目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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9:異物たちの苦悩

 (歪んだ朱い雲が描かれた外套を着た忍び……確か暁とかいう組織の一員の天音小鳥……っ!? 暁がなんでこんなところに……っ)

 

 ハナビは目の前に現れた人物に驚愕しつつも、柔拳を構え白眼での観察を怠らないでいた。

 

 仮面を着けた天音小鳥はハナビを一瞥した後に目線をそらし、そのまま愛ゾンビたちの進行上に立ちふさがって尾異夢・叉辺流を構える。

 

「……」

 

 無言の天音は、片手で印を結び指鉄砲で雷を連射し走り寄る愛ゾンビたちを次々と痺れさせて行く。

 

 接近を許した愛ゾンビには刃を出していない尾異夢・叉辺流の先を押し付ける。 その刹那一際強い雷光が走るとその対象は膝から崩れ落ちる。

 

(どういうつもりかわからないけど……必要以上に相手を傷つけないようにしてる……? って数人は取りこぼして私の方に来てるじゃん……っ)

 

 闘う天音を観察していたハナビだが、愛ゾンビが詰め寄る対象は自分であることには気がついているため、近寄ってくる対象は自身の柔拳で対処していく。

 

 相手を必要以上に傷つけないように休止の点穴を突こうと試みるハナビ、しかし不規則に揺れ動く対象と集団で迫ってくる様子に焦りが生じて浅い打撃を繰り出してしまう。

 

「しまっ――っ!?」

 

 勢いよく愛ゾンビに覆い被さられそうになったハナビ。 しかし天音の雷銃がその取りこぼしを射抜き、昏倒させる。

 

(た、助けてくれてる……の? って)

 

 天音に助けられ安心したハナビだが、ふと白眼で現在いるホールのような広さの大部屋の出入り口の扉を注視すると、扉の外側から多数の人間が押し寄せていることが見て取れる。

 

「そんなぁ!? どれだけここに集まってくるつもりっ!?!?」

 

 ハナビのその叫びに天音が気づき、同じく外から揺さぶられている扉を見て

 

「チッ……」

 

 小さく舌打ちをする。 その瞬間扉は破られ、くノ一や下の歓楽街に居たと思われる人物たちが一斉に部屋に乗り込んでくる。

 

「っ!」

 

 天音は、印を結び床に手を着き雷遁・地走りを発動させる。 しかし余りにも術の範囲に対象が多いためか発生させた電流は分散してしまい、効果が薄れてしまい愛ゾンビたちを留めることは出来なかった。

 

 そのまま物量に押し切られ人の波に埋もれる天音を見てハナビは顔を引きつらせながらも大きく息を吸う。

 

(手荒になっちゃうけど、もうやるしか……ないっ!)

 

「八卦掌……回天っ!!!」

 

 ハナビが体を回転させ、ドーム状の回転するチャクラの膜につつまれると押し寄せる愛ゾンビたちを次々と部屋の隅に向け吹き飛ばし始める。 しかし

 

(余りにも人が多すぎる……っ! このままじゃ押し切られ――)

 

 ハナビが物量に圧倒され始めたその時、人波に呑まれていた天音がハナビと同等の動きを見せ、回天をして愛ゾンビたちを吹き飛ばし退け始めた。

 

(あれは!? 日向の回天をも真似するなんて……あれが噂に聞く相手の動きをコピーする写輪眼の力……?)

 

 大部屋に生じた2つのチャクラのドーム。 天音とハナビの回天が接触すると互いに回転力を高めあい、より強烈な圧力が生じ愛ゾンビたちを制圧していった。

 

………………

………… 

…… 

 

 

 

 そしてそのまま5分ほど過ぎたのちに、部屋に押し寄せていた愛ゾンビの進行は何らかの影響力から解放されたように次第に止まり次々と倒れ伏していく。

 

 ドタドタという音に気がつき回天を止めたハナビは、脚をふらつかせながらも何とか自身は倒れることはなかった。

 

「うっく……はぁっ……はぁ……っ」

 

 回天を維持し続けたことで、ほとんどの体力を消耗し滝の様に汗を流しているハナビは白眼が途切れ、膝に手を着きながらも目線を天音に向ける。

 

(っ……全く疲れている様子がない……これが……暁……っ)

 

 落ち着きをみせる佇まいの天音は、そのまま大部屋にひしめく人の絨毯を踏まないように歩き始める。

 

「……はぁ……白さんや姉様、テンテンさんたちも途中で勢いに任せて吹き飛ばしちゃってたと思うけど、どこに……ってその仮面は返してぇっ!?」

 

 天音が白たちが乗り込んできた割れた窓に近づいていることに気がついたハナビは咄嗟に声をあげる。

 

 ピクッと反応を示した天音はハナビへと体を向けその写輪眼を向ける。

 

「っ……ど、どういうつもりで貴方がその仮面を盗ったのかは知らないけどそれは……私にとって……それは大切なモノなの……返してっ!」

 

 体力も尽き、ただ相手に懇願することしかできないハナビ。 けれど仮面の為なら敵対も辞さない姿勢を見せる。

 

 そんなハナビを無言でただじっと見つめる天音は、降ろしていた右手をゆっくり……ゆっくりと挙げる動作をして見せる。

 

(何考えてるか分からないけど……良かった、一応返してくれるんだ)

 

 ハナビが内心ほっとして天音に向け足を向け歩み始めようとした瞬間。

 

 天音は仮面を外そうと触れさせていた右手を、瞬時にハナビに向け指鉄砲の形に変える。

 

