ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!?   作:夕鶴

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エルメロイもダンまち二期も面白かったという想いと、バビロニアと三期が楽しみすぎる期待を込めて投稿です。
あ、ちょっと新しめの巻のネタバレもちょこっとだけ触れていきます。具体的にいうと某ジャガ丸くん。


第9話

「これは、いったい……」

 

 金策や気晴らしの為、気心知れたメンバーでダンジョン探索に出かけたロキ・ファミリアの面々。

 

 第一級冒険者を含むパーティが今更上層や中層で苦戦するはずもなく、無事に十八階層に辿り着いた彼らが見たのは、壊滅状態と言って差し支えないリヴィラの惨状だった。

 焼け焦げ、叩き潰された屋台や樹木、ダンジョンの機能による修復は進んでいるようだが、そこかしこに大穴や抉れたような破壊痕が残っている。

 冒険者達が露店や屋台の瓦礫を撤去し、散らばった商品を回収して一応、通りと呼べるような道を形成している。

 

 撤去作業の進捗から逆算すればかなりの時間が経過しているはずなのに、未だにダンジョンの修復が完了していない。その事実が、ここで行われた破壊の壮絶さを物語っていた。

 

 

「おう、ロキ・ファミリアか。良いとこに来やがったな」

「ボールスか。一体ここで何があったんだい?」

「大捕物だよ。闇派閥の残党が出やがってな、リヴィラの冒険者総出で相手してやったんだがこのザマよ」

 

 呆然としているフィンたちに声をかけてきたのはこの街の元締めを務めるレベル3の冒険者、ボールス。

 肩をすくめる彼に、フィンは沈痛な表情を浮かべる。

 

「それは、気の毒に。これだけの惨状だ。大勢が犠牲になっただろう」

 

 しかし、当のボールスは歯切れ悪く口を動かす。

 

「あー、いや、ぶっちゃけ、ウチの連中は誰も怪我一つしてねえっつうか、この被害も闇派閥の奴がやったわけじゃねえっつうか……」

「?」

「あのな、これ全部【施しの英雄】が暴れた被害なんだわ」

「カルナが?」

 

 意外な名前に驚くが、なるほど、と納得もいった。確かにカルナであれば容易にこの惨状を生み出せるだろう。

 しかし、出来る、と実際にやる、では大きな隔たりがある。

 カルナほどの強者がここまで被害を広げなければ抑えられなかった相手とは一体何者なのか? 

 

「……そうだな。手も足りてねぇし、説明するからちっと聞いていけや。そんでお前らも手伝え」

 

 

 

 

 ボールスが言うには遡ること数日、深層への武者修行ついでにリヴィラに立ち寄ったカルナが、一枚の人相書きを渡したことから話は始まる。

 

 赤毛の女が描かれたそれをボールスに渡しながらカルナは、この人物が闇派閥の一派であり、六年前に起きた【二十七階層の栄光】や、その後発生したディオニュソス・ファミリアの虐殺事件にも関与している疑いがあること、ここ最近、似た容姿の女の目撃情報があったことを告げた。

 非常に危険な戦士である為、もし見かけた時はアンリマユ・ファミリアに通報するよう念を押していったのだ。

 ボールスも探られて困る腹が一つもない聖人とは程遠い男だが、闇派閥はオラリオに住まう多くの者にとって敵であること、アンリマユ・ファミリア──その中でも最強と名高いカルナほどの猛者が念押しするほどの脅威であることを考慮し、彼はリヴィラの主だった商人達を集めて警戒システムを敷いた。

 

 すなわち、万が一例の女が現れた場合、騒ぎ立てずにいくつかある指定の場所に案内して、不意打ちをするためのトラップだ。

 

 例えばとある宿屋の場合、騙して連れ込んだ仕掛け人は寝具に偽装した火精霊の護布に避難し、室外から不意打ちに魔剣で焼き払う、というものがある。

 

 とはいえ魔剣まで使った金のかかるトラップなどそうそう用意できるものでもなく、ましてや人相書き一枚を根拠に焼き殺しておいて人違いでしたでは笑い話にもならない。

 実際はほとんどが捕縛系やもう少し火力の低いダメージ系トラップだったし、なんなら一応用意はしたけどそんなに都合よく危険人物が現れたりしないだろうという楽観もあった。

