目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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15:誰が為の……

 暁、飛段と天音小鳥との戦闘後木ノ葉の小隊は里へと帰還し事の顛末を綱手へと報告していた。

 

「なるほどな……皆ご苦労だった、一人でも暁の戦力を削れたのは大きい。 それにもう一人の天音小鳥も小さくはない怪我を負ったようだからな、これからも気を抜かず頼むぞ。 今回の事で大きく疲弊しただろう……お前達二班にはしばしの休養を与える、以上だ」

 

 綱手からの休暇の命令に、新カカシ班のメンバーはそれぞれ火影の部屋から退室していく。 その中で明らかに落ち込んだ様子でボロボロになっているナルトを心配するように一人残ったシカマルはその背を見ていたが、扉が閉まると綱手へと向きなおす。

 

「……綱手様……今回、里を出る時に言っていた話ですが」

 

「ああ、()()()()()()()()か……あの時は悪かったな、()()のお前の心境を思えば言うべきではなかったかもしれん……」

 

「いえ……俺も柄にもなく熱くなっていたので……でそのことなんですが俺なりに感じたことを言ってもいいですか?」

 

「かまわん。 我々にとって天音小鳥が特異な存在であると思われる以上、直接会った者の意見は貴重だからな」

 

 綱手の許可を受け、シカマルは顎に手を当て少し考えた後に口を開き始めた。

 

「綱手様から聞かされた、『天音小鳥は黙雷悟と協力関係にある又はどこかの里の暁へのスパイである』という可能性の話ですが……俺個人としては有り得る話だと思いました」

 

「ほう、そう思った根拠は?」

 

「幾つかあるんすけど、先ずは今まで奴との接敵したという全ての報告で死者が出ていないということが気になりました。 奴が本格的に名を広め始めた風影誘拐の件でも、奴と戦闘したという砂隠れの門番たち全員怪我を負ってはいますが誰一人後遺症はないぐらいで気絶させられただけだそうで……」

 

 シカマルの話を聞く中で綱手は少し気になるところをがあるのか口を挟む。

 

「……随分と詳しいな、そこまで繊細な報告はこちらには届いてなかったはずだが……」

 

「いや、まあ……これは今後の中忍試験のことで向こうのテマリとそう言った話になったからたまたま知ってたことで……」

 

 シカマルの少し焦った様子の返答に、綱手は明らかに悪いことを考えている笑顔を作り頬杖をつく。

 

「ほ~~~う?」

 

「……何すか、その顔……たくっ話を戻しますよ。 んで、綱手様から聞かされた悟との繋がり。 今回の件で奴が悟と接触しているかの真偽は分かりませんでしたが、少なくとも奴は手加減して俺たちと戦っているってことは間違いなく実感しました」

 

 そういうとシカマルは自身の脇腹を服をめくり綱手に見せた、部位は最後に天音の影分身に蹴られ、少し青く変色していた。 その怪我の様子を見て綱手が立ち上がる。

 

「どれ、それぐらいの怪我ならパパっと私が直してやろう」

 

「いや、ちょ……綱手様の手を煩わせるほどの……てまあ、治してもらえるならそれはそれでありがたいんすけど……」

 

 問答無用とばかりに近づいてきて掌仙術を自身に行う綱手の様子に、シカマルは仕方ないといった様子でそのまま話を続けた。

 

「まあ、専門家の綱手様ならわかる通り大した怪我じゃないんすよ。 その時俺は奴に完全に不意を突かれたのにも関わらず、クナイや武器で首を狙う訳でもなく只の蹴りで吹き飛ばされただけ……それもチョウジの蝶モードやロックリーの体術にも引けを取らないハズの奴の影分身がです」

 

「確かにな、骨にも異常はないようだ……よし!」

 

 綱手がそう言い終え患部をポンポンと叩く。 このわずかの間にシカマルの脇腹の青あざは完璧に消え去っており、シカマルも僅かに残っていた痛みも消えたことで綱手の有名道理の実力に小さく感嘆の声を挙げる。 

 

「すっげ…………んで、もう一人奴に確実に仕留められそうだったらしい、いのの怪我も帰りの道中綱手様の弟子のサクラに診てもらったら『額の傷は少し皮膚が切れているだけで、脳震盪がメインで気絶していた』と……チョウジの話では高速で移動しつつ殴り抜けられたように見えたそうですが、当のいのに聞いたら『直前で多分……手の形を変えててデコピン……されたのかも』って言ってました」

 

「でこッ……デコピンだと?」

 

「ええ……明らかに殺せるタイミングで殺さず……かと言って要所要所では容赦のない攻撃を──」

 

「今、韻を踏んだか?」

 

「ッ茶化さないでくださいよ……まあ、これらの事実と一応アスマの死を確かにする物的証拠はない……という点で、天音小鳥には暁の組織としての目的とは別の目的があるのではと俺は思います」

 

 シカマルが自分の考えを言い終えると、綱手は椅子を背後の窓に向け回し窓越しに空を見上げる。

 

「なるほどな……大分参考になったが……奴がアスマの消息に直接かかわっている以上、生ぬるい処置は取れないだろう。 少なくともS級の指名手配としてこれからは追うことになるだろうしな……生死を問えない以上──」

 

「向こうから真実を話すか、事情を知らない奴らよりも早く俺たちが奴を捕え無理やり吐かせるか……すね。 ……正直、俺自身奴に対して思うところ……怒りがないわけではないですが、うやむやに復讐して真実が分からなくなるのも困るんで」

 

「……私は忍びとして、感情に囚われず物事を判断する能力は必要なものだとは思っているが……それにも限界があるとも思っている。 あまり根を詰めすぎないようにしろ……いいな?」

 

「……うっす」

 