「――え」

 

 

 バチンッ

 

 

 と鋭く雷の走る音が、部屋に響く。

 

 雷光に対して咄嗟に目を閉じていたハナビは自身の体に何も影響が無いことを不思議に思い目を開ける。

 

 すると

 

「……流石に油断しすぎですよ、ハナビさん」

 

「白さんっ!」

 

 氷で腕全体を覆い、天音の雷銃を防いだ白がハナビの前に立っていた。

 

 表情は先の影響で若干辛そうにしているが、白はそのまま笑顔のまま空いた手でハナビの頭を撫でる。

 

「ですが良くやりましたね……見事状況を打開し、生き延びてくれていて本当に良かった……ハハハッ僕の隊長としての面目は丸つぶれですね……ですので」

 

 そのまま、白が凍らせた腕を振るうと氷が霧散し白の周囲を漂う。

 

 白が天音をきつく睨みつけ、互いの視線がぶつかる。

 

「――彼女の相手をして汚名返上とさせてもらいます」

 

 刹那、白が高速で印を結ぶと霧散していた氷が再結集して、円柱となり天音に向け突き出される。

 

「っ……!」

 

 天音がその攻撃を咄嗟に腕でガードし、反動で窓の外に身を投げ出される同時に白も駆けだす。 

 

「ハナビさん、派手な服装の犯人の拘束と二人(テンテン・ヒナタ)の介抱よろしくお願いします」

 

 天音を追い窓から飛び出た白は夜空の闇へとハナビの視界からその姿を消した。

 

 口を開く暇もなく一人残されたハナビは、流れる様な一連の出来事に困惑しつつもダンビの拘束と姉とテンテンを倒れ伏す人の海の中から見つけ出すことを最優先に動き始める。

 

「天音小鳥……あの人はなんで私を守ってくれたんだろう……それに何だか……初めて会った気がしない……ような?」

 