 

 昨夜、ガネーシャ・ファミリアのハシャーナ・ドルリアが例の女を連れてくるまでは。

 

 アンリマユ・ファミリア──というよりカルナ──と最も親交があるガネーシャ・ファミリアの冒険者達にも当然、その人相書きは配られていた。

 極秘クエスト帰りの忍ぶ身とはいえ、ハシャーナとて都市の治安維持を任された派閥の幹部。小遣い稼ぎの為に悪党を見逃すわけにはいかない。

 女に声をかけられた後、精力剤を買うからと女を引き離したハシャーナはボールスと密談。警戒システムの話を聞き、一番殺傷力が高いヴィリーの宿を戦場に選んだ。

 

 後は決められた符丁でヴィリーに指定の部屋に案内させ、ハシャーナが時間を稼いでいる間に冒険者をかき集め、万全の態勢で女を罠に嵌めたのだが……。

 

 ブルリ、とボールスは身震いする。

 あの女に叩きつけられた殺気は尋常なものではなかった。

 もし、()()()()()()()アンリマユ・ファミリアが助太刀に入らなければ、間違いなくあの場の全員、皆殺しにされていただろう。

 

 

 ボールスの話を聞き終えたフィンは小さく頷く。

 

「なるほど……なら僕らに手伝って欲しいことというのは、その人物の護送や尋問かな?」

 

 至極当然なフィンの疑問に、ボールスはしかし、再度微妙な表情を浮かべる。

 

「お前らに手伝って欲しいのはそんなんじゃねぇ……お前らには、逃げたあの女を捜して欲しい」

「ええええええ!!?」

 

 ボールスの言葉に黙って聞いていたティオナが驚愕の声を上げる。

 

「カルナが戦ったんだよね!? なのに逃げられたの!?」

「……正確には、【施しの英雄】と【騎士王】の二人がかりでも、だ」

「……!」

 

 驚愕するロキ・ファミリアの面々の中、アイズもまた同様の表情を浮かべた。

 動揺を必死に押し殺す彼女の前で、ティオナが言葉を重ねる。

 

「うっそだぁ! あの二人から逃げ切るなんて、フィンやリヴェリアじゃあるまいし!」

「嘘じゃねえよ! 俺だって信じられねえわ!!」

「二人とも、落ち着くんだ。とは言えボールス、僕もティオナと同じ気持ちだよ。あの二人がいながらみすみす取り逃がすなんて、何があったんだい?」

 

 ギャンギャンと騒ぐ二人を宥めつつのフィンの言葉に、ボールスはゆっくりと口を開く。

 自分でも消化出来ていない事実を噛み締めるように。

 

 

 

 

 回想開始(とれーす・おん)

 

 

 

 

「頭上注意だ、悪く思え。『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』!!」

 

 業火を纏う英雄の一撃が、赤毛女を飲み込むのをボールスは確かに見た。

 だからこそ、光が晴れた後の光景が信じられなかった。

 

 

 

「き、さ、まらぁ……!!」

 

 階層主でさえチリも残さず焼き払うカルナの魔法が直撃してなお、女は生きていた。

 美しかったその肌は焼けただれ、幽鬼のような凶相を浮かべながら、それでも戦意を漲らせていたのだ。

 

 あり得てはいけない光景だが、ボールスは一つの可能性に思い至る。

 

(俺たちが近くにいたから、全力を出せなかったのか!?)

 

「散れぇ、てめぇら! 足手纏いになる!!」

 

 彼は即座に周りの冒険者に指示を飛ばした。

 

 彼とてレベル3。

 中規模以下の派閥であれば、団長でさえその領域に至っていない者も多い高みの存在だ。

 それなりの修羅場を潜ってきた自負も矜持もある。

 

 だが、そんなものは眼前の戦いにおいて、毛ほどの役にも立ちはしない。

 

 今から始まるのは、英雄と魔人による決戦だ。

 

 現代における神話の再現だ。

 

 その場においては、彼でさえ凡夫に過ぎない。

 

 

 叫びながら自身も逃げ出そうとしたボールスだが、女の方が速かった。

 女と共に部屋から吹き飛ばされた荷物の中から、禍々しい剣を手に取ると女は冒険者に向かって駆け出した。

 

(クソがぁ! 俺らをカルナへの盾にする気か!)

