ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!? 作:夕鶴
|*´・ω・)つ 【第8話】
|)≡サッ!!
十八階層、『迷宮の楽園』と呼ばれるモンスターが湧かない特殊な階層には、リヴィラという街がある。
ただのポーションにさえ相場の何倍もふっかけてくる恐るべきゴロツキどもの街だが、補給の叶わないダンジョンにおいて、この街の存在は必要不可欠だ。
特に、初めてここより下の階層に降りる冒険者や、命からがら帰ってきた冒険者、あるいは金に余裕のある冒険者にとって、壁のある部屋で布団に包まって休みが取れるというのは、大きな魅力であることは否定出来ない。(たとえそれが、ポーションとは比較にならない酷いぼったくり価格でも)
そんな宿の一つ、獣人の青年が営む宿に奇妙な客が訪れた。
全身鎧のその男は、全ての部屋を借り受けて人を締め出した。
豪勢な話だが、青年は全身鎧の後ろを見て納得する。男は、女を従えていたのだ。
フードで顔は隠れているが、僅かに覗く輪郭からも女が相当の美人であることは伺えた。
美しい女冒険者といえば、ロキ・ファミリアの【
服の上からもわかるボリュームに鼻の下を伸ばす青年に、全身鎧の男が声をかける。
「おい、兄ちゃん、一番良い部屋に案内してくれ。あと、小遣いやるから今日はこの宿から出とけ。言いたいこと、わかるよな?」
「はいはい、わかってますよ旦那ぁ。どうぞごゆっくりお楽しみを〜」
全身鎧が投げてよこした巾着の中身を確認してホクホク顔の青年は、男の希望通りの部屋に案内し、急ぎ足で立ち去った。
「宿をまるまる貸切なんて、ずいぶん羽振りが良いのね」
「おぉ、実入りの良いクエストがあったんでな」
「へぇ、どんな?」
「それが妙なクエストでよぉ──」
部屋の中で、裸の男女が絡み合いながら言葉を交わしている。
男は鎧を脱ぎ捨て、女もまた、フードを取り去っていた。
「なんかよぉ、三十階層まで行って、妙なモンを取ってこいっつう内容でな」
男に馬乗りになりながら、女──正史においてレヴィスと呼ばれる
アレを持ち去られたと聞いた時は少し焦ったが、目標の男には十八階層で追いつき、こうして殺す絶好の場まで整えた。
後はこの男の荷物からアレを見つけて立ち去れば終わりだ。
幸い目の前の男は、武器さえ持たずに隙だらけだ。たとえレベル4と言えど、油断しきっている敵を悲鳴すら上げさせずに縊り殺すことなど、レヴィスにとってはあまりに容易い。
ペラペラと自慢げに話す男の首にゆっくりと手を伸ばし────
脇腹に突き刺さった拳により、寝台から叩き落とされた。
「ッ、グ、ゥゥ!?」
即座に受け身を取ったが、思わぬダメージにたたらを踏む。
混乱を抑えて状況を分析。
彼女の指が男の首にかかる直前、仰向けの状態から上半身の捻りだけで男が拳をねじ込んできたのだ。
威力は低い。レベル6以上のポテンシャルを持つ彼女にとっては、本来なら何の支障もなく反撃に移れる程度のもの。
だが、
何より、あの不自由な体勢からこうも鋭い一撃を放つとは──!
「素手と思って油断したか? あいにく、俺の二つ名は【剛拳闘士】。拳骨があれば十分ってやつよ!」
床に降り立ち、拳闘の構えを取る男。
なるほど、元々格闘を得意とする冒険者だったのか。ならば先程の一撃にも納得がいく。
だが甘い。
たとえ無手での戦闘に熟達していようと、そもそもレヴィスと男の間には埋めようのないステイタスの差がある。
不意打ちは確かに多少効いたが、レヴィスの強靭な肉体を打った代償に男は拳を痛めている。
加えて部屋の出入り口は彼女の背後にあり、たとえ男が逃走を図ろうとしても彼女を出し抜かなくてはならない。
ほんの少し、想定外の事態に動揺したが、大きな問題ではない。
無造作に踏み込み、貫き手を繰り出さんと腕を引き絞るレヴィス。
しかしその背後で、部屋の扉が爆ぜた。
「!?」
レヴィスは凄まじい爆炎に吹き飛ばされ、宿の壁をぶち抜き外に放り出された。
空中で回転しながら落下する最中、今の今まで自分がいた部屋が視界に入る。
そこでは、むさ苦しい隻眼の男が魔剣を振り抜いた姿で静止していた。
その傍らで剛拳闘士を名乗った男が、頭から被った布団を引き剥がしている。
(あれは火精霊の護布……! 何故そんなものが寝具に、いや、そもそも最初からあの男、私の正体を見抜いて!?)
今度こそ混乱の極みに達しながら、なんとか着地を決めるレヴィス。
しかし彼女はそこで気づく。
「……すでに包囲されているとはな」
彼女を囲むよう、半円形に展開した完全武装の冒険者達。
その中には、宿屋の主人たる獣人の青年も混ざっていた。
寝台での不意打ち、布団に見せかけた護布で防御をしての室外からの魔剣での爆撃、そしてこの包囲。
理由は不明だが、彼女を捕らえるための集団に間違いは無かった。
「諦めな、嬢ちゃん。てめぇが闇派閥の残党だってぇネタは上がってんだ」
「大人しくお縄につくってんなら乱暴はしないぜ。ま、この数の冒険者に勝てるってんなら話は別だがな」
魔剣がぶち抜いた穴から飛び降りる拳闘の男と眼帯の男。
彼女を取り囲む冒険者達の中でも、拳闘の男の雰囲気は別格だ。
歴戦の空気を纏い、第一級冒険者への足がかりを掴みかけている猛者なのだろう。
「……ことを荒立てずに済めば、それでも良かったんだが」
ポツリ、と呟く。
直後、リヴィラの街の冒険者達の背中を走る悪寒。
この女は危険だ。
自分達が束になっても敵わない。
被捕食者の本能というべきか、ランクアップを果たした冒険者の直感と言うべきか。
自分達を待ち受ける、避けようのない死が明確に彼らの脳裏に浮かんだ。
しかし、
「へ、へへ」
「? ……何がおかしい」
彼女を取り囲む冒険者の内、一人が笑った。
訝しむ彼女の前で、伝染するように広がる笑い声。
「おかしいんじゃねえよ。頼もしくて笑っちまうのさ」
「あぁ、こんなおっかねえ女に睨まれてるってのに、ちっとも怖くねぇや」
「だな。もっと恐ろしいもんに気づいてねーんだわ」
「何を言って────!?」
レヴィスはそこで気づいた。
十八階層は、天井から生えた巨大な水晶により光をもたらされている。
だが、今は夜。水晶の光も光量を落とすはずなのに────
天を仰いだ彼女はそれを見た。
黄金の光を翼のように広げた、日輪の英雄を。
「頭上注意だ、悪く思え。『
直後、灼熱の一撃が彼女に降り注いだ。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛た゛ま゛い゛た゛い゛ふ゛つ゛か゛よ゛い゛つ゛ら゛い゛の゛み゛す゛き゛た゛……。
お久しぶりです。この一ヶ月忙しすぎて死んでた夕鶴です。
ちょっと余裕が出来たので、またチビチビ投稿していきます。
今回はかなり短めですが、次回からはいつもと同じような量になると思います。
そしてソード・オラトリアサイドから片付けていきます。