目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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それぞれのターニングポイント
75:最後の日


 深夜の静けさが漂う海原の上、火の国へと向かう船の中で木ノ葉の忍び達は一室に集まっていた。

 

「白が熱だした!?」

 

 黙雷悟が確認の為に、サクラへとそう問いかける。

 

 雪の国からの帰りの船で白と同室になっていたサクラは、体調不良を訴える白を心配に思い午後は付きっ切りで看病していたと語る。ちなみに他の面々も任務の疲れから午後のほとんどを体力回復に努めるために睡眠を取っていた。

 

「サクラちゃん、何で言ってくれなかったんだってばよ~? 白が熱出してるなら俺たちも何か……」

 

「白本人があまり心配かけたくないからって……ていうかナルト、そういうアンタは特にこういう時何もできないでしょ?」

 

「うぐっ……その通りだけどさー……心配じゃんか~」

 

 サクラの言葉にうなだれるナルト。その様子を見て鼻で笑ったサスケは提案を出す。

 

「零班組は、木ノ葉に戻ったら先に帰路につくと良い。帰還後の火影への任務の報告は第七班で済ませる……それで良いだろうカカシ?」

 

「ま、そうだね。確か悟も白君も、同じ家に住んでるからそのほうが都合がいいでしょ?」

 

「……そうですね、お言葉に甘えて戻ったら白を連れて先に施設に帰らせてもらいますね」

 

 サスケの提案に、カカシも賛成し悟はその提案を受け入れた。特に零班の2人の消耗が激しいのは、誰の目に見ても明らかであるからであろう。

 

「じゃ、明日の早朝にでも木ノ葉には着くそうらしいし、悟は今回の任務の報告書の作成手伝ってね」

 

 カカシはそういい、悟と2人部屋に残り任務の報告書の作成に取り掛かった。

 

「そんじゃあ、俺はもういっちょ寝てこようかな~」

 

「そうねぇ私は午後寝てなかったし……今回の任務も、いろいろ堪えて……はぁ、休める時に休んでおきましょ……」

 

「……」

 

 ナルトとサクラは自室へと戻ったが、サスケは1人無言のままその部屋に留まっていた。

 

「どしたのよサスケ? お前も随分と無茶しただろうから寝てきても良いぞ?」

 

「そういうならカカシ……お前も、最後の方は身体を動かすことすらままならなかっただろう? 俺にも報告書の作成ぐらい手伝わせろ」

 

 普段の様子からは思っても見ないサスケの厚意に、カカシは目をぱちくりさせながらもニコッと笑顔を作り「じゃ、よろしくぅ♪」と返事をし、各自書類作成に取り掛かった。

 

 

~~~~~~

 

「んで、悟。どうやって雪羅を止めたのかを聞きたいんだけど……その両腕の怪我とも関係もあるんでしょ?」

 

「そうですねぇ……ええと、俺も無我夢中だったからなぁ……」

 

 カカシが雪羅の件を悟に聞いているが、どうも反応がよろしくない。当然のことだが、自分が写輪眼と九尾の力を使って正面から打倒したなど言えるわけもなく……

 

「えっと~……その、小雪さんと穴に落とされた後にチャクラの鎧と雪羅の制作に携わっていたという風花レンゲとかいう男がいて……」

 

 悟は何とかカバーストーリーを考え、任務報告書に記載していく内容を口頭で説明していった。

 

(真相を知るのは俺と、小雪だけだからなぁ……よっぽどバレはしないだろう…… 多分)

 

~~~~~~

 

 書類作成も一段落して、最後のまとめをカカシに任せ悟とサスケは2人月に照らされながら甲板で一休みを取っていた。

 

「ホント今回の任務は……きつかった……」

 

「フッ……お前はいつも、自分からイバラの道を進んでいってるようなものだから……いつものことだろう?」

 

「やりたいことやろうとすると、勝手にそうなるんだよな~、俺も別に傷つくのが好きなわけじゃないし……」

 

 2人の他愛のない会話が続く。

 

 ただ波の音だけが聞こえる船の上、サスケは縁に背を預け、上空の月を見上げる。

 

「……」

 

「どうした、サスケ?」

 

「……俺も……やりたいこと……成し得たいことのために……動こうか、てな……」

 

「……そうか……俺は、応援するよサスケの事」

 

「……フッ……わかってるのか? 俺が成そうとしていることは……」

 

「木ノ葉だとか……里とか……確かに大事だけど……たった一人の家族には代えられない……そうだろ?」

 

 仮面の奥から覗く真剣な悟の目に、サスケは敵わないとため息をつき、歩き出す。

 

「それじゃあな、俺はもう寝る……お前もさっさと寝て腕直せよ」

 

「おう、実はもう動かすだけならほとんど支障はないんだがな!」

 

(回復力は相変わらずでたらめだな……)

 

 悟に見えないよう、苦笑を浮かべたサスケは船の自室へと戻っていった。

 

「……。さあて俺も寝ようか……ん?」

 

 悟が両腕を上げて伸びをし、歩き出そうとするとスッとナルトが姿を表す。

 

「ナルト……寝たんじゃないのか?」

 

「ああ、悟……いやな? 九喇嘛の奴が何か悟の所に行けってうるさくてな~……今回全然力貸してくれなかったくせに偉そうに……」

 

(九喇嘛は今回、結構協力的だったと思うけどな……ナルト的には何か不満でもあったのか……?)

 

 不満そうなナルトに対して、愛想笑いをした悟はそのまま、精神を集中しナルトの精神世界へとコンタクトする。案の定、九喇嘛からの誘いがあるのかすんなりと九喇嘛の檻の前まで来る悟。

 

「どうも、九喇嘛。今回は助かったよ」

 

 手を振り、挨拶を兼ねて感謝を述べる悟。しかし九喇嘛は機嫌が悪いのか、目を閉じたまま鼻を鳴らして返事をするのみであった。

 

「ど、どうした? 何か気に障ることでもあったか?」

 

「……てめぇに預けたチャクラ、どうやら全部使っちまったようだからなァ? ワシは知りたいことが何も知れなんだのだ……全く、徒労とはこのことだなァ?」

 

 随分といじけた感じの九喇嘛に苦笑を浮かべる悟。

 

「いやあ、それは色々と悪かったよ……でも()()()()()()()からの提案で、雪羅との戦いに全力を尽くしたわけで……心強かったよ、ホントありがとうな?」

 

 手を合わせペコペコと平謝りする悟を、チラリと細目で見る九喇嘛。

 

「……悟よ……1つ聞きたい」

 

 姿勢を正した九喇嘛は真剣な目で、悟を見下ろす。

 

「な、何……改まって……」

 

「……ワシが人間を嫌うのは、ワシの身勝手な行いだと思うか? ……ワシが間違っていると、思うか?」

 

 悟を試すかのような九喇嘛からの質問。流石の悟も、真剣な顔つきになり顎に手を当て考え込む。

 

「………………俺的には」

 

「ふむ?」

 

「そう言うことに、間違いだとか正解はないと思う……な、うん。結局は自分が感じることが自分にとっては大事な指標だと思うし……九喇嘛が人間を嫌うのもまあ……俺個人は理解できる……いや、してる? ……まあ分かってるつもりにはなってるよ」

 

「……」

 

「俺的にはそりゃあ、知り合った全員と分かり合えるなんて思ってはいないし……だからって逆に分かり合えるって思っている奴を馬鹿にする気もない……ありきたりだけど、時と場合による……としか言えないかな」

 

 何とか自分の思いを言葉にして話終えた悟は、精神世界にも関わらず、疲れたという様子で一息つく。

 

「……ワシとナルトは分かり合えると思うか?」

 

「……それこそ、九喇嘛とナルト次第だと思う。九喇嘛が納得いってないなら今は無理する必要はないよ……いつか……最終的に自分が良いと思える落としどころを見つけたらいいさ」

 

 ……少しの沈黙の後九喇嘛は前足で胡坐をかき再度目を閉じる。

 

「なに? ナルトと何かあったのか?」

 

「……いやいい。ワシも少し……考えるところがあったというだけだ、柄にもねぇがな……」

 

