目指すは忍ぶ忍者   作:pナッツ

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17:うちはイタチ

 思えば何時からだろうか、俺が俺自身の感情を押し殺すようになったのは……

 

 暁に属するようになってからか? 里を抜けた時か? 両親を殺したときか? 愛する者を殺めた時か? 同族を手にかけた時か?

 

 ……いや違う

 

 里と一族の二重スパイになったときでも……暗部に所属するようになるよりもさらに前……

 

 サスケが生まれて間もない、あの九尾襲撃事件の日

 

 まだ里でのうちはへの差別は表面化しておらず、警務部隊として一族が誇りを持っていた時期。

 

 そんなある夜の日、生まれたばかりのサスケを抱き風通しのいい屋敷の縁側でくつろいでいた時だ、突然サスケが愚図り始めてしまった。

 

「どうした、サスケ? なぜ泣いているんだ……っ」

 

 俺は訳もなく愚図るサスケをあやしつつも、肌で……何か良くないことが起きるんじゃないかと予感していた。

 

 そして……

 

 

 

「グオオオオオオおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 九尾の咆哮が里全土を震わす。 里の中心に出現した九尾が暴れ出したことは、当時まだ外の区画に押しやられていなかったうちはの居住区からは容易に知ることが出来た。

 

 憎しみを振りまくかのように暴れるその巨獣の様に俺は……恐怖した。 泣き出して、全てを投げ出してその場から逃げ出したい、そんな気持ちで心が満たされてしまい……

 

 

 

 思わず手に抱いていたサスケを抱く力を緩ませてしまった。

 

 

 

 だがその瞬間、母さんが俺に声をかけてくれて

 

「イタチ、サスケ!! 一緒にここから離れるわよっ!!!」

 

 普段穏やかで、ニコニコしている母さんとは別人のように必死な形相で俺とサスケを同時に抱え母さんは走り出した。

 

 そんな普段との母さんの様子の乖離がさらに俺の心を締め付けていた。

 

 母さんの腕の中で、サスケと共に泣きじゃくりたいと思った俺だったが…………ふと母さん越しにとある光景を見た。

 

 遠くに見える暴れる九尾に向かい、突如現れた岩の巨人が地響きを響かせながら走り寄っていく様を見た。

 

 知らないはずの誰か、名前も知らない忍びの術……しかしその巨人の背に何か言葉で言い表せない感情を感じ取り俺は

 

 自分を情けなく感じてしまった。

 

 そしてそれと同時に、今隣で泣いているサスケの存在が酷く小さなものに感じ『守らなければならない』

 

 そんな強迫観念に近い決意を胸に抱いた俺は、母さんの腕の中で只管サスケに言い聞かせた。

 

「大丈夫だ、サスケ……俺が守ってやる……ッ」

 

 

 

 

 

 この時から俺はサスケを守りたい一心で……自分の内に秘めた恐怖を抑え、強くなりたいと本気で思うようになった……

 

 

 

 

 

 だが、同時に……サスケが……俺にとって恐怖を呼び起こさせる象徴ともなったのだろう。

 

 

 

 

 サスケが愚図れば、何か俺にとって嫌なことが起きる。 時がたってもそのルーティンへのありもしない恐怖を払しょくすることは出来なかった。

 

 そして常にそんな恐怖にさらされ、俺はサスケから逃げるように下忍の身でありながら暗部の身ならいとしての研修任務に集中するようになった……のだが

 

「イタチ最近調子良くないね、大丈夫か?」

 

「カカシさん……」

 

 暗部の先輩であるかはたけカカシさんが、俺の不調を感じ取り声をかけてきた。 

 

「十にも満たない下忍のお前が、こうして暗部の研修に来て成果を上げてることには現実味を感じないけどね、調子が下がってるのは俺にもよくわかるさ。 何か問題でもあるのか?」 

 

「……いえ、特に……俺に問題はありません」

 

 内心(アナタの方が普段から何かに追われるように生きていて心配になる)などと思ってはいたが、それを口にすることなど出来なかった。

 

「……その言い方、自分以外の事で悩んでいると言っているみたいなもんでしょ……相談ぐらいしてくれてもいいんだぞ?」

 

 ……余計なお世話に感じ、俺の芯に近い所に踏み込んできたカカシさんに……申し訳ないが鬱陶しさを感じ俺は突き放すように

 

「……2歳になる弟のことでちょっと……カカシさんには分からないことですよ」

 

 そう言ってしまった。 今思えば随分と些細なことで感情を揺らめかせたものだと思う。 カカシさんも俺のそんな子供じみた返しに、少し眉をひそめるが……

 

「いや、案外力になれるかもな……残念ながら俺じゃないけど……ね」

 

 そう言って、何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

 

 

 それからしばらくすると、カカシさんから夕食を誘われた。

 

「この前の相談の件について、話が出来そうな奴が知り合いに居て……そいつにならイタチも話を聞けるだろうってね」

 

 居酒屋の暖簾を2人でくぐると賑やかな様子の店内に、少し眩暈がした。 酒をあおりはしゃぐ大人たちの様子と、明るい店内の光景が闇を見るようになっていた俺には随分と眩しく見えた。

 

「一応相談事ってことで個室を取ってある……俺もマリエも今日は酒を飲まないから安心しろ」

 

「アナタたちは16ぐらいの年齢で、酒を嗜む年ではないでしょう?」

 

「……マリエはともかく、以外なことに飲んだりすることもあるのよね……これが」

 

 乾いた笑いでお道化るカカシさんに連れられ、個室へと入る。

 

