翌朝、施設「蒼い鳥」にチャイムの音が鳴り響く。
何度も、素早くならされるその音に蒼鳥マリエは自室に引いた布団から跳ね起きる。
「ハッ!? ……私いつの間に寝て……ってそんなことよりこの音は……?」
自分が寝巻まで着てしっかりと寝ているということに心当たりがないまま、混乱する思考を無理やり現状の現象の対処へと向かせる。
玄関に向かうまでの間、現在が早朝の4時30半ほどの時刻であることを確認しつつマリエは急ぐ。
「悟~~いねぇ~のか~!?」
玄関先に2つのシルエットを確認したマリエは急いで玄関の引き戸を開けた。
「あら、ナルト君に……シカクさんの所のシカマル君だったかしら……?」
「ああ、マリエのねーちゃん!! 悟はいねぇのかってばよ!?」
マリエが2人の姿、うずまきナルトと奈良シカマルを確認するとナルトは焦っているのか、マリエの後方の施設の中を覗き込みながら悟の所在を聞く。
「……どうかしたの?」
マリエの問いに
「いや……詳しくは言えねーんすけど、悟の力が借りたくてですねぇ……でもいないようなら仕方ねぇか……悟の保護者のマリエさんでしたっけ? もし悟が帰って来てたら至急五代目様の元に来るよう伝えてください」
シカマルは内情をボカしつつも悟への伝言をマリエに頼む。
「そうだ……はk……じゃなくて白雪は!? ねーちゃん、白雪は元気になってるか!?」
「白雪ちゃんは昨日の夜の時点でも熱が下がってなかったから……って!?」
マリエの返事の途中からナルトはシカマルの手を引き走り去っていく。
「白雪って誰だよ……ってことで、伝言よろしくっす……ナルト、焦るのは分かるが手ぇ引っ張んな――――」
引きずられながらもシカマルはマリエに一言かけ、その姿を消していった。
「……何かあったのか……それよりも悟ちゃん……今うちに居ないのかしら?」
何やら胸騒ぎを感じつつ、マリエは静けさを取り戻した施設の中へ戻る。
悟の所在を確認するために、悟の自室へと向かうマリエ。
途中施設の子どもたちが眠る部屋を覗くも、先ほどの騒がしさにもかかわらず誰一人として起きている者はおらず、皆心地よさそうに寝息を立てていた。
白と再不斬の部屋でも白のベッドに寄りかかるように再不斬が寝ており、白もまた同様に熱があるのか多少の寝汗をかきつつも寝息が聞こえる。
ウルシもまた同様にあまり寝相良くない彼は布団からはみ出すようにして心地よさそうに寝ていた。
「……」
余りにも静かな施設の様子に不安を感じつつも悟の自室前へとたどり着くマリエ。
「……悟ちゃーん? 居ないのー?」
悟の部屋の扉をノックするも返事は返ってくることはない。マリエがドアノブに手を当てると鍵がかかっていないことに気がつきそのまま扉を開けた。
部屋の中は普段通り片付いており、部屋の隅にはたたまれた布団が重ねられていた。
「……こんな早朝から出かけるなんて任務か、修行……かしら。 !っそう言えば……」
段々と思考が澄み渡ってきたマリエが玄関に設置されている掲示板に外出記録の有無を確認しに戻ると……
「『長期外出中』? 昨日の今日でこんな……何も言わずに……」
黙雷悟の名札の下には長期外出の字が記されていた。
(何か……起きてるのか?)