 ふうん? と言いあまり納得の行かない様子の悟は、しかしあまり追及するのも意地が悪いかと軽く挨拶をしてナルトの精神世界から消えていった。

 

 

 

 

 スッと……消えたと思われた黙雷悟が九喇嘛の前に姿を再度表す。

 

「ん……てめぇ……()()()の方か?」

 

「ご明察、僕も九喇嘛……お世話になった君に挨拶をしておこうかと思ってね?」

 

「フン……てめぇに名前を呼ばれるなんて気色悪ィ……何があったが知らんが、ワシは慣れ合うつもりは…………ッ!?」

 

 突然現れた黙に対して素っ気なく振舞おうとする九喇嘛だが、黙が九喇嘛に対して手をかざすことで、話を止め黙りこむ。

 

「僕はあまり借りを作るのは好きではないからね……借りたものを返すよ、()にも言った通り僕は雷を信用しているから()()()()()()

 

「……黙、てめぇえっ!?!?!?」

 

「おお、怖い怖い……サッサと寝るに限るねこれは……」

 

 お互いに言葉を出さずに何かのやり取りを済ませ、黙は存在を薄れさせ消える。

 

「……ぐっ……ぐぬぬぬぬぬうううううっがあああああ!!!!」

 

 何かに身悶える九喇嘛の唸り声がナルトの精神世界に響き渡った……

 

~~~~~~

 

 早朝、まだ日も昇らぬ朝。港に着いた船から、映画スタッフたちの荷下ろしを手伝いマキノ監督や助監督らと別れの挨拶をすませた木ノ葉の一行は里へと駆けていた。

 

「思ってたより、ずっと早く火の国に着いたってばよ。行きは結構時間かかってた気がしたんだけどなぁ?」

 

「そりゃね、船上の映画撮影でたまに船の進行を止めたりしてたから……ま、監督らも早く作業に入りたくて船員の方達を色々せかしてたみたいだしね」

 

 ナルトとカカシは、それとなしに会話をしつつ雑談をしている。

 

 その後方ではサクラ、サスケ、悟と悟に背負われた白が会話をしていた。

 

「ねえ悟、ホント白を背負ってて大丈夫? 荷物も重そうだし……て聞くのももう野暮ね。アンタなら……」

 

「いや帰りが一緒だから……」

 

「バカが、里に着くまでは体力の戻ってないカカシは論外として俺かサクラに任せればいいだろう……ウスラトンカチの奴は信用できなから任せない方が良いが……」

 

「ぼ、ぼくを背負うことにみんなでそこまで……躍起にならなくても……ハハハッ……」

 

 自分のことで言い合う光景に、白はまんざらでもない感情を抱いたのであった。

 

 取りあえずの妥協案ということで悟のお土産入りのバックは里に着くまでサスケが持つこととなった。

 

~~~~~~

 

 そんなこんなで木ノ葉の大門についた一行は零班と七班で別れる。七班は任務の報告後、休暇を取る様で別れの挨拶をすませた悟は体調を崩した背に乗る白を気づかいながら荷物を抱え施設へと向かった。

 

「しかし、白がこうも弱り切ってるのもなんか珍しいなぁ」

 

「……何となく……原因は分かっているのですが……」

 

 辛そうにしながらも、白は自身の不調に思い当たる節があるのかある程度の確信を持った口ぶりをしていた。

 

「? それって……まさか」

 

「……ですが大丈夫です。()()()()()()()()()()()……今はそれだけだと思うので心配しないでください……じきに良くなりますよ」

 

「……わかった。帰ったら再不……桃さんに看病してもらえよ~?」

 

「……っ……君、余計な事したら針千本飲ましますよ……って悟君こそ、その腕の怪我に忍装束まるまるの紛失、マリエさんに心配されるのが目に見えてますよ?」

 

「うぐっ……そうだよなぁ……頂いた雪の国の服はなんか着物っぽい感じで……見た目の印象が普段と違い過ぎて流石に一目でわかるよなぁ……説明どうしよ……」

 

 お互い軽口を叩き合いながら、朗らかなムードで帰路についた2人は施設の玄関前まで、たどり着く。

 

 白は体調がやはりすぐれないのか、途中で悟の背で眠り込んでしまった。

 

 朝も日が昇り、大人組は既に起きているであろう時間帯。施設の子供たちも一部は起きている様だが極力迷惑の掛からないよう、念のため静かに玄関を開ける悟。

 

「ただいま~……」

 

 小声でのその言葉に反応する者はいなかったが、朝帰りにコッソリと家の敷居をまたぐことに妙な焦りを感じた悟は、サッサと白を寝かせるために部屋へと連れていこうとした。

 

 取りあえずの持つだけは玄関で降ろし廊下を抜き足差し足で進む悟。

 

 

 その時

 

 

 ドサッと何かを落とす音が、廊下を忍び足で歩く悟の背後で聞こえる。……横着してチャクラ感知をしなかったことを不味いと思いながらもゆっくりと振り返った悟の視線の先には……

 

「……」

 

 洗濯籠を落としたエプロン姿の再不斬がいた。

 

「……スーッ……スーッ……」

 

「……」

 

「……誤かいd

 

 白の寝息だけが聞こえる両者の沈黙の中、無言の再不斬は悟の発しようとした言葉に有無を言わさないように煙を巻き上げ姿を消す。恐らく単純作業用の影分身だったその個体は()()()()()を持ち帰るため、瞬時に情報を本体に還元する判断をしたのだろう。

 

「……っ!」

 

 嫌な予感に悟は、瞬時に八門を解放。なるべく白に負担をかけないよう、かつてないほど軟かな、けれど洗練されたスピードで白と再不斬たちの部屋へと踏み込み、白をゆっくりとベッドに寝かせ間髪入れずに施設から逃げ出した。

 

「……――っ!!!!!」

 

 瞬間、声にならない声と共にバンっと音が鳴り、白が寝ている部屋の扉が開く。扉を開けた、明らかに目が血走っている再不斬は大した距離も移動していないのに息を切らしている。……片手に包丁を持っている点といい完全に不審者である。

 

「……ううん……あれ……もう家について……」

 

 音に気がついた白が目を開けると、おぼろげにその不審者の姿を薄暗い部屋の中でみてしまい…………

 

 施設「蒼い鳥」に甲高い声が響き、しばらくの間慌ただしい状況が続いた……

 

~~~~~~

 

 施設から逃げ出した悟は、ゆく当てもないためとりあえず何か依頼でも受けられないかと火影の屋敷へと歩みを進めていた。

 

 すると、通りの途中で悟に声がかかる。

 

「おお、悟……か? いつもの装束と服装が違うが、その仮面は悟だろ?」

 

「ん……おっシカマルか、四日ぶり……ぐらいか?」

 

「そうだな、ちょうど互いに任務が終わったぐらいじゃねーの? 俺は日が昇る前には里に帰ってたが……」

 

「俺もさっきちょうど返ってきたところだ。……色々あって家に帰るのはもう少し後になりそうだが……」

 

「あん???」

 

 ため息をつき、目線が横を向いて乾いた笑いをする悟にシカマルは疑問符を浮かべる。

 

「何だ、悟お前もう任務受けにでも行こうってのか? 流石にやめとけよ、それなりに頑張ってるつもりの俺がみじめに感じられるからな」

 

「いや、俺とシカマルの評判は別だろ?」

 

「めんどくせーことに誰かさんの方が中忍としての実力があるなんて、陰口があるんだよ。気にはしてねーけど」

 

「………………っ」

 

 シカマルの言葉を受け、悟は一瞬動揺したかのように目線が泳ぐ。

 

「おまえ……今俺が影真似の術使うから、陰口(かげぐち)言われた……とか何とかクソしょーもねぇこと考えてるだろ……?」

 

「…………ブフっwww……用事思い出した、じゃあな!!

 

 ヒュンと音を立て、逃げるように悟は姿を消した。

 

「……図星かよ……俺の心配をしねぇのは信頼されてるからなのか……やれやれ、仮面着けてるくせにホントわかりやすい奴だぜ全く」

 

 

~~~~~~

 