 

~~~~~~

 

 

 天音の身体が空中に投げ出され、軽重岩の術で態勢を整えようとしている様子を確認し窓から飛び出た白はそのままの勢いで天音に組み付く。

 

「っ……」

 

「貴様が天音小鳥……悟君に……黙雷悟について知っていることを答えろォ!!」

 

 空中をグルグルと回転し、互いに揉みあいながら落下する二人。

 

 そのまま二人は加速し、先ほど居た建物の下に広がる遊郭の屋根を突き破る様に落下。 けたたましい衝突音を立てて煙を巻き上げる。

 

 人の気配が消えた遊郭街で瓦礫の崩れる音が木霊した後、その屋根に空いた穴から天音が飛び出しそのまま近くの屋根に着地する。

 

「……」

 

 天音は自身が飛び出た穴を警戒し注視すると、同じく人影が飛び出て来て目の前に着地する。

 

 屋根に着地した白は、明らかに憎悪に近い感情を表情に浮かばせ天音を睨む。

 

「……お前が……()()()悟君の近くにいたことは分かっている。 答えろ、その時お前は彼に何をした……お前はなぜ暁に入った……っ」

 

 周囲の空気を凍らせるようなプレッシャーを放ちながら白は天音の写輪眼に怯むことなく視線をぶつける。

 

「……ふうッ」

 

 凄まじい圧を受けながらも、天音は落ち着いた様子で一息ため息をついて自身の体に着いたごみを払う仕草をする。

 

「答える気が無いのなら、力づくで」

 

「――悟、悟ってうるさいなぁ……木ノ葉の忍びは皆そんなに黙雷悟のことが好きなの?」

 

 先ほどまで無言を貫いていた天音は突然心底めんどくさそうな口調で言葉を発する。

 

「当たり前だ……っ! 彼がどれだけ周囲の支えになっていたのか……それは彼に救われた僕がもっとも痛感している」

 

 白の回答に、天音は目を細め白へと語る。

 

「まあ、知ってるよ? ……アイツは木ノ葉を()()()()ってことをね」

 

 肩をすくませながら、悟が木ノ葉を裏切ったという言葉を発した天音。 白はその言葉を受け、目を見開く。

 

「悟君が木ノ葉を……っ?! あり得ないっ!! 彼は……誰かを傷つけることを望んでする人じゃない……出鱈目を――っ!」

 

 白の言葉に天音がため息を被せる。

 

「ハア……実際そうなんだから仕方ないんじゃない……? つまりはそういう薄情な奴だったってことだよ。 あんた達木ノ葉もいい加減裏切者の悟のことなんかほっといて、他のやるべきことでもしてなさいな」

 

 うっとおしそうに手を払う仕草をする天音の態度は、白の逆鱗に触れる。

 

 白は無表情となり、目を伏せる。

 

「……貴様が本当のことを言う気が無いのは分かりました。 もうその口は閉じてくださっていいですよ……後は木ノ葉でゆっくり尋問して聞き出すので」

 

 白が張り付けたような笑顔になると、天音は不貞腐れたような仕草をして呟くことで反応を返す。 

 

「本当のことなんだけどなぁ……」

 

 そして両者の放つチャクラの圧がぶつかり合い、周囲の空気を震わせる。

 

「丁度胸糞悪い話を聞いた後で、イライラしてたんですよ……なので出し惜しみ無しで僕の八つ当たりを受けてくださいね♪」

 

「へぇ~……そのイライラしてるって所だけは共感してあげる♪」

 

 瞬間、屋根が二箇所弾け飛びその中間地点で両者がぶつかる。

 

 ぶつかった衝撃の余りの強さに周囲の屋根の瓦が円状に吹き飛ぶ。

 

「っ!」

 

 天音は写輪眼で白の動きを見切り、突き出された拳をガードしてカウンターを狙う。

 

 が、白の拳を受け止めた天音は想像を超える膂力を受け吹き飛び屋根の上から別の遊郭の店へと叩きつけられる。

 

 拳を振りぬいた白は印を結びながら、呟く。

 

(遊郭街の人間は全て、中央のあの建物内にいる……つまり)

 

「どうか、死なないでくださいよ? ……天音さん」

 

 白が印を結び終えると、大気が震え天音が突っ込んだ店の上空に白い煙が渦巻く。

 

 パキパキッと音を鳴らしながら空中に氷が形成され、その規模を拡大させながら動物の様を模る。

 

「氷遁……一角白鯨っ!」

 

 空に出現した一角を持つ氷の鯨は、その巨体で体躯の下を無残に吹き飛ばす。

 

 術が地面に落ちた衝撃で、周囲の遊郭の建物がゴソッと吹き飛ぶ。

 

 安置に避難していた白が地面に横たわる巨大な氷の鯨の様子を伺うと、瞬間その巨躯を突き抜けるように上空に向けて炎の柱が出現。

 

 その頂点で天音が姿を現す。

 

「おかしい……妙に強いね……っこの感覚はまさか――ッ」

 

 空中で何か白の様子を思案している天音。 その隣に、氷で出来た鏡が瞬時に出現する。

 

「っ早……っ!?」

 

 鏡から飛び出た白は手刀を氷の刃で被っており、天音に対して思いっきり切りつける。 天音も写輪眼でその高速の攻撃に反応し、とっさに尾異夢・叉辺流に火遁の刃を出現させ刃を受け止める。

 

 しかし火遁のチャクラを圧縮した高熱の刃を物ともせず、露すら発生させない白の氷の刃はそのまま天音を地面へ向け叩きつけるように弾く。

 

 白はそのまま地面へと叩きつけられ仰向けに倒れ伏す天音に切りかかると、天音も地面を背にしてその攻撃を尾異夢・叉辺流で受け止める。

 

「……先ほどから僕に写輪眼で幻術を掛けようとしているようですが、無駄ですよ。 僕に生半可な幻術の類は利きませんので」

 

「生半可とは言ってくれるねぇッ……土遁!」

 

 天音は片手を空け、印を結んで地面を叩く。 土遁の術が発動して周囲の地面が突出して隆起し白を押しつぶそうとするも白は後ろに跳びそれを避ける。

 

