目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

91 / 121
10:誰もが大切な人の傍にいたい

 湯の国での騒動から数日後……

 

「──失礼します」

 

 朗らかな雰囲気が流れる木ノ葉の里。 その火影室のドアがノックされる。

 

「入れ」

 

 部屋の中で作業していた綱手は、そのノックに反応し入室を許可しつつ扉へと目線を向ける。 許可を受け開かれた扉からは白が姿を見せ、その彼女に対して綱手はにこやかな表情を見せる。

 

「白か、今回の任務ごくろうだったな。 湯の国の大名の一人に恩を売れたのは大きい、それに結果的にだが行方不明になっていた他里の忍び達の救出にも繋がった。 今回の件は大きく評価されるだろう」

 

 任務の成果が予想よりも著しく良いものとなったことを綱手は白を褒めて伝える。 白は軽く頭を下げながら答える。

 

「いえ、綱手様の予想が正しかったので何とかなったと言ったところですよ。 あの基準を設けてくださってなかったら、もう少し怪我人が出ていることになっていましたから」

 

「そうか……お前からの手紙での報告であった愛染という名の少女……前に少し読んだ二代目様のまとめた資料に愛染一族についての記述があったが、もしやと思い対策を建てられてよかった。 これも暗部の彼女からの手紙のおかげでもあるが、白……お前の存在も大きかったな」

 

 何やらニヤニヤとし出した綱手の様子に白は、若干の鬱陶しいさをその綺麗な顔立ちに表情を浮かべて見せる。

 

「いや~? 極秘だが、マリエからお前と()()()の話を聞かされた時は……胸に来るものがあったね~?」

 

「……わざわざこの話をするために今、この部屋に(護衛)を寄せ付けてないんですか? ……悪趣味ですね」

 

 珍しく嫌そうな表情を露骨に見せている白に綱手は笑みに涙を浮かべながら謝罪をする。

 

「悪い悪い……だが、お前たちの話は私にとっても重要なことだったからな。 今でも思うがまさかあの鬼人がねぇ……」

 

「再不斬さんも感情を持った人間ですから……そしてそれは僕も同じく。 今、この瞬間の幸せを噛みしめる最優の選択をしたまでです」

 

「そうかい……ホント、施設でのアンタらの結婚に出席して欲しいと言われた時は……流石の私も色々な意味で肝が冷えたねぇ……ま、内密での出来事だ、特に()()()()には知られるわけにもいかないという事情を思えば私が呼ばれたこと自体光栄なことかな」

 

「根の組織……ですね。 一応僕の正体は公には伏せられているのも血継限界を持つ者として、マリエさんがそこのところ配慮をしてくれてのことで……綱手様が手配してくださっている()()()の件も助かっています」

 

「良いんだよ……最近ダンゾウが色々動いているらしい話もある。 白、お前が狙われた場合に標的になるのは間違いなく『蒼い鳥』だ。 白雪としてのお前と、忍びとしてのお前の繋がりは伏せていた方が良い……さて」

 

 綱手は話を区切り、1つの紙を取り出して机の上に置く。

 

「本題と行こうか……知らせにあったお前が接触したという天音小鳥について」

 

「はい……ただ僕も彼女について綱手様に聞きたいことが幾つかあります」

 

 白の切り返しに綱手は

 

「聞きたいこと……?」

 

 疑問を口にする。 白は自信のある口調で天音小鳥について振り返りながら話を続ける。

 

「天音小鳥……暁のメンバーの一人で、先日の風影襲撃事件……また雷の国でも日向ヒアシさんの前に姿を見せました。 彼女が最初に確認されたのは数年前のサスケ君の里抜け騒動の時、この時は我愛羅君とリー君の前にも姿を見せています。 ある程度の人間は彼女が写輪眼を有している稀な人物であるということを知らされていますが……今回僕は新たに彼女が木遁も有していることを確認しました」

 

 白の言葉に綱手は机に乗り出して驚きを露わにする。

 

「木遁だと……!? まさか……ッ」

 

「……僕の中にいる人工の尾獣、雪羅の力を抑える能力を見せたので間違いないかと……まあ、その規模は僕の想像を優に超えていましたが」

 

 白が見せる少し悔しそうな表情から綱手もその言葉が出鱈目でないことを悟る。

 

「木遁か……扱える奴を一人は知っているがまさか、それが暁にいるとはね……そうなると大蛇丸が絡んできてそうだが……っ」

 

 綱手が手を組み、深刻そうな顔でブツブツと呟き事態の黒幕に居そうな人物について考える。 実際、現代で木遁に対してもっとも知識を持っているのがそれを研究していた大蛇丸であることは綱手も知るところである。

 

「写輪眼と共に木遁をも有するとはな……暁が規格外な連中ばかりなのは有名だが、それにしたって度が過ぎているぞ…………ん、それで白、私に聞きたいこととはなんだ?」

 

「はい、天音小鳥のこれまでの行動についてですが……サクラさんのことを信頼していないわけではないのですが傀儡使いのチヨさんと共にいたとしても、彼女が赤砂のサソリ、天音小鳥両名と相対し、サソリを打倒しつつ無事で居られたことは中々に信じがたく……そこで僕はこう考えました。 ……天音小鳥がサクラさん達に何かしらの手を貸したんじゃないかと」