 個室に入れば先ほどまでの喧騒がくぐもって聞こえ、別の空間にきたと実感ができた。 そのままカカシさんは慣れた様子で店員に注文を済ませる。

 

 ……随分と鳥関係の料理が多いように感じた。

 

 しばらくして、鳥串が運ばれてくる頃にその相手と思われる女性が個室の襖を開けた。

 

「ごめんなさい、待たせちゃったかしら……っ!」

 

 栗色の長い髪を揺らしたその人は、どこかの施設で働いているのか随分と様になっているエプロンをつけたまま慌ただしい様子で姿を現した。

 

 俺から見ても容姿が良く、個室に来るまでに男連中から声をかけられていたのか遠くで彼女を誘うような声が聞こえていたがピシャリと襖が絞められ断絶された。

 

 その女性が座敷に座り、俺とカカシさんの正面に来ると机の上に置いてあった鳥串に目を輝かせ即座に口へと運んでいた……面白い人だ。

 

「こいつ後輩のうちはイタチね」

 

 カカシさんが鳥串に舌鼓を打つ彼女に、早速とばかりに話を振る。 その女性がハッとして口の中のものを飲み込もうと咀嚼しているところに俺が自己紹介を重ねた。

 

「……どうも、うちはイタチです」

 

 年上の人間と接するのは慣れてはいるが、ここまで天然な人との会話の経験は無いので少し硬くなってしまったと自分でも思う。

 

 彼女は鳥串を飲み込むと、要領を得ていないのか少し動揺を見せた。

 

「はあ……、よろしくねイタチ君……っえ、どういう意図?」

 

 この集まりを只の食事会とでも思っていたのか、真っ先に料理に手を付けた彼女は自分が場違いな行動をしたことに気がつき顔を紅くしていた。 居酒屋なので何も完全に間違という訳でもないのだが。

 

 普段からやつれた様子をしていたカカシさんだが、あまり見たことのない笑顔になり親指で俺を指し示す。

 

「……ある意味マリエの後輩でもあるでしょ? なんでも弟のことで色々相談があるみたいで……俺じゃあそういう相談は乗れないからよろしく」

 

 事前に彼女の名前だけは聞いていた俺は、努めて礼儀正しくなるように言葉を選ぶ。

 

「……すみません、蒼鳥さんは2歳ぐらいの子ども相手をしているとのことで……少し相談が……」

 

 別に俺から相談に乗って欲しいと話が始まったわけではないが、円滑に話を進めるためだ。

 

 俺の言葉を聞き、彼女は俺には読み取れない感情を一瞬匂わせる……だが

 

「もちろん良いわよ! うちにも悟ちゃんっていうプリティで可愛い、愛らしい子が居てねぇ!!」

 

 一瞬で元気な様子になり、俺の相談に乗ってくれることになった。

 

 ……何を話そうか……取りあえず差し障りのないことから聞き始めようと思った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「2歳ごろだって言うのにシャイで狐のお面ばかり着けてる子なのよね~可愛いんだけど、少し周りの眼もあるからぁ──」

 

 後半ほとんど彼女の所のお子さんの話になり、俺は相談らしい相談を出来ないでいた……カカシさんも少し呆れていて運ばれてくる料理にばかり手をつけひたすらに相槌だけを打っている状態だ。

 

「そうですか、ぜひ一目会ってみたいですね」

 

 俺の社交辞令の言葉に彼女は

 

「そう!! そう思うわよね!? あと一年して3歳になったら1人でお散歩させても良いと思ってるから、そうしたら一緒にうちはの居住区に行かせてもらうわ! 先に何度か私だけでも伺ってもいいかしら?」

 

 物凄い……物凄い食いつきを見せ、早口で喋り机越しにグイグイ寄ってくる。 そのまま俺の両手を包み込むように握って来て離さない……力が見た目以上に強いのか振りほどける予感が微塵もしなかった。

 

「え、ええ……母さんも多分良いと言ってくれると思います……」

 

「良かったわ~今度会いに行くからその時はよろしくね!」

 

 酒は飲んでいないハズだが……そう思いながらも俺が横のカカシさんに助けを求めようと視線を向けると

 

「! ちょっと厠にでも行ってくるかな~……あはは」

 

 流れるような動きで襖を開け個室の外へと出ていった。

 

 ……目上の人間に対して、内心で憤りを感じたのはこの時が初めてだったのかもしれない。

 

 カカシさんが居なくなると、ふと目の前のマリエさんが俺の手を引き顔を接触するくらいに近づけてくる。

 

 流石に俺もギョッとしたがふと彼女は俺の耳元で、先ほどまでと違う声の調子で語りかけてきた。

 

「……今なら、カカシ君に聞かれないから本音で話してもらっても良いわよ」

 

「っ何の──」

 

「貴方からは私と同じ匂いがするの……何となくだけど貴方の抱えている悩みも予想がつくわ」

 

 そんな彼女の様子は、俺に何かの既視感を覚えさせた。 直接会ったのはこれが初めてのはずなのに……

 

 俺が言葉を選んでいると蒼鳥さんは話を切りこんできた。

 

「差し詰め弟さんのことが枷の様に感じてしょうがないってところかしら?」

 

「ッ……!? 俺はそんなこと──」

 

「嘘、両親が健在のあなたの家でわざわざあなたが弟のことを気にするって事はそういうことでしょ? 別にそれ自体珍しい事でもないわ」

 

 その彼女の素の状態は、まるで俺の心の内を見透かしているかのようであった。 俺の反応も合わさって彼女は自分の言葉に確信を得たのは間違いない。

 