 天音は息を整えながらも、白の様子を観察する。 すると白は白い息を吐き、彼女の髪が先端から白く変色していっていることに気がつく。

 

 そして写輪眼で改めて白のチャクラの色を確認することで、天音はとある事実を確信する。

 

「……少し前にも()()()()()()と戦ったけど……」

 

「ああ、それは風影の我愛羅君のことですね。 ですが、今の僕は彼とは違い周囲を気にする必要もつもりもない……卑怯な手は通じませんよ?」

 

 白は天音の問答に付き合う素振りを見せず、印を結ぶ。

 

「氷遁・燕吹雪」

 

 構えた白の掌から飛ばされた氷の燕の大群。 それに反応した天音が駆け、その燕の体当たりを避けると着弾地点の地面が爆ぜ、逃げた先の家屋を問答無用で吹き飛ばしていく。

 

 桁違いの威力の氷遁に天音は、印を結び対抗しようと試みる。

 

「火遁・豪火球!!」

 

 仮面を少し上にずらして口元から放たれた巨大な火球は燕の大群を覆いその姿を見えなくする。

 

 しかし、天音が気がつくと白の術は豪火球で溶けることなく突き進んでおりその凶弾の数々が天音をミンチに変えるが如く押しつぶしていった。

 

()()……僕の氷は僕の意思の如く、絶対に溶けることはない……只の火ではもはや防ぐ手立てはないですよ」

 

 白の言葉に返事をするようにその頭上から天音の言葉が響く。

 

「火遁……豪火滅失っ!!!!!」

 

 影分身を囮に変わり身で白の頭上に移動していた天音の口から途方もないほどの巨大な炎の海が溢れ出す。

 

 空中に浮く天音の眼下が火の海で染まり、白の姿を消し歓楽街の一画が完全に炎に包まれた。

 

 しかし、途端にその炎の海は一点を中心にして次第に消え去っていく。

 

 その様子に天音は冷や汗を仮面の下で垂らし苦言を呈す。

 

「只の炎じゃなければ通じるかと思ったけど……っそういう次元じゃなさそうだ……っ」

 

 天音の呟きと同時に炎の海が消えさってしまう。 天音の目線の先に立つ無傷の白を中心に周囲の気温は一気に下がり、天音が吐く仮面の横の隙間からでる息も白く変わる。

 

「フフッ……今の火遁には驚きましたよ……まあ……驚いただけですが」

 

 その髪を完全に白色へと変色させた白の吐いた息はもはや白くなることはなく、その体を中心に霧が発生し辺りの瓦礫がパキパキと音を立てて凍り始める。

 

 余りの超常現象ぷりに呆れた様子の天音は心底めんどくさそうにして空中で口を開いた。

 

「……その力……間違いなく尾獣の類か……それも阿保みたいに研ぎ澄まされた力。 でも――」

 

「まあ貴方が知る由もない力でしょう……言えることがあるとすれば、疎まれていた存在の僕と歪んだ存在は相性がいいのかもしれないってことだけですね」

 

 白のまつ毛や眉毛まで白く変色し、思わず見とれてしまうほどの姿に天音は一種の恐怖を感じ身震いをする。

 

 白は瞳を閉じて、小さく息を整えるとゆっくりと目を開く。

 

「さて、準備運動もここまでです。 いい具合に身体が冷えましたので…… 

 

 

 

 

 

 本気で行きますね」

 

 

 

 

 白がそう笑顔で宣言した瞬間、白の体を中心に吹雪が発生する。 渦巻く巨大な吹雪が白を隠すと辺り一帯にとてつもないチャクラの圧を生じさせる。

 

 そのプレッシャーに息を呑んだ天音はこの先のことを思い悩む。

 

(ここまでとは……なるほど……どうしたものかな。 ()()()()……雪羅の力を相手にはこちらも出し惜しみをするわけには行かなくなったか……あ~あ、まだまだ隠し通すつもりでいたのになぁ……まさかこんな所で……)

 

 天音の写輪眼はその吹雪の先のチャクラの変化を見通す。

 

「まあ、この状況……四の五のは言ってられないか」

 

 天音がそう呟くと手の平を合わせた状態でチャクラを練り始める。

 

 瞬間巨大な吹雪を裂くように、巨大な何かが出現し天音をはたきおとすように押しつぶした。

 

 その衝撃に地鳴りがし、吹雪が裂けたことで隠されていたその先の光景が目に映るようになる。

 

 

 

 

 人工尾獣・双頭狼雪羅……かつて黙雷悟が雪の国で打倒したそれと同じ姿をした存在……双つの頭を持ち、見たものを凍てつかせてしまうと錯覚させるほどの透き通った白銀の毛並みを持つ狼へと変貌した白。

 

 その巨躯による前足が天音を踏みつぶしていたのだ。

 

 白は念には念と、その前足から先の地面を氷柱で埋め尽す。

 

≪……どうやらお終いのようですね。 

 

 白の声が響く。

 

(相当な手傷を追っても死ななかったと聞いていましたが……少しやり過ぎましたか……まあ、一瞬で凍らせたので蘇生手段は幾らでも――)

 

 そう白が思った瞬間、前足がぐらつきを見せ押し戻される感覚を覚える。

 

 

 

≪まさか……っ!?

 

 

 

 地響き鳴った瞬間と共に、白は自身の巨躯が吹き飛ばされるている事に気がつく。

 

 白の足先から昇る様に生じた巨大な“何か”はそのまま尾獣化した白の体を雲より高く押し上げ、その弧の頂点で推進力を地面へと向け落下を始める。

 

≪っグ……!!??

 

 隕石の如くその白と“何か”は遊郭街の外の歓楽街よりさらに外、何もない広大な荒れ地へと墜落し途轍もない地響きを発生させた。

 

 その衝突で生じた巨大なクレーターの中心に横たわる尾獣化した白はその体を地面に押し付ける物体を視認する。

 

 

 

 

(……()()()()……まさかッ!?)

 

 

 

 

 デッサン人形の様なツルツルの頭部以外は精巧に出来た金剛力士像のような姿の巨人は、白の2つの首を絞め地面へと押し付ける。 その力は凄まじく、尾獣化した巨体の白を地面へと沈めていく。

 