一抹の不安を感じつつもマリエは、『蒼鳥マリエ』として今日もまた施設の運営をするために通常業務に取り掛かるのであった。
~~~~~~
そして……
「うう……?」
森の中、木の幹もたれかかる一人の少年。
意識を失っていた彼は、自身の組織が、細胞が死滅していく痛みが和らいだことで意識をわずかに取り戻す。
「だ……だれ?」
彼、秋道チョウジは自身に対して医療忍術を施す人物へと声をかける。
一族秘伝の丸薬の効果により、死へと向かっていたチョウジ。仲間のサスケを……里を抜けた彼を連れ戻す道中、接敵した相手に1人立ち向かったチョウジは瀕死の状態となっていた。
「随分と……頑張ったみたいだなチョウジ……お前はやっぱりすごいよ」
目が霞むチョウジは、自身の動かせない体が外的力によって拘束されていることに気がつく。
「俺の医療忍術じゃ、今のお前の状態を完全に治すことが出来ない……悪いが、結界忍術との併用で症状の進行を抑えることしかできないんだ、ごめんな」
そういう〈彼〉の優しい声に安心感を覚えたチョウジは、気を緩ませ意識を手放した。
~~~~~~
「……グッ……っ」
森の中をよろめきながらも歩く長髪の少年。彼は身体に幾つもの穴を開け、傷をから血を流しつつも前へと進む。
「っ……!」
体は限界を迎えようとし、前のめりに倒れようとしたときにその少年、日向ネジの身体を何者かが支える。
「よう、随分とボロボロのようだな、ネジ」
「お前は…………ッ」
その者はネジの身体をゆっくりと地面へと横たわらせる。
「フフッまさかネジがここまでボロボロになるとはな。それに仲間のためにお前がここまで身体を張るのも奇妙なもんだな?」
医療忍術により、ネジの身体に最低限の応急処置が施される。
「別に……俺は仲間が……どうだの……そういう……感情に惑わされてなどいない……っ!」
「へぇ~?」
「だが……仲間の為に不相応に足掻くのも……悪くはないものだな……」
「そうか……」
「ッ……やはり人は弱く、運命はどうにも捻じ曲げることが難しい。 それでも……秋道チョウジのような、気弱な奴が奮起する姿に、不覚にも俺は……」
ゴホッと大きく吐血したネジは自身に医療忍術を施す人物へと目線を向ける。
「……俺たちは天才と呼ばれるが……繋がりが必要なただの人間なんだと……その繋がりのために足掻く、力の一部なんだと気がつかされた」
「……意外におしゃべりだな」
「ッフ……だがお前のことはやはり分からない……お前はなんの……た……め……」
意識を手放したネジに向け、〈彼〉は呟く。
「何時だって俺は……〈俺〉のために戦っている……」
~~~~~~
「木ノ葉の同盟国……砂の忍びだ」
「僕はまだ……酔っているのでしょうか……」
「リー……俺とやり合った時よりも随分とスピードが遅いな?」
「言ってくれますね……っ」
砂が渦巻き、朱い衣に身を包んだ少年は緑衣の少年の前に立つ。
「貴様……そうか、砂漠の我愛羅か」
自身の身体から幾つもの〈骨〉を突出させた人物は、警戒すべき人物へと指先を向ける。
「
指先から放たれた骨の白き弾丸は我愛羅の前に展開された砂の壁に突き刺さり、あわや貫通するほどの威力を見せる。
「……せっかちだな」
我愛羅の呟きと共に砂がうねりを見せた瞬間
「追いついた」
仮面の忍びが緑の閃光をほとばしらせながら姿を現す。
「次から次へと……」
呆れる〈骨〉を突出させた人物に目もくれず、仮面の忍びはリーと我愛羅へと声をかける。
「ここは俺が引き受ける、2人はナルトを追え」
「ですが……っ」
リーが反論を述べようとするが
「お前たちはサスケを取り戻すのが目的だろう? 行け」
有無言わさないよう仮面の忍びは手で合図を送る。
「お前……」
「我愛羅か、久しぶりだな。 あまり会話したことないけど俺のこと覚えておいてくれるって言ってただろう? ならリーを連れて先に行って、出来ればナルトを助けてやってくれ」
少し目を瞑り思案した我愛羅は、砂を操作し自身とリーの身体を砂で持ち上げ浮き上がらせる。
「ああ、覚えている……ならここは任せよう」
そのまま移動を開始させた2人に向け
「行かせるわけがないだろう」
再度骨の弾丸が放たれようとした瞬間
仮面の忍びの援護を受け我愛羅たちは先の森へと進行していく。
「ふー……お前たちはぞろぞろと……イラつかせてくれる」
「悪いな……
仮面の忍びに名を呼ばれた音の元五人衆、君麻呂は警戒を露わにする。
「貴様……」
「何故それを……って? お前について俺はある程度把握している、んでもどうしてもお前に聞かないといけないことがある」
君麻呂は腕の骨を身体から抜き取り、剣のように構える。
「僕がお前にモノを教える義理などない……サッサと殺して、先の2人も後を追わせてやろう」
仮面の忍びは身体から緑の雷光を放ち構えを取る。
「そんなことはさせないし、出来ない。 なんせ俺が来たからにはな」