「あなたみたいに感情をコントロールすることに長けた子が気にするほどってことは、相当な何かがあるのか……何かトラウマでもあるのでしょうね、深くは聞かないけれど」

 

 ……俺は少し恐怖を感じていたのかもしれない。 誰にも見せていない腹の内をこうも見透かされたことに……だが同時、安堵のようなものも感じていた。

 

「っ……俺はどう……すれば……ッ」

 

 取り留めもなくそう呟く俺に蒼鳥さんは不意に俺の頭を撫でた。

 

 俺が驚き身を引こうとするも、意思に反して身体が動くことはなかった。

 

「……どうしようもないこともあるわ、私も解決策を提示できるわけじゃない……だからこそ言えることは」

 

 彼女は優しい笑顔で俺の瞳を見つめた。

 

「時間をかけて……愛を育み……そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、蒼鳥さんは何度か俺の住む屋敷を訪ねてきた。 母さんともそりが合うのかすぐに仲が良くなり、楽しそうに会話をしていた。

 

 サスケは人見知りで蒼鳥さんが来ると部屋にこもっていたそうだが……俺がいると俺を連れ出し屋敷から離れていたから彼女との面識はあまりないだろう。

 

 それからさらにしばらくすると蒼鳥さんの施設が忙しくなったのか訪れてくる機会が減ったことを母さんは嘆いていた。

 

 ふと思えば、俺も彼女に俺と似た……匂いを感じていた。 天才と呼ばれる俺と似た存在、そして彼女が悟と言う子の話をするときに感じた雰囲気……

 

 

 

 彼女があの九尾に立ち向かった岩の巨人本人であると、何時しか俺は確信をしていた。

 

 

 

 それから一年経った時、俺は()と出会う。 

 

 嫌というほど聞かされた容姿のままの彼は……随分と大人びた様子であったが、纏う雰囲気は凡人のそれであった。

 

 それでも前振りの長い喋り、何かを目的としたその行動。

 

 危うさを感じさせるほどのその瞳に宿した執念……シスイが気にかけるのも俺にはよく分かった。

 

 彼は未来を知っているかの如く不自然な行動言動を見せ、そして……日向のご息女誘拐の事件に介入をして見せた。

 

 ……そこで俺は確信した、彼はこの先の災いを回避することが目的なんだと。

 

 何故それが起きるのか、どうしてそれを知っているのか。

 

 分からないことは多いが、彼はみるみると成長をして見せサスケにもいい影響を与えていた。

 

 そして数年後……俺にとって、もっとも()()()が始まる。

 

 

 

 

 

『あんたもグルなんだろ!あの仮面の奴と!!どうして俺を……助けた!』

 

 

 

 

 彼のその言葉を俺は、思いのほか受け流せていなかったらしい……直前に同族を手にかけそして、その後に両親を殺す……しなければいけないその行動の数々に俺は動揺を隠せていなかった。

 

 ただ、あの夜で彼の正体に関して……少し確信できたことがある。

 

 俺の写輪眼での幻術を破るには……()()()()が必要なはずだ。

 

 そしてあの夜、うちはの居住区に張られた結界忍術を越える条件は「うちは一族」であること。

 

 よほど感知に長けたものでない限り、これを見破りましてや中に入ってくることなど考えられない……そう思えば彼にその自覚があったのか不明だが彼が……

 

 

 うちはの血を引く者であることは、十分に有り得る事実だ。

 

 

 そんな彼が何故孤児であったのか? 色々疑念は尽きないがもう俺には関係のないことだろう……

 

 ……あの夜に俺は幾つもの失敗を重ねた。 彼を殺せなかったこと、サスケを殺せなかったこと……感情に惑わされ、両親を手にかけることを躊躇しサスケに見られていたことに気が付けなかったこと。

 

 どうやら俺は……ダンゾウが求めるような忍びには成れていなかったようだ。

 

 自己犠牲が忍びの本質だと彼は言ったが、それにも限界がある……何故なら……俺たち忍びには殺しようの無い心があるからだ。

 

 だが今思えば、あの夜の忍びとしての失敗は……人として、して良かったのだと心のどこかで思っていた自分がいた。

 

 忍びではなく、ただのイタチとして……だがそう思えば、忍びとしての俺の人生は失敗ばかりだったようにも思えて自分を哀れに思えてくる。

 

 ただ俺が……サスケの存在を信じられずに、無理やり忍びであろうとしたがために……その歪は生じた。

 

 もしかしたら他に手があったのかもしれない、忍びという面目を捨て去りみっともなく彼のように足掻くことが出来れば……

 

 ……父さんの息子として、皆に情で訴えることも出来たハズだ。

 

 それだけで全てが止まらないとしても、彼がいた……彼が里とうちはを繋ぐ架け橋になる可能性もあったのかもしれない。

 

 他にも三代目にもっとすがれば良かったのかもしれないし、俺が父さんに二重スパイであることを打ち明けていれば何か変わったのかもしれない……

 

 あったかもしれない可能性に、俺は思考を向けないようにしていた。

 

 そんな俺は最後に盛大な失敗を重ねるところだったが……

 

 

 

『サスケを信用してあげてください』

 

 

 

──大切な人を信用することね』

 

 皮肉にも、洞穴でそう言われるまで……蒼鳥さんからのアドバイスを忘れていた。

 

 どうすれば良いのかと言う俺の取り留めのない疑問への解答。 そうだ……俺が……最後に……するべきことは……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 うちはのアジト。 火の国にこの葉隠れの里が出来る前に、うちは一族が拠点としていた城。

 