 逃げ出した悟は里を当てもなく移動している最中、木ノ葉の里に幾つかある高台、忍びが軽く待ち合わせをしたりする見晴らしのいいそんな場所で項垂れている人物を見つける。

 

「ん、あれは……流石に遠目でも誰かわかるな、見た目的な意味で」

 

 項垂れることとは無縁そうなその人物の様子に悟は高台の縁に着地、その人物の頭上から声をかける。

 

「どうしたんですか、ガイさん?」

 

「……っ悟か! 任務から帰ってたんだろう! お疲れさん!!! ということはカカシの奴も帰って来たんだな!!!!」

 

 悟に気づき、ぎこちない笑顔で無理をして明るく振舞うガイに悟は、事情を察して隣に座る。

 

「あ~……リーの手術の事……ですか?」

 

「っ……! あ、ああ……流石悟、カカシ並みにお見通しだな……そうなのだ、手術したとしても成功の望みが薄いと綱手様が……」

 

 珍しくため息をつくガイの様子に、長い付き合いの悟はどうにかできないかと心を焦らせる。

 

「俺なんかが大丈夫って言っても気休めにもならないですよね……」

 

「……仕方のない事だという出来事は、忍びの世界では日常茶飯事だ……俺も慣れている、つもりだった。だがしかし大切な存在がいざその場に晒されると、俺はこうも動揺し、心を乱してしまっている……情けない……クッゥ……っ」

 

「情けなくなんて……心がある以上、そういうのは仕方ないですよ……」

 

 悟はガイに対してかける言葉を見つけられないでいる。『未来を知っているから、成功率50パーセントの死ぬかもしれない手術は絶対成功します!!』なんて死んでも言えない。そもそも()()()()が悟の知るNARUTOの世界とは既に幾つか乖離している部分がある以上未来は確定ではないのだから。

 

「……俺が言えることは大したことじゃないですけどただ1つだけ……」

 

「……」

 

「ガイさんだけは、他の誰が何と言ってもリーの事を信じてあげてください……っ! リーにとって、アナタは()()なんです。そんなあなたがブレてしまったら、リーだって……」

 

 悟の言葉を受け、ガイはハッとして顔を上げる。

 

「……っそうだな……そうだ!! 俺が……師である俺がこんなところで項垂れていてどうする……?! 可愛いあのリーが苦しんでいるときに。自分だけ悲劇のヒロインぶってどうする?!?! 師である俺が、リーを安心させてやらないでどうする!!!!!!!!」

 

 ガバッと立ち上がったガイは悟に力強く抱擁し、そしてそのまま勢いよく跳躍して遠ざかっていった。

 

俺がやらずして誰がやる!!! 今行くぞリー!!!! 願掛けだろうが何だろう、やれることは全てやりィ!!!! 命を張ってこそが師ではないのかァ!!! ありがとう悟、俺は大切なことを君に気づかされた!!! ありがt…………」

 

 遠ざかりながら叫んで消えたガイに、小さく手を振る悟は仮面の下で苦笑を浮かべた。すると

 

「……今の声ってガイ先生……って悟じゃない、おひさ~!」

 

 何事かと様子を見に来たテンテンがひょっこりと姿を表した。

 

「おお、テンテン……ってなんだよ、その人の身体を嘗め回す目つき……」

 

 テンテンは眉をひそめながら、悟の姿を足先から頭のてっぺんまで見て少し考えてから発言をする。

 

「アンタ……その変わった服装もそうだけど、いつも着けてたハナビちゃんから貰った腰布どうしたのよ……」

 

「ああ、それは……え~と、実は腰布は任務先でサクラに貸し出してな?」

 

「……ふーん……」

 

 目線が一気に鋭くなったテンテンに、悟は何故か言い訳をする様に身振り手振りで事情を話す。

 

「サクラが『ちゃんと洗濯してから返すから』って言って……だから今手元にないだけで……」

 

「ハナビちゃん、悟の事昨日あたりから帰ってくるの待ってるみたいよ? 一緒に行きたいところがあるとか何とかで……腰布なしでガッカリしないかな~~?」

 

 明らかに動揺している様子の悟は「はわわわわ」と仮面越しでもわかるぐらいに狼狽えている。

 

「……プフフッなーんて大丈夫よー! ハナビちゃんもそれぐらいの事情はくみ取ってくれるわよ、なんせアンタみたいなのに惚れるぐらいだから気配りはお手の物よ、あの子」

 

「なんでお前が誇らしげに語ってんだ……」

 

「ハナビちゃんのこと最近は妹みたいに感じて来てね~、世話の焼ける弟分のアンタと可愛い妹分のことは私は良く分かってるって自負しているだけよ」

 

「へいへい……まあ、冗談にしてもあの腰布の件は一応サクラとも話をしておかないとな……テンテン」

 

「ん? なに?」

 

「ハナビの事教えてくれてありがとう、じゃあ行ってくる」

 

 ほんの少しだけかしこまった感じの悟のお礼に、テンテンはほんの少しだけ照れる。

 

「……なによ改まって……サッサと行ってきなさい、時間に幾ら余裕があると言っても無駄にするもんじゃないわよ?」

 

「ああ、行ってきます」

 

 お互いに別れの挨拶を済ませ、悟は跳躍、少し離れた位置の屋根に着地した瞬間。

 

「さ、悟!!」

 

 少し慌てた様子でテンテンは悟を呼び止める。

 

「ん、なんだぁ?」

 

 何事かと着地したままの低い姿勢で顔だけで振り返る悟。

 

 何かを言おうとしているテンテンの開いた口が、一度閉じ、そして

 

「あ、いや……何でもない……急ぎなさいよ!!」

 

「わかってるよ~……」

 

 当たり障りのない会話が行われ悟は姿を消した。1人その場に残ったテンテンは独り言を言う。

 

「なんだろう……悟の様子……変だけど……変じゃないみたいな……違和感がないけど違和感があるみたいな……あ~~~っ! 何かスッキリしない!!! ……こういうときは甘味処にでも行くべきね……任務前だけど、気分転換は必要よね」

 

~~~~~~

 

「確かここらへんだよな?」

 

 悟はとあるアパートの前まで足を運ぶ。事前に知らされていたサクラの家の住所まで来た悟は「春野」と表札の出ている部屋のチャイムを鳴らす。

 

「はーい」

 

 中から女性の声が聞こえ、悟がしばらく待っていると……どたばたと部屋の中で音が鳴る。

 

 その騒音に悟が不思議に思い疑問符を浮かべたその瞬間、勢いよく扉が開かれ突然の掛け声とともに飛び蹴りが悟を襲う。

 

「とりゃーーーーーーっ!!」

 

「……はぁ?」

 

 勇みよい掛け声ともに放たれた飛び蹴り。呆けた言葉を口にしながらも悟はその飛び蹴りに対して、反射に近い動きにより脚を掴み相手の身体を地面に引き込むように倒すことで襲撃者の拘束を行う。

 

「いだだだだ!?!? た、助けてママぁ!!!」

 

 悟に拘束された男性は情けなくそう叫ぶ。すると

 

「しゃーんなろーーー!!!!」

 

 家の中からフライパンを持った女性が表れ悟に対して手に持つそれを振りかぶる。

 

「どうなって……!?」

 

 訳も分からないまま驚きの言葉を口にする悟は男性を片手で抑え、空いた手で印を結び薄い岩状手腕を発動させ腕でフライパンを受け止める。

 

 ガインッと騒音が鳴り、フライパンで殴りつけてきた女性は固いものを殴ったせいで怯んでいる様子であった。

 

 そして

 

「何やってんの、ママ!! パパ!!」

 

 騒音に不穏な気配を感じ駆け足で現れたサクラがそう叫ぶ。

 

「……サクラぁ逃げろォ!! こんな怪しい奴が(うち)に来るなんて普通じゃない!! 目的は可愛い可愛いお前しか考えられん!!!」

 

 悟に拘束されているサクラにパパと呼ばれた男性がそう叫ぶと、サクラは頭痛を堪えるかのように頭を押さえながらも自体の収束を図ったのであった。

 

 

~~~~~~

 

「……何か……悪かったなサクラ」

 

