ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!? 作:夕鶴
(ここに、アルトリアが……)
ボールスから聞き出した部屋に到着したアイズは、しかし最後の一歩を踏み出せずにいた。
アルトリアが怪我をしたと聞いた時は、いてもたってもいられずに走り出したのに、いざ辿り着いてみると、足がすくんで動けないのだ。
(どうして、ただ、アルトリアの顔を見て、声を聞いて、そしたら、もう何も心配ないのに……ないはず、なのに)
何のことはない。ほんの少し手を持ち上げて、ノブを回すだけだ。
それだけで、アイズは扉を開けてアルトリアに会える。
きっとアルトリアはアイズを迎えてくれる。
ほんの何日か前に地上で会ったばかりなのに、十八階層にいることに驚くかもしれない。
でも、きっとすぐに笑顔を浮かべてくれるはずだ。
いつもみたいに『どうかしましたか、アイズ?』と優しく声を掛けてくれるはずだ。
そうしたら、自分は彼女の手を引いてあげるのだ。
アルトリアを傷つけた人を、フィン達が探しているから。自分も一緒に探すから。次は、私も一緒に戦うから。
アルトリアはきっと、自分を褒めてくれるはずだ。
貴女が一緒なら何も恐ろしくありません、と
だって、アルトリアは常勝不敗の騎士王なんだから。アイズ・ヴァレンシュタインの■■なんだから。
そこまで考えて、アイズは自分が何故動けないか、理解できた。
(あぁそうか、私、怖がってるんだ)
そう、アイズ・ヴァレンシュタインは──都市にその名を知らぬ者なき剣姫は──傷ついた知己の顔を見るだけのことを、どうしようもなく恐れている。
自分の眼で見たわけではない。ただの伝聞だ。
その話の中でさえ、彼女は他者を護る為に勇敢だった。
だが、カルナと二人で戦ってなお、アルトリアが勝てない相手がいた。
アイズ・ヴァレンシュタインは、その事実を受け止められない。
アイズにとってアルトリアは、ファミリアの仲間たちとも違う、特別な存在だ。
フィンやリヴェリア達、ファミリアの先達は父母のような愛と厳しさでアイズを育ててくれた。
アルトリアは違う。
十年前から、ずっと自分の一歩先を走り続けている。
アイズがつまずいた時、道に迷い途方に暮れた時、いつも手を差し伸べてくれた。共に進もうと手を引いてくれた。
その手が煩わしくて、何度も振り払った。
自分が強くなることに精一杯だったアイズにとって、弱いくせに他者を気に掛けるなんて余計なことをしているアルトリアは、邪魔でしかなかった。
それが変わったのはいつからだったか。
例えば、無茶な戦い方を咎められ、怒りに任せて襲い掛かったら返り討ちにされた時か。
例えば、亜種のワイバーンの群れに襲われた絶体絶命の窮地を、二人で乗り越えた時か。
例えば、卑劣な闇派閥に子供達を人質に取られ、解放する条件として力の象徴である聖剣をあっさり捨ててしまう愚かさを知った時か。
例えば、例えば、例えば────
どんな時でもアルトリアは、愚かで、不器用で、みっともなくて────どんな時でも、輝いていた。
人はこんなにも美しく生きていけるのだと、全身全霊で示していた。
彼女だけが、アイズを変えたわけではない。
だが、彼女の底抜けの善良さを間近で見ておきながら、自身に注がれるリヴェリア達の愛情を無視し続けることはアイズには出来なかった。
アイズの中の、黒い炎は消えたわけではない。
それでも、自分の中にあるものが、炎だけではないと、気付かされてしまった。
アルトリアは、暗い小道に迷い込もうとしていたアイズを、引きずり上げてしまった。
アルトリアはアイズにとって、道標なのだ。