 今は打ち捨てられ、管理する者もなくあちこちにガタが来ているその最奥、一族の長が座るべき玉座にうちはイタチは腰を下ろしていた。

 

「……」

 

 うちはイタチは目を閉じ、静かに待っていた。

 

 自分の今までの人生、そして最後になすべきことを思い。

 

 するとわざと鳴らしているであろう足音が聞こえ、それを合図にイタチはその眼を開ける。

 

「その写輪眼……お前には……どこまで見えている?」

 

 イタチのその問いかけに、訪問者は目を朱く光らせ答える。

 

「今の俺の眼にはまだ……何も見えてはいない……だからこそ、これから“先”を見るために……

 

 

 

 全てを話してもらおうか、うちはイタチ……!」

 

 

 うちはサスケはその眼で真っすぐにイタチを見据えていた。

 

 そのサスケの様子にイタチは再度目を閉じて、息を吐く。

 

「全てか……悪いがそれには答えられそうにないな」

 

「なんだと……?」

 

「俺は……お前が思うほど全てを知らないからだ」

 

 そう言ってイタチは己の写輪眼をサスケへと向ける。

 

「っ……」

 

 僅かに反応を示したサスケが身構えると、ゆっくりとイタチは口を開いた。

 

「ここからは眼で……語るとしようか……うちは一族についてと……そして、忍びになりそこなった哀れな人間についてをな……」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「貴様が言っていた……三人目の写輪眼を有するうちは一族とは……誰の事だ」

 

 かつてのうちはの居住区にあった屋敷の庭……そこに立ち兄弟は向かい合う。

 

「幾らアンタでも一人では警務部隊を暗殺し切るのには無理があるはずだ……先ずはその協力者を教えろ」

 

 尋問するサスケに、イタチは感情の無い異様な表情のまま口を開く。

 

「うちはマダラだ……木ノ葉隠れ創設者の一人、有史の中、万華鏡写輪眼を最初に開眼した男……」

 

「マダラは既に死人のはずだ、何故そいつの名が出てくる!」

 

「……人は誰もが己の知識や認識に頼り……縛られ生きている。 だが現実はその思い込みを遥かに凌駕する時もある……お前にも心当たりがあるだろう」

 

「……マダラは不死だとでもいうのか」

 

 サスケはかつての師匠であった大蛇丸を思い出していた。 大蛇丸がそうであったように、うちはマダラも何らかの術で不死、または不老となっていれば話の都合がつく。

 

「少し昔話をしてやろう」

 

 イタチは屋敷の縁側に腰を下ろして、話を続けその妙に落ち着いた様子にサスケは警戒の色を薄めないでいた。

 

「かつてマダラには弟がいた……2人は互いに万華鏡写輪眼を開眼し、うちは一族の名を知らしめることになる。 だが万華鏡は使えば使うほど、その強大な瞳力と引き換えに光を失う。 光を失ったマダラは……絶望の中、1つの手段により光を取り戻す」

 

 イタチはサスケの眼を指さす。

 

「弟の眼を奪い……己に移植したのだ」

 

 その言葉に、サスケは否が応でもイタチの構想の一つを案じ取る。 警戒する素振りを見せるサスケにイタチはそのまま話を続けた。

 

「その眼は光を失うことのない永遠の万華鏡写輪眼となり……その力があらゆる忍一族を束ねることとなった……そしてその後うちは一族が千手一族と手を組んだことにより木ノ葉隠れが設立した」

 

 次にイタチは己の衣を指さす。

 

「しかしマダラは初代火影、千手のリーダーとの火影を巡る戦いに敗れ、死んだことになったが……暁を組織しそれを隠れ蓑にした」

 

 2人の居る幻術世界が突如揺れ、獣の咆哮が轟く。 驚くサスケだがイタチは立ち上がりその獣の姿を見据える。

 

「そして16年前……その万華鏡写輪眼によってマダラは里へ復讐を成すために九尾を従え姿を現した……だがそれも四代目火影によって阻止されてしまったがな」

 

 幻術世界の九尾は突如現れた岩の巨人に組み伏せられ、そのまま一瞬で姿を消した。 

 

 静けさを取り戻した世界でサスケが口を開く。

 

「……俺に万華鏡を開眼させようとしたのは、アンタの眼のスペアにするためか?」

 

 その問いにイタチは鼻で笑って見せた。

 

「……そうだといったらどうする?」

 

 試すかのようなイタチの問いにサスケは

 

「ただの写輪眼しか持たない俺の眼はアンタの眼の代わりにはならないだろう……それがアンタの目論見の全てなら、それは既に潰えている」

 

 冷静にそう言い返した。 サスケの返答に満足したのかイタチは目を閉じ噛みしめるように俯く。

 

「なるほどな……俺の想像よりも、お前はずっと成長していたのだな……サスケ」

 

「……っ?」

 

 ふと幻術の世界が移ろい、姿を変え夜の光景へ変化する。 月が夜を照らすな中、サスケとイタチはかつて()()()()()()()()()()()()で相対する。

 

「俺のこの万華鏡は、親しい者の死を見たことで開眼した」

 

「うちはシスイか……アンタがシスイを殺したと、そんな話を一族の者がしていたのを覚えている」

 

 イタチは過去を振り返るように遠くを見つめ

 

「シスイの死は……俺の手によるものではない……シスイは……」

 

 そのままイタチはサスケの眼を見つめる。

 

「うちはの木ノ葉へ向けたクーデターを阻止するために動き……それを阻まれ死に至った」

 

「なっ……!? うちはがクーデター……だと!?」

 