 

「……」

 

 白の言葉に綱手は口を閉じる。 沈黙が答えとばかりに白は納得の行った表情を見せる。

 

「ふふ……恐らくサクラさんも混乱を避けるために信頼のおける綱手様だけにそのことを報告していると思いました。 そこで綱手様は天音小鳥が本当は味方なのかどうか、さぞ悩まれていると思い僕の考えを伝えに来ました」

 

「面白い……お前の意見を聞こうじゃないか、白」

 

 綱手の浮かべた笑みに合わせる様に白は言葉を連ねる。

 

「今回の事件での天音小鳥の行動は……突如姿を現し、ハナビと共闘。 その後僕との交戦……その時天音小鳥は僕に止めをさせる場面で不自然に手を抜き、その隙をついたヒナタさん達の連携に追い込まれ撤退していきました。 ハナビに対して彼女は雷遁を一度放っていますが、恐らく僕がそれを防ぐことも見越しての攻撃……何より不自然なのは今回天音小鳥は一度も素顔を見せず、あえてハナビの持っていた悟君の仮面で顔を隠していたこと……木ノ葉のビンゴブックに彼女の人相書きはあるので僕も目は通していましたが、何か顔を隠す理由があったのか……ともより、天音小鳥自身の目的は最後まで不明でしたが興味深いことを言っていました。 黙雷悟は木ノ葉を裏切った……と」

 

 白が口にした天音の言葉に綱手は目を見開き反応を示す。

 

「っ……それが事実だと信じたくはないが、少なくともその証言は──」

 

「はい、悟君がどこかで生きていることを示しています、そして天音小鳥が悟君の現在の身辺の情報を持っている可能性も。 ……テンテンさんから聞いていたよりも彼女の態度にあまり余裕を感じられなかったことを思えば、彼女にとっての失言だったかもしれませんね」

 

 白の述べる言葉に綱手も複雑そうな表情を見せる。 ごく短い間だが、黙雷悟はその異名を轟かせ木ノ葉の有力な戦力として存在していた。 時が経ち、存在を世間から忘れられようと、彼と出会った者たちは彼を忘れることはないだろう。 そんな黙雷悟の生存と木ノ葉を裏切ったという情報は……

 

「無暗には広めるわけにはいかない情報……か。 ……嘘か真か、どっちにせよあいつを知る人物は混乱するだろう」

 

「僕もそう思います。 事実情けないですが、僕も聞かされた当初は激昂してしまったので…………ただ、今の僕はこの情報をとても前向きに捉えています」

 

「ほう、というと?」

 

「……今は木ノ葉の忍びの僕が言うのもなんですが……悟君は元々組織の立ち位置にあまりこだわりを見せていませんでした、『自分のやりたいことをやる』……彼の忍道は昔は敵であった僕を助け、里に招き入れるという……組織に属する忍びのモノとは到底いえないものです。 それでも、今の僕があるの──」

 

「つまり白、アンタ……悟は()()()()()()()()()()……何かを成そうとしているとでも言いたいのか?」

 

「……ええ、彼ならそういうことをしても不思議ではありません。 ……いずれにせよ、天音小鳥の言葉が真実だという確証はないのでただの僕の希望的な推測なだけですが」

 

 白は小さくため息をつき、微笑を浮かべる。 やるせなさ、何かを信じたい気持ち。 友を思う白の人間としての感情を見て綱手は目を伏せる。

 

(……火影の私も、あの小僧がそう易々と自分の信念を捨てるとは信じられない、というある種の()()を元に考えてしまっている……属する組織が本質を表すわけではない……か)

 

 綱手も小さく口元を緩ませ、目を開ける。

 

「……取りあえずの決定として木ノ葉は天音小鳥への態勢に変化は加えない。 奴がこちらに大きな危害を加える意思が見られなくとも、それすなわち味方とも限らないからな。 不安定な状態だからこそ、サクラと白、お前の意見を聞き入れ、更なる経過観察を行ってから改めてビンゴブックでの危険度を設定する。 天音小鳥が黙雷悟の仲間であり、暁を敵視する存在だと仮定するなら不自然に我々が警戒を解くのも、逆に警戒を強めすぎるのも奴らには損になるだろうからな。 ……ごくろうだったな白」

 

 綱手からのねぎらいの言葉に白は小さく頭を下げて応える。

 

「いえ……それでは僕は失礼しますね」

 

 白が改めて頭を下げ退室しようとしたとき、綱手から最後に声がかかる。

 

()()()()()()()()()()()

 

 何やら意味を含ませた少しニヤついた綱手のその言葉に、扉を閉めようとする白は最後に鋭い目つきを見せ部屋から退室していった。

 

 残された綱手は小さく独り言を呟く。

 

「結婚ねぇ……」

 