たとえ誰に敗れようと、無惨に打ち倒されようと、アイズ・ヴァレンシュタインがアルトリア・ペンドラゴンに向ける信頼が曇ることは断じて無い。
故に、彼女の身体を縛る恐怖はただ一つ。
此度の敗北が、騎士王を打ちのめすこと。
アイズが憧れる光が、恐怖に翳った姿を見ることが、たまらなく恐ろしいのだ。
勇猛果敢な冒険者が、ただ一度の敗走により心折られ、二度と剣を取れなくなることなど、この都市には珍しくもない出来事だ。
アルトリアに限ってそんなことはあり得ないと信じている。
信じているがそれでも────────
「ねぇねぇアイズ〜、そろそろ代わりに開けていい〜?」
「ダメですよティオナさん! 今アイズさんは頑張ってるんですから!」
「でーもーもーうーヒーマーだーよー」
「そんなぁ!」
「…………。二人とも、静かにしてて」
アイズの葛藤は、ついてきた少女達の会話により一時中断となった。
「でもさっきから三十分は扉の前でジーっとしてるじゃーん。あたし早くお見舞いしたいんだけどー」
「……もうちょっとだけ、心の準備をさせて」
「アイズさん! 私はいくらでもお待ちしますからね!」
「つーかお前らよぉ……」
ワイワイと騒がしい少女達だが、一人の猪人が額に青筋を浮かべながら声をかける。この宿屋の主人だ。
「見舞いってんで黙って見てたが、怪我人の前でもそんだけギャーギャー騒ぐつもりなら追い出すぞ! 特に【
「えー、ひっどい! 差別だー!」
「やかましい、騎士王達は疲れてんだよ! テメェらみたいに騒がしい奴ら入れられるか! 入るならせめて一人だけにしやがれ!!」
「うぐっ」
自分も騒いでいることを棚に上げてはいるが、アルトリア達を気遣う言葉に流石に反論も出来ず。
結局ティオナ(と巻き添えでレフィーヤ)は宿から追い出されてしまった。
「…………」
一人取り残されたアイズは、ようやく腹を括る。
軽くノックをして、声を掛ける。
「アルトリア。起きてる? ……入っても良いかな?」
返事は無い。散々騒いでおいてなんだが、あの騒音の中まだ眠っているのだろうか。
それでも、ここまで来たからにはせめて顔の一つでも見ておきたくて。
悪いとは思いつつ、アイズはそっと扉を開けた。
カーテンが閉じて、薄暗い部屋の中には二つの寝台が並んでいた。
リヴィラでは滅多にお目にかかれない、上等なものと一目でわかった。
それだけで、どれだけリヴィラの住人が彼女たちに感謝と敬意を抱いているか理解できる。
(あっちは、白髪が見えるからカルナだよね。じゃあ、こっちが……)
ドキドキと、妙に早まる鼓動を抑えつつアイズは寝台を覗き込む。
(アルトリア……)
いつもは結い上げている髪もほどかれ、穏やかに眠る少女がそこにいた。
普段の凛とした表情とはまるで違う、見た目相応のあどけない寝顔に思わず、アイズの口元が緩む。
初めて出会った時と、全く姿が変わらない永遠の少女。
見上げていたその目線が並び追い越したのは、自分がいくつの頃だったろうか。
肩を並べて戦えるようになったのは、いくつの頃だったろうか。
はじめは敵意すら抱いて睨みつけていた少女の顔を、気づけばいつも追いかけるようになったのは、いくつの頃だったろうか。
「アルトリア……」
眠っている相手にいけないことだとは思いつつ、つい手を伸ばしてしまう。
美容にあまり気を使わない自分でも見惚れてしまう、美しい金糸の髪がサラサラと指から溢れ落ちていく。
ロキに、『二人が並んどると姉妹みたいやな〜』と言われた時は照れ臭くもあったが、それ以上に嬉しかった。
続いて放たれた、『どや、あいつの派閥なんてやめて、ウチの
髪を弄んでいた指が、いつしかすべすべとした頬にかかり、撫でるように走った。わざとではない、事故である。
(…………!!)