「お前は知らないだろうがな。 当時、うちはは九尾襲撃事件の黒幕の疑惑により不当な扱いを受けていた……里の政治から離され、差別される日々。 募り募った些細な怨嗟が、やがて木ノ葉を対象としたクーデターを決起させるまでに至っていた」

 

「……」

 

「知らないなりにお前にも心当たりはあるだろう」

 

「悟が、居住区に来れなくなったことか……」

 

「それも差別に苦しみ、その苦しみが差別をさらに生んだ結果なのだろう……そんな一族の不満がピークに達しようとしたとき、俺の親友であるうちはシスイはその眼に宿った万華鏡の力を持って一族を抑えようとした」

 

「うちはシスイの万華鏡写輪眼……」

 

「その瞳術の名は別天神……対象が幻術にかかったことを認識することすら出来ない完全催眠を可能とする術だ。 その術により、シスイはうちはのトップである……俺たちの父を幻術により操りクーデターを阻止しようとした」

 

「だが……」

 

「シスイは死んだ……木ノ葉の暗部、根の部隊のトップである志村ダンゾウの手にかかり瀕死となったシスイは残された片目を俺に託してな……」

 

「志村……ダンゾウ」

 

「そして俺はそのダンゾウの元、暗部としてうちはと木ノ葉の二重スパイとなりうちはの情報を里に流していた。 俺がもたらした情報がシスイを死に至らしめてしまった……ッ」

 

 後悔するかのようにイタチは瞳を伏せる。

 

「アンタは……スパイだったのか……」

 

「ああ、そしてうちはに残された時間は既に……なかったのだ。 シスイの失踪を期に、暴動へ向かう意思は止める術を失くしていた……そして俺は二つの選択を迫られた……

 

 

 

 

 

木ノ葉を取るか、一族を取るか」

 

 

 

 

 

 イタチの言葉に、サスケも話の先が読めてきたのか額に汗を浮かべていた。

 

「ダンゾウにより、俺は一族抹殺を命じられた。 クーデターが起きれば、疲弊した木ノ葉に他里が攻めてくるのは火を見るよりも明らかだ……俺は」

 

 イタチは己の片手をもう一つの手で握り震わせていた。

 

「一族を見捨て、木ノ葉についた……っ」

 

「……」

 

「そして……()()()に繋がる……」

 

 ふと、イタチとサスケの隣に当時の自分たちの姿が現れる。

 

 血の染まったイタチと、まだ小さく何も知らないサスケ。 そんなかつての像にサスケは目線を向けると一つ確かめるように問いかける。

 

「この時、アンタは己の器を測るために一族を殺したと言っていたが……アンタの眼には涙が流れていたことを、俺は後で思い出すことが出来た。 アンタが語った動機は噓なんだろう……?」

 

 サスケはイタチの隣に立つ、かつてのイタチの眼に流れる涙の後を辛そうに眺めた。

 

「当時の俺は……追い詰められていた。 本当は父さんも母さんも……一族の皆も殺したくなどなかった」

 

 過去の姿のイタチが涙を流しながらそう喋る。 その言葉にサスケは

 

「ならっ……ならどうして俺は生きているっ!?!? 父さんや母さんだけでなく、俺もうちはの一人として殺すべきじゃなかったのか!? あの夜、俺よりも幼い赤子まで手にかけて……ッあの時どうして俺だけを生かしたっ!?!?!?」

 

 何かを確かめるように、涙を流してそう叫びイタチを問いただした。 ……サスケ自身、既にその答えをわかっているのだろう。 

 

 指摘されれば、クーデターを感じさせる張り詰めた大人たちの振る舞いを思い出せ、そして当時兄が語った動機は状況的に嘘であることは明白であった。

 

 永遠の万華鏡写輪眼を得るためだけならば必要のない虐殺、一族抹殺の命に反しサスケを生かした不義理。 己の器を測るなどと言いつつ、マダラという協力者がいたという矛盾。

 

 全ての答えは

 

「俺には……弟であるお前だけは……殺すことが出来なかったからだ」

 

 涙を流す今のイタチから語られた。

 

 その言葉を受けサスケは膝から崩れ落ちる。 そこにふと聞こえる懐かしい声。

 

『イタチ……最後に約束しろ……サスケの事は頼んだぞ』

 

「この声、父さん……?」

 

『恐れるな……それがお前の決めた道だろ……お前に比べれば我らの痛みは一瞬で終わる……考え方は違ってもお前を誇りに思う』

 

 

 

──お前は本当に優しい子だ

 

 

 

「俺は……木ノ葉と己を裏切ったうちはに復讐の機会を伺っていたマダラと、木ノ葉の上層部にお前には手を出さず見守るように約束させた」

 

 呆然とただ涙を流すサスケに、イタチは語り続ける。

 

「三代目がお前を守ると約束し、俺は……マダラを見張るために暁に属した……」

 

 ……

 

 サスケは強く歯ぎしりし、イタチを睨む。

 

「……これが……アンタの……っアンタの真実だとしてだっ!! 今更それを素直に、どうして俺に……ッ」

 

 求めていたはずの真実。 しかしやりきれない、抑えられない感情に振り回されサスケは己の言葉を取り留めもなく口から漏らす。

 

 そんなサスケの様子にイタチは小さく微笑みを返した。

 

「……お前は俺の敷く復讐と言う名のレールを歩かずに……ここまで来た。 俺の予想を超えたお前には……褒美が必要だと思ってな」

 

「褒美だと……? ……ふざけるな……っ!!」

 