「なるほど貴様が……『
~~~~~~
先へと進んだ我愛羅とリーは砂に乗り素早く移動している。
「この調子ならナルト君とも直ぐに合流できそうですね」
「ああ、うずまきナルトには個人的に借りがあるそれを……っ?」
ふと砂の移動を止めた我愛羅にリーは疑問符を浮かべる。
「どうしましたか? 急がないと……」
「……何者だ?」
警戒の色を示す我愛羅の呼びかけに、素直に木の陰から1人の人間が姿を現す。黒いローブを身に纏い、フードで顔を隠した人物は見た目からは性別すらも確認することができない。
「敵……ですか?」
リーもその人物の不穏な感じに警戒をし、構えを取る。
その怪しい人物は手を叩き拍手を行い、明るい声色で話し始める。
「いやー流石砂漠の我愛羅。 アタシの存在に気がつくとは……いやあ…………めんどくさ~」
「女性……?」
リーの呟きに反応しその人物はビシッと指をさす。
「正解!!! ……ってことでじゃあ、ついでにアタシの目的もわっかるっかな~♪?」
明らかにテンションの高いその人物のふらふら身体を揺らしローブの袖をひらひらと揺らす奇妙な様子に、リーと我愛羅は警戒の色を強める。
「名と目的を言え」
簡潔な我愛羅の要請にその人物は少しだけ不健康そうな白い肌と薄い口紅が塗られた口元を大きく歪ませ答える。
「素直に答えてあげよう! 私の名前は天音小鳥、目的は…………アナタたちの排除♪」
瞬間、我愛羅の隣にいたリーが気を失い前のめりに倒れる。
「っ幻術か……っ?!」
我愛羅の予想には有無も言わず、天音小鳥を名乗った人物はローブから右手だけを所謂指鉄砲の形にして露出させる。
「BAN♪BANん~~♪」
明るい声色を出しながらも、その指先から水を高速で射出し我愛羅を狙う撃つ天音。
我愛羅の砂によるガードはその水の弾丸を軽く受け止める。
(先ほどの奴の攻撃よりは威力がかなり低い……)
我愛羅がそう判断した瞬間、我愛羅の意識外で砂のオートガードが発動し我愛羅の周囲を覆う。
「何……っ」
砂に包まれた我愛羅に聞こえる風切り音から風遁による不可視の攻撃を受けていることがわかる。
「印を結ばずに……? 影分身を死角に隠していたか?」
冷静にことを分析しようとする我愛羅、しかし
「悠長にしてる暇はないよ~? お仲間も守らなきゃ♪」
外で、リーの方が狙われ始めたことで我愛羅の意識をそらす。砂のオートガードは我愛羅本人にしか発動しないため気絶しているリーは意識的に守る必要があるからだ。
「連弾砂時雨」
反撃に転じ、我愛羅は砂の壁から無数の砂の弾丸を射出する。
「ウップス! 危ない~危ない~♪」
天音はその攻撃を素早い身のこなしで避ける。
「でも私を捕らえるには数が足りないかもね!」
明らか手数の多いその攻撃を余裕に避ける天音に我愛羅は
「ならばこれでどうだ? ……砂瀑柩!」
と掌を広げて突き出す。 すると辺りに散った細かい砂が女性の四肢を捕らえる。
「ウップス!?」
「……喰らえ」
そして見せつけるように我愛羅は掌を握りしめ砂の圧力を強めそのまま四肢を砕きにかかる。
が
炸裂音と共に、女性の四肢を覆っていた砂が爆ぜる。
「手足からのチャクラ放出で逃れたか……」
「ちょっと痛かった!!」
天音は抗議を示すかのように声を荒げるも、その場に似つかわしくない声色であることに変わりはない。
(繊細なチャクラコントロールを得意としているようだが、チャクラ量自体は大したことがなさそうだな)
そう判断した我愛羅は一気に勝負を決めに行く。 両の手の広げ辺り一面を砂で被い女性を捕縛する。
「へぇ~かまくらみたいね♪」
呑気な女性の声に、我愛羅が呟く。
「砂瀑牢……そして終わりだ」
広いドーム状の砂が一気に収束を見せる。
「砂瀑送葬!!」
我愛羅の叫びとともに、多量の砂が互いをすり潰すかのように圧力をかけ収束する。
あたりに砂の散る音が聞こえる中、我愛羅がその砂の塊に目を向ける。
「……死んだか」
「と、思うじゃん?」
瞬間我愛羅は大きな力に弾かれるように、周囲の木々をなぎ倒しながら突き飛ぶ。
突然の衝撃とその威力の高さに、我愛羅の盾である体表を覆う硬い砂の鎧がボロボロと崩れ去る。
水遁でオートガードの砂の動きが固められ鈍り、ガードが間に合わない素早く重いその一撃は我愛羅の意識を削った。
「っ……何が……?!」
狼狽える我愛羅の呟きに背後から囁き声が聞こえる。
「教えなーい♪」
その瞬間には再度我愛羅は吹き飛び、砂の鎧は完全に崩れ去る。
地面を転がる我愛羅は何かにぶつかり止まる。
薄れ行く意識の中、それは先ほど自分を蹴り飛ばした天音であることに気がつく。
(……ッ速すぎる……)
言葉を発する気力すら削がれた我愛羅に、女性は足で踏みつけている我愛羅に目線を向ける。
フードを下から覗く我愛羅が目にしたその女性の瞳は
朱い光を見せる。
(うちはサスケと同じ……?)