想像以上の柔らかさに、ビシリと硬直してしまった。
なのに指先は、短いスパンで頬を往復してその感触を確かめるように蠢いている。
プニプニとした感触が、正直たまらない。
頭の中の小さなアイズが、真っ赤な顔で必死にバツ印を作っている。
さもありなん。これは、控えめに言っても変態ではないだろうか。
いや、しかし落ち着くのだ、アイズ・ヴァレンシュタイン。ファミリアであるアマゾネスの少女は、フィンにもっと凄いことをしようと常に画策しているが、自分はそれに対して変態だなどと思ったことはない。
つまり、自分がやっていることは変態行為ではない。論破完了。
心の中で自己弁護を繰り返しながら、アイズは止まらない。
「アルトリア……」
自分は何をしようとしているのか。
もはや訳が分からなくなりながら、それでも胸に満ちる想いが、熱っぽい吐息と共に唇からこぼれる。
次第にその指は、眠る少女の小さな唇に近づいていき────
「おはようございます、アイズ」
パチリと目を覚ました騎士王に捕らえられた。
「あ、やっ……ちがうよ、アルトリア、これは」
心臓が跳ね上がる。
口をつくのは、形にならない言葉ばかり。
それでも誤魔化さなければ、彼女に嫌われたくないと必死に頭を回転させるアイズだが、何も思い浮かばず、やましさから視線を下げてしまう。
同時に、忘れていた恐怖が蘇る。アルトリアが、アイズが信じる常勝の騎士王でなくなっていたらどうしよう。心折られていたらどうすればいいんだろう。
しかしアルトリアは、そんなアイズをジッと見つめた後、静かに口を開いた。
「……どうやら、随分と心配をかけたようですね」
ハッ、と。
アイズは、その声の響きに顔を上げた。
そこにあるのは先ほどまでのあどけない寝顔とは似つかない、いつもの凛とした表情。
しかしアイズには、そこに秘められた深い慈しみの感情が確かに見えた。
瞬間、脳裏を駆け巡る遠い過去の記憶。
『女の子がこんなところに一人でなんて、危ないですよ?────ほっといて、と言われても、そうはいきません。子供を怖いところに放っておくなんて、騎士道にもとります!────え、あ、別に怖くない? あ、それはすみません……いえ、それでもです!────決めました。おにいさゲフンゲフン、もとい、お姉さんもついていきます! 一緒に戦えば、何も怖くありませんよ!』
それは、オラリオにおける、もしかしたら、アイズの初めての暖かな記憶。
心に黒い炎を宿した自分と、未だ白き装束をまとっていた可憐な騎士姫との初めての邂逅。
当時の自分には理解できなかったけれど。
その少女は、その日からずっとアイズを見守ってくれていたのだ。
そう────目の前のものと同じ、慈愛の瞳で。
「……!」
気づいた時には、少女の胸に飛び込んで肩を震わせていた。
自分は本当に馬鹿だ。
知っていたはずなのに。
アルトリアは、誰よりも優しくて。正しくて。強くて。
何度挫けても打ち負かされても。何度でも立ち上がり、立ち向かい続けたからこそ、常勝の騎士王と呼ばれるようになったのに。
勝手に頼って────勝手に怯えて。
誰よりも自分こそ、アルトリアが挫けるわけがないと分かっていたはずなのに。
ポン、ポンと優しく背を叩きながら、アルトリアが話しかけてくる。
「アイズ、大丈夫です。ちゃんと受け止めますよ」
「っ、わたし、アルトリアが、負けて、戦えなくなってたらって、こわくなって、それでっ……」
「……それほど、心配をかけていましたか」
喉につっかえ、言葉が出ない。
幼子のように泣きじゃくるアイズの背を撫でていたアルトリアだが、不意にその肩を掴み身を離す。
顔を上げたアイズの瞳から溢れる涙を指で弾くと、その手を取り、厳かな表情で告げた。
「アイズ・ヴァレンシュタイン。私は今ここで貴女に誓います」
まるで薄暗い宿の一室が、絢爛輝く王城であるかのように──
「私は、二度と負けない。貴女を怯えさせない。貴女の信頼を裏切らない。我が名誉にかけて」
それは、精悍な騎士が麗しき姫君の手を取る、一枚の絵画のような荘厳さで──
「だから────どうか、これからも貴女と共に戦うことを、赦してほしい」
最後に、騎士は柔らかな笑みを浮かべた。
二人の出会いをなぞるような騎士の言葉に、アイズもまた満面の笑みを浮かべる。
「────はい。喜んで」
「ランサー、起きてますー……?」
「……眠っている」
「ずいぶんはっきりした寝言ですね……」
どうも、アルトリアもどきと名乗ることすらおこがましくなってきました二日酔い野郎です。いえ、野郎でもないんですけど。
なんか起きたら、ずいぶん質の良いベッドでランサーと並んで寝かされてたんですけど、これ、アレですか?
みんなが必死に戦ってるのにオタクらは二日酔いで自爆とかご苦労様ですなー! いやー、お疲れのようですからこのベッドでお寛ぎくださいー! いやー、質素ですみませんなー!! 的なアレですか? 本当にすみません!!