「ふざけてなどいない……思えば、お前にはいつも許せと嘘をつき()()()で遠ざけてきた。 お前を巻き込みたくないがために……だが俺がお前を信用し、向き合うことが出来ていれば……お前が父と母を……うちはを変えることができたかもしれないと……」

 

 イタチは一歩ずつサスケへと歩み寄る。

 

「俺が己の恐怖に負けず……人間らしく、心のまま同じ目線でお前と腹の内を語り合っていれば……」

 

 跪いていたサスケの目の前までイタチが来る。

 

「……いや今更過去を嘆いても何も変わらない、だからこそ今からは……

 

 

 

 

 

 

 

本気でお前を殺しにいこう」

 

 

 

 

 

 

 全ての幻術が解け、クナイと草薙の剣が競り合う音がうちはのアジトの内部に響く。

 

「兄……さんっ! どうして……っ?!」

 

 突然のことに、混乱したままのサスケは怒涛の勢いで切りかかってくるイタチの斬撃を辛うじて受け流す。

 

「……サスケェ!! お前は忍びとして、そして人としても俺と並び立つまでになった!! だからこそ、お前のその器……俺が()()()を持って全力で測るっ!!」

 

 イタチの突然の蹴りを、サスケは辛うじて空いた右腕で受け両者の距離が離れた。

 

 イタチの言い放ったその言葉にサスケは……

 

 

 

「わかったよ……兄さん……っ!」

 

 

 

 草薙の剣に雷光を巡らせ切っ先をイタチに向ける。 雷光が覚悟を決めたサスケの顔を照らした。

 

「昔から俺は兄さんの背を追いかけてきた……その兄さんが俺を認めて、向かってくるというのなら……俺はそれに全力で答えてみせるっ!!」

 

 サスケはイタチの意図を正しく汲み取っていた。 己の真実を話した兄が、命をかけて自分の器を測ると言ったその言葉の意味を……

 

 かつてあれほどまでに追い求めて、隣に並び立ちたいと願っていたその背中は今

 

 

──サスケのすぐそばまで来ていた

 