≪歪に歪んだ、特別な存在は自分だけだとでも思った? ……残念でした♪

 

 巨人の肩に手を着いている姿の天音の言葉が白へと投げかけられる。

 

 拘束された白は力が抜ける感覚に危機感を覚え、咄嗟に術を発動させる。

 

≪ッ……一角白鯨っ!!

 

 周囲の気温が一気に下がり、巨人の眼前から飛び込むように瞬時に現れた氷の白鯨。 その突き刺すような角に対して巨人は白の首を掴むその手を離し、白鯨の角と頭を押さえるようにして受け止める。

 

 白鯨の質量に任せた体当たりは巨人を押しやり、衝突に踏ん張るその両足に地面を大きく抉らせながら後退させる。

 

 その巨人は、より一層足を踏ん張り地面に足をめり込ませて後退を一瞬止めると掴む白鯨の角を引き寄せるようにして、背負い投げの要領で後方の地面へと叩きつけその巨体を砕く。

 

 周囲の地形を大きく歪ませる攻防。 白が体勢を整え立ち上がると、改めてその相対する巨人の姿を見つめる。

 

≪本物ではないとはいえ、僕の力(尾獣)を抑える……()()()()()()()()()を使えるなんて……貴方は写輪眼を持つうちは一族とばかり思っていましたが――

 

≪言ったでしょ? 私は歪んだ存在なのよ……まあさっきまでの余裕の表情はなさそうで良かった。 私に木人の術まで使わせたんだ、後悔させてあげるよ

 

 木霊する互いの声を聞き、四足の獣と二足の木人は腰を屈める。

 

 

 ――刹那、ダイナマイトが炸裂するような足音を互いに響かせながら駆け寄る。

 

 

 木人が大きく振りかぶった右の拳が双頭の片方を殴りつけるが、残った頭がその振り抜いた右腕を噛み砕く。

 

≪おおおおおっ!!

 

≪あああああぁぁっ!!!

 

 轟く両者の叫び声と共に白の頭突きと、木人の左ストレートがぶつかり互いが大きく体勢を仰け反らせ二人の距離が離れる。

 

 一挙手一投足が周囲の地形を変える巨体のぶつかり合いが大きな地響きを呼び、戦闘の規模の大きさを示す。

 

 距離の離れた両者は莫大なチャクラを練り上げると、白は双頭の口を開け、木人は右手を再生させながら両掌を前に構える。

 

 

 

≪氷遁・銀狼氷柱穿孔牙(ぎんろうひょうちゅうせんこうが)っ!!!

 

≪木遁・挿し木の術っ!

 

 

  

 双頭の口から巨大な氷柱が無数に形成され、射出される。 対して木人の掌からは大木が連続で生成し発射され、氷柱と大木が空中でぶつかり合い互いを砕き相殺し合う。

 

 互いの飛び道具が射出されるたびに周囲の空気が震え、互いに相殺することでさらに大きな衝突音が辺りの音をかき消し木霊する。

 

≪クッ!!

 

 拮抗する交戦状況を打開するため、白はさらにチャクラを消費して術を複数発動させる。

 

 一角白鯨が木人の頭上に押し潰さんと現れるが、それに呼応するように更なる地響きが生じて地面が割れるとそこから木龍が顔を出す。

 

 木龍は身体を伸ばし、白鯨の横腹に噛みついてそのまま地面へと叩きつける。

 

 また氷の燕の大群が木人の肩に居る天音を狙う。 しかし白鯨を砕いた木龍が地面に潜って移動し、天音の盾になるように地面から現れその顔で燕の大群を受け止める。

 

 一度木龍の顔が弾け飛ぶがその断面から直ぐに新たな木々が生え、再生を終えるとともに再度地面へと潜航する。

 

(流石伝説の木遁忍術、手ごわいですね……牽制のしあいでは、埒があかないか……僕の力も長くは保てない、こうなっては――)

 

 白は決定打に欠けることを気にして、一気に勝負を決めに掛かる。

 

 氷柱の射出を止め、挿し木の術の射線からそれながら白が木人へと素早く近づく。 木人が左腕を振るい、白を遠ざけようとするが白は真上へ跳躍してその攻撃を避ける。

 

(この術で……終わらせるっ!)

 

≪氷遁・大氷――

 

 白が術を放とうとした瞬間、木人を中心にして四方の地面から木龍が四匹顔を出す。 そのまま勢いよく空中に居る白へと木龍たちが絡みつき、白の四肢を一匹ずつ噛みつく。

 

≪グッ……しまった……

 

 木龍が人工尾獣・雪羅のチャクラを吸い取ることで、白は力が抜けてしまい木龍の拘束から逃れることが出来なくなってしまう。

 

 勝ちを確信した天音は木龍を操作し、白を地面へと押し付けると大きく木人の手を振りかぶらせる。

 

「残念でした、ではサヨウナラ~」

 

 軽快な口調の天音の言葉は白にだけギリギリ聞こえるように囁かれ、それと同時にその木人の手刀が勢いよく白の頭部目掛け振り下ろされた。

 

 

 

「「八卦・空壁掌っ!!!」」

 

 

 

 突然壮絶な衝撃音と共に木人の手刀は横に弾かたことで逸れ、地面へと激突しその場を大きくえぐる。 白はハッとして、声が聞こえた方に目線を向ける。

 

(――ヒナタさんに、ハナビっ!?)

 

 木人と尾獣化した白らの図体と比べれば、とても小さなその二人を見つける。

 

 その二人は再度、大きく腕を引っ込めて同時に掌底を繰り出す。

 

「「空壁掌っ!!!!!」」

 

 規模が通常の空掌より跳ね上がったそれは、木人の胸を穿ち大きくよろめかせる。

 

 そして

 

「いくぜ、赤丸っ!!」

 

「ワッフ!!」

 

 木人の後方から、キバと赤丸が印を結びながら走り寄る姿が映る。

 

「犬塚流・人獣混合変化っ!! 双頭狼!!」

 

 術の効果でキバと赤丸は木人のこぶし大の大きさの双頭の獣となり、激しく回転しながら木人の膝裏に体当たりを仕掛ける。

 

「牙狼牙ぁ!!」

 

 巨大な獣の螺旋回転の体当たりが木人の膝裏を抉り、膝カックンの要領で木人の体勢を崩す。

 