「いいのよ……うちの親はなんというか……2人とも早とちりだから……こっちこそなんか、ゴメン……」

 

 サクラの自宅のリビングで、悟は自身に向けフライパンを振りかぶった女性・春野メブキの手に掌仙術をかけながらサクラと会話をする。

 

「ごめんなさいねぇ、サクラの同期の子だったなんて……玄関ののぞき穴から姿を見たら怪しい見た目だったからつい何事かと思って焦っちゃって……アハハハハ!!」

 

 豪快に笑って見せるサクラの母である春野メブキは、細かいことはあまり気にしない性格なのか先ほどの出来事は既に笑い話になっているようだった。ちなみに父親である春野イブキは特徴的な桜の花ような髪型をしている人物であり現在は部屋の外に追い出されている。

 

「はい、どうですか? これで手の痛みは取れてると思うんですが」

 

「うん、大丈夫よ!! しかしホント器用なのねぇアナタ。一家に一人欲しいぐらいよ」

 

 悟がメブキの痛めた手を掌仙術で治療をし終えるとメブキは冗談を言いながら、悟の肩を叩く。

 

(豪快な人だ……)と思いながら仮面の下で愛想笑いをする悟。

 

「もうっ!! ママはちょっと席外しててよ!! 悟と話があるんだから!!」

 

 家族の行動に恥ずかしさを感じて顔を赤らめながら怒るサクラにメブキは飄々といった様子で台所へと向かった。

 

「ハア……任務帰りってのに、余計疲れたわ全く……んで、悟は何の用なのよ?」

 

 話を仕切り直したサクラの問いに悟が答える。

 

「腰布の件なんだけどな?」

 

「ああ、ちゃんと洗濯して返すって帰りに話したじゃない、気が早いわねぇ? 流石に私が数日付けてたのを返すのは気が引けるし…………ちょっとまさかアンタ……!?」

 

「おい、誤解すんな! ただ直接受け取れないかもしれないから、その時はうちの施設に届けてくれって言いに来ただけだ」

 

「あらそう? 確か悟の家って『蒼い鳥』ってとこよね?」

 

「そう、そこであってるよ……ああ、帰るのが億劫だ……」

 

 悟のげんなりした様子にサクラが疑問符を浮かべると、台所で朝食の準備をしているメブキが声をかける。

 

「あら、なら黙雷君、うちで朝食食べってったら?」

 

「それは流石にご迷惑では……」

 

 渋る悟にサクラが

 

「いいのよ、うちの両親が迷惑かけたお詫びに食べていきなさい。……それにしてもうちの両親も一応忍びなのに悟に歯が立たないなんて情けないわねぇ」

 

 とお詫びだという名目で悟を朝食に誘った。悟も断る理由は余りないので、言葉に甘えて朝食を頂くことにした。

 

 朝食を食べる間、年頃の娘の両親ということもあり悟は普段のサクラの様子についての質問攻めを受けるがサクラの鋭い視線を受け当たり障りのない内容を答えていった。

 

~~~~~~

 

「じゃあ、お邪魔しました~」

 

「腰布はちゃんと届けておくから! アンタもさっさと帰って休みなさいよ!」

 

 玄関から体を半身だけ出して見送るサクラに、悟も軽く手を振り目線を前に向ける。その手には腰布に着けていた額当てが収まっていた。

 

「これは流石に回収しておかないとな、うん」

 

 そういって額当てをポッケに仕舞う悟は、自分がポーチなどの装備が丸々ないことに気がつく。

 

「しまったな……買い出しに行こうにも、持ち金は全部雪羅の攻撃で装備ごと燃えカスになってたし……金は自室……再不斬、まだ勘違いして怒ってるか?」

 

 自身の身体をまさぐっても当然お金は出てこないため、ため息をつく悟に声がかかる。

 

「おいおい悟、施設で桃さんをキレ散らかしたと思ったら女の子の家に出入りとはやるなぁ?wwww」

 

 その声に悟はげんなりした様子で、目線を向ける。そこには忍び装束を身に纏ったウルシがいた。

 

「ああ、ウルシさん……ただいまです。……さっき家にいたんですね」

 

「おう、昼からちょっとした任務があるから準備してたら変な奇声と白雪の悲鳴が聞こえてな? マリエと何事かと行ってみたら……」

 

 少し前の事を思い出す素振りを見せるウルシはケタケタと楽しそうに笑う。

 

「……はぁ……で、桃さんは事情を白雪から聞いたりして落ち着いてくれたんですか?」

 

「いやぁそれがな? 俺とマリエは、白雪が『他の施設に出張した帰り』に体調崩して、たまたまお前と会って背負われて帰って来たっていう説明をすんなりと受け入れたんだが……」

 

「『だが……?』 なんで『だが……?』なんですか!?」

 

「桃さん、『俺は許さん、認めん、コロス、認めん、許さん、コロス……』って血走った眼で呟きながら玄関で仁王立ちで動かずに……マリエは説得してたみたいだけど、俺はおっかないから逃げてきた」

 

「っ……はぁ」

 

 ウルシの説明に悟は地面に頭がつきそうになるぐらいに項垂れる。その様子に流石に気の毒になったウルシは落ち込む悟へと声をかける。

 

「まあ、お前も数日の任務の帰りで疲れてる様子だし……身なりから察するに荷物とかは部屋にあるんだろ? 俺の任務まではまだ時間があるし俺が持って来てやるから、な? そう落ち込むなよ」

 

「……ウルシさぁん……!」

 

 珍しく悟に大人振れたことと、悟から羨望の眼差しを向けられ気を良くしたウルシは「俺に任せとけっ!」と言って駆けだしていった。

 

「そうだ……必要なモノの買い物とか準備は影分身に任せるかな、ウルシさん、ありがとう……!」

 

 ふと思いついた悟は影分身にウルシの後を追わせて、自身は自分に用があるらしいハナビの元へ向かうために日向の屋敷に足を向けたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 悟が日向の屋敷の前まで来ると、何やらどたばたと騒音が聞こえ不思議に思う。何事かと、屋敷の玄関へつながる門を軽くノックする悟。すると

 

「……悟様、ちょうどよい所にいらしました!」

 

「ナツさん、ちょうどいいって何が……それにしても珍しいですね、忍び装束着ているなんて」

 

 門が軽く空き、木ノ葉の忍びの装束を身に纏った日向ナツが悟の応対をする。そのナツは悟の手を引き屋敷の敷地内へと連れ込む。

 

「ど、どうしたんですか? 何か慌ただしいみたいですけど……」

 

「それがどうしても、日向の力が必要な任務が幾つかあると火影様から伝令が来まして……最低限の人員を残して、日向の者皆、里外に出ていくのですよ」

 

「それは……大変ですね、つまりナツさんもですか」

 

「ええ、一応私も中忍ですので。 里が木の葉崩しの影響で力が落ちていないことを証明するため、尽力させていただきます」

 

 そういってやる気を見せるナツは応接間まで、悟の手を引き移動する。

 

「で、俺はどうすれば?」

 

「私は今日の夜までには戻って来られる予定なので、それまでどうかハナビ様のお相手をお願いしたいのです」

 

「なるほど、良いですよ任せてください」

 

 悟の返事に安心したナツは、後は屋敷の者がハナビを呼んでくるとだけ説明し足早に屋敷の外へと駆けだしていった。

 

「いってらっしゃーい」と手を振りナツを見送った悟は、広い応接間に1人正座して一息つく。

 

 悟は屋敷の従者たちや、普段はあまり任務に出ないであろう日向の者たちの仕度に慌てる音を聞き

 

(名家の人たちも、急な仕事が入るとこう……人並みに慌てるんだなぁ)

 

 などと呑気に感想を抱いていた。普段、日向の人間が醸し出している雰囲気とのギャップに微笑んでいると応接間の襖が突然開く。

 

「……何故お前がここに?」

 

 白眼を発動させていたらしいネジが、目の周りの血管の隆起を収めながら姿を表した。

 

「えっと……ハナビを待ってる」

 

 応接間で何をするでもなく正座で待っていた悟の様子に、少し可笑しさを感じ鼻で笑ったネジは

 

「ハナビ様なら、稽古の後でただいま汗を流していらっしゃる……まだ少し時間がかかるだろう」

 

 そう言いながら悟の前に正座で腰を下ろす。

 

(え……何で座った?)とそのネジの行動に内心狼狽える悟。

 

 ふう、と一息ついたネジの様子から悟は彼もまた修行の後だということに気がついた。

 

「いい機会だ……少しお前と落ち着いて話がしたくてな」

 

「ああ、ああそういう……ハナビが来るまでだったら別に時間があるし良いけど……」

 

 悟の返事に話す内容を考えるために少し間をおいてネジが話し始める。

 

「以前、俺は自分の眼は何でも見通しているのだと思っていた。……だが最近、他人の顔色というモノが見えていなかったと気がついた」

 

「へ~……」

 

「父上もそうだが、ヒアシ様を始め周囲の人間の表情というものは存外に内面を映しだしているようで……注意深く観察するのも意外に趣があると思う」

 

「そうだな……」

 

「お前は何故その仮面を着けている?」

 

 世間話のような内容から一転ネジからの悟の核を射抜くような質問に悟は

 

「……これは大切な人から譲り受けたものだ。だから……」

 

「違う、お前が顔を隠す理由だ。 何故執拗に顔を隠す?」

 

 無難な返事をするも、それがはぐらかしていることだと見抜いているかのようにネジは質問を続ける。

 

「別にネジには関係ない事だ、それに白眼でなら俺の仮面の下の表情を覗くことなんて造作もないことだろ? そんなに気にしなくても」

 

「……白眼でも、顔そのものを覗けるわけではない。 例えば色などは透視眼では不鮮明に映ってしまう、つまりは本当の意味でのお前の顔を見ているわけではない」

 

「へ~そうなんだな……」

 

「……お前はそのことを知っていたのだろう?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「顔を隠すお前が日向の者に対して、あまりにも無防備だからそのことを不思議に感じたまでだ」

 

「別に、深い意味はないよ。 俺は顔が見られるのが元々恥ずかしい……それだけ」

 

「本当か?」

 

「本当」

 

 まるで尋問のようなネジの質問に、悟は特に動揺もせずに答えていく。(なんのつもりだ?)と不思議に思う悟にさらにネジが問いかける。

 

「俺が思うに、悟、お前は…………顔ではない何かを隠している…………そうじゃないのか?」

 

「何かって……随分とアバウトだな」

 

 ネジの言葉に悟が苦笑する。

 

「お前は、仲間を……他人を信頼できる人間だ。なのに今更顔を晒すことになんの抵抗がある? 特別傷があるわけでもない、それなのに……」

 

 悟が顔を隠し続ける理由、その真意にネジがさらに一歩踏み込もうとした瞬間

 

 応接間の襖が開く。

 

「悟さん!! いらっしゃいませ!!」

 

 ハナビが元気よく、姿を表す。ラフな格好であるが、急いで準備をしてきたのか息を切らしている彼女の様子に悟は仮面の下で笑みを浮かべながら立ち上がりハナビに歩み寄る。

 

「……悪いなネジ、その話はまた今度な?」

 

 軽い口調でそう話した悟は、仮面の口元に人差し指一本を当てるジェスチャーをしてハナビと共に応接間から出ていった。

 

 1人残されたネジは、納得の行かない表情を浮かべ独り呟く。

 

「奴の感情は……わからん……テンテンやリーの如く単純な奴なら良かったのだがな……」

 

 