 

 しかし、そんな蛮行は許されない。

 悪逆の徒が剣を振りかぶるよりなお速く、蒼き風が吹き抜けた。

 

「チィッ、第一級冒険者か!」

 

 硬質な音を立てて噛み合う聖剣と呪剣。

 忌々しげに顔を歪める女を、固い表情で見据えるその者こそ【騎士王】アルトリア・ペンドラゴン。

 オラリオ最強の守護者が、参戦を果たしたのだ。

 

「シィッ!」

 

 短い呼気と共に剣を振るうと、化け物じみた赤毛女が綿毛のように吹き飛ばされる。

 街の冒険者たちから遠く離れたところに弾き飛ばされた女が着地をする直前、天から降り注ぐ灼熱の一撃。

 立ち上る火柱に、ボールス含め冒険者たちが歓声を上げた。

 

 しかしアルトリアは一言も発さず厳しい顔を崩さない。

 まるで、この程度の攻撃で倒せたとは思えない。そう言うかのように。

 

 果たして、彼女の懸念は正しかった。

 

 

「まさか、この場に、これほどの、化け物がいるとはな」

 

 息絶え絶えながら、女はカルナの一撃を寸前で躱していた。

 

「しかも、女、貴様。見覚えがあるぞ。その剣、そうか、貴様があの時の聖剣使いか!」

 

 威圧的に叫ぶ女に対して、アルトリアの返答はシンプルだった。

 真っ直ぐに懐に飛び込み、袈裟斬りに振り下ろす。

 

「チィ! 貴様、その聖剣が何か、理解しているのか!?」

 

 防がれ、横薙ぎ。

 

「湖のアバズレが寄越した剣で私たちの邪魔をするか!」

 

 即座に切り上げ。

 

「拘束はどうした! この戦いは精霊との戦いではないとでもいうつもりか──ガハッ!」

 

 不意をついての魔力放出が、女を吹き飛ばす。

 

 再度襲いかかるカルナの炎から逃れつつ、女は叫ぶ。

 

「面白い! 貴様がその剣を振るうに値するか、確かめてやろうではないか!!」

 

 

 そこからの戦いは、速さと力、技と駆け引きの応酬だった。

 

 

 冒険者を巻き込みカルナの砲撃を防ぎつつ、幾度もアルトリアに襲いかかる赤毛女。

 冒険者を護りつつ赤毛女と斬り結び、その都度押し返すアルトリア。

 冒険者たちから女が離れたタイミングを見極め、時に砲撃を、時に急降下をかけ空から戦いを支配するカルナ。

 

 三者の攻防が超高速で入れ替わる戦いは、ボールスでさえ目で追うことも難しかった。

 

 永劫に続くかに思えた戦いだが、しかし終わりは訪れる。

 

 

「く、ぅうっ!」

 

 何度目かの炎熱を防いで見せた女が、とうとう膝をつく。

 常人ならば何百度死んでいるか分からない攻撃をその間に浴びながら戦い続けた女だが、とうとう限界を迎えたのだ。

 

 

「いけぇ! とどめを刺せ騎士王!!」

 

 ボールスも思わず叫んだ、まさにその時だった。

 

 

 

 

 

『オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ! !』

 

 

 

 

 慟哭。あるいは痛哭とでも呼ぶべきか。

 

 何十年と冒険者を続けているボールスでさえ、一度も聞いたことのない異音がダンジョンに響いた。

 否、これは、ダンジョンそのものが叫びを上げているような……。

 

 

「な、何だこれ! こんなんしらねぇぞ!?」

「や、やべぇ。何かわからねえが絶対にこれはやべえ!!」

「ボールス、おい、何がおこんだよこれぇ!?」

「知るかボケどもぉ!!」

 

 周囲の冒険者が恐慌を来す中、それを怒鳴りつけるボールスもまた平静を失いかけていた。

 これは明らかな異常事態(イレギュラー)だ。

 何か──とんでもない【厄災】が、この場に顕現しようとしている! 