いや、しかし冗談抜きに、今回はしくじりました。
レヴィスの強さがせいぜいレベル6程度の時に遭遇できたというのに、みすみす取り逃してしまうとは。
奴が今後出す被害を考えれば、ここで捕らえておくのが最良のタイミングだったんですが……。
「……迂闊だった。まさか、昨日の今日でリヴィラ襲撃が発生するとは」
「はい……原作メンバー、どんだけ過密スケジュールでトラブルに出会ってるんですか? ダンジョンに出会いをってそういう意味なんです?」
「せめて、バーサーカーを連れてくるべきだったか。あの男ならば、二日酔いでも無窮の武錬を発揮できただろうに」
「二日酔い対策に使われるとか、当代最高の技量持ちにだけ与えられるスキル哀れすぎません?」
「……効いたよね」
「早めのアヴァロン♪ やかましいですよ何言わせるんですか」
馬鹿話をしてるのもなんですし、そろそろ起きますか。
うーんっ、と伸びをしてベッドから飛び降りようとしたところで、扉の外から話し声が。
耳覚えのあるその声に、思わず布団にくるまる。
あれ、気のせいですか? 今なんかアイズたちの声が聞こえたんですけど。
ちょ、ランサー見にいってくれませんって何狸寝入りしてるんですかこの野郎!!
えぇ、ちょっと今会いたくないんですけど。
二日酔いでヘマやらかして、どんな顔で挨拶すれば良いんですか年下の女の子に。
逆の立場だったら、私ならゴミを見るような目で見下しますよ絶対。うちのポンコツどもがやらかしたなら百パー。
オタオタしてる間に、レフィーヤとティオナは宿屋の店主らしき人物に追い払われたようです。
あとはアイズは…………これは、入ってきますね。
南無三!!
「アルトリア。起きてる?」
寝てます!
「……入っても良いかな?」
ダメです!
しかし私の祈りも届かず、無慈悲に開く扉。
おい、ランサー! 何わざとらしく『すやすや、むにゃむにゃ』とか言ってるんですか、それ許されるのはライダーか
私も寝てますから口には出しませんけど! 寝てますから!!
一瞬ランサーの方のベッドを見た後、迷いなくこちらに向かってくるアイズ。
別に良いんですよランサーのお見舞いだったとしても。いや、やっぱ嘘です。美少女のお見舞いとか嫉妬でオルタ化しそうなので駄目です。
というか、なんか狸寝入りしちゃいましたけど、別にアイズに二日酔いでヘマしたって知られてると確定してるわけじゃないですよね。
なんかこう、上手い具合に色々重なってボカーンしてたのでひょっとしたら普通に相討ちと思われてる可能性もありますよね。いや、それはそれでこのスペックでその体たらくなんだよって話になるんですけど!
まぁそれでも、二日酔いで負けそうになるなんて不名誉よりはマシです! この十年頑張ってきた私のキャラのためにも!!
心の中でヒートアップしていると、枕元に座ったアイズが、ゆっくり手を伸ばしてきました。
おぅふ。髪撫でてくるとか不意打ちですね、くすぐったいです。
こみあげる笑いを、布団の中で右足の太ももつねってこらえる私。
薄目を開けると、アイズは私の髪を触りながら何か悩んでいるようです。
いや、しかしこの状況なんです? アイズとはそれなりに仲良くやってますけど、髪撫でられたのとか初めてなんですけど。
出会ったばかり、ちっちゃい頃のアイズの頭撫でたらゴミを払うような目つきで払い除けられたことはありますけどね。ふふっ。
……!
その時、私の脳裏を駆ける稲妻。
アイズ、まさか、私の髪質をチェックすることで、健康状態をはかってるんですか?
確かに生前の頃、酒呑みすぎた翌日とか、微妙に髪がザラザラゴワゴワしてたような気がしなくもないです……。
まぁ、セイバーの髪はキューティクルの加護があるのでいつでもきれいなんですけどね!!
しかし油断している私を嘲笑うかのように、アイズの手は頬に至ります。
こ、これは、肌質チェック! アルコールの摂取による肌荒れをチェックしているんですか!?
やっぱアイズ、我々が酒飲んでやらかした馬鹿野郎だって疑ってますよね!? というかほぼ確信抱いてますよねこんだけ人の顔こねくり回すとか!
まぁアヴァロンのオート治癒でセイバーの肌はいつでもつるつる卵肌なんですけど!!
ちょ、ふへへ、くすぐったいですってほんと。
左足もつねって笑いをこらえる私。
しかしそんな私の努力を嘲笑うかのようにアイズによる蹂躙は続きます。
触診の結果に満足がいかなかったのか、口に向かって進撃するアイズの指先。
こ、これは、業を煮やして、酒臭いかどうか直にチェックするつもりですか!?
いけません、いけませんよアイズ! もどきとはいえ、万が一にもセイバーの口を酒臭いとか判定したら、全国五十億のセイバーファンによって私と貴女は袋叩きに遭います! いや、私のお口はいつでも清潔ですけどね!!