~~~~~~

 

 日向の屋敷の外に出た悟とハナビ。ハナビは身だしなみが気になるのか髪を弄っている。

 

「さて、そう言えば俺に用があるなんて話を聞いたんだけど?」

 

「はい! 実は悟さんと一緒に行きたい場所があるんです……だけど里の外になるのでナツが居ないと行っても良いのか……」

 

 モジモジと悩む様子のハナビに悟は

 

「まあ、確かに立場上そう言うのもあるのか……ハナビはその歳でしっかりしてるなぁ」

 

 そう口に出し、ハナビの頭に手を乗せる。

 

「ちなみに何処なんだ、行きたい場所って」

 

「『映画』が見られるという町があるそうです、一度そこでこの……」

 

 ハナビはポーチから紙切れを二枚取り出して悟に見せる。

 

「映画を見て見たくて……チケットだけナツに準備してもらってたのです」

 

「うーん里にはまだ映画館ないもんなぁ……ってことは……ああ、うん」

 

 少し考える様子を見せた悟は、笑顔で腰を下ろしハナビと目線を合わせる。

 

「よし里抜けだ、ハナビ!!」

 

「……へ?」

 

~~~~~~

 

 

「もう駄目だ、このままでは……もう……」

 

「諦めてはいけません、助悪郎、鰤金斗、獅子丸。諦めない限り道は続きます!! 悪頭大魔王を打倒すその時まで……!!」

 

 薄暗い映画館、映画の音声が響きスクリーンに映された映像の光がハナビの無垢な表情を照らす。

 

 その様子を隣で座ってみている悟は

 

(年相応……真剣に映画を見ている様子は、普通の……普通の子どもだな)

 

 表情を微笑ませていた。

 

 

~~~~~~

 

 

 映画館から出てきたハナビはとても興奮した様子で、映画の感想を悟に語っていた。

 

「すごかったです!! 何が凄いって……こう……凄く……すごいっです!!」

 

「ははっ、語彙が凄いことになってるぞ……」

 

 ハナビの熱量に圧倒された悟は困ったといった様子で苦笑を浮かべる。

 

 はしゃぐハナビが、息巻いて話していると『きゅ~』と可愛らしい音が聞こえる。

 

 顔を紅くしたハナビに、悟は

 

「丁度昼時だ、あそこの飯屋にでも入ろう」

 

 笑顔でそう提案を出した。

 

「良いんですか? お金は……」

 

「大丈夫、俺の影分身に必要分は持って来させてたから……ゆっくりご飯でも食べながら、映画の話をしようか」

 