 

 しかし、彼は見た。

 

 

「────────────!!」

 

 

 大地に聖剣を突き立て、天に向かって堂々たる態度で咆える騎士王の姿を。

 

 慟哭により、その内容までは聞き取れない。

 だが、この異常に対し、凛とした態度を崩さず天を睨むその姿は、冒険者たちの心を奮い立たせた。

 

 やがて、ダンジョンの慟哭は小さくなっていく。

 

 まるで、騎士王の威光にひれ伏すがごとく。

 

 

 ホッと一息ついた冒険者たち。

 だが、彼らは気付いた。先ほどまで騎士王と打ち合っていた赤毛女がいなくなっていることに。

 

「どこ行きやがったあのアマ!」

「ボールス、あそこだ!」

「!! 不味い!」

 

 一人の冒険者が指差す先には、河に向かって逃走を図る赤毛女の姿が。

 しかも間が悪いことに、その進行方向には、先程の異常事態に心を砕かれたのか、蹲って動けない冒険者がいた。

 

(どこのマヌケだあれは!?)

 

 あのままでは路上のゴミ同然に斬り捨てられるだろう。

 誰もがその臆病者の末路を予想した────ただ一人を除いて。

 

 

 それは、蒼銀の稲妻のようだった。

 

 音すら置き去りにしたその疾走は、騎士王の身を彼女が望む場所まで運んだ。

 

 すなわち────今まさに振り下ろされんとしている、凶刃の許へ。

 

 

 

 

 

「アルトリアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 鮮やかな赤が、その身を染めた────。

 

 

 

 

 回想完了(とれーす・おふ)

 

 

 

 

 恐ろしい記憶に声を掠れさせながら続ける。

 

「あの声が何かはわからねぇ! ただ、あのままだと間違いなくヤベェことになってたはずだ。騎士王だけが冷静だった。ダンジョンに挑みかかるみたいに叫んで、鎮めちまったんだ! その隙に、赤毛女が逃げだした。河の方にな。でもその途中には、逃げ遅れた冒険者(マヌケ)がいやがった。赤毛女はゴミでも振り払うみたいにそいつに剣を振り下ろして────庇ったあいつが、斬られちまった!!」

 

 

 叫ぶ勢いで言葉を吐き出し、荒い息を吐くボールス。

 しかし乱暴に伸ばされた手が、その首を締め上げる。

 

「アルトリアは、無事なんですか?」

「む、グゥ!?」

「答えてください、アルトリアは、無事なんですか?」

「アアアアイズさん!?」

「ちょ、あんた落ち着きなさい!!」

 

 光を失った瞳でボールスを責めるアイズを、仲間たちが必死に取り押さえる。

 しかし、彼女達もまた、冷静ではなかった。

 

 常勝不敗の騎士王に、まさか、と最悪の事態が脳裏を過ぎる。

 

「ゲホッ、ゲホ……クッ、結論から言うと、騎士王は死んじゃいねえ。斬られた後、お得意の風の魔法で赤毛女を武器ごとぶっ飛ばすくらい元気だったさ」

 

 アイズから解放されたボールスが咽せながら続ける。

 

「ただ、そっから先は、俺にもわからねえ。騎士王を庇うために空からカルナが女に襲いかかって、ぶつかった瞬間あいつの炎が天井まで届くくらい爆発した。俺らも目をやられちまって、視界が回復した時には女は逃げてやがった」

 

「俺が戦場に辿り着いた頃には、騎士王の傷は塞がってた。いつも通り、不死身みてえなスピードでな。ただ、二人揃ってぶっ倒れたまま目を覚まさねぇ。今は、街の宿で寝てる」

「宿の名前は!?」

「ぶきゅえ!? ちょ、またか、ジャンの宿屋だ! 赤いニワトリが看板の! ぐぷぅ!?」

 

 再度ボールスを締め上げて宿の名前を聞き出すと、即座に投げ捨て走り出すアイズ。

 