 ドシンッと音を立てて膝を着く木人を尻目に、白の体を締め付けていた木龍が次々と崩れ去っていく。

 

「秘術・腐蝕蟲……事情は分からないが白隊長……後は任せる」

 

 シノの体から解き放たれた蟲たちが木龍を蝕んでいき、白は身体の拘束が緩んだことを確認し木龍の破片をばら撒きながら再度大きく跳躍。

 

 空中で尾獣化が解けてしまい、雪羅の身体が霧の様に消えさり中から白髪の白が現われ木人へと勢いよく降下していく。

 

「……喰らえ――氷遁・大氷界の術っ!!」

 

 印を結び、手をかざした白の掌から途方もないほどの氷が空気を伝わるように現れ、木人の体を荒波の如く飲み込む。

 

 木人を完全に飲みこんだ氷塊の脇に白は着地。 疲労により膝を着くと、髪の変色は解け元の髪色へと戻る。

 

「はあっ……はあっ……やったか……?」

 

 白は息を荒くさせながら、氷に飲まれた木人を見上げる。 ……しかし天音が居たはずの木人の肩に、人影は見当たらず。

 

「っ!?」

 

 白が気がつけば、背後に天音が回り込み尾異夢・叉辺流から青い刃を突出させている。

 

「それは、フラグってやつだよ……」

 

 天音の囁くような言葉と共に振り降ろされる刃。

 

 白がそこから躱そうとするも

 

(っ!? 眩暈が……っ)

 

 愛染の術と尾獣化の影響が重なり、白は立ち上がれずに地面に手を着く。

 

「「白さんっ!!」」

 

 ヒナタとハナビが叫ぶ声が響く。 誰の助けも間に合わないタイミング。 その刹那

 

 ――ほんの一瞬天音の刃の動きが止まる。

 

(……っ!)

 

 その僅かな隙に、尾異夢・叉辺流と白との間にクナイが割り込むように投げ込まれ、一瞬でテンテンが姿を現す。

 

 テンテンはクナイにチャクラを込め、天音の刃を受け止めると両手でもったクナイを持ち上げる。

 

「間に……あった……っおうりゃっ!!」

 

 八門も開き力任せに天音の体を押し返し距離を取ったテンテンは、片手で白の体を引き寄せ立ち上がらせる。

 

「大丈夫、白!?」

 

「……どうやら、あまり大丈夫ではなさそうです……しかしまだ、確かめたいことが……っ」

 

 白はテンテンの支えから離れ印を結ぶ。

 

 天音は周囲に木ノ葉の忍びが集まって来ていることを察して軽重岩の術で飛びあがりその場から離れようとする。

 

 しかし

 

「氷遁秘術・魔鏡氷晶!」

 

 天音は空中に球体状に展開された魔鏡に囚われる。

 

 白は自身の横に展開した一つの鏡の中に姿を消した。

 

 魔鏡の中、術を発動させ突破を試みようとする天音に声がかかる。

 

「貴方は……なんなんですか?」

 

 ふと天音は魔鏡に移った白へと目線を向ける。

 

「尋問は木ノ葉に連れてってからじゃないの? 悪いけど、状況も不利そうだし逃げさせてもらうから」

 

 お構いなしにと天音が再度印を結ぶ。

 

「……何故先ほど、テンテンさんが助けに来るのを一瞬待ったんですか!? 貴方は――」

 

「ハアっ……」

 

 白の言葉を遮る様にため息をついた天音。 印を結ぶのを止め、白が映る鏡へと再度写輪眼を向ける。

 

「やっぱり……手を出すんじゃなかった」

 

 小さく呟かれた天音の心底後悔するような言葉。

 

「えっ?」

 

 白が無意識に言葉を漏らすと同時に天音は白の映る真上の鏡に向け、飛びあがる。

 

「――逃がさないっ」

 

 白がそれを阻止しようと、鏡を時空間に繋げ天音を球体内から逃がさないようにする。 しかし天音はそれにお構いなしに突っ込み、拳で鏡を粉砕し真上から飛び去っていった。

 

「バカなっ!?」

 

 自身の術をいともたやすく破られたことに驚く白。 夜空の雲の上へと逃げ去った天音の姿を球体の中で眺めていた白は悔しさに唇を噛むもふと、中に残された仮面に気がつく。

 

 鏡から出た白はその仮面を手に取り術を解除。 木ノ葉の忍びらが集まっていた地面の付近に出現させた鏡から姿を現す。

 

「白、どうだった!?」

 

 テンテンが白の姿を確認すると同時に言葉を掛ける。 白は目を閉じ首を振るも、手に持つ仮面をハナビへと手渡す。

 

「……っ! 白さん、ありがとうございます!!」

 

「いえ、皆さんの助力が無ければ僕はやられていたでしょう……ご迷惑をお掛けしました」

 

 頭を下げる白。 だがそんな気落ちしている白に

 

「しっかし、白隊長も俺と同じで獣人変化ができるとはなぁ! それも滅茶苦茶デカかったしっ!」

 

 キバは明るく声をかける。

 

「……あれはキバの術とは類が違うような気もするが……何故なら遠目からでも規模の大きな氷遁が確認できた。 キバの術は飽くまで変化の一種であり――」

 

「そんなことりも白さん、無事で良かったです。 遊郭街の犯人もハナビが取り押さえてくれていたので、戻って後処理をしないとですね」

 

 シノとヒナタの言葉が雰囲気を明るく戻す。

 

 そしてテンテンが白の後ろから勢いよく肩を組み、声をかける。

 

「……こういう時は、そんなしょげた顔をするもんじゃないんじゃない? それに謝るよりも先に、言う言葉があるでしょ?」

 

「……っ! そうでしたね、皆さんありがとうございました」

 

 白の仮面の無い笑顔に、周囲の雰囲気はさらに良くなる。

 

「っ……仮面の下始めて見るけどよォ……白隊長って滅茶苦茶美人だな」

 

「キバ……それは俺も同意しよう」

 

 キバとシノの言葉に、女性陣が苦笑いを浮かべる。 

 

「取りあえず遊郭街に戻りましょうか。 ヒナタさんの言う通り、主犯のダンビへの事の尋問とその他の処理をしなければいけません」

 