 綱手が優しい笑顔でそう語りかけるとシカマルは自分が綱手に相当心配されている事実に、少しだけテレを感じそっぽを向いて顔を綱手から背ける。 普段の綱手はシカマルから見ても火影としての厳格さを充分に有しているように見える……怠け癖などの隙がないわけではないが。 そんな火影である綱手からも自分は心配されているという事実に、シカマルは胸が熱くなり同時に責任感も自覚する。

 

「ええ、折角の休暇を貰ったんです。 アスマについて……いのとチョウジの様子も気になるので、二人と一緒に過ごそうかと思います」

 

「そうか二人は今、病院に掛かりに行っているか……ナルトもカカシも同様……となればヨシ!! 私も今から、往診に向かうとするか!!」

 

 綱手がそう言い机に手を着き立ち上がると、姿を消していた火影直属の暗部が一人姿を現す。

 

 その暗部の気配を感じさせない出現にシカマルが内心驚愕していると、暗部の忍びは綱手へと進言する。

 

「綱手様、往診まではまだ時間があるはずです。 この後シズネ様が運んでいる資料に目を通していただく手筈ですが……?」

 

「ちっ……今日のは大したものはないはずだ、シズネに任せてしまえば良いだろう……」

 

 めんどくさそうにそう言い放つ綱手にシカマルは内心(……シズネさんがいつも死にそうな顔してんのも頷けるな)と何とも言えない目を向ける。

 

 綱手の言葉に、暗部の忍びは微動だにせず沈黙するが数秒後に言葉を発する。

 

「……では、(わたくし)めが資料整理についてシズネ様に手を貸してもよろしいですか?」

 

 シカマルはその暗部の忍びの言葉に少し驚く。 暗部が自分の意見を火影に進言するなどといったことは普通は有り得ないからだ。 しかしその暗部の言葉を受け綱手は

顎に手を当て、少し考えたのちに

 

「……確かお前は三代目の頃から右腕の一人として行動していたらしいしな……よし、では任せる!! 一応だが必要事項はシズネに確認を取ってくれ、今日の予定では量だけのもののばかりのはずだがな」

 

 にこやかに業務をその暗部の忍びに押し付けることにして、足早に火影室から出ていった。 その際

 

「おい、シカマルお前も班員の2人の様子を見に来るんだろう? ぼさっとしてないで着いてこい!!」

 

 綱手からそう急かされたシカマルは、目の前で起きた非常識な執務指示に狼狽えながらも暗部の忍びに一言声をかける。

 

「……いいんすか?」

 

 様々な疑問を凝縮したシカマルのその言葉に、暗部の忍びはその仮面の奥から優しい瞳を覗かせ答える。

 

「……綱手様の能力は医療現場でこそ発揮される。 適材適所……これもまた──」

 

 シカマルがその言葉の続きを聞こうとした瞬間

 

「早くしろぉ!!」

 

 綱手の再度の催促に暗部の忍びの言葉がかき消されてしまう。

 

「ちょっ……すみません変なこと聞いて、それじゃあ俺行きますんでっ」

 

 急かされたシカマルが軽く暗部の忍びに会釈して慌てて部屋を退室するとその忍びは誰にも聞こえないように小さく呟く。

 

「玉のため」

 

 その後火影室に資料を運び込んできたシズネは綱手の消えた部屋の中の様子に目の隈を仙人の如く深くしたことは、言うまでもないことなのかもしれない。

 

 唯一業務をこなせる優秀な暗部が付いていたことがシズネにとっては不幸中の幸いであっただろうか。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉病院へと綱手とシカマルは、今回の戦闘で傷ついた者たちの元へとそれぞれ訪れる。

 

 まず、天音に効かなかったにせよ神威の使用と雷切の連発をしてチャクラ切れでダウンしているカカシと、蝶モードによって著しく体力を消費したチョウジは同じ病室のベッドで既に点滴を受けて安静にしていた。

 

「……いやぁ……今回の戦闘はきつかったな……」

 

「俺も、天音小鳥がああも大規模な術を使ってくるとは……カカシ先生やあのヤマトって言う人がいなかったら今頃消し炭ですよ」

 

 手に持つ小説に目を向けながらも、ベッドの傍に訪れたシカマルと会話をするカカシはチラッと寝息を立てているチョウジに目を向ける。

 

「それにしてもチョウジは立派になったな、あまり任務を共にすることもなかったがああも頼りになるようになるとは……数年前の演習を思えば見間違えるようだった」

 

「ああ……あの悟とやり合った演習のことっすね……確かにあの後からチョウジは結構やる気を出して頑張ってたから……俺たち猪鹿蝶の中でも一頭一つ抜けて強くなりましたね」

 

 そんな世間話をする2人。 ふと病室のドアが開くと、花束を持ち頭を包帯でグルグル巻きにしたいのが姿を現す。

 

「おういの、思ってたよりも調子が良さそうだな」

 

「シカマル! まあ、私はチョウジに比べて軽傷だから……サクラにもすぐに応急処置してもらってたし、一端家に戻って見舞いの花でも見繕ってきてたのよ」

 

 明るい笑顔でシカマルの言葉に返事をするいのは、慣れた手つきでカカシとチョウジのベッドわきにある花瓶に花を添えていく。

 

「悪いねぇ……いのも一応怪我人なのに」

 

 ニコニコとそう口にするカカシ。 実際病室に花が添えられると、それだけで気分が良くなるのだろう。 チャクラを消耗し、体調が落ち込んでいるカカシには精神的に和らげるものは思っているよりも効果があるのかもしれない。

 

「いいんですよ、カカシ先生。 今回、私は戦闘面で何もできなかったから……でも次はそうはいかないわっ! ……だってアイツは……ッ」

 