「ちょっとアイズー!?」

「待って下さーい!?」

 

 アマゾネスの妹とエルフの少女がそれを追って駆け出す。

 

「ぐぞぉ、なんだって俺がこんな目に……」

「すまないね、ボールス。うちのお姫様は、アルトリアのことになると冷静ではいられないのさ」

 

 顔面から落とされたボールスに手を貸してやりつつ、フィンは続ける。

 

「それで、その犯人が十八階層に残ってると言う根拠は?」

「騎士王たちが倒れた後、十八階層の出入り口に見張りを置いた。今まで出入りがあったのはテメェらだけだ。何より、ハシャーナの野郎が言うにはその女、ハシャーナの荷物に用があるんだとよ。ブツの回収のために、まだここに潜んでるはずだ」

「なるほど。レベル4の冒険者を相手取るほど重要な荷物なら、そう簡単に諦めはしないか。何より、たとえ逃げ果せたとはいえ、あの二人を相手取って無事とは思えない。傷を癒すために、ここに潜伏している可能性は大いにある」

 

 うん、と頷いたフィンは、仲間達に一度目を向けた。

 言葉にするまでもなく返ってきた首肯に感謝しつつ、ボールスに告げる。

 

「わかった。僕らも協力しよう。アルトリアとカルナ、二人と渡り合うほどの相手だ。戦力は多いに越したことは無いからね」

「へっ、話が早くて助かるぜ」

 

 そのまま探索エリアなどの話し合いに移りながら、しかしフィンは疑問を口にした。

 

 

「けど、少し意外だ。まさか君たちリヴィラの住人が、ここまで闇派閥の掃討に力を入れるなんてね」

 

 懸賞金も掛かっていない、第一級冒険者二人を相手取る怪人が相手だ。単独で遭遇すれば死は免れないだろう。

 フィンが良く知る目の前の男やこの街の冒険者達なら、普段はもう少し腰が引けてそうなものだが……。

 

「ケッ、奴らに好き放題されちゃ、商売上がったりってやつなんだよ!」

 

 忌々しそうに吐き捨てるボールス。

 しかし、フィンは見た。彼の隻眼に宿った、圧倒的な強敵への恐怖と、その更に奥に灯る憤怒の炎を。

 

 

 

 全く関係のない話だが、フィンは昔を思い出す。

 

 

 リヴィラとは、何度壊滅的な被害に遭っても立ち直ってきた、冒険者達の街だ。

 がめつさに辟易とされながら、それでもこの街が存続してきた理由は、冒険者にとって間違いなく有益だからだ。

 それ故に、かつて闇派閥が猛威を振るっていた頃、幾度となくその脅威に晒されてきた。

 

 

 リヴィラとは、何度壊滅的な被害に遭っても立ち直ってきた、冒険者達の街だ。

 しかし建物はいくら直せても、喪われた命は帰ってこない。

 たとえダンジョン攻略は命懸けと覚悟していても、奪われた親しき者への悲嘆が尽きることはない。

 

 

 リヴィラとは、何度壊滅的な被害に遭っても立ち直ってきた、冒険者達の街だ。

 街の住人だけでなく、幾つものファミリアがこの街を守るために戦った。

 

 

 リヴィラの冒険者は忘れていない。

 

 いつも先陣を駆け抜け、誰よりも傷ついてなお味方を鼓舞し続けた、()()()()()()の背中を。

 

 彼らがリヴィラで傷つく時は、いつも誰かを守る時だ。

 

 

 全く関係のない話だが、今日また、二人の英雄がリヴィラを守るために傷ついた。

 

 

 全く関係のない話だが────つまりはまぁ、そういうことなのだろう。

 

 

 

 

 

 視点変更(ぽんこつさいど)

 

 

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛、頭がいたい……。

 

 一巻完結お疲れ呑み会の翌日、目覚めた私を襲ったのは信じがたいレベルの頭痛と吐き気でした。

 

 うう、第一級冒険者たる私をここまで苦しめるとは、侮りがたし。

 私と違い対異常・耐毒の発展アビリティを持つ面々も居間で酔い潰れた体勢のまま呻いてる辺り、全員揃って二日酔いですねこれは。

 