 

~~~~~~

 

 

 昼時の飯屋で、席に着き一息ついたハナビは申し訳なさそうに口を開く。

 

「しかし、良いんでしょうか……黙って……こんな里の外の町まで来てしまって……」

 

「文字通り里抜けだしな、ぶっちゃけ悪い事だと思う」

 

「ええ!? そんなあっさり……」

 

「まあ、そのためにわざわざ変装したりしてるわけで……似合ってるよ、その服」

 

 そういう悟とハナビは普段の恰好からかけ離れた姿をしていた。ハナビは普段彼女は着ないようなワンピースに、顔を隠せる大き目な帽子をかぶり、髪を後ろで纏めている。

 

 一方で悟はいわゆる前世の姿である、黒髪天パ、少し痩せている20代前半の男の姿に変化していた。

 

「悟さんも、変化していると仮面を着けないんですね……普段より男らしい感じと背の高さに少しドキドキします」

 

「声も変化すれば、普段よりは低くなるしな。 まあ、ハナビとの絵面が少し怪しい感じになるんだが……多少の不条理は仕方がない、うん」

 

 運ばれてきた定食に手を付け始めた2人は映画の感想を話し合うのだった。

 

 

 

 

「悟さん、先ほどの映画を見るのは初めてじゃないんですか?」

 

「まあ、何というか……初めて見たと言えばそうなんだけど、実質二回目かな?」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 里への帰りの路を変化を解いた姿でハナビを背負い高速で駆ける悟。

 

「任務帰りなのに、こんなに走らしてしまって申し訳ないです」

 

「いいよー別に。 俺にとってはお茶の子さいさいさ!」

 

 ハナビの心配を他所に今朝も通った道を走る悟にハナビは続けて声をかける。

 

「しかし、悟さんがこうも思いっきったことをするとは驚きです。 確かに時間としては5時間も経ってはいないですが実質里を抜けるなど……」

 

「たまにはいいさ。 ハナビも楽しかっただろ?」

 

「はい、楽しかったです。 しかし、流石にこのことは誰にも言えませんね……」

 

「ああ、2人だけの秘密だ」

 

「……っ! そうですね、秘密……です!」

 

 会話を楽しむ2人だが、里に近づくとある程度気配を消さなければいけないので小声になり会話を続ける。

 

 里への抜け道を歩く悟にハナビは疑問を口にする。

 

「この抜け道は……悟さんはどうして知っているんですか?」

 

「ああ、ここは里の外と繋がってる居住区……つまり隅っこに位置する場所で昔通ってたんだよ。一応侵入禁止の場所だけど、管理がずさんだからな」

 

「悟さんは真面目な方だと思っていましたが……」

 

「見損なった?」

 

「いえ、思えば毒入りの丸薬をワザと喰らうほどの変態不審者なので今更見損なうことはないです」

 

「おっとこれは手厳しい……あと少し懐かしい呼び方だな」

 

 うちはの元居住区を通り、里へと戻ってきた悟たちは人通りがある場所まで来る。この時点でハナビを降ろし2人は並んで歩き始める。

 

「当然、里の人間じゃなきゃ出入りの時に結界忍術に引っかかるから、部外者がおいそれと通れるわけじゃないけど」

 

「そうですね、今はただでさえ里が忙しい時期みたいなので……ただ結界忍術に頼って警備を疎かにするのもどうかと……」

 

「正論だけど、今は人員が少ないからなぁ。ナツさんもそれで任務に出てるわけだし……」

 

 世間話をしながら2人は日向の屋敷へと戻る。

 

「……悟さん、あと一つ……我儘を承知でお願いがあるのですが……」

 

 屋敷の前まで来て、モジモジして話しかけてくるハナビの様子にヒナタを見ているような既視感を覚えた悟は軽く返事をする。

 

「何でもござれだ、ハナビの願いは出来るだけ聞いてあげるさ」

 

「私に、稽古をつけてください!!」

 

「ん!? おお、良いけど……良いのか?」

 

 悟は日向の跡目であるハナビに対して外の人間である自分が、稽古をつけて良いものなのか迷いその確認をハナビに取る。

 

「確かに跡目として、日向の技を極めるのが私の務めでもあります。 しかし、()()()()ではいけないとも考えています。 私は……強くなりたいんです……っ!」

 

 真剣なハナビの眼差しに

 

(まあ、確かに俺がハナビに与えた影響を思えば些細なことか……力の使い方は本人次第……ってね)

 

 悟はサムズアップをし、ハナビの提案を受け入れたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 正規の手続きで演習場を借り、道着に着替えたハナビと向かい合う悟。

 

「普段の稽古が屋敷の道場だと、床を踏み抜きそうで怖いよな~」

 

「わ、私はそこまでの力はまだありません……父様も普段は本気を見せる方ではないので……そういうことはないと思います」

 

「……まあ、屋敷でも庭で稽古とかしてるもんな……っと世間話はここまで、さて普段とは違う場所だが、問題ないよな?」

 

 悟の放つ雰囲気が鋭いモノへと変わり、空気がひり付く。 まだ構えを取っていない悟の佇まいを目の前にハナビは深呼吸をし目を閉じる。

 

(あの森で悟さんの戦いを見て以降も悟さんは目まぐるしい早さで強くなっている……跡目として……いえ、私個人がその彼の強さに触れてみたいと心を躍らせている……っ!)

 

 息を静かに吐き、ハナビは白眼を発動させ鋭く柔拳の構えを取る。

 

「よろしくお願いします!」

 

「ああ、行くぞ。 ハナビは本気で来い!!」

 

 そういい悟は、手始めに柔拳の構えを取りハナビへと肉薄する。

 

 構えは一見同じように見える両者だが、悟の柔拳は動きだけの紛い物であり本家であるハナビの柔拳による経絡系を削るチャクラの放出は真似できない。

 

 近接格闘において、柔拳による経絡系へのダメージは一撃貰えば致命打になりかねないものである。

 

 しかし、悟はハナビの掌から放たれるチャクラの攻撃を自身の掌にチャクラを纏わせ払うことで無効化する。

 

(白眼のない悟さんの柔拳は型の特性を生かし防御に徹底している……っ!)

 

 ハナビからの一方的な責め手は、全て悟にいなされてしまう。

 

「ほらほら、どうした? 普段の稽古みたいに型にこだわりすぎなくてもいいんだぞ!! 今は自由に来い!!」

 

 そういう悟はいなした攻撃の隙に軽く掌底を混ぜ、ハナビを仰け反らせ距離を作る。

 

「っ……! なら……こうです!!」

 

 衝撃を受け止めたハナビは、脚に力を籠め地面を蹴り悟へと突進する。

 

 悟はその体当たりを横に飛び避けるが

 

 すれ違う寸前で急停止したハナビがその勢いを回転へと変え回し蹴りを放つ。

 

「足技……っ!?」

 

 想定外のハナビの足技に悟は素直に腕でそれを受け止める。

 

 少し後ずさった悟に対して、ハナビはクナイを腰に構え突き刺すように接近する。

 

(なるほど、柔拳での格闘戦では拳同士の接触でいなされてしまうからクナイでの攻撃に……って!?)

 

 悟はハナビの攻撃を弾こうとするも、片腕が上手く上がらないことに気がつく。

 

(さっきの蹴りで、経絡系にダメージが……!? 蹴りでもダメージアリとかやっぱ柔拳使い相手に体術勝負は分が悪いなっ!!)

 

 悟は咄嗟にハナビに対し背を向け、背後に向けて足を蹴り上げる。

 

「お返しだっ!」

 

「く……っ!」

 

 その蹴りはハナビの構えていたクナイだけを下から弾きクナイをハナビの手から空中へと飛ばす。

 

 クナイを手から離したハナビに対して、悟は片足だけで軽く跳躍し空中で態勢を整えながら先ほど蹴りを放った脚で再度薙ぎ払う様に蹴りを繰り出す。

 

 その蹴りに対しハナビは

 

(チャクラを纏った蹴り……柔拳でのカウンターでダメージが見込めないのなら……っ!)

 

 大きく後方に飛び、息を整え直す。

 

 蹴りを避けられた悟は、そのまま動きの鈍い腕の動きを確かめるため手を振りながらハナビに対して警戒の目線を向ける。

 

(白眼がある以上こちらのチャクラの動きは見切られている……無理にカウンターを狙ってこない辺り、堅実……けど攻めっけはヒナタ以上だな)

 

 ふう、と一息ついた悟はスピードが鈍っていながらも両手で印を組む。

 

「忍術……っ!」

 

 警戒の様子を見せるハナビに悟は小さく面をずらし口から小さい火球を数発放つ。

 

「火遁・鳳仙花っ!」

 

 見え見えの前動作も合わさり、ハナビは横に走り鳳仙花を躱す。

 

 しかし悟の遠距離攻撃に対して

 

(私ではまだ、日向の奥義『回天』を上手く使うことが出来ない……それでも今できる最善をつくさないとっ!)

 

 ハナビは白眼の観察眼を強め、繰り出され続ける鳳仙花の術の雨の隙を伺う。

 

 乱発される鳳仙花に対しハナビは、機会を伺い悟へ向け直線で接近を開始する。

 

(何か策ありか!? なら見せて貰おうか……っ)

 

 その動きに対して悟はハナビに向け鳳仙花を構わず放つ。

 

 鳳仙花がハナビに当たる寸前、ハナビは柔拳の要領でスピードを落とさず身体をうねらせ鳳仙花を撫でるように躱す。

 

 直線の動きのようで、身体の軸はそのまま流線を描く無駄のないハナビのその動きにかつて見た日向ヒアシの動きを重ね

 

(末恐ろしい……っ! 回天の動きを一部切り取ったような動きで、ここまでやるとはな……っ)

 

 そう思いながらも悟は笑みを浮かべる。

 

 鳳仙花を躱される以上撃ち続ける意味もないため、悟は独自の柔拳と剛拳を混ぜた構えを取る。

 

(悟さんの柔剛拳……私の柔拳が届けば……まだ勝機がっ!)

 

 ハナビは渾身の掌底を悟に向け放つ

 

 

 がその掌は、悟の流れるような動きの左手の払いで大きく弾かれる。

 

 

 態勢を崩し仰け反るハナビに対して、音が聞こえる程強く握りしめられた右手による剛拳の突きが顔に迫り……

 

 顔と拳がぶつかる寸前で両者の距離の変動はなくなり、拳圧がハナビの髪をなびかせる。

 

「っ……ぁ……」

 

 自身の攻撃がいなされてからの一連の動きの速さとなす術の無さ、そして悟の拳を振るう瞬間に一瞬放った本気の威圧に驚きハナビは息を口から漏らしその場にへたり込む。

 

「っやべ、ハナビ大丈夫か!?」

 

 ついやりすぎたと、拳を引っ込めた悟は地面に座るハナビの肩を持ち様子を確かめる。

 

「だ、大丈夫です……流石悟さん……ッ敵いません……」

 

 少しふらっとしながらも立ち上がるハナビに悟は、彼女の手を引き木陰へと移動させ安静にさせる。

 

「いやでも、ハナビもやるもんだ。 修行が趣味なだけあるよ、俺がハナビと同じ歳だったら負けてたかもな」

 

「な……っ!? 私の趣味をどこで知って……!?」

 

 自身の事を思っていたよりも知られていたことによる恥ずかしさにハナビは顔を紅くする。

 

「ヒナタが前言ってたんだよ、『ハナビは修行が趣味って真面目に言うから少し心配かも……っ』て」

 

「っ姉様ぁ……!」

 

 姉への抗議の意思を抱きながらも、可愛らしくない自分の趣味に対して悟がどう思うかのほうが気になりハナビは質問する。

 

「悟さんは……どう思いますか……その……っ」

 

「ん~やっぱり白眼は相手にすると厄介に感じるなぁ……ネジと戦った時も思ったけど柔拳自体はとてもアドバンテージのあるものだと思う。 だからこそ遠距離攻撃っていう方法で対処されたりするわけで……今回は俺が柔拳の対処の仕方とそれを打ち破る基礎力がハナビになかったから、俺が有利だったけど――――」

 

 ハナビの質問の意図は曲がりくねって悟に伝わり、悟は真面目に先ほどの組手の感想をつらつらと語る。

 

 暫く早口で語る悟の様子は傍から見れば、かの油女シノのようであり2人が意外に仲が良いのも頷けるものであった。

 

「そう思うとハナビは柔拳ともう1つ、威力のある術や技を覚えて軸にするのがいいんじゃないかな? 小細工というより柔拳と白眼を活かせるような……って悪い、一方的に喋りすぎた……」

 

 ハッと気がつき悟が謝罪するとハナビは

 

「い、いえ……そうですね。 せっかく出来るようになるのなら、自身の持ち味を生かせるようなものがいいですね」

 

 真面目に返答する。

 

(悟さんにそう言う面で期待しては……やはりいけないようです)

 

 少し遠い目になるハナビに悟は疑問符を浮かべるものの、ハナビの戦闘方法についての考察をつらつらと再度述べていく。

 

「接近戦を仕掛ける動きは良かったけど、俺のチャクラの膜で柔拳の攻撃を防ぐ方法を対処できないのは痛いよな~、だからハナビが覚えるべきは『柔拳を対処しようとした相手を狩る』……そんな方法だと思う。 俺自身余り思い付きが良い方ではないんだが、俺が考えるに相性が絡む属性関係に手を出すよりも形態変化による――――」

 

 乙女心など意にも介さない悟の真面目な考察とそれを成すためのハナビの修行は数時間続いた。

 

 