 ギリっと歯を食いしばるいの。 彼女にとって天音小鳥は猿飛アスマを連れ去り殺害した人物と相違ないのだ、その湧いて出る怒りの感情は当然のことだった。

 

 シカマルも、その気持ちがわからないわけでもないが様々な可能性が考慮される忍界では一つの考えに傾倒するのは危うい事であると自覚している。

 

「いの、気持ちもわかるが今はあの天音の事ばかりを考えていられるわけじゃない……暁の奴らが本格的にナルトを狙ってきてることについても──」

 

「わかってるっ!! ……わかってるけど……」

 

 シカマルの言葉にいのが自分の感情の行き先の行方を問うように、一応の同意の言葉を呟く。

 

 そんな2人の様子に、カカシは小さくため息をつき手に持った小説を自身の下半身に掛かっている布団に伏せ口を開く。

 

「……ま、肝心なことは大抵いつもわからないもんだ。 そう言うときは自分のやれることを実直にやることが案外正解の場合もある。 ……取りあえずはそうだな、俺の体調が戻ったらアスマ班に焼肉奢ってあげよう」

 

 ニコッと2人を励ますカカシの言葉に、いのとシカマルは2人してカカシに目線を向ける。

 

「……いいんすか? 俺たちはともかく……」

 

「そうよ、うちにはチョウジが……」

 

 そのまま2人の目線がチョウジへと向くと

 

「……や……やき……にく?」

 

 チョウジがそう寝言を呟く。 そんな様子のチョウジに対して引き気味の2人にカカシは

 

「偶にはいいさ、思えばアスマには結構な頻度で奢らせ──奢ってもらってたからな。 アイツの教え子たちにそれを返すのも悪くはない」

 

 そう言って窓の外に目線を向けたカカシは、窓から見える青空を見上げて呟く。

 

「……もしアイツが生きてたら、何倍にでもして返してもらうだけだからな」

 