 

~~~~~~

 

 

 ……ずっと考えていたことがある。 大蛇丸の元で修行を重ね、力を得るとともに兄の……イタチのその磨かれた強さが理解でき……それが何によってもたらされているのかを……

 

 ……ずっと考えることをやめないでいた。 ()()()の後、理不尽な暴力を悟に行い……感情に振り回されて力を行使することに恐怖し後悔した俺は力のあるべき姿……その在り方を……

 

 ……ずっと考えてしまっていたことがある。 サクラやナルト、カカシと共に過ごしたあの日々を……いつまでもそんな……仲間たちと共に過ごしていた可能性を……

 

 大蛇丸は修行の最中に言っていた。 忍びとは忍術を扱うものを示すのだと……つまらない揚げ足取りになるが、俺は忍術を使えないロック・リーを認めている。 その時点で大蛇丸とは見ているモノ……見えているモノが違うことに気がついた。

 

 人は……忍びは己の忍道を皆が持っている。 誰もが胸に秘め、その道を外れんとして日々を生きて……

 

 イタチは……兄さんの心の内には何があったのか。

 

 俺たちはいつも選択を迫られて生きている、もしも里を抜けずにいたら……今頃どうなっていたのだろうか。

 

 

 

 そんな取り留めのない考えの中に……悟との日々がいつも俺の心の内に、音もなく静かに、寄り添うように眩く光を放っていた。

 

 

 

 雪の国でアイツが言い、行動した全てが……当時の俺には突き刺さった。

 

『バカが!! 夢は諦めんな!!』

 

 己の命を諦めずに、夢を叶えることが大切なことだとアイツは言った。

 

 ……他者の夢を喰らい、嘲り、潰そうとしたドトウの一味との戦いでアイツはそれを有言実行して見せた。

 

 どれだけ身体が傷つこうが、己の忍道を曲げないその……意思を。

 

 

 

 アイツにどんな思いがあって、あそこまでの力を発揮していたかは知らないが……その原点はきっと以外に些細なことなのかもしれない。

 

 

 

 思えば多分……いや、俺の原点……俺の夢は……物心ついた時から……今の今まで……一度も変わってなどいなかった。

 

 

 

『真実を知りたい』などといった、後から思いついたものではない……純粋で……本当に俺が成したいこと……

 

 

 

──大好きな兄さんに認められたいって

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 写輪眼、火遁、手裏剣術。

 

 うちは一族として、兄弟として持てる全てをぶつけ合う兄弟。

 

 兄は弟を見定め、弟は全力を持ってそれに答える……

 

 初めての兄弟げんかは……着実に終わりへと近づいていた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ」

 

「……ゴフッ……!」

 

 戦闘の最中、目の前で血を吐くイタチの様子にサスケも兄に起きている異変を感じ取っていた。

 

 うちはのアジトを囲うように燃えている黒炎とサスケが上空へ放った火遁が大気を熱することで積乱雲が生じて2人を雨が濡らす。

 

 アジトの天井で、片目を抑え血を吐きながらも……残こされたチャクラが僅かになりながらも……2人は戦いを止めなかった。

 

「これで……ッ終わり……か、サスケ?」

 

 苦しそうにそう呟くイタチに

 

「兄さんこそ……っ!」

 

 瞳を伝う雨の感触に、気づかないふりをするサスケが返事をする。

 

 それは決して兄弟での殺し合いなどといった悲惨なものではなく……他者には理解できない、特別な何かであった。

 

 荒れ狂う天気、鳴り響く雷鳴。

 

 サスケはアジトの天井に生えている柱に跳び、もっとも高い位置からイタチを見下ろす。

 

「俺は…………ッ!!」

 

 サスケは振り絞るように左手を掲げる。

 

「兄さんを……越えるっ!!!!」

 

 そんなサスケを見上げイタチは呼吸を整えていた。

 

(……戦闘の最中、ゼツの気配を感じなかったが……フッ……上手くやってくれたようだな)

 

 小さく笑みを浮かべたイタチは、サスケが周囲の雷を束ね始める光景を眩しそうに眺める。

 

 雷を従え、サスケの意思の元で雷は獣のような形を模った。

 

 人がちっぽけに感じる程、強大なそれは

 

「この術の名は……麒麟

 

 

──俺の全てを持って……雷鳴よ……穿て……っ!!!!」

 

 

 サスケの手の一振りを合図に、うちはのアジトを消し飛ばしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……」

 

 建物があった形跡が全て吹き飛んだその地に立ち、サスケは呟く。

 

 術の影響によって周囲の自然エネルギーが消費されたことで、気象変動は収まりを見せていた。

 

 雨もやみかけ、ポツポツと落ちてくる雨粒は、力を出し切り上空を見上げるサスケの顔を優しく濡らすのみであった。

 

 

「……まだだ」

 

 

 しかし全てを出し切ったつもりのサスケに、以前調子の変わらない毅然とした言葉が届く。

 

「……っ!」

 

 瓦礫をかき分けるように、巨大な橙色の何かが姿を現す。

 

「……っ…………ツ!」

 

 驚きと、そうではないかという希望の裏付け。 動揺しながらもサスケはその()()()()()()()()()()をしっかりとした目線で見つめる。

 

「これが……ッなければ俺もやられていたな……本当に、本当に強くなったな……サスケ」

 

 噛みしめるようにその言葉を口にするイタチはその骨体の中で立ち上がる。

 

「言っただろう……本気で相手をすると……これが俺の最後の切り札……須佐能乎だ」

 

「スサノオ……ッ」

 

 イタチの奥の手の存在に、サスケはなりふり構わずに呪印の力を解放して状態2へと至る。

 

「千鳥……っ……クッ!?」

 

 その手に黒い雷光を一瞬纏ったのを合図に、サスケは首を押さえてうずくまってしまった。

 

 サスケの首元から白い体組織のような物が蠢き膨れ上がっていく。

 

「……」

 

 その様子を黙って見つめるイタチは、己の須佐能乎の形を定められるところまで形作り始める。

 

(写輪眼で見えていたサスケのチャクラに混じっていた不純物は……やはり、大蛇丸のモノ……限界を超えた状態での呪印の解放により、取り込んだ化け物が姿を現した……か)

 

「大蛇丸の八岐の術……」

 

 目の前で現れた巨大な八つの頭を持つ白蛇。 イタチの須佐能乎さえ見下ろすほどの大蛇は、その頭を使い牙をむく。

 

「ッ……!」

 

 しかし須佐能乎の右手に顕現した剣がその襲い来る頭を全て薙ぎ払い切り落としていく。

 

 斬撃一つ一つが首を跳ね飛ばし、抵抗し体当たりを試みる大蛇には左手に持った霊器の盾がその行く手を完全に塞ぎ跳ねのける。

 

 そして最後に残った大蛇の口が唐突に大きく開いて見せた。 その光景を見たイタチは

 

「フッ……出るものが……出たな」

 

 歓喜の雄たけびを上げて大蛇の口から姿を現した者に向けそう呟いた。

 

 

 

 

「アハハハハハハっ!! このタイミングを持ってたのよっ!!! サスケ君のチャクラが消耗し、この私が──」

 

──ズッ

 

 その者の雄たけびは最後まで言い切られることはなく、その腹部を霊剣が貫いた。

 