~~~~~~

 

 

「――つまり、俺は柔拳と剛拳を使い分けて攻めと守りを役割分担し長所を得て短所を補っている……こんな感じにチャクラの形態変化を駆使すれば、物理的な破壊力も出せるからハナビも柔拳の破壊力の無さを補い――」

 

 『出来損ないの螺旋丸のようなモノ』で木の幹に傷をつけた悟が色々と語る中、形だけでもそれを真似ようとするハナビ。

 

 気がつけば日が沈み始め、夕暮れ時となっていた。

 

 時間を忘れるほどに修行に集中できる2人の相性は決して悪くはないのだろうと傍から見れれば感じ取れるのかもしれない。

 

「くっ……難しいですね、チャクラを形態変化で扱うのはそれ自体元々高等技術ですし一朝一夕で出来るものでは……一夕……っていつの間にか日が沈み始めて……!?」

 

 ハナビが時間の経過に気がついたことで、悟も夕日に目を向け苦笑する。

 

「ハハハッ……熱が入りすぎたな……よし、帰るかハナビ」

 

 修行によりボロボロになったハナビの身だしなみを確認した悟は、少し考えた後

 

「そうだハナビ、今日はうちで夕飯食べていくか?」

 

 そうハナビを誘う。

 

「えっ!? そ、そのいいのですか? 急にお邪魔することになってしまいますし……服装も汚れていて……」

 

「それこそ日向の跡目をボロボロの状態で返すわけにもいかないだろ? うちの施設ならハナビくらいの歳の子もいて、代わりの服とかもあるしな。 もちろんハナビが良ければなんだが……」

 

「私は大丈夫です、行きたいです!!」

 

 ハナビのまだまだ元気の溢れる返事に仮面の下の表情を笑顔にして悟は

 

「そうか、なら一応日向の屋敷に影分身で連絡しとくかな。 ナツさんがいつぐらいに帰ってくるかわからないし……」

 

 そう言いながら影分身を使用し帰り支度を始めた。

 

 2人で後片付けを済ませ、施設へと向かう。

 

 帰路の最中、ふとハナビが悟へと疑問を投げかける。

 

「今日一日……悟さんと一緒に居て気になることが1つだけあるんですが……」

 

 それに対して悟は

 

「ん? 修行の事とかか?」

 

 と呑気そうな声で返事をする。

 

 少し不安そうな顔をしているハナビの様子に悟が気がつき足を止める。

 

「どうした?」

 

 悟の心配する声にハナビは言葉を選ぶように口ごもりながら口を開いた。

 

「む、無理をしていませんか悟さん?」

 

 悟を心配するかのようなハナビの問いかけ。 悟はほんの少しだけ沈黙を作り直ぐに

 

「任務帰りでってことか? 俺は回復力と体力には自信があるからハナビが気にするほど――」

 

「そうじゃないんです、今日の悟さんは……何だか無理をしているような……普段と少し違うような……」

 

「そんなことないよ、俺はいつも通りさ」

 

「なら……私と約束をしてくれませんか?」

 

 急なハナビの提案に、虚を突かれた表情を作る悟。 ハナビは悟に近づき、小指を悟に向けて立てる。

 

「今日みたいに……また、もう一度……で、デートし、してください!!」

 

 目を瞑り、どもりながらもそう必死に叫ぶハナビの様子に悟は、微笑し目線をハナビに合わせてしゃがみ自身の小指を差し出す。

 

「ああ……良いよ。 鈍い俺は今の今までデートなんて思ってなかったけど、確かに今日のはそうだよな、俺も楽しかった」

 

 2人は小指で約束の印を結ぶ。

 

「や、やっぱり一度だけじゃなくて、何度でもしてください!!」

 

 小指を揺すりながらも早口にそう提案するハナビに悟は笑いながら答える。

 

「思っていたより欲張りだなハナビは……良いよ、いくらでも付き合おうか!!」

 

「言いましたね、約束ですよ……っ?! 約束したからには破ったら針千本ですからね……っ?!」

 

 小指に力を入れる必死のハナビの圧力に、悟は苦笑いを浮かべた。

 