 

~~~~~~

 

 

 一方、治療室では右手にサクラの掌仙術を受けるナルトの姿があった。 2人の様子を見るヤマトとサイ、そこに綱手が扉を開け姿を見せる。

 

「ここか。 先ほども様子は見たが随分と無茶したなナルト」

 

「師匠!」

 

「……綱手のばあちゃん……」

 

 綱手の参上に、サクラとナルトが反応を示す。 ヤマトとサイはしっかりと会釈する様子を見ると、互いの距離感が良く表されている場面に見える。

 

 綱手はサクラの治療を受けるナルトの様子をざっくりと視診し、身体にも手を触れ怪我の様子を探る。

 

「ふむ……随分と変わった傷の付き方だな」

 

 そう呟く綱手に、ヤマトが口を開く。

 

「それが……ナルトの新術、風遁・螺旋手裏剣はカカシ先輩も写輪眼で見切れないほどの()()()()といってまして……」

 

 そのヤマトの言葉に綱手は、納得したかのように頷く。

 

「なるほどな、風遁系の傷か……経絡系や細胞が恐ろしく細かく傷ついている……だが右手以外にも似た傷が見受けられるが、どうしてこうなっている?」

 

 綱手は思った疑問を口にすると、気分が落ち込んでいる様子のナルトが呟く。

 

「アイツも……天音の奴も……螺旋手裏剣を使って来やがったんだってばよ……」

 

「なに……?」

 

 その悔しそうなナルトの様子に綱手はその言葉が嘘ではないことを確信した。

 

「……螺旋丸に、性質変化を加えるのはそう易々と出来るものではないはずだ」

 

「ですが綱手様、僕もカカシ先輩もしっかりと見ていました。 ナルトの螺旋手裏剣を相殺する天音小鳥の螺旋手裏剣を……」

 

 ヤマトの追加の言葉で、綱手はその事実に驚きを感じつつも冷静にナルトの身体を見回す。

 

(なるほどな、怪我の様子の大きい術を行使した右手以外にも似たような傷があるのは同じ術で相殺し合ってその余波がきたからだろう……つまりは)

 

「同等の傷を天音も負っていることになるな……そうなるとしばらくは奴も姿を現すことはなさそうだな」

 

 綱手の推察にヤマトが答える。

 

「ええ、それに四肢の筋肉の一部をカカシ先輩の忍犬が食いちぎったりしていますしその他、小さくはないダメージを相手も負っているハズです」

 

「そうか、その肉の一部は回収して既に鑑識に回してあるか?」

 

「はい既に」

 

 スムーズな2人の会話が途切れると、ふとナルトが呟く。

 

「なあ、婆ちゃん……俺ってば、本当に──」

 

 その言葉を遮るようにゴッと鈍い音が室に響く。

 

「~~~~~~っ!?!?!?」

 

 空いた左手で頭に走る痛みを抑えようとするナルト。 治療を続けているサクラやヤマト、サイが驚きに言葉を失っていると綱手は自分が振り下ろした拳でそのままナルトの頭に掌仙術をかける。

 

「……お前は自来也が認めた、アイツの弟子だ。 弱気になんかなるんじゃない」

 

 叱りつけるかのようなその綱手の言葉に、ナルトは痛みに涙目になりながらも俯き口を開く。

 

「……わかってんだってばよ。 俺ってば馬鹿だけど……だけど最近何かが自分に足りねぇーんじゃないかって気がしてならねぇ……」

 

「……」

 

 ナルトの元気のない様子に部屋に沈黙が走る。

 

「サスケや……あの天音も滅茶苦茶に強かった。 新術が出来て、少しは近づけたと思ったのに……全然足りねぇ……アイツらは何であんなにもつえーんだ?」

 

 自信の消えかけたナルトの自問自答のような言葉。 ふとその時サイがナルトに声をかける。

 

「……思うに、目的に対しての執念じゃないかと僕は思うよ」

 

「……サイ?」

 

「僕は、ナルトやサクラと一緒になって初めて自分というモノを俯瞰してみることが出来るようになった。 道具としてじゃなくサイという自分自身を。 そう振り返ると、大蛇丸のアジトでサスケと対峙した時に感じた()()感覚も少しは理解できる……かもしれない」

 

 サイはそのまま言葉を続ける。

 

「言葉にするのは難しいけど、サスケは自信に満ちているというか……揺るぎようのない目的があるからこそ迷いなく力を振るえているんだと思う」

 

「……ハハッ俺ってばサイには目的がないように見えてんのか?」

 

「違うよナルト。 力を振るう意味を彼は分かっているんだと思う」

 

「……力を振るう意味……?」

 

「僕たち忍びは、任務のために術や技術を行使しているけどきっと……その根本が……原点が大切なんだ、力の大小にかかわらずね」

 

 自分も良く分かっていないのかたどたどしくそう語るサイの言葉に、ナルトは自身の左手の掌を見つめ呟く。

 

「原点……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つめた左手を握りしめ、男は立ち上がる。

 

「あら、全員にとどめはさしていないようね……まだまだ甘い」

 

 そんな立ち上がり夕日を背負う男に大蛇丸はそう語りかけた。

 

 その男、うちはサスケは幾多の忍びを屈服させ地へと這いつくばらせその体の海を音もなく歩く。

 

「こいつらの命を奪うことは俺の目的に掠りもしない。 もとから不必要なことをするつもりは毛頭ない」

 

 大蛇丸の言葉にそう返事をするサスケ。 息一つ乱さず、返り血も一滴も受けずに忍びの群れを蹂躙したサスケは目的は達したとばかりその場から立ち去る。

 

 そんなサスケの様子を見る大蛇丸は内心に芽生えている好奇心を燻ぶらせる。

 

(これがうちは……もうすぐ、その力が私のもの……っ!)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 そして一夜明け、早朝。 とある森の中にある廃墟の中。

 

 そこの中へと足を踏み入れる暁の衣を羽織る人物が一人。

 

「……ここかぁ、天音ちゃんの拠点は。 思ってたよりも数倍ボロッちいね」

 

「指輪ノオカゲデ大体ノ位置ヲ把握シテ来ミレバ、ココマデボロイトハナ」

 

 独りで会話をするその人物、ゼツは廃墟の中に感知できる生体反応のいる部屋に向け足を運ぶ。

 

 扉としての機能を辛うじて保っている扉を開ければ、その先の部屋の中、ボロボロのベットの上に仰向けに倒れている天音の様子が見て取れた。

 

「生きてる?」

 