 原因はやっぱりアレですか。

 アヴェンジャーがソーマ・ファミリアから掻っ払ってきた非売品の方の神酒とキャスター提供の謎アルコールのチャンポンですか。流石は神をも酔わす酒と我がファミリアが誇る狂人です。

 正直、呑んでる時もヤバくないですかこれ? とはちょっと思ってたりしたんですけど、美味しかったですし……アヴェンジャー、滅多にソーマ分けてくれませんし……。

 

 まぁどれだけ酷い二日酔いだろうとアヴァロンしちゃえば治るんですけど、正直気が進みません。

 そもそも普通なら常時発動の方の治癒で毒とか麻痺とか分解してくれるアヴァロン先輩が治してくれない時点で、アヴァロン先輩からの『あ? お前何我が王の見た目でそんな無様な姿晒してんの? そんで俺に治してもらおうとかふざけてんの?』という無言の圧力を感じます。

 いや、考えすぎとは思うんですけど、セイバーの宝具一式ってなんか担い手の選別機能とかお前人工知能ついてる? みたいなイメージあるじゃないですか! 怖いんですよ下手なことして見捨てられるの!! 

 

 誰に聞かせるわけでもない言い訳をした後、とりあえず二度寝を決め込む私。

 

 もう今日は一歩も動きません。

 そもそも外見たらもう昼過ぎどころか夕方になりそうですし。今からなんかやる気力とか湧きませんし。明日から頑張りますし。

 

 ソファーで並んで寝てるアーチャーとライダーを蹴り落とし、ついでに毛布代わりに二人のマントを剥ぎ取ってさぁ寝るぞと意気込んだ私ですが、不意に呼び止める声が。

 

「セイバー、起きているか……? もし起きているなら、俺と共に、ダンジョンに潜ってほしい」

「ええ〜、正気ですかランサー。もう夕方ですよ? というか私、頭痛すぎて動きたくないですし、貴方も顔色悪いですよ……」

 

 普段から色白な顔からさらに血の気を引かせて、ランサーがアホなこと言ってきます。

 絶対に嫌です。こんな体調でモンスターと戦うとか死にます。吐きます。

 

 しかしそんな私に困ったように眉根を寄せながら、ランサーは肩を落とします。

 

「そろそろ十八階層で殺人事件が起きるはずだ。それがいつかまでは覚えていないが、早めにリヴィラに入っておきたい」

「あー、ハシャーナの事件ですか……。いや、でも流石に昨日の今日で次のイベント起きないでしょう。明日の朝一で行きましょうよ」

「俺もそう思うが……俺たちの経験上、こういうことを言った場合、高確率で手遅れになる」

「う゛っ」

 

 否定できません。つらみ。

 

「……だがそれも良いだろう。所詮お前には関わりのないことだ。ここで怠惰のままに微睡むというなら、止めはしない」

「うー……そんなに起こして悪いと思ってるなら、見逃して欲しかったんですけど」

 

 辛いですが、本当に辛いですが、ここまでお願いをされては聞かないわけにはいきません。

 

 ダンジョン攻略の装備を固め、旅は道連れとばかりにまだ寝てるポンコツどもを叩き起こしましたが、ダメです、どいつもこいつも私やランサー以上にグデグデで役に立ちそうにありません。

 仕方なく二人で寂しくダンジョンアタックとなりました。

 

 

 

 そんなこんなで到着しました、十七階層出口目前。時期が悪ければゴライアスに絡まれるところでしたが、誰かに倒されてから再出現はしていないようです。

 いざ十八階層へ! と意気込む私の肩を、ガッシリとランサーが掴んできました。

 

「ちょ、なんですかランサー。こけるかと思いましたよ」

「……セイバー」

 

 あ、嫌な予感。

 