 

~~~~~~

 

 

 施設『蒼い鳥』には外から見えない中庭が存在する。 中央に一本の木が植えられて、子どもたちが遊ぶには十分なスペースのそこでとある女性と子どもたちが児戯にいそしんでいた。 

 

「白雪おねえちゃん、おままごとしよ~」

 

「今日は俺たちとドッジボールしようぜぇ!」

 

 男子と女子、双方のグループから引っ張りだこの女性は、その両手を引かれ困り果てていた。 ふとそこに再不斬が既に周囲に違和感覚えさせないほど馴染んだエプロン姿で現れる。

 

「小僧ども、菓子を作ってやった。 喰いたい奴は手を洗って食堂まで来い!」

 

 妙にハキハキした再不斬のその言葉に白雪に群がっていた子どもたちは一斉に駆けだす。

 

「やったぜ桃さんのおやつだっ!!」

 

「私が先に食べたい!!」

 

 はしゃぐ子どもたちを追い立てるようにその後ろをついて行く再不斬は

 

「先も後もねぇ、一人一個ずつだ! 手洗いを忘れる奴にはやらんぞ」

 

 白雪にほんのわずかの目配せをしてその場を後にした。

 

 一人中には残された白雪は中庭の木の根元に近寄りその地面を小さくノックする。

 

 瞬間、地面が何かの仕掛けで僅かにズレその隙間から()()()()()()()が素早く姿を現す。

 

 現れた白は白雪に相対し言葉を掛ける。

 

「ご苦労様です。 留守の間変わりはなかったですか?」

 

 白のその言葉に、白雪は表情をほころばせながら答える。

 

「いえ大丈夫でしたよ、子どもたちも素直でいい子ばかりです」

 

「それは良かった……僕の代わりにいつもありがとうございます」

 

「気にしないでください。 ……何より命を張る()()()()()よりも子供たちの相手をするこの()()()()()()任務の方が私としては普段より数段楽しめていますから」

 

 朗らかに笑う白雪に仮面を取った白はその仮面を白雪に渡す。 仮面を受け取った白雪は白の現れた地面の隙間に身を投じるとその隙間は次第に狭まる。

 

 地面に消えた白雪は最後まで名残惜しそうに手を振っていた。

 

()()()()()……まあ、ここの生活を知ると名残惜しくなるのも分かりますが──)

 

 施設の白雪と、木ノ葉の忍びとしての白。 それらを両立するために、白が任務で里外に出向く際に必要に応じて替え玉が綱手によって用意されていた。 よっぽど強い衝撃を受けることもない施設での日常生活であれば、変化の術で替え玉を用意するのも容易であるのだ。

 

 白雪として施設に戻った白は、早速鼻歌まじりで愛する人物の待つ食堂へと足早に歩いて行った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 大陸の北に位置する場所にある、結界忍術で隠された集落。

 

 家屋が幾つか並ぶそこを歩く黒い仮面の男性は、道行く周囲の人物にチラチラと目線を向けられながらも気にせず一際高い建物の中へと入っていった。

 

 中に入ればさっそくとばかりに暗い青色の髪で片目を隠したアガリがその仮面の男性へと声をかける。

 

「帰ってましたか。 貴方がここ(集落)に戻るのも珍しいですね」

 

「アガリか……ああ、サトリが少しは顔を出せとうるさいからな……仕方なくだ」

 

 仮面の男の言葉にアガリは目を見開き彼に身を寄せ詰め寄る。

 

「サトリ様とお会いしたのですか!? サトリ様のご様子はどうでした、任務のほうは!?」

 

 怒涛のアガリからの質問に仮面の男は心底うっとおしそうにしながらも小袋を押し付けながらアガリの体を押しのける。

 

「うるさい奴め、それが答えだ。ったく、ヤマジの商人に換金してもらってこい」

 

 用事はすんだとばかりに踵を返し建物から出ようとする男にアガリは

 

「もう行くんですか? もう少し休んでいってはどうです?」

 

 袋の中身を探り、貴金属類を幾つか手に取っているアガリのその言葉に仮面の男は答える。

 

「……俺はサトリの様に高速移動の手段がないんでな。 そう悠長にしていられな──」

 

 男の言葉を遮るようにアガリは袋の中から折りたたまれた紙を取り出し広げて見せる。

 

 その紙には『アガリへ。 仮面野郎をもてなせ byサトリ』と書かれており……

 

「っ……アイツめ……」

 

 恨むような言葉を呟く仮面の男にアガリは詰め寄る。

 

「サトリ様からのご指示です。 大人しく我が集落のもてなし、存分に堪能するといい!」

 

 仮面の男は大きなため息を付きながらもアガリに手を引かれ建物の奥へと引きずられていった……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 黒い肌で筋骨隆々のゼンゾウはその長めの金髪を縛り白い調理帽子を被ったあまり似つかわしくない姿で皿を洗う。

 

 集落にある家屋は全て特別な施設などではなく人が住むための住居であり、食事処などもあるわけではない。 ヤマジに与えられた1つの建物は集落で使う日用品などをしまう倉庫となっているが、娯楽などとは縁のない場所である。 唯一この石造りの建物内に設けられたゼンゾウの食事処……のようなスペースは、彼が栽培する野菜などが使われ味の評判もかなりいい場所である。

 

 前回サトリからも好評をもらい、品目を増やして張り切っているゼンゾウの提供する品をフォークで乱雑に差し仮面の隙間から口に含む男は同じく席を共にするアガリに声をかける。

 

「美味い……ことは認めるが、ゼンゾウの奴は他の奴らみたいに何故前線に立たない? ここの奴らが好戦的で皆強いのは一応俺も知るところだが奴はさらにその上を行くのだろう?」

 

「……サトリ様が仰っていました。 『私のいう事に縛られず自分の好きなことをやれ』……と、皆その言葉に従って……いえ自主的に感銘を受け行動しているのです。 向き不向きも当然ありますが、好きこそ物の上手なれという言葉もあります。 ゼンゾウも昔に比べ笑顔の似合う顔立ちになりました……うんうん」

 

 しみじみとそういうアガリの様子に

 

(……まあ、不幸そうな顔を見るよりは全然いいんだろうか……)

 

 仮面の男も納得の行った様子でゼンゾウの作った品をたいらげるのであった。

 

 食事を終えた仮面の男にゼンゾウが近寄ってくる。

 

「ハハハっ仮面さん、どうでい俺の作るメシは?」

 

「……悪くはない……」

 