「死ンダカ?」

 

「……ひどいなぁ……生きてますよゼツ先輩」

 

 軽いやり取りをした2人だが、天音は身体を起き上がらせずに横になったままであった。

 

 部屋の中の荒れ具合を見て回りながら、ゼツが天音に声をかける。

 

「君がそこまでボロボロになるとはねぇ……そんなに大変だったかい?」

 

「ええまあ……九尾の人柱力に猪鹿蝶、それに写輪眼のカカシ……角都先輩にケンカ売られた後でしかも飛段先輩は1人相手にやられる。 そこのお金を回収しただけでも褒めてくださいよォ」

 

 心底疲れているのか、声に元気のない様子の天音は目線だけで金の入った麻袋を示す。

 

 ゼツはその袋の中を確認して感嘆の声を挙げる。

 

「わあ……随分とスゴイ量だね偉い偉い、これだけあればしばらくは金銭面で困ることはなさそうだ」

 

「メンバーモ随分ト減ッタカラナ、配分ヲ気二シナクテイイノハ助カル」

 

「ハハッ……中々に酷い事言いますね、ゼツ先輩のサドイ方さん」

 

 ゼツはその袋を抱えて部屋から退出しようとする。 その時

 

「ゼツ先輩、折角来たんだから少し看病してってくださいよ……今立ち上がるのも滅茶苦茶しんどいんですよォ」

 

 天音が甘えるような声で泣きごとを言った。

 

「ええ~……めんどくさいよ、君回復力あるんだからそれぐらいほっとけば治るでしょ?」

 

「俺ノ手ヲ煩ワセルナ」

 

 嫌々な反応を見せるゼツに天音は再度目線で、ボロボロの戸棚を示す。

 

「ホントひどい……そこに非常食と丸薬をしまってるんで、取ってくれるだけでもいいんでお願いしますよォ~」

 

 ほとんど動けにないのか、仰向けのまま微動だにしない天音。 そんな様子で泣くような声で頼み込んでくる相手に、ゼツはめんどくさそうにため息をつく。

 

「はぁ……めんどくさいけど仕方ないなぁ……死なれるよりはいいか。 まあ、頑張ってくれてるみたいだし取るだけなら良いよ」

 

「さっすがっ! マジ感謝ですっ!!」

 

 ゼツは麻袋を降ろすと、戸棚を開け中にある袋を取り出す。

 

(中身は……乾パンと丸薬、あと水筒もあるね。 本当に非常用って感じの道具入れか)

 

 その袋の中身を除いたゼツに天音は

 

「早く持ってきて下さいよ~、昨日ここまで来てぶっ倒れてから飲まず喰わずなんですよ~」

 

 甘えるような言葉を投げかけ急かす。

 

「今持ッテイクカラ黙ッテロ」

 

 ゼツが袋を閉じ、天音へと歩み寄る。

 

「いっその事近くでア~ンって食べさせてくださいっ!」

 

「……」

 

 近くに来るよう催促する天音、ふとゼツが歩みを止めると

 

「嫌だね」

 

 そういって袋を天音の腹部へと放り投げる。

 

「うぐえっ!? …………酷い」

 

「アマリオレタチヲ舐メルナヨ、オマエノ小間使イ二ナッタツモリハナイ」

 

 呆れた様子でゼツはそのまま金の入った袋を持ち、部屋の扉に手を掛ける。

 

 ふと去り際にゼツは

 

「そう言えば、四尾の居場所が分かったみたいだよ。 今イタチと鬼鮫が向かってる、でも尾獣封印のときに結構体力使うから今の君には無理そうだね」

 

 そう言う。 その言葉に天音は

 

「そうですか残念ですが……できれば、今は少し休暇が欲しいのでありがたく思っておきますね」

 

 疲れた様子の口調で返事をした。

 

「そういうことだからそれじゃあ、お大事にね」

 

 ゼツはそれだけ言ってその廃墟から出ていった。

 

 一人残された天音は暫く仰向けで大人しくしていたがゼツが周囲からいなくなったことを確認すると体を起こし、乾パンや丸薬を無造作に口にし水で喉の奥に流し込む。

 

「うっく……むふ~……生き返る~流石ちょっと張り切り過ぎたなぁ……螺旋手裏剣の傷が治りを妨げているのもあるしそれに……ってやっぱり」

 

 天音は自身の衣の内に構えていた尾異夢・叉辺流に視線を落としてため息をつく。

 

(黒ゼツを仕留める隙はなかったか……警戒されてるのか近づいてこないし、封印参加もさせて貰えないようだし……厳しいなぁ)

 

 そのまま、頬張るように袋の中身を食べつくした天音は再度倒れるようにボロボロのベッドに仰向けに倒れ呟く。

 

「影分身よ~~~早く帰ってきておくれ~~~……」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 サトリの拠点の集落。 現在そこに建っている高層の建物の地下の戦闘場ではアスマによる訓練が行われていた。

 

「お前ら、呪印とかやらで身体能力が高がろうがなぁ頭使ってくる相手にはごり押しは通じねぇぞっ! 考えて動けっ!!」

 

 アスマの気合の入った言葉に、集落の戦闘員たちは渋々返事をして基礎的な動きを反復する。

 

(……思ってたより反抗的ではねーけど、逆にやる気もない……めんどくせぇなぁオイ)

 

 微妙そうな顔でアスマは彼らを見つめる。

 

 元大蛇丸の実験台だけあり、動きの質は高いモノのそれらを計画的に使う事には慣れていないのか『忍び』としては彼らは未熟であった。

 

 元々彼らが行っていた任務も複雑なモノは少なく、力を振るえばどうにかなるか単純な力仕事が主立っており大抵手に負えないモノはサトリが捌いていたのがその原因でもあるのだが。

 

(モチベーションつーものは、俺みたいな新参者がどうこうできるものじゃないしな……アガリとか言う奴も数日引きこもって姿を見せないし、キョウマも暫く集落を出たままで帰ってきてない……)

 

 どうにかできないかと心の中で思うアスマは小さくため息をつくと、戦闘場に1人の集落に暮らす女性が降りて来て叫ぶ。

 

「サトリ様が帰ってきましたっ!!」

 

 その一言で、戦闘場に居た者たちはアスマから与えられた訓練をほっぽりだしてドタドタと地上へと上がっていってしまった。

 

「お……おい……参ったなぁ」

 

 独り粗末なつくりの車いすに乗せられ放置されたアスマが呆れていると、ヒョイっとその車いすごと持ち上げられる。

 

「うおっ!?」

 

「皆行ってしまったな……取りあえず一緒に行こう」

 