アイズの凶行を止めるため、思わずその手を私は捕らえてしまいました。
必然、見つめ合う我々。視界の隅でランサーが、『あーぁ』みたいな顔してるのが納得いきません。
と、とりあえず……
「おはようございます、アイズ」
朝の挨拶を。呑兵衛の称号を得る前に、少しでも好感度を稼いでおかなくては。
しかし、軽蔑の視線も覚悟で狸寝入りをやめた私の予想に反して、アイズの反応は可愛らしいものでした。
「あ、やっ……ちがうよ、アルトリア、これは」
口ごもりながら、とうとう下を向いてしまったアイズ。
お、おや? 私はてっきり、『やっぱり狸寝入りだったんだ。二日酔いでみんなをピンチにした挙句、誤魔化そうとするなんてサイテー』くらいは覚悟していたんですけど……。
瞬間、再度閃く私の脳内の稲妻。
そうか、そういうことだったんですね、アイズ。よく理解できました。
となれば、私がかける言葉は決まっています。
「……どうやら、随分と心配をかけたようですね」
ハッ、と顔を上げるアイズ。
このリアクション、やはり予想通りでしたか。
えぇ、えぇ、考えてみればわかることだったんです。
良い子のアイズが、二日酔いを馬鹿にしたり見下したりするはずがなかったんです。
妄想の中とはいえ、酷いことをしました。
フラットな気持ちになって考えればわかります。(エルメロイ教室のエスカルドス君は関係ないですよ?)
私の顔に触れる柔らかいタッチのアイズの手、熱っぽい呼びかけ、起きてると気づいた時の罪悪感がうかがえる顔。
これらから導き出される答えは一つ。まさに『
私がアル中になって戦えなくなったんじゃないかと、心配だったんですね!?
瞬間、脳裏を過ぎるこれまでの酒の席での失態。
──ロリコンにブチ切れたり。
──傷心中のベートをぶん殴ったり。
──キャスターの薬をばら撒いたり。
──聖剣でステーキ焼こうとしたり。
色々、やらかしましたねぇ……。
原作一巻でのやらかし? それはちょっと何言ってるかわかんないです。
いつも結果的になんとなく有耶無耶に済んできましたが、幼少期からこれを隣で見続けたアイズの心の中には、私=酒乱みたいな方程式が組まれつつあったのでしょう。
その不信感が、今回の件で爆発したと。
なんと申し訳ない……手本となるべき大人が、酒の席で暴れてばかりとか、本当にダメですよね……。
思わずアイズを見る眼に申し訳なさとかいろんなものが滲んでしまいます。
「……!」
「オゥフ!」
するとなんということでしょう。涙目になったアイズが胸に飛び込んできました。
胸が痛みます。私の酒癖の悪さが、一人の少女をここまで追い詰めていたとは。
「アイズ、大丈夫です。ちゃんと受け止めますよ」
「っ、わたし、アルトリアが、負けて、戦えなくなってたらって、こわくなって、それでっ……」
ん? 負けて? ん? ちょっとどういうことでしょう、ニュアンスがわからない。
いえ、私、頑張りなさい。ここで返答を間違えれば、二度とアイズの信頼を取り戻せませんよ!
……ハッ! 完全に理解できました!
「……それほど、心配をかけていましたか」
アイズの言葉を汲み取り、私は彼女の涙を拭ってあげます。
もう大丈夫、貴女が泣く必要はありませんよ、アイズ。
私はアイズの手を取り、厳かな表情で告げた。
「アイズ・ヴァレンシュタイン。私は今ここで貴女に誓います」
「私は、二度と(アルコールの誘惑に)負けない。(酒の席で)貴女を怯えさせない。(酒乱で)貴女の信頼を裏切らない。我が名誉にかけて」
それは、ビールっ腹を理由に娘に嫌われてダイエットを始めるパパの如き悲壮さで──
「だから────どうか、これからも貴女と共に戦うことを、赦してほしい」
私の懇願に、可憐な少女は花開くような笑みで応えてくれました。
「────はい。喜んで」
ちなみに、私ならアル中疑惑と一緒に戦うとか絶対に嫌です。
セイバー、お前、いつか刺されても文句は言えんぞ。
むにゃむにゃ。
お久しぶりです。シリアスパート書けない病になってました夕鶴です。
リハビリの為にシリアス100%の誰得FGOコラボ嘘予告書いたり、何年ぶりくらいに/zero読んだりしてました。
ボチボチ更新は続けますので、気長にお待ちいただけるとm(__)m