「そうかいそうかい! なら次はもっと唸らせてやるから覚悟してくだせぇ!!」

 

 仮面の男は満更でもない雰囲気を醸し出しながらゼンゾウが話す調理過程の工夫などの話を黙って聞くのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 ゼンゾウに別れを告げ、アガリと共に建物一階にある吹き抜けとなっている大部屋へと移動した仮面の男。

 

 中にいる動物たちは人なれした様子でアガリと仮面の男にすり寄ってくる。

 

「……こいつら、怪我や病気の治療が済んだら元の生息域に返すのだろう? いいのかここまで人慣れしてて……」

 

 心配するような口調の男の言葉に、アガリは落ち着いた様子で返事をする。

 

「問題ありませんよ。 俺たちに対して警戒度が低いのは、〈彼〉が言い聞かせている成果でもあるので、人間すべてに心を開いているわけではないのです」

 

 アガリが壁際に置かれた机の引き出しから動物たちの餌を取り出しそれ配り始める。

 

「……そう言えばアカネの奴を見かけないな、毎度俺かサトリが帰ってくるとうるさく手合わせを迫ってくるが……」

 

 仮面の男がアガリが動物たちに群がられている様子を椅子に腰かけ眺めて言うその言葉に、アガリは微妙そうな顔をする。

 

「アカネはその……サトリ様相手にルールを破ろうとしたので、〈彼〉の折檻を受けています……下で」

 

 アガリが地面を指さすと、それが地下での出来事だと悟った仮面の男は仮面に手を当てる首を振る。

 

「……まあ、アイツの態度が本来、ここでの振る舞いとしては正しい部類なのだろう……と思うがそうか。 どれぐらいになる?」

 

「もう数日は経っていますね……そろそろ切りの良い所だと思うので様子を見に行こうと思っています」

 

「そうか……なら俺も同行しよう。 ……万が一がないとも限らない」

 

 そういい仮面の男が立ち上がると、アガリも手に持つ餌袋を机にしまい彼について行くことにしたのであった。

 

 動物たちに見送られ部屋を出た二人は建物の地下へと続く階段へと移動しそこを降りていく。

 

「……サトリは()()()を使うことを良しとしていないのか?」

 

 仮面の男が薄暗い階段を降りながらそうアガリへと問いかける。

 

「いえ……サトリ様が禁止しているのは仲間に対して……のみです。 あとは無暗に他者の命を奪わないこと、この2つが唯一サトリ様がここに住む者たちに設けているルールです」

 

「アカネは好戦的で血の気の多い奴だからな……むしろ折檻上等なんて思っているんじゃないのか?」

 

「ははは……否定できないのは否めないですね……」

 

 アガリが苦笑いを受けべると、地下の奥の方から地響きのような衝撃が走り二人は顔を見合わせる。

 

「まだやりあっているのか……数日になるんだろう? どんなスタミナだ……」

 

 呆れる仮面の男が階段を降り終え、目の前にある両扉を開ける。 すると……

 

 

 

 

「アハハハハハハ!! もっともっとだぁ!!」

 

「……ッ」

 

 

 

 

 赤い髪をなびかせ浅黒い皮膚をし、イルカのような尻尾を生やした人影が大柄なオレンジ髪の男に飛びかかっている様子が目に映る。

 

 

「オウラぁあ!!」

 

 高らかに叫びながら繰り出された女性の尻尾を叩きつける重い一撃を大柄な男性はその場を動かずに受け止める。 部屋全体を揺らすような振動を起こしながらも、男は一瞬アガリらを見てその姿を確認すると受け止めた手と反対の右腕を大きく変容させ一歩踏み込む。

 

「そろそろ終わりにするか」

 

 男のその呟きと共に、腕から杭のように変化した一部分がチャクラの破裂音と共に打ち出され、女性を穿ち大きく吹き飛ばす。

 

「ッグ!!! うげおrrrrrrrrrッ」

 

 女性とは思えない豪快な叫び声と共に吹き飛ばされた赤髪の女性がその大きな空間の壁に叩きつけられると、オレンジ髪の男はアガリ達に声をかける。

 

「どうかしたのか?」

 

 先ほど見せた痛烈な一撃とはかけ離れた印象を思わせる優しい声色のギャップに仮面の男は、仮面の下の表情をヒクつかせながらもその言葉に答える。

 

「いや……そろそろ折檻が終わっていると思って様子を見に来ただけだ。 それにしても凄い一撃だな……生きてるのか……アカネは」

 

 壁に叩きつけられた女性をアカネと呼ぶ仮面の男。 アガリが彼女に駆け寄れば、その姿は先ほどまでの異様な姿から一変。 通常時のアカネのモノとなっていた。

 

「問題ない。 ()()()()は伊達ではない、それに彼女の適応力は一際高いみたいだからな、頑丈だ」

 

 男の言葉に仮面の男は、姿を変容させ額から角を生やしたアガリがアカネに触れている様子を見る。

 

「……アガリが治療すること前提じゃないのか?」

 

「心配するな、俺もアガリと同じことが出来る。 だからこそ折檻役を任されているんだ、サトリにな」

 

 アガリは体の一部をアカネに溶かし混ぜ合わせるようにしてその傷口を塞ぐ。 気を失っているアカネをアガリが姿を元に戻しながら背負うと話をする二人の元へと駆け寄ってくる。

 

「どうやらアカネが反省する様子はなかったようですね」

 

 アガリの苦笑いに男が答える。

 

「彼女はそういう性分なんだろう、俺も似たようなモノだから良く分かる」

 

「似たようなモノねぇ……お前のはアカネの戦闘狂とは訳が違うだろ……なあ

 

 

 

 “天秤”の重吾」

 

 

 仮面の男の指摘に、重吾は困ったような笑顔を作る。

 

「……そう思われても仕方がないと、俺も思っている……こうして誰かと定期的に戦って発散しなければ()()()()は抑えられないのが現状だ」

 

「ですが、重吾の癇癪も昔に比べれば良くなった方です。 これも全てサトリ様のおかげ……!」

 

 アカネを背負ったままのアガリが拳を顔の横で強く握りサトリのしたことを称えるように、噛みしめるようにどや顔を見せる。

 

(…………本当にコイツ、心底サトリに心酔してるな。 ……若干鬱陶しい)

 

(フフッアガリは相も変わらずだな)

 

 仮面の男と重吾の微妙な目線に気がつかないアガリが一人サトリを称える言葉を連なり続ける。

 