 いつの間にか重吾に持ちあげられていたアスマはそのままなすがまま、地上へと連れて行かれるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 アスマが重吾の肩に車いすごと担がれ地上に出ると、人の群れが出来ておりその中心には天音小鳥が居た。 しかし

 

(アイツは……影分身か? 随分と質が低い……)

 

 アスマは一目でその天音が質の低い影分身であることに気がつく。 相当の手練れであるはずの天音のその様子に違和感を覚えたアスマだが、その慕われている様子から彼女が影分身であることは集落の者には気がつかれていないようであった。

 

 囲まれ、対応に四苦八苦していた天音がアスマを見つけると手を振って呼びかけてくる。

 

「! アスマさーん、調子はどうですかぁ?」

 

 そんな砕けた態度の天音の様子にアスマは以前まで敵であったはずの事実とのギャップを感じつつも何とか返事をする。

 

「てんで駄目だ。 やる気も気力も感じられねぇ! つーか話があるなら、場所を変えるぞ!」

 

 そのアスマの言葉を聞き、天音は「ごめんね、通して……皆には後で話をするから」と言いつつ人ごみをかき分け、アスマと重吾の前まで来る。

 

「ふーーっ揉みくちゃにされて影分身が解けるかと思ったぁ」

 

「やっぱり影分身だったか、そんなことより戻ってくるとは何かあったのか?」

 

「いや、集落がどうなってるのか気になったんだけど……アガリは駄目そうか」

 

 やっぱりかと小さくため息をつく天音にアスマは疑問符を浮かべる。 そんなアスマを担いだままの重吾は

 

「サトリ、アガリにはやはり荷が重いのではないか?」

 

 と心配そうに天音に声をかける。

 

 だが天音は

 

「いや、アガリにしかあの役は任せられない……まあ、いきなりは大変そうだし私も力を貸すよ」

 

 そういって平然とした態度で高層の建物に足を向けた。

 

 2人のやり取りにアスマは

 

(新参者の俺にも分かりやすく話をして欲しいもんだが……)

 

 と不満に思いつつも天音について行く重吾ごと建物の中に連れて行かれるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

「天音……これからどうするつもりだ? 俺にあいつらを鍛えろと言ったが、このままじゃあ焼け石に水だぞ?」

 

 建物内部を移動しながらもアスマは天音にそう問かける。

 

 その問いに天音は顔を正面に向けたまま答えた。

 

「私の目的は、ここの皆の力で今後来る戦いの被害を抑えること。 そのために、隠れ里紛いのことを今までさせてきたけどやっぱりそう上手くはいかないようだなぁ……」

 

 その言葉に重吾が反応を示す。

 

「サトリ、目的があるのであれば俺から行ってしまえばお前が皆を導けばいいのではないか? お前の言葉なら皆いう事を聞くだろう」

 

 重吾のその言葉に、天音はぴくっと体を一瞬反応させるが小さく笑い

 

「……私じゃ駄目だ」

 

 そう簡潔に否定して黙り込んでしまった。 少し気まずい雰囲気を感じ取ったアスマはそのまま会話の途切れた状態で重吾に運ばれ、資料室の前まで来る。

 

 丁度資料室の前ではゼンゾウがその巨躯を縮こませた状態で扉の先へ何やら話しかけている様子であった。

 

 そんなゼンゾウが天音を見つけると

 

「サトリ様っ!! 良かったっ帰って来てくだせぇましたか、アガリが──」

 

 泣きそうな顔で、天音に助けを求める。 天音は

 

「わかってる。 もしかしたらって思ってたから……ごめんね」

 

 そうゼンゾウに優しく声をかけながら資料室の前に来る。

 

 何が始まるのかと、アスマは黙って様子を見ることにした。

 

 天音は扉のドアノブに手を掛けるが、鍵がかかっているのかガチャガチャと音が鳴る。

 

「……ふう」

 

 小さくため息をついた天音は扉に手を添え話し始める。

 

「アガリ、居るんでしょ? この前の話の事だけど──」

 

「俺には無理です……サトリ様」

 

 サトリの話を遮るようにすぐに中からアガリの声が聞こえる。

 

「俺はやはりあなたの様には……ぐす……なれないのです……俺には勇気が……ない……」

 

「アガリ……」

 

 泣いているのであろう、震えたアガリの声が聞こえゼンゾウが悲しそうな表情をする。

 

 天音は瞳を閉じ深呼吸をし、そしてその瞳を開け再度話を始める。

 

「アガリ、アンタは私じゃない。 だからこそ任せるって言ってるの……私の期待に応えるんじゃないの?」

 

「……ぐす……俺じゃあダメなんです」

 

 卑屈さを醸しだすアガリの言葉に、天音が握りこぶしを作ったその瞬間。

 

 資料室のドアが弾け飛ぶ。

 

 

 パラパラと埃が舞い、資料室へと人影が乗り込む。

 

 その人影に部屋の隅で固まってアガリが

 

「俺にはっ俺には出来ない、ゴメンナサイ、サトリさ──」

 

 言い訳を言い放つも襟を持ち上げられ無理やり立たせられる。 その人影はアガリの顔を殴りつけると大きな声で叫んだ。

 

「いつまで昔のアンタのままで居るつもりだ、チビっ!! アタシはうじうじしている奴が嫌いだけど……今のお前はもっともっと嫌いだっ!!」

 

 アガリは怒鳴りつけてくる相手が、天音でないことに気がつく。 その人物は真っ赤な髪を震える怒りでなびかせていた。

 

「アカネ……」

 

 資料室の外で天音がその名を呼ぶ。

 

 アガリが目の前の人物がアカネであることを認識すると同時にアカネが口を開く。

 

「アタシは力が強い奴が好きだ……ぶっ倒して私が強いって思えるからな! なのにアンタが()()()、サトリに立ち向かっていったとき……私は足がすくんで動けなかった……っ! でもアンタは動いたっ! ……だからお前なんだろっ!?!?」

 

 アカネは手に力を籠める。

 

 振り返ったアカネは天音に声をかける。

 

「私たちを救って……集落をつくったのも、サトリアンタだ。 皆にちやほやされて、尊敬されてるのもアンタだ。 でもアタシはアンタを認めてないっ! だってアタシは……っ」

 

「アカネ……お前……知ってたのか?」

 

 天音の問いかけに、アカネは頷く。

 

「っ……偶々聞いちまっただけだ、だけど反対する気はないっ! だって……」

 

 その先の言葉を飲み込んだアカネはアガリの襟から手を放し、資料室の外に出る。

 