「……色々我慢してここまで降りてきたが、正直限界だ。端的に言うと吐きそうだ」

「ちょお!? あと数百メートルで十八階層到達ってところで言いますそれ!? っていうか私もたいがいいっぱいいっぱいなんですけど!?」

「……大声を出さないでくれ。頭に響く」

「この男……! とりあえずポーション(スポドリ)飲みなさいポーション(スポドリ)。ほら、アメちゃんもありますよ」

「サンキューおかん……」

「ぶん殴りますよ貴様」

 

 などという馬鹿な会話しつつ十八階層に降下開始。

 

 いや、でも正直私も本当にもうキツいです。時間経過してアルコールが抜けるどころか睡眠不足に無理やり運動重ねたせいか頭痛・吐き気・目まいのフルパンチが。お゛お゛お゛お゛お゛。まずい、意識したらますます気持ち悪くなってきました。

 

 とりあえず多少高くついてもいいので、ベッドで寝たいです。

 あ、でもその前にボールスにハシャーナが来てないか確認しておかないと。

 うああああ、早く休みたい。

 

 ランサーに肩を貸しつつこれからのことに頭を悩ませていると、ボカーンという景気の良い音が。

 

 ん? なんです、今の音。なんか無性に嫌な予感がするんですけど。

 

 

「リヴィラの方から、爆炎が上がったな……」

 

 

 

 もおおおおぉおおしんどいのに頑張ってここまで来たのに結局手遅れじゃないですかあああああ!! 

 

 

 

 涙をこらえて現場に駆けつけると、うわ、本当にレヴィスいるじゃないですかタイミング悪!! 

 

 とりあえず明らかに一触即発な空気で向かい合ってる冒険者たちとレヴィスの空気を読まず、魔力放出でお空を飛ぶランサーが宝具解放で不意打ちファイアです。

 よし、直撃しましたね、ミッションコンプリート……ってピンピンしてるじゃないですか!? ちょ、ランサーこっち向いて謝ってるんじゃないですよ! ん? なになに? 『気持ち悪すぎて宝具に威力が出ない。接近戦なんて絶対出来そうにない。隙を見て焼くので、前衛を頼む』ですか。ふむふむ。ふざけるんじゃないですよあの野郎!! 

 

 私よりレベル上のくせに腑抜けたことを言ってくれるポンコツに怒鳴り返してやろうと思いましたが、事態は急を要します。

 

 いくら絶不調とはいえ、ランサーの砲撃を喰らっては流石に無傷とはいかなかったようで、恐らくは先ほどの爆音の際、一緒に部屋から吹き飛ばされたのだろう剣を手に、レヴィスは冒険者に向かって走り出しました。

 恐らくはランサーが火力を振るえないよう、人質でも取るつもりでしょうか。

 

 あああああああああ!! あの男、帰ったら絶対バベルの最高級レストランでフルコース奢らせます!! 

 

 聖剣を手に割り込む私。

 

 ガギィッ、と金属音を立ててレヴィスの剣を受け止めますが、ちょ、予想より重!? 

 っていうか金属音が頭に゛に゛に゛に゛に゛。

 しかし同じ感想をむこうも抱いたようで、驚愕の表情を浮かべています。

 

「チィッ、第一級冒険者か!」

 

 めのまえでさけぶなあたまにひびく!! 

 

「シィッ!」

 

 あまりの精神的ダメージに、思わず魔力放出を全開にしてレヴィスを弾き飛ばす。

 すかさずランサーが炎をまとって一撃って、外してるんじゃないですよ!! 

 

 ってちょ、貴様は切りかかってくるな! というかなんか色々叫んでますけどこっちは二日酔いなんですよ騒ぐとしんどいでしょうがあ!! 

 

 

 その後はもう泥仕合とでも言うべき惨状でした。

 

 ランサーの宝具や砲撃を嫌って冒険者や建物の間を縫うように移動するレヴィス。

 頭痛を堪えながらそれを追いかけるも、ろくすっぽ打ち合わずにとにかく人がいない方向に追っ払うことに必死な私。

 そして私が苦労して良いポジションに飛ばしてもちっともクリティカルヒットを出してくれないヘタクソ。

 

 気づけばリヴィラの街は、壊滅状態でした。

 

 …………。

 

 

 おのれぇ、いゔぃるす! ゆるさないぞぉ!! 