「そもそもサトリ様がここに来てくださったからこそ、今の我々は豊かに暮らして行けているのです! あの日、この元大蛇丸のアジトに踏み込んできたサトリ様の後光の射すお姿は今でも忘れることはなく──」

 

「……そん時に一応俺も居たこと忘れるなよアガリ」

 

「仮面、今のアガリに言葉は通じない。 ここではあれだ、上に移動してゆっくり話そう」

 

 サトリの武勇伝を語るアガリに仮面の男が一言付け足すも重吾にたしなめられ彼らは一階、重吾のために設けられた動物たちのいる吹き抜けの大部屋へと移動したのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「そうしてサトリ様は仰ってくださいました、『アガリ、お前なら私の副官として信頼における。 さあ、私と共に暗き忍界に暁をもたらそうぞ』……と」

 

 動物たちに囲まれ、一人だけ椅子に座らずその上に立ち雄弁に身振り手振りを合わせ語るアガリ。 身長の低いアガリなりの姿勢だが大柄な重吾が椅子に座って動物たちと戯れている姿勢と高さの差はあまりない。

 

 流暢に語るその内容に、茶をすすりながら仮面の男が重吾に顔を突き合わせヒソヒソと語る。

 

「俺が知る限り、サトリの奴はああいう事言わない性格だと思うが……」

 

「アガリの語る内容は毎回、内容が少しずつ変化している。 恐らく自分の主観が大いに含まれ、時がたつにつれそれも美化されていってるんだろう」

 

「なるほど……可哀そうな奴だな」

 

「事実だがそういってやるな……」

 

「……何気にお前も容赦ないな、重吾」

 

 ヒソヒソと話している二人に気がつかず、なおも動物たちに対して独り気持ちよくサトリとの思い出(?)を語っているアガリ。

 

 その刹那アガリが何者かに突き飛ばされ椅子から転げ落ち、周囲の動物たちは一目散にそれぞれの檻に戻っていった。

 

「うっせーわ、ヒョロヒョロもやし!! 人が寝てんだからその鬱陶しい語り控えろや!!!」

 

 アガリを背後から蹴り飛ばしたイライラしている様子のアカネの姿に、仮面の男が動じずに手を挙げ挨拶を交わす。

 

「(ナイスだアカネ)……起きたか、お前は相変わらずのようだな」

 

 苦笑交じりの声を聞き、黒い仮面を視認したアカネはギザギザに見える歯を露出し上機嫌になる。

 

「仮面!! 久しぶりだなァ! お前とも戦いたかったんだよ、ほら下でやり合おうぜ!!」

 

「……本当に相変わらずだな……遠慮しておこう、お前も数日単位で重吾と戦って疲れてるだろ?」

 

 たしなめる言葉を受け、アカネは呪印による形態変化や重吾との戦闘でボロボロになっている自分の身なりを一瞥する。 が……

 

「いや、そうでもない。 ほら()ろうぜ!!」

 

 目をらんらんと輝かせ、何ともない様子で仮面の男へと詰め寄るアカネ。 蹴りとばされたアガリは既に起き上がりながら、何やら重吾に耳打ちをしている。

 

 仮面の男は表情に見えないまでも、明らかにめんどくさそうな感情を雰囲気に醸し出している。

 

「ほらほらほら!!」

 

「アカネ……お前少し匂うぞ、せめて風呂に入ってから──」

 

 仮面の男に詰め寄るアカネだが、その体が不意に浮かび上がる。 気がつけば重吾がアカネの背後から彼女の服の襟を掴み上げていた。

 

 急に持ち上げられたアカネは不満そうに抗議の意味を兼ねて手足をジタバタと振り回す。

 

「オイ、重吾!! 何すんだ離せよ、アタシは仮面と勝負を──」

 

「呪印頼りの戦闘は身体に負担が出る。 ゼンゾウの所で腹ごしらえをしてから改めて仮面に勝負を挑め」

 

 重吾の言葉に、アカネは相貌な振る舞いとは対照的な可愛らしい自信の腹の鳴る音を聞き

 

「……チッ……確かにな、腹が減ってはなんとやらだ! オシ、重吾一緒にメシだ!!」

 

「ああ、分かった」

 

 重吾は了承の言葉と共に、アカネを掴んだままその部屋を後にする。 去り際に仮面の男に向け重吾が目くばせをする。

 

(時間を稼いでくれるようだな……)

 

 仮面の男がその意図に気がつき、重吾らの気配が離れるのを待っているとアガリが声をかけてくる。

 

「……重吾もアカネも、素直でいい人たちでしょう?」

 

「今のやり取りでお前は何を言っている? アカネに蹴り飛ばされてただろ……」

 

 ふと仮面の男がアガリを見るとしんみりと、少し影を落とすような表情をしてアガリは話を続けた。

 

「重吾は貴方も知るように、自身の抑えられない殺人衝動に苦しんでいた。 アカネも持ち前の体力と回復力を買われ実験と称して弄りまわされていた。 ここの皆、貴方とサトリ様が来る前に比べて笑顔を見せるようになりました……前はそんな感情とは無縁の環境でしたから」

 

 今の幸せを嚙みしめるようにそう語るアガリに、仮面の男はそっぽを向きながらも彼の肩に手を置く。

 

「……俺も……忍びだが、苦しい事よりは楽な方が好きだ。 だがサトリ……奴が何を持って此処を作ったかは……お前も知っているだろ?」

 

 仮面の男の言葉にアガリは、目を見開くが

 

「ええ……サトリ様は、俺に色々教えてくださいました。 ご自身の秘密を、この集落の目的を……ですがそれでも俺はサトリ様を敬愛しますよ」

 

「ハハ、そうか……まあそれでもいいんじゃないか。  サトリの奴も幸せものだなwww」

 

 気分が良いのか、軽快に笑う仮面の男にアガリは少し照れた表情を浮かべる。  

 

「アガリ……天音を……アイツのことを頼む。 アイツの事は良く知っているが何かと一人で無茶をやりたがる奴だ……ここの存在はアイツが思っている以上にアイツにとって大きいものになっているだろう」

 

 励ましのような言葉にアガリは小さく返事をし、立ち上がる。

 

「任せてください!! 俺はサトリ様の副官ですから!! では俺は経理の仕事を片付けてきます、貴方は()()()に寄っていかれるのでしょう? 自分から言っておいてあまりおもてなしできなくてすみませんでした」

 

「フッ……充分もてなしは受けたさ、ここの内情に今まで目を向けて来てなかったからちょうどいい機会だった……頑張れよアガリ」

 

「……はい! ……では」

 

 アガリは笑顔を浮かべ、部屋を後にする。 一人の残された仮面の男は椅子に背を預け、目を閉じ深呼吸をする。

 

「…………さて、アカネが戻ってくる前に行くか」

 

 男は目を開け、静かに立ち上がり部屋から続く庭から音もなく跳躍してその場を立ち去った。

 

 