 そのまま天音に向かい合い

 

「サトリ……あの時の()()で良い。 アガリはそれで動く……」

 

 そう言い残してアカネはその場から立ち去った。

 

 沈黙が流れるなか、天音は腰を落としているアガリに向き合い口を開く。

 

「…………私は本気だ。 次に私に立ち向かってくるものは殺す……その代わりに他の奴らは生かしてやろう……」

 

 天音はそう言い、アガリを見下ろす。

 

「……」

 

 黙っているアガリだが再度天音は口を開く。

 

「そう言った時お前が()()()、私の前に立った。 その時から決めていたんだ……アガリ」

 

 そういって天音は手を差し伸べる。

 

「俺は貴方みたいに強くない……」

 

「知ってる」

 

「俺は貴方みたいに……皆に慕われていないっ!」

 

「それは違う、皆が私を様付けするのはアガリ……アンタがそう言ってるからだ……」

 

「……俺はっ」

 

「……私の期待には応えようとしなくていい……アンタの思うがままにするんだ」

 

 そう言って天音は差し伸べた手のひらをより強く開く。

 

「……貴方はずるい人だ」

 

 アガリはそう言って天音の手を掴んだ。

 

 部屋の外で様子を見ていた重吾とゼンゾウは小さくアガリの名を呼ぶ。

 

 アガリの手を掴んだ天音は彼の身体を引き起こすと、抱きしめるようにして背を叩く。

 

「知ってる、私はずるいんだ。 さあ行こうか、アガリみんなの元に」

 

 一部始終を見ていたアスマは心の中で思う。

 

 

 

 

 

(事情がサッパリわかんねぇ……)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 集落の高層の建物の外で人々がざわつく。

 

 集落に居る全ての人間が集められ、建物の入り口には天音とアガリが並んでいた。

 

 何事かと口々に話し合う人々だが天音が手を挙げると、黙り静かになる。 そして天音が口を開く。

 

「皆に集まってもらったのは……集落のこれからについて話があるからだ」

 

 大きな天音のその言葉に、皆が息を呑む。 そのまま天音は話を続ける。

 

「今この集落は基本的な衣食住を可能とするまでにいたるほど成長を遂げた! だけど、ここにはこれからも人が増えそのために必要となってくることも増えてくる!!  ヤマジさん1人との取引では衣類やその他生活用品にも限界が来ているし、食料も足りない!! ヤマジさんが流してくれる非正規の任務にも限界がある!! ……つまりこの集落は変化の必要がある!!」

 

 小さくざわつき始める皆。 お構いなしにそのまま天音口を開く。

 

「只の集落のままでは、生きてはいけない……二年半ものの月日をかけてここは人体実験の場から人の集まる集落となった!! そして次は……」

 

 天音は大きく息を吸い叫ぶ。

 

「新たな()()()として、成長するときが来たんだ!!」

 

 ざわつく皆の様子に、天音は一呼吸置いて話を続けた。

 

「ここの集落は新たに、〈(くら)隠れの里〉を名乗り運営していく!! 一部の者は既に、他里から招いた猿飛アスマに忍びとしての指導を受けているはずだ。 そして隠里として必要なパイプは既にヤマジさんが幾つか用意してくれている。 後は皆の気持ちを聞きたい」

 

 天音は問う。

 

「……遅かれ早かれここは目をつけられる。 悪意あるモノから攻撃を受ける場合もあるかもしれない、そんな時に……私は皆に自分を、他人を守る力を持っていて欲しんだ。 皆に問う!! 隠れ里を名乗り、リスクを取ってでも成長するか。 現状維持に留まるかをっ!!」

 

 天音の問いに、沈黙が流れる。 しかし、次第に皆が声を挙げ始めた。

 

「俺たち荒くれが、そんな高尚なことできるなんてなぁ願ってもないことだぜぇ!!」

 

「私はもっとオシャレがしたいし、仕事ももっと頑張りたいっみんなの役に立ちたい!!」

 

「俺はもっともっと肉が喰いたいぜっ!!」

 

 それぞれが肯定的な意見を口々に言い始める。 そんな様子に天音は、満足そうな顔をし手を挙げ発言する。

 

「ありがとうっ!! 一部滅茶苦茶個人的な願望言ってるけどそれで良いと思う。 自分たちがやりたいことをやるために成長するんだ……そのためなら人は頑張れるっ!! そして私からもう一つ大切な話があるっ!!」

 

 天音の発言、皆が耳を向ける。

 

「隠れ里として、暗隠れを名乗る以上皆を導く長……暗影を決める必要がある」

 

 天音の言葉に人々は困惑を露わにする。

 

「それってサトリ様じゃないの……?」

 

「今こうしてるのも長っぽいし」

 

 その言葉を聞き、天音は口を開く。

 

「悪いけど、私は影には成れない。 私は確かに強いし、賢いっ!」

 

(自分で言うのか)(……確かにそうだけど)(否定できないのがなぁ)と集落の者が天音の発言にそれぞれ思う。

 

「でも私には他にやるべきことがある。 よってまあ……皆ぁ私が暗影決めてもいいよねぇ!!!!! 大丈夫、だって」

 

 天音はアガリへと視線を向ける。

 

 

 

 

 

「暗影はサトリ様の推薦を受け俺が……アガリが努めさせて頂く……!」

 

 

 

 

 

 天音の言葉を受け、アガリが一歩前に出てそう宣言する。

 

 一気にシーンと静けさが流れ、アガリが唾を飲むがそのまま口を開き話始める。

 

「俺は……俺は弱いっ! ……他の実験体だった皆ほど力も強くないし、サトリ様のように先見の明もないっ! だけど、ここを良くしたいって気持ちは誰にも負けてないって自信を持って言えるっ!!」

 

 アガリは涙を浮かべながら、大きく頭を下げ叫ぶ。

 

「俺に……皆の力を貸してくれっ!!」

 

 アガリの叫びが木霊する。 その木霊が消え去るとざわざわと騒がしくなり始める。 大丈夫なのかといった心配の声が上がる。 しかし

 

「私はアガリさんのお手伝いしたいです!!」

 

 か弱く、しかし透き通るような声が大衆の中から聞こえた。 皆がその声のするほうへと目を向けると、黒い仮面の忍び・キョウマが盲目の少女・キョウコを抱えて立っていた。

 

 キョウコは目を閉じたまま、しかしハッキリとした表情を露わにして言葉を紡ぐ。

 