「りょーかいっ! 今回の任務、私正気を失ってた時間のが長いような気がするなぁ……」

 

 白の言葉をテンテンが受け、一同は遊郭街へと戻るために移動をし始めた。

 

「……」

 

 ふと白は振り返り、天音が姿を消した空を見上げる。

 

「白さーん、早く行きましょうよ~」

 

 ハナビの言葉にせかされ、白は木ノ葉の小隊の中へと戻っていった。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の一同が遊郭街に戻ると、気絶していた一部の忍び達は目を覚まして混乱している様子であった。

 

 ヒナタとテンテンが混乱する忍びや一般人らに傷を与えないように事情を説明する。

 

 また建物最上階で縄で柱に拘束されていたダンビの身柄を木ノ葉に連れていくため、シノが先に歓楽街に忍ばされていた協力者に引き渡した。

 

 キバは嗅覚を頼りに、建物の一室に監禁されていた湯の国の大名を見つけ出し身柄を解放。

 

 そして白とハナビは人の居なくなった最上階の部屋で愛染の入れられていた箱を開ける。 赤く染まった水が流れ出し、中から出てきた愛染の体を白は受け止める。

 

 笑顔で固まった愛染の表情、ハナビはその顔を見つめ呟く。

 

「この人……最後にありがとうと……言ってました。 私には事情は分かりませんが……」

 

「僕にも……分かりません……彼女が血継限界を持ち、利用されていたこと以外は。 ……彼女のような被害を出さないためにも、僕たちはもっと強くならないとですね、ハナビ」

 

「はい……」

 

 仮面を着けた白は、悲しそうな声を出すも決心を胸に抱き立ち上がる。 ハナビもまた、忍界における悲劇を知り……決意を新たにする。

 

 白は愛染の体を布でくるみ、抱えその部屋を後にする。

 

 ハナビがその後を追おうとするも、ふと天音が落ちてきた天井が気になり目線を向ける。

 

(……あの人は……何故ここに居たんだろう……?)

 

「ハナビ? 行きますよ」

 

「あっは~い。 今行きます」

 

 白に声をかけられ、ハナビもその部屋を後にする。

 

 そして……

 

 

 

 

 

「それぞれ別の地域から来ていた洗脳を受けていた方たちには、事情を説明して納得して帰って頂きました」

 

 歓楽街で集まった一同は個室で食事の席を共にし報告を行う。

 

 ヒナタの報告にテンテンが情報を付けたす。

 

「後、一部の一般人の人たちは木ノ葉の里を経由して安全に帰ってもらうことになったから里に幾つか馬車の手配をしたわ。 ……後処理のことを考えると私たちは直ぐには帰れなさそうね」

 

 めんどくさそうにため息をつくテンテン。 キバも自身の得た情報を共有する。

 

「そういや拘束されてた大名だけどよ。 元々あの遊郭街の範囲は大名の土地だったらしくて、遊郭街でもなんでもなかったらしいぜ。 あの壁も、遊郭街も取り払って元に戻すってよ」

 

「そうか……あのダンビという忍びは既に木ノ葉に身柄を送った。 今回の事件、多くの里が被害を受けた以上奴の罰は鉄の国で決められることになるだろう」

 

 シノの報告も済み、一同が湯の国の美味な食事に舌鼓を打つ中、ふとテンテンが白へとジーっと目線を向けてる。

 

 テンテンの視線に気がついた白は、心当たりがないため少し微笑を浮かべながら

 

「どうかしましたか、テンテンさん?」

 

 テンテンへと疑問を投げかける。 テンテンは眉をしかめながら口を開く。

 

「……結局、ダンビって奴が愛染って子の力を悪用して精神攻撃を仕掛けて来てたってことは分かったんだけどさ……何で白は最後まで意識を保ててたのかなって……気になって」

 

 テンテンの疑問に白は困ったかのような笑顔を見せ、少し考えこむ。 テンテンの言葉にキバが反応を示す。

 

「最後は壁の外に居た俺たちもヤラれたからな。 気がついたら、地面に俺とシノが倒れてて赤丸もハナビも居なくなっていたから何事かと焦ったぜ」

 

 キバがシノに「な?」と問いかける。

 

「……確かに。 歓楽街においても一部の人間が昏倒していたと情報がある。 その精神攻撃がテンテンらが解明した通りならば……大中小という綱手様の基準における大とはどういったものだったのか、白隊長に当てはめて考えても見当がつかない」 

 

 シノが食事の手を止め考察を始める。 白は観念したように口を開く。

 

「……小は恋を知らない人間、中は恋を自覚している人間……そして大は――ッ」

 

 白は首元に手を入れ、何かを引っ張り出す。 全員が箸を止めその動きに注目し、ハナビも赤丸に味付けされていないササミをあげながら目線を白へと向ける。

 

 ゴソゴソと白は首元のネックレスを胸元から引き出すと、そのネックレスに付いている指輪を見せながら口を開く。

 

「恋を実らせた人間……つまりは()()()……とでも言えばいいですかね……」

 

 

 

 照れて顔を紅くした白の言葉の直後、沈黙が訪れ

 

 

「……ワフっ?」

 

 

 その様子に赤丸が疑問符を浮かべた瞬間

 

 

 

 

「「「「ええええええぇえええぇぇっっ!!!???」」」」

 

  

 

 

 食事処いっぱいに響く、数人の叫び声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと!? 何今の叫び声……?」

 

 歓楽街、白たちが食事をしている店と接する路地裏。 継ぎ接ぎの黒い外套を身に纏った人物は叫び声のした方に目を向ける。

 