~~~~~~

 

 

 雲の上、太陽が遮るものなくぎらぎら青空で輝き日が照りつける上空を体育すわりの態勢で奇妙に水平移動する人影が一つ。

 

「ハァ~やらかしたな……白相手にペラペラと喋りすぎた……」

 

 落ち込んだ様子のその人影、天音小鳥はブツブツと誰に聞こえるわけでもない独り言を愚痴る。

 

「そもそも木遁を見せたのも迂闊だった、アイツは私が試すまでもなく強いのなんて知ってるのに……つい熱くなってしまった……木人は後でコッソリ消しといたからゼツとかに私の仕業だとバレないとは思うけど木ノ葉側が何らかの対応してきたら困るなぁ……」

 

 大きなため息を吐いたアカネをふと後悔だらけの当時のことを振り返った……

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 湯の国の遊郭街。 その上空から闇夜に紛れ、天音小鳥は一番高い建物へと降り立つ。

 

(周囲の情報収集の結果、任務内容がガセなのは明らかだ。 私の集落に変な任務出しやがって、ちょっとおいたが過ぎたこと思い知らせてやろうか)

 

 内心イラついた様子の天音は屋根から建物の内部に侵入し、天井裏のスペースに潜り込む。 

 

 一切光が無い暗闇の中、天音は瞳を閉じ左手から出したチャクラ糸を腰に下げたヒザシの白眼が入った筒の蓋へと繋げる。

 

(視力情報接続……白眼!)