「アガリさんは目の見えない私のために、いつも家に様子を見に来てくれて、裁縫も一緒に手伝ってくれて……っ!」

 

 いっぱいいっぱいに話すキョウコの言葉に続き、キョウマも語り始める。

 

「紛争孤児のキョウコにだけじゃない、アガリは外から来る者にも優しく接することが出来る良い奴だ。 そして卑屈で、怖がりだがいざという時の勇気がある……少なくとも俺とサトリがここに来たときの事を知っている奴なら、覚えているだろう?」

 

 キョウマの言葉を受け、皆が口々に言葉を漏らし始める。

 

 アガリに相談に乗ってもらったこと。 字が読めない者に、読み書きを教えていること。 資金繰りに頭を悩ませ、血の気の多い者たちの喧嘩を身体を張って止め……

 

 そして

 

「アガリは優しい……きっと皆を良い方に導いて……いや一緒に歩いていってくれる」

 

 天音はアガリの肩を叩き、そう言う。 アガリは涙に濡れた顔を挙げ

 

「サトリ様……っ」

 

 サトリの名を呟いた。

 

「上に立った奴だから皆に認められる訳じゃない。 皆に認めらたからこそ上に立ち、皆の為に尽力する……それが影の名の重みだ。 だったら例え強くなくても、賢くなくても……皆が力を貸したいって思う奴の方がいいじゃない? ……ね?」

 

 天音の言葉を受け、アガリは目線を前に向けると。

 

 人の波が押し寄せていた。

 

「わっ!? ちょっ!?」

 

 動揺するアガリを問答無用に、人々がもみくちゃにして胴上げをする。

 

「お前雑魚だけ、頑張れよー!」

 

「しょうがねぇから力貸してやるよー!」

 

「でも背が低いと威厳ないよなー!」

 

 人々がアガリを認める言葉と共に、胴上げされたアガリは顔を腕で隠したままずっと頷き続けていた。

 

 新たな里、そして長の誕生に人々が歓喜の声を挙げるなかひっそりと天音は建物の中に移動し、中で待機していた重吾とアスマの元に来ていた。

 

「隠れ里の宣言とはなぁ……俺に教育を頼んだのもそのためか……」

 

 アスマの言葉に天音は

 

「まあね、一応それもあるけど私個人としては今後の戦争の時に被害を抑えるための戦力として活躍するのを期待してる方が大きいかな」

 

 サラッとそう言い、重吾に目線を向ける。 重吾がその目線に気づくと

 

「どうかしたか?」

 

 と問う。

 

「……これから忙しくなりそうだなってね。 重吾、お前には前から言ってたけど──」

 

「なるほど、うちはサスケのことか」

 

 重吾がその名を口にすると、アスマが反応を示す。

 

「何故ここでうちはサスケの名が出るんだ? 奴は……今大蛇丸の──」

 

「アスマさんはまあ……気にしなくていいよ。 多分うちはサスケが重吾を求めてくるかもって話だから」

 

 天音は先ほどまでのフレンドリーな雰囲気とは一変し、目的を持った野心家のような表情を見せる。 その雰囲気の変わりようにアスマが息を呑むと天音は再び、砕けた態度になり

 

「いやぁ……やることが多くて大変だなぁ……」

 

 そう天音ははぐらかすようにため息をついた。 何とも言えない状態になったアスマだが、これから自分にのしかかる仕事の事に思考が傾くと

 

「……まさかだとは思うが、ここの運営に俺を関わらせるつもりか?」

 

 嫌な予感を口にした。

 

 その言葉に天音は……ニヤッとした表情をし

 

「ここで正規の忍びとして働いてたのは、アスマさんだけだからねぇ……キョウマさんは暗部だし、私は…………」

 

 そこまで言って口を閉じる。 アスマが不思議に思うと、天音は再度口を開いた。

 

「重吾、アスマさんを外の騒ぎに連れて行ってあげてよ」

 

「はぁ?」

 

「了解した」

 

 話をブツ切りにした天音は、重吾に頼んでその場からアスマを移動させた。 外へと連れ出されたアスマと重吾も人ごみに揉まれたのを確認した天音は廊下の奥に視線を向け声をかける。

 

「アカネ、アンタはアガリとこいかなくていいの?」

 

 声かけに反応するように廊下の曲がり角から、赤髪をゆらしたアカネが姿を現す。 不機嫌そうにしているアカネは天音の目の前までくると

 

「うっせぇ……私はああいうのは苦手だ」

 

 そう言って天音の瞳を見つめる。

 

「……ん?」

 

「サトリ……あんた……もうここには戻ってくる気がないんだろう?」

 

 珍しく暗い調子のアカネに面食らった天音が目を点にすると

 

「っそんな目で見んなっ!! ただ、私はお前ともう戦えないと思うと残念に感じてただけで……」

 

 慌てて誤解を解くようにと弁解を始める。 そんなアカネの様子に天音は小さく微笑むと

 

「そうだね……戻ってくる気というか……多分戻れないかもね、残念だけど」

 

 そういって自身の左胸の位置に握りこぶしをつくる。

 

 そのしんみりとした様子にアカネが疑問をぶつける。

 

「アンタ……まさか……どこか──」

 

 しかしその言葉を天音は、アカネの口元に人差し指を置いて止めさせ

 

「しーーーっ……私の時間もそう長くはない……まあだって影分身だしね?」

 

 そう目くばせをする。 なんだとアカネがため息をつくと

 

「もう術を解除しないとね……アカネ、最後に私の顔殴らせてあげるよ」

 

 そう提案する。 

 

「はあ? ……ってどういうつもりだよ」

 

「別に? ただ術を解除しても良いけど、最後まで私に一撃入れられなかったアカネにお情けでもねぇってね!」

 

 煽るかのようにどや顔を見せる天音。 普段ならその挑発にすぐに乗るアカネだがこれが最後の別れになるかもしれないと思うと

 

「……へっつくづく喰えねぇ奴だなアンタ、精々達者でな」

 

 そう柄にもないことを言い、天音が驚きの表情を見せる。 しかし天音はその言葉を受け

 

「うん、元気でね」

 

 優しい笑顔で返事をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってくる力も残ってなかったか……」

 

 静かな廃墟で1人、横になっていた天音は小さく呟く。

 

「あ~……本当しんど……」

 

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