 そしてもう一人、その人物よりも背が高く外套を身に纏い黒い仮面を着けた人物が口を開く。

 

「なるほど、木ノ葉の忍び達が此処で英気を養っている様だ……本当に奇遇だったな」

 

 仮面を着けた人物は、口調を明るくしながら同じく目線を店へと向ける。 継ぎ接ぎの外套の人物は

 

「……ホンっっっトね!? まさか白たちがここに来てるなんて思っても見なかったわ……アンタの報告聞いて、油断してた……っ」

 

 不満を漏らすように仮面の人物へ文句を言う。 仮面の人物は仮面の下から顎を掻きながら

 

「いや、悪かった。 俺も集落に報告を出した後、こちらに潜伏していて木ノ葉から一度目を離していたからな……本当にすまなかったな、天音」

 

 外套を羽織った人物・天音小鳥に謝罪を行う。

 

「まあ、いいよ。 ……まさかアンタの元仲間がここに囚われてたなんてね、そりゃ気になるでしょうよ」

 

 気にしていないといった様子の天音はその黒い目を細めさせて、白たちの居る店を見つめる。

 

「……ねえ……アンタ、里を抜けたこと……後悔してる?」

 

「ん?」

 

 天音の問いかけに仮面の人物は目線を向ける。

 

「裏切者……になったわけじゃない? 私のせいで……」

 

「……」

 

 申し訳なさそうにする天音に仮面の人物は

 

「別に問題ないと思っている。 確かに立場としては抜け忍だが……俺には常に火の意思がある。 例え里の仲間達から裏切者と後ろ指を刺されようとも、俺は俺の成すべきことを成すために……自身の選択を後悔することはない」

 

 ハッキリとした口調で答える。 その言葉に天音は緊張した表情を緩ませ口を開く。

 

「そっか……ちょっと安心したかも」

 

「逆に言えば、俺も気になっている。 君こそどうなんだ? 天音小鳥と言う偽名を名乗りあの暁に属すること。 ……あまり精神的に良いとは言えないだろう」

 

「……ふふ、それこそ成すべきことを成すためにって奴かな。 私は私のやりたいことをやってるだけ。 ()()()とか()()とか……幾ら名を騙っても、私の本質は……変わらない」

 

「そうか……こちらも少し安心した」

 

 

 互いに気を許した同士のような雰囲気の二人。

 

 天音は再度口を開く。

 

「あの元仲間とやらの木ノ葉の暗部のくノ一、貴方とどういう関係だったの?」

 

「そうだな……三代目の――イヤ、あまり人に話す内容でもないだろう。 お互いに秘密にしておきたいこともあるだろう?」 

 

 仮面の男は、僅かに覗かせる目をウインクして天音の質問に答えない。 

 

 天音は苦笑いをし、しょうがないといった表情を浮かべる。

 

「……ハハッ、そういうことね。 さて、そろそろ私もここを発つとするよ。 今回は偶々ここで会えたけど、集落にも顔を見せにいってよね」

 

「……気をつけるようにしよう。 だがあそこに行く理由があまり――」

 

「ほら」

 

 天音は仮面の男に小さな袋を投げつける。

 

「これは?」

 

「あのダンビとかいう男の持ってた貴金属、宝石と言った類のモン盗んできた。 集落に持ってってヤマジさんに換金してもらってきてよ、私はこの後も用事があるから私の代わりにね♪」

 

 天音は有無も言わさないように、羽織っていた外套を脱いで裏返し、歪んだ朱い雲の模様を表にして羽織ると素早くその場から飛び去って行った。

 

 そんな天音の姿を見届けた仮面の男は、頭をポリポリと掻いて呟いた。

 

「フッ……敵わないな」

 

 

 




「二代目火影千手扉間による血継限界を持つ忍びの一族についてまとめられた資料の一部抜粋」


 愛染一族と呼ばれるものたちは自身の感情を他者へと伝える術を持っている。

 幼いころは力の制御が上手く行かずに、イタズラに他者に感情を伝えてしまうが成長することでそれらの制御が可能となるようだ。

 ……マダラを始めとしたうちは一族と同じく感情を力と変えるすべを持つ一族だが、物理的な脅威度は無いと言っても過言ではないだろう。

 ただ精神的に見ればかなりの脅威ともなろう。 広範囲の「感情を持つ者」の位置を正確に特定する感知能力、言葉を発しずとも情報を伝達し、いざとなれば他者の精神的壁を強制的に取り除くこともできる。

 それらの能力も、力を制御したモノだけが発現できるものだが。

 力の制御には健全な恋愛関係を観測することを続けることなぞと……ふざけているようにも思えるが、人の心などといった不完全で固定されないものを扱うのだ。 俺の憶測などあまり意味をなさないのだろう。

 他者に感情や情報を伝える「以心伝心の術」 同名の術を山中一族が扱うが、より感情を伝える能力が高いようだ。

 「出恋の術」……愛染一族唯一の幻術。 他者の感情を一人に向けさせ、その人物を求めさせる。 発動条件などは不明だが、そもそも扱える人物が殆ど残されていないそうで、詳細は不明だ。

 ……ともあれ忍界大戦を経て、邪魔とみなされた愛染一族の生き残りは殆ど残されてはいない。 兄者が里に招き入れたいとのたまっていたが……奴らも世界を恨み、もはや愛を語れる余裕のある一族でもない。

 ワシら強者の言葉なぞ、慰めにもならないだろう……こちらの本心が読めるはずなのに憎しみに囚われ自身らの力すらも見誤る。

 手を差し伸べるには時期が遅すぎたか……

 心の残りがあるとすれば一族の童たちのことだろう。

 愛を忘れた一族に生まれ、健全に力を制御するなど到底不可能なこと……流石の俺でもそれぐらいは分かる。

 願わくば、純粋な恋心とやらに触れ愛を思い出せることを……勝手に願わせてもらおうか。





 
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