 

 チャクラ糸から流れるチャクラが筒の中の白眼を刺激しその効力を発揮。 チャクラ糸を通してその白眼が捉える情報を天音へと伝達する。

 

 建物を透過し、中の様子を完全に見通す天音。 ふと最上階、天井裏の下の部屋にある箱が気になりそこを注視する。

 

(……なんだコレ……ッて四肢が……ッ)

 

 その中に漂う愛染の存在に気がついた天音は息を呑む。 凄惨な彼女の様子に、天音は音を立てないように握りこぶしに力を籠める。

 

(事情はさっぱりだけど、こんな年の子が……余りにもあんまりだ。 何とか助けないと……)

 

 何とか出来ないかと、周囲を観察する天音。 すると部屋にジャラジャラとアクセサリーを付けた男が女性を引き連れ現れる。

 

 いかにも成金な様子の男を注視する天音はその男・ダンビが尊大な態度を取ることで嫌悪感を表情に浮かべる。

 

(黒幕……といったところか、周囲にはそれなりに忍びがいるが正気じゃなさそうだし……踏み込むか)

 

 天井を突き破り、攻撃を仕掛けようとする天音だがその瞬間

 

『ダメ……』

 

 ふいに頭に声が響き、咄嗟に踏みとどまる。

 

(っ!?)

 

 驚愕する天音だが頭に響く声は続けて彼女に語りかけるてくる。

 

『彼は私の全てなの……邪魔しないで……』

 

 懇願するような少女の声に天音は臨戦態勢のまま、白眼で箱の中の少女を注視する。

 

(……君……なのね? 私の思考が読み取れるの?)

 

『うん……私の力が効かない貴方には大切な人がいるんでしょ? その“愛”が分かるんだったら、放っておいて……!』

 

 拒絶する少女の言葉に天音は、その場に正座し彼女との会話に集中する。

 

(貴女の力がどんなものかは知らないけど、私が愛の分かる人間だとするなら尚更貴女のことは放っておけない)

 

 真っ直ぐな天音の感情。 天音に語りかける愛染は困惑した様子で言葉を紡ぐ。

 

『……私は化け物、そんな私に彼は生きる意味を……必要とされる嬉しさを教えてくれたの……お願い……っ!』

 

(……悪いけど、傍から見たらそうは見えない。 貴女の体の傷も、その扱いも到底まともじゃない。 貴女にもわかるでしょ? 欲に塗れ今まさに連れている正気じゃない女性らを嬲っているその男の様子が。 私には到底愛を語る人間には見えないね)

 

『…………ッ』

 

(……私に大切な人が居るって貴女言ったでしょ? その通り、私には……命に代えても守りたい人たちが居る。 そんな皆が貴方と同じ状況なら絶っっっ対に放ってはおかない)

 

『私はあなたにとっての大切な人じゃない……ッ』

 

(そうね……だけど、それを決めるのは私だ。 今はそうでも、この先どうなるかは分からない。 未来は誰にも……分からないはずなんだ、だから貴女を私の仲間の元に連れていく……っ!)

 

『ヤメ──』

 

 天音が再度天井を突き破ろうとした瞬間、下の部屋で異変が起きる。 慌ただしくなった部屋からガラスが割れる大きな音が響く。

 

(──まさかっ!?)

 

 天音がその騒音の主、部屋へと踏み込んだ白らに気がつく。

 

 戦闘が始まった様子に天音が困惑する。

 

(白にテンテン、それにヒナタも……オイオイ白が居るなんて仮面の野郎……イヤ、アイツの情報の時期的にここに来ててもおかしくないのか……ックソ)

 

 天音は白らの登場に怯み、その場に踏みとどまる。

 

『……?』

 

 愛染がその行動に疑問を感じるが、歯がゆそうにする天音が行動を起こさないことに安堵する。 しかし

 

『この人たちにも私の力が……効かない……何で!? これじゃあダンビ様は私を必要としてくれない……ッ』

 

 混乱するような声が続いて天音の頭に響く。

 

(……どうする……白がいるとなるとそう簡単には行かない……しかも声はともかくアイツに()()()()()()()()()()()()()。 三人がどうにかしてくれるのを待つか……?)