 そうして2人は暫くの間、小指で印を結んだまま並んで歩いて帰路を行くのであった。

 

~~~~~~

 

 施設へと戻った悟はハナビを風呂場まで案内し、自身も服装を普段着に変えマリエの自室へと向かっていた。

 

 部屋の扉をノックする悟に

 

「どうぞ~」

 

 中からはマリエの返事が返ってくる。

 

「失礼します」

 

 かしこまった感じに部屋に入った悟は中で眼鏡をかけ、書類を書いていたマリエに対して言葉を掛ける。

 

「ただいま、母さん」

 

 その一言にマリエは持っていた書類を落として、目線をぎぎぎぎっと悟へと向ける。

 

「……おか……お帰り、わが息子よ……っ?」

 

 テンパったマリエの返事に仮面を外している悟は無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「クククッどこかの偉い人みたいな口調ですよ?」

 

「と、突然そんな……母さんって言われたら、動揺もするだろう……っ!」

 

「いやあ、今日は影分身で一応帰りの挨拶はしましたけど本体の俺は初だったので……新鮮味を持たせようかと」

 

「いらん、いらんそんな新鮮味……ああびっくりして体温が上がってしまってるのが分かる……っ」

 

 動揺し、口調が素に戻っているマリエは手で自身の顔を扇ぐ。

 

「ゴホン……今日は災難だったわね~? 朝から帰ってくるなり桃さんが怒り散らして、納めるの大変だったし……」

 

「ええ、ウルシさんとマリエさんと白雪の説得のおかげで今は自室で落ち着いて白雪の看病していますからね」

 

「悟ちゃん、ホント悪いわね……任務帰りなのに今日一日施設のこと任せっきりにしちゃって……」

 

 今日、ウルシから自身の所持金などを受け取った悟の影分身は、本体に荷物を受け渡した後さらに多重に影分身をして施設の運営を行っていたのであった。

 

 その時再不斬はマリエと昼頃まではウルシも一緒になって部屋に押し込めて説得していた。

 

「良いんですよたまには。 俺だってこの施設で育ったんだから……」

 

 そう噛みしめるように壁に手を当てる悟にマリエは少しだけ違和感を覚える。

 

「どうかしたの……?」

 

「いや、話してはなかったんですけど任務先でまた死にかけて……ここの大切さを再度痛感したんですよ、帰るべき……この場所の……」

 

「っ……そう……やはり忍びなれど……死んでしまっては何の意味がないわ。 これは私も昔っっっから口を酸っぱくしていっていることだけどね」

 

「そうですね、何度も痛感して……そのたびに生きてて良かったって思いますよ」

 

「そう思うなら、あまり無茶はして欲しくないのだけど…………そうはいかないのよね?」

 

「ええ、譲れないモノが俺にもありますから……まあでも安心してください」

 

 マリエに笑顔を見せ悟はサムズアップをしてみせる。

 

「俺は死にませんよ」

 

 その様子にマリエはかつての友人の面影を感じ取る。

 

「……自信を持つことは悪い事ではないが……慢心はするな、油断に繋がる」

 

「もちろんです! ということで……1つ報告したいことが……」

 

 急に下手に出る悟に対してマリエは疑問符を浮かべる。

 

「実は分裂の術を使ってしまって……」

 

「ハっ!?!? おま、お前……そんな数日やそこらで使える術じゃない……って術のリスク・危険性とかも色々血を渡した後説明しただろう!? ~~~~~~ッ!!!!」

 

 塵遁を扱ううえでのリスクと、血を摂取してから数週間の経過観察をするなどの安全性に考慮していたマリエの思いを裏切っていたことに悟は目を逸らし額に汗を浮かべる。

 

 呆れかえっているマリエが頭を抱えながら悟に注意を促す。

 

「……っ普通……そんな早くに血が馴染むわけもないだろうし、拒絶反応もある程度出るだろうと考慮していたが……まあ、そんな意味もない嘘はお前がつくわけもないだろうし、本当に……お前は……っ」

 

「いや~本当に申し訳ないです……で、分裂の術を使ったので~その~っ」

 

 悟の態度にマリエは察しがついたのか机の引き出しを開ける。

 

「追加の血がいる……ということか……任務から帰ってきたら渡そうとは思っていたが……全く……ほら」

 

 数本マリエから悟に小瓶が投げ渡される。

 

「塵遁が使えたとなれば、既に血が馴染み始めていると見て良い……だからと言って慢心はするなよ?」

 

「はい、もちろんです。 っと、そろそろ夕飯が出来るころです。 久しぶりに俺の手料理食べてくださいよ!」

 

 話の内容の切り替えにマリエが1つため息をつき

 

「ええ、悟ちゃんのご飯……楽しみね」

 

 2人は食堂へと向かった。

 

 

~~~~~~

 

 

 施設での大人数の食事は賑わい、悟が個人的に用意した大量の食材は豪勢な料理となり施設に居るものの腹を満たした。

 

 マリエや施設の子どもたち、任務を終えて帰ってきていたウルシや、若干冷静さを取り戻していた再不斬、動けないながらも自室で白も悟の料理に舌鼓を打った。

 

 

 

 その後月が里を照らす中、日向の屋敷にハナビを送り届けるために悟はハナビを背負い建物の屋根の上を駆けていた。

 

「悟さん……いつの間にあそこまでの料理の準備を……」

 

 悟の背に居るハナビは、可愛らしい普段着を身に纏い、悟の料理を堪能し顔の血色を良くしていた。

 

「影分身ってのは本当に便利だって思うよ、俺自身も」

 

 他愛もない世間話も屋敷に直ぐについてしまい、早々に切り上げられる。

 

 屋敷の門の前ではナツが忍び装束のまま、ハナビの帰りを待っていた。

 

「ハナビ様、お帰りなさいませ!」

 

「ナツただいま」

 

 ハナビを背から降ろした悟は、包んだ弁当をナツへと手渡す。

 

「任務お疲れさまでしたナツさん。 良ければですが、弁当作ったので夜食にでもしてください」

 

「これは……悟様……ありがとうございます……っ」

 

 忍びなれど人である。任務で夕食もままならないであろうと考えていた悟はナツのために弁当も用意していた。

 

「ナツ……その弁当……私も作るの手伝ったから……」

 

 少し照れているハナビのその言葉に、先ほどまで疲れを隠しきれていなかったナツは満面の笑みになり喜び勇んで屋敷の中へと駆けていく。

 

 その様子に苦笑しながらもハナビは門をくぐり、悟へと振り返る。

 

「……悟さん、〈約束〉忘れないでくださいね?」

 

「……もちろんだ!」

 

 悟の明るい返事に対してハナビは

 

「絶対に……私を好きにしてみせますから……っ!!!」

 

 と恥ずかしさと嬉しさ、笑みの混ざった表情でそう宣言し屋敷へと戻っていった。

 

 姿が見えなくなるまで手を振っていた悟は

 

「これは……まいったな……あはは」

 

 ハナビのアプローチに困惑しながらも帰っていった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 夜中、施設には起きている者が1人も居なかった。

 

 皆が深い眠りと落ちている中1つの影が施設の窓から飛び出す。

 

 その影は目的地があるかの如く、静かに……真っ直ぐにとある場所へと向かう。

 

 

 

「……やっぱり来たか……」

 

 月が雲に隠れ、街路に佇む人影を黒く染めている。その人物の呟きのすぐあと

 

 影はその人物の元へと現れる。

 

 影はすぐそばのベンチの上で眠る少女に目線を向ける。

 

「…………サクラも気づいていたのか……流石だな」

 

 そして雲が流れ月明かりが2人を照らす。

 

 うちはサスケと黙雷悟。

 

「フッ……俺には思っていたよりも……繋がりが多くできていたようだ」

 

 サスケはサクラに目線を移し、そう呟く。

 

「そうみたいだな……サクラも俺と同じくお前の事に気が付けるくらいには、良く見てくれていたってことだ……」

 

「そうだな……」

 

 満更でもないというサスケの表情に悟も安心した表情を仮面の下で作る。

 

 2人は目線を合わせる。

 

「今更俺を止めるつもりもないんだろう?」

 

「ああ、見送りに来ただけだ。サスケの選択を尊重するつもりだ、だけど……」

 

「……」

 

「健康には気をつけろよ?」

 

「……気が抜けることを言うな……っ遠足じゃあねーんだぞ」

 

「分かってるけど、これが俺の本心だ……じゃあ元気でな」

 

「はぁ……相変わらずお前は……まあいい。 ……じゃあな、悟……ありがとう」

 

 サスケは振り返り歩み始め、悟はその背を見つめ見送る。

 

「……」

 

 無言でサスケを見送った悟は、月を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよならだ」

 

 

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