意識が消えかける我愛羅にその女性はしゃがみ込み、耳打ちをする。
「お疲れ様……もしかしたら、また会えるかもね……砂漠の我愛羅」
「き、きさま………………」
そこで我愛羅の意識は完全に落ちる。
近くに避難させられていたリーが我愛羅の気絶により砂の保護から解放される。
その様子を確認した天音小鳥を名乗った人物はフードを取り、その黒髪を露出させる。
「ハ~~~~~っ思ってたよりも何倍もキッツイかも……不意打ちもバレてたし……
そう呟く彼女。 ふと何かに気がついたように「そうだ」と手をポンと叩き呟く。
「せっかくのチャンスだから〈彼〉にも会っておきましょうか……っ!」
~~~~~~~
一方悟と君麻呂の戦いは熾烈を極めていた。
お互いに一歩も引かない戦い、君麻呂は己の〈地の呪印〉を解放し悟を追いこむ。
「話に聞いていたよりも、随分と力が弱い……興ざめだ」
悟の飛雷脚を君麻呂は皮膚の下に展開した骨の鎧で受け止め、呟く。
「あいにく調子が悪いんだよ、アンタと一緒でねっ!!」
追撃の蹴りで、君麻呂の骨の剣による反撃を躱す悟。
雷神モードによる剛拳は君麻呂の防御を崩せないことに気づき悟はため息をつく。
「ハぁ……思ってたよりもキツイなぁ……やるしかないか……っ」
そう呟く悟は大きく息を吐き、より激しい緑の雷光を纏う。
「八門遁甲・第六景門・開……いくぞ」
更にスピードの増した悟の動きに君麻呂はガードのために全身から骨を突出させる。
「雷神・剛掌波!!」
ほぼ同時と錯覚するほどのタイミングで360°から衝撃波が君麻呂を襲う。
「っ……スピードが煩わしい……なるほど威力も上がり厄介だな」
体術メインの君麻呂に対し、拳圧による制圧を試みる悟。
しかし君麻呂の体表を覆う呪印が肌へと染みわたり、体表を浅黒く染める。
そして君麻呂の身体は骨の砕けるような奇妙な音を響かせ変化する。
その様子を剛掌波を放ち続ける悟が確認する。
(尻尾が生えて、背中から角のような骨の突出……これが状態2、見た目的に差し詰めトリケラトプスって所かな)
そう君麻呂の変化した姿に感想を思った瞬間
剛掌波に怯みもしず君麻呂は一直線に悟へと突き進み始める。
「死ね」
君麻呂のシンプルな突進、背中から前方に飛び出た2本の骨が悟に突き刺さる直前でその動きは止まる。
ギリギリのところでその骨を掴み受け止めた悟。
「っグゥ……!!!」
「この状態でなら、パワーは僕の方が上のようだ。 そして……」
その言葉の後、君麻呂の身体から無数の鋭い骨が飛び出し悟の身体を傷つける。
変幻自在の追撃が悟の肉を削る。
辺りに血が飛び散るも、そんなことはおかまいなしに悟は大きく頭を振りかぶる。
「……ッ喰らいやがれぇ!!!」
振りかぶった瞬間、仮面のチャクラの吸着を止め仮面を外し顔を晒した悟は君麻呂の頭に向け頭突きをお見舞いする。
大音量の鈍い音が響き、両者の距離が離れる。
骨の硬度が硬い君麻呂であっても、幾分かの衝撃が脳を揺らし足取りをふらつかせる。
しかし
「ッお前の方がダメージは大きいようだな?」
君麻呂の言葉通り、額から大量の血を流す悟。 尻もちをつき、頭を押さえながらもその緑の眼は君麻呂を捕らえ続けている。
「ふー……あまり時間もない……その様子では先ほどの
そういう君麻呂は大きく跳躍、そして
「終わりだ、
君麻呂の全身から悟に向け、おびただしい量の骨が突き進む。
無数の骨の集まりが、1つの塊となり悟を押しつぶさんとする。
「っ……クっ!!」
巨大な隕石と見間違うほどの質量に、景門・雷神モードの悟さえも支えきれずに片膝を着く。
上方からの質量の暴力、支える両手に突きさる骨、次第に悟の姿が骨に埋め尽くされ……
……
「死んだか……」
骨の塊の上部から君麻呂が呪印を収めた姿ではいずり出る。