 

 場を静観することにした天音だが、相変わらず頭には混乱している愛染の言葉が聞こえていた。

 

『嫌だ……イヤだ!! 一人にはなりたくない、ダンビ様一人にしないで……っ!』

 

 その悲痛な声に、自分が行動を起こせないことにもどかしさを感じる天音。 部屋での戦闘を観察する天音はふとダンビが愛染の入っている箱のパネルを弄っている様子に気がつく。

 

 瞬間

 

『ヅッ!!! あああああああああああ──!!!』

 

 頭に響いていた愛染の叫びが聞こえたと同時にブツ切りのようにその声が聞こえなくなる。 

 

(オイ!? って電流を流されて──)

 

 驚く天音は部屋の中で白とダンビ以外が倒れ伏す凄惨な様子に、思わず歯ぎしりをする。

 

(……こんな事をさせることが……愛だと……!? ふざけるなよッ……)

 

 しかし途切れたはずの愛染の声が再び天音の頭に響く。

 

『ダンビ様が私を必要としてくれてる……っ! この痛みも……全部ダンビ様の愛ッ……』

 

 苦痛に叫ぶ声と、ダンビに必要とされることへの歓喜が混ざる感情の渦。 それが天音の感情をも刺激する。

 

(っそんなのは愛なんかじゃない! 今の貴女の体はそんな電流に耐えられるほど体力はないハズ、このままじゃ死ぬぞ!!)

 

『死んでも……ッ……構わない、私は……化け物……必要としてくれる人のために……ッ命をかける……』

 

 自分に言い聞かせるような愛染の言葉に埒が明かないと天音は下の白とダンビのやり取りに仲裁に入ろうとするも、再々度驚愕することになる。

 

 突然ダンビは吹き飛ばされ、新たなくノ一が姿を現す。

 

(ッ…………!?)

 

 そのくノ一の存在を認知した天音は驚愕に思考が一瞬止まるほど動揺する。

 

 その瞬間、聞こえていた愛染の声に変化が訪れる。

 

『……なにこれ……? こんな感情……ッ』

 

 驚くような声、そして

 

『これが……本当の……ッ互いに思いやる純粋な……ッ』

 

 動揺する愛染。

 

 天音もそのくノ一の存在に動揺を隠せないでいる。

 

(何でこんな……里の外に……っ!?)

 

 部屋ではダンビとそのくノ一との攻防が終わり、ふとダンビが悶え始める。

 

『駄目駄目駄目駄目駄目駄目っ!!!! このままじゃ……ッ』

 

 様子の激変した愛染が、天音へとすがるように語りかける。

 

『ねぇ!! お願い、あの子を守って……! 私にはもう力を制御できない、出恋の術が発動してしまったのお願い、あの子を……っ!』

 

(何を言って……っ?)

 

『貴方が彼女と会いたくないのは感情でわかる! けど彼女を……お願い私はもう間に合わない、だけどっアナタなら!!』

 

 愛染の語りかけてくる様子に、天音は瞳を開け答える。

 

(そんな……ッお前……自分の事よりも……ッ助けられなくてゴメン……ッ!)

 

 何らかの術の発動が、愛染の身体から最後の生きる力を消耗させたことに気がついた天音。 それでもそのくノ一を守るよう懇願する消えゆく彼女の言葉に天音は

 

(……任せてッ)

 

 精一杯の気持ちを込めて返事をする。

 

『……ありがとう、最後に貴方たちに……会えて…………本当……あり……う』

 

 何かを悟ったかのような様子の愛染の声。 そしてその愛染の声が聞こえなくなると同時に、天音は部屋のくノ一が愛染の発していた力の数倍上の力をその身から拡散していることに体感して気がつく。

 

「っクソ……!」

 

 助けられたかもしれない命に手が届かなかった悔しさを胸中に膨らませながらも、今まさに襲われようとしているくノ一を助けるために天音は決心を固める。

 

 瞬間天音は思いっきり天井を踏み抜き、階下へでくノ一を襲おうとするダンビを踏みつけるように埃と共に降り立つ。

 

 ダンビの肩を思いっきり踏み抜き加速し、天音はくノ一の腰に下げられていた仮面を手にしてその背を見せる。

 

「ゴホッゴホッ……次から次へとなんなの……キャッ!?」

 

 腰の仮面を取られたくノ一の言葉を聞き、天音は自身に湧き上がる様々な感情を抑えるように努めた……

 

 

………………

…………

……

 

 

「全っっっ然感情抑えられてなかったよ……ハア……」

 

 上空で再度大きなため息を付いた天音。 湯の国での出来事が相当堪えたのか、悶々とした感情は天音から消えることはない。

 

(白から逃げた後、コッソリ遊郭街の外の繫華街に忍び込んだけどそこに仮面がいるとは……ね。 知ってたら協力して……いや途中から()()()の力で動けなくなってたらしいし、結局私の判断ミスか……)

 

 どうにかすれば、もっと早く来ていれば……そんな後悔に苛まれながらも天音はふと地上の様子に気がつく。

 

 何かが崩れるような大きな音を聞き天音は雲の下の地上に注意を向ける。

 

「……時間は待っちゃくれないってね。 後悔は全て私の中に取っておこう、今は……

 

 

 

()()()()()に挨拶に行くとしようかな」

 

 

 天音は体育座りの態勢から身体を垂直にし、自由落下を始め雲を突き抜ける。

 

 

 目指すは────

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。