 

 

 知りません、闇派閥が暴れたんです。不慮の事故ですので損害賠償なんて知ったこっちゃありません。

 

 と、冷や汗を掻く場面もありつつ、それでもなんとか順調にレヴィスにダメージを積み重ねていってます。たぶん。

 ここまできたからには最早チキンレースです。

 レヴィスが力尽きるのが先か、私とランサーが公衆の面前で嘔吐して英雄として社会的に死ぬのが先か、最悪の戦いが進行しているのです。

 

 ちなみに私の直感ですと、6対4くらいで私たちが先に音を上げる可能性が高そうです。

 

 そんな悲壮な決意を固めていると、不意に嫌な感じが背中に走りました。

 ちょうど打ち合っていたレヴィスも、怪訝な顔をして天井を見上げています。

 

 んー、なんかこの感じ、何年か前に覚えが……。

 

 

 

『オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ! !』

 

 

 !? 

 

 ちょ、ダンジョンが哭いてるんですけど! 

 

 あ、しまった! これ、ジャガーノート出現の前兆じゃないですか! 

 

 

「ランサー、ストオオオオップ!!!! 壊しすぎなんですよヘタクソォ!!」

 

 必死に叫びますが、ダンジョンの声が大きすぎて聞こえてませんよねこれ。

 それでも、流石に不味いと思ったのか、ランサーも攻撃を中止しています。

 

 

 …………。

 

 おさまりました、かね? 

 

 危ない危ない。余計な仕事が増えるところでした。流石にレヴィスの相手しながらジャガーノートから冒険者守るなんて離れ業、この体調ではしたくないですからね。

 

 ふう、と一息つく私。

 おや、そういえばレヴィスはどこに……

 

「セイバー、あちらだ!!」

 

 響くランサーの声────ってちょっ、めちゃくちゃ逃げてるじゃないですかあ! 

 あ、しかも運悪く進行方向に冒険者が! 

 ええい、ジェットコースター酔いするからあんまり好きじゃないんですけどこれ!! 

 

風王鉄槌(ストライク・エア)(小)!!』

 

 魔力放出と風の合わせ技で砲弾と化す私の体。

 よし、このままレヴィスをぶちのめします────うぷっ、不味い、やっぱこれこの体調でやるの無理でした気持ちわるいってちょ、いつの間にかレヴィスの剣先に私がって──あいたあ!! 

 

 空中で体勢を崩し、運悪くレヴィスの攻撃に割り込んでしまった私。

 不幸中の幸いと言うべきか、私が彼女の剣に体当たりをした形になったので、冒険者が切られることはありませんでしたが。

 

 そのまま返しの一撃を振るおうとするレヴィスですが、流石にそうは問屋が下ろしません。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!』

 

 移動の際残しておいた風を叩きつけて、打ちのめす! 

 そのまま追撃に移ろうとしたところで、なんか妙に背中が熱いような……。

 

 思わず振り返ると、とうとう限界を迎えたのか、気絶して天から失墜してくる日輪の英雄っぽいナニカが。

 っていうか炎纏ったまんま落ちてくるんじゃないですよせめて火消してから落ちてきてくださいこのままじゃ私も巻き込まれ熱いアッ─────!! 

 

 

 偶然なのか奇跡なのか、レヴィスに向かって落下したランサー。

 墜落の衝突で、レベル7のステイタスで吹き荒れる魔力暴発(イグニス・ファトゥス)

 錐揉み回転で河に落ちていくレヴィス。

 爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ私。

 

 

 レヴィスによる斬撃(かすり傷)やランサーによる火傷(重傷)がアヴァロンによって治癒されるのを感じつつ、色々限界を迎えた私は意識を手放すのでした。

 

 

 

 のみすぎ、ダメ、ぜったい。

 

 ガクッ。

 

 




たとえ体調最悪でも、この時期のレヴィス相手にこの二人なら割と余裕なポンコツども。
なのに逃がすから本当にポンコツども。

ジャガ丸くん、十八階層で出てくるの?とも思いましたが、まぁ中層だし出てくるかもな!くらいのテンションで見逃していただければ……m(._.)m
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