだよ!!!」
より一層強い電撃に、悟は怯み、力が抜けて項垂れる。ジャランと鎖の擦れる音が寂しく響く。
「俺が……そうだったから。自分を信じられずに、夢を諦めて……なあなあで日々を過ごして……結局最後の夢も果たせずに……っ!!」
それでも悟は言葉を口にし続けもがき続ける。
「何言って……?」
「だけど、俺はそんな卑屈な自分でも信じたい……自分が成したことに後悔したくないんだよ……んで……同じように後悔してる、苦しんでる誰かを助けたいと思っちまうっ!!」
もがく悟は再度、大きな雷撃に怯む。
その様子に小雪は思わず、悟へと疑問を投げかける。
「アンタの諦めた夢って…………何よ?」
「皆に……希望を……勇気を与えるお仕事……≪役者≫……だよ」
生き絶え絶えになりながらも、悟は小雪の言葉に目を見て返事をする。
「…………そんな…………っ」
自身が否定する存在を夢という少年の言葉に小雪は顔を上げ悟へと顔を向ける。
「だけど今俺は忍者だ……耐え忍んで……それで誰かのためになるならそれも良いと思って……る。一度は役者の夢を諦めた俺だからこそ、もう他の誰かの夢を諦めさせたくないんだっ……」
しばらくの沈黙が続く。
「……」
「……」
「なら……」
「……?」
小雪は小さく呟く。
「アンタは私の夢を……叶えてくれるとでも言うの……っ?」
「ああ……やって見せるさ」
「そんなに傷ついているのに……出来っこないわ……」
「生憎俺は、度が過ぎる程頑丈なんでね。……アンタが望みさえすれば俺は何だってやってやる」
そう言った悟は「へへへっ」と笑う。
その様子に小雪は表情を引き締め、決心を着ける。
「ならお願い……ドトウを倒して……この国を救って……っ!」
すがるように、振り絞るように出たその声に悟は声を張り答える。
「勿論だっまっかせろ!!!」
力強くそう答えた悟に小雪は少し潤んだ表情になりながらも、グッと堪え悟へと提案をする。
「もしも……アンタたちがドトウを倒してそれで……もしも……アンタが……悟が忍者を辞めることがあったら、私の伝手で……アンタを役者にしてあげても……いいわ」
「……っ! へへっ楽しみにしておくよ」
照れて目も合わせない小雪に、とびっきりの笑顔を見せる悟。
「じゃあ、何としても……小雪……アンタを助け出さないとな……んでついででこの雪の国もだ」
そう言い瞼を閉じじっと動きを止める悟。すると次第に、腹の機械が煙を上げ始め異音が鳴り響く。
今までにないほど巨大な電流が流れたのちに、そのチャクラ制御装置は黒い煙を巻き上げ爆発を起こす。
そのまま、腕の鎖を引きちぎった悟は地面へと落下しそのまま動かなくなった。
「……悟!? ちょっとアンタ大丈夫!? 悟!?」
その様子に悟の身を案じた小雪は声を張り上げる。
流石に爆発音が響くほどの異変に、先ほど小雪を連れて来た雪忍2名が気がつき戻ってくる。
「今の爆発音は!?」「おい見ろ、木ノ葉のガキが鎖を解放しているぞ!!」
牢の中で倒れている悟の様子に気がつき、牢のカギを開け中へと踏み入る雪忍たち。
「「うぐっ……っ!?」」
その瞬間そんな呻き声が響けば、忍びらはうつ伏せに倒れこむ。彼らを不意打ちで昏倒させ、立ち上がり鍵をすり取った悟はその鍵を持ち上げて見せ、小雪に受かって笑みを見せる。
(上手いぞ悟……莫大な自然エネルギーを集めることで、腹のカラクリを破壊するとはなぁ!!)
装置の破壊の手段に九喇嘛は感心を示す。
(流石に、普通のチャクラ以外の……自然エネルギーにまでは対応してなくて良かった……上手くいったけど爆発で腹が超痛てぇよ……)
精神世界の九喇嘛の誉め言葉に照れながらそう答える悟。機械が爆発して生じた腹部の怪我を掌仙術で治療しながら、小雪の牢へと近づく。
「……またさらに痛々しくなったわね」
「ハハハッ……まあ……さすがに痛いかな」
牢の鍵を開け、身体に残った機械の一部を抜き悟は苦笑交じりにぼやく。
小雪のいる牢の中へと悟が足を踏み入れる。
そのまま悟は、膝をつき小雪に右手を差し伸べた。
「お怪我はありませんか、風雲姫?」
「!……ええ、行きましょうか。貴方の意地とやらを見せて頂戴」
牢を脱した2人は手を取り合いその場から姿を消した。