ピクリとも動かない巨大な骨の塊が悟を押しつぶしたことを確信した君麻呂は
「しかし……奇妙な男だった……知りえるはずのないことを知り……なおも僕に……〈
そう呟き先に進んだ我愛羅とリーの行く末を睨む。
(もう……僕に時間はほとんど残っていない……しかし大蛇丸様のためにも……)
意識が完全に悟からそれた瞬間
骨の塊が爆ぜた。
民家ほどの巨大さと高密度を誇る骨の塊がバラバラに爆ぜ、上部に居た君麻呂を地面へと落とす。
「っ!?」
驚く君麻呂はが見た光景は……
青い蒸気を発し、上方へと拳を突きあげている悟の姿であった。
「……ありえないっ」
そう呟く君麻呂。
「はぁ……はぁ……ッ八門遁甲……第七・驚門……ここまでリスクのある術を使ったんだ……いい加減俺の質問に答えて貰おうか」
全身が血に染まり、雪の国で譲り受けた装束もボロボロになってもなお、黙雷悟の緑の眼の光は鈍らずに君麻呂を捕らえる。
「なるほど……君も特別な忍びの一人ということか」
その一種の狂気を孕んだ視線に、君麻呂は目を閉じ思考する。
「いいだろう……次の一撃で君を見極める」
「OK……シンプルに行こうか……っ!」
君麻呂は再度呪印を解放し、〈状態2〉の姿へと変貌
「穿て……鉄線花の舞・花!!」
右腕を骨が侵食し、巨大な槍の形へと変化する。
一方で悟も、驚門による反動に顔を歪めつつも、柔剛拳の構えを取る。
お互いに決死の一撃を放つための、タメを作り一瞬の静寂の後
相応の蹴った地面が爆ぜ、距離が縮まる。
超高速での接近、既に互いの認識が勝つか負けるか、衝突の瞬間に注がれるはずの展開、しかし君麻呂が刹那に見た景色は彼の思考に
自身の負けを連想させていた。
(……朱い瞳っ!?)
悟の柔の構えを取る右手が骨の槍に触れた瞬間、大きく側面を撫で槍内部に内部破壊のチャクラが注ぎ込まれ……
剛の構えを取る左手による渾身の左ストレートは最高硬度の骨の槍を麩菓子のように砕き、そのまま君麻呂の右半身を吹き飛ばす。
殴りぬけた拳圧が、君麻呂の後方の木々を揺らす。
悟の放つ青い闘気は収まり、君麻呂は正面へと倒れ伏しその体を悟はしっかりと受け止めた。
「グッ……あ……ああ、僕は……ここまでなのか……っ?」
「……その体でよくやったよ、アンタは……あとは
君麻呂の呪印は主の衰弱により、収まりを見せ姿を元の者へと戻す。
口から血を垂らした君麻呂は噛みしめるように、悔しそうな表情を見せる。
「大蛇丸さま……僕の生きる意味……僕は…………ッ」
うわ言のように呟く君麻呂の様子に、彼の身体を抱く悟もまた複雑な表情になる。
「――――」
瞬間小さく何かを呟いたように君麻呂の口元が動き、悟がハッとして彼を見た瞬間には
君麻呂は息絶えていた。
「ありがとう……アンタの意思は無駄にはしない」
悟はそう呟き、君麻呂の身体を地面へとそっと横たわらせる。
彼の目を撫ぜ、瞼を閉じさせた悟だが直ぐにハッとして何かに気がついたように立ち上がる。
(この気配……ッ)
チャクラ感知に引っかかった対象に、警戒を示す悟。
(俺が弱るのを待っていたのか……ッまあ最初っからそれが狙いだったんだろうな……)
悟の背後に位置する森の中から黒いローブを纏った人物が姿を現す。
「よし、見つけた……♪」
小さく明るい声で呟くその人物の手にはクナイが握られている。
悟は息を整える。
(大丈夫……まだいける……俺は死なない……こんなところで死ねないっ)
「3」
ローブの人物の明るい声が小さくカウントを取る。
「2」
悟は残る力を振り絞り、雷神モードへと移行しその目を写輪眼へと変える。
「1」
ローブの人物がフードの合間から朱い瞳を覗かせ…………
「零」
そしてこの日を境に黙雷悟は忍界から姿を消したのであった。