「……悪いが部外者には退場してもらおう」

 

 イタチのその言葉を最後に、僅かに姿を現した大蛇丸は問答無用で十拳の剣によって、須佐能乎の持つ瓢箪状の霊器に大蛇の身体ごと全て吸収されてしまった。

 

「ッさて……サスケ……ゴホッ……ッ次は……どうする?」

 

 サスケから大蛇丸を引きはがしたイタチは、その言葉を投げかける。

 

 大蛇が消えた元には、息を荒げながらもしっかりとその黒い瞳をイタチに向けているサスケがいた。

 

「……ハァ……ハァ……ッ」

 

 写輪眼は維持できず、呪印の力も失ったサスケ。 だが

 

「……ウオオオオオっ!!」

 

 怯むことなく、己に残された忍具を全てイタチの須佐能乎へと投擲する。

 

 起爆札が爆発し、クナイが穿ち……手裏剣が弾かれ、しかし須佐能乎は微塵も引くことはなかった。

 

 文字通り兄の全身全霊、その力を前にサスケは──

 

「まだだっ!!」

 

 丸薬を一つ口へと放り込み噛み砕く。

 

(うちは特製の丸薬……か、空区に残された者を手に入れて来ていたか)

 

 イタチは目の前の弟の最後の抵抗を見届ける。

 

 丸薬はすぐに効果を表し、僅かなチャクラをサスケへともたらす。

 

 強大なイタチの須佐能乎にサスケは恐怖を乗り越え、全身全霊の勇気を振り絞り立ち向かう。

 

 

 

 

「千鳥ッ……!」

 

 

 

 その左手に携えた雷光と共に

 

 

「うおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 サスケは飛びあがり、草薙の剣を右手で突き立てる。

 

 剣は弾かれ吹き飛ぶものの、怯まずにそれのより生じた須佐能乎の盾の僅かな傷跡に千鳥をぶちかました。

 

 

 

 

──ピシっ

 

 

 

 そんな小さな音を皮切りに、イタチの須佐能乎の盾を中心にヒビが広がり始める。

 

 サスケの気迫に添うように、千鳥の雷鳴は鋭く、大きくなり……そして

 

 須佐能乎を完全に破壊した。

 

 

 その定まった形の内に秘めた骨体ごと崩壊した須佐能乎からイタチは弾かれ後方へと吹き飛ぶ。

 

 最後に僅かに鳥のさえずるような音を鳴らして消えた千鳥。

 

 互いの距離が離れ、互いに立つのもやっとの状態。

 

 すでにお互いの眼に写輪眼はなく、同じ黒い瞳が視線を交わせていた。

 

「! ……ゴフッ……うぐっ!」

 

 イタチは、血を吐き、胸を押さえる。 それでも……それでも視線が外れることはなく

 

 互いが互いにやるべきことを成そうとしていた。

 

 ……その距離は、小川を挟んだくらいの距離であった。

 

 

──()

 

『うちは一族は火遁が使えて初めて一人前と認められる、うちはの家紋は火を操るうちはを持つ者の意』

 

──(ひつじ)

 

『……流石俺の子だ、良くやった。 今からはその背中の家紋に恥じぬよう己を磨き大きく舞い上がれ』

 

──(さる)

 

『許せサスケ……また今度だ……今日はお前に構っている暇がない』

 

──()

 

『俺は、兄さんが、イタチがあの時どう思っていたのか……どうしてあんな事をしたのか、本当の理由を知りたい!!いや、知らなければいけない!!!』

 

──(うま)

 

『だからこそ、お前のその器……俺が()()()を持って全力で測るっ!!』

 

──(とら)

 

 

 

 

「大きくなったな……サスケ」

 

 

 

「「火遁・豪火球の術!!!!」」

 

 

 2つの爆炎が衝突を見せる。

 

 意思を持ったかのように、うねり膨らむその火球の衝突は混じり合うかのようにその火力を増し

 

 拮抗しているかのように見えるその炎上は……

 

 僅かな綻びと共に一気に片方へと形勢が傾く。

 

 その瞬間、融合した2つ豪火球は爆発を起こして

 

 

 消滅した。

 

 

 爆発の余韻も消え、静けさが残る瓦礫の山々。

 

 足を引きずるような音が小さく環境音に鳴り響く。

 

 周囲で燃えていた天照の黒炎は未だに遠くで轟々と炎上していた。

 

 立つ者が、天を見上げるものを見下ろす。

 

 そんな2人を、雲の切れ目から差し込む日光が眩いほどに照らしていた。

 

「──」

 

 僅かに声が聞こえ……サスケはそれを聞くために屈みこむ。

 

「流石は……俺の弟だ」

 

「……兄……さん」

 

 サスケはイタチの頭を抱えて視線を合わせる。

 

「これを……お前に……」

 

 イタチがそういうと、何処から現れたのか分からない一羽のカラスが突如サスケの口の中へと侵入していく。

 

「……シスイの眼を持った口寄せカラスを……蔵入りさせた……お前が……その眼を有効に使えると信じている……」

 

 死の間際でありながら、イタチの言葉は自然と穏やかなものとなっていた。

 

「ゴホッ……ゴホッ……ッ」

 

 カラスを飲み込んだことでせき込んだサスケは、そのままイタチが絞り出そうとしている最後の言葉を静かに聞くことにし集中する。

 

「……お前は立派な……うちは一族で……俺の弟だ……胸を張って生きろ」

 

「ッ……うん」

 

「後は……そうだな、悟君と蒼鳥さんに会ったら……『感謝している』……と伝えてくれ」

 

「……うんッ!」

 

「フッ……最初で最後の……兄弟げんかは……悔しいが……お前の勝ちだ……」

 

「う゛ん……っ!」

 

「お前は……この先色々な思いを抱えて生きていくだろう……だがこの俺を乗り越えたんだ……出来ないことは……ない」

 

「っ~~~!!」

 

「……ハハッ……泣いている……愚図っているお前を……見ているのに……何だか満ち足りた気分だ……俺は……」

 

「兄さんっ!!!」

 

 サスケはイタチの手を握る。

 

「俺は……失敗を重ねた……兄として、お前に許せと言い続けてきたが……さい……ごに……ひとつ……だけ」

 

 

 

 イタチは空いた手を伸ばし、サスケの頭を引き寄せ……視線を逸らさずに額を合わせた。

 

 

 

「おまえは……もう俺を……許さなくても、良い……だがお前がこの先どうなろう……と、俺はお前をずっと……

 

 

 

 

──愛している

 

 

 

 

 嘘偽りのない笑顔を浮かべ、イタチの身体から力が抜ける。

 

 そして顔を伏せたままのサスケはひとしきり静かに涙を流し続け……

 

 

 

 その後、意識を手放したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 快晴の空の下、空間の歪が現われそこから仮面を着けた男が姿を現す。

 

「……終わったか」

 

 男はそう呟くと、寄り添うように倒れている兄弟の元へとゆっくり歩み寄る。

 

「……勝負はサスケの勝ち……しかし」

 

 男は天を仰いで瞳を閉じた男の顔を見つめる。

 

「同族殺し……犯罪者……多くの悪名を轟かせた男の死に様が

 

 

 

 

 

 

こうも満ち足りた表情で締めくくられるとは……な

 

 

 

 

 

 

うちはイタチ」

 

  

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